説明

ポリウレタン樹脂

【課題】低透湿性、低発ガス性、高クリーン性を保ちつつ、従来と同様の力学特性を有する帯電防止性を付与したポリウレタン樹脂を得ること。
【解決手段】本発明のポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリイソシアナート及び助剤を含む原料を反応硬化して得られるポリウレタン樹脂において、導電性高分子とイオン性耐電防止剤とを有する導電剤が添加されている。導電剤は常温固体かつ融点が150℃以上であり、導電剤における導電性高分子の比率が、50%以上90%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂に関し、特に、帯電防止特性を有するポリウレタン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータやハードディスクレコーダ等の電化製品に使用されているハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)は、HDD本体とカバーとの間にガスケット材を挟んだ構造を採っている。ガスケット材は、HDD内部の気密性を確保するために用いられている。HDD本体の性能を保つために、ガスケット材には非常に高い性能が求められている。
【0003】
ガスケット材は、第一に低透湿性であることが要求される。これは、ガスケット材を通して水分が内部に進入すると、HDDの機能に重大な影響を及ぼすからである。また、ガスケット材には、低発ガス性、高クリーン性(ガスケット材から微粒子が欠落したり、成分がブリードアウトしたりしないこと)等の性能に対する要求が高まってきている。発ガス性又はクリーン性が悪いと、HDD稼動時はHDD内部が高温になるため、ガスケット材中に低分子成分(シリコーン、硫黄、金属触媒、リン等)が存在するとガス化したり、ガスケット材から微粒子が欠落したり、成分がブリードアウトとしたりして、メディアを汚染してしまうからである。
【0004】
近年、ガスケット材には、低透湿性、低発ガス性、高クリーン性に加えて、静電気放電(ESD)対策の一つとして、導電性を付与すること(導電化)が望まれるようになってきている。これは、HDDのガスケット材に使用するウレタン樹脂は絶縁体であるため、静電気放電(ESD)が発生し、ディスクに損傷を与えてしまう場合があるからである。このESD対策として、ガスケット材に導電性を付与して静電気を逃がすことが望まれている。
【0005】
また、ポリウレタンをクリーンルーム目地材として使用する場合、絶縁性の高い樹脂を使用すると、静電気の蓄電によりゴミやほこりが付いてしまい、そのほこりやゴミがクリーンルーム内に入り込んでしまう。よって、高いクリーン度を保ちながらも、帯電防止効果を有する樹脂が必要である。
【0006】
ポリウレタン樹脂の導電化は、様々な分野で以前より研究が進められている。ポリウレタン樹脂に導電性を付与する方策としては、導電剤を樹脂又は樹脂原料に添加する方法が一般的である。
【0007】
例えば、特許文献1又は特許文献2に開示されているように、ポリウレタン樹脂やその原料にカーボンブラックやカーボンナノチューブ、グラファイトのような炭素系導電剤を添加する方法がある。特許文献1においては、熱可塑性ウレタンにカーボンブラック(ケッチェンブラックEC600)を0.3〜10wt%添加することによって、ポリウレタン樹脂の体積抵抗率を1E+6Ω・cmとしている。また、特許文献2においては、熱可塑性エラストマー100部にカーボンナノチューブを1〜50部添加することによって、ポリウレタン樹脂の体積抵抗率を1E+3〜1E+4Ω・cmとしている。これらのポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂中へのカーボンブラック等の添加量[wt%]自体は少ないが、表面積が大きく嵩が非常に高いため、帯電防止効果のある体積抵抗率レベルに到達するには非常に多くのカーボンブラック等の添加が必要となる。カーボンブラック等の添加量を増やすと、原料の粘度が高くなってしまう。また、カーボンブラック等の添加量を減らすと、所望する導電性が得られなくなってしまう。また、カーボンブラック等は凝集力が非常に強いため、熱硬化性樹脂中への分散が難しい。さらに、このようなポリウレタン樹脂は、安定的な導電性能が得られず、発泡させる場合に気泡が不均一になるという問題がある。
【0008】
また、ポリウレタン樹脂やその原料に酸化チタンや酸化亜鉛等の金属粉末を添加する方法がある。しかし、この方法によると、ポリウレタン樹脂に多量(30wt%以上)の酸化チタン等の添加が必要となり、ポリウレタン樹脂の物性へ悪影響を及ぼし、原料の増粘を招いてしまうという問題がある。
【0009】
また、特許文献3〜特許文献5に開示されているように、ポリウレタン樹脂やその原料に四級アンモニウム塩や、リチウム・カリウム・ナトリウムの金属塩等のイオン伝導機構を有するイオン伝導性導電剤を添加する方法がある。特許文献3においては、熱硬化性ポリウレタンに4級アミンを添加剤として添加している。特許文献4においては、熱硬化性ポリウレタンに鎖延長剤として添加するアミンの一部を4級化し添加している。また、特許文献5においては、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムとアクリロニトリルブタジエンゴムとを混練したゴム100部に対し、リチウム塩を0.01〜20部添加(最も好ましくは0.3〜44部)添加している。また、特許文献6には、ポリウレタン樹脂(フォーム〜エラストマー(密度800〜1300kg/m)を含む))やその原料にリチウム塩とカーボンブラックとを併用する方法が開示されている。特許文献6においては、樹脂中に、リチウム塩とカーボンブラックとを、リチウム塩:カーボンブラック=99:1〜3:97(質量比)として0.2〜8.0%添加することによって、1E+4〜1E+7Ω/□の電気抵抗率を得ている。一方、ポリオールの疎水性が高い(低透湿性を維持する)ので、これらの方法においては、これら添加物単体の添加では十分な導電性を付与できない。また、添加量を増やすとポリウレタン樹脂の透湿性が著しく低下し、また、反応が遅くなる。さらに、これらの添加物を大量に添加しても、導電性が十分なレベルまで到達できないという問題がある。
【0010】
また、特許文献7に開示されているように、ポリウレタン樹脂やその原料にポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンのような導電性高分子を添加・コーティングする方法がある。特許文献6においては、熱可塑性・熱硬化性樹脂にポリアニリンを10wt%でコーティングすることにより、電気導電率1E−8Scm-1を得ている。しかし、この方法においては、ポリアニリン単体を多量に添加することで帯電防止性能を発揮しており、また、添加量が多いため 反応性が低下するという問題がある。
【0011】
そこで、導電剤の添加量が少量でも十分な帯電防止性能を付与する方法として特許文献8に開示されている方法がある。この特許文献7には、電子伝導機構を有する導電剤とイオン伝導機構を有する導電剤とをポリウレタン原料中に共に添加する方法が開示されている。この方法によると、電子伝導性導電剤の添加量を低減し、環境安定性良く10E+6〜10E+11Ω・cmの体積抵抗率を得ることができる。しかし、この方法によると、低透湿性・低発ガス性を達成できるポリウレタン樹脂を得ることができないという問題がある。
【0012】
【特許文献1】特開2002−47410号公報
【特許文献2】特開平2−276839号公報
【特許文献3】特開平4−298518号公報
【特許文献4】特開平9−268213号公報
【特許文献5】特開2004−170814号公報
【特許文献6】特開2004−169001号公報
【特許文献7】特開平11―512020号公報
【特許文献8】特開平6−73286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、低透湿性、低発ガス性、高クリーン性を保ちつつ、従来と同様の力学特性を有する帯電防止性を付与したポリウレタン樹脂を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態によると、ポリエステルポリオール、ポリイソシアナート及び助剤を含む原料を反応硬化して得られるポリウレタン樹脂において、導電性高分子とイオン性帯電防止剤とを有する導電剤が添加されていることを特徴とするポリウレタン樹脂が提供される。
【0015】
前記導電剤は、常温固体かつ融点が150℃以上であってもよい。
【0016】
前記導電剤は、前記原料に分散させるようにしてもよい。
【0017】
前記導電性高分子は、ポリアニリンであり、前記イオン性帯電防止剤はリチウム塩であってもよい。
【0018】
前記導電剤における前記導電性高分子の比率が、50%以上90%以下であるのが好ましい。
【0019】
前記ポリウレタン樹脂に対する前記導電剤の添加量が1以上〜10wt%であるようにしてもよい。
【0020】
前記ポリウレタン樹脂に対する前記導電剤の添加量が2以上〜5wt%であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリウレタン樹脂は、低透湿性、低発ガス性、高クリーン性を保ちつつ、従来と同様の力学特性を有し、且つ帯電防止性を有するという優れた性質を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは、ポリエステルポリウレタンにおいて、添加剤として導電性高分子とイオン性帯電防止剤とを併用することによって、添加量が少量であっても導電性効果が得られ、力学特性の低下が起こりにくく、ウレタン硬化反応を阻害しないことを見出した。
【0023】
本発明のポリウレタン樹脂は、疎水性の高いポリエステルポリオールを主剤とするポリエステルポリウレタンに、電子伝導機構を有する導電性高分子(例えば、ポリアニリン)とイオン伝導機構を有するイオン性帯電防止剤(例えば、リチウムを含有する金属塩)を併用して添加することによって得ることができる。なお、本実施形態及び以下の実施例においては、電子伝導機構を有する導電性高分子としてポリアニリンを用い、イオン伝導機構を有するイオン性帯電防止剤としてリチウム塩を用いたが、これらに限定されるわけではない。
【0024】
本発明のポリウレタン樹脂においては、導電剤添加量を少量に抑えることができ、低透湿性、低発ガス性、クリーン度が高く、従来品と同等程度の力学特性を保持しつつ、帯電防止特性を付与することができる。
【0025】
また、本発明のポリウレタン樹脂の一形態において、ダイマー酸エステルポリオールを用いたポリウレタンは、低透湿性に優れ、低発ガス性、クリーン度が高く、従来品と同等程度の力学特性を保持しつつ、帯電防止特性を付与することができる。
【0026】
また、本発明のポリウレタン樹脂の一形態において、アジピン酸エスエルポリオールを用いたポリウレタンは、低透湿性に優れ、低発ガス性、クリーン度が高く、従来品と同等程度の力学特性を保持しつつ、帯電防止特性を付与することができる。
【0027】
本発明のポリウレタン樹脂に用いる導電性付与剤は、実質的に常温で固体状態であるものを用いる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明のポリウレタン樹脂の実施例について、比較例を参考にしながら具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明のポリウレタン樹脂の例に過ぎず、これら実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例におおては、部及び%は重量基準としている。
【0029】
また、以下の実施例における本発明のポリウレタン樹脂は、後述するポリオールと従来公知の多官能性イソシアネート、製泡剤、硬化触媒、発泡剤、架橋剤、着色剤、樹脂改質剤、難燃剤、紫外線吸収剤、耐久性改良剤等の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができるが、これらは特に限定するものではない。
【0030】
本発明のポリウレタン樹脂の実施例及び比較例におけるポリウレタン樹脂(ここでは、自己スキン付のポリウレタン)を次の工程を得て作製した。
【0031】
ポリエステルポリオール、ポリイソシアネート、触媒、その他添加剤からなる配合物を混合攪拌して得られた反応原料を、剥離処理を施したPETフィルム等の工程紙等剥離面に塗布バーを用いて均一に塗布後、上面にも剥離処理面がくるように工程紙を被せる。その後後、この反応原料を加熱オーブンに入れ、80℃×3分+100℃×3分で加熱し、硬化させ、自己スキンを形成したポリウレタン樹脂シート材を得た。なお、得られたポリウレタン樹脂の物性評価(密度、体積抵抗率、発ガス性、C硬度)は、常温で7日間エージングした試験片にて行った。なお、以下の実施例及び比較例において実施したポリウレタン樹脂の物性の評価方法は、以下のとおりである。
【表1】

【0032】
以下の本発明のポリウレタン樹脂の実施例及び比較例においては、以下のポリオール、導電性高分子としてポリアニリン及びイオン性帯電防止剤としてリチウム塩を用いた。
(ポリオール)
[ダイマー酸系ウレタン樹脂]
ダイマー酸エステル(OH価=92)100部/鎖延長剤5.0部/アミン触媒0.1部/チタン触媒0.2部/顔料2.0部/水1.0部/MDIindex105
[アジピン酸系ウレタン樹脂]
アジピン酸エステル(OH価=57)100部/鎖延長剤5.0部/アミン触媒0.1部/チタン触媒0.2部/顔料2.0部/水1.0部/MDIindex105
(ポリアニリン)
Panipol Oy製、分子量10万〜30万、粒子径10〜33μm、融点181℃
【化1】

(リチウム塩)
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム Li(CFSON、融点=235℃
【0033】
また、ポリアニリンとリチウム塩とを併用する代わりに、比較例として、導電性を付与するための添加剤として、KR−B(花王製、固形分(4級アンモニウムとリチウム塩との混合物)70%、溶媒(1,4−ブタンジオール)30%)用いた。
【0034】
(実施例1〜5及び比較例1〜5)
実施例1〜5及び比較例1〜5においては、ポリオールとしてダイマー酸エステルを用いた。実施例1〜5及び比較例1〜5における作製条件及び得られた物性について纏めたものを表2に示す。また、実施例1〜5及び比較例1〜5における作製条件及び得られた物性のうち体積抵抗率と発ガスについて纏めたものを図1(A)び(B)に示す。なお、以下の実施例及び比較例においては、添加物の添加量は、最終的に得られるポリウレタン樹脂に対するwt%で示した。
【表2】

【0035】
(実施例1)
ポリエステルポリオールであるダイマー酸エステル(OH価=92)100部と鎖延長剤5.0部、アミン触媒0.1部、チタン触媒0.2部、顔料2.0部、水1.0部、導電性高分子であるポリアニリンを最終的に得られるポリウレタン樹脂に対して0.7wt%、イオン性帯電防止剤であるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(以下「リチウム塩」と称す。)を最終的に得られるポリウレタン樹脂に対して0.3wt%となるように加えてよく攪拌した。この混合物にジフェニルメタンジイソシアネ−ト(以下「MDI」と略す、NCO=29.5%)をNCO/OH比1.05となる様に添加し、速やかに攪拌し剥離処理をしたPETフィルムに均一に塗布することで0.4g/cm3のポリウレタン樹脂から成るシート材を得た。この実施例1に係るポリウレタン樹脂は、体積抵抗値が3.3×1011Ω・cmと帯電防止性能が十分に得られ、且つ発ガス量が1.2μg/gと非常にクリーン性が高いものだった。また、この実施例1に係るポリウレタン樹脂のC硬度は25であり、添加剤を添加していないポリウレタン樹脂(比較例1)と比較して、同等の力学特性を有していた。
【0036】
(実施例2〜5)
ポリウレタン樹脂への導電剤の合計添加量を、1.0wt%、2.0wt%、5.0wt%、8.0wt%、10wt%(ポリアニリン/リチウム塩の比率はすべて70%/30%)と変更した以外は実施例1と同様に作製したポリウレタン樹脂から成るシート材を得た。これら実施例2〜5に係る本発明のポリウレタン樹脂は体積抵抗値が、それぞれ、1.9×109Ω・cm、1.1×108Ω・cm、3.6×107Ω・cm、2.1×107Ω・cmと帯電防止性能が十分に得られた。また、発ガス量が、それぞれ、1.3μg/g、1.6μg/g、1.7μg/g、1.7μg/gと非常にクリーン性が高いものだった。また、この実施例2〜5に係るポリウレタン樹脂のC硬度は、それぞれ、24、32、33、34であり、添加剤を添加していないポリウレタン樹脂(比較例1)と比較して、同等の力学特性を有していた。
【0037】
(比較例1)
導電剤を添加しないこと以外は実施例1と同様に作製したポリウレタン樹脂から成るシート材を得た。比較例1に係るポリウレタン樹脂の体積抵抗値は1.2×1014Ω・cm、発ガス量は0.95μg/g、C硬度は22であった。
【0038】
(比較例2)
比較例2においては、ポリウレタン樹脂への導電剤の合計添加量を、15wt%(ポリアニリン/リチウム塩の比率は70%/30%)と変更した以外は実施例1同様に作製したポリウレタン樹脂から成るシート材を得た。比較例2に係るポリウレタン樹脂の体積抵抗値は、1.9×107Ω・cm、発ガス量は1.8μg/g、C硬度は40であった。
【0039】
(比較例3〜5)
比較例3〜5においては、ポリアニリン/リチウム塩を用いる代わりに、導電剤としてKR−B(花王製、4級アンモニウム塩とリチウム塩の混合物)を樹脂中に、それぞれ、3.5wt%、7.0wt%、14wt%となるように添加した以外は実施例1同様に作製した。比較例3〜5に係るポリウレタン樹脂の体積抵抗値は、それぞれ、2.1×1013Ω・cm、1.8×1013Ω・cm、9.2×1012Ω・cm、発ガス量は、それぞれ、12.6μg/g、19.1μg/g、43.9μg/g、C硬度は、それぞれ、20、16,11であった。
【0040】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜5の結果を検討することにより、以下のとおり本発明に係るポリウレタン樹脂が優れた特性を発揮することがわかった。ここでは、図1を参照する。
【0041】
導電剤を添加していないブランク(比較例1)に比べて、実施例1〜5に係る本発明のポリウレタン樹脂においては、導電剤合計添加量1wt%以上10wt%以下で十分な体積抵抗率が得られた。また、比較例2に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤合計添加量15wt%でも体積抵抗は低下することが認められたが、この体積抵抗率は10wt%添加時と同程度であった。また、比較例2に係るポリウレタン樹脂においては、発ガスやC硬度は増加してしまった。よって、ポリアニリン及びリチウム塩の合計添加量は1wt%以上10wt%以下が好ましいことがわかる。また、実施例1〜5に係る本発明のポリウレタン樹脂においては、発ガス量はブランクに比べて大きな変化はなかった。一方、比較例3〜5に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤の添加量の増大と共に発ガス量が増加し且つC硬度が低下したが、一方、体積抵抗率はあまり低下せず、導電剤を添加した効果は見られなかった。
【0042】
(実施例6〜11)
実施例6〜11及び比較例6〜8においては、ポリオールとしてダイマー酸エステルを用い、最終的に作製されたポリウレタン樹脂へのポリアニリン及びリチウム塩導電剤合計添加量を3wt%で固定した。実施例6〜11及び比較例6〜8における作製条件及び得られた物性について纏めたものを表3に示す。
【表3】

【0043】
(実施例6〜11)
最終的に作製されるポリウレタン樹脂へのポリアニリン及びリチウム塩の導電剤合計添加量を3wt%で固定し、ポリアニリン/リチウム塩混合比を、それぞれ、50/50、60/40、70/30、80/20、90/10と変化させてポリウレタン樹脂シート材を合成した。導電剤添加量以外は実施例1に係る本発明のポリウレタン樹脂と同じ条件で作製した。これら実施例6〜10に係る本発明のポリウレタン樹脂の体積抵抗値は、それぞれ、9.1×108Ω・cm、8.0×108Ω・cm、5.8×108Ω・cm、4.3×108Ω・cm、6.3×108Ω・cm、6.1×107Ω・cmと帯電防止性能が十分に得られた。また、この実施例8及び11に係るポリウレタン樹脂の透湿性は、それぞれ、26.9時間、50.0時間であり、導電剤を添加しない比較例1の透湿性(27.4時間)と比較して時間の低下は見られなかった。なお、実施例11に係る本発明のポリウレタン樹脂は、実施例8に係る本発明のポリウレタン樹脂の高密度品(密度=1.0g/cm3)である。
【0044】
(比較例6〜8)
比較例6〜8に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤添加量以外は実施例1に係る本発明のポリウレタン樹脂と同じ条件で作製した。比較例6に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤としてリチウム塩のみをポリウレタン樹脂中に3wt%添加した。比較例7に係るポリウレタン樹脂においては、ポリアニリン/リチウム塩混合比=40/60としてポリウレタン樹脂中に3wt%添加した。比較例7に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤としてポリアニリン塩のみをポリウレタン樹脂中に3wt%添加した。比較例6〜8に係るポリウレタン樹脂の体積抵抗値は、それぞれ、8.1×1011Ω・cm、1.5×1011Ω・cm、9.5×109Ω・cmとなった。
【0045】
実施例6〜11に係る本発明のポリウレタン樹脂と比較例6〜8に係るポリウレタン樹脂とを比較すると、リチウム塩のみ(比較例6)あるいはポリアニリンのみ(比較例8)を単独で使用するよりも、ポリアニリンとリチウム塩を併用添加した実施例6〜11に係る本発明のポリウレタン樹脂の方が体積抵抗率が低下していることがわかる。また、ポリアニリンとリチウム塩導電剤混合比=40/60(比較例7)でも体積抵抗率は低下するが、導電剤をそれぞれ単独で添加した場合に比べると体積抵抗率が高かった。また、実施例8及び実施例11の結果より、ポリアニリンとリチウム塩を併用添加しても、十分に低い透湿性が得られた。よって、本発明のポリウレタン樹脂は、HDDのガスケット材やクリーンルームのシール材として最適なものであった。
【0046】
(実施例12〜17及び比較例9〜12)
実施例12〜17に係る本発明のポリウレタン樹脂及び比較例6〜8に係るポリウレタン樹脂においては、ポリオールとしてアジピン酸ポリエステルポリオールを使用した以外は、それぞれ、実施例6〜10並びに比較例1及び比較例6〜8と同様の条件によってポリウレタン樹脂シート材を作製した。実施例12〜17及び比較例9〜12における作製条件及び得られた物性について纏めたものを表4に示す。
【表4】

【0047】
(実施例12〜17)
最終的に作製されるポリウレタン樹脂へのポリアニリン及びリチウム塩の導電剤合計添加量を3wt%で固定し、ポリアニリン/リチウム塩混合比を、それぞれ、50/50、60/40、70/30、80/20、90/10、70/30と変化させてポリウレタン樹脂シート材を合成した。これら実施例12〜17に係る本発明のポリウレタン樹脂の体積抵抗値は、それぞれ、6.9×108Ω・cm、4.9×108Ω・cm、6.6×108Ω・cm、1.8×108Ω・cm、3.8×109Ω・cm、4.7×107Ω・cmと帯電防止性能が十分に得られた。また、これら実施例12〜17に係る本発明のポリウレタン樹脂の発ガス量は、それぞれ、4.2μg/g、4.0μg/g、4.0μg/g、3.8μg/g、3.7μg/g、4.1μg/gと非常にクリーン性が高いものだった。また、この実施例14及び17に係るポリウレタン樹脂の透湿性は、それぞれ、10.3時間、23.7時間であり、導電剤を添加しない比較例9の透湿性(11.3時間)と比較して、差が生じなかった。なお、実施例17に係る本発明のポリウレタン樹脂は、実施例14に係る本発明のポリウレタン樹脂の高密度品(密度=1.0g/cm3)である。
【0048】
(比較例9〜12)
比較例9〜12に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤添加量以外は実施例1に係る本発明のポリウレタン樹脂と同じ条件で作製した。比較例9においては、導電剤の添加を行わなかった。比較例10に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤としてリチウム塩のみをポリウレタン樹脂中に3wt%添加した。比較例11に係るポリウレタン樹脂においては、ポリアニリン/リチウム塩混合比=40/60としてポリウレタン樹脂中に3wt%添加した。比較例12に係るポリウレタン樹脂においては、導電剤としてポリアニリン塩のみをポリウレタン樹脂中に3wt%添加した。比較例9〜12に係るポリウレタン樹脂の体積抵抗率は、それぞれ、7.5×1013Ω・cm、1.1×1010Ω・cm、5.2×109Ω・cm、5.4×1011Ω・cmとなった。比較例9〜12に係るポリウレタン樹脂の発ガスは、それぞれ、2.2μg/g、4.7μg/g、4.2μg/g、3.6μg/gであった。
【0049】
実施例12〜17に係る本発明のポリウレタン樹脂は、体積抵抗率については、実施例6〜11に係る本発明のポリウレタン樹脂(ダイマー酸ポリエステルポリオールの場合)と同じ傾向が得られた(図2(A)及び(B)))。また、実施例12〜17に係る本発明のポリウレタン樹脂は、発ガス性は、実施例6〜11に係る本発明のポリウレタン樹脂に比べると高いものの、比較例3〜5のような著しい増加は見られなかった。
【0050】
ここで、上述の実施例及び比較例の結果について、導電剤中のポリアニリンの比率と体積抵抗率との関係を纏めたものを図3(A)及び(B)に示す。
【0051】
図3(A)は、ポリオールとしてダイマー酸エステルを用いた場合(実施例6〜10及び比較例1、7、8))の導電剤中のポリアニリンの比率と体積抵抗率との関係を纏めたものである。図3(A)から明らかなように、導電剤中のポリアニリンの含有比率が50%以上90%以下でポリウレタン樹脂の体積抵抗率の極端な低下が見られることがわかる。よって、ポリオールとしてダイマー酸エステルを用いた本発明のポリウレタン樹脂においては導電剤中のポリアニリンの含有比率が50%以上90%以下であることが好ましいことが分かる。
【0052】
一方、図3(B)は、ポリオールとしてアジピン酸エステルを用いた場合(実施例12〜16及び比較例9、11、12))の導電剤中のポリアニリンの比率と体積抵抗率との関係を纏めたものである。図3(B)から明らかなように、導電剤中のポリアニリンの含有比率が50%以上90%以下でポリウレタン樹脂の体積抵抗率の極端な低下が見られることがわかる。よって、ポリオールとしてアジピン酸エステルを用いた本発明のポリウレタン樹脂においては、導電剤中のポリアニリンの含有比率が50%以上90%以下であることが好ましいことが分かる。
【0053】
また、最終的に得られたポリウレタン樹脂中の導電剤量と体積抵抗率との関係(比較例1、並びに実施例1〜4及び実施例1と同様の条件でポリウレタン中の導電剤量を3wt%、4wt%、6wt%、7wt%、9wt%とした結果)について纏めたものを図4に示す。実施例1と同様の条件でポリウレタン中の導電剤量を3wt%(ポリアニリン:リチウム塩=2.1:0.9)、4wt%(ポリアニリン:リチウム塩=2.8:1.2)、6wt%(ポリアニリン:リチウム塩=4.2:1.8)、7wt%(ポリアニリン:リチウム塩=4.9:2.1)、9wt%(ポリアニリン:リチウム塩=6.3:2.7)と下場合の体積抵抗率は、それぞれ、5.8×108Ω・cm、5.8×108Ω・cm、1.7×108Ω・cm、5.3×107Ω・cm、4.4×107Ω・cm、2.9×107Ω・cmとなった。図4によると、ポリウレタン樹脂中のポリアニリン及びリチウム塩の合計量が1wt%以上であれば、十分に低い体積抵抗率が実現できることがわかる。また、より好ましくは、ポリウレタン樹脂中のポリアニリン及びリチウム塩の合計量が2wt%以上5wt%以下であれば、十分に低い体積抵抗率が実現できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリウレタン樹脂は、クリーン性が要求され、且つ帯電防止性能が必要とされる樹脂としてあらゆるものに適用することができる。本発明のポリウレタン樹脂は、HDD用ガスケット材、クリーンルームの目地材等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1〜5及び比較例1〜5における作製条件及び得られた物性のうち体積抵抗率と発ガスについて纏めたグラフである。
【図2】実施例12〜17及び比較例9〜12における作製条件及び得られた物性のうち体積抵抗率と発ガスについて纏めたグラフである。
【図3】実施例及び比較例における導電剤中のポリアニリンの比率と体積抵抗率との関係を纏めたグラフである。
【図4】ポリウレタン樹脂中の導電剤量と体積抵抗率との関係(比較例1、並びに実施例1〜4及び実施例1と同様の条件でポリウレタン中の導電剤量を3wt%、4wt%、6wt%、7wt%、9wt%とした結果)について纏めたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリオール、ポリイソシアナート及び助剤を含む原料を反応硬化して得られるポリウレタン樹脂において、導電性高分子とイオン性耐電防止剤とを有する導電剤が添加されていることを特徴とするポリウレタン樹脂。
【請求項2】
前記導電剤は、常温固体かつ融点が150℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項3】
前記導電剤は、前記原料に分散させることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項4】
前記導電性高分子は、ポリアニリンであり、前記イオン性帯電防止剤はリチウム塩であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項5】
前記導電剤における前記導電性高分子の比率が、50%以上90%以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂に対する前記導電剤の添加量が1以上〜10wt%であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂に対する前記導電剤の添加量が2以上〜5wt%であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のポリウレタン樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−239934(P2008−239934A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86925(P2007−86925)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】