説明

ポリウレタン樹脂形成性組成物、シール材及び中空糸膜モジュール

【課題】
成型加工性を維持したまま、生産性を向上することが可能なポリウレタン系結束材組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
ポリオール成分として、分子量が200以上、かつ、水酸基を含まないカルボン酸(b1)と、ヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)が含有されている硬化剤を用い、イソシアネート成分としてジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネートからなる主剤を使用することによって課題を解決することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂形成性組成物、当該組成物を用いたシール材及び中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空糸を分離膜とした中空糸膜モジュールは、水処理膜などの産業分野、血液処理などの医療分野などに多岐にわたって用いられている。特に家庭用浄水器、工業用浄水器、人工腎臓、人工肺などの用途にあっては、その需要が極めて増大している。その中でも、中空糸膜を集束した端部を接着固定する膜シール材として、常温での可撓性、接着性、及び耐薬品性に優れているポリウレタン樹脂を用いることが、広く知られている。
【0003】
膜シール材を得る方法として、例えば、イソシアネート成分として、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと記載する)のイソシアネート変性体を用い、ポリオール成分としてアミノアルコールを含有する硬化剤を用いたポリウレタン系シール結束材組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、当該先行文献記載のポリウレタン形成性組成物を使用して生産性を向上させようとすると、アミノアルコールの使用量を増やす必要がある。しかし、アミノアルコールの使用量を増やすと、得られるポリウレタン樹脂の硬度が高くなったり、ケースとの剥離を生じてしまったり、ケースが変形してしまう等の問題が生じてしまう。また、触媒を使用した場合、初期粘度が高くなってしまうため成型加工性が悪化したり、シール材として使用した場合に触媒が溶出されて人体に影響を及ぼす恐れが生じてしまう。
また、通常ポリウレタン系結束材組成物は、成型後に一定時間後キュアを行いポリウレタン樹脂をカットして製造される。その際に、ポリウレタン樹脂の硬度が高ければカッターの刃を痛めてしまうなどの問題も発生する。さらに、従来のポリウレタン系結束材組成物では、硬度発現までに多くの時間を要してしまうため、生産性が優れるものではなかった。
【0004】
また、オキシカルボン酸を含有するポリオール成分を使用したポリウレタン系の結束材組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、当該発明はイソシアネート成分に脂肪族系イソシアネートを使用しているため、反応性が悪く生産性の低下を招くなどの問題が生じる。また、成型収縮が大きくハウジング(容器)との剥離を生じてしまう。さらには、脂肪族系イソシアネートを使用した場合は、イソシアネート成分が高粘度化してしまい、成型時に充填性が悪くなってしまう等の問題も生じる。また、オキシカルボン酸を使用した場合、得られるポリウレタン樹脂が発泡を起こしてしまう等の弊害が生じてしまう。
【0005】
【特許文献1】特開平2−127413号公報
【特許文献2】特開昭63−319007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の背景を踏まえてなされたものである。
そこで本発明は、成型加工性を維持したまま、生産性を向上させることが可能なポリウレタン系結束材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリオール成分として、ヒマシ油脂肪酸(b1)と、ヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)が含有されている硬化剤を用い、イソシアネート成分としてジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネートからなる主剤を使用することによって、これらの上記課題解決の課題を解決することを見出した。
【0008】
本発明の内容は、以下(I)から(IX)の通りである。
(I) イソシアネート成分を含有する主剤(A)と、ポリオール成分を含有する硬化剤(B)とからなる中空糸膜モジュールシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物において;
主剤(A)が、ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネート(a1)であり、
硬化剤(B)を構成するポリオール成分として、分子量が200以上、かつ、水酸基を含まないカルボン酸(b1)とヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)が含有されていることを特徴とする中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(II) イソシアネート成分を含有する主剤(A)と、ポリオール成分を含有する硬化剤(B)とからなる中空糸膜モジュールシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物において;
主剤(A)が、ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネート(a1)と、活性水素含有化合物(a2)から得られるイソシアネート基末端プレポリマーであり、
硬化剤(B)を構成するポリオール成分として、分子量が200以上、かつ、水酸基を含まないカルボン酸(b1)と、ヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)が含有されていることを特徴とする中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(III) 触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の2時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が1.60以下である前記(I)又は(II)に記載の浄水器及び小型浄水器用及び医療用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(IV) 触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の5時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が0.6以下である前記(I)又は(II)に記載の浄水器及び小型浄水器用及び医療用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(V) 触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の2時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が1.60以下である前記(I)又は(II)に記載の工業用浄水器用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(VI) 触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の5時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が0.6以下である前記(I)又は(II)に記載の工業用浄水器用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
(VII) 前記(I)から(VI)のうちいずれか1つに記載の中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物の製造方法。
(VIII) 前記(I)から(VI)のうちいずれか1つに記載のポリウレタン樹脂形成性組成物を硬化して得られる中空糸膜モジュール用のシール材。
(IX)複数の中空糸膜の集束体の端部における中空糸膜相互の隙間が、前記(VIII)に記載のシール材により封止されてなる中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリウレタン樹脂形成性組成物を使用することにより、成型加工性を維持したまま、生産性を向上することが可能であり、中空糸膜モジュール用結束材として適度の硬度を有するポリウレタン樹脂を得ることが可能となる。また、触媒を使用しなくても生産性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
<ポリウレタン樹脂形成性組成物>
本発明のポリウレタン樹脂形成性組成物は、イソシアネート成分を含有する主剤(A)と、ポリオール成分を含有する硬化剤(B)とからなる。
【0011】
<主剤(A)>
本発明の組成物の主剤(A)は、イソシアネート成分としてジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネート(a1)、若しくは、(a1)を活性水素基含有化合物(a2)と反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーである。なお、低温での貯蔵安定性を考慮すると、イソシアネート基末端プレポリマーであるほうが好ましい。
【0012】
[活性水素基含有化合物(a2)]
前記イソシアネート基末端プレポリマーを得るために使用される活性水素基含有化合物(a2)は、低分子ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ヒマシ油系ポリオールなどのポリオールを挙げることができ、これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。この中でも、ヒマシ油系ポリオールを使用した方が耐薬品性、耐溶出物性が優れるので好ましい。
【0013】
「低分子ポリオール」としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−、1,3−または1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサングリコール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールAなどの2価のポリオール(低分子グリコール);例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークローズなどの3〜8価のポリオールが挙げられる。
低分子ポリオールの分子量は、通常50〜200とされる。
【0014】
「ポリエーテル系ポリオール」としては、上記低分子ポリオールを開始剤とし、これにアルキレンオキサイド(例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2〜8個のアルキレンオキサイド)を付加して得られる重合物が挙げられ、具体的には、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(以下PTMGと略す)、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合物であるチップドエーテル等が挙げられる。ポリエーテル系ポリオールの分子量は、通常200〜7000とされ、好ましくは500〜5000とされる。数平均分子量が500〜5000のポリエーテル系ポリオールを使用することにより、シール材の形成時(中空糸膜モジュールの製造時)の成型加工性に特に優れた組成物が得られる。
【0015】
「ポリエステル系ポリオール」としては、ポリカルボン酸(脂肪族飽和もしくは不飽和ポリカルボン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、リシノール酸、2量化リノール酸および/または芳香族ポリカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)と、ポリオール(上記低分子ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオール)との縮合重合により得られるポリオールが挙げられる。ポリエステル系ポリオールの数平均分子量は、通常200〜5000とされ、好ましくは500〜3000とされる。分子量が500〜3000のポリエステル系ポリオールを使用することにより、シール材の形成時(中空糸膜モジュールの製造時)の成型加工性に特に優れた組成物が得られる。
【0016】
「ポリラクトン系ポリオール」としては、グリコール類やトリオール類の重合開始剤に、ε−カプロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、ε−メチル−ε−カプロラクトン等、および/またはβ−メチル−δ−バレロラクトン等を、有機金属化合物、金属キレート化合物、脂肪酸金属アシル化合物等の触媒の存在下で、付加重合させて得られるポリオールが挙げられる。ポリラクトン系ポリオールの数平均分子量は、通常200〜5000とされ、好ましくは500〜3000とされる。数平均分子量が500〜3000のポリラクトン系ポリオールを使用することにより、シール材の形成時(中空糸膜モジュールの製造時)の成型加工性に特に優れた組成物が得られる。
【0017】
「ポリオレフィン系ポリオール」としては、ポリブタジエン、又はブタジエンとスチレンもしくはアクリロニトリルとの共重合体の末端に水酸基を導入したポリブタジエン系ポリオールが挙げられる。
【0018】
「ヒマシ油系ポリオール」としては、ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸とポリオール(上記低分子ポリオール及び/又はポリエーテルポリオール)との反応により得られる線状または分岐状ポリエステル、例えばヒマシ油脂肪酸のジグリセライド、モノグリセライド、ヒマシ油脂肪酸とトリメチロールアルカンとのモノ、ジ、またはトリエステル、ヒマシ油脂肪酸とポリプロピレングリコールとのモノ、ジ、またはトリエステル等が挙げられる。
ここに、「ヒマシ油」の主成分は、リシノール酸のトリグリセライドであり、「ヒマシ油」には水素添加ヒマシ油が含まれる。
また、「ヒマシ油脂肪酸」の主成分はリシノール酸であり、「ヒマシ油脂肪酸」には、水素添加ヒマシ油脂肪酸が含まれる。
また、「トリメチロールアルカン」としては、例えばトリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、トリメチロールヘキサン、トリメチロールヘプタン、トリメチロールオクタン、トリメチロールノナン及びトリメチロールデカンを挙げることができる。
ヒマシ油又はヒマシ油系変性ポリオールの数平均分子量は400〜3000であることが好ましく、更に好ましくは500〜2500とされる。数平均分子量が400〜3000のヒマシ油系変性ポリオール(b2)を使用して得られる組成物によれば、シール材に要求される物性(特に機械的特性)が良好な硬化樹脂を形成することができる。
【0019】
その他、末端にカルボキシル基および/またはOH基を有するポリエステルにアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等を付加反応させて得られるポリエーテルエステルポリオールも挙げられる。
【0020】
イソシアネート基末端プレポリマーのイソシアネート基含有量は、通常12〜27質量%とされ、好ましくは14〜25質量%、更に好ましくは15〜23質量%とされる。イソシアネート基含有量が12〜27質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーを使用することにより、シール材の形成時(中空糸膜モジュールの製造時)の成型加工性に特に優れた組成物が得られ、成型不良を生じることなく中空糸膜モジュールを製造することができる。
【0021】
<硬化剤(B)>
本発明の組成物の硬化剤(B)は、ポリオール成分として、分子量が200以上、かつ、水酸基を含まないカルボン酸(b1)と、ヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)を含有する。
【0022】
[カルボン酸(b1)]
(b1)は、分子量が200以上、かつ、水酸基を有さないカルボン酸である。好ましくは、分子量が230以上、かつ、水酸基を有さないカルボン酸であり、最も好ましいのは分子量が230〜350、かつ、水酸基を有さないカルボン酸である。分子量が200未満だと、ポリウレタン樹脂からの溶出物が多くなってしまう。
具体的には、分子量200以上の飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、分子量200以上の不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、カドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、DCO−FA(脱水ヒマシ油脂肪酸)、α−リノレイン酸、テトラ不飽和脂肪酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸等から選択される1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0023】
また、該(b1)の配合量は、硬化剤(B)に対して0.5〜35質量%の範囲が好ましい。硬化剤(B)中の(b1)の割合が0.5質量%未満だと、生産性向上の効果が不十分となってしまう。また、硬化剤(B)中の(b1)の割合が35質量%より多いと、硬化物の表面に酸成分がブリードアウトしたり、溶出物が規格値を超えてしまう等の弊害が生じてしまう。また、(b1)の配合量は、特に硬化剤(B)に対して0.8〜30質量%の範囲がより好ましい。この範囲の添加量で使用することにより、製造時のポリウレタン樹脂の初期反応率が大幅に向上し、ポリウレタン樹脂をカットするまでの時間が短くなるため生産性が向上する結果となる。
【0024】
[ヒマシ油、ヒマシ油系変性ポリオール(b2)]
(b2)としては、ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸とポリオール(上記低分子ポリオール及び/又はポリエーテルポリオール)との反応により得られる線状または分岐状ポリエステル、例えばヒマシ油脂肪酸のジグリセライド、モノグリセライド、ヒマシ油脂肪酸とトリメチロールアルカンとのモノ、ジ、またはトリエステル、ヒマシ油脂肪酸とポリプロピレングリコールとのモノ、ジ、またはトリエステル等が挙げられる。
ここに、「ヒマシ油」の主成分は、リシノール酸のトリグリセライドであり、「ヒマシ油」には水素添加ヒマシ油が含まれる。
また、「ヒマシ油脂肪酸」の主成分はリシノール酸であり、「ヒマシ油脂肪酸」には、水素添加ヒマシ油脂肪酸が含まれる。
また、「トリメチロールアルカン」としては、例えばトリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、トリメチロールヘキサン、トリメチロールヘプタン、トリメチロールオクタン、トリメチロールノナン及びトリメチロールデカンを挙げることができる。
【0025】
ヒマシ油又はヒマシ油系変性ポリオールの数平均分子量は400〜3000であることが好ましく、更に好ましくは500〜2500とされる。数平均分子量が400〜3000のヒマシ油系変性ポリオール(b2)を使用して得られる組成物によれば、シール材に要求される物性(特に機械的特性)が良好な硬化樹脂を形成することができる。
【0026】
ヒマシ油又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)の平均水酸基価は20〜450mgKOH/gであることが好ましく、更に好ましくは40〜350mgKOH/gとされる。
平均水酸基価が20〜450mgKOH/gのヒマシ油系変性ポリオール(b2)を使用して得られる組成物によれば、シール材に要求される物性(特に機械的特性)が良好な硬化樹脂を形成することができる。
中でも、平均水酸基価が40〜350mgKOH/gのヒマシ油系変性ポリオール(b2)を使用して得られる組成物によれば、シール材に要求される物性が良好な硬化樹脂を形成することができ、しかも、シール材の生産性、延いては、中空糸膜モジュール(濾過装置)の生産性の向上も図ることができる。
【0027】
硬化剤(B)には、(b1)、(b2)の他にその他の活性水素含有化合物を使用しても良い。
その他活性水素含有化合物としては、前記活性水素化合物(a2)や水酸基含有アミン系化合物(b3)が挙げられる。
【0028】
水酸基含有アミン系化合物(b3)としては、低分子ポリアミンや低分子アミノアルコール(例えば、アミノ化合物のオキシアルキル化誘導体である、N,N,N´,N´−テトラキス[2−ヒドロキシプロピル]エチレンジアミン、N,N,N´,N´−テトラキス[2−ヒドロキシエチル]エチレンジアミン等の、エチレンジアミン等のアミノ化合物のプロピレンオキサイドもしくはエチレンオキサイド付加物、モノ、ジおよびトリエタノールアミン、N−メチル−N,N´−ジエタノールアミン等)等といったアミン系化合物も挙げることができる。この中でも好ましいのは、エチレンジアミン等のアミノ化合物のプロピレンオキサイドもしくはエチレンオキサイド付加物であり、最も好ましいのは、N,N,N´,N´−テトラキス[2−ヒドロキシプロピル]エチレンジアミンである。N,N,N´,N´−テトラキス[2−ヒドロキシプロピル]エチレンジアミンを使用することにより、成型時の加工性向上、溶出物の低下等に効果を奏する。
【0029】
<主剤(A)と硬化剤(B)の混合割合>
本発明の組成物において、主剤(A)と硬化剤(B)の混合割合としては、主剤(A)を構成するイソシアネート成分の有するイソシアネート基と、硬化剤(B)を構成するポリオール成分の有する活性水素基とのモル比(イソシアネート基/活性水素基)が0.8〜1.6となるような割合であることが好ましく、更に好ましくは0.9〜1.2となるような割合、特に好ましくは1.0〜1.1となるような割合とされる。このような混合割合で得られる組成物によれば、耐久性に優れ、水中への溶出物の量がきわめて少ない硬化樹脂(シール材)を形成することができる。
【0030】
なお、本発明の組成物には、公知のウレタン化触媒が含有されていてもよい。
「ウレタン化触媒」としては、有機スズ化合物などの金属化合物系触媒;トリエチレンジアミン(TEDA)、テトラメチルヘキサメチレンジアミン(TMHMDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCHA)、ビスジメチルアミノエチルエーテル(BDMAEA)などの3級アミン触媒等を挙げることができる。ただし、前記水酸基含有アミン化合物(b3)のような主ポリオールとして使用できるものは本発明での触媒からは除くものとする。
【0031】
<シール材及び中空糸膜モジュール>
本発明のシール材は、本発明の組成物を硬化することにより得られる。
具体的には、主剤(A)と硬化剤(B)とからなる本発明の組成物を室温下に調製し、0℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃、更に好ましくは30℃〜60℃の温度条件下に、主剤(A)を構成するイソシアネート成分と、硬化剤(B)を構成するポリオール成分とを反応・硬化させることにより好適に形成することができる。
なお、ゲル化時間の短縮化や組成物の粘度低下を図る目的で、必要に応じて、混合前に、主剤(A)及び硬化剤(B)の各々を、30〜60℃に加温してもよい。
【0032】
本発明の中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜の集束体端部における中空糸膜相互の隙間を本発明の組成物により封止し、当該組成物を硬化させて本発明のシール材を形成し(これにより、当該シール材によって中空糸膜相互の隙間が封止される)、当該集束体をハウジング内に収容することにより製造することができる。
本発明の中空糸膜モジュール(中空糸膜型濾過装置)の具体的構造としては、特開平11−5023号公報に記載の構造を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの例によってなんら限定して解釈されるものではない。
【0034】
〔製造例1:主剤(A)の製造〕
温度計、攪拌機、窒素シール管、冷却管を備えた2Lサイズの4つ口フラスコの内部を窒素置換した。これに、MDI−1を141gと、MDI−2を561gとを仕込み、液の昇温及び攪拌を開始した。液温度が50℃に達したところで、下記のポリオール1を298gを添加し、窒素雰囲気下、70℃で3時間にわたり攪拌混合することによって反応させて、主剤(A)を構成するイソシアネート基末端プレポリマーを得た。以下、これを「主剤(A−1)」とする。主剤(A−1)のイソシアネート基含有量は17.5質量%、25℃における粘度は3000mPa・sであった。
【0035】
〔製造例2:主剤(A)の製造〕
温度計、攪拌機、窒素シール管、冷却管を備えた2Lサイズの4つ口フラスコの内部を窒素置換した。これに、MDI−1を199gと、MDI−3を505gとを仕込み、液の昇温及び攪拌を開始した。液温度が50℃に達したところで、下記のポリオール5を296gを添加し、窒素雰囲気下、70℃で3時間にわたり攪拌混合することによって反応させて、主剤(A)を構成するイソシアネート基末端プレポリマーを得た。以下、これを「主剤(A−2)」とする。主剤(A−2)のイソシアネート基含有量は20.0質量%、25℃における粘度は350mPa・sであった。
【0036】
〔硬化剤(B)の調製〕
カルボン酸(b1)と、ヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)と、水酸基含有アミン系化合物(b3)を、表1〜3に記載する配合比に従って混合して、硬化剤(B)を準備した。以下、これを「硬化剤(B−1)〜(B−22)」とする。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
上記の主剤、硬化剤を得るために使用した原料は下記のとおりである。
【0041】
(主剤用原料)
MDI−1:4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、NCO含有量=33.6%、「ミリオネートMT(商品名)」(日本ポリウレタン工業(株)製)
MDI−2:4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、イソシアネート基含有量=29.1%、「コロネートMX(商品名)」(日本ポリウレタン工業(株)社製)
MDI−3:4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、イソシアネート基含有量=28.6%、「ミリオネートMTL−C(商品名)」(日本ポリウレタン工業(株)社製)
C−HX:商品名「コロネートHX」(日本ポリウレタン工業(株)製)、脂肪族イソシア
ネート(ヘキサメチレンジイソシアネート)三量体含有量99.0質量%、ヘキサメチレンジイソシアネート単量体含有量1.0質量%以下、NCO含有量21.1質量%
脱水ヒマシ油脂肪酸:「DCO−FA(商品名)」(伊藤製油(株)社製)、分子量=280
オレイン酸:「1級オレイン酸(商品名)」(キシダ化学社製)、分子量=282
エルカ酸:「エルカ酸(商品名)」(東京化成工業(株)社製 、分子量=338
ヒマシ油脂肪酸:「CO−FA(商品名)」(伊藤製油(株)社製)、分子量=298 イソノナン酸:「イソノナン酸(商品名)」(東京化成工業(株)社製)、分子量=158
ポリオール1:「ヒマシ油 H−30(商品名)」(伊藤製油(株)製)、平均官能基数=2.7、水酸基価=160mgKOH/g
ポリオール2:「#1297X(商品名)」(伊藤製油(株)製)、平均官能基数=3、水酸基価=340mgKOH/g
ポリオール3:「#2105U(商品名)」(伊藤製油(株)製)、平均官能基数=4、水酸基価=320mgKOH/g
ポリオール4:「サンニックスGP−1500(商品名)」(三洋化成工業(株)製)、平均官能基数=3、水酸基価=112mgKOH/g
ポリオール5:「#1945U(商品名)」(伊藤製油(株)製)、平均官能基数=2、水酸基価=50mgKOH/g
水酸基含有アミン系化合物1:N,N,N´,N´−テトラキス[2−ヒドロキシプロピル]エチレンジアミン
【0042】
ここで、公称平均官能基数とはポリオールの製造メーカー等がカタログ等に記載している値、又はポリオールを得る際に用いられる開始剤の官能基数をいう。
【0043】
[ポリウレタン樹脂形成性組成物のMV−2値及びポットライフ]
実施例1〜18、比較例1〜7に係るポリウレタン樹脂形成性組成物(主剤と硬化剤との合計=100g、液温:医療用又は小型浄水用は45℃、工業用浄水器は25℃)の各々を、減圧脱泡(10〜20kPaで3分間)した後、25℃雰囲気下で、回転粘度計(B型、4号ローター)を用いて粘度上昇を追跡し、表4、5の混合比で主剤と硬化剤との混合を開始した時点から、2分後の混合粘度をMV−2(mPa・s)組成物の粘度が50000mPa・sに到達するまでの時間をポットライフ(秒)とした。結果を表4、5に記載する。
【0044】
〔硬度測定〕
実施例1〜18および比較例1〜に係るシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物の各々を、減圧脱泡(10〜20kPaで3分間)した後、表4、5記載の配合比で撹拌混合し、そのうち100gをポリプロピレン製のカップに仕込んだ。これを45℃で3日間静置キュアした後に脱型し、硬化物(硬化樹脂)を得た。得られた硬化物の各々について、25℃の温度条件下で、測定瞬間から10秒後のJIS−A硬度を測定した。また、硬度の測定結果を表4、5に示す。
【0045】
〔吸光度比〕
実施例1〜18および比較例1〜に係るシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物の各々を、減圧脱泡(10〜20kPaで3分間)した後、表4、5記載の配合比で撹拌混合し、そのうち30gをポリプロピレン製のカップに仕込んだ。その後、所定条件(50℃×2時間、又は、25℃×5時間)で養生させた後、硬化物の表層から約1mmの部分を切り出し、ATR法によりIR測定を行った(IR機器名:Avatar360(ThermoFisher社製)、ATR機器名:DuraScope(スミスディテクション社製))。
得られたIRチャートから、2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度(ピーク高さ)と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度(ピーク高さ)比を算出して吸光度比とした。この数値が低いものほど、残存イソシアネート基が少なく反応が進んでいることを示す。結果を表4、5に記載する。
なお、比較例5については、硬化物中にベンゼン環を有さないため、1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度(ピーク高さ)が現れないため測定不可とした。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
〔発泡状態の評価方法〕
得られた中空糸膜モジュールを観察し、シール材に泡の存在が認められないものを合格(○)、一つでもあれば不合格(×)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリウレタン樹脂形成性組成物の硬化物(シール材)は、前述のとおり、多くの優れた性能、とりわけ優れた低溶出物性を有する。従って、医療用、工業用分離装置を構成する中空糸膜モジュール(中空糸膜型濾過装置)用のシール材(結束材)として使用することができ、特に大型の中空糸膜モジュール用のシール材として好適に使用することができる。ここに、医療用、工業用分離装置としては、具体的には、血漿分離器、人工肺、人工腎臓、人工肝臓、家庭用・工業用水処理装置等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート成分を含有する主剤(A)と、ポリオール成分を含有する硬化剤(B)とからなる中空糸膜モジュールシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物において;
主剤(A)が、ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネート(a1)であり、
硬化剤(B)を構成するポリオール成分として、分子量が200以上、かつ、水酸基を含まないカルボン酸(b1)とヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)が含有されていることを特徴とする中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項2】
イソシアネート成分を含有する主剤(A)と、ポリオール成分を含有する硬化剤(B)とからなる中空糸膜モジュールシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物において;
主剤(A)が、ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はカルボジイミド変性体含有ジフェニルメタンジイソシアネート(a1)と、活性水素含有化合物(a2)から得られるイソシアネート基末端プレポリマーであり、
硬化剤(B)を構成するポリオール成分として、分子量が200以上、かつ、水酸基を含まないカルボン酸(b1)と、ヒマシ油及び/又はヒマシ油系変性ポリオール(b2)が含有されていることを特徴とする中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項3】
触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の2時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が1.60以下である請求項1又は2に記載の浄水器及び小型浄水器用及び医療用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項4】
触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の5時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が0.6以下である請求項1又は2に記載の浄水器及び小型浄水器用及び医療用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項5】
触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の2時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が1.60以下である請求項1又は2に記載の工業用浄水器用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項6】
触媒の添加なしに、主剤(A)と硬化剤(B)を混合させて得られるポリウレタン樹脂の5時間後の2270cm−1におけるイソシアネート基基準吸光度と1596cm−1における芳香族二重結合基準吸光度比が0.6以下である請求項1又は2に記載の工業用浄水器用中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか1つに記載の中空糸膜モジュール用ポリウレタン樹脂形成性組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のうちいずれか1つに記載のポリウレタン樹脂形成性組成物を硬化して得られる中空糸膜モジュール用のシール材。
【請求項9】
複数の中空糸膜の集束体の端部における中空糸膜相互の隙間が、請求項8に記載のシール材により封止されてなる中空糸膜モジュール。


【公開番号】特開2009−270053(P2009−270053A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123357(P2008−123357)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】