説明

ポリイミド多孔質膜複合材料及びプロトン伝導膜

【課題】 耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れたポリイミドフィルムを基材として新たな機能を発現した新規な材料、及び前記のポリイミドフィルムを基材として耐熱性およびプロトン伝導性を有するプロトン伝導膜を提供する。
【解決手段】 ポリイミド多孔質膜の細孔内に高耐熱性の有機材料及び/または無機材料を充填し、物理的及び/又は化学的相互作用によりその形態を保持してなるポリイミド多孔質膜複合材料、及びポリイミド多孔質膜の細孔内に高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−の前駆体となるモノマ−もしくはマクロモノマ−を充填し、高分子量化または架橋などの化学反応を誘起することにより前記ポリマ−を生成させてなるプロトン伝導膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド多孔質膜を基材とし有機あるいは無機材料を細孔内に保持してなるポリイミド多孔質膜複合材料及びプロトン伝導性能を有するプロトン伝導膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質膜内細孔に異なる物質を充填保持することによって新たな機能を発現するする試みがなされている。例えば、ベ−スとなる多孔質膜として、セラミックスおよびポリマ−系多孔質膜を用いたものが知られている。これらの多孔質膜は、脆性(主としてセラミックス)、耐熱性、化学的安定性、力学物性、寸法安定性(主としてポリマ−)のいずれかが劣り、材料設計の自由度が少ないことが知られている。
【0003】
また、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池において、長期使用の際に問題となる耐クリ−プ性や電解質膜の水やメタノ−ル等のアルコ−ル類に対する膨潤は大きな課題であり、特に直接メタノ−ル型燃料電池の場合は、メタノ−ルの透過は起電力の低下をもたらし実用上大きな障害となっている。
【0004】
また、従来より、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れた高性能のガス分離膜として芳香族ポリアミド、ポリイミド−アミド、芳香族ポリイミドなどの分離膜が知られている。このような分離膜は、一方の面に緻密層を有し且つフィルム内部に数μm〜数十μmの孔が存在した不均一構造を有する多孔質膜である。フィルム表面に形成された緻密層はガスの分離能を発現するが、このようなガス分離膜を燃料電池の基材として用いた場合には、該緻密層がプロトン及び気体もしくは液体燃料の移動を妨げるために電池の充放電を阻害する障壁となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れたポリイミドフィルムを基材として新たな機能を発現した新規な材料、及び前記のポリイミドフィルムを基材として耐熱性およびプロトン伝導性を有するプロトン伝導膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、ポリイミド多孔質膜の細孔内に高耐熱性の有機材料及び/または無機材料を充填し、物理的及び/又は化学的相互作用によりその形態を保持してなるポリイミド多孔質膜複合材料に関する。また、この発明は、ポリイミド多孔質膜の細孔内に高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−の前駆体となるモノマ−もしくはマクロモノマ−を充填し、高分子量化または架橋などの化学反応を誘起することにより前記ポリマ−を生成させてなるプロトン伝導膜に関する。この明細書において、高耐熱性とは分解温度およびガラス転移温度が150℃以上であることを意味し、有機材料の場合には芳香族化合物を使用することによって達成される。また、この明細書においてポリイミドとはポリアミドイミド、ポリイミドなどのイミド基を主鎖中に有する高分子ポリマ−をいう。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、寸法安定性、耐熱性、ハンドリング性が高いポリイミド多孔質膜複合材料及びプロトン伝導膜が得られる。特に寸法安定性と機械的強度に優れているので、正極と負極との接合プロセスにおける作業性及び燃料電池スタックにおけるプロトン伝導膜の耐クリ−プ性を大きく向上させることができる。また、単体では形状保持力、機械的強度、寸法安定性が充分でないプロトン伝導材料を実用的な部材の形に容易に成型ができるので、プロトン伝導性部材の材料設計の自由度を大幅に広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下にこの発明の好ましい態様を列記する。
1)高耐熱性の有機あるいは無機材料が、高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−の前駆体となるモノマ−もしくはマクロモノマ−を充填し、高分子量化または架橋などの化学反応を誘起することにより作製してなる前記のポリイミド多孔質膜複合材料。
2)高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−が、スルホン化ポリイミドである前記のプロトン伝導膜。
3)高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−が、スルホン化ポリエ−テルである前記のプロトン伝導膜。
【0009】
この発明におけるポリイミド多孔質膜(フィルム)は、好適には両面に貫通した非直線性細孔を有するポリイミド多孔質膜である。このようなポリイミド多孔質膜は、例えばポリイミド前駆体0.3〜60重量%と溶媒99.7〜40重量%からなる溶液を調製し、前記溶液をフィルム状に流延し、溶媒置換速度調整材を介して凝固溶媒に接触させることによってポリイミド前駆体を析出、多孔質化した後、該ポリイミド前駆体多孔質フィルムを熱処理或いは化学処理して乾燥およびイミド化することによって得ることができる。
【0010】
前記のポリイミド前駆体とは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の好ましくは芳香族化合物に属するモノマ−を重合して得られたポリアミック酸或いはその部分的にイミド化したものであり、熱処理或いは化学処理することで閉環してポリイミド樹脂とすることができる。ポリイミド樹脂とは、後述のイミド化率が約50〜100%、特に80〜100%の耐熱性ポリマ−である。
【0011】
ポリイミド前駆体の溶媒として用いる有機溶媒は、パラクロロフェノ−ル、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、フェノ−ル、クレゾ−ルなどが挙げられる。
【0012】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分は、上記の有機溶媒中に大略等モル溶解、重合して、対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mLNMP)が0.3以上、特に0.5〜7であるポリイミド前駆体が製造される。また、重合を約80℃以上の温度で行った場合に、部分的に閉環してイミド化したポリイミド前駆体が製造される。
【0013】
ジアミンとしては、芳香族ジアミンであれば特に制限はないが、好適には4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、パラ−フェニレンジアミン(以下、p−PDAと略記することもある)、メタ−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル(以下、DADEと略記することもある)などの芳香族ジアミンが挙げられる。また、前記のジアミン成分としては、ジアミノピリジンであってもよく、具体的には、2,6−ジアミノピリジン、3,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジンなどが挙げられる。ジアミン成分は上記の各ジアミンを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0014】
前記のテトラカルボン酸成分としては、好適にはビフェニルテトラカルボン酸成分が挙げられ、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAと略記することもある)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、a−BPDAと略記することもある)が好ましいが、2,3,3’,4’−又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、あるいは2,3,3’,4’−又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の塩またはそれらのエステル化誘導体であってもよい。ビフェニルテトラカルボン酸成分は、上記の各ビフェニルテトラカルボン酸類の混合物であってもよい。
【0015】
また、上記のテトラカルボン酸成分は、ビフェニルテトラカルボン酸成分の一部あるいは全部をピロメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン,ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)チオエ−テルあるいはそれらの酸二無水物、塩またはエステル化誘導体などの芳香族テトラカルボン酸類で置き換えてもよい。またこれら芳香族テトラカルボン酸成分の一部あるいは全部を脂環族テトラカルボン酸、あるいはそれらの酸無水物、塩またはエステル化誘導体で置き換えてもよい。
【0016】
重合されたポリイミド前駆体は、前記有機溶媒に0.3〜60重量%、好ましくは1〜30重量%の割合で溶解してポリイミド前駆体溶液に調製される(重合溶液をそのまま用いても良い)。また、調製されたポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は10〜10000ポイズ、好ましくは40〜3000ポイズである。溶液粘度が10ポイズより小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、10000ポイズより大きいとフィルム状に流延することが困難となるので、上記範囲が好適である。
【0017】
ポリイミド前駆体溶液は、フィルム状に流延された後、例えば少なくとも片面に溶媒置換速度調整材を配した積層フィルムとされる。ポリイミド前駆体溶液の流延積層フィルムを得る方法としては特に制限はないが、該ポリイミド前駆体溶液を基台となるガラスや鏡面研磨されたSUS基板等の板上或いは可動式のベルト上に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整材で覆う方法、該ポリイミド前駆体溶液をスプレ−法或いはドクタ−ブレ−ド法を用いて溶媒置換速度調整材上に薄くコ−ティングする方法、該ポリイミド前駆体溶液をTダイから押出して溶媒置換速度調整材間に挟み込み、両面に溶媒置換速度調整材を配した3層積層フィルムを得る方法などの手法を用いることができる。
【0018】
溶媒置換速度調整材としては、前記多層フィルムを凝固溶媒と接触させてポリイミド前駆体を析出させる際に、ポリイミド前駆体の溶媒及び凝固溶媒が適切な速度で透過する事が出来る程度の透過性を有するものが好ましい。溶媒置換速度調整材の膜厚は5〜500μm、好ましくは10〜100μmであり、フィルム断面方向に貫通した0.01〜10μm、好ましくは0.03〜1μmの平均孔径である連通孔が十分な密度で分散しているものが好適である。溶媒置換速度調整材の膜厚が上記範囲より小さいと溶媒置換速度が速すぎる為に析出したポリイミド前駆体表面に緻密層が形成されるだけでなく凝固溶媒と接触させる際にシワが発生する場合があるので適当でなく、上記範囲より大きいと溶媒置換速度が遅くなる為にポリイミド前駆体内部に形成される孔構造が不均一となる。
【0019】
溶媒置換速度調整材としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロ−スなどを材料とした不織布或いは多孔膜などが用いられ、特にポリオレフィン製の微多孔質膜を用いた際に、製造されたポリイミド多孔質フィルム表面の平滑性及びポリイミド前駆体との剥離性に優れるので好適である。
【0020】
前記のポリイミド前駆体流延物は、溶媒置換速度調整材を介して凝固溶媒と接触させることでポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行う。ポリイミド前駆体の凝固溶媒としては、エタノ−ル、メタノ−ル等のアルコ−ル類、アセトン、水等のポリイミド前駆体の非溶媒またはこれら非溶媒99.9〜50重量%と前記ポリイミド前駆体の溶媒0.1〜50重量%との混合溶媒を用いることができる。非溶媒及び溶媒の組合わせには特に制限されるものではない。
【0021】
多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムは、ついで熱処理或いは化学処理によりイミドされる。ポリイミド前駆体フィルムの熱処理は、溶媒置換速度調整材を取り除いたポリイミド前駆体多孔質フィルムをピン、チャック或いはピンチロ−ル等を用いて熱収縮が生じないように固定し、大気中にて280〜500℃で5〜60分間行われる。
【0022】
ポリイミド前駆体多孔質フィルムの化学処理は、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物を脱水剤として用い、トリエチルアミン等の第三級アミンを触媒として行われる。また、特開平4−339835号公報のように、イミダ−ル、ベンズイミダゾ−ル、もしくはそれらの置換誘導体などのイミド化触媒を用いても良い。
【0023】
ポリイミド前駆体多孔質フィルムの化学処理は、ポリイミド多孔質フィルムを複層構成で製造する場合に好適に用いられる。複層ポリイミド多孔質フィルムは、例えば溶媒置換速度調整材として用いるポリオレフィン微多孔膜表面をポリイミド多孔質層との界面接着性を改良するためにプラズマ、電子線或いは化学処理した後、ポリイミド前駆体溶液流延物と複層化し、凝固溶媒との接触によってポリイミド前駆体溶液流延物を析出、多孔質化し、次いで化学処理を行うことで製造することができる。複層ポリイミド多孔質フィルムの化学処理は、積層する溶媒置換速度調整材の融点或いは耐熱温度以下の温度範囲で行われることが好ましい。
【0024】
熱処理あるいは化学処理したポリイミド多孔質フィルムのイミド化率は、50%以上、好ましくは75%以上である。イミド化率が50%より小さいと、加熱使用時に電池内で脱水による水分を発生させる可能性があるため適当でない。
【0025】
イミド化率は赤外吸収スペクトルを用いる方法(ATR法)により、740cm−1或いは1780cm−1のイミド基の特性吸収と、内部標準としてのフェニル基の1510cm−1の吸収との吸光度比を計算により求め、別に求めたイミド化率100%のポリイミドフィルムにおける対応する吸光度比との比率として百分率(%)の単位にて示した。
【0026】
このようにして製造されるポリイミド多孔質フィルム(膜)は、前記製造条件の選択によっても多少異なるが、両面に貫通した非直線性細孔を有し、好適には空孔率が10〜85%、平均孔径(表面開口部)が0.05〜1μmである。空孔率が低すぎると機能が十分でなく、また大きすぎると機械的強度が悪くなる。また、平均孔径が小さすぎると有機または無機材料の充填が困難となり、平均孔径が大きすぎると充填物を保持する能力が低下するので好ましくない。また、該ポリイミド多孔質フィルムは単層或いは複層のいずれの構成であってもよく、フィルム全体の膜厚が5〜100μm、ポリイミド多孔質層の耐熱温度は200℃以上、また、105℃で8時間熱処理した際の熱収縮率は±1%以下であるものが好ましい。
【0027】
この発明においては、前記のポリイミド多孔質膜の細孔内に、物理的及び/又は化学的相互作用を加えて細孔内に高耐熱性の、好適にはさらにプロトン伝導性能を有する有機あるいは無機材料を保持することが必要である。
【0028】
前記の高耐熱性の無機材料としては、例えばフラ−レン誘導体やゼオライトなどが挙げられる。また、高耐熱性でプロトン伝導性能を有する無機材料としては、例えば多数の酸性官能基を不加されたフラ−レン誘導体やSN−またはH−交換ゼオライトなどが挙げられる。
【0029】
前記の無機材料は、例えば充填される多孔質材料の孔径に比して十分に微粉末化した該プロトン伝導材料をアルコ−ル等の分散媒中に微分散させ、分散物を多孔質膜に滴下することにより保持させることができる。この際該無機材料の分散物中の含有量や、多孔質膜に滴下した後の後処理、または切り返し分散物を複数回繰り返して滴下、乾燥を繰り返すなどの操作を施すことにより、必要充分な量のプロトン伝導材料を充填することができる。
【0030】
前記の高耐熱性の、好適には更にプロトン伝導性能を有する有機材料としては、スルホン酸基と芳香族環を有するポリマ−、好適にはスルホン化ポリイミドあるいはスルホン化ポリエ−テルスルホンなど、特にスルホン化ポリイミドを挙げることができる。
【0031】
前記のスルホン化ポリエ−テルスルホンは、例えば特公昭42−7799号公報、特公昭45−21318号公報、特開昭48−19700号公報などに記載の方法で製造できる。すなわち、有機極性溶媒中、アルカリ金属化合物の存在下にジハロゲノジフェニルスルホン化合物と二価フェノ−ル化合物とを重縮合させる、あるいは、あらかじめ合成した二価フェノ−ルのアルカリ金属二塩とジハロゲノジフェニルスルホン化合物とを重縮合させることにより製造することができる。
【0032】
有機極性溶媒としては、重縮合温度において生成重合体を溶解すれば特に制限はない。例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、N−メチル−2−ピペリドンなどのピペリドン系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリノンなどの2−イミダゾリノン系溶媒、ヘキサメチレンスルホキシド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジフェニルエ−テル、ジフェニルスルホンなどのジフェニル化合物が挙げられる。
【0033】
前記のアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、あるいはアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。特に炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩が好ましい。アルカリ金属化合物は、重縮合反応前に、あらかじめ窒素ガス等の不活性ガス中、60〜500℃で、常圧あるいは減圧下、1分以上加熱処理したもの、N,N−ジメチルアセトアミド及び共沸溶媒中に分散したものを使用してもよい。
【0034】
前記のジハロゲノジフェニル化合物としては、スルホン基を有するジハロゲノジフェニル化合物、例えば、4,4’−ジクロルジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンなどのジハロゲノジフェニルスルホン類、1,4−ビス(4−クロルフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ベンゼンなどのビス(ハロゲノフェニルスルホニル)ベンゼン類、4,4’−ビス(4−クロルフェニルスルホニル)ビフェニル、4,4’−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ビフェニルなどのビス(ハロゲノフェニルスルホニル)ビフェニル類、などが挙げられる。特に、4,4’−ジクロルジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンなどのジハロゲノジフェニルスルホン類が好ましい。上記のジハロゲノジフェニル化合物は、二種類以上混合して用いることができる。
【0035】
前記の二価フェノ−ル化合物としては、ハイドロキノン、カテコ−ル、レゾルシン、4,4’−ビフェノ−ルの他に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジフェニルスルホン類、ジヒドロキシジフェニルエーテル類、ジヒドロキシジフェニルシクロアルカン類、あるいはそれらのベンゼン環の水素の少なくとも一つが、メチル基、エチル基、プロピル基などの低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基などの低級アルコキシ基、あるいは、塩素、臭素、フッ素などのハロゲンで置換されたものが挙げられる。特に、ハイドロキノン、4,4’−ビフェノ−ル、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンが好ましい。上記の二価フェノ−ル合物は、二種類以上混合して用いることができる。
【0036】
前記の各成分の使用量は特に制限はないが、アルカリ金属化合物の使用量は、二価フェノ−化合物のヒドロキシ基1モル当量に対して、アルカリ金属1モル当量以上、特に1.1モル当量以上が好ましい。二価フェノ−の使用量は、ジハロゲノジフェニル化合物1モルに対して、1モル以上、特に1.1モル以上が好ましい。
【0037】
重合温度は、通常140〜340℃が好ましい。反応中に副生する水は不活性ガス気流と共に、あるいは、共沸脱水剤と共に系外に流去させることが好ましい。共沸脱水剤の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、芳香族ハロゲン化合物が挙げられる。
【0038】
ハロゲノジフェニル化合物と二価フェノ−とを重縮合して得られるスルホン化ポリエテ−スルホンの還元粘度は、好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.2以上のものである。
【0039】
前記のスルホン化ポリイミドは、スルホン基を有する芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸成分とを反応させた後、イミド化することによって得られる。前記のスルホン基を有する芳香族ジアミンは、好適には特願2001−254725号明細書に記載の方法によって得ることができる。例えば、芳香族ジアミン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィドを(1)濃硫酸または発煙硫酸中で、細田、「理論製造染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化する方法、あるいは(2)二価フェノ−を濃硫酸または発煙硫酸中で、細田、「理論製造染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化後、特開平9−241225号公報などに記載の方法でニトロ基を有する芳香族ハライドと反応させてジニトロ化合物を合成し、その後、該ジニトロ化合物のニトロ基を還元することによってジアミン化合物とする方法、などによって合成することができる。
【0040】
前述の(1)の方法において原料として用いられるジアミンとしては、アミノ基の結合していない芳香環が電子吸引基と結合していないものであり、例えば、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタレンなどを挙げることができる。
【0041】
前述の(2)の方法において原料として用いることのできる二価フェノ−としては、芳香環が電子吸引基と結合していないものであり、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレンなどを挙げることができる。また、ニトロ基を有する芳香族ハライドとしては、2−クロロニトロベンゼン、3−クロロニトロベンゼン、4−クロロニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン、3−フルオロニトロベンゼン、4−フルオロニトロベンゼン、5−フロロ−2−ニトロトルエンなどを挙げることができる。
【0042】
前述のジアミンにおいてアミノ基の結合していない芳香環が電子吸引基と結合している芳香族ジアミンの場合、例えば、(3)二価フェノ−ルを発煙硫酸中で、細田、「理論製造染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化後、特開平9−241225号公報などに記載の方法でニトロ基を有する芳香族ハライドと反応させてジニトロ化合物を合成し、その後、該ジニトロ化合物のニトロ基を還元することによってジアミン化合物とする方法などによって合成することができる。
【0043】
前記の(3)の方法において用いることのできる二価フェノ−ルとしては、芳香環が電子吸引基と結合しているものであり、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどを挙げることができ、ニトロ基を有する芳香族ハライドとしては、前述と同様のものを挙げることができる。
【0044】
前記のジアミンの構造がアミノ基の結合していないフルオレン環骨格を有するスルホン酸基含有芳香族ジアミンの場合、例えば、(4)原料ジアミンを濃硫酸中で硫酸塩とし、その後、細田、「理論製造染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法で発煙硫酸を用いてスルホン化することによりスルホン化ジアミンを合成することができる。この時、用いられる原料ジアミンとして、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレンを挙げることができる。
【0045】
前記のスルホン基を有する香族ジアミンとしては、好適には4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、4,4’−オキシジアニリン−2,2’−ジスルホン酸などを挙げることができる。
【0046】
芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸成分との反応時に使用される芳香族ジアミンのアルカリ金属塩は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびハロゲンとの塩と反応させることにより容易に合成でき、該反応はスルホン化芳香族ジアミンの合成中、合成後、あるいは後述するポリイミドの合成後のいずれで行っても良い。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウムなどを挙げることができる。
【0047】
前記のスルホン化芳香族ポリイミドの合成に用いられる芳香族テトラカルボン酸成分としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる。これらのなかで、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物が耐久性の点から好ましい。
【0048】
前記のスルホン化芳香族ポリイミドの合成は特に限定されなく、特開平6−87957号公報、特開平10−168188号公報、特開平8−333451号公報、特開平8−333452号公報、特開平8−333453号公報、特表2000−510511号公報などに記載の公知の方法で合成することができる。
【0049】
スルホン化芳香族ポリイミドのスルホン酸基の含有量は、1g当り0.5ミリ当量以上、より好ましくは0.8ミリ当量以上、さらに好ましくは0.9ミリ当量以上、特に好ましくは1ミリ当量以上である。0.5ミリ当量より小さいとプロトン伝導度が低くなり、好ましくない。スルホン化ジアミンの一部をスルホン化されていない芳香族ジアミンで置き換えてもよい。このようなスルホン化芳香族ポリイミド共重合体の合成は、特開平6−87957号公報、特表2000−510511号公報などに記載の公知の方法で合成することができ、その構造はランダム共重合体および/またはブロック共重合体である。
【0050】
前記のスルホン化芳香族ポリイミドの合成は有機極性溶媒で行うことが好ましい。例えば、前記の有機極性溶媒として、フェノ−ル、o−、m−、p−クレゾ−ル、p−クロロフェノ−ルなどのフェノ−ル系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシドなどのスルホン系溶媒に各成分を溶解し、0〜100℃程度の温度で反応させてスルホン化ポリイミド前駆体とし、さらに80〜250℃程度の温度で10分〜20時間程度加熱してイミド化させてスルホン化ポリイミドを得ることができる。前記のスルホン化ポリイミドは、溶媒溶液として使用することが好ましい。この溶媒としては、フェノ−ル、o−、m−、p−クレゾ−ル、p−クロロフェノ−ルなどのフェノ−ル系溶媒が好ましい。
【0051】
この発明におけるプロトン伝導性能を有する有機材料を充填する方法としては、例えば前記のスルホン化ポリマ−あるいはその前駆体の有機溶媒を溶解し、その溶液を前述のポリイミド多孔フィルムに含浸させ、必要であれば加熱して前駆体を高分子量化した後、真空乾燥する各工程を繰り返し、スルホン化ポリマ−を充填する方法が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を示す。以下の各例において、各物性は次のようにして求めた。
1)プロトン伝導性:中央部に2.5mm幅のスリットが入り、スリットに沿って3mmの間隔で白金線を配置したテフロン(登録商標)板と、特に加工されていないテフロン(登録商標)板の間に、5mm幅のフィルムを挟み、所定温度の水中で、日置電機株式会社製3532LCRハイテスタを用いて、複素インピ−ダンス測定によりプロトン伝導度を求めた。
【0053】
2)熱分解温度:島津製作所製の島津TGA−50を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
3)ガラス転移温度:島津製作所製の島津TMA−50を用いて、幅5mm、長さ10mmのフィルムを荷重5gで引張り寸法の変化を測定して求めた。昇温速度は5℃/分。
【0054】
実施例1
(ポリイミド多孔質膜の作製)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とDADEとをモル比が0.998で且つ該モノマ−成分の合計重量が9.0量%となるポリイミド前駆体NMP溶液を、鏡面研磨したSUS板上に流延し、媒置換速度調整材としてポリオレフィン製微多孔膜(宇部興産社製;UP−3025)で表面を覆い、該積層物をメタノ−ル中続けて水中に浸漬した後、大気中にて320℃で熱処理を行い、次の特性を持つポリイミド多孔質フィルムを得た。膜厚:30μm、空孔率:45%、透気度:130秒/100ml、表面の平均孔径:0.14μm。
【0055】
4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルを98%硫酸処理した後に再結晶、濾別、乾燥して、得られた固体を水に溶解し、トリエチルアミンを加えて震って、分離した水層を乾燥し、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸のトリエチルアミン塩を得た。これに、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、トリエチルアミンおよび安息香酸を加え、80℃で4時間、180℃で20時間加熱撹拌し冷却後、貧溶媒で析出させることでスルホン化ポリイミド:PI−A(熱分解温度:270℃、Tg:250℃以上)を得た。PI−Aをm−クレゾ−ルに15重量%で溶解し、その溶液を前述のポリイミド多孔フィルムに含浸させ、真空乾燥する工程を4回繰り返し、スルホン化ポリイミド充填ポリイミド膜を製造した。この膜を1N−HCl水溶液に3時間漬浸してプロトン交換を行い、100℃で真空乾燥した膜の厚みは、38μmであった。60℃、相対湿度90%のイオン伝導度は2.1×10−2Scm−1であった。
【0056】
実施例2
ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、炭酸カリウムをN,N−ジメチルアセトアミドとトルエン中で加熱、撹拌し、プレポリマ−:PES−1を得た。また、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、4,4’−ビフェノ−ルおよび炭酸カリウムをN,N−ジメチルアセトアミドとトルエン中で加熱、撹拌し、プレポリマ−:PBP−1溶液を得た。別に、PES−1、炭酸カリウムよりPES−1のカリウム塩溶液を調整し、PES−1のカリウム塩溶液をPBP−1溶液に添加し、反応させ、コポリマ−:PES−b−PBPを得た。さらに、98%硫酸処理を行い、スルホン化ポリエ−テルスルホンポリマ−:BPS(熱分解温度:272℃、Tg:200℃以上)を得た。BPS溶液を前述のポリイミド多孔フィルムに含浸させ、真空乾燥の工程を繰り返すことでスルホン化ポリエ−テルスルホンポリマ−充填ポリイミド膜を製造した。この膜を1N−HCl水溶液に3時間漬浸してプロトン交換を行い、100℃で真空乾燥した膜の厚みは、36μmであった。60℃、相対湿度90%のイオン伝導度は1.3×10−2Scm−1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド多孔質膜の細孔内に高耐熱性の有機材料及び/または無機材料を充填し、物理的及び/又は化学的相互作用によりその形態を保持してなるポリイミド多孔質膜複合材料。
【請求項2】
高耐熱性の有機及び/または無機材料が、高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−の前駆体となるモノマ−もしくはマクロモノマ−を充填し、高分子量化または架橋などの化学反応を誘起することにより作製してなる請求項1に記載のポリイミド多孔質膜複合材料。
【請求項3】
ポリイミド多孔質膜の細孔内に高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−の前駆体となるモノマ−もしくはマクロモノマ−を充填し、高分子量化または架橋などの化学反応を誘起することにより前記ポリマ−を生成させてなるプロトン伝導膜。
【請求項4】
高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−が、スルホン化ポリイミドである請求項3に記載のプロトン伝導膜。
【請求項5】
高耐熱性でプロトン伝導性能を有するポリマ−が、スルホン化ポリエ−テルである請求項3に記載のプロトン伝導膜。

【公開番号】特開2008−56934(P2008−56934A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241775(P2007−241775)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【分割の表示】特願2002−147701(P2002−147701)の分割
【原出願日】平成14年5月22日(2002.5.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】