説明

ポリイミドおよびその製造方法

【課題】溶解性および接着性に優れたポリイミドを提供すること、さらにはフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩の酸化を抑制しながら、これと酸無水物とを直接イミド化反応させるポリイミドの製造方法を提供すること。
【解決手段】フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩と、テトラカルボン酸無水物と、の直接イミド化反応によって製造された、フェノール基、チオール基、アミン基などの親水性基を含有するポリイミド、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩を原料モノマーとして得られ、溶解性および接着性に優れたポリイミド、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドの一般的な製造方法は、高純度のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを等モル量混合し、極性溶媒中で低温縮重合反応を行わせて、先ず高分子量のポリアミック酸を生成させ、次いで、ポリアミック酸溶液をキャスト形成して、加熱または無水酢酸添加による化学処理によって脱水閉環反応を行わせる方法が採用されている。ポリイミドは、熱安定性が極めて高く、例えば電気絶縁材料、耐熱性被覆膜材料、高性能プリント回路基板材料などとして有用な高分子物質である。
【0003】
ポリイミドの製造方法において、中間体として生成するポリアミック酸は、一般的に溶媒に可溶性であるが、ポリアミック酸溶液は常温における保存安定性が劣り、さらに、熱に対して極めて不安定である。したがって、製品として使用する場合には、ポリイミドの形態で使用することが好ましい。
【0004】
特に、フェノール基、チオール基、アミン基など親水基を持つモノマーを出発原料として得られるポリイミドは、優れた溶解性および接着性を持つため、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、バッファーコートなど分野において、優れた耐熱性、電気特性、機械特性などを併せ持つ材料として期待されている(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0005】
ここで、下記特許文献1に記載のとおり、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノー1,4―ベンゼンジチオール、1,2,4,5−テトラアミノベンゼンなどのフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩は、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸と縮重合反応させることで、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールなどのポリベンザゾールを与えることが知られている。
【0006】
しかしながら、これらのフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩とテトラカルボン酸無水物とを縮重合反応させるポリイミドの製造方法に関する研究は極めて少ない。
【0007】
上述したフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩を出発原料として得られるポリイミドは、その製造が極めて困難である。その理由の一つは、フェニレンジアミン誘導体が酸化され易い性質を有することであると考えられる。例えば、4,6−ジアミノレゾルシノールは、酸化を防ぐため、通常は比較的安定な無機酸塩の形態で使用されるが、酸無水物と反応し、重合が進行する際、重合系では4,6−ジアミノレゾルシノールの形態に戻る必要がある。しかしながら、4,6−ジアミノレゾルシノールは、無機酸塩の形態でなくなると直ちに酸化され、薄いピンクから赤、黒までに変色してしまうため、高分子量ポリマーの合成が困難である上に、重合系の着色はひどくなり、得られたポリマーの透明性をはじめ、諸物性に悪影響をもたらすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−60546号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本ポリイミド研究会編「最新ポリイミド〜基礎と応用〜」 第一章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶解性および接着性に優れたポリイミドを提供すること、さらにはフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩の酸化を抑制しながら、これと酸無水物とを直接イミド化反応させるポリイミドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係るポリイミドは、下記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩:
【化1】

【化2】

(前記一般式(1)または(2)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってよい。)と、テトラカルボン酸無水物と、の直接イミド化反応によって得られ、下記一般式(3)および(4)のいずれか少なくとも1つで表される繰り返し単位:
【化3】

【化4】

(前記一般式(3)または(4)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってもよく、Rはテトラカルボン酸無水物の残基である。)を含有し、500nmにおける光線透過率が50%以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るポリイミドの製造方法は、還元剤の存在下で、下記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩:
【化5】

【化6】

(前記一般式(1)または(2)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってよい。)と、テトラカルボン酸無水物と、を直接イミド化反応させることにより、下記一般式(3)および(4)のいずれか少なくとも1つで表される繰り返し単位:
【化7】

【化8】

(前記一般式(3)または(4)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってもよく、Rはテトラカルボン酸無水物の残基である。)を含有するポリイミドを製造することを特徴とする。
【0013】
上記ポリイミドの製造方法において、前記還元剤に加えて、さらにラクトン系重合触媒の存在下で、前記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩と、テトラカルボン酸無水物と、を直接イミド化反応させるものであることが好ましい。
【0014】
また、上記ポリイミドの製造方法において、前記還元剤の標準酸化還元電位が、−0.20volt以上、0.34volt以下であることが好ましい。なお、本発明における「標準酸化還元電位」とは、水中、25℃での値である。
【0015】
上記ポリイミドの製造方法において、前記ラクトン系重合触媒が、γ―バレロラクトンであることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る成形体は前記記載のポリイミドを成形して得られるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩の酸化を抑制しながら、これと酸無水物とを直接イミド化反応させることにより、溶解性および接着性に優れたポリイミドを製造することができる。また、本発明に係るポリイミドは、特に500nmにおける光線透過率が高く、有機EL基板などの透明性が必要な用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0019】
本発明において、フェニレンジアミン誘導体としては、下記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩が挙げられる。
【化9】

【化10】

(一般式(1)または(2)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってよい。)
【0020】
フェニレンジアミン誘導体の塩としては、通常フェニレンジアミン誘導体の塩酸塩が挙げられる。上記一般式(1)または(2)で表されるフェニレンジアミン誘導体が塩酸塩である場合は、特に下記一般式(1A)または(2A):
【化11】

【化12】

(一般式(1A)または(2A)中、Zは前記と同じであって、nは一般式(1A)または(2A)中に含有されるNH基の数と等しい。)であることが好ましい。
【0021】
本発明において、フェニレンジアミン誘導体の塩酸塩としては、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩、2,5−ジアミノー1,4−ベンゼンジチオール二塩酸塩、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩のいずれかであることが好ましい。
【0022】
なお、本発明において、フェニレンジアミン誘導体の塩としては、フェニレンジアミン誘導体の塩酸塩に限定されず、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、テレフタル酸塩、酢酸塩などの有機酸塩であってもよい。
【0023】
ポリイミドの製造に使用するテトラカルボン酸無水物は、芳香族または脂肪族酸無水物であり、構造に関して特に限定されないが、好ましいテトラカルボン酸無水物の例としては、例えば、無水ピロメリット酸、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明では、ポリイミドの重合反応性およびポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、該ポリイミドを重合する際に、上記フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩以外の芳香族ジアミン、あるいは脂肪族ジアミンを原料モノマーとして使用してもよい。但し、ポリイミドの重合反応性およびポリイミドの要求特性を考慮した場合、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩と、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩以外のジアミンと、の配合割合は、重量比で50:50〜100:0であることが好ましく、80:20〜100:0であることがより好ましい。
【0025】
本発明において、部分的に使用可能な芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン。
【0026】
3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン。
【0027】
2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン。
【0028】
1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらのジアミンは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明において、部分的に使用可能な脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、4、4‘−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランスー1,4−ジアミノシクロヘキサン、シスー1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,0]デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロププロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミンなどが挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0030】
本発明のポリイミドを製造する際のモノマー混合比(モル比)は、(テトラカルボン酸無水物)/(フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩を含むジアミン)の表記方法で、好ましくは0.800〜1.200/1.200〜0.800、より好ましくは0.900〜1.100/1.100〜0.900、更に好ましくは0.950〜1.150/1.150〜0.950である。
【0031】
本発明のポリイミドは、500nmにおける光線透過率が50%以上であることが好ましい。ポリイミドの、500nmにおける光線透過率が50%以上であると、有機EL基板などの透明性が必要な用途に好適に使用することができる。透明性が必要な用途に使用する場合、ポリイミドの、500nmにおける光線透過率は60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
【0032】
本発明のポリイミドは、固有粘度が0.3〜4.0dL/gであることが好ましく、0.5〜2.5dL/gであることが好ましい。
【0033】
また、本発明の分子末端封鎖のためにジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物、アニリン誘導体などの末端封止剤を用いることが出来る。本発明で好ましく用いられるのは、無水フタル酸、無水マレイン酸、エチニルアニリンであり、無水マレイン酸の使用がより好ましい。末端封止剤の使用量は、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩1モル当たり0.001〜1.0モル比である。
【0034】
本発明における還元剤は、標準酸化還元電位が−0.20volt以上、0.34volt以下の化合物であることが好ましく、0.0volt以上、0.20volt以下の化合物であることがより好ましい。還元剤の標準酸化還元電位が−0.20volt未満であると、フェニレンジアミン誘導体塩酸塩を初め、反応物の副反応を招く場合がある。また、還元剤の標準酸化還元電位が0.34voltを超えると、フェニレンジアミン誘導体塩酸塩の標準酸化還元電位が0.34voltであるため、効果が発揮されない場合がある。
【0035】
本発明において使用可能な還元剤の具体例としては、TiCl、CuCl、SnClなどの金属塩、次亜燐酸、チオ硫酸ナトリウムなどのリンまたは硫黄の還元性酸化物が挙げられる。この中で、特にTiCl、CuCl、SnClなどの金属塩化物は、使用量が少量であっても効果が大きいので好ましい。特にSnClおよびその水和物は、有機溶媒に可溶で、無色であるので、最も好ましい。
【0036】
本発明において、還元剤の配合量は、その種類により必要とされる量が様々であるが、少なくとも0.01重量%以上(還元剤重量/フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩の重量)含有していることが好ましく、0.1重量%以上含有していることがより好ましく、0.5重量%以上含有していることが特に好ましい。還元剤の配合量が0.01重量%未満では、還元剤による安定化の効果が充分出ない場合があり、還元剤の配合量が30重量%を超えると、その効果は充分であるが、コストの上昇を招くだけでなく、ポリマーの精製および廃液中に多量の還元剤が混入してくるなど、好ましくない点が多い。
【0037】
本発明のポリイミドを製造する際に使用する有機溶剤としては、原料モノマーおよび中間生成物であるポリアミド酸、生成物であるポリイミドのいずれも溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ハロゲン化フェノール類などがあげられ、これらの溶媒は,単独あるいは混合して使用することができる。極性有機溶媒の使用量は、仕込みモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、通常は1〜50質量%であり好ましくは5〜30質量%の固形分を含むものであればよい。
【0038】
ラクトン系重合触媒としては、γ―バレロラクトン、γ―ブチルラクトンあるいはγ―テトロン酸などが使用される。ラクトン系重合触媒の使用量は、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩の重量を基準として、0.001〜0.5重量%であることが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法では、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩と、テトラカルボン酸無水物と、を直接イミド化反応させる。この反応は、有機溶媒中で撹拌および/または混合しながら、室温から60〜250℃の温度範囲まで、10分〜30時間連続して進めた後、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両反応体の添加順序には特に制限はないが、フェニレンジアミン誘導体および/またはその塩類の溶液中にテトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法では、閉環触媒を用いることが好ましい。本発明で使用可能な閉環触媒の具体例としては、安息香酸、o−安息香酸、m−安息香酸、p−安息香酸などの芳香族カルボン酸、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどの複素環式第3級アミンなどが挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンを使用することが好ましい。閉環触媒の含有量は、(閉環触媒の含有量(モル))/(前駆体であるポリアミド酸の含有量(モル))で、0.01〜10.00となる範囲が好ましい。
【0041】
本発明の製造方法では、脱水剤を使用しても良い。例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられるが、効率よく脱水できるものであれば、特にこれらに限定されない。脱水剤の含有量は、脱水剤の含有量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)が0.01〜10.00となる範囲が好ましい。
【0042】
本発明の製造方法では、水を共沸させるために共溶媒を用いても良い。例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられるが、効率よく水を共沸させることができるものであればこれらに限定されない。
【0043】
本発明では、反応によって得られたポリイミドを適当な貧溶媒を用いて反応溶液から再沈殿させても良い。貧溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、水などが挙げられるが、効率よく再沈殿させることができるものであれば、特にこれらに限定されない。また、再沈殿した後の残存反応溶媒を除去する溶媒についても特に限定されないが、再沈殿させた際に用いた溶媒を使用することが好ましい。
【0044】
本発明では更に、ポリイミドの性能向上を目的として、ポリイミドに添加物を加えたポリイミド組成物としても良い。これら、添加物は、その目的によって様々であり、特に限定されるものではない。また、添加方法、添加時期においても特に限定されるものではない。添加物の例としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、などの金属酸化物、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウムなどのリン酸塩など、有機、無機の公知のフィラーが挙げられる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の実施の形態を説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0046】
(1)固有粘度(dL/g)
ポリイミドの固有粘度は、N,N−ジメチルアセトアミドに0.04g/20mLの濃度で溶解した後、25℃に調整して測定した。
【0047】
(2)接着性
室温でJISK5400の碁盤目試験に準じて塗膜に100個/cmの枡目を作成し、その上からセロハンテープを貼り付け、充分に転圧した後、セロハンテープを一気に剥離させて基材上に残った枡目の数により接着性を調べた。セロハンテープを剥離後、基材上に残った残留升目の数が多いほど、接着性に優れることを意味する。
(3)光線透過率
日本SHIMAZU社製紫外可視光分光光度計(UV−2450)を用い、ポリイミドのフィルム(膜厚約10μm)に500nmの光線を照射し、500nmにおける光線透過率(%)を測定した。
【0048】
実施例1
攪拌機を取り付けた100mLのセパラブル3つ口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取り付けることによって反応槽を構成し、この反応槽に、4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩(以下、DARという、2,13g)、塩化スズ0.20g、トリエチルアミン2.08g、オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAという)3.10g、γ―バレロラクトン0.2g、ピリジン0.16g、N−メチルー2−ピロリドン(以下、NMPという)25mLおよびトルエン8mLを入れ、室温および窒素ガス雰囲気において攪拌機で10分間攪拌した。
【0049】
次いで、反応槽の内容物を180℃に加熱昇温させて5時間攪拌した。反応溶液は透明、均一であった。その後、室温まで冷却した。なお、反応中に生成した水は、シリコンコックより外部へ排除した。
【0050】
次に、得られた反応液にNMP20mLを添加し、希釈した後、大量のメタノール中に投入することによって生成沈殿物を分離し、これに、粉砕、ろ過、洗清および減圧乾燥処理を順に施すことによって薄黄色なポリマーを採取した。このポリマーの赤外吸収スペクトルを測定したところ、1,715cm−1および1,785cm−1の吸収帯において明確なイミド環の特性吸収が認められ、ポリイミドであることが確認された。更に、ポリマーのH―NMRスペクトル(測定の際の溶媒はDMSO−d6)を測定したところ、10.1ppm付近でフェノール由来するピークが確認され、アミドNH由来するピークが消失したため、得られたポリマーはポリイミドであることが確認された。
【0051】
得られたポリイミドをNMP溶液に溶かし(約13wt%)、シリコンウエハにキャストしてから、250℃で1時間熱処理を行い、厚さ10μm付近のポリマーのフィルムを作製した。碁盤目試験にて接着性の評価を行った。得られたポリイミドの評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例2
実施例1で使用した反応槽に無水ピロメリット酸2.20g、2,5−ジアミノー1,4−ベンゼンジチオール二塩酸塩2.45gを等モルで入れた他、トリエチルアミン2.08g、γ―バレロラクトン0.2g、ピリジン0.16g、NMP25mLおよびトルエン8mLを収容し、実施例1と同一手順を経ることにより反応溶液を得た。この反応溶液を、実施例1と同様の処理を行い、ポリマーを採取し、このポリマーを実施例1と同様の方法で分析したところ、ポリイミドであることが確認された。得られたポリイミドの評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例3〜5
実施例1における塩化スズの代わりに表1に示す還元剤を添加した以外(実施例3:TiCl添加量0.2g、実施例4:CuCl添加量0.2g、実施例5:HPO添加量0.2g)は全て実施例1と同様の条件にして重合反応を行った。目的物であるポリイミドの生成はIRおよびNMRにより確認できた。
【0054】
比較例1
還元剤である塩化スズを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして重合反応を行ったところ、反応開始後まもなく、重合系は着色、濁り、暫くして真っ黒になった。反応終了後、黒色のポリマーが得られた。この黒色ポリマーをNMP溶媒に溶解させたところ、溶液は濁り、ポリマーの一部は不溶であった。
【0055】
比較例2〜3
実施例1における塩化スズに代えて、表1に示す還元剤を添加したこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行ったところ、反応進行とともに、重合系の着色が激しく、できたポリマーの色も濃かった。このポリマーをNMP溶媒に溶解させたところ、溶液は濁り、ポリマーの一部は不溶であった。また、Znを使用した比較例3では、水素が発生する危険性があり、操業が非常に困難であった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明によれば、酸無水物とフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩とからの直接イミド化反応に基づくとともに、上記一般式(3)或いは(4)の分子構造を与えることによって、保存安定性、溶解性および接着性に優れたポリイミドを提供することができる。本発明に係るポリイミドは、半導体デバイスなどの製造での電気、電子絶縁材料として、詳しくは、ICやLSIなどの半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜などへの用途展開に極めて有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩:
【化1】



【化2】



(前記一般式(1)または(2)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってよい。)と、テトラカルボン酸無水物と、の直接イミド化反応によって得られ、下記一般式(3)および(4)のいずれか少なくとも1つで表される繰り返し単位:
【化3】



【化4】


(前記一般式(3)または(4)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってもよく、Rはテトラカルボン酸無水物の残基である。)を含有し、500nmにおける光線透過率が50%以上であることを特徴とするポリイミド。
【請求項2】
還元剤の存在下で、下記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩:
【化5】



【化6】



(前記一般式(1)または(2)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってよい。)と、テトラカルボン酸無水物と、を直接イミド化反応させることにより、
下記一般式(3)および(4)のいずれか少なくとも1つで表される繰り返し単位:
【化7】



【化8】


(前記一般式(3)または(4)中、ZはO,SまたはNHを表し、互いに異なっていても同じであってもよく、Rはテトラカルボン酸無水物の残基である。)を含有するポリイミドの製造方法。
【請求項3】
前記還元剤に加えて、さらにラクトン系重合触媒の存在下で、前記一般式(1)および(2)のいずれか少なくとも1つで表されるフェニレンジアミン誘導体および/またはその塩と、テトラカルボン酸無水物と、を直接イミド化反応させる請求項2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項4】
前記還元剤の標準酸化還元電位が、−0.20volt以上、0.34volt以下である請求項2または3に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項5】
前記ラクトン系重合触媒が、γ―バレロラクトンである請求項3または4に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリイミドを成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2011−52064(P2011−52064A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200332(P2009−200332)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】