説明

ポリアリーレンスルフィド、組成物および光学素子

【課題】高屈折率かつ高透明性で、しかもプロセス適合性に優れており、光学素子用途に好適なポリアリーレンスルフィドを提供すること。
【解決手段】フルオレン骨格を有するポリアリーレンスルフィド、特に下記式(1)で表される繰り返し単位を全繰り返し単位の10%以上有し、さらに好ましくは、構造中にチアントレン環を有するポリアリーレンスルフィド。


[式(1)において、Rmはアリーレン基を表し、Rnは、それぞれ独立にアリール基または炭素数1〜4のアルキル基を表し、aはそれぞれ独立に0〜4の数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド、組成物および光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
CCDまたはCMOSイメージセンサーといった光学部品に高屈折材料が求められている。このような用途に用いる材料として硫黄原子を含有するポリイミドやチタニアを含有する材料が提案されている。
【0003】
一方、硫黄原子を高い含有率で有するポリマーは高屈折率で加工が容易であることが期待され、例えば、非特許文献1には硫黄原子を高含率で有する非晶性ポリフェニレンスルフィドが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2009, 47, 2453.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、硫黄原子を含有するポリイミドやチタニアを含有する材料では、透明性は確保できるが、硫黄原子を含有するポリイミドでは屈折率が1.7(633nm)未満となりやすく、光学部品の材質としては不十分であった。また、チタニアを含有する材料は、アッシングやエッチングといった加工が困難であるために、光学部品の材料としての使用には制限があった。
【0006】
一方、非特許文献1に開示されるようなポリフェニレンスルフィドは、屈折率は期待できるが、結晶性を有するため、該結晶による散乱等が生じて、光学部材としたときに、透明性が不十分となる場合があった。また、ポリフェニレンスルフィドは、特殊な溶媒にしか溶解しないため、スピンコート工程などの溶液工程を必須とするような光学部材の製造には、使用が困難であるという問題もあった。
【0007】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、屈折率および透明性が良好で、プロセス適合性の良好な、ポリアリーレンスルフィドを提供することにある。
【0008】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、屈折率および透明性が高い光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明にかかるポリアリーレンスルフィドの一態様は、
フルオレン骨格を有することを特徴とする。
【0011】
[適用例2]
適用例1において、
下記式(1)で表される構造を有することができる。
【0012】
【化1】

【0013】
[式(1)において、Rmはアリーレン基を表し、Rnは、それぞれ独立にアリール基または炭素数1〜4のアルキル基を表し、aはそれぞれ独立に0〜4の数を表す。]
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数は、全繰り返し単位の数の10%以上であることができる。
【0014】
[適用例4]
適用例ないし適用例3のいずれか一例において、
硫黄原子を10質量%以上含有することができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
波長633nmにおける屈折率が1.70以上であることができる。
【0016】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例において、
非晶性であって、ガラス転位温度が120℃以上であることができる。
【0017】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか一例において、
チアントレン環を有することができる。
【0018】
[適用例8]
本発明にかかる組成物の一態様は、
適用例1ないし適用例7のいずれか一例に記載のポリアリーレンスルフィドを含有する。
【0019】
[適用例9]
本発明にかかる光学素子の一態様は、
適用例8に記載の樹脂組成物を用いて得られる光学部材を具備する。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるポリアリーレンスルフィドは、屈折率および透明性が良好である。また、本発明にかかるポリアリーレンスルフィドは、溶剤への溶解性が高く、例えば、スピンコート工程といった溶液プロセスへの適合性が高い。さらに、本発明にかかるポリアリーレンスルフィドは、有機物で構成されるため、例えば、アッシング工程、エッチング工程といったプロセスでの残渣等を生じにくく、プロセス適合性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例にかかる化合物の赤外吸収スペクトル。
【図2】実施例にかかる化合物の赤外吸収スペクトル。
【図3】比較例にかかる化合物の赤外吸収スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。さらに、以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0023】
1.ポリアリーレンスルフィド
本実施形態にかかるポリアリーレンスルフィドは、フルオレン骨格を有する。なお、本発明において、ポリアリーレンスルフィドとは、芳香族ジチオール化合物と芳香族ジハロゲン化合物とが縮合して得られる重合体をいう。
【0024】
1.1.ポリアリーレンスルフィドの骨格
本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、アリーレン基がスルフィド結合(−S−)(チオエーテル結合)によって連鎖した構造を有するものである。すなわち、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、下記式(1)で表される構造を有している。
【0025】
【化2】

【0026】
(上記式(1)中、Rmは、アリーレン基を表し、Rnは、それぞれ独立にアリール基または炭素数1〜4のアルキル基を表し、aはそれぞれ独立に0〜4の数を表す。)(上記式(1)中、アスタリスクは、結合していることを表す。)
【0027】
アリーレンとは、欧文表記のaryleneに相当する。また、アリーレン基とは、芳香環に結合する水素原子が2個離脱して生じる基のことを指している。この芳香環としては、例えば、ベンゼン環等の単環炭化水素、ナフタレン環、アントラセン環、インデン環、ビフェニレン環、フルオレン環、フェナントレン環、ピレン環等の縮合多環炭化水素、およびこれらの環の環員が、硫黄、窒素等によって単数または複数置換された複素環を挙げることができる。さらに、本実施形態では、上記芳香環は、該芳香環の全体が共役系を構成していなくてもよく、また、多環系環集合を構成していてもよい。さらには、本実施形態では、上記芳香環は、複数の上記芳香環が、単数または複数のメチレン結合、エーテル結合、スルフィド結合、スルホニル結合等によって互いに結合された構造であってもよい。
【0028】
本実施形態のポリアリーレンスルフィドのアリーレン基のより具体的な例としては、チアントレン、ジフェニルスルホン、チオビスベンゼン、9,9−ビスフェニルフルオレン等の芳香環から、水素原子が2個離脱して生じた基を挙げることができる。
【0029】
ポリアリーレンスルフィドの分子量は、3,000以上10,000以下程度が好ましい。ポリアリーレンスルフィドの分子量がこの範囲にあれば、例えば、溶剤に対する溶解性が損なわれにくく、基板への塗布性や基板に設けられた凹凸形状に対する追随性を確保できるため取り扱いを容易化することができる。
【0030】
1.2.硫黄原子の含有量
本実施形態にかかるポリアリーレンスルフィドは、硫黄原子を10質量%以上含有することが好ましい。ポリアリーレンスルフィドが、硫黄原子を10質量%以上含有するとは、ポリアリーレンスルフィドの全体の質量に対する硫黄原子の質量が、10%以上であることを指している。ポリアリーレンスルフィドにおける硫黄原子の含有量は、例えば、繰り返し単位の化学構造から算出することができる。また、ポリアリーレンスルフィドにおける硫黄原子の含有量は、一般的な元素分析によっても測定することができる。
【0031】
硫黄原子を10質量%以上含有することによる効果の一つとしては、ポリアリーレンスルフィドの屈折率を高めることが挙げられる。また、ポリアリーレンスルフィドの屈折率を高める観点からは、ポリアリーレンスルフィドの全体の質量に対する硫黄原子の質量は、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
【0032】
1.3.繰り返し単位
本実施形態のポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位とは、主鎖のスルフィド結合(チオエーテル結合)によって繰り返される単位のことであって、「−R−S−R−S−」の型式で表記されうる。ここでRおよびRは、それぞれ前述のアリーレン基に相当する。さらには、Rは、芳香族ジチオール化合物のチオール基を除いた構造に相当し、Rは芳香族ジハロゲン化合物のハロゲンを除いた構造に相当する。すなわち、RおよびRはそれぞれ、芳香環に結合する水素原子が2個離脱して生じる基のことを指し、芳香環としては、例えば、ベンゼン環等の単環炭化水素、ナフタレン環、アントラセン環、インデン環、ビフェニレン環、フルオレン環、フェナントレン環、ピレン環等の縮合多環炭化水素、およびこれらの環の環員が、硫黄、窒素等によって単数または複数置換された複素環を挙げることができる。さらに、本実施形態では、上記芳香環は、該芳香環の全体が共役系を構成していなくてもよく、また、多環系環集合を構成していてもよい。さらには、本実施形態では、上記芳香環は、複数の上記芳香環が、単数または複数のメチレン結合、エーテル結合、スルフィド結合、スルホニル結合等によって互いに結合された構造であってもよい。
【0033】
本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、繰り返し単位を、例えば、5〜1000有することができる。
【0034】
したがって、ポリアリーレンスルフィドは、複数の繰り返し単位のうち、フルオレン構造を有する繰り返し単位と、必要に応じてフルオレン構造を有さない繰り返し単位とを有する。
【0035】
本実施形態のポリアリーレンスルフィドにおいて、前記一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数は、全繰り返し単位の数の10%以上であることがより好ましい。このようにすれば、ポリアリーレンスルフィドの溶媒に対する溶解性をさらに向上させることができる。
【0036】
1.4.ポリアリーレンスルフィドの製造方法
以下に、本実施形態のポリアリーレンスルフィドの製造方法の例を述べる。
【0037】
本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、芳香族ジハロゲン化合物と芳香族ジチオール化合物との重縮合反応により得ることができる。
【0038】
芳香族ジハロゲン化合物としては、例えば、
2,7−ジフルオロチアントレン、
【0039】
【化3】

【0040】
2,7−ジクロロチアントレン、
【0041】
【化4】

【0042】
2,7−ジブロモチアントレン、
【0043】
【化5】

【0044】
および、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、
【0045】
【化6】

【0046】
等の化合物を使用することができる。
【0047】
芳香族ジチオール化合物としては、例えば、
チオビスベンゼンチオール、
【0048】
【化7】

【0049】
9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレン、
【0050】
【化8】

【0051】
および、2,7−ジメルカプトチアントレン、
【0052】
【化9】

【0053】
等の化合物を使用することができる。
【0054】
重縮合反応は、通常、塩基存在下で行うことができる。このとき使用できる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウム−t−ブトキシド、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0055】
重縮合反応の反応溶媒としては、反応後のポリマーが溶解すれば特に制限されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン(CHN)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメトキシアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2−(2−メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ピロリン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、γ−ブチロラクトン(GBL)、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール酸、p−クロロフェノール、アニソール、ベンゼン、トルエン、キシレン等N,N−ジメチルプロピレン尿素、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で、または2種類以上の混合物として用いられることができる。
【0056】
また、必要に応じて、チオールと塩基の反応によって生じる水やアルコールを除去するための共沸溶媒を添加することができ、このような共沸溶媒としては、例えば、ベンゼンやトルエン等が好ましい。
【0057】
重縮合反応におけるモノマーの濃度としては、5%〜40%が好ましく、さらに好ましくは10%〜30%である。また、重縮合反応における反応温度としては、50℃〜250℃が好ましく、さらに好ましくは80℃〜200℃である。また、重縮合反応の反応時間としては、1時間〜20時間が好ましく、さらに好ましくは2〜10時間である。
【0058】
本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、例えば、上記例示した方法により合成することができる。
【0059】
1.5.作用効果等
本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、硫黄原子を含有し、フルオレン骨格を有することにより、高屈折率かつ透明性が良好である。また、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、溶剤への溶解性が高く、例えば、スピンコート工程といった溶液プロセスへの適合性が高い。さらに、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、有機物で構成されるため、例えば、アッシング工程、エッチング工程といったプロセスでの残渣等を生じにくく、プロセス適合性が高い。なお、本実施形態のポリアリーレンスルフィドの溶解性が高い理由は、現時点では定かではないが、フルオレン骨格を有することが一因となっていると推定される。
【0060】
1.6.ポリアリーレンスルフィドの用途等
本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、例えば、光学素子等に適用することができる。すなわち、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、高屈折率を有するため、光導波路部等の部材に好適である。また、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、上述の通り、溶剤に溶解しやすい性質を有する。そのため、本実施形態のポリアリーレンスルフィドが溶媒に溶解した状態の組成物は、光導波路部等の部材を形成するときにスピンコート法やエッチング法等のウエットプロセスに適している。
【0061】
さらに、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、単独で用いること以外にも、他の物質と混合するなどした組成物として用いることができる。例えば、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、他のポリマーとブレンドすることにより、該他のポリマーに対して高屈折率とする性質を付与したり、ポリアリーレンスルフィドに、該他のポリマーが有する性質を付加したりすることができる。また、このような混合において、本実施形態のポリアリーレンスルフィドは、溶剤への溶解性が良好であるため、溶液ブレンド等の方法を採用することができ、より均一な組成物を形成することができる。
【0062】
1.7.組成物
本発明のポリアリーレンスルフィドを用いて、組成物を製造することができる。具体的には、本発明のポリアリーレンスルフィドを、前記重縮合反応の反応溶媒として例示した有機溶剤から選ばれる1種以上の溶剤に溶解させることで、組成物が得られる。さらに、本実施の形態の組成物は各種基材に塗布されるため、塗布性を向上させるために界面活性剤を配合してもよいし、塗膜の強度を上げるために架橋剤を配合させてもよい。
【0063】
2.実施例および比較例
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例においては、特に断りのない限り、「%」、「部」はそれぞれ、「質量%」、「質量部」を意味する。
【0064】
2.1.モノマーの合成
実施例および比較例のポリアリーレンスルフィドを合成するための各種のモノマーを以下のように合成した。
【0065】
2,7−ジフルオロチアントレンの合成:p−フルオロチオフェノール50gに発煙硫酸(25%)290mlを加え、室温で20時間反応を行った。反応混合物を500mlの氷水中に入れた後、塩化メチレンで抽出を行った。塩化メチレン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後濃縮して目的物を含む粗体40gを得た。この粗体に酢酸500mlおよび粉末亜鉛10gを加え還流条件で18時間反応を行った。粉末亜鉛をろ別し、ろ液を500mlの水中に投入し目的物を析出させた。目的物をろ過により回収しエタノールで再結晶し下記式で表される2,7−ジフルオロチアントレン30gを得た。
【0066】
【化10】

【0067】
9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレンの合成:冷却したメタノール320gに水酸化カリウム21.65g(0.39mol)を溶解した。この溶液に9,9−ビス(4−フェノキシ)フルオレン59.47g(0.17mol)を加え、続いてN,N−ジメチルチオカルバモイルクロライド48g(0.39mol)を加え60℃に昇温して3時間反応を行った。反応溶液を冷却した後、析出した固体をろ過により回収しメタノール/水の混合溶液(50/50(体積比))400mlで洗浄した。得られた固体をクロロホルム400mlに溶解し、水400mlで3回洗浄を行った。クロロホルム層を濃縮した後メタノール400mlに投入し析出物をろ過により分離し得られた固体を乾燥し下記式で表される9,9−ビス[4−(N,N−ジメチルチオカルバモイルオキシ)フェニル]フルオレン77gを得た。
【0068】
【化11】

【0069】
そして、ビス(N,N−ジメチル−O−チオカーバメート)52gにジフェニルエーテル30gを加え窒素雰囲気下にて250℃で5時間反応させた。反応混合物を冷却した後メタノール500mlに加え、析出物をろ過により回収し乾燥することにより下記式で表される9,9−ビス[4−(N,N−ジメチルカルバモイルチオ)フェニル]フルオレン48gを得た。
【0070】
【化12】

【0071】
さらに、冷却したメタノール160gに水酸化カリウム50g(0.9mol)を溶解した後、ビス(N,N−ジメチル−S−カーバメート)47gおよびテトラヒドロフラン160gを加え、還流条件にて10時間反応させた。反応混合物を冷却した後、水2リットルに投入し濃塩酸をpH=5になるまで添加した。デカンテーションにより水層を分離し粘性のある析出物を得た。これをクロロホルム600mlに溶解し、水600mlで3回洗浄した。クロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮した。これをメタノール1.5リットルに投入し析出物をろ過により回収し乾燥した。得られた固体は下記式に示す9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレンであった。収量は28gであった。
【0072】
【化13】

【0073】
以上のように実施例および比較例のポリアリーレンスルフィドを合成するための原料化合物(モノマー)を得た。なお上述の、p−フルオロチオフェノール、発煙硫酸(25%)、塩化メチレン、無水硫酸マグネシウム、酢酸、粉末亜鉛、エタノール、メタノール、水酸化カリウム、N,N−ジメチルチオカルバモイルクロライド、クロロホルム、ジフェニルエーテル、およびテトラヒドロフランは、いずれも試薬として、市販品を入手して使用した。また、上述の水はイオン交換水を用いた。
【0074】
2.2.ポリアリーレンスルフィドの合成
<実施例1>
上記にて合成した2,7−ジフルオロチアントレン0.706g(2.8mmol)、チオビスベンゼンチオール0.526g(2.1mmol)、上記にて合成した9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレン0.268g(0.7mmol)、炭酸カリウム0.58g(4.2mmol)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(以下DMPUと略記する)4.3g、トルエン10gを計り取り、Dean−Starkトラップを取り付けた反応容器にて160℃で反応を行った。約2時間後、Dean−Starkトラップに発生した水およびトルエン約11mlが捕集された。その後、反応温度を180℃に昇温して6時間反応を継続した。反応混合物をDMPUで希釈し、酢酸酸性のメタノール中に沈殿させ、ろ過によりポリマーを回収した。得られたポリマーを水に入れ還流条件で1時間洗浄し、ろ過により回収した後に乾燥し実施例1のポリアリーレンスルフィド(以下PAS−1と略記する)を得た。ウベローデ粘度系を用い、DMPU中(濃度0.5g/dL)、30℃で測定した対数粘度は0.3dL/gであった。
【0075】
実施例1のPAS−1は、ジチオールに相当する(繰り返し)単位として、25mol%の9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレンを含有しており、前記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数は、全繰り返し単位の数の25%である。また、PAS−1の赤外吸収スペクトルを図1に示した。
【0076】
<実施例2>
モノマーとして2,7−ジフルオロチアントレン0.596g(2.4mmol)と9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレン0.904g(2.4mmol)を用い、炭酸カリウムを0.49g(3.5mmol)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン4.3g、トルエン10gを計り取り、Dean−Starkトラップを取り付けた反応容器にて160℃で反応を行った。約2時間後、Dean−Starkトラップに発生した水およびトルエン約11mlが捕集された。その後、反応温度を190℃に昇温して4時間反応を継続した。実施例1と同様にして精製を行い実施例2のポリアリーレンスルフィド(以下PAS−2と略記する)を得た。テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量はMw=6500、数平均分子量はMn=3300であった。ウベローデ粘度系を用い、DMPU中(濃度0.5g・dL)、30℃で測定した対数粘度は0.5dL/gであった。
【0077】
実施例2のPAS−2は、前記式(1)で表される構造のみで構成されており、前記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数は、全繰り返し単位の数の100%である。また、PAS−2の赤外吸収スペクトルを図2に示した。
【0078】
<比較例1>
モノマーとして2,7−ジフルオロチアントレン0.753g(3.0mmol)とチオビスベンゼンチオール0.747g(3.0mmol)を用い、炭酸カリウムを0.62g(4.5mmol)使用した以外は実施例1と同様にして比較例1のポリアリーレンスルフィド(以下PAS−3と略記する)を得た。ウベローデ粘度系を用い、DMPU中(濃度0.5g/dL)、30℃で測定した対数粘度は0.13dL/gであった。
【0079】
比較例1のPAS−3は、モノマー(繰り返し)単位として、9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレンを含有しておらず、前記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数は、全繰り返し単位の数の0%である。また、PAS−3の赤外吸収スペクトルを図3に示した。
【0080】
なお実施例1、2および比較例1のポリアリーレンスルフィドの合成に用いたチオビスベンゼンチオール、炭酸カリウム、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、およびトルエンは、いずれも試薬として、市販品を入手して使用した。また、水はイオン交換水を用いた。
【0081】
2.3.評価方法
<ポリアリーレンスルフィドの評価>
表1には、各例のポリアリーレンスルフィドの硫黄含有率(質量%)および全繰り返し単位の数に対する前記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数(%)をそれぞれ記載した。
【0082】
溶解性試験:ポリアリーレンスルフィドを20℃にて表1に示した溶媒に15%濃度となるように仕込み、溶解したものを○、一部溶解しないものを△、溶解しないものを×として評価した。なお、NMPは、N−メチルピロリドンを表している。
【0083】
【表1】

【0084】
また、ガラス転位温度(Tg)をDSCを用いて窒素下、昇温速度10℃/minで測定し、表1に記載した。
【0085】
<組成物の評価>
組成物の調製:DMPUまたはシクロヘキサノン(以下CHNと略記する)に、各例のポリアリーレンスルフィドと各種添加剤を合計した固形分の濃度が15%となるようにそれぞれ溶解し、ポリアリーレンスルフィド100質量部に対し、DC−190(東レ・ダウコーニング株式会社製)を0.2質量部添加した組成物を表2のとおり調製した。
【0086】
【表2】

【0087】
表2に記載された組成物(ポリアリーレンスルフィドの溶液)を用いて、塗布性の評価、屈折率の評価、および透明性の評価を行った。
【0088】
塗布性評価:表2に記載された各組成物をそれぞれシリコンウェハーにスピンコート法により塗布し、目視観察により表面凹凸がなければ○、やや凹凸があれば△、明確な凹凸があれば×とし、結果を表2に記載した。
【0089】
屈折率および膜厚の評価:表2に記載された組成物をそれぞれシリコンウェハーにスピンコート法により塗布し、これを120℃で1分間、250℃で5分間順次加熱乾燥させて評価試料とした。そしてプリズムカプラーにより25℃における波長633nmの屈折率と膜厚の平均値を求め、結果を表3に記載した。
【0090】
透明性評価:表2に記載された各組成物をそれぞれガラスウェハーにスピンコート法により塗布し、これを120℃で1分間、250℃で5分間順次加熱乾燥させて評価試料とした。そして紫外可視分光光度計を用い、グランテーラープリズムにより取り出したP偏光を入射光として、入射角をサンプルの屈折率から求めたブリュースター角として波長400nmの光線の透過率を測定し、結果を表2に記載した。なお、比較例1の組成物については、平滑性が不良であったため、透過率を測定することができなかった。
【0091】
イメージセンサーの導光路材として使用する場合の実用物性評価として埋め込み性の評価および薬品に対する耐性評価を行った。シリコンウェハー上に直径1μm、深さ3μmのホールが2μmピッチで無数に形成された基板を用い表2記載の組成物をスピンコート法により塗布し、これを120℃で1分間、250℃で5分間順次加熱乾燥させて評価試料とした。この基板をカットしてその断面を電界放射型走査電子顕微鏡により観察し、ボイド等の欠陥がなければ○、欠陥があれば×とした。また、この基板を2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)またはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)にそれぞれ5分間浸漬し剥離の有無を観察し剥離および膜減りがなければ○、剥離または膜減りがあれば×とした。
【0092】
2.4.評価結果
表1をみると、ポリアリーレンスルフィドがフルオレン構造を有することにより、溶媒に溶解しやすいことが判明した。また、全繰り返し単位の数に対する前記式(1)で表される繰り返し単位の数が大きくなると、溶解しうる溶媒の種類が増えることが判明した。また、全繰り返し単位の数に対する前記式(1)で表される繰り返し単位の数が大きくなると、Tgが高くなることが判明し、耐熱性も向上することがわかった。
【0093】
表2をみると、ポリアリーレンスルフィドがフルオレン構造を有することにより、1.7以上と、高い屈折率を維持したまま、塗布性が向上することが分かった。また、比較例1の組成物では塗布性が悪いために平滑な膜が得られず透明性が悪い結果(目視評価)であったが、前記式(1)で表される構造を含有するポリアリーレンスルフィドでは比較的平滑な膜が得られ高透過率であることが分かった。
【0094】
以上の結果から実施例のポリアリーレンスルフィドは高透明性、高屈折率、高耐熱性、高溶解性といった諸特性を兼ね備えることが判明した。
【0095】
更に本発明の組成物は添加剤の選択によってイメージセンサーの導光路材に求められるような微細な形状に対する追随性や耐薬品性にも優れる事が判明した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリアリーレンスルフィドは、例えば、CCDまたはCMOSイメージセンサーの導光路材、マイクロレンズ材、平坦化膜として利用可能である。さらに、有機ポリマーであるためアッシングやエッチング加工等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン骨格を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項2】
請求項1において、
下記式(1)で表される構造を有する、ポリアリーレンスルフィド。
【化1】

[式(1)において、Rmはアリーレン基を表し、Rnは、それぞれ独立にアリール基または炭素数1〜4のアルキル基を表し、aはそれぞれ独立に0〜4の数を表す。]
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記式(1)で表される構造を有する繰り返し単位の数は、全繰り返し単位の数の10%以上であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項4】
請求項ないし請求項3のいずれか一項において、
硫黄原子を10質量%以上含有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
波長633nmにおける屈折率が1.70以上であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
非晶性であって、ガラス転位温度が120℃以上であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
チアントレン環を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィドを含有する組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物を用いて得られる光学部材を具備する光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82339(P2012−82339A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230689(P2010−230689)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】