説明

ポリウロン酸塩の製造方法

【課題】生分解性が良好な水溶性ポリウロン酸塩を、環境負荷の少ない方法で効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】結晶化度が30%以下である低結晶性の粉末セルロースを酸化させる工程を有する、下記構造で示されるポリウロン酸塩の製造方法。該低結晶性の粉末セルロースは、セルロース含有原料を粉砕機で処理して得られたものであることが好ましい。該酸化工程で、N−オキシル化合物の存在下、低結晶性の粉末セルロースを水系に分散させて酸化反応を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性が良好な水溶性ポリウロン酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子材料は、粒子の分散・安定化、凝集、粘度調整、及び接着等の機能を有し、様々な分野に応用されている。特にポリカルボン酸は安価に製造できる場合が多いため、多くの品種が製造、使用されている。
また、環境に対する意識が高まるにつれ、環境負荷の少ない材料が強く求められている。このような流れの中、再生可能な天然原料から製造される高分子材料等が開発されている。構造材料として用いられる高分子材料は、廃棄された場合、回収が可能で、リサイクルやリユースが可能となる。
【0003】
一方、水溶性高分子材料の多くは、使用後の回収が困難であるため、環境負荷を小さくするために生分解性が求められており、種々の生分解性水溶性高分子が提案されている。その一つとして、水溶性多糖類やその誘導体が挙げられ、具体例としては、キサンタンガム、アルギン酸、ペクチン酸、ヒアルロン酸、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が知られている。
しかしながら、水溶性の天然多糖を製造する場合、多量の廃棄物が排出されたり、価格が高いといった課題がある。また多糖誘導体の場合は、その変性の程度が高まるにつれて生分解性が損なわれ、機能と環境調和とが両立しないという問題がある。
【0004】
これに対して、安価な澱粉やセルロース等の多糖類のC6位を選択的に酸化して水溶性のポリウロン酸(ポリグルクロン酸)を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらによれば、澱粉や再生セルロース等の多糖類を2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)を用いて、多糖類のC6位一級水酸基を選択的にカルボン酸に変換し、ポリウロン酸を製造している。中でも多糖類として再生セルロースを用いる場合、セルロースからポリウロン酸塩を製造する際に、セルロースを銅-アンモニア溶液に溶解や、誘導体化した後、再生処理を行う必要がある。これらの方法は、金属を多量に使用するために廃棄物が排出され、また煩雑な工程を経るため、環境負荷がより小さく、効率的な製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−189924号公報
【特許文献2】特開2006−124598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生分解性が良好な水溶性ポリウロン酸塩を、環境負荷の少ない方法で効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セルロースを可溶化、或いは誘導体化することなく、反応性の高い結晶化度を低下させた粉末セルロースを用いることにより、水溶性ポリウロン酸塩を効率的に製造できることを見出した。
すなわち本発明は、結晶化度が30%以下である低結晶性の粉末セルロースを酸化させる工程を有する、ポリウロン酸塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生分解性が良好な水溶性ポリウロン酸塩を、環境負荷の少ない方法で効率的に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[低結晶性の粉末セルロースの調製]
一般にセルロースは幾つかの結晶構造が知られており、また一部に存在するアモルファス部と結晶部との割合から結晶化度として定義されるが、本発明における「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を示し、粉末X線結晶回折スペクトルから求められる下記計算式(1)で表わされる結晶化度によって定義される。
結晶化度(%)=[(I22.6−I18.5)/I22.6]×100 (1)
[I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す]
【0010】
また、本発明における低結晶性の粉末セルロースの「低結晶性」とは、上記のセルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、具体的には上記計算式(1)から得られる結晶化度が30%以下であることを意味する。
この結晶化度が30%以下であれば、セルロースの酸化反応は極めて良好に進行し、水溶性のポリウロン酸塩を効率的に得ることができる。この観点から、セルロースの結晶化度は25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。特に本発明においては、式(2)による結晶化度がほぼ0%である完全非晶化セルロースを用いることが最も好ましい。
【0011】
一般的に知られている粉末セルロースにも極めて少量のアモルファス部が存在するため、それらの結晶化度は、本発明で用いる上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲に含まれる、いわゆる結晶性のセルロースであり、本発明におけるポリウロン酸塩の合成を含む酸化反応の反応性は低い。
【0012】
本発明に使用される低結晶性の粉末セルロースは、結晶化度が30%以下である。低結晶性の粉末セルロースの調製方法としては、特に制限はないが、セルロース含有原料を粉砕機で処理する方法が好ましい。セルロース含有原料は、押出機で処理して得られるものが好ましく、例えばシート状パルプを粗粉砕して得られるチップ状パルプを、押出機で処理することにより得ることができる。
この方法に用いられる押出機としては、単軸又は二軸の押出機、好ましくは二軸押出機が挙げられるが、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものが好ましい。
【0013】
ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相でずらしながら組み合わせたものである。例えば3〜20枚、好ましくは6〜16枚のニーディングディスクを90°の位相で互い違いにずらしながら組み合わせたものが挙げられる。ニーディングディスク部は、スクリューの回転にともなって、その狭い隙間にチップ状パルプ等を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与しながら、連続的に処理することができる。押出機処理におけるせん断速度としては、600〜3000sec-1が好ましく、6000〜2000sec-1がより好ましい。
押出機を用いる処理方法としては、特に制限はないが、チップ状パルプを押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。
【0014】
また、この方法に用いられる粉砕機としては、媒体式粉砕機を好ましく用いることができる。媒体式粉砕機には容器駆動式粉砕機と媒体撹拌式粉砕機とがある。容器駆動式粉砕機としては転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられる。この中で、粉砕効率が高く、生産性の観点から、振動ミルが好ましい。媒体撹拌式粉砕機としてはタワーミル等の塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機等が挙げられる。この中で、粉砕効率が高く、生産性の観点から、撹拌槽型粉砕機が好ましい。媒体攪拌式粉砕機を用いる場合、攪拌翼の先端の周速は、好ましくは0.5〜20m/s、より好ましくは1〜15m/sである。
粉砕機の種類は「化学工学の進歩 第30集 微粒子制御」(社団法人 化学工学会東海支部編、1996年10月10日発行、槇書店)を参照することができる。
処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでも良い。
【0015】
粉砕機に用いられる媒体の材質としては、特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラス等が挙げられる。
粉砕機の媒体がボールの場合には、ボールの外径としては、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmの範囲である。ボールの大きさが上記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られるとともに、ボールのかけら等が混入してセルロース含有原料が汚染されることなく効率的にセルロースを非晶化させることができる。
媒体としては、ボール以外にもロッドやチューブ等の媒体を用いることができる。
【0016】
ボールの充填率は、粉砕機の機種により好適な充填率が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、セルロース含有原料とボールとの接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで充填率とは、粉砕機の攪拌部の容積に対するボールの見かけの体積をいう。
【0017】
処理時間としては、粉砕機の種類、ボールの種類、大きさ及び充填率等により一概に決定できないが、結晶化度を低下させる観点から、好ましくは0.01〜50hr、より好ましくは0.05〜20hr、更に好ましくは0.1〜10hrである。処理温度は、特に制限はないが、熱による劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃である。
前述のような方法を用いれば、分子量の制御も可能である。すなわち一般には入手困難な、重合度が高く、かつ低結晶性の粉末セルロースを容易に調製することも可能である。好ましい重合度としては、10〜2000であり、より好ましくは20〜1000である。
【0018】
本発明で用いる低結晶性の粉末セルロースの結晶化度は、上記計算式(1)から求められる結晶化度が30%以下である。この結晶化度が30%以下であれば、酸化反応は極めて良好に進行し、水溶性のポリウロン酸塩を効率的に得ることができる。この観点から25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。特に本発明において、完全非晶化した、すなわち上記計算式(1)から求められる結晶化度がほぼ0%となる、いわゆる非晶化セルロースを用いることが最も好ましい。
【0019】
この低結晶性の粉末セルロースの平均粒径は、粉体として流動性の良い状態が保てるならば時に限定はされないが、酸化反応をスラリー状態で良好に進行させる観点から、300μm以下が好ましく、150μmがより好ましく、更には、50μm以下が特に好ましい。ただし、工業的に実施する際の操作性の観点からは、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。
【0020】
[ポリウロン酸塩の製造]
本発明において、ポリウロン酸塩は、上記で得られた低結晶性の粉末セルロースを溶媒に分散又は溶解させ、触媒の存在下で、酸化反応させることにより製造することができる。
ポリウロン酸塩は、グルクロン酸やガラクツロン酸等のウロン酸のアルカリ金属塩がグリコシド結合で連結した重合体で、代表的には下記構造式(1)で表される。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、Xは、水素又はアルカリ金属を示す。Xが、水素又はナトリウムであれば、構造式(1)で表されるポリウロン酸塩は、25℃の蒸留水に対して、10%以上の溶解性を示す。
構造式(1)中のmは、ポリウロン酸塩中のウロン酸塩ユニットのモル分率を示し、mは好ましくは70〜100、より好ましくは75〜100、更に好ましくは85〜100である。このモル分率mは、ポリウロン酸塩の酸化度と同義である。
構造式(1)中のnは、ポリウロン酸塩中の糖ユニットのモル分率を示し、nは好ましくは30〜0、より好ましくは25〜0、更に好ましくは15〜0である。
これらの観点から、ウロン酸塩ユニットmと糖ユニットnとのモル分率比(m/n)は、好ましくは70〜100/30〜0、より好ましくは75〜100/25〜0、更に好ましくは85〜100/15〜0である。
【0023】
本発明における酸化反応は、セルロース中のグルコース単位のC6位一級水酸基を選択的に酸化し、カルボキシル基を生成させるものである。
一級水酸基の選択的酸化反応としては、白金触媒を用いる酸素による酸化反応、窒素酸化物による酸化反応、硝酸による酸化反応、N−オキシル化合物による酸化反応が挙げられる。これらの中では、反応の高選択性、均質性、及びより温和な条件で酸化反応を円滑に進行させる観点から、N−オキシル化合物を触媒として用い、さらに必要に応じて共酸化剤や助触媒を用いて酸化反応を行うことが好ましい。
【0024】
前記N−オキシル化合物は、ヒンダードアミンのN−酸化物であり、特にアミノ基のα位に嵩高い基を有するヒンダードアミンのN−酸化物である。N−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−アルコキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル等のジ−ターシャリーアルキルニトロキシル化合物が挙げられる。これらの中では、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルが好ましく、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)がより好ましい。
なお、N−オキシル化合物としてTEMPOを用いる酸化反応では、ニトロキシラジカルの酸化活性種であるオキソアンモニウム部が酸化剤として機能すると考えられる。
反応系におけるN−オキシル化合物の量は、触媒量であればよく、低結晶性の粉末セルロースに対して、0.001〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0025】
共酸化剤としては、酸素又は空気、過酸化物、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物等が挙げられる。
助触媒としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム等の臭化物や、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のヨウ化物等が挙げられる。
共酸化剤及び助触媒の量は、それらの機能を発揮できる有効量であればよく、特に制限はない。
【0026】
酸化反応の温度は、反応の選択性、副反応の抑制の観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは20℃以下であり、その下限は、好ましくは−5℃以上である。
また反応系のpHは共酸化剤の性質に合わせることが好ましく、例えば、共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合、反応系のpHはアルカリ側が好ましい。
【0027】
本発明における酸化反応は低結晶性のセルロース粉末を溶媒に分散させて行うのが好ましい。その溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、環境負荷低減の観点から水が好ましい。上記溶媒は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
ポリウロン酸塩の製造においては、触媒として用いるTEMPO等のN−オキシル化合物等の残存や塩の副生が生じ易い。そこで、純度の高いポリウロン酸塩を得るためには、メタノール、エタノール、アセトン等への再沈殿、水に不溶な溶媒へのTEMPOの抽出及び塩のイオン交換、透析等による精製を行うことが好ましい。精製法は、酸化反応における溶媒の種類、生成物の酸化の程度、精製の程度により最適な方法を採用することができる。
【0028】
上記方法で得られるポリウロン酸塩の重量平均分子量は、水溶性及び生分解性を付与する観点から、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは6,000〜180,000、更に好ましくは2,000〜200,000である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるプルラン換算分子量である。
本発明の製造方法により得られたポリウロン酸塩は、生分解性水溶性高分子材料として、分散・安定化剤、凝集剤、粘度調整剤、接着剤、皮膜形成剤等の様々な用途に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下の実施例において、セルロースの結晶化度、重合度、粘度平均分子量、平均粒径の測定、ポリウロン酸塩の重量平均分子量の測定、ポリウロン酸塩の水溶性の評価、及び生分解性の評価は、以下の方法で測定した。
<結晶化度の算出>
セルロースの結晶化度の算出は、株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて、以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から前記計算式(1)に従って行った。
X線光源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kV,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°,測定サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作成,X線のスキャンスピード:10°/min
【0030】
<粉末セルロースの重合度及び粘度平均分子量の測定>
粉末セルロースの重合度は、ISO−4312法に記載の銅アンモニア法により測定した。また粉末セルロースの粘度平均分子量はここで得られた重合度にグルコースの分子量162を掛けることで求めた。
【0031】
<平均粒径の測定>
粉末セルロースの平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、体積基準のメジアン径を、温度25℃にて測定した。
【0032】
<ポリウロン酸塩中のウロン酸モル分率の測定>
合成したポリウロン酸ナトリウムの2%水溶液を50g調製し、6N塩酸にてpHを1以下とした。この酸性水溶液をエタノール500mLに投入し、生じた沈殿物を回収、エタノールで数回洗浄した。得られたポリウロン酸及びカルボキシメチルセルロースを0.1g精秤し、イオン交換水30mLに溶解又は分散させ、フェノールフタレインを指示薬として0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、ポリウロン酸塩単位重量当りのカルボン酸量を求めた。さらにこのカルボン酸量から、下記計算式(1)によりウロン酸モル分率(構造式(1)のm)を求めた。
ウロン酸モル分率(m)=〔(162.1×A)/(1−14.0×A)〕×100 (1)
ここで、Aは滴定によって求めたカルボン酸量(mol/g)である。
またウロン酸ではないグルコースのモル分率(構造式(1)のn)は下記計算式(2)により求めた。
グルコースモル分率(n)=100−m (2)
【0033】
<重量平均分子量の測定法>
ポリウロン酸塩の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
カラム:東ソー株式会社製 G4000PWXL+G2500PWXL
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル=9/1(容量比)
測定温度:40℃,流速:1.0mL/min,検出器:UVまたはRI
標準ポリマー:プルラン
【0034】
<水溶性の評価>
20mLスクリュー管に、ポリウロン酸塩0.025g、及びイオン交換水4.975gを入れ、振とうしてポリウロン酸を溶解させ、目視により不溶物の有無を確認した。
【0035】
<生分解性の評価>
3Lのビーカーに、ポリウロン酸塩50mg−炭素/L(約100mg/L)、処理場汚泥200mg/Lとなるように仕込み、空気をバブリング、攪拌しながら25±1℃で試験を行った。試験開始28日目にサンプルを採取し、0.2μmのフィルターにてろ過した後、溶存有機炭素濃度(DOC)を測定した。試験開始時点のDOCとの比により生分解率(%)を求め、生分解性を評価した。
【0036】
製造例1(非晶化粉末セルロースの製造)
木材パルプシート(ボレガード社製パルプシート、結晶化度74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。
次に、得られたチップ状パルプを、スクリューの中央部にニーディングディスク部を備えた二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpmの条件で、外部から冷却水を流しながら、1パス処理して粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌型ボールミル(三井鉱山株式会社製、「アトライタ」:容器容積800mL、6mmφ鋼球を1400g充填、攪拌翼の直径65mm)に前記粉末状のセルロース100gを投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数600rpmで3時間粉砕処理を行い、粉末セルロース(結晶化度0%、重合度=490、平均粒径40μm)を得た。この粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品(投入量の90%)を使用した。
製造例2〜5
ボールミル処理における処理時間を変えたこと以外は、製造例1と同様にして、各結晶化度や重合度の異なる粉末セルロース(製造例2:結晶化度0%、重合度=62、製造例3:結晶化度0%、重合度=31、製造例4:結晶化度2%、重合度=570、製造例5:結晶化度32%、重合度=340)で調製した。
【0037】
実施例1
pHメータを備え付けた500mLセパラブルフラスコに、製造例1で得られた非晶化セルロース粉末(重合度=490)5g及びイオン交換水95gを仕込み、撹拌子を用いて200rpmの回転数で攪拌し、非晶化セルロース粉末を分散させた。イオン交換水150gに2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)0.095g、臭化ナトリウム1.25gを溶解させた水溶液を非晶化セルロース分散液に投入し、氷冷下で攪拌し続けた。反応溶液の温度が5℃以下となった時点で、次亜塩素酸ナトリウム水溶液15gを非晶化セルロース分散液に投入した。
酸化反応が進行するに従い、pHが低下するため、非晶化セルロース分散液のpHを10.8付近にするため、0.5N NaOH(61.7mL)を、マイクロチューブポンプを用いて徐々に添加した。さらに次亜塩素酸ナトリウム水溶液40gを1時間かけて添加し、pH10.8付近に調整するために0.5N NaOHを添加し続けた。次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び0.5N NaOHを全て添加した後、非晶化セルロース分散液のほとんどが水に溶解していた。
反応終了液は、エタノール3Lに注ぎ、ポリウロン酸ナトリウムを沈殿させた。沈殿物を回収し、アセトン/水(体積比)=7/1の混合溶媒で洗浄、さらにアセトンで洗浄した後、40℃で乾燥して、微黄色のポリウロン酸ナトリウム6gを得た。このポリウロン酸ナトリウムの生分解率は94%であった。結果を表1に示す。
【0038】
実施例2〜4
製造例2〜4で得られた低結晶性の粉末セルロース(実施例2:重合度=62、実施例3:重合度=31、実施例4:重合度=570)を用いた以外、実施例1と同様にしてポリウロン酸ナトリウムを合成した。結果を表1に示す。
【0039】
比較例1
製造例5で得られた結晶化度が32%の粉末セルロースを用いた以外、実施例1と同じ方法でポリウロン酸ナトリウムを合成した。結果を表1に示す。得られたポリウロン酸ナトリウムの水への溶解性を試験したところ、水に不溶な成分がみられた。メンブランフィルター(0.45μm)でろ過した成分についてGPCにて重量平均分子量を求めたところ、72,600(プルラン換算)であった。結果を表1に示す。
【0040】
比較例2
結晶性の粉末セルロース(商品名:KCフロック W−400G、日本製紙ケミカル株式会社製)を用いた以外、実施例1と同じ方法でポリウロン酸ナトリウムを合成した。水への溶解性を試験したところ、水に不溶な成分が多くみられ、GPCによる分子量の測定は不可能であった。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果から、実施例1〜4は、比較例1及び2と比べて、セルロースの選択的酸化反応が良好に進行し、水溶性の高いポリウロン酸塩を環境負荷の少ない方法で効率的に製造できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が30%以下である低結晶性の粉末セルロースを酸化させる工程を有する、ポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項2】
低結晶性の粉末セルロースが、セルロース含有原料を粉砕機で処理して得られたものである、請求項1に記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項3】
セルロース含有原料が、押出機で処理して得られたものである、請求項2に記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項4】
押出機が二軸押出機である、請求項3に記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項5】
粉砕機が媒体式粉砕機である、請求項2〜4のいずれかに記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項6】
媒体式粉砕機が、容器駆動式粉砕機又は媒体撹拌式粉砕機である、請求項5に記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項7】
酸化工程で、N−オキシル化合物の存在下で酸化反応を行う、請求項1〜6のいずれかに記載のポリウロン酸塩の製造方法。
【請求項8】
低結晶性の粉末セルロースを水系に分散させて酸化反応を行う、請求項1〜7のいずれかに記載のポリウロン酸塩の製造方法。

【公開番号】特開2009−263641(P2009−263641A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71282(P2009−71282)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】