説明

ポリアリレート樹脂、ポリアリレート樹脂組成物および該ポリアリレート樹脂組成物からなる成形体

【課題】耐衝撃性、耐熱性を維持しつつ、成形性、難燃性に優れるポリアリレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリアリレート樹脂は、ビスフェノールA残基、テトラブロモビスフェノールA残基およびフタル酸残基から構成され、ビスフェノールA残基とテトラブロモビスフェノールA残基のモル比が9/1〜4/6の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐熱性を維持しつつ、難燃性に優れるポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二価フェノール類とテレフタル酸及び/又はイソフタル酸とからなるポリアリレート樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして既によく知られている。該ポリアリレート樹脂は耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れ、加えて透明であるので、その成形品は電気・電気機器、自動車、機械などの分野に幅広く使用されている。
【0003】
上記の電気・電子機器の分野では、安全上の要求を満たすため、高度な難燃性が要求される部品が少なくない。具体的には、UL94燃焼性試験において、V−0やV−1相当の高い難燃性がプラスチック材料に求められる場合が多い。従来から、ポリアリレート樹脂は、自己消化性を有するプラスチック材料として用いられてきたが、電気、電子機器分野における高い難燃性の要求に対しては十分とは言えなかった。
【0004】
上記の問題を解決するため、ポリアリレート樹脂に難燃性を付与する方法が知られている。かかる方法としては、例えば、ポリアリレート樹脂に臭素を直接反応させて難燃性を付与する方法(特許文献1)が知られている。しかしながら、この場合は、臭素を反応させる工程および設備(すなわち、ポリアリレート樹脂を一旦溶剤に溶解させた後、臭素または塩化臭素などの試薬と反応させる工程および設備)が必要であったため、コスト面において工業的に生産が困難である場合があった。また、この方法では、ポリアリレートを臭素化させる割合を一定にすることが難しく、得られた臭素化ポリアリレートの難燃性にバラツキが大きくなる傾向にあった。
【0005】
また、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物中に臭素化ポリカーボネートオリゴマーを溶融混練することにより難燃性を付与する方法(特許文献2)が知られている。しかしながら、この場合は、難燃性を付与するために、ある程度多量に臭素化ポリカーボネートオリゴマーを添加することが必要であった。それにより得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐衝撃性などの機械特性および熱特性が低下する傾向にあった。
【0006】
また、ポリアリレート樹脂に難燃剤を配合することにより、難燃性を付与することは従来公知の方法である。難燃剤としては、リン酸エステルなどのリン化合物;水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機金属水和物;メラミン、メラミンシアヌレートなどの窒素化合物;ポリオルガノシロキサンなどのシリコン系化合物;ガラス繊維やタルクなどの無機充填剤が検討されている。
【0007】
難燃剤としてリン化合物を用いる際には、ポリアリレート樹脂の混合温度(例えば、300℃以上)において熱分解が発生するため、ポリアリレート樹脂中に安定して存在することができず、得られたポリアリレート樹脂組成物は十分な難燃性を有していない場合がある。
【0008】
また、難燃剤として無機金属水和物を用いる際には、実用に耐えうる難燃性を付与するためには該無機金属水和物を多量に添加する必要があるため、ポリアリレート樹脂の特長の一つである透明性を著しく損ねる結果となる。そのため、ポリアリレート樹脂の商品価値が低下するという問題がある。また、無機充填剤を多量に添加することで、耐衝撃性が著しく低下するという問題点がある。
【0009】
また、難燃剤として窒素化合物を用いる場合には、耐熱性が低下するという問題があった。
また、難燃剤としてシリコン系化合物を用いる場合には、ポリアリレート樹脂とシリコン系化合物の相溶性が悪いため、安定して難燃性を発現する添加量まで混練することができないという問題があった。
【0010】
また、難燃剤として無機充填剤を用いた場合には、無機充填剤を多量に添加することで、耐衝撃性が著しく低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−163338号公報
【特許文献2】特開平10−158491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解決し、耐衝撃性、耐熱性を維持しつつ、難燃性に優れたポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。また、該ポリアリレート樹脂を用いたポリアリレート樹脂組成物および該ポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、ビスフェノールA残基、フタル酸残基、テトラブロモビスフェノールAを共重合することで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)ビスフェノールA残基、テトラブロモビスフェノールA残基およびフタル酸残基から構成され下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。
【0015】
【化1】

なお、上記式(I)において、m/n=9/1〜4/6である。
(2)インへレント粘度が0.50〜1.00dl/gであり、かつ荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度が185〜225℃であることを特徴とする(1)のポリアリレート樹脂(A)。
(3)(1)又は(2)のポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを、質量比で(A)/(B)=100/0〜30/70で配合することを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
(4)(3)のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐衝撃性、耐熱性を維持しつつ、難燃性に優れたポリアリレート樹脂を提供することができる。また、該ポリアリレート樹脂を用いたポリアリレート樹脂組成物および該ポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアリレート樹脂は、ビスフェノールA[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン]残基、テトラブロモビスフェノールA[2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン]残基およびフタル酸残基から構成されており、下記式(I)で示される芳香族ポリエステルである。
【0018】
【化2】

ビスフェノールAは安価な化合物であり、ポリアリレート樹脂としたときの耐衝撃性に優れるという利点がある。
【0019】
テトラブロモビスフェノールAは、ビスフェノールAのフェノール構造におけるオルト位の置換基が臭素である。そのため、ビスフェノールAの特性を維持しながら、ポリアリレート樹脂の難燃性を向上させることができるという利点がある。
【0020】
ビスフェノールAのフェノール構造におけるオルト位の置換基が、臭素以外のハロゲンである場合は、難燃性付与ということでは効果は認められるが、重合性が低下するという問題がある。また、ビスフェノールAのフェノール構造におけるメタ位やパラ位に、臭素が置換した場合は、重合性には問題ないが、出来たポリアリレートが熱分解しやすくなり、溶融混練時に分子量が低下するという問題がある。
【0021】
ビスフェノールAとテトラブロモビスフェノールAの共重合比率としては、ビスフェノールAのモル数をm、テトラブロモビスフェノールAのモル数をnとして、m/n=9/1〜4/6であることが必要であり、好ましくはm/n=8/2〜5/5であり、より好ましくは、m/n=8/2〜6/4である。nが1未満であると(つまり、テトラブロモビスフェノールAの比率が1未満であると)、得られたポリアリレート樹脂の難燃性が劣るという問題がある。一方、nが6を超えると(つまり、テトラブロモビスフェノールAの比率が6を超えると)、難燃性向上効果が飽和するだけではなく、得られたポリアリレート樹脂の荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度が225℃を超えるものとなり、後述のポリカーボネート樹脂と混合する場合の加工温度が350℃以上の高温となるため熱分解が著しく発生し、得られたポリアリレート樹脂組成物の粘度が大きく低下し、耐衝撃性が低下するため実用上問題である。
【0022】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAの一部を、その他の二価アルコール類で置き換えてもよい。その他の二価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0023】
本発明のポリアリレート樹脂を構成するフタル酸残基を得るためのフタル酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、またはこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、本発明の構造を有するポリアリレート樹脂を合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物を用いることが好ましい。
【0024】
テレフタル酸とイソフタル酸の混合比率は、性能バランスの観点から、モル比で、テレフタル酸/イソフタル酸=8/2〜2/8であることが好ましく、より好ましくは7/3〜3/7の範囲である。最も好ましいのは、両者の等モル混合物である。
【0025】
また、フタル酸の一部を、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の脂肪族ジカルボン酸類で置き換えてもよい。このような脂肪族ジカルボン酸としては、ジカルボキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ドデカン二酸などが挙げられる。
【0026】
本発明において、ポリアリレート樹脂を重合する方法は、界面重合法、溶液重合法、溶融重合法などが挙げられるが、中でも、界面重合法が好ましい。界面重合法によれば、溶液重合法や溶融重合法と比較して反応が速く、フタル酸成分を重合させるための原料であるフタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑えることができるため、高分子量のポリアリレート樹脂を容易に得ることができる。また、界面重合法は、得られる樹脂に、優れた粘度コントロール性、低不純物性、透明性を付与しうる重合法である。以下に、一般的な界面重合法によるポリアリレート樹脂の製造方法を詳述する。
【0027】
界面重合法は、二価フェノールをアルカリ水溶液に溶解させた水相と、ジカルボン酸成分を重合させるための原料であるジカルボン酸ハライドを水に不溶の有機溶媒に溶解させた有機相とを、触媒の存在下で混合することによっておこなわれる。この界面重合の方法は、W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399(1959)や、特公昭40−1959号公報などに記載されている。
【0028】
本発明における界面重合法について、以下により具体的に説明する。まず、上記水相としてビスフェノールAとテトラブロモビスフェノールAのアルカリ水溶液を調製し、次いで、重合触媒、さらに必要に応じて分子量調整剤(末端封止剤)を添加する。さらに、後述の有機相を調製するための溶媒に、フタル酸成分を重合させるための原料であるフタル酸ハライドを混合して、有機相を調製する。その後、水相の溶液に有機相の溶液を混合し、25℃以下で1〜5時間攪拌しながら界面重合反応を行うことによって、高分子量のポリアリレート樹脂を得ることができる。
【0029】
上記のフタル酸ハライドは、特に限定されないが、本発明の構造を有するポリアリレートを合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、フタル酸クロライドを用いることが好ましい。
【0030】
アルカリ水溶液を調製するためのアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なかでも、経済的に有利な点および廃液処理の容易な点から水酸化ナトリウムが好ましい。
【0031】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩;トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。なかでも、反応速度が速く、フタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑える観点から、トリブチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0032】
分子量調整剤としては、1官能の化合物が挙げられ、具体的には、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノールなどが例示される。なかでも、取扱性の点から、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。なお、分子量調整剤は、ポリアリレート樹脂の重合時に添加されるものである。
【0033】
有機相を得るための溶媒としては、水と相溶せず、かつポリアリレート樹脂を溶解する溶媒が挙げられる。具体的には、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶媒;テトラヒドロフランなどが例示され、なかでも、非引火性で製造設備を防爆仕様にしなくても取扱性が良好である点から、ジクロロメタンが好ましい。上記の溶媒に、フタル酸ハライドを溶解させ、この有機相の溶液を前述の水相の溶液に混合し、25℃以下の温度で、1〜5時間攪拌しながら界面重縮合反応を行うことによって、高分子量のポリアリレート樹脂を得ることができる。
【0034】
本発明のポリアリレート樹脂のインへレント粘度(ηinh)は、0.50〜1.00dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.50〜0.90dl/gである、さらに好ましくは0.50〜0.80dl/gである。インへレント粘度が0.5dl/g未満であると、ポリアリレート樹脂の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00dl/gを超えると、溶融粘度が非常に高くなり、成形体を得るために射出成形および押出成形に付した場合に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。
【0035】
本発明において、インへレント粘度を上述の範囲に制御するためには、重量平均分子量を45,000〜110,000の範囲とすればよい。分子量を制御する方法としては、分子量調整剤を添加する方法などが挙げられる。
【0036】
本発明のポリアリレート樹脂の荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度は、185〜220℃であることが好ましい。より好ましくは190〜215℃であり、さらに好ましくは195〜210℃である。荷重たわみ温度が185℃より低いと耐熱性に劣る場合があり、一方、荷重たわみ温度が220℃より高いと成形加工性に劣り、熱分解が生じる場合がある。
【0037】
本発明のポリアリレート樹脂は、ポリカーボネート樹脂と混合し、ポリアリレート樹脂組成物としてもよい。ポリカーボネート樹脂は前記ポリアリレート樹脂と類似のビスフェノール類残基単位を有するため、ポリアリレート樹脂に対して良好な相溶性を示すため好ましい。
【0038】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂としては、下記一般式(II)に示されるポリカーボネートであることが好ましい。
【0039】
【化3】

なお、上記式(II)中のR〜Rは水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。また、lは、ポリアリレートと溶融混練する場合に、適度な粘度範囲にできるという加工性の観点から、30〜50程度であることが好ましい。
【0040】
上記式(II)で示されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノール残基とカーボネート残基から構成されているポリ炭酸エステル樹脂である。
ポリカーボネート樹脂を構成するためのビスフェノール類残基単位を導入するビスフェノール類としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4‘−ジチオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3'−ジクロロジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。これらの化合物中でも、物性バランスに優れ、ポリアリレート樹脂との相溶性にも優れる観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好ましい。
【0041】
本発明のポリカーボネート樹脂のインへレント粘度(ηinh)は、0.40〜1.00dl/gであることが好ましく、より好ましくは、0.40〜0.80dl/gである。インへレント粘度が0.40dl/g未満であると、ポリアリレート樹脂と混合させて樹脂組成物としたときに、ポリアリレート樹脂の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00dl/gを超えると、溶融粘度が非常に高くなり、射出成形および押出成形の際に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の相溶性のためには、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂のインヘレント粘度の差は小さい方がよく、例えば、その差は0.1〜0.2dl/gであることが好ましい。インヘレント粘度の差が小さく、十分に相溶化された本発明のポリアリレート樹脂組成物は、より高い耐衝撃性を得ることができる。
本発明のポリアリレート樹脂組成物は、耐衝撃性と耐熱性、難燃性のバランスを取るために、シャルピー衝撃値が20kJ/m以上であって、かつ荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度が150〜200℃、難燃レベルV−1以上であることが好ましい。さらには、シャルピー衝撃値が25kJ/m以上であって、かつ荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度が160〜190℃、難燃レベルV−0以上であることがより好ましい。そのためには、下記ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合割合でポリアリレート樹脂組成物を得ることが好ましい。
【0042】
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合割合としては、質量比で、(ポリアリレート樹脂)/(ポリカーボネート樹脂)=100/0〜30/70であることが好ましく、さらに好ましくは90/10〜40/60であり、特に好ましくは90/10〜50/50の範囲である。上記混合割合が30/70を下回ると、得られるポリアリレート樹脂組成物の耐熱性が低く、成形体とした時に熱変形しやすくなる場合がある。
【0043】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物は、任意の方法で各種成形体に成形することができる。成形方法は特に制限されず、通常の射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、溶融キャスティング法などが用いられる。上記の中でも、本発明の耐熱性、耐衝撃性、難燃性に優れたポリアリート樹脂組成物の特性を、十分に生かして加工出来るため、射出成形法により成形することが好ましい。射出成形における成形条件としては、特に限定されないが、シリンダー温度が300〜340℃、金型温度が80〜120℃であることが好ましい。
【0044】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物には、成形体としたときの耐熱変色性をさらに向上させる観点から、ヒンダードアミン系光安定剤を含有させてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量としては、特に制限されず、適宜の量を用いることができる。
【0045】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物には、成形品の耐熱変色性が低下しない範囲内で、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0046】
このようにして得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性、難燃性が要求される分野で特に好適に用いられる。
ポリアリレート樹脂を成形してなる成形体の具体例としては、薄型テレビ、パソコン、携帯電話、モバイル機器等のディスプレー周り、筐体等の電化製品用樹脂部品、ヘッドライトカバー、ランプカバー、リフレクター等の自動車用外装樹脂部品、インストルメントパネル周りの各種照明、表示灯、警告灯のほか、天井、足周り、ドアサイドの室内灯等の自動車用内装樹脂部品が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
1.原料
(1)フタル酸ハライド
・テレフタル酸クロライド(TPC)(イハラニッケイ化学工業社製、「テレフタロイルクロライド」)
・イソフタル酸クロライド(IPC)(イハラニッケイ化学工業社製、「イソフタロイルクロライド」)
(2)脂肪族カルボン酸ハライド
・シクロヘキサンジカルボン酸クロライド(CHDC)
(3)ビスフェノールA(BPA)
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(三井化学社製)
(4)テトラブロモビスフェノールA(TBA)
・2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン(東ソー社製、「フレームカット120G」)
(5)テトラフロロビスフェノールA(TFA)
(6)ヘキサブロモビスフェノールA(HBA)
・2,2−(4−ヒドロキシ−2,3,5−ジブロモフェニル)プロパン
(7)ビスフェノールAP(BPAP)
・1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(本州化学工業社製、「BisP−AP」)
(8)ポリカーボネート樹脂
・B−1:(住友ダウ社製、「カリバー200−3」)(インヘレント粘度0.639dl/g)
・B−2:(住友ダウ社製、「カリバー200−13」)(インヘレント粘度0.492dl/g)
・B−3:(住友ダウ社製、「カリバー200−30」)(インヘレント粘度0.440dl/g)
2.試験方法
実施例中の各種の特性値については以下のようにして測定、評価を行った。
(1)インへレント粘度
1,1,2,2−テトラクロロエタンを溶媒とし、該溶媒中に実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂を濃度1g/dlで溶解させて溶液を得た。温度25℃の条件で、溶媒の粘度[η]および溶液の粘度[η]を測定し、下記式によりインヘレント粘度を算出した。
(インヘレント粘度)=η/η
(2)荷重たわみ温度
射出成形機(東芝機械社製、「EC100N型」)を用いて、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 75−1に準拠して、荷重1.8MPaでの荷重たわみ温度を測定した。
(3)耐衝撃性(シャルピー衝撃値)
上述の射出成形機を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 179−1に準拠して測定した。本発明においては、シャルピー衝撃値が5kJ/mであるものを実用に耐えうるものとした。
(4)難燃性
上述の射出成形機を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から、厚み0.8mm、長さ125mm、幅12mmの短冊型試験片を成形した後、UL94難燃性試験に従い評価を実施した。すなわち、試験片を垂直に保持し、バーナーの炎を10秒間に2回接炎した後の、それぞれの残炎時間とドリップ性により難燃性を評価し、表1に示すように分類した。本発明においては、V−1レベル以上であるものが実用に耐えうるものであり、V−0レベルであるものがより好ましいものである。
【0048】
【表1】

(製造例1)
攪拌容器を備えた反応容器中に、ビスフェノールAを14.82kg(65モル)、テトラブロモビスフェノールAを3.81kg(7モル)、分子量調整剤としてp−tert−ブチルフェノール(DIC社製)765g(5モル)、アルカリとして水酸化ナトリウム(東ソー社製)6.84kg(171モル)、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(ライオンアクゾ社製、「BTBAC−50」)153g、ハイドロサルファイトナトリウム(BASF社製)118gを注入し、さらに反応容器中に水590Lを注入して溶解し、水相とした。
【0049】
さらに、別の反応容器中で、ジクロロメタン(トクヤマ社製、「メチレンクロライド」)347Lに、イソフタル酸クロライドとテレフタル酸クロライドの等量混合物であるフタル酸クロライド(モル比=50:50)15.26kg(75モル)を溶解し、有機相とした。この有機相を、既に攪拌している水相溶液中に強攪拌下で添加し、温度を15℃に保って2時間重合反応を行った。この後、攪拌を停止し、デカンテーションにより水相と有機相を分離した。水相を除去した有機相に、純水1200Lと酢酸100mLを添加して反応を停止し、さらに15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄し、該有機相をヘキサン1000L中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを有機相から分離し、次いで120℃で1日間乾燥させて、ポリアリレート樹脂(A−1)を得た。得られたポリアリレート樹脂(A−1)について1H−NMR(日本電子社製、「ECA500 NMR」)を用いて組成分析を行ったところ、ビスフェノールA成分、テトラブロモビスフェノールA成分、フタル酸成分の重合比率は、仕込み比率(混合比率)と同一であることが確認された。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

(製造例2)
p−tert−ブチルフェノールの配合を459g(3モル)とした以外は、製造例1と同様にして、ポリアリレート樹脂(A−2)を得て、各分析を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
(製造例3)
p−tert−ブチルフェノールの配合を306g(2モル)とした以外は、製造例1と同様にして、ポリアリレート樹脂(A−2)を得て、各分析を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
(製造例4〜16)
表2に示す組成に従い、製造例1と同様にして、ポリアリレート樹脂(A−4)〜(A−16)を得た。評価結果を表2に示す。
【0053】
(実施例1)
製造例1で得られたポリアリレート樹脂(A−1)を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度300〜340℃、金型温度100℃にて、厚み4mm、長さ10mm、幅80mmの試験片を作製し、耐衝撃性および耐熱性、難燃性の評価に付した。その評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

(実施例2〜8)
表3に示すように、ポリアリレート樹脂の種類を変えた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表3に示す。
(実施例9)
二軸押出機(東芝機械社製、「TEM−41SS型」)を用いて、製造例1で得られたポリアリレート樹脂(A−1)とポリカーボネート樹脂(B−2)を、(A−1)/(B−2)=80/20(質量比)の混合比率で、シリンダー温度300〜340℃、スクリュー回転300rpm、吐出量50kg/hの条件で溶融混練を行った。その後、ストランド状に押し出して、冷却した後、カッティングして、ポリアリレート樹脂組成物ペレットを得た。得られたポリアリレート樹脂組成物を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度300〜340℃、金型温度100℃にて、厚み4mm、長さ10mm、幅80mmの試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

(実施例10〜21)
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合比率を変えた以外は、実施例9と同様にして試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表4に示す。
(比較例1〜13)
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合比率を変えた以外は、実施例9と同様にして試験片を作製し、評価に付した。その評価結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

実施例1〜21で得られたポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物は、耐衝撃性、耐熱性、難燃性のいずれにおいても優れていた。
【0057】
比較例1は、テトラブロモビスフェノールAの共重合比率が低いため、得られたポリアリレート樹脂は、耐熱性に劣るものであった。
比較例2は、テトラブロモビスフェノールAを用いなかったため、得られたポリアリレート樹脂は、耐熱性および難燃性に劣るものであった。
【0058】
比較例3は、テトラブロモビスフェノールAの共重合比率が高いため、混合および射出成形時の加工温度が高く、熱分解が生じ、得られたポリアリレート樹脂は、耐衝撃性に劣っていた。
【0059】
比較例4は、ビスフェノールAを用いなかったため、得られたポリアリレート樹脂は、荷重たわみ温度が225℃よりも高くなり、混合および射出成形時の加工温度が高く、熱分解が生じたため、耐衝撃性に劣っていた。
【0060】
比較例5は、実施例6で用いたテトラブロモビスフェノールAに替えて、テトラフロロビスフェノールAを用いたため、得られたポリアリレート樹脂は、耐熱性に劣っていた。
比較例6は、実施例6で用いたテトラブロモビスフェノールAに替えて、ヘキサブロモビスフェノールAを用いたため、得られたポリアリレート樹脂は、熱分解しやすく、溶融混練時に分子量低下を起こし、耐衝撃性に劣っていた。
【0061】
比較例7は、実施例6で用いたフタル酸に替えてシクロヘキサンジカルボン酸クロライドを用いたため、重合性に劣り、耐衝撃性、耐熱性、難燃性ともに劣っていた。
比較例8は、テトラブロモビスフェノールAとビスフェノールAPを共重合して用いたために、得られたポリアリレート樹脂は、荷重たわみ温度が225℃よりも高くなり、耐衝撃性に劣っていた。
【0062】
比較例9は、テトラブロモビスフェノールAの共重合比率が低いポリアリレート樹脂を用いたため、得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐熱性に劣っていた。
比較例10は、テトラブロモビスフェノールAを配合しないポリアリレート樹脂を用いたため、得られたポリアリレート樹脂組成物は、難燃性に劣るものであった。
【0063】
比較例11は、テトラブロモビスフェノールAの共重合比率が高いポリアリレート樹脂を用いたため、混合および射出成形時の加工温度が高く、熱分解が生じ、得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐衝撃性に劣っていた。
【0064】
比較例12は、ビスフェノールAを配合しないポリアリレート樹脂を用いたため、混合および射出成形時の加工温度が高く、熱分解が生じ、得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐衝撃性に劣っていた。
【0065】
比較例13は、テトラブロモビスフェノールAとビスフェノールAPを共重合したポリアリレート樹脂を用いため、得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐衝撃性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールA残基、テトラブロモビスフェノールA残基およびフタル酸残基から構成され下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。
【化1】

なお、上記式(I)において、m/n=9/1〜4/6である。
【請求項2】
インへレント粘度が0.50〜1.00dl/gであり、かつ荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度が185〜225℃であることを特徴とする請求項1記載のポリアリレート樹脂(A)。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを、質量比で(A)/(B)=100/0〜30/70で配合することを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−132320(P2011−132320A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291617(P2009−291617)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】