説明

ポリアリーレンスルフィド系組成物

【課題】 耐トラッキング性などの電気特性に特に優れると同時に、熱伝導性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、金型離型性、及び成形品外観にも優れることから、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に有用なポリアリーレンスルフィド系組成物を提供する。
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量部、電気絶縁性を有する熱伝導性フィラー(C)30〜250重量部、並びに、繊維状充填材(D)30〜250重量部を含むポリアリーレンスルフィド系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドが本来有する耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などを損なうことなく、耐トラッキング性などの電気特性に特に優れると同時に、熱伝導性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、金型離型性、および成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものであり、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリアリーレンスルフィドは、ポリアミド等の他のエンジニアリングプラスチックと比較して、耐トラッキング性が大きく劣ることから、比較的高い電圧にさらされる様な用途での使用は制限されていた。
【0004】
ポリアリーレンスルフィドの耐トラッキング性を改良する試みについては、これまでにもいくつかの検討がなされ、例えば(a)ポリフェニレンスルフィド、(b)ポリアミド、及び(c)主要成分が水酸化マグネシウムである金属水酸化物を配合する樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)ポリオレフィン系(共)重合体、シリコーン、フッ素系樹脂から選択される1種以上の重合体、(c)水酸化マグネシウム及び(d)繊維状及び/又は非繊維状充填材を配合する樹脂組成物(例えば特許文献2参照。)、(a)ポリフェニレンスルフィド、(b)特定の平均粒子径と特定の粒度分布を有する水酸化マグネシウム及び(c)繊維状及び/又は非繊維状充填材を配合する樹脂組成物(例えば特許文献3参照。)、(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)高純度タルクを配合する樹脂組成物(例えば特許文献4参照。)、また、(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)非繊維状充填材を配合する樹脂組成物であって、非繊維状充填材の25〜85重量%がタルクであり、残部がタルク以外の非繊維状充填材である樹脂組成物(例えば特許文献5参照。)、等が提案されている。
【0005】
また、ポリアリーレンスルフィドに極性基含有ポリオレフィンを配合し樹脂組成物とすることにより、その特性を改良する試みがなされ、例えば耐衝撃性を改良した樹脂組成物として、ポリフェニレンスルフィド樹脂70〜98重量%、エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物29〜1重量%、不飽和カルボン酸無水物基含有物又はエポキシ基含有物10〜1重量%からなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(例えば特許文献6参照。)、接着強度、密着強度を改良した樹脂組成物として、ポリアリーレンスルフィド67〜98.9重量%、極性基含有ポリエチレン系共重合体1〜30重量%、及び、ポリエチレンイミン0.1〜5重量%からなるポリアリーレンスルフィド組成物(例えば特許文献7参照。)、ポリアリーレンスルフィド67〜98.9重量%、極性基含有ポリエチレン系共重合体1〜30重量%、及び、ヒドラジン誘導体0.1〜5重量%からなるポリアリーレンスルフィド組成物(例えば特許文献8参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−271542号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開平08−291253号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開2001−288363号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献4】特開平05−021650号公報(例えば特許請求の範囲参照)
【特許文献5】特開2003−128915号公報(例えば特許請求の範囲参照)
【特許文献6】特開平04−296355号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献7】特開2009−256438号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献8】特開2010−001340号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜5に提案された樹脂組成物においては、耐トラッキング性がまだ十分に満足できないという課題があった。また、これらの提案樹脂組成物においては、十分に優れた耐トラッキング性を得るためには、水酸化マグネシウム或いはタルクの高い含有量が必須となり、このため組成物の機械的強度や溶融流動性の低下も著しく、更には金型離型性や成形品外観の悪化をきたすものであった。即ち、これらの樹脂組成物はおしなべて、優れた耐トラッキング性、高い機械的強度、良好な溶融流動性、金型離型性、成形品外観とを同時に得ることは難しかった。また、これら樹脂組成物は耐トラッキング性を有すると同時に、優れた熱伝導性も有すると言う面でも、十分に満足できるものではなかった。
【0008】
また、特許文献6〜8に提案された樹脂組成物は、耐衝撃性、接着強度、密着強度等の耐トラッキング性とは異なる特性を改良するために提案された樹脂組成物であるとともに、そのポリアリーレンスルフィドの配合量も多いことから耐トラッキング性という面では満足できないものであった。
【0009】
そこで、本発明は、耐トラッキング性などの電気特性に特に優れると同時に、熱伝導性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、金型離型性、および成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物を提供することを目的とし、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド系組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド、エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体、電気絶縁性を有する熱伝導性フィラー、並びに、繊維状充填材を配合し、更に必要に応じて離型剤を配合するポリアリーレンスルフィド系組成物は、耐トラッキング性などの電気特性に特に優れると同時に、熱伝導性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、金型離型性、成形品外観にも優れる組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも下記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量部、電気絶縁性を有する熱伝導性フィラー(C)30〜250重量部、並びに、繊維状充填材(D)30〜250重量部を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものである。
【0012】
【化1】

【0013】
(ここで、x、y、zは、それぞれx>0、y≧0、z>0であり、x+y+z=1である。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量部、電気絶縁性を有する熱伝導性フィラー(C)30〜250重量部、並びに、繊維状充填材(D)30〜250重量部を含むものである。
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(A)としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよく、その中でも、得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が機械的強度、成型加工性に優れたものとなることから測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜3000ポイズのポリアリーレンスルフィドが好ましく、特に60〜1500ポイズであるものが好ましい。
【0016】
該ポリアリーレンスルフィド(A)としては、その構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。また、他の構成単位として、例えばm−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等を含有していてもよく、中でもポリ(p−フェニレンスルフィド)が好ましい。
【0017】
該ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られ、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調製されても、また系外で調製されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=1.00/0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。
【0018】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0019】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド(A)は、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0020】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する上記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の耐トラッキング性を向上させるために用いられるものである。該エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、上記の一般式(1)において、x、y、z、は、それぞれx>0、y≧0、z>0であり、x+y+z=1である。またRは炭素数1〜10の炭化水素基からなるものである。
【0021】
ここで、x=0である場合、得られる組成物は耐熱性に劣るものとなる。またz=0である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。そして、特に優れた耐トラッキング性を有し、良好な機械的強度を併せ持つポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、x=0.70〜0.94、y=0.00〜0.15、z=0.02〜0.30の範囲であるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0022】
また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等を挙げることができる。ここで、炭素数10を超えるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。
【0023】
該エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の製法は特に制限はなく、例えばエチレン単量体、脂肪酸ビニルエステル単量体、ビニルアルコール単量体を共重合する方法;エチレン−脂肪酸ビニルエステル共重合体を部分鹸化する方法、等により得ることが可能である。中でもエチレン−脂肪酸ビニルエステル共重合体を鹸化し得られるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体は工業的に入手が容易であることから好ましく、特にエチレン−酢酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体は、工業的に入手が容易であること、より耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物が得られることから最も好ましい。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、1〜50重量部である。該エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の配合量が1重量部未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。一方、該エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の配合量が50重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度、成形品外観も低下させるものとなる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する熱伝導性フィラー(C)は、電気絶縁性を有するものであり、該条件を満たすものであれば如何なるものを用いることが可能である。ところで有機高分子材料において、耐トラッキング性を向上させる手法として、一般的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物等が配合されている。そしてこれら金属水酸化物の脱水吸熱により、トラッキング現象時の発熱を除熱することで、有機高分子材料の耐トラッキング性を向上させることが提案されている。しかし、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物においては、フィラーの脱水吸熱を利用するのではなく、熱伝導性フィラーを配合することにより組成物の放熱特性を向上させ、その放熱特性でトラッキング現象時に発生する熱を除熱させるものである。よって、本発明においては、耐トラッキング性と熱伝導性とは密接に関係しており、特に耐トラッキング性、及び熱伝導性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、該熱伝導性フィラー(C)は、電気抵抗率1013Ω・cm以上を有する熱伝導性フィラーであることが好ましく、特にタルク(C1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(C2)、酸化マグネシウム(C3)、酸化アルミニウム(C4)、窒化アルミニウム(C5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラーであることが好ましい。
【0026】
該熱伝導性フィラー(C)として選択されるタルク(C1)とは、MgSi10(OH)で表される天然の粘土鉱物の一種である。一般的にタルクは、産地により不純物の種類及びその量が異なり、本発明でタルクを用いる場合は、従来からタルクとして知られ販売されているものであれば如何なるものを用いることも可能であり、産地、不純物の種類及びその量に制限を設けるものではない。また、タルクの粒子径は、レーザー回折散乱法等により測定した平均粒子径(D50)で、0.6〜30μmの範囲のものが市販されており、その中でも、本発明においては、特に機械的強度と熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、平均粒子径(D50)が5〜20μmであるものが好ましい。該タルク(C1)は、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤でさらに表面処理されたものであってもよく、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0027】
該熱伝導性フィラー(C)として選択される鱗片状窒化ホウ素(C2)は、六方晶構造を有するものであり、該条件を満たすものであれば如何なるものを用いることが可能であり、該鱗片状窒化ホウ素(C2)としては、例えば粗製窒化ホウ素をアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩の存在下、窒素雰囲気中、2000℃×3〜7時間加熱処理して、窒化ホウ素結晶を十分に発達させ、粉砕後、必要に応じて硝酸等の強酸によって精製することにより製造することができ、この様にして得られた窒化ホウ素は、通常、鱗片状を有するものである。そして、該鱗片状窒化ホウ素(C2)としては、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物中における分散性に優れ、機械的特性の優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が、3〜30μmであるものが好ましい。また、該鱗片状窒化ホウ素(C2)は、高結晶性を示し、特に熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物とすることが可能となることから、粉末X線回折法で求められる、(102)回折線の積分強度値(I(102))に対する、(100)回折線及び(101)回折線の積分強度値の和(I(100)+(101))の比で示されるG.I値(G.I=(I(100)+(101))/(I(102)))が0.8〜10の範囲となるものであることが好ましい。
【0028】
該熱伝導性フィラー(C)として選択される酸化マグネシウム(C3)は、酸化マグネシウムとして知られ販売されているものであれば如何なるものを用いることも可能である。中でも耐トラッキング性及び熱伝導性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウムであることが好ましい。この様な被覆酸化マグネシウムは、例えば特開2004−027177号公報に記載の方法より入手することが可能である。ここで、ケイ素とマグネシウムの複酸化物とは、フォルステライト(MgSiO)等に代表されるケイ素、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化ケイ素の複合物である。また、アルミニウムとマグネシウムの複酸化物とは、スピネル(AlMgO)等に代表されるアルミニウム、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの複合物である。該被覆酸化マグネシウムは、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤でさらに表面処理されたものであってもよく、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。また、該被覆酸化マグネシウムは、特に耐トラッキング性、熱伝導性、機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が、1〜500μmを有するものであることが好ましく、特に3〜100μmを有するものであることが好ましい。
【0029】
該熱伝導性フィラー(C)として選択される酸化アルミニウム(C4)は、従来から酸化アルミニウムとして知られ販売されているものであれば、如何なるものを用いることも可能である。この様な酸化アルミニウムの結晶形態としては、α、γ、δ、θ等が知られており、特に耐トラッキング性、及び熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、α結晶の酸化アルミニウムが好ましい。また酸化アルミニウムには、球状のものと板状のものとがあり、そのどちらを用いることも可能である。球状の酸化アルミニウムには、α結晶粒子径が0.1〜4μm程度で、そのα結晶粒子が凝集して球状の粒子を形成しているもの;凝集粒子をα結晶粒子径の大きさまで粉砕し球状の粒子を形成しているもの;α結晶粒子径が5μmより大きい単粒状の酸化アルミニウムであるもの、等があり、その何れのものを用いることも可能である。球状の酸化アルミニウムの粒子径(ここでの粒子径は、α結晶粒子が凝集して球状の粒子を形成しているものでは凝集粒子の粒子径、凝集粒子が粉砕され球状の粒子を形成しているものでは粉砕後の粒子径、α結晶単状粒子では単状粒子の粒子径を、それぞれ言う。)は、レーザー回折散乱法等により測定した平均粒子径(D50)で、1〜100μmの範囲のものが市販されており、その中でも、本発明においては、特に耐トラッキング性、熱伝導性、機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、平均粒子径(D50)が3〜50μmであるものが好ましい。板状の酸化アルミニウムには、その平面形状が六角形、四角形、菱形等があり、その何れのものを用いることも可能である。板状の酸化アルミニウムの外径サイズは、0.5〜15μmの範囲のものが市販されており、その中でも、特に耐トラッキング性、熱伝導性、機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、3〜10μmであるものが好ましい。また、板状の酸化アルミニウムのアスペクト比は、10〜100の範囲のものが市販されており、その中でも、特に耐トラッキング性、熱伝導性、機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、30〜100であるものが好ましい。
【0030】
該熱伝導性フィラー(C)として選択される窒化アルミニウム(C5)は、従来から窒化アルミニウムとして知られ販売されているものであれば如何なるものを用いることも可能である。該窒化アルミニウム(C5)の製造方法としては、例えば、有機アルミニウム化合物とアンモニアを反応させ、加熱する気相法;アルミナと炭素の混合物を窒素中で加熱する還元窒化法;アルミニウムと窒素で反応させる直接窒化法等があり、何れの方法で製造したものも本発明では使用することが可能である。また、窒化アルミニウムは一般的に耐水性が劣ることから、これを改良する方法として、窒化アルミニウムを燐酸化合物で処理することにより、窒化アルミニウム表面に耐水性の燐酸アルミニウム層を形成させる方法;窒化アルミニウムに少量の酸化イットリウム、及び窒化ホウ素とを加え高温焼結させる方法;等が挙げられ、何れの方法で処理された耐水性窒化アルミニウムも本発明では使用することが可能である。また、窒化アルミニウムの粒子径は、レーザー回折散乱法等により測定した平均粒子径(D50)で、1〜100μmの範囲のものが市販されており、その中でも、本発明においては、特に耐トラッキング性、熱伝導性、機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、平均粒子径(D50)が3〜60μmであるものが好ましい。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する熱伝導性フィラー(C)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、30〜250重量部である。該熱伝導性フィラー(C)の配合量が30重量部未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性、熱伝導性に劣るものとなる。一方、該熱伝導性フィラー(C)の配合量が250重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度、溶融流動性、金型離型性、成形品外観に劣るものとなる。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する繊維状充填材(D)は、該ポリアリーレンスルフィド系組成物の機械的強度及び寸法安定性を向上させるために配合されるものであり、この目的を達成できる繊維状充填材であれば、如何なるものを用いることも可能である。繊維状充填材(D)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が例示でき、その中でも、ガラス繊維が好ましい。該繊維状充填材(D)は、該ポリアリーレンスルフィド系組成物の機械的強度が高いものとなることから、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであることが好ましい。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する繊維状充填材(D)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、30〜250重量部である。該繊維状充填剤(D)の配合量が30重量部未満である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。一方、該繊維状充填剤(D)の配合量が250重量部を越える場合、得られる組成物は溶融流動性、成形品外観に劣るものとなる。
【0034】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、得られる成形品の金型離型性や外観をより優れたものとするために離型剤(E)を配合してなることが好ましい。該離型剤(E)としては離型剤として知られている範疇に属するものであれば用いることが可能であり、例えばカルナバワックス(E1)、ポリエチレンワックス(E2)、ポリプロピレンワックス(E3)、ステアリン酸金属塩(E4)、酸アマイド系ワックス(E5)等を挙げることができ、その中でも特に得られる成形品の金型離型性、成形品外観に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることからカルナバワックス(E1)であることが好ましい。
【0035】
該カルナバワックス(E1)としては、一般的な市販品を用いることができ、例えば(商品名)精製カルナバ1号粉(日興ファインプロダクツ製)等を挙げることができる。
【0036】
該離型剤(E)の配合量は、特に金型離型性、成形品外観に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることからポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)、熱伝導性フィラー(C)、並びに、繊維状充填剤(D)の合計量100重量部に対し、0.05〜5重量部であることが好ましい。
【0037】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、非繊維状充填材を配合していてもよく、非繊維状充填材としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。また、該非繊維状充填材は、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであってもよい。
【0038】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばシアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。
【0039】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことが出来る。また、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
【0040】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0041】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、パワーモジュール、各種端子板、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバータ、多極ロッド、電気部品キャビネット、ライトソケット、プラグ、コンデンサ封口板などの用途に特に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、耐トラッキング性などの電気特性に特に優れると同時に、熱伝導性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、金型離型性、および成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物を提供するものであり、該ポリアリーレンスルフィド系組成物は、特に電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なものである。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されものではない。
【0044】
実施例及び比較例において用いたポリアリーレンスルフィド、エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、熱伝導性フィラー、繊維状充填材、カルナバワックスの詳細を以下に示す。
【0045】
<ポリアリーレンスルフィド>
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−1)(以下、単にPPS(A−1)と記す。)
:溶融粘度110ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−2)(以下、単にPPS(A−2)と記す。)
:溶融粘度300ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−3)(以下、単にPPS(A−3)と記す。)
:溶融粘度350ポイズ。
【0046】
<エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B−1)(以下、単に共重合体(B−1)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)メルセンH6051、x=0.802、y=0.000、z=0.198。
エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体(B−2)(以下、単に共重合体(B−2)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)メルセンH6820、x=0.817、y=0.021、z=0.162、Rがメチル基。
エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体(B−3)(以下、単に共重合体(B−3)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)メルセンH6410、x=0.851、y=0.065、z=0.084、Rがメチル基。
<熱伝導性フィラー>
タルク(C1−1);日本タルク(株)製、(商品名)MSZC、平均粒子径12μm、アミノシラン処理。
六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(C2−1)(以下、単に鱗片状窒化ホウ素(C2−1)と記す。);電気化学工業(株)製、(商品名)デンカボロンナイトライドSGP、平均粒子径18.0μm、比表面積2m/g、G.I値0.9。
被覆酸化マグネシウム(C3−1);タテホ化学工業(株)製、(商品名)クールフィラーCF2−100、フォルステライトによる表面被覆、平均粒子径20μm。
酸化アルミニウム(C4−1);昭和電工(株)製、(商品名)丸み状アルミナAS−30、α結晶の単粒状アルミナ、球状、平均粒子径18μm。
酸化アルミニウム(C4−2);キンセイマテック(株)製、(商品名)セラフYFA10030、六角板状、平均外径サイズ10μm、アスペクト比33。
窒化アルミニウム(C5−1);古河電子(株)製、(商品名)FAN−F05、酸化イットリウムと窒化ホウ素との併用処理、平均粒子径5μm。
【0047】
<繊維状充填材>
ガラス繊維(E−1);エヌエスジー・ヴェトロテックス(株)製、(商品名)RES03−TP91;繊維径9μm、繊維長3mm。
【0048】
<カルナバワックス>
カルナバワックス(F1−1);日興ファインプロダクツ製、(商品名)精製カルナバ1号粉末。
【0049】
合成例1(PPS(A−1)、PPS(A−2)の合成)
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、NaS・2.8HO1866g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)5リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、407gの水を溜出させた。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2280gとNMP1500gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、ポリマーを遠心分離器により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。
【0050】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−1))の溶融粘度は110ポイズであった。
【0051】
更にPPS(A−1)を、空気雰囲気下235℃で加熱硬化処理を行った。
【0052】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−2))の溶融粘度は300ポイズであった。
【0053】
合成例2(PPS(A−3))の合成)
攪拌機を装備する15リットルチタン製オートクレーブにNMP3232g、47%硫化水素ナトリウム水溶液1682g及び48%水酸化ナトリウム水溶液1142gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、1360gの水を溜出させた。この系を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン2118gとNMP1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて1時間重合し、続けて250℃まで昇温し、250℃にて2時間重合した。更に、250℃で水451gを圧入し、再度255℃まで昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを固液分離した。ポリマーをNMP、アセトン及び水で順次洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。
【0054】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−3))は直鎖状のものであり、その溶融粘度は350ポイズであった。
【0055】
実施例及び比較例で用いた評価・測定方法を以下に示す。
【0056】
〜耐トラッキング性の測定〜
射出成形により直径50mm、厚さ3mmの円盤状試験片を作製し、該試験片を用いて、ICE112に準じて比較トラッキング指数(以下、CTIと記す。)を測定した。CTIとして500(V)を超えるものを耐トラッキング性に優れると判断した。
【0057】
〜熱伝導率の測定〜
射出成形により長さ70mm、幅70mm、厚み2mmの平板作製し、熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定は、測定装置(アルバック社製、(商品名)TC7000;ルビーレーザー)を用い、23℃の条件下で、レーザーフラッシュ法にて測定した。熱伝導率は平面方向で測定し、平面方向の熱伝導率は、熱容量Cpと平面方向の熱拡散率αを求め、次式より熱伝導率を算出した。
平面方向の熱伝導率=ρ×Cp×α
ここで、密度ρは、ASTM D−792 A法(水中置換法)に準じ測定した。
【0058】
〜曲げ強度の測定〜
射出成形により長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの試験片を作製し、該試験片を用いて、ASTM D−790 Method−1(三点曲げ法)に準じ、曲げ強度を測定した。測定装置は(商品名)AG−5000B(島津製作所製)を用い、支点間距離50mm、測定速度1.5mm/分の試験条件で行った。曲げ強度として120MPaを超えるものを機械的強度に優れると判断した。
【0059】
〜バーフロー長さの測定〜
溶融流動性の指標としてバーフロー長さ(以下、BFLと記す。)を測定した。射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)に、深さ1mm、幅10mmの溝がスパイラル状に掘られた金型を装着し、次いで、シリンダー温度を310℃、射出圧力を190MPa、射出速度を最大、射出時間を1.5秒、及び金型温度を135℃に設定した該射出成形機のホッパーにポリアリーレンスルフィド組成物を投入し、射出した。そして金型内のスパイラル状の溝を溶融流動した長さをBFLとして測定した。BFLとして80mmを超えるものを溶融流動性に優れると判断した。
【0060】
〜金型離型性〜
射出成形機に、長さ120mm、幅60mm、深さ20mm、厚さ2mmの箱型成形品の金型を装着し、次いで、シリンダー温度310℃、冷却時間60秒、及び金型温度135℃の条件で、ポリアリーレンスルフィド組成物を射出し、冷却後、金型コアからの該箱型成形品の離型性を評価した。金型コアからまったく抵抗無く離型できる状態を○、抵抗のある状態、又は、抵抗が大きく離型に手間取る状態を×として判定した。離型性が○である状態を離型性に優れると判断した。
【0061】
〜成形品外観〜
耐トラッキング性の測定と同じ円盤状試験片を作成し、該試験片の表面状態を目視にて観察した。表面全体に艶のあるものを○、表面の一部にしか艶のないもの、又は、表面にまったく艶のないものを×として判定した。成形品外観が○であるものを成形品外観に優れると判断した。
【0062】
実施例1
PPS(A−2)100重量部、共重合体(B−2)20重量部、及びタルク(C1−1)150重量部の割合で配合して、シリンダー温度310℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(D−1)70重量部を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド組成物を作製した。
【0063】
該ポリアリーレンスルフィド組成物を、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、CTIを測定し成形品外観を評価するための円盤状試験片、熱伝導率を測定するための平板、曲げ強度を測定するための試験片をそれぞれ成形した。更に金型離型性を評価すると共に、BFLを測定した。これらの結果を表1に示した。
【0064】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、CTI、熱伝導率、曲げ強度、溶融流動性、金型離型性、及び成形品外観に優れていた。
【0065】
実施例2〜14
PPS(A−1,2,3)、共重合体(B−1,2,3)、タルク(C1−1)、鱗片状窒化ホウ素(C2−1)、被覆酸化マグネシウム(C3−1)、酸化アルミニウム(C4−1,2)、窒化アルミニウム(C5−1)、ガラス繊維(D−1)及びカルナバワックス(E1−1)を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。なお、カルナバワックス(E1−1)の配合量に関しては、ポリアリーレンスルフィド系組成物100重量部に対する配合割合として配合を行った。評価結果を表1に示した。
【0066】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド組成物は、CTI、熱伝導率、曲げ強度、溶融流動性、金型離型性、及び成形品外観に優れていた。
【0067】
【表1】

【0068】
比較例1〜8
PPS(A−2)、共重合体(B−2)、タルク(C−1)、被覆酸化マグネシウム(C3−1)、酸化アルミニウム(C4−1)、ガラス繊維(D−1)、及びカルナバワックス(E1−1)を表2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。なお、カルナバワックス(E1−1)の配合量に関しては、組成物100重量部に対する配合割合として配合を行った。評価結果を表2に示した。
【0069】
比較例1,2,3,5により得られた組成物は、耐トラッキング性に劣るものであった。比較例5により得られた組成物は、熱伝導率にも劣るものであった。比較例4,6,7により得られた組成物は、曲げ強度が劣るものであった。比較例6,8により得られた組成物は、溶融流動性に劣るものであった。また、比較例2,4,6,7,8により得られた組成物は、金型離型性若しくは成形品外観に劣るものであった。
【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、耐トラッキング性などの電気特性に特に優れると同時に、熱伝導性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、金型離型性、および成形品外観にも優れるものであり、特に電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも下記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量部、電気絶縁性を有する熱伝導性フィラー(C)30〜250重量部、並びに、繊維状充填材(D)30〜250重量部を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド系組成物。
【化1】

(ここで、x、y、zは、それぞれx>0、y≧0、z>0であり、x+y+z=1である。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
電気絶縁性を有する熱伝導性フィラー(C)が、タルク(C1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(C2)、酸化マグネシウム(C3)、酸化アルミニウム(C4)、窒化アルミニウム(C5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラーであることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項3】
エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)が、x=0.70〜0.94、y=0.00〜0.15、z=0.02〜0.30、x+y+z=1であるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項4】
エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)が、エチレン−酢酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項5】
ポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)、熱伝導性フィラー(C)、並びに、繊維状充填材(D)の合計量100重量部に対し、さらに離型剤(E)0.05〜5重量部を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項6】
離型剤(E)が、カルナバワックス(E1)、ポリエチレンワックス(E2)、ポリプロピレンワックス(E3)、ステアリン酸金属塩(E4)、酸アマイド系ワックス(E5)からなる群より選択される1種以上の離型剤であることを特徴とする請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。

【公開番号】特開2013−76039(P2013−76039A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218285(P2011−218285)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】