説明

ポリアミド繊維の製造方法

【課題】製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく安価に製造することができ、高次加工時の工程通過性に優れ、特にエアバッグ用として好適な総繊度、単糸繊度ともに小さいポリアミド繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸相対粘度3.0〜4.0、総繊度200〜400dtexのポリアミド繊維を製造する方法であって、ポリアミドを150〜400個の孔を有する紡糸口金を用いて紡出糸条となし、紡出糸条をクロスフロータイプの冷却装置を用いて冷却させ、冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も近い単糸が紡糸速度の97%以上の速度に達した時、冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の80〜95%の速度となるように冷却させた後、冷却糸条に油剤を付与し、引き取りロールで引き取り、引き取り後の糸条を延伸した後、巻き取ることを特徴とするポリアミド繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド繊維の製造方法に関するものである。詳しくは、総繊度、単糸繊度ともに小さい高強度、高伸度の産業資材用途に好適な高タフネスポリアミド繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく安価に製造することができ、高次加工時の工程通過性に優れ、特にエアバッグ用として好適な高タフネスポリアミド繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、機械的特性や化学的特性に優れ、衣料用途や産業用途に幅広く用いられている。産業用途においては、エアバッグ、タイヤコード、ロープ、ネット等に好適に用いられており、特にエアバッグ用途において有用に用いられている。
【0003】
自動車乗員保護用エアバッグの装着部位は近年増加しつつあり、従来の運転席用や助手席用エアバッグに加え、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、インフレータブルカーテンエアバッグ等の実用化が進められている。これら様々な用途に適合する基布を得るために、総繊度や単糸繊度の小さい繊維が近年ますます求められており、これらの繊維をウォータージェットルームやエアージェットルームなど種々の織機で高密度に製織して、安価に製造しようとすることが行われている。
【0004】
しかしながら、これら総繊度や単糸繊度が小さいポリアミド繊維を高密度に高速製織しようとすると、毛羽立ちによる織機の停台が頻繁に発生したり、得られた基布の品位が低下するため、その製織速度を低下させたり、サイジング等を施すことが必要となり、エアバッグ用基布を安価に製造することが困難となっていた。
【0005】
このような問題に対して、例えば、特許文献1では、繊維の単糸断面積のバラツキが小さく、タフネス性に優れ、高交絡で均一かつその交絡強度も比較的高いポリヘキサメチレンアジパミドを用いることによって、サイジングを施すことなく、高密度製織時の高速製織性に優れ、かつ、製織後の品位に優れた高密度産業資材用布帛を得る技術が開示されている。確かに特許文献1に記載の布帛では、若干の製織性改善効果が認められる場合もある。しかし該布帛は高交絡を有するがゆえに、特に単糸数が多く単糸繊度が小さいポリアミド繊維では、該高交絡糸条を得る際に単糸弛みが発生し、満足できる製織性を得ることはできなかった。特にエアジェットルームでの製織においては、サブノズルに単糸弛みが引っかかって毛羽や製織停台を発生させたり、高交絡であるが故に緯糸を飛走せしめるのに多くのエア流量を必要とするといった問題があった。一方、ウォータージェットルームでの製織においても、製織中にほとんどの交絡が解れるが故に、施した高交絡の効果が薄れるばかりか、交絡処理によって発見され難かった毛羽が長い単糸切れとして顕在化したり、高交絡処理する際にダメージを受けて強伸度特性が低下した単糸が製織中に毛羽立ったりして、製織効率を低下させるという問題があった。
【0006】
特許文献2にはエアバッグなどの産業資材用途に適したポリアミド繊維を安価に製造する方法として、3000m/分以上の速度で8本以上の多糸条同時延伸巻取りを実施しても、糸切れや単糸切れが少なく、収率および品位の優れた合成繊維を製造しうる直接紡糸延伸方法が開示されている。しかしながら、この方法は主に延伸部分に関する開示のみであって、総繊度や単糸繊度の小さいポリアミド繊維を同様に得ることは困難であった。すなわち特許文献2に記載の方法で総繊度や単糸繊度を小さくすると、得られるポリアミド繊維の毛羽品位や製糸性は悪化してしまう。一方、これまでの単糸数の少なく比較的太いポリアミド繊維と同等の毛羽品位や製糸性を得ようとすると、その生産速度は低いものとなってしまい、必要とされる細いポリアミド繊維を安価に製造することはできなかった。特に実施例に記載されているような1つの口金で2糸条以上の紡出糸を得ようとした場合、未延伸糸同士の融着や引取ローラへの単糸巻付きが多発するという問題があり、紡糸技術の改善が望まれていた。
【0007】
特許文献3には、溶融紡糸時のフィラメントの冷却および凝固工程において、急冷ガスをフィラメントの方向と同じ方向に移動させることで、産業資材用途に適した高強度のポリアミド繊維をより高速で得られる技術が開示されている。しかしながら、この方法では1つの口金から多数の紡出糸を得られないばかりか、特殊な冷却装置を必要とするものであった。
【特許文献1】特開2005−344266号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−251913号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特表2005−527714号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく安価に製造することができ、高次加工時の工程通過性に優れ、特にエアバッグ用として好適な総繊度、単糸繊度ともに小さい高タフネスポリアミド繊維の製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが前述の課題について鋭意検討した結果、硫酸相対粘度3.0〜4.0、総繊度200〜400dtexのポリアミド繊維を製造する方法であって、ポリアミドを150〜400個の孔を有する紡糸口金を用いて紡出糸条となし、紡出糸条をクロスフロータイプの冷却装置を用いて冷却させ、冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も近い単糸が紡糸速度の97%以上の速度に達した時、冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の80〜95%の速度となるように冷却させた後、冷却糸条に油剤を付与し、引き取りロールで引き取り、引き取り後の糸条を延伸した後、巻き取ることを特徴とするポリアミド繊維の製造方法を用いることにより、前述の課題が解決することを見いだした。
【0010】
なお、本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、
紡糸速度が500〜1000m/分で、冷却風吹き出し面から最も遠い単糸の速度CV値が1〜40%であること、
冷却糸条に油剤を付与する直前に、冷却糸条と金属またはセラミックスとを接触させること、
クロスフロータイプの冷却装置を取り囲む部材を設置すること、および
紡糸口金から紡糸されて得られた紡出糸を2〜4糸条に分割して延伸した後、巻き取ることが、いずれも好ましい条件であり、これらの条件の適用によりさらにすぐれた効果を期待することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下に説明するとおり、総繊度、単糸繊度ともに小さい高強度、高伸度の産業資材用途、特にエアバッグ用途に好適な高タフネスのポリアミド繊維を高品位かつ高い生産効率で安価に製造することができる。また、本発明の方法で得られた高タフネスポリアミド繊維を用いれば、ウォータージェットルームやエアージェットルーム等の種々の織機で、高速かつ高品位に製織することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、硫酸相対粘度が3.0〜4.0で総繊度が200〜400dtexとなるように製造することが必要である。硫酸相対粘度が3.0未満であると産業用途に適した高強度な繊維を安定して得ることができない。一方、4.0を越える高粘度のポリアミド繊維を得ることはできるが、原料の固相重合に時間を要し、製造コストが高くなるため好ましくない。また、総繊度が200dtex未満であると、産業用途としての高強力な繊維を得難くなるし、長時間のポリマーの溶融によるゲル化が起こりやすくなるため好ましくない。さらに単糸繊度が小さくなりすぎ、安定した紡糸を行い難くなる場合があるため好ましくない。逆に、400dtexを越えた場合は、エアバッグの収納コンパクト性を損ねたり、小さい単糸繊度の糸を安定して得にくくなったりするため好ましくない。
【0014】
また、本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、150〜400個の孔を有する紡糸口金を用いて紡出糸条を得ることが必要であり、好ましくは170〜350個、更に好ましくは220〜320個の孔を有する紡糸口金を用いる。孔の数が150個未満であると、例えば2糸条の繊維を得ようとした場合、単糸数が75個未満となるため、単糸繊度の小さいポリアミド繊維を得難くなる。逆に400個を越えるような場合は、孔間隔、即ち押し出された溶融状態の単糸の間隔が過度に狭くなり、未延伸糸の融着を招くため好ましくない。特に2糸条以上の繊維を得ようとする場合、1つの糸条をなす吐出孔群間に一定以上の糸条間隔を確保する必要があり、1糸条を形成するための吐出孔間隔は更に狭くなる。単糸繊度は1〜4dtexが好ましく、さらに好ましくは、1.5〜3dtexである。単糸繊度が1dtex未満の糸条は、現状の直接紡糸延伸技術で安定して得ることはできないばかりか、製織中にも単糸切れが多発する恐れがあり好ましくない。また、4dtexを越えるとエアバッグの収納コンパクト性を損ねることになり好ましくない。口金の孔スペックは、背圧が大きくなるように少なくとも60kg/cm以上に設計することが好ましく、単糸繊度が小さい場合は80〜120kg/cmとすることが好ましいが、単糸断面積のバラツキ具合をみて適宜調節することができる。
【0015】
本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、クロスフロータイプの冷却装置を用いることが必要である。クロスフロータイプ以外の冷却装置を用いようとすると、特殊な装置を要することになり好ましくない。
【0016】
また3〜4dtex、あるいはそれ以上の単糸繊度を有する糸条を冷却するためには冷却長の長い大型の装置が必要とされ、例えば筒型の冷却装置を用いて製造する場合、この冷却装置が作業空間を大きく占有するが故に、通常の合成繊維の製造で実施される口金面修正作業性を著しく損ねるが、クロスフロータイプの冷却装置を用いればそのような事態は回避されうる。さらにクロスフロータイプの冷却装置のように冷却ガスが一方向から吹き出していると、多糸条の紡出糸を得やすくなる。例えば、2糸条の紡出糸を得る場合は、冷却ガス吹き出し面と直交し、かつ該面を縦方向に2分割するような平面で糸条間を区切ればよい。
【0017】
本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も近い単糸が紡糸速度の97%以上の速度に達した時、冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の80〜95%の速度となるように冷却させることが必要であり、85〜90%がより好ましい。従来の単糸繊度が大きい、即ち単糸数の少ないポリアミド繊維の製造においては、紡糸口金から押出された各紡出単糸を均一に加熱し、均一に冷却するような配慮が通常なされている。しかしながら、総繊度や単糸繊度が小さく、単糸数の多いポリアミド繊維をクロスフロータイプの冷却装置を用いて製造する際には、むしろ各単糸を不均一に冷却する方がよいことを見いだした。各単糸の速度がほぼ等しくなるように均一冷却する場合、即ち冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の95%を越える速度となるように冷却する場合は、冷却ガスの吹き出し速度を大きくしたり、冷却ガス吹き出し面に近い方の単糸群を冷却前により高温に加熱したりする方法等が有効であると考えられた。しかしながら、前者の方法では、従来の単糸繊度が大きい、即ち単糸数の少ないポリアミド繊維の製造時の冷却ガス吹き出し速度よりも大きい速度で冷却ガスを吹き出さねばならず、冷却前の単糸同士の融着が多発し、後者の方法では、最終的に得られるポリアミド繊維の各単糸間の物性差が大きくなる。一方、各単糸の速度差が大きくなりすぎる場合、即ち冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の80%未満の速度となる場合も、紡糸部での糸揺れが大きくなり未延伸糸の融着が生じるし、また延伸時の糸切れ、毛羽が多発するため好ましくない。
【0018】
なお、冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も近い単糸が紡糸速度の97%以上の速度に達した時、該冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の80〜95%の速度となるように冷却させるような不均一な冷却を単に施すと、延伸糸の各単糸間の物性にバラツキを生じる場合がある。このバラツキが許容し難いほど大きい場合は、冷却ガス吹き出し面に遠い方の単糸群を冷却前により高温に加熱する方法等を適宜組み合わせて未延伸糸物性の均一化を図ることが好ましい。例えば、冷却装置側の加熱筒温度よりも反対側の加熱筒温度を高温にする等、温度勾配をつけた冷却前糸条の不均一加熱方式を採用することができるが、同様の効果を得ることができれば、これら方法は何等限定されるものではない。
【0019】
また冷却風吹き出し面から最も遠い単糸の速度CV値は1〜40%であることが好ましく、5〜30%であるとより好ましい。1%未満となるように製造することは現状の技術では不可能である。逆に、40%を越えるような場合は、紡出糸の糸揺れが極端に大きいことになり、本発明の目的を達成し難くなるため、好ましくない。
【0020】
加熱筒は、長さ5〜40cmで、筒内の雰囲気温度が200〜350℃となるよう加熱すればよく、必要に応じて加熱筒の下に更に非加熱の断熱筒を取り付け、徐冷ゾ−ンの長さを制御することもできるが、冷却前の糸条の不均一加熱を行えるように、一つの加熱筒中に各々の温度設定が個別にできる複数のヒーターを設置しておくことが好ましい。冷却は、10〜100℃の冷却風を20〜40m/分の速度で吹き付けて行うことができるが、25〜35m/分であることが好ましい。
【0021】
得られた冷却糸条には油剤を付与し、引き取りロールで引き取り、該糸条を延伸した後、巻き取ることが必要である。油剤は公知の油剤を用いることができるが、引き取りロール上での単糸巻き付きを抑制するために、その付着量は糸条と油剤の全体量100重量%に対して0.3〜1.5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0重量%である。
【0022】
また、引き取りロールの回転速度で定義される紡糸速度が500〜1000m/分であることが好ましく、より好ましくは700〜900m/分である。紡糸速度が500m/分未満であると、最終的な生産速度も低くなり、安価にポリアミド繊維を製造し難くなる。1000m/分を越えるような高速での紡糸は、各単糸間の速度差が本発明の範囲外となりやすく、また糸切れや毛羽が多発するため好ましくない。
【0023】
また、冷却糸条に油剤を付与する直前に、冷却糸条と金属またはセラミックスとを接触させることが好ましい。合成繊維の製造においては、油剤付与前の糸条にこれら金属やセラミックスを接触させることは、擦過による物性低下や毛羽発生等の悪影響が引き起こされやすくなるため、通常行われない。しかしながら、各単糸に均一に給油を行うべく、総繊度や単糸繊度の小さい繊維を安定して得るには、この方法が有効に作用することが判明した。例えばローラー給油を行う場合、該方法によって各単糸がローラー上で集束することなく広がり、単糸間均一給油が実現される。これら金属やセラミックスは回転する小径のローラーであってもよいし、プレート状であってもよいが、各単糸が均一に広がる程度の接触強さを得るために、適宜設置位置を調節することが好ましい。また、これらの表面状態は公知の梨地状態とすればよく、またその素材はSUS等適宜選択することができる。
【0024】
さらに、本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、クロスフロータイプの冷却装置を取り囲む部材を設置すれば、さらに安定した製糸を実現することができる。この部材は、紡出糸の糸揺れ抑制効果を生み出す。
【0025】
加えて、紡糸口金から紡糸されて得られた紡出糸を2〜4糸条に分割して延伸した後、巻き取れば、より安価にポリアミド繊維を得ることができる。5糸条以上の多糸条化は現状の技術ではほぼ不可能である。
【0026】
これら前記した方法で得られた紡出糸は、公知の方法を用いて延伸や弛緩熱処理、および巻取り等を行うことができ、強度が7.0〜9.0cN/dtex、伸度が20〜30%、沸騰水収縮率が4〜15%のポリアミド繊維を得ることができる。
【0027】
また、糸条に付与する交絡は織機の種類や製織速度にあわせ適宜選択することができるが、本発明による方法であれば過度に交絡を施す必要はなく、15〜25個/mの交絡数が得られるように、交絡付与装置の種類や付与条件を変更すればよい。15個/mを大きく下回っても、25個/mを上回っても、高次工程通過性は悪化する傾向となる。同様に交絡の強度も公知の範囲のものを用いればよい。
【0028】
本発明で製造されるポリアミド繊維は、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)等のいずれのポリアミドポリマからなってもよいが、ポリヘキサメチレンアジパミドであることが好ましい。これらのポリアミドは、5重量%以下の共重合成分を含むコポリマであっても良い。本発明で用いられる共重合成分としては、ε−カプロアミド、テトラメチレンアジパミド、ヘキサメチレンセバカミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド、テトラメチレンテレフタラミド、およびキシリレンフタラミド等がある。固相重合によって高粘度化された前記のポリアミドチップには、必要に応じて耐候剤、耐熱剤、酸化防止剤等の添加剤を添加し、溶融紡糸することができる。該添加剤は一部又は全部を重合時に添加してもよく、その他の方法で混合しても良い。また、ポリアミドチップ中には、アミノ末端基量の調整のため、ジアミンやモノカルボン酸等を含ませていてもいなくてもよく、適宜目的のアミノ末端基量となるよう調整すればよい。
【0029】
また、本発明のポリアミド繊維の単糸断面形状は、特に限定されるものではなく、円形でもY型、V型、扁平型等の非円形でも用いることができるが、円形であることが好ましい。
【0030】
かくして、本発明の方法で総繊度や単糸繊度の小さいポリアミド繊維を製造すると、安価に製糸性や毛羽品位に優れたポリアミド繊維を得ることができる。すなわち、直接紡糸延伸法により、製糸速度3000m/分以上で、かつ8糸条以上の多糸条同時延伸法を用いて、細物で高タフネスなポリアミド繊維を効率良く生産することができ、従来のポリアミド繊維の製造と遜色ないレベルを得ることができる。
【0031】
また、本発明の方法で得られた高タフネスのポリアミド繊維は、ウォータージェットルームやエアージェットルーム等、高速製織のできる種々の織機を用いても、製織性等の高次工程通過性がよく、かつ製織後の品位にも優れた安価な基布を得ることができる。
【0032】
本発明の方法で得られた高タフネスポリアミド繊維は、前記利点に加え、総繊度や単糸繊度が小さく、特にエアバッグに代表される産業資材用途に有用に用いることができる。さらに、エアバッグ基布としてノンコート品でもコート品でもどちらにも適用可能であるし、かつ種々の部位に装着できる汎用性のあるエアバッグ用基布に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0034】
(1)硫酸相対粘度:試料2.5gを96%濃硫酸25ccに溶解し、25℃恒温槽の一定温度下において、オストワルド粘度計を用いて測定した。
【0035】
(2)総繊度:JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtex、所定糸長180mで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0036】
(3)単糸数:JIS L1013(1999) 8.4の方法で算出した。
【0037】
(4)単糸繊度: 総繊度を単糸数で除することにより、単繊維繊度(dtex)を算出した。
【0038】
(5)強度・伸度:JIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。また試験回数は10回とし、その平均値を求めた。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0039】
(6)沸騰水収縮率:原糸をカセ状にサンプリングして、20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さLを測定した。次に、この試料を無緊張状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、上記温湿度調整室で4時間風乾し、再び試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さLを測定した。それぞれの長さLおよびLから次式により沸騰水収縮率を求めた。
沸騰水収縮率=[(L−L)/L]×100(%)
【0040】
(7)油分付着量:JIS L1013(1999) 8.27 b)の方法で、ジエチルエ−テル抽出分を測定し、油分付着量とした。
【0041】
(8)交絡数:水浸漬法により長さ1mm以上の交絡部の個数を測定し、1mあたりの個数に換算した。原糸10本を測定し、その平均値で示した。
【0042】
水浸漬バスは、長さ70cm、幅15cm、深さ5cmで、長手方向の両端より10cmの位置に仕切板を設けたものを用いた。このバスに純水を満たし、原糸サンプルを水浸させ、交絡部個数を測定した。なお、油剤等の不純物の影響を排除するために測定毎に純水を交換した。
【0043】
(9)紡出糸の速度
TSI社製の半導体レーザー(LS50M)を用いて、HISTOGRAPHモードで単糸の速度を実測した。なお、レーザー光の波長は780nmの近赤外で、ビーム径はφ1mmである。
【0044】
冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も近い単糸の速度測定は、レーザー光の焦点距離を考慮して、冷却装置と反対側の多数の単糸を紡出部で吸引しながら実施した。本体装置を三脚で固定させ、冷却装置の最上部から5cm間隔で測定を行い、引き取りローラーの97%以上の速度に達する地点(以下、固化完了ポイントと称す)まで測定を継続した。なお、各測定にてN数300ポイントになるまで測定し、自動で算出される平均値(M)を実単糸速度とみなした。
【0045】
冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も遠い単糸の速度測定は、全単糸を製糸しながら実施した。得られた固化完了ポイントと同じ高さで測定を行い、実単糸速度を得た。また平均値(M)と同様に自動で算出される標準偏差σを用いて、M/σ×100の式から、速度CV値を算出した。
【0046】
(10)製糸糸切れ:繊維長1万kmあたりの糸切れ回数である。なお、糸切れ回数は、糸が切れた回数と同時延伸した糸条数の積である。
【0047】
(11)製糸毛羽:延伸弛緩熱処理と交絡付与装置間のローラーから5mm離れた箇所にレーザー式毛羽検知器を設置し、検知された毛羽個数を1万kmあたりの個数に換算して表示した。
【0048】
(12)パッケージ内在欠点:得られた繊維パッケージを500m/分の速度で巻き返し、巻き返し中の糸条から2mm離れた箇所にレーザー式毛羽検知機を設置し、検知された欠点総数を10万mあたりの個数に換算して表示した。
【0049】
(13)製織性:織機稼働率の値で評価した。
【0050】
[実施例1〜4および比較例1〜2]
25℃で測定した98%硫酸相対粘度が3.8で、酢酸銅を銅として68ppm含有するナイロン66ペレットをエクストルーダへ供給し、計量ポンプにより紡糸口金に配し、295℃で溶融紡糸した。吐出量および紡糸口金は、総繊度が350dtex、所定の単糸数の糸条を得るように表1、3に記載の通り設定・使用した。口金直下には220〜320℃に加熱した200mmの加熱筒を設け、糸条を徐冷却した後、クロスフロータイプの冷却装置を用いて20℃で30〜40m/分の冷風により冷却固化せしめ、次に平滑剤等を有する水系エマルジョンを付与し、紡糸引き取りローラに捲回し、紡出糸条を引き取った。また必要に応じて、油剤付与直前の金属製プレートと冷却装置取り囲み部材を設置した。引き続き、連続して糸条を延伸・熱処理ゾーンに供給し、直接紡糸延伸法によりナイロン66繊維を製造した。
【0051】
まず、引き取りローラと給糸ローラの間で3%のストレッチをかけ、次いで給糸ローラと第1延伸ローラの間で1段目の延伸、第1延伸ローラと第2延伸ローラの間で2段目の延伸を行った。引き続き、第2延伸ローラと弛緩ローラとの間で6%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、巻き取り機にて巻き取った。各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラが40℃、第1延伸ローラが140℃、第2延伸ローラは220℃、弛緩ローラが150℃となるように設定した。引き取りローラの周速度を740m/分とし、総合延伸倍率が4.45倍となるように製糸した。また、原糸付着油分量が約1.0重量%となるように水系エマルジョンの付与量を調整した。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行糸条を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.35MPaで一定とした。
【0052】
単糸速度の測定値を含む繊維製造条件と得られたナイロン66繊維の特性を表1〜4に示す。
【0053】
上記方法を用いて約2000kgのナイロン66繊維を製糸した。この内の約30kgのポリアミド繊維を500m/分の速度で巻き返し、レーザー式毛羽検知器を用いて、パッケージ内在欠点を調べた。
【0054】
得られた製糸糸切れと製糸毛羽、およびパッケージ内在毛羽を表2、4に示す。
【0055】
次に、上記で得られたナイロン66繊維を、300m/minの速度で整経し、次いで津田駒製ウォータージェットルーム(ZW303型:以下WJLと称す)を用いて、回転数1000rpmで製織し織物基布を得た。
【0056】
得られた製織実績を表2、4に示す。
【0057】
実施例1〜4では、単糸繊度が細いにも関わらず、製糸時の糸切れ、毛羽が少なく、また製織性も良好であった。特に実施例4では、従来の単糸繊度の太い比較例1並の結果を得ることができた。
一方、比較例2では、糸切れ、毛羽が多発し、製織性も悪いものであった。
【0058】
[実施例5]
加熱筒を冷却装置に近い側と遠い側で2分割温度制御できる構成とし、冷却装置に近い側の温度を220℃、遠い側の温度を320℃とし、また交絡処理時の噴射空気の圧力を0.40MPaとしたこと以外は、実施例4と同様にして、ナイロン66繊維を得た。次に、得られたナイロン66繊維を、300m/minの速度で整経し、次いで豊田自動織機製エアージェットルーム(JAT610型:以下AJLと称す)を用いて、解除速度543m/分×3ピックで製織し織物基布を得た。
【0059】
ナイロン66繊維の製造条件と得られた繊維特性、および製糸・製織実績を表1、2に示した。
【0060】
本発明の製造方法によるナイロン66繊維を用いることで、良好な製織性を得ることができた。
【0061】
[比較例3]
432個の吐出孔を有する口金を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、ナイロン66繊維を得た。次いで、1.0wt%の追油をしたこと以外は、実施例5と同様にして織物基布を製造した。
【0062】
ナイロン66繊維の製造条件と得られた繊維特性、および製糸・製織実績を表3、4に示した。
【0063】
このようにして繊維を製造すると、単糸数が多すぎて、紡出部での糸揺れや未延伸糸の融着が多発した結果、製糸時の糸切れや毛羽が増大した。また高交絡であるにも関わらず、製織性にも劣っていた。
【0064】
[比較例4]
加熱筒を冷却装置に近い側と遠い側で2分割温度制御できる構成とし、冷却装置に近い側の温度を320℃、遠い側の温度を220℃とし、冷却風の速度を50m/分としたこと以外は、実施例5と同様にして、ナイロン66繊維を得た。次いで、実施例1と同様にして織物基布を製造した。
【0065】
ナイロン66繊維の製造条件と得られた繊維特性、および製糸・製織実績を表3、4に示した。
【0066】
このようにして繊維を製造すると、各単糸を均一に冷却することができるが、紡出部での糸揺れや未延伸糸の融着が多発し、また延伸時にも毛羽が発生し、製糸時の糸切れや毛羽が増大した。また、製織性にも劣っていた。
【0067】
[比較例5]
25℃で測定した98%硫酸相対粘度が2.7のナイロン66ペレット用い、総繊度が180dtexで単糸数が72本の糸条となるように設計したこと以外は、実施例4と同様にしてナイロン66繊維を得ようとしたが、サンプル採取さえ不可能であった。
【0068】
[比較例6]
引き取りローラの周速度を1050m/分とし、総合延伸倍率が3.80倍で総繊度350dtexとなるように製糸したこと以外は、実施例4と同様にしてナイロン66繊維を得ようとしたが、糸切れや毛羽が多発し、製織できるほどの量のナイロン66繊維を得ることはできなかった。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、総繊度や単糸繊度の小さいポリアミド繊維を、製糸時の糸切れや毛羽等の欠点が少ない安価な方法で得ることができる。また、本発明によれば、従来の技術では達成できなかった優れた製織性を有し、かつ安価に、エアバッグ用基布に代表される産業資材用織物を得ることができる。
【0074】
したがって、本発明の技術は、車両分野、とくにその分野における安全意識の向上に寄与するところが極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の製造方法の模式図の一例である。
【符号の説明】
【0076】
1:紡糸口金
2:加熱筒
3:クロスフロー冷却装置
4:冷却風
5:糸条
6:ダクト
7:給油ローラー
8:引き取りローラー
9:給糸ローラー
10:第1延伸ローラー
11:第2延伸ローラー
12:弛緩ローラー
13:交絡付与装置
14:ワインダー
15:繊維パッケージ
16:冷却装置取り囲み部材
17:金属プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸相対粘度3.0〜4.0、総繊度200〜400dtexのポリアミド繊維を製造する方法であって、ポリアミドを150〜400個の孔を有する紡糸口金を用いて紡出糸条となし、紡出糸条をクロスフロータイプの冷却装置を用いて冷却させ、冷却装置からの冷却風吹き出し面に最も近い単糸が紡糸速度の97%以上の速度に達した時、冷却風吹き出し面から最も遠い単糸が紡糸速度の80〜95%の速度となるように冷却させた後、冷却糸条に油剤を付与し、引き取りロールで引き取り、引き取り後の糸条を延伸した後、巻き取ることを特徴とするポリアミド繊維の製造方法。
【請求項2】
紡糸速度が500〜1000m/分であり、冷却風吹き出し面から最も遠い単糸の速度CV値が1〜40%であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
冷却糸条に油剤を付与する直前に、冷却糸条と金属またはセラミックスを接触させることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項4】
クロスフロータイプの冷却装置を取り囲む部材を設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
紡糸口金から紡糸されて得られた紡出糸を2〜4糸条に分割して延伸した後、巻き取ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド繊維の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−133566(P2008−133566A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320970(P2006−320970)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】