説明

ポリアリレートの製造方法、及びポリアリレート、及びこれを用いた液晶表示装置

【課題】低コストに実施可能であって、徹底した副生成物の除去が可能なポリアリレートの製造方法によって製造された、副生成物の濃度が低いポリアリレートを得ることができる。また光学補償部材として用いた際には、輝点欠陥を発生せず、高い表示品位の液晶表示装置を得ることができる。
【解決手段】(工程1)から(工程3)を含み、かつ全工程を通じて水洗の工程を含まないことを特徴とするポリアリレートの製造方法。(工程1)触媒存在下、芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液と芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液を用いて界面重縮合させる工程。(工程2)(工程1)で得られた反応溶液から水溶液を除去し、ポリアリレート炭化水素溶液を得る工程。(工程3)(工程2)で得られたポリアリレート炭化水素溶液から、濃縮脱水及び濾過によって、不純物を除去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗を伴わないポリアリレートの製造方法、及びこの方法を用いて製造されるポリアリレート、さらにはこれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、光学補償を目的とした位相差フィルムを使用するのが一般的である。フッ素を含有せず安価であり、種々の有機溶剤に可溶で、高温高湿条件下で品質劣化しにくく、厚み方向の複屈折発現性に優れた光学補償部材用樹脂を使用した例として、例えば特許文献1には、ポリアリレートやポリカーボネートの層を用いた光学補償部材について開示されている。本製造方法によって得られるポリアリレートは、触媒残渣や副生成物である塩化ナトリウムを多く含むため、これらを除去するための水洗工程が必須であった。そのため重合溶媒である塩化メチレンを含有した廃水や廃溶剤が多く発生する。一般にハロゲン化炭化水素を含有した廃水の処理費用のコストは高く、精製工程にかかるコストの面で十分満足とは言えなかった。
【0003】
ポリアリレートの精製については、例えば特許文献2には、二価フェノールの酸化キノン体を低減することにより、透明性に優れた純度の高いポリアリレートの洗浄方法が開示されている。しかしその方法は多数の水洗を繰り返した後に溶液から粉末状のポリマーを取り出し、取り出した粉末状のポリマーを有機溶剤で洗浄するというものであり、多量の廃水と廃溶剤が発生することから経済的ではない。また重合溶媒が塩化メチレンであることから、水洗の結果発生する廃水には塩化メチレンが含まれている。前述の通り塩化メチレンを含有した廃水の処理コストは高く、この点からも経済的であるとは言えない。
【0004】
また例えば特許文献3には、樹脂中に残存する触媒が少なく、純度の高いポリアリレートの製造方法が開示されている。その方法は塩化メチレン溶液で合成したポリアリレートの水洗時の撹拌動力、撹拌時間、撹拌翼の最適化であり、依然として水洗工程が含まれている。前述の通り塩化メチレンを含有した廃水の処理コストは高く、経済的であるとは言えない。また、このような水洗処理を実施したとしても、水洗を行った回数と残存する塩化ナトリウムの量は相関せず、水洗による塩化ナトリウム除去の効果は低い。
【0005】
一方光学用途に特有の問題として、例えば特許文献4には、高輝度化を達成した液晶表示装置等における輝点と呼ばれる光学異常についての記述がある。この輝点の発生は、偏光部材に生じた透明結晶等による屈折率異常に起因する。ところでポリアリレートを界面重縮合反応により合成すると、アルカリ金属の塩化物が副生成物として生じる(例えば非特許文献1では塩化ナトリウム)。塩化ナトリウム等のアルカリ金属の塩化物は一般に結晶性が高く、前述の屈折率異常を引き起こし、揮点を発生する一因となることから、低コストでの徹底した除去が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−169384号公報
【特許文献2】特開2008−239692号公報
【特許文献3】特開2008−19312号公報
【特許文献4】特開2000−227518号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本化学会編「第4版実験化学講座、28、高分子合成」225ページ(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低コストに実施可能であって、副生成物の徹底した除去が可能なポリアリレートの製造方法、及びその方法によって製造された副生成物の含有量が少ないポリアリレートを提供することにより、光学補償部材として用いた際には、輝点欠陥を発生せず、高い表示品位の液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、界面重縮合溶媒を変更し、重縮合後のポリアリレート溶液を水洗することなく濃縮脱水して濾過をすることにより、低コストで徹底した副生成物の除去可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、以下に関する。
(I) 以下の(工程1)から(工程3)を含み、かつ全工程を通じて水洗の工程を含まないことを特徴とするポリアリレートの製造方法。
(工程1)触媒存在下、芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液と芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液を用いて界面重縮合させる工程
(工程2)(工程1)で得られた反応溶液から水溶液を除去し、ポリアリレート炭化水素溶液を得る工程
(工程3)(工程2)で得られたポリアリレート炭化水素溶液から、濃縮脱水及び濾過によって、不純物を除去する工程
(II)前記(工程1)に記載のアルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、(I)に記載のポリアリレートの製造方法。
(III)前記(工程1)に記載の芳香族ジオールのアルカリ水溶液に、水溶性化合物を添加することを特徴とする、(I)及び(II)に記載のポリアリレートの製造方法。
(IV)水溶性化合物が塩化ナトリウムであることを特徴とする、(III)に記載のポリアリレートの製造方法。
(V)前記(工程1)に記載の炭化水素溶液が、芳香族炭化水素溶液であることを特徴とする、(I)から(IV)に記載のポリアリレートの製造方法。
(VI)前記(工程1)に記載の炭化水素溶液が、トルエン溶液であることを特徴とする、(I)から(V)に記載のポリアリレートの製造方法。
(VII)(I)から(VI)に記載の方法で製造されたポリアリレート。
(VIII) 塩化ナトリウム含有量が50ppm以下であることを特徴とする、(VII)記載のポリアリレート。
(IX)(VII)及び(VIII)に記載のポリアリレートを含んでなることを特徴とする積層体。
(X)(IX)に記載の積層体を用いてなることを特徴とする光学補償部材。
(XI)(X)に記載の光学補償部材を有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低コストに実施可能であって、徹底した副生成物の除去が可能なポリアリレートの製造方法によって製造された副生成物の濃度が低いポリアリレートを得ることができる。また光学補償部材として用いた際には、輝点欠陥を発生せず、高い表示品位の液晶表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の要旨とすることころは、以下の(工程1)から(工程3)、即ち
(工程1)触媒存在下、芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液と芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液を用いて界面重縮合させる工程
(工程2)(工程1)で得られた反応溶液から水溶液を除去し、ポリアリレート炭化水素溶液を得る工程
(工程3)(工程2)で得られたポリアリレート炭化水素溶液から、濃縮脱水及び濾過によって、不純物を除去する工程を含み、かつ全工程を通じて水洗の工程を含まないことを特徴とするポリアリレートの製造方法である。
【0013】
ここで本願発明における「水洗の工程」とは、合成したポリアリレートを含有してなる炭化水素溶液中の水溶性不純物を水で抽出除去する工程のことであり、系中に(工程1)の界面重縮合反応に用いるアルカリ水溶液以外の水を新たに投入し、投入した水を用いて水溶性不純物を抽出し、さらに抽出に用いた水を水溶性不純物ごと系外へ排出する三つの操作を含む。水洗の目的は水溶性不純物の抽出除去であるから、三つの操作のうちいずれか、若しくは全ての操作を欠落した場合、水洗の工程を含むとは言えない。例えば系中へ水を投入したのみの場合は、単に反応系を水で希釈したに過ぎず、水洗の工程を含むとは言えない。また三つの操作を含むのであれば、例えば新たに投入する水が塩を含有していたり、中性でなかったりしても水洗の工程と称する。言うまでもなく、(工程1)で実施した界面重縮合反応の後、界面重縮合反応に用いた水を除去する工程である(工程2)は、界面重縮合反応に用いるアルカリ水溶液以外の水を新たに投入していないため、「水洗の工程」には含まない。また(工程1)で実施した界面重縮合反応の後、水層を除去することなく水を添加し、その後水層を除去した場合は、(工程2)に先立って反応溶液を水で希釈したに過ぎず、水洗の工程を含むとは言えない。
【0014】
次に(工程1)について説明する。本発明では、触媒存在下、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸クロライドを互いに相溶し難い二種類の溶媒に溶解させ、触媒存在下で二液の界面で反応させる界面重縮合法を用いる。
【0015】
(工程1)における触媒としては、相間移動触媒を用いる。相間移動触媒としては、第三級アミン、第四級オニウム塩等が好適に用いられる。とりわけ第四級アンモニウムクロライドが、高分子量のポリマーを得る観点から好適に用いられ、中でもテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ペンチルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロライド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、n−デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライドが好ましく、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライドが一層好ましく、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライドが、重合性及び重合後の触媒除去性等の観点から、特に好ましい。用いる相間移動触媒の量としては、芳香族ジオールに対して1〜30mol%が好ましく、3〜25mol%が特に好ましい。相間移動触媒の量が1mol%を下回ると相間移動触媒として十分な働きを得られず、30mol%を超えると過剰な触媒がかえって反応を阻害し、高分子量のポリマーを得ることができない。
【0016】
本願発明における「芳香族ジオール」とは、一つの分子中に二つのフェノール性官能基を持つ分子の総称であり、主としてビスフェノール類とビフェノール類が挙げられる。ビスフェノール類としては、特に制限されないが、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(テトラメチルビスフェノールA)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン(テトラメチルビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ジメチルビスフェノールS)、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(テトラメチルビスフェノールS)、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ジクロロビスフェノールS)、ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ジニトロビスフェノールS)、ビス(3-アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ジアミノビスフェノールS)、1,1-ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)等が挙げられる。ビフェノール類としては、特に制限されないが、例えば4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2−メチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3−メチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,3’−ジメチル−4,4’−ジヒロキシビフェニル、3,3’−ジ−tert−ブチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラ−tert−ブチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、2,2’3,3’,5,5’−ヘキサメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。この中でポリアリレートの可溶性や光学補償部材としての性能の面から、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールSの中から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましく、ビスフェノールA及びビスフェノールFの二種を用いることが特に好ましい。芳香族ジオールとして、ビスフェノールA及びビスフェノールFの二種を用いる場合、そのモル比率は、ビスフェノールA/ビスフェノールF=90/10〜10/90の範囲にあることが好ましく、90/10〜10/90の範囲にあることがさらに好ましく、70/30〜50/50の範囲にあることが特に好ましい。
【0017】
(工程1)においては、上記に代表される芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液を用いる。これに用いるアルカリ水溶液は、特に制限されないが、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。この中で反応性等の観点から水酸化ナトリウム水溶液を用いるのが好ましい。アルカリ水溶液はアルカリの物質量が芳香族ジオールの物質量に対して1.0〜1.5倍用いることが好ましい。
【0018】
上記芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液には、分子量の制御のために、芳香族モノオールを含有することが好ましい。本願発明における「芳香族モノオール」とは、一つの分子中に一つのフェノール性官能基を持つ分子の総称であり、特に制限されないが、例えばフェノール、p−クレゾール、p−キシレン、p−メトキシエチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。この中でp−tert−ブチルフェノールを用いるのが、分子量制御性等の観点から好ましい。
【0019】
上記芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液には、芳香族ジオールの酸化防止のために、酸化防止剤を投入することが好ましい。酸化防止剤は、特に制限されないが、例えば亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。この中で酸化防止効果、入手性等の観点から次亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
(工程1)における「芳香族ジカルボン酸クロライド」とは、一つの分子中に二つのカルボン酸クロライドを持つ芳香族分子の総称であり、特に制限されないが、例えばテレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、さらにはこれらの芳香族水素をアルキル基やハロゲン基で置換した化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。この中でテレフタル酸クロライドとイソフタル酸クロライドの中から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましく、テレフタル酸クロライドとイソフタル酸クロライドを二種とも用いることが特に好ましい。これら二種を用いる場合そのモル比はテレフタル酸クロライド/イソフタル酸クロライド=90/10〜10/90であることが好ましく、70/30〜30/70がさらに好ましく、40/60〜60/40が特に好ましい。
【0021】
(工程1)では、上記に代表される芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液を用いる。従来の界面重縮合反応ではハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレンを用いることが一般的であったが、廃液処理コスト、不純物除去効率、環境負荷の観点から、本発明においては、炭化水素溶媒を用いることが好ましい。炭化水素溶媒としては、特に制限されないが、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−ヘプチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ホロン等の脂肪族炭化水素、キシレン、トルエン、エチルフェノール、クレゾール等の芳香族炭化水素が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二つ以上を組み合わせて用いてもよい。この中で水溶液との相溶性、重縮合反応の反応性、入手性等の観点からトルエンを用いるのが好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液中の芳香族ジカルボン酸クロライドの重合反応中の濃度は、5重量%〜15重量%が好ましく、8重量%〜12重量%が特に好ましい。
【0022】
(工程1)においては、触媒存在下、上述の芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液及び芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液の二液を、混合し撹拌することにより、界面重縮合させ、ポリアリレートを得ることができる。二液の混合は、特に制限されないが、例えば一方に他方を投入することによって成されてもよく、別に用意した容器に二液を同時に投入することによって成されてもよい。この中でアルカリ水溶液に炭化水素溶液を投入する方法が、芳香族ジカルボン酸クロライドの分解を抑制し、界面重縮合反応を効率よく行えることから好ましい。上記のように二液を混合してから30分から10時間撹拌し、反応させることが好ましい。二液の撹拌は、液体の撹拌に一般に供されている種々の撹拌装置によって成されてよい。ただし撹拌の効率が低過ぎる場合は界面重縮合反応が効率よく進まず、逆に高過ぎる場合は水溶液と炭化水素溶液がエマルションを形成するため、好ましくない。エマルションを形成すると、水溶液と炭化水素溶液の分離が十分に行えず、不純物の除去効率が著しく低下することから、好ましくない。撹拌するに当たっては撹拌容器、撹拌翼、撹拌速度等を適切に調整する必要がある。
【0023】
次に、(工程1)で得られた反応溶液から水溶液を除去し、ポリアリレート炭化水素溶液を得る工程である(工程2)について説明する。上述の(工程1)で得られた反応溶液は、水溶液と炭化水素溶液の混合物であるため、界面重縮合を完了した上ではもはや不要な水溶液を除去する必要がある。除去の方法は、系中の水溶液を系外へ排出できる方法であれば、特に制限されないが、例えば反応溶液の撹拌を中止し、静置して分離した水溶液を除去する静置法や、溶液の比重差を利用し、遠心力により分離する遠心分離法等の種々の方法を用いることができる。この中で静置法が、装置の簡便さの観点から好ましい。
【0024】
(工程1)で用いる炭化水素溶媒の比重が水よりも低い場合には、界面重縮合反応に用いるアルカリ水溶液に、あらかじめ水溶性化合物を溶解することにより、前記静置法による水溶液の分離を速やかにできる。これは水溶液の比重を大きくすることにより、水溶液と炭化水素溶液との比重差がより大きくなり、静置による水溶液と炭化水素溶液との分離の駆動力が一層大きくなるためである。水溶性化合物は、界面重縮合反応に著しい影響を与えるものでなければ、特に制限されないが、例えばアルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である場合には、塩化ナトリウムを用いるのが好ましい。これはそもそも水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合には、副生成物として塩化ナトリウムが生成するため、これをあらかじめアルカリ水溶液に存在させても、界面重縮合に対して何ら影響を与えないためである。
【0025】
上述の(工程2)で水溶液を除去(分離)することによって得られたポリアリレートの炭化水素溶液は、炭化水素溶媒にわずかに溶解している水や、溶解しているわけではないが、溶液の粘性が高く、このため溶液に発生した空洞状の箇所に取り込まれている水等を含有している。さらにこの水は副生成物である塩化物(界面重縮合反応のアルカリ水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合には、塩化ナトリウム)を多量に含んでいる。樹脂に残存した塩化ナトリウムは、前述の通り、樹脂を液晶表示装置に用いた場合に、重大な輝点欠陥を引きこす原因となり得るので、可能な限り低減する必要がある。
【0026】
次に(工程2)で得られた上述のポリアリレートの炭化水素溶液から、濃縮脱水及び濾過によって不純物を除去する工程について説明する。前記濃縮脱水では、ポリアリレートの炭化水素溶液を加熱し、炭化水素溶液と水の共沸を利用して、炭化水素溶液中の水分を系外に揮発除去する。濃縮脱水することにより、ポリアリレート炭化水素溶液に含有される水の量が少なくなる。濃縮脱水の方法としては、熱をかけて炭化水素溶液が濃縮される方法であれば特に制限されず、炭化水素溶液の沸点などから、常圧濃縮や減圧濃縮など適宜適切な方法を選択することができる。濃縮脱水の際には、必要に応じてポリアリレートの炭化水素溶液を炭化水素溶媒で希釈してもよい。作業性と濃縮脱水の効果の点から、濃縮脱水するポリアリレートの炭化水素溶液の固形分濃度が1〜15重量%であることが好ましく、さらに好ましくは4〜8重量%であることが好ましい。これを加熱濃縮することにより炭化水素溶液に含有される水の量が少なくなると、炭化水素溶液に含有されていた不純物である塩はもはや溶液中に溶解した状態では存在し得なくなり、結晶となって析出する。
【0027】
これら析出した塩は、種々の濾過法により除去することができる。濾過法としては、メンブレンフィルター濾過、ガラス繊維フィルター濾過、セライト濾過などがあげられる。これにより炭化水素溶液中の不純物である塩を効率的に低減することが可能である。
【0028】
また樹脂中に残る不純物の量は、樹脂量に対して50ppm以下であることが好ましく、25ppm以下であることが一層好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。不純物の塩としては、塩化ナトリウムがあげられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本願発明を具体的に説明する。ただし本願発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
[評価方法]
実施例に記載の数値等は、以下の評価方法によるものである。
【0031】
(溶液中の水分量)
合成により得られたポリアリレートの炭化水素溶液中の水分の量を、カールフィッシャー法により測定した。水分量の測定の条件は表1の通りである。
【0032】
【表1】

【0033】
(樹脂中の塩化ナトリウムの定量)
合成により得られたポリアリレート中の塩化ナトリウムの量を見積もるために、ポリアリレート中のナトリウムの量をICP発光分光(ICP−AES)法により測定した。ナトリウム量の測定の条件は表2の通りである。
【0034】
【表2】

【0035】
[樹脂の合成]
(合成例)
窒素導入管と、ポリテトラフルオロエチレン製のバキュームシールと、マックスブレンド(登録商標)を具備したステンレス製撹拌棒と、この撹拌棒を最高300rpmで撹拌可能な撹拌機と、筒型平底ガラス製セパラブルフラスコ(容量2L)とからなる反応容器に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)(三井化学製)33.1g(145mmol)、ビス(3,5-ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン(TM−BPF)(本州化学工業製)24.8g(96.8mmol)、p−t−ブチルフェノール(TBP)(和光純薬工業製)0.367g(2.44mmol)、ハイドロサルファイトナトリウム(和光純薬工業製)0.425g、50wt.%ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド(BTBAC)水溶液(広栄化学工業製)9.14g、蒸留水448g、5mol/l NaOH水溶液(和光純薬工業製)134g、トルエン(ナカライテスク製)394gを投入し、恒温槽で5℃に保温しながら300rpmで撹拌した。
【0036】
重合層とは別に、マグネティックスターラー用撹拌子を具備したマヨネーズ瓶に、テレフタル酸クロライド(TPC)(イハラニッケイ化学工業製)24.5g(121mmol)、イソフタル酸クロライド(IPC)(イハラニッケイ化学工業製)24.5g(121mmol)、トルエン143gを投入し、氷浴で保温しながらマグネティックスターラーで撹拌した。
【0037】
重合層、有機層ともよく溶けたことを確認した後、重合層の撹拌を止め、有機層を5分間で重合層へ投入した。有機層の投入には滴下漏斗を用いた。投入完了後200rpmで撹拌を再開した。3時間撹拌した後、塩化ベンゾイル(BC)(イハラニッケイ化学工業製)0.691gを投入して20分間撹拌し、酢酸(和光純薬工業製)6.16gを投入して20分間撹拌後、撹拌を停止した。静置後、二層に分かれた反応溶液の水層(下層)を静置分離し、ポリアリレート溶液(固形分濃度約16%、水分量0.2%)を得た。
【0038】
(実施例1)
合成例で得たポリアリレート溶液をトルエンで固形分濃度5%に希釈し、これを約120℃の油浴で固形分濃度が約7%になるまで加熱濃縮を行った。濃縮後の溶液中の水分量は60ppmであった。こうして得た溶液に、セライト(中国セライト公司製)7.5gを投入し、30分間撹拌した後、同じセライトをプレコートした濾過器で濾過し、透明な溶液を得た。この溶液を真空乾燥機で100℃、一晩乾燥し、ポリアリレート樹脂を得た。樹脂中のナトリウム量は20ppmであった。結果を表3に示す。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様に加熱濃縮を行い、得たポリアリレート溶液を、ダイレクトフィルトレーション用加圧タンク(アドバンテック製、DF−4)内に設置し、窒素で2.9MPaの圧力をかけることにより溶液を押し出し、カプセルカートリッジフィルター(アドバンテック製、CCP−FX−C1H)を通すことで濾過を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアリレート樹脂を得た。樹脂中のナトリウム量は35ppmであった。結果を表3に示す。
【0040】
(比較例1)
合成例で得たポリアリレート溶液を、いかなる操作も行うことなく、真空乾燥機で100℃、一晩乾燥し、ポリアリレート樹脂を得た。樹脂中のナトリウム量は870ppmであった。結果を表3に示す。
【0041】
(比較例2)
合成例で得たポリアリレート溶液に、0.8倍の重量の蒸留水を投入し、合成例で用いた装置を用いて20分間、200rpmで撹拌し、10分間静置後、分離した水層(下層)を除去した。この水洗操作を合計5回行って得たポリアリレート溶液を、真空乾燥機で100℃、一晩乾燥し、ポリアリレート樹脂を得た。樹脂中のナトリウム量は400ppmであった。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(工程1)から(工程3)を含み、かつ全工程を通じて水洗の工程を含まないことを特徴とするポリアリレートの製造方法。
(工程1)触媒存在下、芳香族ジオールを含有するアルカリ水溶液と芳香族ジカルボン酸クロライドを含有する炭化水素溶液を用いて界面重縮合させる工程
(工程2)(工程1)で得られた反応溶液から水溶液を除去し、ポリアリレート炭化水素溶液を得る工程
(工程3)(工程2)で得られたポリアリレート炭化水素溶液から、濃縮脱水及び濾過によって、不純物を除去する工程
【請求項2】
前記(工程1)に記載のアルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載のポリアリレートの製造方法。
【請求項3】
前記(工程1)に記載の芳香族ジオールのアルカリ水溶液に、水溶性化合物を添加することを特徴とする、請求項1及び2に記載のポリアリレートの製造方法。
【請求項4】
水溶性化合物が塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項3に記載のポリアリレートの製造方法。
【請求項5】
前記(工程1)に記載の炭化水素溶液が、芳香族炭化水素溶液であることを特徴とする、請求項1から4に記載のポリアリレートの製造方法。
【請求項6】
前記(工程1)に記載の炭化水素溶液が、トルエン溶液であることを特徴とする、請求項1から5に記載のポリアリレートの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6に記載の方法で製造されたポリアリレート。
【請求項8】
塩化ナトリウム含有量が50ppm以下であることを特徴とする、請求項7記載のポリアリレート。
【請求項9】
請求項7及び8に記載のポリアリレートを含んでなることを特徴とする積層体。
【請求項10】
請求項9に記載の積層体を用いてなることを特徴とする光学補償部材。
【請求項11】
請求項10に記載の光学補償部材を有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−195947(P2010−195947A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43398(P2009−43398)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】