説明

ポリウレタンフォーム成形品の製造方法

【課題】シートパッドとして好適な、振動吸収特性に優れたポリウレタンフォーム成形品を安定して効率よく製造することができるポリウレタンフォーム成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】金型内で発泡樹脂原液を発泡させることによってポリウレタンフォーム成形品を製造する方法において、該金型の内面を合成樹脂フィルム3,4にて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用シートパッドを成形する方法等に適用されるポリウレタンフォーム成形品の製造方法に係り、詳しくは振動吸収特性が良好なポリウレタンフォーム成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車シートクッションの乗り心地性を向上させるためには、JASO B−407規定の振動伝達率特性に関して、人が不快と感じる振動数領域(4〜10Hz:評価値としては6Hzの振動伝達率が通常採用される)を大きく減衰させることが有効であるといわれている。特に6Hz前後の振動は、車酔いを起こす原因となる振動数といわれているため、ウレタンフォームからなる自動車用シートクッションパッドにおいても、前記振動伝達率を低く抑えるための開発が行われてきた。
【0003】
しかし、6Hzでの振動伝達率を低く抑えた従来のシートクッションパッドは、振動伝達率特性における、2〜4Hzに現れる共振倍率(共振ピーク)が大きいため、乗員が自動車シートクッションに着座して走行する際に、車体の振動によって身体の安定感がなくなり、身体が上下に振れる感覚を十分に防止することができなかった。
【0004】
こうした事情から、自動車をはじめとする車両用のシートクッションパッドは、乗員の車酔いや疲労を低減するために、6Hz付近での振動伝達率を低く抑えるだけでなく、より広い範囲の振動数においても低い振動伝達率を示すシートパッドの開発が試みられている。
【0005】
たとえば、ウレタンフォームの反発弾性を大きくして共振周波数を低下させ、上記6Hz近辺の振動吸収性を高める方法が試みられている。
【0006】
しかしながら、単に反発弾性を上げて共振周波数を低下させただけでは、6Hz近辺の振動吸収性は標準配合品よりも高くはなるが、逆に低周波領域の共振倍率が上がってしまう。このため、特に1〜3Hzの周波数帯域において入力振動が増幅され、かえって乗り心地性が悪化してしまうといった問題点があった。そこで、ウレタンフォーム発泡成形材料の配合組成を変えて減衰特性を高め、上記振動伝達特性を改善することが考えられるが、共振周波数は成形品の形状で決まるため、その度に適正な配合組成を選択する必要があるだけでなく、配合組成を大幅に変えないと振動伝達特性が変化しないため、伸びや耐久性などの他の物性が大きく変化してしまう恐れがあった。
【0007】
また、製泡力を高めるように配合調整すると、独泡(独立気泡)が強くなり、金型内圧が上がりすぎてバリが多くなったり、金型強度を上げないと成型できなくなったりする問題がある。
【0008】
このような問題点を解決した車両用シートとして、特開2002−52616号公報には、樹脂材料として、高反発弾性系のウレタンフォーム発泡成形材料を用いるとともに、発泡成形後に、ウレタンフォームの振動伝達特性を制御するべくクラッシュローラで破泡処理を施して、共振周波数を4Hz以下とし、かつ共振倍率を3以下としたものが記載されている。この車両用シートであれば、成形品の物性に悪影響を及ぼす可能性のある配合変更を行うことなく、車両用シートの振動伝達特性を向上させることが可能となる。
【特許文献1】特開2002−52616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1は、クラッシュローラーの厚みを調整することによって車両用シートパッドの振動吸収性を向上させるようにしたものであるが、パッドの厚みにクラッシュ(破泡される度合い)が左右され、その結果振動特性も一様にはならない。クラッシュが甘すぎるとシュリンク(泡の中のガスが冷えて縮む)してしまう。特にクラッシュローラーの幅に対して薄い小物にそのような傾向がある。また、小物については、クラッシュローラの隙間から落下するなどの製造上の問題もある。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、シートパッドとして好適な、振動吸収特性に優れたポリウレタンフォーム成形品を安定して効率よく製造することができるポリウレタンフォーム成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、金型内で発泡樹脂原液を発泡させることによってポリウレタンフォーム成形品を製造する方法において、該金型の内面を合成樹脂製としたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項1において、前記金型の内面に合成樹脂フィルムを設けることにより金型内面を合成樹脂製としたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項1又は2において、前記合成樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィン、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記成形品が車両用シートパッドであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記金型の内面の略全面が合成樹脂製であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によって製造されたポリウレタンフォーム成形品は、おそらくは金型内面が平滑であることに起因して、該成形品の表面(スキン層)にセル膜が残っている。このようにセル膜が残っていると、ポリウレタンフォーム成形品内部と外部(通常は大気)との間の空気の出入りが制限され、エアダンピング効果が強くなり、シートパッドとして好適な振動吸収特性を有したものとなる。即ち、振動伝達率のピークが6Hz付近よりも低周波数側となり、かつ振動伝達率が広い範囲の周波数において十分に低いものとなる。
【0017】
金型内面を合成樹脂製とするには、金型の内面に合成樹脂フィルムを設けるのが簡便で且つ低コストであり、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係るポリウレタンフォーム成形品としての自動車用シートパッドの製造方法に用いられる金型を説明する断面図である。なお、この金型は左右対称であるので、第1図では左半分のみが図示されている。右半分は、左半分と対称に現われる。
【0019】
この自動車用シートパッドを成形するための金型は、上型1と下型2とを備えている。この上型1と下型2はそれぞれアルミ又はアルミ合金などの金属材料よりなる。
【0020】
この上型1及び下型2の内面すなわちキャビティ面には、それぞれ合成樹脂フィルム3,4が設けられている。なお、この実施の形態では、フィルム3,4は予め各キャビティ面に倣った形状に賦形されている。
【0021】
このフィルム3,4は、取付手段例えば粘着剤、接着剤、両面テープなどによりキャビティ面に取り付けられている。なお、上型1及び下型2にそれぞれ適宜のクランプ機構を設けておき、このクランプ機構によってフィルムを固定するようにしてもよい。
【0022】
この実施の形態では、フィルム3,4によってキャビティ面の実質的に全面が覆われているが、キャビティ面の80%以上特に90%以上がフィルムで覆われていればよく、部分的にキャビティ面がフィルム3,4で覆われていなくてもよい。
【0023】
フィルム3,4の厚さは、薄すぎると破れ易く、厚すぎるとキャビティ面に密着させにくいので、0.1〜0.5mm特に0.1〜0.3mm程度であることが好ましい。
【0024】
合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン化ポリオレフィンのほか、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどが好適である。ポリテトラフルオロエチレンなどの各種のフッ素樹脂フィルムも用いることができる。
【0025】
シートパッドの発泡成形を行うには、下型2内にウレタン原液を供給した後、上型1を該下型2に装着して型締めを行い、ウレタンを加熱発泡させる。
【0026】
発泡後、型開きし、成形品を脱型する。各フィルム3,4は上型1及び下型2と一体となっており、成形品のみが取り出される。
【0027】
第1図に示すキャビティセンター部5ではシートパッドのうち尻下部、腿下部などの腰掛部が成形され、キャビティサイド部6ではシートパッドのサイド部(土手部)が成形される。
【0028】
成形されたシートパッドにあっては、成形品の表面(スキン層)にセル膜が残留し、空気の出入りが抑制され、エアダンピング効果が強くなり、シートパッドとして好適な振動吸収特性を有したものとなる。即ち、後述の実施例に見られるように、振動伝達率のピークが約4Hz付近となり、且つ振動伝達率が1〜10Hzの全域において十分に低いものとなる。
【0029】
本発明方法によって製造される自動車用シートパッドのポリウレタンフォームの密度は30〜80kg/m程度が好ましく、25%硬度は15〜35kgf/200mmφ程度が好ましい。
【0030】
本発明に従って自動車用シートパッドを製造する場合のウレタン配合原液の組成は、特に制限はなく、一般的に採用されている配合のものであればいずれも用いることができる。
【0031】
ウレタン配合原液の調製に用いるイソシアネート成分としては特に制限はなく、一分子中に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートであって、脂肪族系及び芳香族ポリイソシアネート化合物、更にこれらの変性物が包含される。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの変性物としては、カルボジイミド変性物、プレポリマー変性物が挙げられる。本発明において好ましいポリイソシアネートは、芳香族系ポリイソシアネート又は芳香族系ポリイソシアネートの変性物であり、特に好ましくはジフェニルメタンイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
ポリオール成分配合液はポリオール、触媒、整泡剤、必要に応じて添加されるその他の添加成分を配合して混合することにより調製される。
【0033】
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの低分子ポリオール;エチレンジアミン、4,4’−メチレン−ビス−2−クロロアニリン、4,4’−メチレン−ビス−2−エチルアニリンなどのアミン化合物又は低分子ポリオール若しくはアミン化合物にエチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加重合して得られる、ビスフェノールのプロピレンオキシド付加物などのポリエーテルポリオール;更には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの多価アルコールとフタル酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、テレフタル酸などの多塩基酸との縮合重合物であって末端に水酸基を有するポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ヒマシ油、トール油などを用いることができる。
【0034】
また、発泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に使用される全ての発泡剤が使用できる。例えば、低沸点不活性溶剤としてトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のフロン系化合物等、メチレンクロライド、液化炭酸ガス反応によってガスを発生するものとして水、酸アミド、ニトロアルカン等、熱分解してガスを発生するものとして重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等がある。これらのうち、好ましい発泡剤としては、メチレンクロライド、水等が挙げられる。
【0035】
整泡剤としては、シリコーンオイル等を用いることができる。
【0036】
触媒としては、通常のポリウレタンフォームの製造に使用される全ての触媒が使用できる。例えば、ジブチルチンジウラレート、スタナスオクトエート等の錫系触媒、トリエチルアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミン等の3級アミン類等が挙げられる。
【0037】
ポリオール成分配合液には、更に必要に応じて、難燃剤、その他の添加成分を配合しても良い。難燃剤としては、トリス(2−クロロエチル)フォスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)フォスフェート等のような従来公知の難燃剤の他、尿素、チオ尿素のような有機質粉末或いは金属水酸化物、三酸化アンチモン等の無機質粉末を用いることができる。また、その他の助剤としては、顔料、染料などの着色粉末、タルク、グラファイトなどの粉末、ガラス短繊維、その他の無機増量剤や有機溶媒などが挙げられる。
【0038】
なお、キャビティ面を合成樹脂とするので、離型剤は塗布する必要はない。
【0039】
本発明で用いるポリオール成分配合液の配合組成には特に制限はないが、例えば次のような配合組成とすることが好ましい。
ポリオール成分 :100
触媒 :0.1〜2.0
整泡剤 :0.1〜2.0
その他の添加成分 :5.0以下
【0040】
また、イソシアネート成分は、このようなポリオール成分配合液とイソシアネート成分とを混合して得られるウレタン配合原液のイソシアネートインデックスが、90〜110程度となるように混合することが好ましい。
【0041】
上記実施の形態では、フィルム3,4を用いているので、フィルムに破れが生じても交換が容易である。
【0042】
本発明では、フィルムの代わりに合成樹脂の成形品によってキャビティ面を構成してもよい。また、金型表面を樹脂コーティングしてもよい。ただし、コーティングの場合、強度、耐久性に問題があるので、フィルム又は成形品とする方が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0044】
実施例1
キャビティの大きさが400×400×100mmであり、キャビティ内面の全面に厚さ0.2mmのポリエチレン製のフィルムを貼り付けた金型を用いてポリウレタンフォーム成形品を製造した。表1に示す配合のポリオール成分配合液とイソシアネート成分とを混合して調製したウレタン配合原液を、金型に注入して発泡成形することにより、ポリウレタンフォームを製造した。この成形品の密度は60kg/m、25%硬度は23kgf/200mmφである。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例1
金型内面にフィルムを設けなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリウレタンフォーム成形品を製造した。
このようにして製造した各ポリウレタンフォーム成形品について振動伝達率特性を測定した結果を第2図に示す。また、このポリウレタンフォーム成形品の表面の顕微鏡写真を第3図に示す。
なお、振動伝達率の測定はJASO B−407に従って行った。
【0047】
第2図の通り、実施例の成形品は振動伝達率のピークが約4Hzであり、この4Hz付近の振動伝達率が比較例に比べて著しく低い。また、その他の振動周波数域においても振動伝達率が比較例と略々同等程度の低い値となっている。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態に係る成形方法を説明する断面図である。
【図2】実施例及び比較例の成形品の振動伝達率を示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例の成形品の表面の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0049】
1 上型
2 下型
3,4 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内で発泡樹脂原液を発泡させることによってポリウレタンフォーム成形品を製造する方法において、
該金型の内面を合成樹脂製としたことを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記金型の内面に合成樹脂フィルムを設けることにより金型内面を合成樹脂製としたことを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記合成樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィン、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートであることを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記成形品が車両用シートパッドであることを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記金型の内面の略全面が合成樹脂製であることを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−275134(P2009−275134A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128414(P2008−128414)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】