説明

ポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】幅方向の厚み変動幅の小さい肉厚のポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】ポリイミドフィルムであって、平均厚みTが75μm以上であり、かつ幅方向の厚み変動幅をDμmとしたときに、下式で示されるRが±2%以内である。
R(%)=(D/T)×100
ポリイミド樹脂前駆体であるポリアミック酸溶液を基材上に塗工し乾燥することによりポリイミドとしての平均厚みATが60μm以下であるポリアミック酸塗膜Aを形成し、塗膜Aの上に、さらにポリアミック酸溶液を塗工し乾燥することによりポリイミドとしての平均厚みBTが100μm以下であるポリアミック酸塗膜Bを少なくとも1層形成し、しかる後キュアする。
−80μm≦AT−BT≦20μmであることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚みが100μmを超える肉厚ポリイミドフィルムが、従来から知られている。例えば、ガラス板やポリエステルフィルムにて構成された基材上にポリアミック酸溶液を塗工後、乾燥、キュアすることにより、肉厚ポリイミドフィルムが得られる(特許文献1、2)。しかし、得られるポリイミドフィルムの厚み変動幅が大きいという問題があり、例えば、電子機器や複写機など精密機器の部品として使用された時の信頼性が充分に確保できない。これに対し特許文献3には、厚みムラを低減したポリイミドフィルムの記載がある。しかし、この場合は、実施例に示されている厚みは最大でも25μmである。
【0003】
以上のように、厚いポリイミドフィルムを想定した精度の高い厚み制御の方法はこれまで無く、ポリアミック酸溶液を連続的に塗工する場合には長さ方向の厚みを均一化することは装置の特性上容易であるが、幅方向の厚み変動幅が小さくしかも厚いフィルムを作製するのは困難である。
【0004】
一般に溶液流延法は厚み精度が高い製膜法であるが、フィルムが厚くなるほど脱溶媒に時間がかかり、流動性が保たれる。このため、風や傾きなどの影響を受け特に幅方向に厚みムラが生じやすく、この方法でも厚いフィルムを厚みムラなく作ることは難しい。
【特許文献1】特開2004−149591号公報
【特許文献2】特開2004−043831号公報
【特許文献3】特開2006−291079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、幅方向の厚み変動幅の小さい肉厚のポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成によるものである。
[1]平均厚みTが75μm以上であり、かつ幅方向の厚み変動幅をDμmとしたときに、式1で示されるRが±2%以内であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【0007】
R(%)=(D/T)×100・・・・・・・・・(式1)
【0008】
[2]上記[1]のポリイミドフィルムを製造するための方法であって、ポリイミド樹脂前駆体であるポリアミック酸溶液を基材上に塗工し乾燥することによりポリイミドとしての平均厚みATが60μm以下であるポリアミック酸塗膜Aを形成し、塗膜Aの上に、さらにポリアミック酸溶液を塗工し乾燥することによりポリイミドとしての平均厚みBTが100μm以下であるポリアミック酸塗膜Bを少なくとも1層形成し、しかる後キュアすることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【0009】
[3]ATとBTとを、式2で示される関係とすることを特徴とする[2]のポリイミドフィルムの製造方法。
−80μm≦AT−BT≦20μm・・・・・・・・・(式2)
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、厚み変動幅の小さな肉厚ポリイミドフィルムを得ることができる。この厚み変動幅の小さな肉厚ポリイミドフィルムは、電子機器や複写機など精密機器の部品として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリイミドフィルムは、平均厚みTが75μm以上であり、かつ幅方向の厚み変動幅をDμmとしたときに、下記の式1で示されるRが±2%以内、好ましくは±1.5%以内であることを特徴とする。
【0012】
R(%)=(D/T)×100・・・・・・・・・(式1)
【0013】
本発明において、平均厚みTは、長さ1m以上のポリイミドフィルムロールより、その長さ方向に沿った任意の位置における厚みを、フィルム幅方向の両端部それぞれ10mmを除いた幅方向の全範囲において10mmの間隔でポイント測定し、測定値を算術平均することにより得られるものである。
【0014】
また本発明において、厚み変動幅Dは、平均厚みTと前記範囲での最大厚みとの差、および平均厚みTと前記範囲での最小厚みとの差をそれぞれ算出することで求められる二つの値である。
【0015】
本発明において、RはDに対応して最大と最小の二つの値となるが、このRは平均厚みTとの乖離を示す指標である。なお、本発明においては、ポリイミドフィルムロールの長さ方向に沿った複数の位置でそれぞれ最大のRと最小のRとを求め、求めた複数の最大のRのうちの最も大きな値Rmaxと、求めた複数の最小のRのうちの最も小さな値Rminとを用いて評価することができる。
【0016】
本発明でいうポリイミド樹脂前駆体であるポリアミック酸とは、加熱硬化によってイミド結合を生じ、下記構造式(1)で示される構成単位を有するポリイミド樹脂となるものをいう。そのような化合物であれば如何なるものも用いることができるが、例えば、下記構造式(2)で示されるポリアミック酸を用いることができる。ポリアミック酸は、通常、ポリアミック酸と溶媒とからなるポリイミド樹脂前駆体溶液として製造することができる。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
構造式(1)、(2)において、Rは4価の有機残基を示し、R′は2価の有機残基を示す。
【0020】
ポリイミド樹脂前駆体溶液として製造するための溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒、エーテル系化合物、水溶性アルコール系化合物が挙げられる。
【0021】
非プロトン性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド等が挙げられる。
【0022】
エーテル系化合物としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
水溶性アルコール系化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0024】
これらの溶媒は、2種以上を混合して用いることができる。これらの溶媒のうち、特に好ましい例としては、単独溶媒としてはN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。混合溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミドとN−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンとメタノール、N−メチル−2−ピロリドンと2―メトキシエタノール等の組み合わせが挙げられる。
【0025】
次に、ポリイミド樹脂前駆体の製造方法について説明する。まず、ポリアミック酸からなる溶液は、たとえば、下記構造式(3)で示される芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記構造式(4)で示される芳香族ジアミンとを、上記溶媒例えば非プロトン性極性溶媒中で反応させることにより、製造することができる。
【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
構造式(3)において、Rは4価の芳香族残基を表す。また構造式(4)において、Rは2価の芳香族残基を表す。
【0029】
上記反応においては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの割合は、ジアミン1モルに対してテトラカルボン酸二無水物1.04〜0.96モルが好ましく、より好ましくはジアミン1モルに対しテトラカルボン酸二無水物1.03〜0.97モルである。また、反応温度は、−20〜80℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0030】
上記反応において、モノマー及び溶媒の混合順序は、特に制限はなく、いかなる順序でもよい。溶媒として混合溶媒を用いる場合は、個々の溶媒に別々のモノマーを溶解又は懸濁させておき、それらを混合し、撹拌下、所定の温度と時間で反応させることによっても、ポリアミック酸からなる溶液を得ることができる。このポリイミド樹脂前駆体の溶液は、2種類以上混合して用いることもできる。
【0031】
上記構造式(3)で示される芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,4,9,10−テトラカルボキシペリレン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンの二無水物等が挙げられる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0032】
本発明において、特に好ましい芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸または3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸を用いることができる。これらは単独でまたは混合して用いることができる。
【0033】
上記構造式(4)で示される芳香族ジアミンの具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス(アニリノ)エタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノベンゾエート、ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5−ジアミノナフタレン、ジアミノトルエン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノアントラキノン、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシフェニル)ジフェニルスルホン、1,3−ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5−ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7−ビス(アニリノ)テトラデカフルオロヘプタン等が挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0034】
本発明において、特に好ましい芳香族ジアミンとして、p−フェニレンジアミン、または4,4′−ジアミノジフェニルエーテルを用いることができる。これらは単独でまたは混合して用いることができる。
【0035】
本発明においては、ポリイミド樹脂前駆体の溶液を製造する際に、重合性不飽和結合を有するアミン、ジアミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸の誘導体を添加して、熱硬化時に橋かけ構造を形成させることができる。不飽和化合物としては、マレイン酸、ナジック酸、テトラヒドロフタル酸、エチニルアニリン等を使用できる。
【0036】
ポリイミド樹脂前駆体の合成条件、乾燥条件、その他の理由等により、ポリイミド樹脂前駆体中に部分的にイミド化されたものが存在していても、特に支障はない。
【0037】
ポリイミド樹脂前駆体組成物には、必要に応じて、界面活性剤、有機シラン、顔料、導電性のカーボンブラックや金属微粒子のような充填材、摩滅材、誘電体、潤滑材、他の重合体等を添加することができる。これらは、通常、ポリイミド樹脂前駆体溶液の段階で添加することができる。
【0038】
本発明でいう、ポリイミド樹脂前駆体であるポリアミック酸溶液を塗工するための基材としては、銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン又はそれらの合金等の金属箔;フッ化エチレンフィルム;ポリイミドフィルム;ガラス繊維織物などが挙げられ、熱硬化工程に耐えうる材質であれば特に限定されない。好ましくは、アルミニウム、ステンレスである。基材の厚さは25〜300μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。
【0039】
基材の塗布面は、平滑であることが好ましい。平滑度が低い場合、ポリイミドフィルムと基材との接着強度が向上し、剥離工程でのハンドリング性の低下が懸念される。なお、上記した基材の市販品等を適宜選んで使用すれば、特に問題はない。
【0040】
基材上へのポリイミド樹脂前駆体溶液の塗布は、任意の塗工機を用いて行うことができる。たとえば、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、バーリバースロールコーターなどを用いて行うことができる。
【0041】
ポリイミドとしての平均厚みが60μm以下、好ましくは20〜50μmになるように、基材上にポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布し、所定の条件で乾燥させてポリアミック酸塗膜Aを形成する。さらにこの塗膜Aの上に、ポリイミドとしての1層分の平均厚みが100μm以下、好ましくは50〜80μmとなるようにポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布し、所定の条件で乾燥させる。これにより、ポリアミック酸塗膜Aの上にポリアミック酸塗膜Bを形成する。ポリアミック酸塗膜Bは、少なくとも1層積層つまり2層以上積層することができる。すなわちポリアミック酸塗膜Bを2層以上積層する場合は、1層目の乾燥した塗膜上に、同様にポリイミドとしての1層分の平均厚みが100μm以下、好ましくは50〜80μmとなるようにポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布し、所定の条件で乾燥を行うことを繰り返す。
【0042】
塗膜Aと塗膜Bのそれぞれのポリイミドとしての平均厚みAT、BTが式2の関係を満たすとき、肉厚のポリイミドフィルムの厚みムラを小さくすることができる。
−80μm≦AT−BT≦20μm・・・・・・・・・(式2)
【0043】
AT−BTが20μmを超えた場合は、すなわちATがBTより20μmを超えて厚い場合は、基材上に塗膜Aを製膜する際に大きな厚みムラが生じやすく、その塗膜Aの上にATより20μmを超えて薄い塗膜Bを積層しても塗膜Aに発生した厚みムラが残ってしまうため、得られるフィルムの厚み変動幅が大きくなる傾向にある。逆にAT−BTが−80μmを下回る場合は、すなわちBTがATより80μmを超えて厚い場合は、薄い塗膜Aの上に極めて厚い塗膜Bを積層することになり、積層による厚みムラ軽減の効果は充分ではなくなり、最終的に得られるフィルムの厚み変動幅が大きくなる傾向にある。
【0044】
各層のポリイミド樹脂前駆体溶液は、同じであっても異なっていてもよい。塗布に用いるポリイミド樹脂前駆体溶液の固形分濃度や粘度は、塗布が可能な範囲であれば特に限定されない。しかし、固形分濃度は、5〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。また溶液粘度は、0.03〜40Pa・s/30℃が好ましく、より好ましくは0.05〜30Pa・s/30℃である。
【0045】
乾燥には、任意の装置を用いることができ、熱風乾燥機が好ましいが、赤外線加熱、電磁誘導加熱などを使用又は併用してもよい。乾燥のためには50〜200℃の温度範囲が適当である。
【0046】
乾燥は、好ましくは塗布直後に行い、塗布された塗膜全体の固形分濃度が60〜90質量%の範囲となるまで連続的に行う。このとき固形分濃度が60質量%未満であると、塗布面のべたつきのため、貼りつき等の問題が生じ、巻き取りやその後の作業を良好に行うことができにくくなる。また、固形分濃度が90質量%を超えていると、乾燥後にカールが大きくなり取り扱いが困難になりやすくなる。
【0047】
ポリイミド樹脂前駆体であるポリアミック酸は、キュア工程を経てポリイミドとなる。キュアの工程には、公知技術を適宜採用できる。乾燥後にスペーサーを挿入して伴巻し、基材の周間に隙間を設け、塗膜と基材が接触しない状態にすることにより、巻き状態でキュアを行うことができる。キュア温度は200℃以上、好ましくは300℃以上である。上限は450℃程度である。キュアの時間は2時間以上が好ましく、5時間以上がさらに好ましい。
【0048】
キュア後のポリイミドフィルムを基材から剥離する方法は、特に限定されない。機械的な方法として、例えば、巻き状態でキュアを実施した基材付きポリイミドフィルムの長さ方向に沿った片方の端部において、フィルム、基材のそれぞれを異なる巻芯に粘着テープ等で固定し、これらを異なる軸で巻き取ることにより、ポリイミドフィルムを基材から剥離させる方法が挙げられる。剥離前には、ポリイミドフィルムの長さ方向の端部からの裂けを防ぐために、その端部の不均一な厚み部分を各10mm程度スリットすることが好ましい。
【0049】
本発明が適用できるポリイミドフィルムの幅は、特に限定されないが、500mm〜3000mm程度である。また、フィルム長さについても、特に限定されないが、10m〜10000m程度である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
下記の実施例及び比較例におけるフィルム厚みは、次のようにして測定した。
【0052】
[厚み測定]
ユニオンツール社製のPCB板厚測定機を用い、ポリイミドフィルムロールにおける長さ方向に沿った所定の位置の厚みを、幅方向に沿った端部10mmを除く全範囲において、10mmの間隔でポイント測定した。
【0053】
フィルムの長さ方向に沿った測定位置は、次の通りとした。すなわち、フィルムロールの長さ方向に沿った一方の端部から、その長さ方向に100mmの位置を測定位置1とし、測定位置1から長さ方向に900mmの位置を測定位置2とし、以下、測定位置2から長さ方向に1000mm間隔ごとの位置を8点決めてそれぞれ測定位置3〜10とした。そして、測定位置10から長さ方向に900mmの位置を測定位置11とした。
【0054】
各測定位置において、平均厚みT、厚み変動幅Dをそれぞれ算出し、各測定位置におけるRの最大値とRの最小値とを求めた。そして、すべての測定位置1〜11におけるRの最大値のうちのもっとも大きな値Rmaxと、すべての測定位置1〜11におけるRの最小値のうちのもっとも小さな値Rminとを求めて評価した。
【0055】
[ポリイミド樹脂前駆体溶液の合成例]
4,4′−ジアミノジフェニルエーテル 564g、N−メチル−2−ピロリドン 5,000gを反応釜に入れ、これを室温中で5分間攪拌した後、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 813gを加え、70℃の湯浴中で2時間攪拌を行い、ポリアミック酸を含有する均一なポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。この溶液の固形分濃度は20質量%であった。これを、溶液aとした。
【0056】
[実施例1]
溶液aを、基材としての幅500mm、厚さ150μmのアルミ箔上に、幅が440mm、キュア後の塗膜厚みが30μmになるように、コンマコーターを用いて塗工し、140℃で14分間乾燥した。この塗膜上にさらに、同じく幅440mm、キュア後の1層分の塗膜厚みが70μmになるようにコンマコーターを用いて塗工し、140℃で14分間乾燥した。得られた幅500mm、長さ10mの積層材を、幅20mm、厚さ100μmのステンレス箔にピッチ間隔3mm、高さ1.5mmのコルゲート加工を施したスペーサー(実質厚み1.5mm)と伴巻しながら、アルミコアに巻き取った。スペーサーは、2本用い、積層材の幅方向の左右両端部に伴巻した。続いて、熱風イナートオーブン中で、窒素雰囲気下にて、80℃から10.5時間かけて290℃まで昇温させ、さらに290℃で0.5時間加熱してキュアを行った。次いで、冷却後、塗膜部分の端部各10mmを含むようにアルミ箔の幅方向の端部をスリットした。その後、キュアしたフィルムをアルミ箔より剥離して、幅420mm、長さ10mのポリイミドフィルムを得た。
【0057】
[実施例2〜9]
実施例1と比べて、表1に記載の厚みになるように塗工を施した。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0058】
[実施例10]
実施例1と比べて、次の点を変更した。すなわち、表1に記載の厚みになるように1、2層目の塗工、乾燥を行った後、この塗膜上にさらに、同じく幅440mm、キュア後の1層分の塗膜厚みが70μmになるようにコンマコーターを用いて3層目を塗工し、140℃で14分間乾燥した。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0059】
[比較例1]
実施例1と比べて、1層目のキュア後の塗膜厚みが70μm、2層目のキュア後の塗膜厚みが30μmとなるようにした。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0060】
[比較例2]
実施例1と比べて、1層目のキュア後の塗膜厚みが10μm、2層目のキュア後の塗膜厚みが100μmとなるようにした。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0061】
[比較例3]
実施例1と比べて、1層目のキュア後の塗膜厚みが30μm、2層目のキュア後の塗膜厚みが110μmとなるようにした。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0062】
[比較例4]
実施例1と比べて、1層目のキュア後の塗膜厚みを80μmとした。しかし、2層目の塗工・乾燥は行わなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0063】
[比較例5]
実施例1と比べて、1層目のキュア後の塗膜厚みを同様に70μmとした。しかし、2層目の塗工・乾燥は行わなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0064】
[参考例1]
実施例1において、1層目のキュア後の塗膜厚みを30μmとした。しかし、2層目の塗工・乾燥は行わなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0065】
実施例1〜10、比較例1〜5および参考例1で得られたポリイミドフィルムの評価結果を表1および表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表1および表2に示すように、実施例1〜10では、Rがいずれも±2%以内と厚み変動幅の小さな肉厚ポリイミドフィルムが得られた。一般に厚い塗膜を作製する場合、厚み変動が大きくなる傾向があるが、参考例1のように1層目の厚み変動を小さくするためにこの1層目を比較的薄く形成した塗膜の上に、2層目の厚い塗膜を積層することにより、参考例1のものよりも肉厚のフィルムでありながら全体の厚み変動幅を小さくすることができた。実施例10では、塗膜Aの上に2層積層させて合計3層からなる構成になったが、全体の厚み変動幅の小さな肉厚のフィルムを作製することができた。
【0069】
これに対して、比較例1〜5では、いずれもRが±2%の範囲を超えた。すなわち比較例1は、1層目を比較例5と同様の条件で本発明の範囲を超えた70μmの厚みとしたところ、比較例5で見られるところの、その1層目の塗布・乾燥時に発生した大きな厚み変動が、2層目の塗布・乾燥後も残った。比較例2は、AT−BTが−80μmを下回っていたため、塗膜Aと塗膜Bを積層させることによる厚みムラ軽減の効果が十分ではなかった。比較例3は、2層目のポリイミドの平均厚みが100μmを超えており、そのため厚みムラが大きくなった。比較例4は、1層のみの塗膜であるが、基材上に厚み60μmを超えるポリイミド塗膜を1回の塗工で作製したため、幅方向の厚み変動幅を小さくすることが困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚みTが75μm以上であり、かつ幅方向の厚み変動幅をDμmとしたときに、式1で示されるRが±2%以内であることを特徴とするポリイミドフィルム。
R(%)=(D/T)×100・・・・・・・・・(式1)
【請求項2】
請求項1に記載のポリイミドフィルムを製造するための方法であって、ポリイミド樹脂前駆体であるポリアミック酸溶液を基材上に塗工し乾燥することによりポリイミドとしての平均厚みATが60μm以下であるポリアミック酸塗膜Aを形成し、塗膜Aの上に、さらにポリアミック酸溶液を塗工し乾燥することによりポリイミドとしての平均厚みBTが100μm以下であるポリアミック酸塗膜Bを少なくとも1層形成し、しかる後キュアすることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
ATとBTとを、式2で示される関係とすることを特徴とする請求項2記載のポリイミドフィルムの製造方法。
−80μm≦AT−BT≦20μm・・・・・・・・・(式2)

【公開番号】特開2010−94885(P2010−94885A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266927(P2008−266927)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】