説明

ポリアルキレングリコール系重合体、セメント混和剤及びセメント組成物

【課題】セメント分散性やスランプ保持性等の性能をより高いレベルで発揮することができ、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なポリアルキレングリコール系重合体、それを用いたセメント混和剤及びセメント組成物を提供する。
【解決手段】ビニル系単量体由来の構成単位とポリアルキレングリコール鎖とを主鎖に有する重合体であって、該重合体は、該ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、該ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むポリアルキレングリコール系重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール系重合体、セメント混和剤及びセメント組成物に関する。より詳しくは、セメント混和剤を始め、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、柔軟性付与成分用途、洗剤ビルダー用途等の様々な用途に用いられるポリアルキレングリコール系重合体や、それを用いて得られるセメント混和剤及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体(以下、ポリアルキレングリコール系重合体ともいう。)は、その鎖長や構成するアルキレンオキシドを適宜調整することによって親水性や疎水性、立体反発等の特性が付与され、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、柔軟性付与成分用途、洗剤ビルダー用途等の様々な用途に広く用いられている。
そして近年では、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に添加されるセメント混和剤用途が検討されている。このようなセメント混和剤は、通常、減水剤等として用いられ、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を発揮させることを目的として使用される。減水剤としては、従来、ナフタレン系等の減水剤が使用されていたが、ポリアルキレングリコール鎖がその立体反発によりセメント粒子を分散させる分散基として作用することができるため、ポリアルキレングリコール鎖を含有するポリカルボン酸系減水剤が高い減水作用を発揮するものとして新たに提案され、最近では高性能AE減水剤として多くの使用実績を有するに至っている。
【0003】
従来のポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体に関し、例えば、両末端又は片末端に二重結合を有するポリエーテルにチオカルボン酸を付加させた後、生成するチオエステル基を分解して得られる両末端又は片末端にメルカプト基を有するポリエーテル(例えば、特許文献1参照。)や、また、洗剤ビルダーに用いる生分解性水溶性重合体として、メルカプト基を有する化合物をポリエーテル化合物にエステル反応で導入した変性ポリエーテル化合物に対し、モノエチレン性不飽和単量体成分をブロック又はグラフト重合させて得られる重合体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。更に、ポリアルキレングリコール鎖と、該鎖の少なくとも一端に結合した不飽和単量体由来の構成単位とを含むポリマー単位を有する新規な重合体が、特にセメント混和剤として有用である旨が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、ポリアルキレングリコールモノエステル系単量体と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体とを特定の比率で重合して得られる共重合体を含有するコンクリート混和剤が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0004】
しかしながら、従来のポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体では未だ、昨今要望される極めて高い性能(セメント分散性(減水性)やスランプ保持性)を充分に発揮できる程度には至っていない。したがって、セメント混和剤の用途にも好適なものとすることによって、より多くの分野に有用な化合物とするための工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−13141号公報
【特許文献2】特開平7−109487号公報
【特許文献3】特開2007−119736号公報
【特許文献4】特開平10−81549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、セメント分散性やスランプ保持性等の性能をより高いレベルで発揮することができ、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なポリアルキレングリコール系重合体、それを用いたセメント混和剤及びセメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体について種々検討したところ、ポリアルキレングリコール鎖とビニル系単量体由来の構成単位とを有する重合体であって、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造とすると、セメント組成物等に対して少量添加するだけで高い減水性能を発揮できることを見いだした。また、重合体を、活性水素を3個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が3個以上結合し、かつ該ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造、すなわち多分岐構造を有する構造とすると、その立体反発からセメント組成物等に対して、より高い減水性能を発揮できることを見いだした。更に、上記のような重合体において、ビニル系単量体を、加水分解性基を有する単量体を必須に含むものとすると、該重合体を用いたセメント組成物等のスランプ保持性や状態が向上することを見いだした。そして、本発明の重合体を用いて得られるセメント混和剤が、かつてない程に優れた性能(分散性、スランプ保持性等)を発揮できることを見いだし、これを含んでなるセメント組成物がその分野で特に有用なものとなることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、ビニル系単量体由来の構成単位とポリアルキレングリコール鎖とを主鎖に有する重合体であって、上記重合体は、上記ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、上記ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、上記ビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体である。
本発明はまた、ポリアルキレングリコール鎖を含み、多分岐構造を有する重合体であって、上記重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が3個以上結合し、かつ上記ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、上記ビニル単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体でもある。
本発明はまた、上記ポリアルキレングリコール系重合体を含むセメント混和剤でもある。
本発明はまた、上記セメント混和剤を含むセメント組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
<ポリアルキレングリコール系重合体>
本発明のポリアルキレングリコール系重合体は、その主鎖にビニル系単量体由来の構造単位とポリアルキレングリコール鎖とを有する重合体であって、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むものである。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体の構造の詳細については、後述する。
以下では、本発明のポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むポリアルキレングリコール系重合体を「重合体(i)」、そのポリアルキレングリコール鎖が直接又は有機残基を介して結合することになるビニル系単量体由来の構成単位を形成する重合体を「重合体(ii)」ともいう。
【0010】
上記ポリアルキレングリコール系重合体(i)において、上記重合体(ii)を形成するためのビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むものである。すなわち、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)は、加水分解性基を有する単量体由来の構成単位を含むものである。
上記加水分解性基としては、加水分解され得る基であれば特に限定されないが、加水分解によってカルボキシル基を生成する官能基であることが好ましい。このような加水分解性基を有する単量体由来の構成単位を含むポリアルキレングリコール系重合体を、例えば好適な用途の1つであるセメント混和剤に適用した場合、該セメント混和剤を含むセメント組成物中で上記加水分解性基が経時的に加水分解され、カルボキシル基が生成されることになる。従って、カルボキシル基から生じるカルボキシアニオンにより、上記ポリアルキレングリコール系重合体のセメント粒子への吸着機能が経時的に増加することとなる。その結果、長時間にわたって良好なセメント分散性を維持することができ、セメント組成物のスランプ保持性を向上させることができる。
上記加水分解によってカルボキシル基を生成する官能基としては、例えば、エステル基、アミド基、ニトリル基等を挙げることができる。好ましくはエステル基である。
上記加水分解性基を有する単量体の具体例については後述する。
【0011】
次に、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体(重合体(i))の構造について説明する。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体は、重合体の主鎖にポリアルキレングリコール鎖とビニル系単量体由来の構造単位とを有し、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位(BL)の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須として含むものである。なお、ポリアルキレングリコール系重合体は、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、及び、該ポリアルキレングリコール鎖と直接結合又は有機残基を介して結合するビニル系単量体由来の構造単位(BL)を有する限り、その他の構造部位を有していてもよい。
【0012】
上記ポリアルキレングリコール鎖(PAG)とビニル系単量体由来の構造単位(BL)との間の直接結合又は有機残基をYとすると、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体は、その構造がポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成されるもの(以下、重合体(i−1)ともいう)と、更に水素原子以外のその他の構造部位とを有するもの(以下、重合体(i−2)ともいう)とに分けることができる。
ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成される重合体(i−1)としては、例えば、以下のような構造のものがある。
【0013】
下記一般式(a):
(BL)−Y−(PAG)−Y−(BL) (a)
で表されるように、ポリアルキレングリコール鎖の両端に直接又は有機残基を介して上記重合体(ii)が結合した形態、
下記一般式(b):
(PAG)−Y−(BL) (b)
で表されるように、ポリアルキレングリコール鎖の一端に直接又は有機残基を介して上記重合体(ii)が結合した形態、
下記一般式(c):
(PAG)−Y−(BL)−Y−(PAG) (c)
で表されるように、上記重合体(ii)の両端に直接又は有機残基を介してポリアルキレングリコール鎖が結合した形態、
下記一般式(d):
−[(PAG)−Y−(BL)]− (d)
で表される繰り返し単位の繰り返しにより構成される形態等。なお、これら(a)〜(d)の重合体において、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)が重合体の構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖(PAG)は、末端に水素原子を有することになる。すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端構造は、水酸基となる。
【0014】
以下では、上記一般式(a)〜(d)において「PAG」で表されるポリアルキレングリコール鎖を「ポリアルキレングリコール鎖(I)」ともいい、「BL」で表されるビニル系単量体由来の構造部位における、当該ビニル系単量体が、後述するように不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含む場合の、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体の有するポリアルキレングリコール鎖を「ポリアルキレングリコール鎖(II)」ともいう。なお、ポリアルキレングリコール鎖(I)及び(II)は、実質的に直鎖状であることが好適である。
【0015】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)としては、炭素数2以上のアルキレンオキシドから構成されるもの(ポリアルキレンオキシド)であればよく、該アルキレンオキシドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキシドが好適である。より好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキシドであり、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等が挙げられる。また、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エポキシド等を用いることもできる。
【0016】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)を構成するアルキレンオキシドとしては、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)に求められる用途等に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、セメント混和剤成分の製造のために用いる場合には、セメント粒子との親和性の観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキシド(オキシアルキレン基)が主体であることが好適である。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが主体であることであり、更に好ましくは、エチレンオキシドが主体であることである。
【0017】
ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール鎖(I)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成されるときに、全アルキレンオキシドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキシド100モル%中のエチレンオキシドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、上記重合体(i)がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0018】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)としてはまた、その一部に、より疎水性の高い炭素数3以上のオキシアルキレン基を含むものであってもよい。このような疎水性基が導入されると、セメント混和剤(分散剤)として使用した場合、水溶液中でポリアルキレングリコール鎖同士が軽い疎水的相互作用を示すことにより、セメント組成物の粘性が調整され、作業性が改善されることがあるためである。炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入する場合、その導入量としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、充分な水溶性を保つためには、50モル%以下であることが好適である。より好ましくは25モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。また、作業性の改善のために、1モル%以上であることが好ましい。より好ましくは2.5モル%以上であり、更に好ましくは5モル%以上である。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、製造の容易さの観点から、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基が好ましく、中でも、プロピレンオキシド基がより好適である。
なお、上記重合体(i)に求められる用途によっては、炭素数3以上のアルキレンオキシドを含まない態様が好ましい場合もある。
【0019】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)が、炭素数2のオキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とから構成されるものである場合、これらの配列はランダムであってもブロックであってもよいが、ブロック配列にすると、ランダム配列に比較して、親水性ブロックの親水性はより強く発現され、疎水性ブロックの疎水性はより強く発現されるようであり、結果として、セメント組成物の分散性や作業性がより改善されるため好適である。特に、(炭素数2のオキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(炭素数2のオキシエチレン基)のように、A−B−Aブロック状に配列することが好ましい。
【0020】
ここで、「PAG」で表されるポリアルキレングリコール鎖(I)と、「BL」で表されるビニル系単量体由来の構造単位は、「Y」で表される構造によっては加水分解により切断されることがある。耐加水分解性の向上が必要な場合、ポリアルキレングリコール鎖(I)の末端に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入することが好ましい。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基、アルキルグリシジルエーテル残基等が挙げられる。中でも、製造の容易さからオキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましい。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基の導入量としては、求められる耐加水分解性の程度によるが、ポリアルキレングリコール鎖(I)の両末端に対して、導入量が50モル%以上であることが好ましくい。より好ましくは100モル%以上であり、更に好ましくは150モル%以上であり、特に好ましくは200モル%以上である。
【0021】
また耐加水分解性の向上には、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)の末端が二級アルコール残基であることが好ましい。ポリアルキレングリコール鎖(I)の末端に二級アルコール基を導入するには通常用いられる方法を用いればよいが、例えば、ポリアルキレングリコール鎖(I)の原料となるポリアルキレングリコールに、炭素数3以上のアルキレンオキシドを付加すればよい。この付加反応の際には、二級アルコール基の導入率を高めるために、触媒としてアルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの酸化物又は水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
また付加反応の際の反応温度は、二級アルコール基の導入率を高めるために50〜200℃であることが好ましい。より好ましくは70〜170℃、更に好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0022】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数n(オキシアルキレン基の平均付加モル数)としては、1〜1000であることが好適である。1以上の数とすることにより、上記重合体(i)にポリアルキレングリコール鎖に基づく性能を充分に発揮させることが可能となり、また、nが1000を超える場合には、上記重合体(i)を製造するために使用する原料化合物の粘性が増大したり、反応性が充分とはならない等、作業性の点で好適なものとはならないおそれがある。上記平均繰り返し数の下限値としては、より好ましくは7、更に好ましくは10であり、上限値としては、より好ましくは800であり、更に好ましくは600である。
なお、上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数(オキシアルキレン基の平均付加モル数)とは、上記重合体(i)が有するポリアルキレングリコール鎖1モル中において付加しているアルキレンオキシドのモル数の平均値を意味する。
【0023】
上記Yで表される構造部位は直接結合又は有機残基であるが、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)とビニル系単量体由来の構造単位(BL)との結合を容易にすることができる点で、有機残基であることが好ましい。上記有機残基は、分子量が1000以下の基であることが好適である。1000を超えると、該基の導入が困難になり、経済性が損なわれるおそれがある。より好ましくは500以下であり、更に好ましくは300以下である。
【0024】
上記有機残基としてはまた、硫黄原子を含むものであることが好適であり、具体的には、例えば、−S−Y−COO−、−S−Y−CO−、−S−Y−CO−NH−、−S−Y−CO−NH−CH−CH−、−S−Y−、−S−Y−O−、−S−Y−N−、−S−Y−S−等であることが好ましい。ここで、Yは、2価の有機残基であり、好ましくは、炭素数1〜18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基や、炭素数6〜11の芳香族基(フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等)等であって、例えば、水酸基、アミノ基、アセチルアミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等の置換基で一部置換されていてもよい基である。
このように上記有機残基が硫黄原子を有する場合には、該硫黄原子を介して上記重合体(ii)の主鎖末端とが結合することが好適である。このような形態では、後述するように、その製造時に、硫黄原子の反応性に起因して硫黄原子を介して単量体が次々に付加し、重合体(ii)部位を形成することになるため、製造に有利である。
【0025】
上記硫黄原子を含む有機残基の中でも、カルボニル基(−C(O)−)又はアミド基(−N(H)−C(O)−)を含むものが好適であり、このように上記硫黄原子を含む有機残基が、カルボニル基又はアミド基を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。このような形態は、製造が容易であり、しかも低コストで製造できるため、工業生産的に有用である。
この場合、上記有機残基とポリアルキレングリコール鎖との結合部位においては、カルボニル基(アミド基中の−CO基を含む)に含まれる炭素原子と、ポリアルキレングリコール鎖の末端酸素原子とが隣接することが好適である。すなわち、上記重合体(i)は、ポリアルキレングリコール鎖とYとがエステル結合又はアミド結合を介して結合したものであることが好ましい。
【0026】
上記ビニル系単量体由来の構造単位(BL)を形成する重合体(ii)としては、1種の重合体であってもよいし、2種以上の重合体の混合物であってもよいが、それを形成するビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体(以下、単に「単量体(A)」ともいう。)を必須に含むものである。すなわち、上記重合体(ii)は、単量体(A)由来の構成単位を含むものである。なお、上記単量体(A)由来の構成単位とは、重合反応によって単量体(A)の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
上記単量体(A)は、ビニル系単量体であって、上述した加水分解性基を分子内に1つ以上有していればよい。1分子内に2個以上の加水分解性基を有する場合には、該加水分解性基は同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。また、上記単量体(A)としては、加水分解性基の種類が同じである単量体(1分子内に2個以上の加水分解性基を有する場合にはその組合せが同じである単量体)のみを用いてもよく、加水分解性基の種類(又は組合せ)が異なる単量体を併用してもよい。
【0027】
上記単量体(A)の具体例としては、例えば、以下の化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
加水分解性基としてエステル基を有する単量体(A)としては、不飽和カルボン酸系単量体とアルコール化合物とのエステル化物、不飽和アルコール系単量体とカルボン酸化合物とのエステル化物等が挙げられる。このうち、加水分解によって上記重合体(ii)上にカルボキシル基を生成する前者が好ましい。
上記不飽和カルボン酸系単量体としては、不飽和モノカルボン酸系単量体や不飽和ジカルボン酸系単量体等を挙げることができる。上記不飽和モノカルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸及びその無水物等が挙げられ、好ましくはアクリル酸である。上記不飽和ジカルボン酸系単量体としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びその無水物等が挙げられ、好ましくはマレイン酸及び無水マレイン酸である。
上記アルコール化合物としては、炭素原子数1〜30のモノアルコール;炭素原子数1〜30のモノアルコールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコール;炭素原子数1〜30のジオール;炭素原子数1〜30のジオールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたヒドロキシ(ポリ)アルキレングリコール;炭素原子数1〜30のポリオール;炭素原子数1〜30のポリオールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたポリオール(ポリ)アルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
中でも、炭素原子数1〜8のモノアルコール;炭素原子数1〜8のモノアルコールに炭素原子数2〜8のアルキレンオキシドを1〜200モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコール;炭素原子数1〜8のジオール;炭素原子数1〜8のジオールに炭素原子数2〜8のアルキレンオキシドを1〜200モル付加させたヒドロキシ(ポリ)アルキレングリコール;炭素原子数1〜15のポリオール;炭素原子数1〜15のポリオールに炭素原子数2〜8のアルキレンオキシドを1〜200モル付加させたポリオール(ポリ)アルキレンオキシド付加物が好ましく、
炭素原子数1〜4のモノアルコールに炭素原子数2〜4のアルキレンオキシドを1〜50モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコール;炭素原子数1〜4のジオール;炭素原子数2〜4のジオールに炭素原子数2〜4のアルキレンオキシドを1〜50モル付加させたヒドロキシ(ポリ)アルキレングリコールがより好ましく、
メタノールに炭素原子数2〜3のアルキレンオキシドを1〜25モル付加させたメトキシ(ポリ)アルキレングリコール;エチレングリコール、プロピレングリコール;炭素原子数2〜3のジオールに炭素原子数2〜3のアルキレンオキシドを1〜25モル付加させたヒドロキシ(ポリ)アルキレングリコールが更に好ましく、
メタノールにエチレンオキシドを1〜10モル付加させたメトキシ(ポリ)エチレングリコール;エチレングリコール;エチレングルコールにエチレンオキシドを1〜10モル付加させたヒドロキシ(ポリ)エチレングリコールが最も好ましい。
不飽和カルボン酸系単量体とアルコール化合物のエステル化物の態様としては、モノエステル、ジエステル、ポリエステル、ハーフエステルがあり得る。このうちジエステル、ポリエステルは重合時に架橋剤として働き、重合体の分子量の調整が困難となったり、不溶性のゲルを発生させたりすることがあるため、重合体を水溶液の状態で用いる用途には、モノエステル、ハーフエステルが好適である。
【0028】
上記不飽和アルコール系単量体としてはビニルアルコール、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オール等が挙げられ、好ましくはビニルアルコールである。
上記カルボン酸化合物としてはギ酸及び炭素数1〜8のカルボン酸が挙げられ、好ましくは酢酸である。
【0029】
加水分解性基としてアミド基を有する単量体(A)としては、例えば、上記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;マレアミン酸と炭素原子数2〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類等が挙げられる。中でも、アクリルアミドが好適である。
加水分解性基としてニトリル基を有する単量体(A)としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類等が挙げられる。中でも、アクリロニトリルが好適である。
【0030】
上記単量体(A)の含有量は、必要とされる性能に応じて適宜調整すればよい。単量体(A)由来の性能を充分に発揮する観点から、全ビニル系単量体100質量%に対し、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、7.5質量%以上が最も好ましい。また他のビニル系単量体を併用する場合、それらの性能を充分に発揮する観点から、上記単量体(A)の含有量は99質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が最も好ましい。
【0031】
上記ビニル系単量体としてはまた、不飽和カルボン酸系単量体を更に含むことが好適である。これにより、重合体の親水性が向上され、各種の用途により有用なものとすることが可能となる。また、セメント混和剤等の用途に使用する場合には、分散性能をより高めるため、上記ビニル系単量体は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を更に含むことが好適である。この場合には、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体に由来するポリアルキレングリコール鎖の立体反発により、セメント粒子を分散させる性能が飛躍的に向上するものと考えられる。より好ましくは、上記ビニル系単量体が、上記単量体(A)以外に、不飽和カルボン酸系単量体(a)と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)とを含む形態である。すなわち、上記重合体(ii)が、加水分解性基を有する単量体(A)由来の構成単位、不飽和カルボン酸系単量体(a)由来の構成単位、及び、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)由来の構成単位を含む形態であることが好適である。
【0032】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a)の含有量は、必要とされる性能に応じて適宜調整すればよい。単量体(a)由来の性能を充分に発揮する観点から、全ビニル系単量体100質量%に対し、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、7.5質量%以上が最も好ましい。また他のビニル系単量体の性能を充分に発揮する観点から、99質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25質量%以下が最も好ましい。
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)の含有量は、必要とされる性能に応じて適宜調整すればよい。単量体(b)由来の性能を充分に発揮する観点から、全ビニル系単量体100質量%に対し、1質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましく、60質量%以上が最も好ましい。また他のビニル系単量体の性能を充分に発揮する観点から、99質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましく、80質量%以下が最も好ましい。
【0033】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a)(以下、単に「単量体(a)」ともいう。)としては、例えば、下記式(1);
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は(CHCOOMを表す。なお、−(CH2COOMは、−COOM又は他の−(CH2COOMと無水物を形成していてもよい。xは、0〜2の整数である。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、一価金属、二価金属、三価金属、第四級アンモニウム塩基又は有機アミン塩基を表す。)で示される化合物が好適である。
なお、上記単量体(a)由来の構成単位とは、重合反応によって一般式(1)で示される単量体(a)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0036】
上記一般式(1)において、M及びMで表される金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の一価金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価金属原子;アルミニウム、鉄等の三価金属原子が挙げられる。また、有機アミン塩基としては、例えば、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(1)で示される不飽和カルボン酸系単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体;これらのカルボン酸の無水物又は塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、三価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)等が挙げられる。中でも、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの塩が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩がより好適である。
【0038】
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)(以下、単に「単量体(b)」ともいう。)としては、例えば、下記式(2);
【0039】
【化2】

【0040】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基が2種以上ある場合、当該基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよい。yは、0〜2の整数である。zは、0又は1である。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される化合物が好適である。
なお、上記単量体(b)由来の構成単位とは、重合反応によって一般式(2)で示される単量体(b)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0041】
上記一般式(2)において、Rで表される末端基のうち、炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、炭素数3〜20の脂環式アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記Rで表される末端基としては、セメント混和剤用途に用いる場合には、セメント粒子の分散性の観点から親水性基であることが好適であり、具体的には、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基が好ましい。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子又はメチル基である。
【0042】
また上記一般式(2)において、(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖(II)は、炭素数2のオキシエチレン基(エチレンオキシド)を主体として構成されるものであることが好適である。これにより、得られる重合体(ii)が充分に親水性となり、本発明のポリアルキレングリコール系重合体に充分な水溶性及びセメント粒子の分散性能が付与されることとなる。
ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール鎖(II)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成されるときに、全アルキレンオキシドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキシド100モル%中のエチレンオキシドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、上記ポリアルキレングリコール鎖(II)がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0043】
上記(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖(II)としてはまた、その一部に、より疎水性の高い炭素数3以上のオキシアルキレン基を含むものであってもよい。このような疎水性基が導入されると、セメント混和剤(分散剤)として使用した場合、水溶液中でポリアルキレングリコール鎖同士が軽い疎水的相互作用を示すことにより、セメント組成物の粘性が調整され、作業性が改善されることがあるためである。炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入する場合、その導入量としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、充分な水溶性を保つためには、50モル%以下であることが好適である。より好ましくは25モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。また、作業性の改善のために、1モル%以上であることが好ましい。より好ましくは2.5モル%以上であり、更に好ましくは5モル%以上である。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、製造の容易さの観点から、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基が好ましく、中でも、プロピレンオキシド基がより好適である。
なお、上記重合体(ii)に求められる用途によっては、炭素数3以上のアルキレンオキシドを含まない態様が好ましい場合もある。
【0044】
上記ポリアルキレングリコール鎖(II)が、炭素数2のオキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とから構成されるものである場合、これらの配列はランダムであってもブロックであってもよいが、ブロック配列にすると、ランダム配列に比較して、親水性ブロックの親水性はより強く発現され、疎水性ブロックの疎水性はより強く発現されるようであり、結果として、セメント組成物の分散性や作業性がより改善されるため好適である。特に、(炭素数2のオキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(炭素数2のオキシエチレン基)のように、A−B−Aブロック状に配列することが好ましい。
【0045】
上記一般式(2)におけるrは、1〜300の数であるが、300を超えると、製造上の不具合が生じるおそれがあり、また、セメント混和剤として使用した際にセメント組成物の粘性が高くなって作業性が充分とはならないおそれがある。製造上の観点から、rは300以下が適当であり、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは75以下、最も好ましくは50以下である。また、セメント粒子を強く分散させる観点から、rは4以上であることが好ましい。より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは25以上である。
【0046】
上記一般式(2)で示される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体の具体例としては、例えば、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコールエステル系単量体が挙げられる。
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、不飽和基を有するアルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物であればよい。
上記ポリアルキレングリコールエステル系単量体としては、不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された構造を有する単量体であればよく、不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステル系化合物が好適であり、中でも、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好適である。ただし、性能とは無関係に、上記加水分解性を有する単量体(A)と区別する観点から、本発明における上記ポリアルキレングリコールエステル系単量体は、加水分解性が比較的低い(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノメタクリレートを指すものとする。
【0047】
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物が好適である。重合時の反応性と経済性の観点から、好ましくは(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物である。
【0048】
上記重合体(ii)を得るために使用されるビニル系単量体成分はまた、上述した加水分解性基を有する単量体(A)、不飽和カルボン酸系単量体(a)及び不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)以外のその他の共重合可能な単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)を含んでいてもよい。
この場合、上記重合体(ii)は、更に上記単量体(c)由来の構成単位を含むことになるが、上記単量体(c)由来の構成単位とは、重合反応によって単量体(c)の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
上記単量体(c)を用いる場合、その含有量としては、全ビニル系単量体成分100質量%に対し、30質量%以下とすることが好適である。より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。
【0049】
上記単量体(c)の具体例としては、例えば、以下の化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類。
【0050】
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体のうち、その構造がポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位に加え、更に水素原子以外のその他の構造部位を有する重合体(i−2)としては、下記一般式(3);
【0051】
【化3】

【0052】
(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、加水分解性基を有するビニル系単量体由来の構成単位を形成する重合体である。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表されるものが好ましい。
【0053】
上記一般式(3)において、AOで表されるオキシアルキレン基の具体例、及び、好ましいものは、上述したポリアルキレングリコール鎖(PAG)を構成する炭素数2以上のアルキレンオキシドと同様である。
また、Yで表される有機残基、及び、Zで表される加水分解性基を有するビニル系単量体由来の構成単位を形成する重合体としては、それぞれ、上述したY、及び、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)を形成する重合体(ii)と同様である。またmは、上記Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物に結合する、直接結合又は有機残基を介して上記ビニル系単量体由来の構造単位が結合したポリアルキレングリコール鎖の数を表す。
【0054】
上記一般式(3)で表される重合体は、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体と、多分岐構造を有さない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体とを含む。ここでいう多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体とは、活性水素を3個以上有する化合物の活性水素を有する部位の少なくとも3つ以上に、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合鎖が結合し、該活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、該重合鎖が放射線状に枝分かれした構造を意味し、非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体とは、このような活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として放射線状に枝分かれした上記重合鎖を有さない構造を意味する。
なお、非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として上記重合鎖が放射線状に枝分かれした構造を有さないものであれば、例えば、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)が、ポリアルキレングリコール鎖を有する不飽和単量体を原料として用いて形成されたものである場合のように、主鎖から枝分かれした分岐構造を有するものであってもよい。
【0055】
上記非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基に、1又は2個のポリアルキレングリコール鎖が結合し、かつ、ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有するものである。この場合、非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体の構造は、(1)活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が1つ結合し、該重合体は、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基がポリアルキレングリコール系重合体の構造の末端に位置する構造のもの、(2)活性水素を2個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が2つ結合し、該重合体は、2つのポリアルキレングリコール鎖の間に活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基が位置する構造のもの、のいずれかの構造を有するものとなる。
【0056】
上記(1)の形態の非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を1個有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が1つ結合した構造のものであることが好ましい。また、上記(2)の形態の非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を2個有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が2つ結合した構造のものであることが好ましい。
【0057】
上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が3個以上結合し、かつ、ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有するものである。
上記多分岐ポリアルキレングリコール系重合体は、多分岐構造を有するが、上述したように、多分岐構造とは、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として放射線状に枝分かれした構造であることを意味する。すなわち、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、そこからポリアルキレングリコール鎖及び有機残基を介して、上記重合体(ii)が結合した構造を意味する。この多分岐構造に起因する立体反発により、セメント粒子を分散させる性能が飛躍的に向上する。
本発明のポリアルキレングリコール系重合体が多分岐ポリアルキレングリコール系重合体を含む場合、該重合体が加水分解性基を有することに起因して、また、上記多分岐構造による立体反発との相乗効果により、特にセメント分散性能、スランプ保持性能に優れるものとなる。
このように、ポリアルキレングリコール鎖を含み、多分岐構造を有する重合体であって、該重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が3個以上結合し、かつ該ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含むことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体は、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体における「主鎖」とは、上記活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として放射線状に枝分かれした、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合鎖の主鎖、すなわち、上記残基に結合している重合鎖の主鎖を意味するものとする。
【0058】
上記活性水素を有する化合物が、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体の製造に用いられる場合、活性水素を有する化合物の活性水素数は3個以上であることが必要であり、また、後述するポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて重合を行う際の重合性の観点から、50個以下であることが好適である。上記活性水素数の下限値としては、好ましくは4個であり、より好ましくは5個であり、また、上限値としては、より好ましくは20個であり、更に好ましくは10個である。
【0059】
上記活性水素を有する化合物の残基とは、活性水素を有する化合物から活性水素を除いた構造を有する基を意味し、該活性水素とは、アルキレンオキシドが付加できる水素を意味する。
活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基としては、具体的には、例えば、1価又は多価アルコールの水酸基から活性水素を除いた構造を有するアルコール残基、1価又は多価アミンのアミノ基から活性水素を除いた構造を有するアミン残基、1価又は多価イミンのイミノ基から活性水素を除いた構造を有するイミン残基、1価又は多価アミド化合物のアミド基から活性水素を除いた構造を有するアミド残基等が好適である。中でも、アミン残基、イミン残基及びアルコール残基が好ましい。これによって、各種用途に好適な化合物とすることが可能となる。
なお、活性水素を有する化合物残基の形態としては、鎖状、分岐状、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。
【0060】
上記活性水素を有する化合物の残基の好ましい形態において、多価アミン(ポリアミン)としては、1分子中に平均3個以上のアミノ基を有する化合物であればよく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ラウリルアミン等のアルキルアミン;アリルアミン等のアルキレンアミン;アニリン、ジフェニルアミン等の芳香族アミン;アンモニア、尿素、チオ尿素等の窒素化合物等のモノアミン化合物の1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール系重合体における多価アミン残基が形成されることになる。更に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン等であってもよく、これらのポリアミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、ポリアルキルアミンを用いることが好ましく、ポリアルキルアミンを構成するアルキルアミンとしては、ラウリルアミン等の炭素数8〜18のアルキルアミンが好適である。
【0061】
また上記ポリアルキレンイミンとしては、1分子中に平均3個以上のイミノ基を有する化合物であればよく、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール系重合体におけるポリアルキレンイミン残基が形成されることになる。なお、ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子を持つ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、上記ポリアルキレングリコール系重合体が奏する性能の観点から、エチレンイミンが主体を占めるポリアルキレンイミンであることがより好適である。
【0062】
この場合の「主体」とは、ポリアルキレンイミンが2種以上のアルキレンイミンにより形成されるときに、全アルキレンイミンの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。本発明においては、ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、大半を占めるものがエチレンイミンであることにより、上記ポリアルキレングリコール系重合体の親水性が向上し、多くの用途に好適なものとなるという作用効果が充分に発揮されることから、上記作用効果が充分に発揮される程度に、ポリアルキレンイミン鎖(ポリアルキレンイミン残基)を形成するアルキレンイミンとしてエチレンイミンを用いることをもって、上記にいう「大半を占める」こととなる。「大半を占める」ことを全アルキレンイミン100モル%中のエチレンイミンのモル%で表すと、50〜100モル%であることが好ましい。50モル%未満であると、ポリアルキレンイミン鎖の親水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0063】
上記ポリアルキレンイミン鎖1つあたりのアルキレンイミンの平均重合数としては、2以上であることが好ましく、また、300以下であることが好ましい。このような範囲とすることによって、上記ポリアルキレングリコール系重合体の構造に起因した作用効果をより充分に発揮することが可能となり、例えば、セメント分散性能を発揮してセメント混和剤等の用途に好適なものとすることができる。下限値としては、より好ましくは3であり、更に好ましくは5であり、特に好ましくは10である。また、上限値としては、より好ましくは200であり、更に好ましくは100であり、特に好ましくは50であり、最も好ましくは25である。なお、ジエチレントリアミンの平均重合数は2、トリエチレンテトラミンの平均重合数は3となる。
【0064】
上記多価アミン及びポリアルキレンイミンの数平均分子量としては、100〜100000が好ましく、より好ましくは300〜50000、更に好ましくは600〜10000であり、特に好ましくは800〜5000である。
【0065】
上記多価アルコールとしては、1分子中に平均3個以上の水酸基を含有する化合物であればよいが、炭素、水素及び酸素の3つの元素から構成される化合物であることが好適である。具体的には、例えば、ポリグリシドール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等が好適である。また、糖類として、グルコース、フルクトース、マンノース、インド−ス、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース等のヘキソース類の糖類;アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース等のペントース類の糖類;トレオース、エリトルロース、エリトロース等のテトロース類の糖類;ラムノース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュウクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等のその他糖類;これらの糖アルコール、糖酸(糖類;グルコース、糖アルコール;グルシット、糖酸;グルコン酸)等も好適である。更に、これら例示化合物の部分エーテル化物や部分エステル化物等の誘導体も好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール系重合体における多価アルコール残基が形成されることになる。
これらの中でも、工業的な生産効率の観点から、より好ましくは、トリメチロールプロパンやソルビトールである。
【0066】
上記活性水素を3個以上有する化合物が結合する上記ポリアルキレングリコール鎖の数としては、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しいことが好ましい。すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素原子全てにポリアルキレングリコール鎖が結合した構造を有することが好適である。これによって、更に優れた分散性能を発揮し得るセメント混和剤を与えることが可能となるため、様々な用途に適用可能な化合物とすることができる。
【0067】
ここで、上記活性水素を3個以上有する化合物が結合する上記ポリアルキレングリコール鎖の数が、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しい場合の構造を模式的に示すと、以下のように表すことができる。
下記式(A)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がグリセリン残基(多価アルコール残基)であり、グリセリンが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖と、硫黄原子を含む有機残基を介して重合体(ii)とが結合した構造を模式的に示したものである。
また下記式(B)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がソルビトール残基(多価アルコール残基)であり、ソルビトールが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖と、硫黄原子を含む有機残基とが結合し、更に硫黄原子のいくつかにビニル系単量体由来の構造単位が結合した構造を模式的に示したものである。
【0068】
【化4】

【0069】
上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体における、上記ポリアルキレングリコール鎖の構造及び鎖長としては、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)における構造及び鎖長と同様である。
【0070】
上記非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体、及び、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体はまた、上記ビニル系単量体由来の構造単位に結合しないポリアルキレングリコール鎖を有していてもよい。
このようなポリアルキレングリコール鎖の末端(活性水素を有する化合物の残基又は水素原子とは反対側の末端)は、例えば、水素原子、1価金属原子、2価金属原子、アンモニウム基、有機アミン基、炭素数1〜30の炭化水素基、オキソ炭化水素基、アミド炭化水素基、カルボキシル炭化水素基、炭素数0〜30のスルホニル(炭化水素)基、−O−C(=O)−R−SH(Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)で表されるメルカプトカルボン酸残基等のいずれかに結合した構造を有することが好適であり、1分子内に2つ以上の当該ポリアルキレングリコール鎖を有する場合には、その末端構造が同一であってもよく異なっていてもよい。このような末端構造の中でも、汎用性の点から、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜10の炭素水素基に結合した構造であり、炭素数1〜10の炭化水素基の中でもアルキル基やアルキレン基が好適である。
すなわち、例えば上記ポリアルキレングリコール系重合体(i)が上記一般式(3)で表される重合体である場合、該重合体は、下記一般式(4);
【0071】
【化5】

【0072】
(式中、X、AO、Y、Z、n及びmは、上記一般式(3)と同様であり、Yは、同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。n’は、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数であり、好ましい形態は、上記nと同様の形態が挙げられる。なお、nとn’とは同一であってもよいし異なっていてもよい。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、又は、−O−C(=O)−R−SH(Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)で表されるメルカプトカルボン酸残基を表す。pは、0以上の整数であって、Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物の活性水素数及びmの数に依存して最大数が決まる数である。)で表される化合物であってもよい。
は、上述したYと同様である。
上記pは、Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物の活性水素数及びmの数に依存して最大数が決まる数であるが、Xが活性水素を3個以上有する化合物の残基である形態においては、有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位に結合するポリアルキレングリコール鎖に起因した効果を充分に発揮させるため、活性水素を3個以上有する化合物が結合する該ポリアルキレングリコール鎖の数が3以上となるように、pが、〔(活性水素を3個以上有する化合物の全活性水素数)−3〕以下の数であることが好適である。
【0073】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体の好適な形態の一例として、例えば、下記一般式(5);
【0074】
【化6】

(式中、X’は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、Z−Y−で表される基又は水素原子を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、加水分解性基を有するビニル系単量体由来の構成単位を形成する重合体である。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する形態を挙げることができる。
上記一般式(5)におけるAO、Y、Z、n及びmについては上述したとおりである。上記一般式(5)においてX’がZ−Y−で表される基又は水素原子である場合、mは1である。
上記一般式(5)においてX’がZ−Y−で表される基であり、かつmが1である形態は、上記一般式(a)で表される構造を有する重合体に該当し、X’が水素原子であり、かつmが1である形態は、上記一般式(b)においてポリアルキレングリコール鎖(PAG)の一末端が水素原子である構造を有する重合体に該当する。また、X’が活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基である形態は、上記一般式(3)で表される構造を有する重合体に該当する。
このように、上記ポリアルキレングリコール系重合体が上記一般式(5)で表される構造を有するものであることは、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0075】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体としては、その取り扱い性やセメント混和剤用途に使用した場合のセメント組成物の保持性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が100万以下であることが好適である。より好ましくは50万以下、更に好ましくは30万以下、更により好ましくは20万以下、特に好ましくは15万以下である。また、セメント混和剤用途に用いる場合、ある程度セメント粒子に吸着した方が性能を発揮しやすく、Mwが大きいほど吸着力が大きくなるという観点から、Mwは1000以上であることが好ましい。より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは1万以上であり、更により好ましくは2万以上であり、特に好ましくは3万以上である。
上記ポリアルキレングリコール系重合体はまた、数平均分子量(Mn)が50万以下であることが好適である。より好ましくは25万以下、更に好ましくは15万以下、更により好ましくは10万以下、特に好ましくは75000以下である。Mnはまた、1000以上であることが好ましい。より好ましくは2500以上であり、更に好ましくは5000以上であり、更により好ましくは10000以上であり、特に好ましくは15000以上である。
上記ポリアルキレングリコール系重合体はまた、ピークトップ分子量(Mp)が100万以下であることが好適である。より好ましくは50万以下、更に好ましくは30万以下、特に好ましくは20万以下である。Mpはまた、1000以上であることが好ましい。より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは10000以上であり、特に好ましくは2万以上である。
なお、重合体の重量平均分子量、数平均分子量及びピークトップ分子量は、後述するゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法により求めることができる。
【0076】
<ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法>
次に、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体の製造方法について説明する。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体は、ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤及び/又はポリアルキレングリコール鎖を有する高分子連鎖移動剤の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させることによって、製造することができる。上記高分子開始剤及び/又は高分子連鎖移動剤を使用することによって、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体にポリアルキレングリコール鎖が導入されることとなる。
【0077】
上記重合反応において、上記ポリアルキレングリコール鎖の使用量と、上記ビニル系単量体成分の単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量(質量%)との関係は、上記ポリアルキレングリコール鎖/(単量体(A)+単量体(a)+単量体(b)+単量体(c))の比率として表すと、単量体(a)が主成分である場合には、好ましくは5/95〜99/1、より好ましくは10/90〜97/3、さらに好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは30/70〜92.5/7.5である。また、単量体(A)および/または(b)が主成分である場合には、好ましくは2/98〜95/5、より好ましくは4/96〜90/10、さらに好ましくは8/92〜80/20、さらに好ましくは、10/90〜75/25、さらに好ましくは15/85〜70/30、さらに好ましくは17.5/82.5〜65/35、特に好ましくは20/80〜60/40である。特に、単量体(a)は、単量体(a)/(上記ポリアルキレングリコール鎖+単量体(A)+単量体(b)+単量体(c))の比率(単位は質量%)で、好ましくは1〜50/99〜50、より好ましくは2.5〜40/97.5〜60、さらに好ましくは5〜35/95〜65である。
【0078】
まず、ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させることによって、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法について説明する。
ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法としては、後述するポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子アゾ開始剤を用いることで、該高分子アゾ開始剤中のアゾ基が熱で分解し、ラジカルが発生して、そこからビニル系単量体成分の重合が開始される、という機構により製造する方法が挙げられる。
【0079】
まず、上記重合体(i−1)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成されるものを製造する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0080】
下記一般式(e);
−[Y―N=N−Y−(PAG)]− (e)
で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法、
下記一般式(f);
(PAG)−Y−N=N−Y−(PAG) (f)
で表される高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法等。なお、これら(e)〜(f)の高分子アゾ開始剤において、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)が構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖(PAG)は、末端に水素原子を有することになる。すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端構造は、水酸基となる。
上記一般式(e)〜(f)における「PAG」及び「Y」は、上記一般式(a)〜(d)と同様である。
上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の好ましい形態としては、下記一般式(6);
【0081】
【化7】

【0082】
(式中、Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。これらの高分子アゾ開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0083】
上記一般式(6)において、Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基については、上述したAOと同様である。nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤のより好ましい形態としては、下記一般式(7);
【0084】
【化8】

【0085】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、カルボニル基、カルボキシル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボキシル基に結合した基を表す。Rは、同一若しくは異なって、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。R10は、同一若しくは異なって、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されたカルボニル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。
【0086】
上記一般式(7)におけるRの置換基としては、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基については、上述したAOと同様である。nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の更に好ましい形態としては、下記一般式(8);
【0087】
【化9】

【0088】
(式中、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。
上記一般式(8)における、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基については、上述したAOと同様である。nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
【0089】
上記一般式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤のうち、AOがオキシエチレン基である繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が特に好適であり、その具体例としては、和光純薬工業株式会社から市販されている高分子アゾ開始剤VPEシリーズ、例えば、VPE−0201(数平均分子量約1.5〜3万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約2,000、m=45)、VPE−0401(数平均分子量約2.5〜4万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約4,000、m=90)、VPE−0601(数平均分子量約2.5〜4万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約6,000、m=135)等が挙げられる。
【0090】
上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤の好ましい形態としては、下記一般式(9);
【0091】
【化10】

【0092】
(式中、Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。これらの高分子アゾ開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0093】
上記一般式(9)において、Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、上記一般式(3)のAOと同様である。kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、上記一般式(3)のnと同様である。上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤のより好ましい形態としては、下記一般式(10);
【0094】
【化11】

【0095】
(式中、R11は、同一若しくは異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、カルボニル基、カルボキシル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボキシル基に結合した基を表す。R12は、同一若しくは異なって、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。R13は、同一若しくは異なって、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されたカルボニル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。
【0096】
上記一般式(10)におけるR11の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤の更に好ましい形態としては、下記一般式(11);
【0097】
【化12】

【0098】
(式中、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。
上記一般式(11)における、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
【0099】
上記一般式(9)で表される高分子アゾ開始剤は、例えば、アゾ基の両末端にカルボキシル基を有するアゾ開始剤(V−501など、和光純薬工業社製)と、ポリアルキレングリコールとをエステル化することにより得ることができる。エステル化の方法としては、加熱工程を行うとアゾ開始剤が分解するので、加熱工程を含まない製法が必要である。そのような製法としては、(1)アゾ開始剤に塩化チオニルを反応させて酸塩化物を合成した後、ポリアルキレングリコールを反応させて高分子アゾ開始剤を得る方法;(2)アゾ開始剤とポリアルキレングリコールとを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および必要に応じて4−ジメチルアミノピリジンを用いて、脱水縮合することにより高分子アゾ開始剤を得る方法;等が挙げられる。
【0100】
上記一般式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤、又は、上記一般式(9)で表される高分子アゾ開始剤の使用量(質量%)と、上記ビニル系単量体成分の単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量(質量%)との関係は、高分子アゾ開始剤/(単量体(A)+単量体(a)+単量体(b)+単量体(c))の比率として表すと、単量体(a)が主成分である場合には、好ましくは5/95〜99/1、より好ましくは10/90〜97/3、さらに好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは30/70〜92.5/7.5である。また、単量体(A)および/または(b)が主成分である場合には、好ましくは2/98〜95/5、より好ましくは4/96〜90/10、さらに好ましくは8/92〜80/20、さらに好ましくは、10/90〜75/25、さらに好ましくは15/85〜70/30、さらに好ましくは17.5/82.5〜65/35、特に好ましくは20/80〜60/40である。特に、単量体(a)は、単量体(a)/(高分子アゾ開始剤+単量体(A)+単量体(b)+単量体(c))の比率(単位は質量%)で、好ましくは1〜50/99〜50、より好ましくは2.5〜40/97.5〜60、さらに好ましくは5〜35/95〜65である。
【0101】
次に、上記重合体(i−2)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位に加え、更に、水素原子以外のその他の構造部位を有するものを製造する方法としては、下記一般式(12);
【0102】
【化13】

【0103】
(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。R14は、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法が好適である。
【0104】
上記一般式(12)において、Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基は、上記一般式(3)のXと同様である。Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、上記一般式(3)のAOと同様である。kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、上記一般式(3)のnと同様である。また、上記mについても上述したとおりである。
【0105】
上記一般式(12)におけるR14は、炭素数1〜20の炭化水素基を表すが、例えば、炭素数1〜4の炭化水素基等が好適である。より好ましくは、メチル基である。
なお、上記一般式(12)におけるmが1又は2である高分子アゾ開始剤を用いることで、上記非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体を製造することができ、上記一般式(12)におけるXが活性水素を3個以上有する化合物の残基であり、mが3以上である高分子アゾ開始剤を用いた場合に、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造することができる。
【0106】
上記重合反応においては、上記一般式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤、又は、上記一般式(9)で表される高分子アゾ開始剤以外に、通常使用されるラジカル重合開始剤を併用してもよい。通常使用されるラジカル重合開始剤としては、既知のあらゆるラジカル重合開始剤が使用可能である。
【0107】
次に、ポリアルキレングリコール鎖を有する高分子連鎖移動剤の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させることによって、本発明のポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法について説明する。
このような製造方法としては、例えば、下記一般式(13):
【0108】
【化14】

【0109】
(式中、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、直接結合又は有機残基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される構造を有するポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含む製造方法を採用することが好ましい。
【0110】
上記ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法において、ポリアルキレングリコール鎖含有化合物としては、上記一般式(13)で表される構造を有するものであればよい。
上記一般式(13)におけるAOで表されるオキシアルキレン基の具体例、及び、好ましいものは、上述したポリアルキレングリコール鎖(I)を構成する炭素数2以上のアルキレンオキシドと同様である。また、Yで表される有機残基は、上述したYと同様である。
なお、上記製造方法により得ようとするポリアルキレングリコール系重合体が上記重合体(i−1)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成される重合体である場合には、(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖が上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物の構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖は、末端に水素原子を有することになる。すなわち、該ポリアルキレングリコール鎖の末端構造は、水酸基となる。
【0111】
上記一般式(13)において、Yで表される有機残基としては、上述したように硫黄原子を含む基であることが好ましいが、この場合は、硫黄原子と上記一般式(13)の末端に存在する水素原子とが結合した形態であることが好適である。すなわち、上記一般式(13)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物は、メルカプト基(チオール基、SH基)を有する化合物であることが好適である(以下、このような化合物を「ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物」ともいう。)。これにより、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して重合を行うことが可能となり、より効率的かつ簡便に、しかも低コストで本発明のポリアルキレングリコール系重合体を製造することができることとなる。
【0112】
上記製造方法において、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いた場合には、そのメルカプト基から熱や光、放射線等によって発生したラジカル若しくは必要に応じて別に使用した重合開始剤によって発生したラジカルが、メルカプト基に連鎖移動するか、又は、メルカプト基同士が結合してジスルフィド結合を形成していた場合にはそのジスルフィド結合を開裂させ、該硫黄原子(S)を介して単量体が次々に付加してビニル系単量体由来の構成単位(重合体(ii)の部位)を形成し、よって本発明のポリアルキレングリコール系重合体が効率的に得られることになる。
【0113】
上記製造方法によって、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−1)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成されるポリアルキレングリコール系重合体を製造する場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物としては、(ポリ)アルキレングリコールと、カルボキシル基を有するチオール化合物(以下、単に「チオール化合物」ともいう。)とを脱水縮合させる工程を含む製造方法により得られるものであることが好適である。
上記脱水縮合工程において、カルボキシル基を有するチオール化合物とは、1分子中にカルボキシル基(カルボン酸基)とメルカプト基とを有するメルカプトカルボン酸基含有化合物であればよい。
このようなメルカプトカルボン酸基含有化合物としては、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトイソブチル酸、チオリンゴ酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等が挙げられる。中でも、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトイソブチル酸が好適である。
【0114】
上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との脱水縮合工程では、上記(ポリ)アルキレングリコールが有する水酸基と、上記チオール化合物が有するカルボキシル基との間で脱水縮合反応が行われることが好適であるが、このような反応は、通常の液相におけるエステル反応の常法を用いて行うことができる。また、減圧したり、キシレン等のエントレーナーを用いて行ってもよい。
なお、上記チオール化合物が有するメルカプト基の性質上、上記脱水縮合工程は、酸触媒下で行うことが好適である。酸触媒としては、上述したとおりである。
このように上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との脱水縮合工程は、酸触媒を用いたエステル化反応工程であることが好適である。
【0115】
上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との混合比としては、望まれるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の純度やコスト、反応速度、合成法等に応じて適宜設定すればよい。例えば、短時間で純度の高いポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得たい場合は、上記(ポリ)アルキレングリコールが有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール化合物が有するカルボキシル基をモル比で大過剰とすることが好適である。具体的には、反応速度の観点から、モル比は、2倍以上とすることが好ましく、より好ましくは3倍以上であり、また、製造コストの観点から、10倍以下とすることが好ましく、より好ましくは5倍以下である。なお、反応後の粗生成物はそのまま用いてもよいが、必要に応じて精製し、未反応物を除去してもよい。
【0116】
上記脱水縮合工程の反応時間は、用いる酸触媒の種類や量、上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との混合比、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。
【0117】
上記脱水縮合工程により得られた反応粗生成物は、脱水縮合工程を行った後の反応溶液(すなわち、pH未調整の反応溶液)又はpH調整後の反応溶液を室温まで冷却することによって固化することが好適である。これにより、反応溶液から反応粗生成物を容易に取得することができる。得られた反応粗生成物の固化物は、精製してもよいが、この場合には、反応粗生成物の固化物を乾燥・粉砕した後、未反応の原料化合物等の不純物は溶解するもののチオール化合物は溶解しない溶剤、例えばジエチルエーテル等を用いて固化物を洗浄してもよい。
【0118】
本発明においては、このようにして得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に代表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下で、ビニル系単量体成分の重合反応を行うことになる。
例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の存在下で重合反応を行った場合には、上述したように末端の硫黄原子(S)を介して単量体が次々に付加して上記重合体(ii)が形成され、よって、本発明の重合体(i)が主成分として生成することになるが、上記重合体(ii)の構造が2以上繰り返されている形態や、単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)のうち1以上の単量体に由来する構成単位を有する重合体が副次的に生成することもある。
【0119】
上記重合反応に使用する上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物(好ましくはポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物)の使用量としては、ビニル系単量体成分100重量部に対し、1〜99重量部とすることが好ましい。1重量部以下であると、上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物に起因する効果が充分に発揮できないおそれがあり、99重量部を超えると、ビニル系単量体由来の性能が充分に発揮されないおそれがある。上記使用量の下限値としては、より好ましくは2重量部であり、更に好ましくは4重量部であり、また、上限値としては、より好ましくは80重量部であり、更に好ましくは50重量部であり、更により好ましくは30重量部であり、特に好ましくは15重量部である。
【0120】
上記重合反応は、必要に応じてラジカル重合開始剤を使用し、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
上記溶液重合のうち、水溶液重合では、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが、重合後に不溶成分を除去する必要がないので好適である。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ系開始剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0121】
また低級アルコール類、芳香族若しくは脂肪族炭化水素類、エステル類又はケトン類を溶媒とする溶液重合や塊状重合では、ラジカル重合開始剤として、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ系開始剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、後述するように水溶性アゾ系開始剤が好適である。なお、この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。
更に水と低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記の種々のラジカル重合開始剤、又は、上記ラジカル重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して用いることができる。
【0122】
上記重合反応にはまた、通常の連鎖移動剤を併用してもよい。使用可能な連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩等の親水性連鎖移動剤が挙げられる。
【0123】
上記連鎖移動剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよいし、更に、例えば、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。
上記連鎖移動剤の使用量は、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の態様や量に応じて適宜設定すればよいが、ビニル系単量体成分の総量100モルに対し、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.25モル以上、更に好ましくは0.5モル以上であり、また、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、更に好ましくは10モル以下である。
【0124】
上記重合反応において、重合温度等の重合条件としては、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、重合温度としては、0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0125】
また上記ビニル系単量体成分の反応容器への投入方法は特に限定されるものではなく、全量を反応容器に初期に一括投入する方法;全量を反応容器に分割又は連続投入する方法;一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割又は連続投入する方法のいずれであってもよい。なお、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また、目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0126】
上記の重合反応により得られる反応生成物には、ポリアルキレングリコール系重合体の他、上述した副生成物としての種々の重合体を含むことがあるため、必要に応じて、個々の重合体を単離する工程に付してもよいが、通常、作業効率や製造コスト等の観点から、個々の重合体を単離することなく、各種用途に使用してもよい。
【0127】
上記製造方法(ポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含む製造方法)によって、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位に加え、更に水素原子以外のその他の構造部位を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する場合、該製造方法は、下記一般式(14);
【0128】
【化15】

【0129】
(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含むこととなる。
【0130】
上記一般式(14)において、Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Yで表される有機残基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。またmは、上記Xで表される活性水素を有する化合物又は水素原子が結合する、有機残基を介して上記重合体(ii)に結合したポリアルキレングリコール鎖の数を表し、これについても上述したとおりである。
【0131】
上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)を製造する場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物としては、活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させる工程を含む製造方法により得られるものであることが好適である。
このような製造方法において、上記活性水素を有する化合物としては、上述したように、アルコール、アミン、イミン、アミド化合物等が好ましく、中でも、アミン、(ポリ)アルキレンイミン及びアルコールが好適である。これらについては、上述したとおりである。
上記アルキレンオキシドもまた、上述したとおりである。
また上記活性水素を有する化合物と、アルキレンオキシドとの反応モル比としては、上述したポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数の好適範囲になるよう、適宜設定することが好ましい。
【0132】
上記活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加させる方法としては、通常の方法で重合することにより行うことができ、酸触媒又はアルカリ触媒を用いる方法が好適である。酸触媒としては、三フッ化ホウ素等のルイス酸触媒である金属及び半金属のハロゲン化合物;塩化水素、臭化水素、硫酸等の鉱酸;パラトルエンスルホン酸等が好適であり、アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウムが好適である。
【0133】
上記付加反応工程の反応時間は、用いる触媒の種類や量、上記アルキレンオキシドの活性水素を1又は2個以上有する化合物への付加モル数、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。
なお、上記活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物(以下、単に「付加物」ともいう。)として、市販の化合物を用いることもできる。
【0134】
上記製造方法においては、このようにして得られる活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させることにより、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得ることができる。この脱水縮合工程については、上述したとおりである。
また、このようにして得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に代表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下で、ビニル系単量体成分の重合反応を行うことにより、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)を得ることができる。上記ビニル系単量体成分の重合反応については、上述したとおりである。
【0135】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)は、例えば、接着剤、シーリング剤、各種重合体への柔軟性付与成分、セメント混和剤、洗剤ビルダー等の種々の用途に好適に用いることができ、中でも、上述したように極めて高度のセメント分散性能及びスランプ保持性能を発揮できることから、セメント混和剤用途に用いることが好適である。このように、上記ポリアルキレングリコール系重合体を含むセメント混和剤もまた、本発明の1つである。
上記セメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができ、このような上記セメント混和剤を含んでなるセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0136】
上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含むものが好適であり、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0137】
上記セメント組成物の1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比(質量比)としては、例えば、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量200〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好適であり、より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65とすることである。このように、本発明の重合体(i)を含むセメント混和剤は、貧配合から富配合に至るまでの幅広い範囲で使用可能であり、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域でも使用可能であり、更に、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0138】
本発明のセメント混和剤としては、高減水率領域においても流動性、保持性及び作業性をバランスよく高性能で発揮でき、優れた作業性を有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等にも有効に使用することが可能であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0139】
上記セメント混和剤をセメント組成物に使用する場合、その配合割合としては、本発明の必須成分である重合体(i)が、固形分換算で、セメント質量の全量100質量%に対して、0.01〜10質量%となるように設定することが好ましい。0.01質量%未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10質量%を超えると、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02〜8質量%であり、更に好ましくは0.05〜6質量%である。
【0140】
上記セメント混和剤としてはまた、他のセメント添加剤と組み合わせて用いることもできる。他のセメント添加剤としては、例えば、以下に示すようなセメント添加剤(材)等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、オキシアルキレン系消泡剤や、AE剤を併用することが特に好ましい。
なお、セメント添加剤の添加割合としては、上記重合体(i)の固形分100重量部に対し、0.0001〜10重量部とすることが好適である。
【0141】
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシエチレンあるいはポリオキシプロピレンの重合体又はそれらの共重合体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸の共重合体及びその四級化合物等。
【0142】
(2)高分子エマルジョン。
(3)遅延剤:グルコン酸、リンゴ酸又はクエン酸、及び、これらの、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等のオキシカルボン酸並びにその塩;グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体等。
【0143】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート等。
(5)鉱油系消泡剤:燈油、流動パラフィン等。
(6)油脂系消泡剤:動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(7)脂肪酸系消泡剤:オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(8)脂肪酸エステル系消泡剤:グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等。
【0144】
(9)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン−2−エチルヘキシルエーテル、炭素数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
【0145】
(10)アルコール系消泡剤:オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等。
(11)アミド系消泡剤:アクリレートポリアミン等。
(12)リン酸エステル系消泡剤:リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等。
(13)金属石鹸系消泡剤:アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等。
(14)シリコーン系消泡剤:ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等。
(15)AE剤:樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
【0146】
(16)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシル基を置換基として有しても良い、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤等。
(17)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(18)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(19)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル類;2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルカンジオール類等。
(20)膨張材:エトリンガイト系、石炭系等。
【0147】
その他のセメント添加剤(材)として、例えば、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石膏等が挙げられる。
【発明の効果】
【0148】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体は、上述の構成よりなり、極めて優れた分散性能及びスランプ保持性能を発揮できることから、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0149】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「重量部」をそれぞれ意味するものとする。また、「wt%」は「質量%」を意味するものとする。
まず、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物やその重合体及び比較用重合体の分析方法として、液体クロマトグラフィー(LC)分析条件・解析条件、及び、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析条件・解析条件について説明する。また、これらの固形分を求める測定法についても説明する。
【0150】
<LC分析法>
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
カラム:Waters社製 Atlantis dC18 ガードカラム+カラム(粒径5μm、内径4.6mm×250mm×2本)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4.0に調整したもの
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
試料液注入量:100μL(試料濃度1〜2質量%の溶離液溶液)
【0151】
<LC解析条件:原料アルコール(付加物)の消費率及び平均SH導入数>
原料成分であるアルコール(付加物)の消費率は、以下のようにして概算した。
LC分析により、メルカプト基が全く導入されなかったもの(未反応原料)、メルカプト基が1つ導入されたポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(「PAGチオール化合物」ともいう。)、・・・、メルカプト基が(m+p)個導入されたPAGチオール化合物のピークが分離される。これらのRI(示差屈折率計)面積比(%)をS、S、・・・Sm+pとし、原料成分のアルコールの消費率は、以下の式(1)により概算した。
【0152】
【数1】

【0153】
またPAGチオール化合物中の平均SH導入数は、以下の式(2)により概算した。
【0154】
【数2】

【0155】
<GPC分析法>
ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体や比較用重合体の重量平均分子量、数平均分子量及びピークトップ分子量は、以下の測定条件により測定した。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSKguardcolumnsSWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整したもの
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した
流量:1mL/分
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(PAG、PAGチオール化合物は試料濃度0.4質量%、重合体は試料濃度0.5質量%の溶離液溶液)
【0156】
<GPC解析条件1(PAGチオール化合物(単量体)の分析)>
RIクロマトグラムにおいて、溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ピークを検出・解析した。多量体や不純物が目的ピークに一部重なって測定された場合は、ピークの重なり部分の最凹部において垂直分割し、目的物の分子量を測定した。
単量体純分量及び多量化物量の計算;
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
単量体純分量=(PAGチオール化合物面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
多量化物量=(多量化物ピーク面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
【0157】
<GPC解析条件2(重合体の分析)>
得られたRIクロマトグラムにおいて、重合体溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、重合体を検出・解析した。ただし、単量体や単量体由来の不純物のピークが重合体ピークに一部重なって測定された場合、それらと重合体の重なり部分の最凹部において垂直分割して重合体部と単量体部とを分離し、重合体部のみの分子量・分子量分布を測定した。重合体部とそれ以外が完全に重なり分離できない場合はまとめて計算した。
重合体純分の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
重合体純分=(重合体ピーク面積)/(重合体ピーク面積+単量体や不純物のピーク面積)
【0158】
<固形分の測定法(PAGチオール化合物及び重合体の分析)>
サンプル約0.5gをアルミ皿に量り採り、水約1gで希釈して均一に広げた。窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥させ、デシケーター中で放冷した後、乾燥後質量を量った。乾燥前後の質量差により固形分(不揮発分)濃度を計算した。
PAGチオール化合物や重合体の水溶液の濃度としては、特に断りがない限り、上記の手順で測定した固形分を用いた。
【0159】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(PAGチオール化合物)>
製造例1
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、トリメチロールプロパン1モルにエチレンオキシドを225モル付加したポリアルキレングリコール鎖含有トリオール(TMP−225、1500.00g)、3−メルカプトプロピオン酸(3−MPA、和光純薬工業社製、52.30g)、p−トルエンスルホン酸一水和物(PTS、和光純薬工業社製、31.05g)、フェノチアジン(PTZ、和光純薬工業社製、0.7762g)、シクロへキサン(77.62g)を仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、42.0時間加温還流して反応終了とした。
【0160】
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、30%NaOH水溶液(20.67g)に水(1487.29g)を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(1))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果は、TMP−225の消費率99.8%、TMP−225一分子に対する平均SH導入数は2.76個であった。またGPC分析結果は、単量体量88.5%、残りが多量体であった。
【0161】
製造例1における原料化合物や反応条件等を表1及び2に、脱溶媒工程後のLC分析結果及びGPC分析結果を表2に示す。
【0162】
【表1】

【0163】
【表2】

【0164】
表1及び2における略称は以下のとおりである。
T−42:PAGチオール化合物(1)
TMP−225:トリメチロールプロパンのエチレンオキシド付加物(平均EO付加モル数225)
3−MPA:3−メルカプトプロピオン酸
PTS・1HO:p−トルエンスルホン酸一水和物
PTZ:フェノチアジン
【0165】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール重合体>
実施例1
単量体溶液として、アクリル酸(AA、日本触媒社製、12.23g)、製造例1で得たPAGチオール化合物(1)(T−42、固形分換算で15.96g)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA、日本触媒社製、21.28g)、イオン交換水(82.98g)の溶液を調整した。
開始剤溶液として、2,2’-azobis(2-methylpropionamidine)dihydrochloride(V−50、和光純薬工業社製、0.23g)、イオン交換水(74.77g)の溶液を調整した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器に3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加物(平均EO付加モル数50、MB−E50、175.54g)、イオン交換水(116.94g)、水酸化ナトリウム(NaOH、0.09g)を仕込み、300rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃に加温した。
続いて上記の単量体溶液を3時間、開始剤溶液を3.5時間かけて反応容器中に滴下した。
滴下完了後1時間、80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却後、30%NaOH水溶液を加えてpHを6.0に調整し、目的重合体(重合体(1))の水溶液を得た。
GPC分析の結果、重合体はMw=79300、Mp=88300、Mn=28100であった。また重合体純分は92.2%であった。
【0166】
実施例2及び比較例1〜2
実施例1において単量体溶液や仕込み組成等を表3及び4に記載のように変更した他は、実施例1と同様にして目的重合体(重合体(2)及び重合体(c1)〜(c2))の水溶液を得た。
GPC分析結果を表4に示す。
【0167】
【表3】

【0168】
【表4】

【0169】
表3及び4における略称は以下のとおりである。
AA:アクリル酸
SAA:アクリル酸ナトリウム
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
MB−E50:3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加物(平均EO付加モル数50)
T−42:PAGチオール化合物(1)
V−50:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩
【0170】
<セメント分散性能の評価方法:モルタル試験>
モルタル実施例1〜2、モルタル比較例1〜2
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で行った。
モルタル配合は、C/S/W=550/1350/220(g)とした。ただし、
C:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
S:セメント強さ試験用標準砂(セメント協会製)
W:本発明重合体又は比較重合体、及び、消泡剤のイオン交換水溶液
Wとして、表5に示した添加量の重合体水溶液を量り採り、消泡剤MA−404(ポゾリス物産製)を有姿で重合体固形分に対して10質量%加え、更にイオン交換水を加えて所定量とし、充分に均一溶解させた。表5において重合体の添加量は、セメント質量に対する重合体固形分の質量%で表されている。
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、Wを投入し、1速で30秒間混練した。更に1速で混練しながら、Sを30秒かけて投入した。S投入終了後、2連で30秒間混練した後、ミキサーを停止し、15秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、75秒間静置した。75秒間静置後、更に60秒間2速で混練を行い、モルタルを調製した。
【0171】
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフローテーブル(JIS R5201−1997に記載)に置かれたフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補い、フローコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を0打フロー値とした。0打フロー値を測定後、直ちに15秒間に15回の落下運動を与え、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を15打フロー値とした。モルタル調製直後(初期)、15分及び30分における15打フロー値を表5に示す。
なお、0打フロー値及び15打フロー値は、数値が大きいほど、分散性能が優れている。
【0172】
<モルタル空気量の測定法>
モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。結果を表5に示す。
【0173】
【表5】

【0174】
上記実施例及び比較例から、以下のことがわかった。
ポリアルキレングリコール系重合体として、アクリル酸ナトリウム、MB−E50(不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)に該当)及びPAGチオール化合物(1)からなる重合体を用いたモルタル比較例1、2では、モルタルの15打フロー値が経時的に減少しており、流動性が低下していることがわかる。これは、モルタルの分散性が経時的に低下することによると考えられる。一方、MB−E50使用量の一部をHEA(加水分解性基を有する単量体(A)に該当)に置き換えた重合体、すなわち、本発明のポリアルキレングリコール系重合体を用いたモルタル実施例1〜2では、モルタルの15打フロー値が経時的に増加しており、流動性が向上していることがわかる。これは、HEAのエステル基が経時的に加水分解されて生じたカルボキシル基によって、モルタルの分散性が経時的に向上することによると考えられる。
このように、モルタルの保持性能を改善するという点において、本発明のポリアルキレングリコール系重合体を用いることに技術的意義が存在することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系単量体由来の構成単位とポリアルキレングリコール鎖とを主鎖に有する重合体であって、
該重合体は、該ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、該ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、
該ビニル系単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項2】
ポリアルキレングリコール鎖を含み、多分岐構造を有する重合体であって、
該重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が3個以上結合し、かつ該ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構成単位の主鎖末端と結合した構造を有し、
該ビニル単量体は、加水分解性基を有する単量体を必須に含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項3】
前記加水分解性基は、加水分解によってカルボキシル基を生成する官能基を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項4】
前記ビニル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体を必須に含む
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項5】
前記ビニル系単量体は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を必須に含む
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項6】
前記有機残基は、硫黄原子を含む
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項7】
前記ポリアルキレングリコール鎖は、アルキレンオキシドの平均繰り返し数が5〜1000である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項8】
前記ポリアルキレングリコール系重合体は、下記一般式(5);
【化1】

(式中、X’は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、Z−Y−で表される基又は水素原子を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、加水分解性基を有するビニル系単量体由来の構成単位を形成する重合体である。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、5〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体を含む
ことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項10】
請求項9に記載のセメント混和剤を含む
ことを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2012−116949(P2012−116949A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267910(P2010−267910)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】