説明

ポリイミド前駆体組成物及びポリイミド管状物

【課題】本発明の課題は、酸性カーボンブラックが再凝集することのない、安定した分散性を有するポリイミド前駆体組成物を提供するとともにこのポリイミド前駆体組成物を用いて成形したポリイミド管状物を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るポリイミド前駆体組成物は、少なくとも化学式(1):


(ここで、式中、Xは任意の連結基であり芳香核を含むのが好ましい)に示される繰り返し単位を含むポリイミド前駆体、有機極性溶媒、導電性物質及びカチオン性化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物と、このポリイミド前駆体組成物を成形してなるポリイミド管状物とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、機械的特性、耐熱性及び化学的特性に優れている。このため、ポリイミド管状物は、電子写真複写機やレーザービームプリンター等において、トナー画像の中間転写ベルトや熱定着ベルト等として好適に用いられている。
【0003】
このような電子写真記録装置では、現在、画像形成方式、とりわけカラー画像形成方式が、従来の転写ドラム方式から中間転写ベルト方式、すなわち、感光ドラム上に形成されたトナー画像をいったん中間転写ベルトに静電転写させた後に複写紙に再転写して熱定着させる方式に置き換わってきている。
【0004】
中間転写ベルトは、静電転写及び除電のため、半導体的な特性を有することが必要である。この半導体的な特性を付与するために、中間転写ベルトには、カーボンブラック等の導電剤が分散混入されている。
【0005】
このカーボンブラックを分散させたポリイミド管状物として、本出願人はすでに、高品位な転写画像を得るためのポリイミド管状物を提案している(例えば、特許文献1参照)。また、そのようなポリイミド管状物を得るために必要なポリイミド前駆体組成物についても提案している(例えば、特許文献1参照)。このようなポリイミド管状物は、抵抗率のばらつきが少なく、しかも印加電圧に対して抵抗率の変化が少ない。
【0006】
さらに、本発明者らは、上記のような特性を維持しつつもより安価に得られるポリイミド前駆体を開発した。具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物を用いたポリイミド前駆体である。
【0007】
しかし、ポリイミド前駆体の芳香族テトラカルボン酸骨格部分をピロメリット酸骨格に代えたため、その溶液中に酸性カーボンブラックを分散させようとしても酸性カーボンブラックが再凝集し、ポリイミド前駆体溶液の分散性が損なわれ、目的とする高品位な転写画像を形成することができるポリイミド管状物を得ることが困難になるという問題が新たに生じた。
【0008】
また、長時間安定して高画質なカラー複写を可能にする耐久性を付与するため、静電容量の値とそのばらつきの範囲とを規制した多層管状ポリイミドフィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような多層管状ポリイミドフィルムの原料となるポリアミド酸溶液中には、ピリジン系及びイミダゾール系の塩基性有機化合物が含有されている。
【0009】
しかし、特許文献2には、酸性カーボンブラックの再凝集という問題点はまったく指摘されておらず、その解決策も記載・示唆されていない。
【特許文献1】特許第3495317号公報
【特許文献2】特開2002−137317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、酸性カーボンブラックが再凝集することのない、安定した分散性を有するポリイミド前駆体組成物を提供するとともにこのポリイミド前駆体を用いて成形したポリイミド管状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るポリイミド前駆体組成物は、少なくとも化学式(1):

(ここで、式中、Xは任意の連結基であり芳香核を含むのが好ましい)に示される繰り返し単位を含むポリイミド前駆体、有機極性溶媒、導電性物質及びカチオン性化合物を含有する。
【0012】
また、本発明に係るポリイミド前駆体組成物では、導電性物質は、DBP吸収量が40cm3以上90cm3以下であり、かつ、比表面積100m2/g当たりの揮発分が2.0重量%以上である酸性カーボンブラックであり、メジアン径100nm以下に粉砕されて分散されているのが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るポリイミド前駆体組成物では、酸性カーボンブラックの最大粒子径が1μm以下であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るポリイミド管状物は、上記本発明に係るポリイミド前駆体組成物がイミド転化されてなるポリイミド樹脂から成っている。
【0015】
また、本発明に係るポリイミド管状物は、印加電圧100Vにおける表面抵抗率が108Ω/□以上1013Ω/□以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリイミド前駆体組成物には、カチオン性化合物が含まれる。このため、このポリイミド前駆体組成物では、ピロメリット酸骨格を有するポリイミド前駆体が含まれていても、酸性カーボンブラックが再凝集することなく安定した分散性が保持される。したがって、このポリイミド前駆体組成物をイミド転化し、成形してなる本発明のポリイミド管状物を、電子写真複写機やレーザービームプリンター等において、中間転写ベルト等として用いれば、中抜けのない高品位な転写画像を得ることができる。
【0017】
また、ピロメリット酸二無水物を原料モノマーとして用いることによって製造コストの低いポリイミド前駆体組成物およびポリイミド管状物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、少なくとも化学式(1):

(ここで、式中、Xは任意の連結基であり芳香核を含むのが好ましい)に示される繰り返し単位を含むポリイミド前駆体、有機極性溶媒、導電性物質及びカチオン性化合物を含有することが必要である。
【0019】
ところで、このようなポリイミド前駆体組成物には、ポリイミド管状物に所定の半導体的な電気抵抗特性を付与するため、導電性物質としてのカーボンブラックが混入されている。そして、このポリイミド前駆体組成物中、カーボンブラックは、微粉砕されて粒子径が小さく揃えられている。ところが、カチオン性化合物を含まないポリイミド前駆体組成物中でカーボンブラック粒子が微粉砕されると、カーボンブラック粒子は非常に活性化して不安定になり、カーボンブラック粒子同士が互いに衝突をくり返して再凝集しやすくなり、その結果、ポリイミド前駆体組成物の粘度が著しく高くなったりする。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、このようなポリイミド前駆体を用いた場合であっても、カチオン性化合物を添加すると、カーボンブラックの再凝集が防止されることによりカーボンブラックの分散性が安定化され、また、このようなポリイミド前駆体組成物をイミド転化して成形されるポリイミド管状物により目的とする高品位な転写画像を得ることができることを見出した。
【0020】
本発明において、カチオン性化合物とは、正の電荷をもつ疎水基を有する脂肪族(鎖式)アミン、芳香族(環式)アミン又はそれらの塩をいう。アミンとしては、特に、脂肪族アミンが好ましい。なぜなら、脂肪族アミンと酸性カーボンブラックのヒドロキシ基やカルボキシ基等とが溶液中で結合し、長鎖を形成しやすいからである。この長鎖の形成により、カーボンブラックの周囲に立体障害が生じ、カーボンブラックの粒子同士が衝突して再凝集することが防がれると考えられる。カチオン性化合物としては、一級アミン、二級アミン、三級アミン、四級アンモニウム塩及び環状アミン、又は、これらの塩を単量体とした化合物が挙げられ、具体例としてはアルキルアミン、アルキレンアミン、アリルアミン、脂環式アミン、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウム塩、アクリルアミド、アミドアミン、アミジン等を単量体とするカチオン性化合物が挙げられる。また、市販されているカチオン性化合物としては、例えば、「アジスパーPB711」(味の素ファインテクノ製)や「フローレンDOPA−15BHFS」(共栄社化学製)等が挙げられ好ましく用いることができる。カチオン性化合物の添加量は酸性カーボンブラックの添加量に対して40〜80重量%の範囲が好ましい。
【0021】
次に、本発明において用いられる導電性物質は、DBP吸収量が40cm3以上90cm3以下であり、かつ、比表面積100m2/g当たりの揮発分が2.0重量%以上である酸性カーボンブラックであることが好ましい。また、この酸性カーボンブラックは、メジアン径100nm以下に粉砕されて分散されるのが好ましい。酸性カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック法で製造されるカーボンブラック等を使用することができる。なお、DBP吸収量が40cm3未満では、カーボンブラックの微粉砕が難しくなり、抵抗率のばらつきが大きくなり、好ましくない。一方、DBP吸収量が90cm3を超えると、抵抗率の変化が大きくなりすぎり、好ましくない。ここで、DBP吸収量とは、カーボンブラック100gに対するジブチルフタレート(DBP)の吸収量をいい、JIS K6217に従って測定することができる。
【0022】
次に、本発明において、カーボンブラックは、酸性であることが必要である。なぜなら、酸性カーボンブラックは、ヒドロキシ基やカルボキシ基等の酸性官能基を有しているため、粒子としての濡れ性や分散性が向上するからである。このような極性基の量が多いほど、揮発分が多くなり、特に、比表面積100m2/g当りの揮発分が2.0重量%以上の場合には、ポリイミド前駆体組成物中でカーボンブラックが均一に分散しやすくなるので、好ましい。一方、揮発分が2.0重量%未満の場合には、後記する微粉砕機を使用しても微細に粉砕して、略均一に分散させることが難しい。ここで、カーボンブラックの比表面積はJIS K6217で規定されている低温窒素吸着法により測定される。また揮発分は、予め105度Cで吸着水分などを乾燥除去したカーボンブラックの重量から、950度Cで7分間加熱した後のカーボンブラックの重量を差し引き、乾燥処理後のカーボンブラックの重量に対するその差の割合を算出することで求められる。次に、本発明において、ポリイミド前駆体組成物中のカーボンブラックは、メジアン径が100nm以下であるのが好ましく、さらに、最大粒子径が1μm以下であるのが好ましい。かかる粒径に粉砕されることによりカーボンブラックがポリイミド前駆体溶液に略均一に分散し、部分的な抵抗率のバラツキの少ないポリイミド樹脂成形体(例えば、ポリイミド管状物)を製造するができる。なお、最大粒子径が1μmを越えるとポリイミド樹脂の抵抗率が環境(特に湿度)の影響を受けやすく抵抗率のバラツキが大きくなり、また、印加電圧の変化に対しても抵抗率の安定性も悪くなり、高品位な転写画像が得られなくなる。最大粒子径は、700nm以下であることがより好ましい。なお、ここでいう最大粒子径とは、二次凝集粒子の粒子径を意味する。カーボンブラックは、通常、一次粒子径が10nm〜50nm程度の粒子であるが、これらの一次粒子は二次凝集して粗大化する。また、本発明でいうメジアン径及び最大粒子径は、通常、二次凝集粒子の粒子径を意味するものである。この粒子径は、例えば島津製作所製のレーザー回折式粒度測定装置SALD−2100や堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を使用して測定することができる。
【0023】
本発明において、芳香族テトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物であることが必要である。本発明の狙いが、本出願人による特許文献1に記載した技術をさらに発展させて、より安価に得られるポリイミド前駆体組成物を開発することにあるからである。
【0024】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物を製造するに際して、ジアミンを単独でまたは混合して用いることができる。このようなジアミンとしては、例えば、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4'−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミンが挙げられる。
【0025】
本発明において、ポリイミド前駆体組成物の有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、フェノール類などを用いることができる。この溶媒にキシレン、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素類などを混合してもよい。
【0026】
本発明において、ポリイミド管状物は、上記ポリイミド前駆体組成物をイミド転化させて作製されることが必要である。上記本発明のポリイミド前駆体組成物をイミド転化させれば、酸性カーボンブラックの分散性の優れた、かつ、所期半導体特性を有する抵抗率のばらつきの少ないポリイミド管状物を得ることができるからである。
【0027】
本発明において、ポリイミド管状物は、印加電圧100Vにおける表面抵抗率が108Ω/□以上1013Ω/□以下であるのが好ましい。印加電圧100Vにおける表面抵抗率が108Ω/□未満では、トナー画像を中間転写ベルト上に帯電保持することができなくなり、複写紙に再転写することができなくなるからである。また、印加電圧100Vにおける表面抵抗率が1013Ω/□を超えると、中間転写ベルト上に帯電している静電荷を除電することができなくなるからである。表面抵抗率は、109Ω/□以上1012Ω/□以下であることが好ましい。なお、表面抵抗率は、JIS C2151の方法に従って、アドヴァンテスト社製のデジタル超高抵抗/微少電流計R8340/R8340Aを使用し、印加時間を30秒として測定できる。
【0028】
本発明において、ポリイミド前駆体組成物は、各種方法で製造し得るが、次のような方法で製造することが好ましい。
【0029】
まず有機極性溶媒中に、DBP吸収量が40cm3以上90cm3以下であり、かつ、比表面積100m2/g当りの揮発分が2.5重量%以上の酸性カーボンブラックを混合させる。次に、直径が0.3mm以上2.0mm以下であり、真比重が5.0以上9.0以下であるセラミックスや金属製の球状媒体を用いた媒体攪拌式湿式微粉砕機などの手段によって、その酸性カーボンブラックを最大粒子径が1μm以下になるように粉砕して、カーボンブラック分散液を得る。このカーボンブラック分散液に、カチオン性化合物を添加する。このカチオン性化合物添加カーボンブラック分散液を、ピロメリット酸二無水物と芳香属ジアミンとを極性溶媒中で重合させた結果得られるポリアミック酸溶液に混合し、スラリーを調製する。このスラリーに増粘剤(例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物等)を加えて増粘させ、本発明のポリイミド前駆体組成物を製造することができる。なお、微粉砕機としては、アシザワ株式会社製のLMZや株式会社シンマルエンタープライズ製のダイノーミル等を使用することができる。
【0030】
本発明において、ポリイミド管状物は、各種方法で製造し得るが、次のような方法で製造することが好ましい。
【0031】
研磨加工を施した金型の表面に、上記のようにして得られた本発明のポリイミド前駆体組成物を塗布する。次に、その金型よりも内径のわずかに大きいリング状ダイスを金型に外挿し、塗液を所定厚みに調整する。続いて、その塗液を加熱処理して、ポリイミド前駆体をイミド転化させる。冷却後、金型から塗膜を分離させることにより、本発明のポリイミド管状物を製造することができる。
【0032】
なお、金型から塗膜を分離、すなわち脱型させる際、その脱型を容易にするために、ピロメリット酸二無水物と芳香属ジアミン(例えばオキシジアニリン)とを極性溶媒中で重合して得られるポリアミック酸の塗膜の内側に、予め、より剛直な材質の塗膜(例えば、特許文献1に記載したポリイミド前駆体(3,3'、4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物とp−フェニレンジアミンからなるポリアミック酸)からなる塗膜)を形成しておくことが好ましい。このような2層構造の塗膜にしておけば、内側の剛直な材質の塗膜の存在によって、金型が冷却したとき、内側塗膜との収縮率の差によるクリアランスによって、容易に脱型できるからである。あるいは、単に金型の外側に離型剤を塗布しておいてから、本発明のポリイミド前駆体組成物を塗布しポリイミド管状物を形成するようにしてもよい。
【0033】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0034】
(1)ポリイミド前駆体組成物の作製
N−メチル−2−ピロリドンに酸性カーボンブラック(三菱化学製MA78:(DBP吸収量:70cm3、比表面積100m2/g当りの揮発分:2.6重量%)を9.5重量%混合し、ビーズミルを用いてカーボンブラックを最大粒子径が1μm以下になるように粉砕して、カーボンブラック分散液を得た。このカーボンブラック分散液に、カチオン性化合物として「アジスパーPB711」(味の素ファインテクノ製)を、カーボンブラック分散液中のカーボンブラックの固形分に対して50重量%添加しカチオン性化合物とカーボンブラックとの混合液を得た。
【0035】
一方、N−メチル−2−ピロリドン中でピロメリット酸二無水物とオキシジアニリンを重合させたポリアミック酸溶液を調製した。このポリアミック酸溶液の固形分は15重量%であった。次にポリアミック酸溶液中の固形分に対してカーボンブラックのみの固形分比率が18.6重量%になるように、カチオン性化合物とカーボンブラックとの混合液をポリアミック酸溶液に添加混合して500gのスラリーを調製した。このスラリーを室温で攪拌しながら、ピロメリット酸二無水物1gを徐々に添加して粘度900ポアズのポリイミド前駆体組成物を製造した。このポリイミド前駆体組成物をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製)を用いて測定した結果、平均メジアン径は87nmであった。また最大粒子径は0.15μmであった。
【0036】
(2)ポリイミド管状物の作製
表面に離型加工を施した外径60mm、長さ300mmの金属製金型外面に、上記(1)項で調製したポリイミド前駆体組成物を塗布し、金型の上部から内径61.5mmのリング状ダイスを外挿し通過させ、0.75mmの厚さでポリイミド前駆体組成物を塗布した。次に、このポリイミド前駆体組成物塗布金型を、横型回転装置に取り付け、120rpmで回転させながら、室温から90度Cまで昇温させ、90度Cの温度で1時間保持した。その後、この金型を熱風オーブンの中に入れ、120度Cで1時間保持した後、200度Cまで30分間で昇温させ、同温度で30分間保持した。次に280度Cまで30分間で昇温させ、同温度で30分間保持しイミド転化を完了させた。そして、その金型をオーブンから取り出して室温まで冷却した後、金型からポリイミド管状物を分離した。この結果、内径60mm、長さ250mm、平均厚み85μmのポリイミド管状物が得られた。このポリイミド管状物の表面抵抗率を、JIS C2151に従い、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340/R8340A(アドヴァンテスト製)を用いて測定した結果、印加電圧100Vにおける表面抵抗率は、1.4×1010Ω/□であった。また、印加電圧500Vにおける表面抵抗率は、5.8×109Ω/□であり、高電圧下でも安定した電気抵抗値を示した。すなわち、このような値の本発明のポリイミド管状物は、中間転写ベルトとして必要な抵抗特性を有することを確認した。
【0037】
(比較例1)
カチオン性化合物を添加しない以外は実施例1と同様の条件でポリイミド前駆体組成物を作製した。このポリイミド前駆体組成の平均メジアン径は28μmであり、最大粒子径は116μmであった。このように最大粒子径が大きくなったのは、カーボンブラックが再凝集を起こしたためと考えられる。このポリイミド前駆体組成物を用いて、実施例1と同様にポリイミド管状物を作製し、電気抵抗を測定した結果、印加電圧100Vにおける表面抵抗率は104Ω/□であった。この結果から、カーボンブラック分散液にカチオン性化合物を添加しない場合には、カーボンブラックが再凝集するため、転写ベルトとして必要な範囲の電気抵抗、いわゆる中抵抗が得られないと同時にカーボンブラックの再凝集物が中間転写ベルト表面で異物化し転写ベルトとして使用することができないことが判明した。
【0038】
(比較例2)
カーボンブラック分散液に、カチオン性化合物に代えてアニオン性化合物、「アジスパーPA111」(味の素ファインテクノ製)を、カーボンブラックに対し50重量%添加した以外は実施例1と同じ条件でポリイミド前駆体組成物を作製した。このポリイミド前駆体組成物のカーボンブラックの粒子径を測定した結果、平均メジアン径は38μmであり、最大粒子径は152μmであった。最大粒子径が大きくなったのは、カーボンブラックが再凝集を起こしたためと考えられる。このポリイミド前駆体組成物を用いて、実施例1と同様にポリイミド管状物を作製し、電気抵抗を測定したところ、印加電圧100Vにおける表面抵抗率は3.0×103Ω/□であった。したがって、カチオン性化合物に代えてアニオン性化合物を添加した場合には、中間転写ベルトとして必要な範囲の電気抵抗、いわゆる中抵抗が得られないことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも化学式(1):

(ここで、式中、Xは任意の連結基であり芳香核を含むのが好ましい)
に示される繰り返し単位を含むポリイミド前駆体と、
有機極性溶媒と、
導電性物質と、
カチオン性化合物と
を含有するポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記導電性物質は、DBP吸収量が40cm3以上90cm3以下であり、かつ、比表面積100m2/g当たりの揮発分が2.0重量%以上である酸性カーボンブラックであって、メジアン径100nm以下に粉砕されて分散している
請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記酸性カーボンブラックは、最大粒子径が1μm以下である
請求項2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物がイミド転化されてなるポリイミド樹脂から成っているポリイミド管状物。
【請求項5】
印加電圧100Vにおける表面抵抗率が108Ω/□以上1013Ω/□以下である
請求項4に記載のポリイミド管状物。

【公開番号】特開2007−332363(P2007−332363A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130040(P2007−130040)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】