説明

ポリアリーレンスルフィドの製造方法及び洗浄方法、並びに洗浄に使用した有機溶媒の精製方法

ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合工程後、生成ポリマーを含有する反応液から分離したポリマーを有機溶媒により洗浄する洗浄工程を配置し、洗浄工程後、回収した有機溶媒を精製して、混入したアルカリ性化合物の含有量を低減させる精製工程と、精製した有機溶媒をポリアリーレンスルフィドの洗浄工程でリサイクル使用する工程からなる各工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの製造方法に関し、さらに詳しくは、有機アミド溶媒中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒で洗浄した後、有機溶媒を回収し、回収した有機溶媒中に含まれるメチルアミンなどのアルカリ性化合物の含有量を低減させて精製した有機溶媒を洗浄工程でリサイクル使用する工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
また、本発明は、重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドの洗浄方法に関する。さらに、本発明は、ポリアリーレンスルフィドの洗浄に使用した有機溶媒の精製方法に関する。
【背景技術】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記する)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と略記する)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であるため、電気・電子機器、自動車機器等の広範な分野において汎用されている。
PASの代表的な製造方法としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で、硫黄源であるアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させる方法が知られている。硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との組み合わせも使用されている。
有機アミド溶媒中での硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応により、反応液中には、生成PASと共に、NaClなどの副生塩、オリゴマー、重合助剤、分解生成物などが含有されている。反応液から粒状の生成ポリマーを篩分けにより分離し、水洗しても、これらの不純物を十分に除去することが困難である。そのため、多くの場合、後処理工程で、生成PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄する工程が配置されている。これらの洗浄用有機溶媒(以下、「洗浄溶媒」ということがある)の中でも、アセトンやメタノールは、低沸点で蒸留による回収が容易であること、洗浄力に優れていることなどから汎用されている。
これらの洗浄溶媒は、PAS製造における洗浄工程で繰り返し使用(リサイクル使用)されている。洗浄溶媒を繰り返し使用する場合、洗浄工程後、洗浄溶媒以外に多くの不純物や有機アミド溶媒などを含有する濾液などの液体成分を蒸留して、洗浄溶媒を回収している。
ところが、本発明者らは、アセトンなどの洗浄溶媒を洗浄工程で繰り返し使用(すなわち、「リサイクル使用」)すると、洗浄溶媒を蒸留によって精製し回収しただけでは、生成PASの品質に悪影響を及ぼす微量の不純物を十分に除去することができず、洗浄後のPASの物性に悪影響を及ぼすことを見出した。
具体的には、洗浄溶媒を繰り返し回収して洗浄工程で再使用すると、洗浄後のPASに着色が生じたり、ひどい場合には、PASの溶融粘度が低下することが判明した。その結果、洗浄溶媒をそれ以上繰り返し使用することができなくなる。
また、PASの結晶化温度(Tmc:「溶融結晶化温度」ともいう。)を上げるために、後処理工程でPASの酸または弱アルカリと強酸の塩(例えば、塩化アンモニウム)の水溶液や有機溶媒溶液での処理が行われているが、洗浄溶媒を繰り返し蒸留回収して洗浄工程でリサイクル使用すると、酸または塩処理の効果が低下し、結晶化温度が上昇しにくくなる。PASの結晶化温度が低下すると、射出成形のサイクルが長くなるなど成形作業の効率が低下する。
ところが、従来、PASの洗浄工程で使用する洗浄溶媒の精製に関する認識は低く、上記の如き問題を解決するための有効な手段は提案されていなかった。一方、重合工程で使用した有機アミド溶媒の精製に関しては、幾つか方法が提案されている。
従来、N−メチル−2−ピロリドン溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させて得られたPASのスラリーからN−メチル−2−ピロリドンを回収精製する方法として、N−メチル−2−ピロリドンを主成分とする液体に、少量のアルカリ金属水酸化物及び/またはアルカリ金属炭酸塩を添加してから蒸留する方法が提案されている(例えば、特開平11−349566号公報)。
また、N−メチル−2−ピロリドン溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させて得られたPASのスラリーからN−メチル−2−ピロリドンを回収精製する方法として、N−メチル−2−ピロリドンを主成分とする液体に、少量のアンモニアまたはアミンを添加してから蒸留する方法が提案されている(例えば、特開平11−354769号公報)。
しかし、このようなアルカリ性化合物を添加する有機アミド溶媒の回収精製方法は、アセトンやメタノールなどの洗浄溶媒の回収精製方法としては適していない。実際、洗浄工程後、これらの洗浄溶媒を主成分とする液体に前記方法を適用しても、回収した洗浄溶媒を洗浄工程で再使用した場合、PASの結晶化温度の低下や着色を防ぐことはできない。
【発明の開示】
本発明の目的は、有機アミド溶媒中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒で洗浄した後、有機溶媒を回収し、回収した有機溶媒中に含まれる生成PASの品質に悪影響を及ぼす不純物の含有量を低減させて精製した有機溶媒を洗浄工程でリサイクル使用する工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、洗浄に使用する有機溶媒を洗浄工程でリサイクル使用する新たなポリアリーレンスルフィドの洗浄方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、洗浄に使用した有機溶媒の効果的な精製方法を提供することにある。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物等の硫黄源とを加熱重合させるPASの製造方法において、有機アミド溶媒の分解に起因すると推定されるメチルアミン等のアルカリ性化合物が副生することに着目した。このアルカリ性化合物は、洗浄溶媒中に混入すると、蒸留によっても除去することが困難であり、洗浄溶媒を繰り返し使用し回収しているうちに、洗浄溶媒中に蓄積することを見出した。
そこで、本発明者らは、さらに研究を続けた結果、洗浄工程から回収した洗浄溶媒に塩酸などの無機酸を添加して、メチルアミンなどのアルカリ性化合物を無機酸塩の形にしてから蒸留すると、PASの物性に大きな悪影響を及ぼすアルカリ性化合物の含有量を効果的に低減できることを見出した。
また、洗浄工程から回収した洗浄溶媒を活性炭で処理することによっても、メチルアミンなどのアルカリ性化合物を著しく低減できることを見出した。
その結果、アセトンなどの洗浄溶媒を数十回以上も繰り返してリサイクル使用しても、PAS物性への悪影響を著しく緩和できることが判明した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、
(1)有機アミド溶媒(A)中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、必要に応じてアルカリ金属水酸化物を添加した後、加熱して重合する重合工程、
(2)重合工程後、生成ポリマーを含有する反応液からポリマーを分離する分離工程、
(3)分離したポリマーを有機溶媒(B)により洗浄する洗浄工程、
(4)洗浄工程後、回収した有機溶媒(B)を精製して、混入したアルカリ性化合物の含有量を低減させる精製工程、
(5)精製した有機溶媒(B)をポリアリーレンスルフィドの洗浄工程でリサイクル使用する工程
からなる各工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供される。
また、本発明によれば、有機アミド溶媒(A)中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒(B)で洗浄する工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法において、アルカリ性化合物の含有量を重量基準で3000ppm以下に低減させた有機溶媒(B)を用いて洗浄し、イエローインデックス(YI)が15.0以下のポリアリーレンスルフィドを得ることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供される。この製造方法において、洗浄後、結晶化温度を高める処理を行った場合には、結晶化温度(Tmc)が200℃以上、かつ、イエローインデックス(YI)が11.0以下のポリアリーレンスルフィドが得られる。
さらに、本発明によれば、有機アミド溶媒(A)中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒(B)で洗浄する方法において、洗浄工程で使用した有機溶媒(B)を回収して、洗浄工程でリサイクル使用し、その際、回収した有機溶媒(B)中のアルカリ性化合物の含有量を重量基準で3000ppm以下にまで低減させた有機溶媒(B)を洗浄工程でリサイクル使用することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの洗浄方法が提供される。
さらにまた、本発明によれば、有機アミド溶媒(A)中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒(B)で洗浄した後、有機溶媒(B)を回収し、回収した有機溶媒(B)に無機酸を添加してから蒸留することを特徴とする洗浄に使用した有機溶媒の精製方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
1.硫黄源
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源を使用する。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。これらのアルカリ金属硫化物は、通常、水和物として市販され、使用される。水和物としては、例えば、硫化ナトリウム9水塩(NaS・9HO)、硫化ナトリウム5水塩(NaS・5HO)等が挙げられる。アルカリ金属硫化物は、水性混合物として使用してもよい。
また、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物をアルカリ金属水酸化物と組み合わせて使用することができる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。また、アルカリ金属水硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが処理操作や計量などの観点から好ましい。
アルカリ金属水硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属硫化物が副生する。本発明で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。この場合、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、脱水工程後の仕込み硫黄源になる。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液などの水性混合物として用いることが好ましい。
本発明の製造方法において、脱水工程で脱水されるべき水分とは、水和水、水溶液の水媒体、及びアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応などにより副生する水などである。
2.ジハロ芳香族化合物
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。
ここで、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一ジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ジハロ芳香族化合物の仕込み量は、脱水工程後に系内に残存する硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、通常0.90〜1.50モル、好ましくは0.95〜1.20モル、より好ましくは1.00〜1.09モルである。
3.分子量調節剤、分岐・架橋剤
生成PASに特定構造の末端を形成したり、あるいは重合反応や分子量を調節する等のために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)を併用することができる。分岐または架橋重合体を生成させるために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することも可能である。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物としては、トリハロベンゼンが好ましい。
4.有機アミド溶媒
本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。
有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
本発明の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kgの範囲である。
5.重合助剤
本発明では、重合反応を促進させ、高重合度のPASを短時間で得るために、必要に応じて各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の具体例としては、一般にPASの重合助剤として公知の有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。これらの中でも、有機カルボン酸金属塩が安価であるため、特に好ましい。
重合助剤の使用量は、用いる化合物の種類により異なるが、仕込み硫黄源1モルに対し、一般に0.01〜10モルとなる範囲である。
6.脱水工程
重合工程の前工程として、脱水工程を配置することが、反応系内の水分量を調節するために好ましい。脱水工程は、望ましくは不活性ガス雰囲気下、アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物を、必要に応じてアルカリ金属水酸化物の存在下に、有機アミド溶媒中で加熱し、反応させ、蒸留により水を系外へ排出する方法により実施する。
アルカリ金属硫化物は、通常、水和物または水性混合物として使用するため、重合反応に必要量以上の水分を含有している。また、硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合は、等モル程度のアルカリ金属水酸化物を添加し、有機アミド溶媒中でin situで反応させる。
脱水工程では、水和水(結晶水)や水媒体、副生水などからなる水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、重合反応系の共存水分量が、硫黄源1モルに対して、通常0.3〜5モル、好ましくは0.5〜2モル程度になるまで脱水する。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程の前に水を添加して所望の水分量に調節してもよい。
これらの原料の反応槽への投入は、一般的には、常温から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。原料の投入順序は、順不同でよく、さらには、脱水操作途中で各原料を追加投入してもかまわない。脱水工程に使用される溶媒としては、有機アミド溶媒を用いる。この溶媒は、重合工程に使用される有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入後の混合物を、通常、300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲で、通常、15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱して行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両者を組み合わせた方法がある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽(反応缶)と同じであっても、あるいは異なるものであってもよい。また、装置の材質は、チタンなどの耐腐食性の材料が好ましい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と同伴して反応槽外に排出される。その際、硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
7.重合工程
重合工程は、脱水工程終了後の混合物にジハロ芳香族化合物を仕込み、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物を加熱することにより行われる。脱水工程で用いた反応槽とは異なる重合槽を使用する場合には、重合槽に脱水工程後の混合物とジハロ芳香族化合物を投入する。脱水工程後、重合工程前には、必要に応じて、有機アミド溶媒量や共存水分量などの調整を行ってもよい。また、重合工程前または重合工程中に、重合助剤その他の添加物を混合してもよい。
脱水工程終了後に得られた混合物とジハロ芳香族化合物との混合は、通常、100〜350℃、好ましくは120〜330℃の温度範囲内で行われる。重合槽に各成分を投入する場合、投入順序は、特に制限なく、両成分を部分的に少量ずつ、あるいは一時に投入することにより行われる。
重合反応は、一般的に100〜350℃、好ましくは120〜330℃、より好ましくは170〜290℃で行われる。当該反応の加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせが用いられる。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。当該工程に使用される有機アミド溶媒は、重合工程中に存在する仕込み硫黄源1モル当たり、通常、0.1〜10kg、好ましくは0.15〜1kgである。この範囲であれば、重合反応途中でその量を変化させてもかまわない。
重合反応開始時の共存水分量は、仕込み硫黄源1モルに対して、通常、0.3〜5モルの範囲とすることが好ましい。ただし、低分子量ポリマーやオリゴマーを得たい場合、あるいは特別の重合方法を採用する場合などには、共存水分量をこの範囲外としてもよい。例えば、共存水分量を、アルカリ金属硫化物等の硫黄源1モル当たり、0.1〜15モル、好ましくは0.5〜10モルの範囲内にすることができる。また、重合反応の途中で共存水分量を増加させたり、逆に、蒸留により減少させてもかまわない。
重合反応の途中で共存水分量を増加させる重合方法としては、例えば、仕込み硫黄源1モル当たり、0.5〜2.4モル、好ましくは0.5〜2.0モルの水が存在する状態で、170〜270℃、好ましくは180〜235℃の温度で反応を行って、ジハロ芳香族化合物の転化率を50〜98モル%とし、次いで、仕込み硫黄源1モル当たり、2.0モルを超え10モル以下、好ましくは2.5〜7.0モルの水が存在する状態となるように水を添加すると共に、245〜290℃の温度に昇温して反応を継続する方法がある。ここで、仕込み硫黄源とは、脱水工程を配置している場合には、脱水工程後に反応槽内に残留している硫黄源の量を意味している。
特に好ましい重合方法としては、重合工程において、
(1)有機アミド溶媒と硫黄源(A)とジハロ芳香族化合物(B)とを含有する反応混合物を、仕込み硫黄源(A)1モルに対して0.5〜2.0モルの水の存在下に、170〜270℃に加熱して重合反応を行い、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98%でプレポリマーを生成させる工程1、及び
(2)仕込み硫黄源(A)1モル当たり2.0モルを超え10モル以下の水が存在する状態となるように反応系内の水量を調整すると共に、245〜290℃に加熱して、重合反応を継続する工程2
を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行う方法が挙げられる。
上記工程1において、温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が0.5〜30Pa・sのプレポリマーを生成させることが望ましい。工程2では、工程1で生成したプレポリマーの溶融粘度が増大するまで重合反応を継続する。
生成ポリマー中の副生食塩や不純物の含有量を低下させたり、ポリマーを粒状で回収する目的で、重合反応後期あるいは終了時に水を添加し、水分を増加させてもかまわない。本発明の重合工程には、その他公知の重合方法の多く、あるいはその変形方法を適用することができ、特に、特定の重合方法に限定されない。
重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。
8.後処理工程
本発明の製造方法において、重合反応後の後処理は、常法によって行うことができる。例えば、重合反応の終了後、冷却した生成物スラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、洗浄・濾過を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。生成物スラリーは、高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。
上記濾別(篩分)後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄する。また、PASを高温水などで洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
9.洗浄溶媒の回収精製
本発明では、重合工程後、生成ポリマーを含有する反応液からポリマーを分離する分離工程の後、分離したポリマーを有機溶媒(B)により洗浄する洗浄工程を配置し、さらに、洗浄工程後、回収した有機溶媒(B)を精製して、混入したアルカリ性化合物の含有量を低減させる精製工程を配置する。精製した有機溶媒(B)は、PASの洗浄工程でリサイクル使用することができる。すなわち、PASの洗浄工程で使用した有機溶媒(B)を精製して、別のPASの洗浄工程で再使用することができ、その再使用の回数も大きくすることができる。
洗浄工程において、一般に、ポリマーと有機溶媒(B)とを接触させてポリマーを洗浄する。より具体的には、分離工程で分離したポリマーのウエットケーキと有機溶媒(B)とを混合して撹拌する。洗浄に用いる有機溶媒(B)の量は、ポリマーの通常1〜10倍重量、好ましくは2〜8倍重量程度である。洗浄工程後、ポリマーと洗浄に使用した有機溶媒(B)を含有する液体成分(C)とを分離する。重合工程後、精製PASは、一般に粒状ポリマーとして回収されるため、スクリーンを用いて篩分することができる。したがって、分離工程においても、生成ポリマーを含有する反応液をスクリーンを用いて篩分て、ポリマーを分離することができる。
分離工程では、スクリーンを通過した有機アミド溶媒(A)を含有する固体液体混合成分を固体成分と液体成分(D1)に分離し、分離した固体成分に有機溶媒(B)を加えて、有機アミド溶媒(A)と有機溶媒(B)を含む液体成分(D2)と固体成分とに分離することが、有機アミド溶媒(A)を効率よく回収する上で好ましい。固体成分は、副生塩などの微細な粒子であるため、液体成分(D1及びD2)と固体成分との分離には、遠心分離機やデカンターを利用することが望ましい。
洗浄工程後、一般に、液体成分(C)または液体成分(C)と液体成分(D1及び/またはD2)との混合液から蒸留により有機溶媒(B)を回収する。蒸留は、通常、単蒸留でよい。しかし、単なる単蒸留により回収した有機溶媒(B)には、メチルアミンなどのアルカリ性化合物が含まれており、洗浄と回収を繰り返し行うと、アルカリ性化合物が洗浄用有機溶媒(B)中に蓄積する。
そこで、本発明では、精製工程において、蒸留により回収した有機溶媒(B)に無機酸を添加して再度蒸留することにより、アルカリ性化合物の含有量を低減させる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などがあるが、これらの中でも塩酸が好ましい。蒸留により回収した有機溶媒(B)に無機酸を加えると、無機酸がメチルアミンなどのアルカリ性化合物と反応して塩(例えば、塩酸塩)を形成し、そのpHが低下する。回収した有機溶媒(B)に無機酸を添加してpH10.0未満に調整することが、メチルアミンなどのアルカリ性化合物を効率的に除去する上で好ましい。
精製工程において、回収した有機溶媒(B)を活性炭と接触させて、アルカリ性化合物の含有量を低減させることができる。本発明の方法では、塩酸などの無機酸を使用することが、コストやpH制御などの観点からより好ましい。
洗浄工程で使用する有機溶媒(B)としては、ケトン類やアルコール類が好ましく、アセトン及びメタノールがより好ましく、アセトンが特に好ましい。また、アルカリ性化合物は、代表的にはメチルアミンである。本発明の方法では、精製工程において、蒸留により回収した有機溶媒(B)中のアルカリ性化合物(例えば、メチルアミン)の含有量を、重量基準で3000ppm以下、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下に低減させる。なお、ppmは、重量基準である。
10.PAS
本発明の方法によれば、結晶化温度(Tmc)を高める処理をした場合に、Tmcが200℃以上、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上で、イエローインデックス(YI)が11.0以下、好ましくは10.0以下、より好ましくは7.0以下のPASを得ることができる。結晶化温度を高める処理を行わない場合でも、イエローインデックス(YI)が15.0以下、好ましくは13.0以下、より好ましくは11.0以下のPASを得ることができる。
本発明のPASの溶融粘度(温度310℃、剪断速度1,216sec−1で測定)は、特に限定されないが、好ましくは30〜800Pa・s、より好ましくは40〜500Pa・sの範囲内である。2段階で重合反応を行う場合には、後段工程(工程2)では、前段工程(工程1)で生成したプレポリマーの溶融粘度を超過する溶融粘度を有するPASが得られる。
本発明の製造方法により得られるPASは、そのままあるいは酸化架橋させた後、単独で、もしくは所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。
本発明の方法により得られるPASは、溶融粘度のロット間バラつきが少ないために、これらの加工を安定的に行うことができ、得られる成形品も諸特性のバラつきの少ない高品質のものが得られる。PASとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が特に好ましい。
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。分析法及び測定法は、次のとおりである。
(1)メチルアミンの定量:
アセトンに0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を同重量添加し〔アセトン/水酸化ナトリウム水溶液=1/1(重量比)〕、アセトン中に含まれるメチルアミン含有量をガスクロマトグラフィーで分析した。
ガスクロマトグラフィー分析条件
装置:日立G−3000、
気化室温度:180℃、
カラム:充填剤PEG−20M+KOH(20%+5%)、担体UniportB60/80メッシュ、3mmφ×3m、
カラム温度:100℃、
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)150℃、
キャリアーガス:窒素30ml/分、
サンプル量:2μl。
なお、市販のメチルアミンを用いた検量線から値を求めた。
(2)結晶化温度(Tmc)の測定:
ポリマーを320℃のホットプレスで加熱溶融後、急冷して非晶シートを作成した。非晶シートから約10mgを測定試料として採取し、示差走査熱量計(DSC)を用いて降温条件下での結晶化温度(Tmc)を測定した。具体的には、試料を窒素ガス雰囲気中(20ml/分)、340℃まで昇温し、その温度で1分間保持した後、10℃/分の速度で降温する条件で結晶化温度を測定した。
(3)色調の測定:
ポリマーを室温において、電動プレス機により15MPaで1分間加圧してタブレットを作製した。このタブレットを測定試料とし、東京電色技術センター製TC−1800を用いて、標準光C、2°視野、及び表色系の条件で、反射光測定法により色調の測定を行なった。測定に先立ち、標準白色板により校正を行った。各試料について3点ずつの測定を行い、その平均値を算出した。試料の色調は、黄色度(イエローインデックス:YI)で示した。
(4)溶融粘度:
乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,216sec−1での溶融粘度を測定した。
[参考例1]
(1)重合工程:
反応槽にN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)1,300kgを投入し、150℃に加熱した後、濃度64重量%水硫化ナトリウム300kg(NaSH換算で3.42kmol)、及び濃度75重量%水酸化ナトリウム185kg(3.47kmol)を仕込み、反応槽内の温度が200℃に達するまで加熱して脱水反応を行った。この脱水工程で揮散した硫化水素量は、2kg(0.06kmol)であった。この値を用いて、反応槽内の硫黄源の量を算出したところ、3.36kmolとなった。
この反応槽内にパラジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記)500kg(3.40kmol)を仕込み(pDCB/硫黄源(モル比)=1.012〕、220℃まで昇温し、5時間反応させた。次いで、水100kgを反応槽内に投入し、260℃まで昇温して、5時間反応させた。重合反応終了後、反応槽を室温付近まで冷却し、スラリー状態の反応生成物を含有する反応液を得た。
(2)ポリマー分離工程:
反応液を目開き150μm(100メッシュ)のスクリーンにより篩分して、スクリーン上の粒状ポリマーを含有するウエットケーキと、スクリーンを通過した成分とに分離した。
(3)ポリマー洗浄工程:
ウエットケーキを、ポリマーに対して5倍重量の高純度アセトン(メチルアミンを含有しない。以下同じ。)と室温で10分間撹拌しながら接触させた後、目開き150μmのスクリーンで篩分して、スクリーン上に残ったポリマー成分とスクリーン通過成分とに分離した。スクリーン上に残ったポリマー成分に対して、上記操作をもう一回行った。スクリーンを通過した液体成分(C)は、全量を回収した。
スクリーン上に残ったポリマー成分を、ポリマーに対して5倍重量のイオン交換水と室温で10分間撹拌しながら接触させ、次いで、目開き150μmのスクリーンで篩分し、再びスクリーン上に残ったポリマー成分を回収した。さらにこの操作を2回繰り返した。その後、回収したスクリーン上に残ったポリマー成分に、ポリマーに対して5倍重量の0.6重量%酢酸水溶液を40分間接触させ、次いで、目開き150μmのスクリーンで篩分し、スクリーン上に残ったポリマー成分を回収した。
その後、スクリーン上に残ったポリマー成分は、ポリマーに対して5倍重量のイオン交換水に室温で10分間撹拌しながら接触させ、次いで、目開き150μmのスクリーンで篩分し、スクリーン上に残ったポリマー成分を回収して、105℃で乾燥した。
上記操作で回収したポリマーは、粒状であり、溶融粘度が143Pa・s、Tmcが235℃、YIが5.6であった。
(4)重合溶媒の回収工程:
前記のポリマー分離工程において、反応生成物を含有する反応液の最初の篩分けで、スクリーン通過成分は、重合溶媒であるNMP、副生塩、低分子量PPS成分、水、及びメチルアミン等の有機不純物を含んでいる。
これらの成分からNMPを回収するために、スクリーン通過成分を遠心分離、傾斜(デカンター)により液体成分(D1)と固体成分とに分離し、その固体成分にポリマーに対して5倍重量の高純度アセトンを接触させ、その混合物を液体成分と固体成分に分離し、液体成分(D2)を回収した。
(5)洗浄溶媒の回収工程:
前記の各操作において回収した液体成分(C)、(D1)、及び(D2)を混合し、この混合物を単蒸留してアセトンを回収した。回収したアセトンには、メチルアミンが200ppmの濃度で含まれていた。このアセトンを一部採取し、同重量の水を加えた混合物(アセトン/水=1/1重量比)のpHは、11.8であった。
(6)各工程の繰り返し実験:
洗浄溶媒の回収工程(5)で回収したアセトン(メチルアミン量200ppm)をポリマー洗浄工程及び重合溶媒回収工程に使用したこと以外は、前記と同様に(1)〜(5)の工程を行った。洗浄溶媒の回収工程(5)では、単蒸留によりアセトンを回収した。回収したアセトン(回収2回目アセトン)は、メチルアミンの含有量が420ppmに増加していた。
上記の操作を繰り返し、洗浄溶媒の回収工程(5)において、単蒸留によりアセトンを回収した。5回目に回収したアセトン中のメチルアミン量は、1230ppm、10回目は2380ppm、20回目は4710ppmであった。結果を表1に示す。

表1の結果から明らかなように、単蒸留によるアセトンの回収法では、アセトンの精製が不十分であり、同じアセトンを繰り返して洗浄工程で使用すると、メチルアミン量が著しく増大することが分かる。
【実施例1】
参考例1と同様にして、(1)〜(5)の工程を行ったところ、200ppmのメチルアミンを含むアセトンが回収された。回収したアセトンに塩酸水溶液を加えて、水分が約30重量%、pHが6.0になるように調整した後、再び単蒸留を行ってアセトンを精製した。
このようにして精製し回収したアセトン(再単蒸留による回収1回目アセトン)は、メチルアミン量が20ppmに低下した。前記の全工程を繰り返したところ、5回目に回収したアセトン中のメチルアミン量は45ppmで、10回目は80ppmであった。結果を表2に示す。
【実施例2】
参考例1と同様にして、(1)〜(5)の工程を行ったところ、200ppmのメチルアミンを含むアセトンが回収された。回収したアセトンに塩酸水溶液を加えて、水分が約30重量%、pHが9.0になるように調整した後、再び単蒸留を行ってアセトンを精製した。
このようにして精製し回収したアセトンは、メチルアミン含有量が35ppmに低下していた。前記の全工程を繰り返したところ、5回目に回収したアセトン中のメチルアミン量は80ppmで、10回目は170ppmであった。
【実施例3】
参考例1において20回目に回収したアセトン(メチルアミン量4,710ppm)に塩酸水溶液を加えて、水分が約30重量%、pHが5.0になるように調整した後、単蒸留してアセトン成分を回収したところ、メチルアミン量が190ppmに低下した。結果を表2に示す。
【実施例4】
参考例1と同様にして、(1)〜(5)の工程を行ったところ、200ppmのメチルアミンを含むアセトンが回収された。回収したアセトンに塩酸水溶液を加えて、水分が約30重量%、pHが10.0になるように調整した後、再び単蒸留を行ってアセトンを精製した。
このようにして精製し回収したアセトンは、メチルアミン含有量が140ppmに低下していた。前記の全工程を繰り返したところ、5回目に回収したアセトン中のメチルアミン量は520ppmで、10回目は1280ppmであった。結果を表2に示す。

表2の結果から明らかなように、単蒸留により回収したアセトンに塩酸水溶液を加えてから再単蒸留を行うと、アセトン中に含まれるメチルアミン量を著しく減少させ得ることが分かる。実施例3では、参考例1で回収20回目でメチルアミン量が4710ppmのアセトンであっても、アセトンに塩酸水溶液を加えてから再単蒸留を行うと、アセトン中に含まれるメチルアミン量を著しく減少させ得ることを示している。さらに、pHとメチルアミン量の低減効果との関連性を観察すると、アセトンのpHを10.0未満に調整することにより、より効果的にメチルアミン量を低減できることが分かる。
【実施例5】
参考例1において20回目に回収したアセトン(メチルアミン量4,710ppm)に活性炭を接触させたところ、メチルアミン量が50ppmに低下した。
【実施例6】
参考例1のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、実施例1の回収10回目でメチルアミン量80ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例1と同様に行った。その結果、ポリマーの溶融粘度は140Pa・s、Tmcは232℃、YIは5.2であった。結果を表3に示す。
【実施例7】
参考例1のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、実施例3の回収1回目でメチルアミン量190ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【実施例8】
参考例1のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、実施例4の回収5回目でメチルアミン量520ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【実施例9】
参考例1のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、実施例4の回収10回目でメチルアミン量1280ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【実施例10】
参考例1のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、参考例1の回収10回目でメチルアミン量2380ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例1と同様に行った。結果を表3に示す。
[比較例1]
参考例1のポリマー洗浄工程(第1回目)において、高純度アセトンに代えて、参考例1の回収20回目でメチルアミン量4710ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例1と同様に行った。結果を表3に示す。

表3の結果から明らかなように、洗浄に使用したアセトンを別の洗浄工程で使用する場合、メチルアミンの含有量を3000ppm以下になるように精製しておくことにより、結晶化温度(Tmc)が200℃以上、かつ、イエローインデックス(YI)が11.0以下のPPSを得ることができる。TmcとYIとの観点からは、リサイクル使用するアセトン中のメチルアミンの含有量は、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下である。
[参考例2]
ポリマー洗浄工程において、酢酸水溶液での処理を行わなかったこと以外は、参考例1と同様に行った。この操作により回収したポリマーは、溶融粘度が250Pa・s、Tmcが185℃、YIが8.5であった。結果を表4に示す。
【実施例11】
参考例2のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、実施例4の回収10回目でメチルアミン量1280ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例2と同様に行った。結果を表4に示す。
[比較例2]
参考例2のポリマー洗浄工程において、高純度アセトンに代えて、参考例1の回収20回目でメチルアミン量4710ppmのアセトンを使用したこと以外は、参考例2と同様に行った。結果を表4に示す。

【産業上の利用可能性】
本発明によれば、有機アミド溶媒中での重合工程で得られたPASを有機溶媒で洗浄した後、有機溶媒を回収し、回収した有機溶媒中に含まれる生成PASの品質に悪影響を及ぼす不純物の含有量を低減させて精製した有機溶媒を洗浄工程でリサイクル使用する工程を含むPASの製造方法が提供される。
本発明の製造方法によれば、洗浄用有機溶媒を回収して繰り返し使用しても、PASの結晶化温度(Tmc)やイエローインデックス(YI)等の品質を大幅に低下させることがない。
また、本発明によれば、PASの品質を低下させない洗浄方法が提供される。さらに、本発明によれば、洗浄用有機溶媒の精製方法が提供される。本発明によれば、洗浄用有機溶媒を繰り返し回収精製して使用することができるため、PASの品質を低下させることなく、コスト低減を図ることができる。本発明の方法は、工業的規模で多数のバッチでポリアリーレンスルフィドを大量に製造し、洗浄するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、
(1)有機アミド溶媒(A)中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、必要に応じてアルカリ金属水酸化物を添加した後、加熱して重合する重合工程、
(2)重合工程後、生成ポリマーを含有する反応液からポリマーを分離する分離工程、
(3)分離したポリマーを有機溶媒(B)により洗浄する洗浄工程、
(4)洗浄工程後、回収した有機溶媒(B)を精製して、混入したアルカリ性化合物の含有量を低減させる精製工程、
(5)精製した有機溶媒(B)をポリアリーレンスルフィドの洗浄工程でリサイクル使用する工程
からなる各工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
洗浄工程において、ポリマーと有機溶媒(B)とを接触させてポリマーを洗浄した後、ポリマーと洗浄に使用した有機溶媒(B)を含有する液体成分(C)とを分離する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
分離工程において、生成ポリマーを含有する反応液を篩分して、ポリマーを分離した後、スクリーンを通過した有機アミド溶媒(A)を含む成分を固体成分と液体成分(D1)に分離し、分離した固体成分に有機溶媒(B)を加えて、有機アミド溶媒(A)と有機溶媒(B)とを含有する液体成分(D2)と固体成分とに分離する請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
洗浄工程後、液体成分(C)または液体成分(C)と液体成分(D1及びD2)との混合液から蒸留により有機溶媒(B)を回収する請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
精製工程において、回収した有機溶媒(B)に無機酸を添加して蒸留することにより、アルカリ性化合物の含有量を低減させる請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
無機酸が塩酸である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
回収した有機溶媒(B)に無機酸を添加してpH10.0未満に調整した後、蒸留する請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
精製工程において、回収した有機溶媒(B)を活性炭と接触させることにより、アルカリ性化合物の含有量を低減させる請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
精製工程において、回収した有機溶媒(B)中のアルカリ性化合物の含有量を重量基準で3000ppm以下に低減させる請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
洗浄工程で使用する有機溶媒(B)がアセトンである請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
アルカリ性化合物がメチルアミンである請求項1記載の製造方法。
【請求項12】
精製工程において、回収した有機溶媒(B)中のメチルアミン含有量を重量基準で3000ppm以下に低減させる請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
重合工程の前工程として、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源、並びに必要に応じて添加したアルカリ金属水酸化物を含む混合物を加熱脱水して、混合物中の水分量を調節する脱水工程を配置する請求項1記載の製造方法。
【請求項14】
重合工程において、
(I)有機アミド溶媒と硫黄源とジハロ芳香族化合物とを含有する反応混合物を、仕込み硫黄源1モルに対して0.5〜2.0モルの水の存在下に、170〜270℃に加熱して重合反応を行い、ジハロ芳香族化合物の転化率50〜98%でプレポリマーを生成させる工程1、及び
(II)仕込み硫黄源1モル当たり2.0モルを超え10モル以下の水が存在する状態となるように反応系内の水量を調整すると共に、245〜290℃に加熱して、重合反応を継続する工程2
を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行う請求項1記載の製造方法。
【請求項15】
有機アミド溶媒(A)中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒(B)で洗浄する工程を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法において、アルカリ性化合物の含有量を重量基準で3000ppm以下に低減させた有機溶媒(B)を用いて洗浄し、イエローインデックス(YI)が15.0以下のポリアリーレンスルフィドを得ることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項16】
有機溶媒(B)による洗浄後、さらに結晶化温度を高める処理を行って、降温条件下で測定した結晶化温度(Tmc)が200℃以上、かつ、イエローインデックス(YI)が11.0以下のポリアリーレンスルフィドを得る請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
洗浄工程で使用した有機溶媒(B)を回収して、ポリアリーレンスルフィドの洗浄工程でリサイクル使用し、その際、先の洗浄工程で混入したアルカリ性化合物の含有量を3000ppm以下に低減させた有機溶媒(B)を洗浄工程でリサイクル使用する請求項15記載の製造方法。
【請求項18】
有機アミド溶媒(A)中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒(B)で洗浄する方法において、洗浄工程で使用した有機溶媒(B)を回収して、洗浄工程でリサイクル使用し、その際、回収した有機溶媒(B)中のアルカリ性化合物の含有量を重量基準で3000ppm以下にまで低減させた有機溶媒(B)を洗浄工程でリサイクル使用することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの洗浄方法。
【請求項19】
有機アミド溶媒(A)中での重合工程で得られたポリアリーレンスルフィドを有機溶媒(B)で洗浄した後、有機溶媒(B)を回収し、回収した有機溶媒(B)に無機酸を添加してから蒸留することを特徴とする洗浄に使用した有機溶媒の精製方法。

【国際公開番号】WO2004/060973
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564499(P2004−564499)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016333
【国際出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】