説明

ポリアリルアミン系ポリマー、ポリマー微粒子、及びポリマー微粒子の製造方法

【課題】ポリアリルアンモニウム塩の電解質としての性質を損失することなく、水溶性ポリマー界面活性剤としての機能を有し、大きさや形状が制御されたポリマー微粒子を形成することができるポリアリルアミン系ポリマー、ポリマー微粒子、及びポリマー微粒子の製造方法の提供。
【解決手段】ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ドデシル硫酸塩のドデシル硫酸アニオンに置換されたポリアリルアミン系ポリマー、該ポリマーからなるポリマー微粒子、及び該ポリマー微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリルアミン系ポリマー、ポリマー微粒子、及びポリマー微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩などのポリアリルアンモニウム塩は、一級アミンを主成分とする水溶性のカチオン系ポリマーであり、該ポリマーは、塗料や染料の分散安定剤、建築用セメントの分散剤、薬物輸送システムの薬物運搬体、浮遊選鉱剤、固結防止剤などの種々の工業的用途が見込まれるポリマー微粒子の材料として注目されている。
従来、ポリアリルアミン塩酸塩から微粒子を製造する方法としては、ポリアリルアミン塩酸塩を水溶液中においてアルカリで中和した後、2官能性のグリシジルエーテルやイソシアネート化合物で架橋してゲル化し、破砕、噴霧乾燥を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この方法は多くの工程を要し、また、ゲルの破砕によって微粒子を得るため微粒子の大きさや形状が均一でないという問題がある。
【0003】
また、前記の改良法として、ゲルを破砕する代わりに有機溶媒中に分散させて、微粒子の大きさと形状を制御する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、多くの工程を経て製造しなければならないことにかわりはなく、かつ有機溶媒を使用しなければならないという新たな問題が生じる。
【0004】
近年、layer−by−layer(LbL)法による中空マイクロカプセルの製造法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。この方法は、分解性の鋳型の核となる物質の周りに、ポリアリルアミン塩酸塩とアニオン性ポリマー電解質であるポリスチレンスルホン酸ナトリウムの静電気的相互作用によって累積した吸着層を形成させ、そのあとで核を除去することにより中空マイクロカプセルを得る方法である。このLbL法による製造法は、微粒子の大きさ及び形状の制御という点では優れており、無機材料の合成や酵素反応などの反応場としても利用されている。
しかしながら、ポリアリルアミン塩酸塩の電解質としての性質が失われてしまうという問題がある。
【0005】
一方、球状微粒子を形成することのできるポリマー界面活性剤には、ブロック共重合体が用いられることが多い。
しかしながら、ブロック共重合体の合成には高純度のモノマーや触媒の使用、酸素や水の除去といった重合条件が要求されるため、煩雑な手間がかかるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ポリアリルアンモニウム塩の電解質としての性質を損失することなく、水溶性ポリマー界面活性剤としての機能を有し、大きさや形状が制御されたポリマー微粒子を形成することができるポリアリルアミン系ポリマー、ポリマー微粒子、及びポリマー微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、アルカリによる中和や架橋、破砕などの数段階の処理を必要とせず、かつ有機溶媒を使用しない簡便で安全な手法によって、ポリマー微粒子を製造することができるポリマー微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、ポリアリルアンモニウム塩の水溶液に、低分子界面活性剤であるドデシル硫酸塩を添加することにより、水溶性のカチオン性電解質であるポリアリルアンモニウム塩がポリマー界面活性剤に変換されることを通して、ポリマー微粒子を形成することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ドデシル硫酸塩のドデシル硫酸アニオンに置換されたことを特徴とするポリアリルアミン系ポリマーである。
<2> ポリアリルアンモニウム塩の一部をドデシル硫酸塩と反応させることにより得られることを特徴とするポリアリルアミン系ポリマーである。
<3> ポリアリルアンモニウム塩の構成単位であるアリルアンモニウム塩ユニットの一部が、アリルアンモニウムドデシル硫酸塩ユニットに置換されたことを特徴とするポリアリルアミン系ポリマーである。
<4> ポリアリルアンモニウム塩が、ポリアリルアミン塩酸塩である前記<1>から<3>に記載のポリアリルアミン系ポリマーである。
<5> ドデシル硫酸塩が、ドデシル硫酸ナトリウムである前記<1>から<4>のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマーである。
<6> ポリアリルアンモニウム塩の数平均分子量が5,000〜2,000,000である前記<1>から<5>のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマーである。
<7> ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ポリアリルアンモニウム塩のアリルアンモニウム塩ユニットに対して0.02モル当量〜0.7モル当量のドデシル硫酸アニオンと置換される前記<1>から<6>のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマーである。
<8> 水溶性ポリマー界面活性剤である前記<1>から<7>のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマーである。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマーからなることを特徴とするポリマー微粒子である。
<10> ポリアリルアミン系ポリマーの自己組織化により形成される前記<9>に記載のポリマー微粒子である。
<11> ポリアリルアミン系ポリマーのドデシル基の疎水性相互作用による自己組織化により形成される前記<9>に記載のポリマー微粒子である。
<12> 平均粒子径が、160nm〜185nmの粒子である前記<9>から<11>のいずれかに記載のポリマー微粒子である。
<13> 粒度分布の相対標準偏差が、40%以下である前記<9>から<12>のいずれかに記載のポリマー微粒子である。
<14> ポリアリルアンモニウム塩をドデシル硫酸塩と反応させることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法である。
<15> ポリアリルアンモニウム塩が、ポリアリルアミン塩酸塩である前記<14>に記載のポリマー微粒子の製造方法である。
<16> ドデシル硫酸塩が、ドデシル硫酸ナトリウムである前記<14>から<15>のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法である。
<17> 反応が、水溶液中のイオン交換反応である前記<14>から<16>のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法である。
<18> ドデシル硫酸塩の添加量が、ポリアリルアンモニウム塩のアリルアンモニウム塩ユニットに対して0.02モル当量〜0.7モル当量である前記<14>から<17>のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法である。
<19> 反応時の攪拌速度が、100rpm〜1,500rpmである前記<14>から<18>のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法である。
<20> 反応時の反応温度が、5℃〜40℃である前記<14>から<19>のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法である。
<21> ポリアリルアンモニウム塩の数平均分子量が5,000〜2,000,000である前記<14>から<20>のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ポリアリルアンモニウム塩の電解質としての性質を損失することなく、水溶性ポリマー界面活性剤としての機能を有し、大きさや形状が制御されたポリマー微粒子を形成することができるポリアリルアミン系ポリマー、ポリマー微粒子、及びポリマー微粒子の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、アルカリによる中和や架橋、破砕などの数段階の処理を必要とせず、かつ有機溶媒を使用しない簡便で安全な手法によって、ポリマー微粒子を製造することができる微粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例2の製造において、光散乱測定のMarquadt解析で得られた微粒子の散乱強度分布図である。
【図2】図2は、実施例2の製造において、形成された微粒子の光散乱測定の時間τに対する1次自己相関関数の自然対数プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
(ポリアリルアミン系ポリマー)
本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ドデシル硫酸塩のドデシル硫酸アニオンに置換されてなる。
【0013】
また、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアンモニウム塩の一部をドデシル硫酸塩と反応させることにより得られる。また、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアンモニウム塩の4級アンモニウムカチオンの一部が、ドデシル硫酸アニオンとイオン結合を形成する。また、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアンモニウム塩の構成単位であるアリルアンモニウム塩ユニットの一部が、アリルアンモニウムドデシル硫酸塩ユニットに置換されてなる。
【0014】
<ポリアリルアンモニウム塩>
前記ポリアリルアンモニウム塩とは、ポリアリルアミンの4級アンモニウム塩である。前記ポリアリルアミンとは、下記一般式(1)で表されるポリマーであり、アリルアミンユニットが重合したポリマーである。
【化1】

ここで、一般式(1)中のnは、任意の整数を示す。
前記ポリアリルアンモニウム塩としては、ポリアリルアミン塩酸塩が好適に用いられる。
【0015】
前記ポリアリルアンモニウム塩の分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、数平均分子量(Mn)で5,000〜2,000,000が好ましく、7,000〜1,000,000がより好ましく、10,000〜500,000が特に好ましい。前記ポリアリルアンモニウム塩の分子量が、5,000未満であると、微粒子形成能が低下することがあり、2,000,000を超えると、系の粘度が極めて高くなることがある。一方、前記ポリアリルアンモニウム塩の分子量が、10,000〜500,000であると、粒子形成効率や溶解性の点で有利である。
【0016】
<ドデシル硫酸塩>
前記ドデシル硫酸塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム、ドデシル硫酸セシウムなどが挙げられる。これらの中でも、ドデシル硫酸ナトリウムが、汎用性や化合物の安定性の点で好ましい。
【0017】
前記ポリアリルアンモニウム塩、及びドデシル硫酸塩の好ましい組み合わせとしては、ポリアリルアミン塩酸塩、及びドデシル硫酸ナトリウムの組み合わせが挙げられる。その場合、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアミン塩酸塩の塩化物イオンの一部が、ドデシル硫酸ナトリウムのドデシル硫酸アニオンに置換されたポリマーである。また、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアミン塩酸塩の一部をドデシル硫酸ナトリウムと反応させることにより得られるポリマーである。また、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアミン塩酸塩の4級アンモニウムカチオンの一部が、ドデシル硫酸ナトリウムのドデシル硫酸アニオンとイオン結合を形成するポリマーである。また、本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアミン塩酸塩の構成単位であるアリルアミン塩酸塩ユニットの一部が、アリルアンモニウムドデシル硫酸塩ユニットに置換されたポリマーである。ここで、アリルアミン塩酸塩ユニット、及びアリルアンモニウムドデシル硫酸塩ユニットは、それぞれ下記構造式(1)及び(2)で表される。ここで、構造式(1)及び(2)中のnは、それぞれ任意の整数を示す。
【化2】

【化3】

【0018】
前記ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ポリアリルアンモニウム塩のアリルアンモニウム塩ユニットに対して好ましくは物質量比で0.02モル当量〜0.7モル当量、より好ましくは0.1モル当量〜0.5モル当量のドデシル硫酸アニオンと置換される。前記物質量比が、0.02モル当量未満であると、界面活性能を示さない可能性があり、0.7モル当量を超えると、粒度分布の相対標準偏差が増加することがある。一方、前記物質量比が、0.1モル当量〜0.7モル当量であると、微粒子の安定性の点で有利である。
【0019】
−ポリマー界面活性剤−
前記ポリアリルアミン系ポリマーは、ポリマー界面活性剤である。前記ポリアリルアミン系ポリマーは、ポリアリルアンモニウム塩のカチオン性のアミノ基(親水基)と、前記ポリアリルアミン系ポリマー中のドデシル硫酸に由来するドデシル基(疎水基)との作用により、カチオン性のポリマー界面活性剤としての機能を発揮する。前記ポリアリルアミン系ポリマーをポリマー界面活性剤としての用途に用いる場合、前記ポリアリルアミン系ポリマーは、後述するポリマー微粒子を形成していてもよく、ポリマー微粒子を形成していなくてもよい。
【0020】
(ポリマー微粒子)
本発明のポリマー微粒子は、前記ポリアリルアミン系ポリマーからなる。また、本発明のポリマー微粒子は、前記ポリアリルアミン系ポリマーからなり、該ポリアリルアミン系ポリマーの自己組織化、より詳細には、該ポリアリルアミン系ポリマーのドデシル基の疎水性相互作用による自己組織化により形成される。
また、本発明のポリマー微粒子は、平均粒子径が、160nm〜185nmの粒子であることが好ましい。また、本発明のポリマー微粒子は、粒度分布の相対標準偏差が40%以下であることが好ましい。
【0021】
ここで、前記「平均粒子径」とは、流体力学的直径の平均値をいい、前記流体力学的直径は、動的光散乱測定法による測定値をキュムラント法により解析したものを示す。粒子径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、He−Neレーザーを用いる動的光散乱測定法、Arレーザーを用いる動的光散乱測定法、レーザー回折法、遠心沈降法、FFF法などが挙げられる。
なお、前記ポリマー微粒子の平均粒子径としては、用いるポリアリルアンモニウム塩の数平均分子量、ドデシル硫酸アニオンによる置換の割合などに応じて適宜選択することができる。
【0022】
ここで、前記「粒度分布」とは、流体力学的直径の粒度分布をいい、動的光散乱測定法による測定値をヒストグラム法により解析したものを示す。
また、前記粒度分布の相対標準偏差とは、平均粒子径を基準とする粒子径の標準偏差の百分率値であり、動的光散乱測定法による測定値をヒストグラム法により解析したものを示す。単分散性の粒子とは、粒度分布がシャープな粒子であって、本発明において、相対標準偏差が40%以下であることをいう。
なお、前記ポリマー微粒子の粒度分布及びその相対標準偏差としては、用いるポリアリルアンモニウム塩の数平均分子量などに応じて適宜選択することができる。
【0023】
(ポリマー微粒子の製造方法)
本発明のポリマー微粒子の製造方法は、少なくとも、ポリアリルアンモニウム塩をドデシル硫酸塩と反応させる工程を含み、さらに、必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0024】
−ポリアリルアンモニウム塩−
前記ポリアリルアンモニウム塩としては、ポリアリルアミン塩酸塩が好適に用いられる。
また、前記ポリアリルアンモニウム塩の分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、数平均分子量(Mn)で5,000〜2,000,000が好ましく、7,000〜1,000,000がより好ましく、10,000〜500,000が特に好ましい。前記ポリアリルアンモニウム塩の分子量が、5,000未満であると、微粒子形成能が低下することがあり、2,000,000を超えると、系の粘度が極めて高くなることがある。一方、前記ポリアリルアンモニウム塩の分子量が、10,000〜500,000であると、粒子形成効率や溶解性の点で有利である。
【0025】
−ドデシル硫酸塩−
前記ドデシル硫酸塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム、ドデシル硫酸セシウムなどが挙げられる。これらの中でも、ドデシル硫酸ナトリウムが、汎用性や化合物の安定性の点で好ましい。
【0026】
前記反応としては、水溶液中のイオン交換反応であることが好ましい。
前記反応に用いる溶媒としては、水を使用することができる。他の極性溶媒を溶媒として用いた場合には、微粒子の形成効率が低下する可能性がある。
【0027】
前記水溶液中のポリアリルアンモニウム塩濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アリルアンモニウム塩ユニット濃度に換算して、0.001mol/L〜0.01mol/Lが好ましく、0.002mol/L〜0.006mol/Lがより好ましい。前記濃度が0.001mol/L未満であると微粒子の形成効率が低下する可能性があり、0.01mol/Lを超えると微粒子の合着や沈澱が生じる可能性がある。
【0028】
前記水溶液中に添加するドデシル硫酸塩水溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01mol/L〜0.5mol/Lが好ましく、0.05mol/L〜0.1mol/Lがより好ましい。前記濃度が0.01mol/L未満であると添加量が多量になり微粒子形成に好ましくなく、0.5mol/Lを超えると微粒子の粒度分布が広がる可能性がある。
【0029】
前記ドデシル硫酸塩水溶液の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アリルアンモニウム塩ユニットに対して0.02モル当量〜0.7モル当量が好ましく、0.1モル当量〜0.5モル当量がより好ましい。添加量が0.02モル当量未満であると界面活性能を示さない可能性があり、0.7モル当量を超えると粒度分布の相対標準偏差が増加することがある。
【0030】
前記ポリマー微粒子の形成は、ポリアリルアンモニウム塩の一部とドデシル硫酸塩とのイオン交換反応、及びそれに続く、前記ポリアリルアミン系ポリマーのドデシル基の疎水性相互作用による自己組織化の2段階を経て進行する。つまり、1段階目の塩交換反応では一部のアリルアンモニウム塩ユニットがアリルアンモニウムドデシル硫酸塩ユニットに変換され、このアリルアンモニウムドデシル硫酸塩ユニットのドデシル基同士の疎水性相互作用による自己組織化が2段階目として起こりポリマー微粒子が形成される。
【0031】
前記反応時の攪拌方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ドデシル硫酸塩水溶液の添加時に、マグネチックスターラーなどの攪拌手段により撹拌することが好ましい。
前記反応時の攪拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100rpm〜1,500rpmが好ましく、150rpm〜1,000rpmがより好ましく、200rpm〜500rpmが特に好ましい。前記攪拌速度が、100rpm未満であると、微粒子の粒度分布が広がることがあり、1,500rpmを超えると、安定な攪拌状態を保つことができなくなる可能性がある。
【0032】
前記反応時の反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5℃〜40℃が好ましく、15℃〜30℃がより好ましい。前記反応温度が、5℃未満であると、沈澱が生じる可能性があり、40℃を超えると、微粒子形成能の形成効率が低下する可能性がある。一方、前記反応温度が、15℃〜30℃であると、微粒子の安定性の点で有利である。
【0033】
前記ポリアリルアンモニウム塩をドデシル硫酸塩と反応させる方法としては、上記の反応条件であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩の水溶液を室温(20℃〜25℃)で撹拌しながら、ドデシル硫酸ナトリウムの水溶液を添加し、1分間程度撹拌する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<ポリマー微粒子の合成1>
ポリアリルアミン塩酸塩(日東紡績株式会社、PAA・HCl−10S、数平均分子量(Mn):150,000)67mgを蒸留水200mLに溶解させ、ろ紙でろ過し不純物を除去した。このポリアリルアミン塩酸塩水溶液の25mLをサンプル瓶に分取した。一方、ドデシル硫酸ナトリウム(キシダ化学株式会社)257mgを蒸留水10mLに溶解させ、ドデシル硫酸ナトリウム水溶液を調製した。25mLのポリアリルアミン塩酸塩水溶液の入ったサンプル瓶をマグネチックスターラー上で200rpmの攪拌速度で撹拌しながら、前記ドデシル硫酸ナトリウム水溶液0.1mLを室温(25℃)で注射器を使って加え、1分間撹拌し、ポリマー微粒子を製造した。
【0036】
<評価>
作製したポリマー微粒子について、以下のように評価した。
【0037】
<流体力学的直径の測定>
以下の条件で、光散乱法を用いて流体力学的直径を測定した。
装置:光散乱測定装置(ELS−8000、大塚電子製)
レーザー:He−Ne(λ=632.8nm)
溶媒:水
温度:25℃
角度:90°
【0038】
その結果、作製した微粒子の平均粒子径は、流体力学的直径で171.2nmであり、球状粒子が得られたことが分かった。
【0039】
<Marquadt解析>
また、前記光散乱法により測定した散乱強度をヒストグラム法(Marquadt法)により解析し、散乱強度分布を求めた。その結果、微粒子が形成されたことが確認された。また、作製した微粒子の粒子径(mean±SD)は、流体力学的直径で204.1±71.2nmであり、粒度分布104.1nm〜403.7nm、粒度分布の相対標準偏差は35%であることが分かった。
【0040】
(実施例2)
<ポリマー微粒子の合成2>
実施例1において、ドデシル硫酸ナトリウム水溶液の添加量を0.1mLから0.5mLに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリマー微粒子を作製し、これらの評価を実施した。
【0041】
<流体力学的直径の測定>
上記の条件で流体力学的直径を測定した結果、作製した微粒子の平均粒子径は、流体力学的直径で166.8nmであり、球状粒子が得られたことが分かった。
【0042】
<Marquadt解析>
また、前記光散乱法により測定した散乱強度をヒストグラム法(Marquadt法)により解析し、散乱強度分布を求めた(図1)。その結果、微粒子が形成されたことが確認された。また、作製した微粒子の粒子径(mean±SD)は、流体力学的直径で180.2±68.2nmであり、粒度分布85.8nm〜403.7nm、粒度分布の相対標準偏差は38%であることが分かった。
【0043】
また、形成された微粒子について測定した光散乱強度の時間変化から求められる1次自己相関関数の自然対数を、時間τに対してプロットしたグラフを図2に示す。その結果、光散乱強度の時間変化から求められる1次の自己相関関数の自然対数であるlnG(τ)が、時間τに対してほぼ直線的に減衰していることから、単分散性の球状粒子が形成されたことがわかった(図2)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のポリアリルアミン系ポリマーは、大きさや形状が制御されたポリマー微粒子を形成することができるポリアリルアミン系ポリマーとして好適に利用可能である。また、水溶性ポリマー界面活性剤としての機能を有するポリアリルアミン系ポリマーとして好適に利用可能である。
本発明のポリマー微粒子は、大きさや形状が制御され、ポリアリルアンモニウム塩のカチオン性が保持されたポリマー微粒子を提供することができるので、塗料や染料の分散安定剤、建築用セメントの分散剤、薬物輸送システムの薬物運搬体などに好適に利用可能である。
本発明のポリマー微粒子の製造方法は、アルカリによる中和や架橋、破砕などの数段階の処理を必要とせず、かつ有機溶媒を使用しない安全で簡便な手法によって、ポリマー微粒子を製造することができるポリマー微粒子の製造方法として好適に利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】特表2008−533272号公報
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】G. Decher, Science(1997)vol.277,p.1232

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ドデシル硫酸塩のドデシル硫酸アニオンに置換されたことを特徴とするポリアリルアミン系ポリマー。
【請求項2】
ポリアリルアンモニウム塩が、ポリアリルアミン塩酸塩である請求項1に記載のポリアリルアミン系ポリマー。
【請求項3】
ドデシル硫酸塩が、ドデシル硫酸ナトリウムである請求項1から2のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマー。
【請求項4】
ポリアリルアンモニウム塩の数平均分子量が5,000〜2,000,000である請求項1から3のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマー。
【請求項5】
ポリアリルアンモニウム塩のアニオンの一部が、ポリアリルアンモニウム塩のアリルアンモニウム塩ユニットに対して0.02モル当量〜0.7モル当量のドデシル硫酸アニオンと置換される請求項1から4のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマー。
【請求項6】
水溶性ポリマー界面活性剤である請求項1から5のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のポリアリルアミン系ポリマーからなることを特徴とするポリマー微粒子。
【請求項8】
ポリアリルアミン系ポリマーの自己組織化により形成される請求項7に記載のポリマー微粒子。
【請求項9】
平均粒子径が、160nm〜185nmの粒子である請求項7から8のいずれかに記載のポリマー微粒子。
【請求項10】
粒度分布の相対標準偏差が、40%以下である請求項7から9のいずれかに記載のポリマー微粒子。
【請求項11】
ポリアリルアンモニウム塩をドデシル硫酸塩と反応させることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法。
【請求項12】
ポリアリルアンモニウム塩が、ポリアリルアミン塩酸塩である請求項11に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項13】
ドデシル硫酸塩が、ドデシル硫酸ナトリウムである請求項11から12のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項14】
反応が、水溶液中のイオン交換反応である請求項11から13のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項15】
ドデシル硫酸塩の添加量が、ポリアリルアンモニウム塩のアリルアンモニウム塩ユニットに対して0.02モル当量〜0.7モル当量である請求項11から14のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項16】
反応時の攪拌速度が、100rpm〜1,500rpmである請求項11から15のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項17】
反応時の反応温度が、5℃〜40℃である請求項11から16のいずれかに記載のポリマー微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256350(P2011−256350A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134391(P2010−134391)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】