説明

ポリエステルとABSコポリマーとのブレンド物

テレフタル酸;2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール;および1,4−シクロヘキサンジメタノール;から形成されるポリエステル、ならびにアクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)モノマーから形成されるコポリマーを含むポリマーブレンド物である。これらのブレンド物は、堅牢性、耐熱性、高モジュラス、および良好な流動性の組合せ(これらをフィルム、繊維、エンジニアリング成形プラスチックおよびパッケージにおいて特に有用にする)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、米国仮特許出願第61/076,239(2008年6月7日出願)(その全内容を参照により本明細書に組入れる)の出願日の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的には、テレフタル酸;2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール;および1,4−シクロヘキサンジメタノール;から形成されるポリエステル;ならびにアクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)から形成されるコポリマーを含むポリマーブレンド物に関する。該ブレンド物は、耐熱性、堅牢性、高モジュラス、および良好な流動性等の特性の特異な組合せを特徴とする。該ブレンド物は、例えば、成形品、フィルム、および繊維に形成できる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
成形用プラスチック、フィルム、および繊維は、種々のプラスチック材料から、種々のプロセス(例えば押出ブロー成形、延伸ブロー成形等)によって製造できる。これらのプラスチック材料は、構造的に異なるポリマーまたはコポリマーの混合物を含むことができ、これらをポリマーブレンド物という。
【0004】
ポリマーブレンド技術は、一般的には特性の相加性の前提に基づく。典型的には、より高モジュラスのポリマーとブレンドして剛性を増大させることは、与えられるポリマーの堅牢性および流動性を低下させることになる。
【0005】
しかし、本発明においては、驚くべきことに、より高モジュラスのABSコポリマーを所定のポリエステルに添加することにより、元のポリエステルと比べてより高モジュラスであるのみでなくより良好な流動性および優れた堅牢性を有するブレンド物がもたらされることを見出した。ある場合では、ブレンド物は、成分ポリマーのいずれよりも大きい堅牢性−特に低温堅牢性−を更に有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明は、一般的には、テレフタル酸;2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール;および1,4−シクロヘキサンジメタノール;から形成されるポリエステルと、アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)モノマーから形成されるコポリマーとのブレンドによって得られるポリマーブレンド組成物に関する。これらのポリマーブレンド物は、堅牢性、耐熱性、高モジュラスおよび良好な流動性(これらをフィルム、繊維、パッケージおよびエンジニアリング成形用プラスチックにおいて特に有用にする)の組合せを有する。
【0007】
一態様において、本発明は、
(a)(i)テレフタル酸、イソフタル酸、または両者の残基を含むジカルボン酸部;および
(ii)5〜100モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCB)残基および0〜95モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)残基を含むグリコール部;
を含む、5〜95質量%のポリエステル;ならびに
(b)アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)モノマーを含む、5〜95質量%のコポリマー;
を含む、ポリマーブレンド物を提供する。
【0008】
別の態様において、本発明は、
(a)(i)テレフタル酸、イソフタル酸、または両者の残基を90〜100モル%含むジカルボン酸部;および
(ii)5〜50モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基および50〜95モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むグリコール部;
を含む、60〜95質量%のポリエステル;ならびに
(b)20〜40質量%のアクリロニトリルモノマー、20〜40質量%のブタジエンモノマー、および40〜60質量%のスチレンモノマーを含む、5〜40質量%のコポリマー;
を含む、ポリマーブレンド物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、(a)テレフタル酸;2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール;および1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むコポリエステルの、(b)アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)モノマーを含むコポリマー;とのブレンド物が、堅牢性、耐熱性、高モジュラスおよび良好な流動性の組合せを有することができることを見出した。
【0010】
本発明に従い、
(a)(i)テレフタル酸、イソフタル酸、または両者の残基を含むジカルボン酸部;および
(ii)5〜100モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCB)残基および0〜95モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)残基を含むグリコール部;
を含む、5〜95質量%のポリエステル;ならびに
(b)アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)モノマーを含む、5〜95質量%のコポリマー;
を含む、ポリマーブレンド物を提供する。
【0011】
一態様において、ブレンド物は、60〜95質量%のポリエステルおよび5〜40質量%のABSコポリマーを含む。別の態様において、ブレンド物は、約70〜90質量%のポリエステルおよび約10〜30質量%のABSコポリマーを含む。
【0012】
本発明において使用するポリエステルは、典型的には、ジカルボン酸およびジオールから得ることができ、これらは実質的に均等割合で反応し、そしてポリエステルポリマー中に、これらの対応する残基として組み込まれる。本発明のポリエステルは、従って、実質的に等しいモル比の酸残基(100モル%)およびジオール残基(100モル%)を、繰返し単位の総モルが100モル%となるように含有できる。本明細書で与えられるモル%は、酸残基の総モル、ジオール残基の総モル、または繰返し単位の総モルを基準とすることができる。例えば、30モル%のイソフタル酸残基(総酸残基基準)を含有するポリエステルは、100モルの酸残基毎に30モルのイソフタル酸残基が存在することを意味する。別の例では、30モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基(総ジオール残基基準)を含有するポリエステルは、100モルのジオール残基毎に30モルの2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基が存在することを意味する。
【0013】
本明細書で用いる用語「ポリエステル」は、「コポリエステル」を包含することを意図する。
【0014】
本明細書で用いる用語「残基」は、対応するモノマーから重縮合および/またはエステル化反応を経てポリマー中に組み込まれる任意の有機構造を意味する。よって、例えば、ジカルボン酸残基は、ジカルボン酸モノマーまたはその関連する酸ハライド、エステル、塩、無水物またはこれらの混合物に由来することができる。従って、ジカルボン酸への言及は、ジカルボン酸自体およびジカルボン酸の任意の誘導体(その関連する異性体、酸ハライド、エステル、半エステル、塩、半塩、無水物、混合無水物、およびこれらの混合物が挙げられる)(ジオールと反応してポリエステルを形成するのに有用であるもの)を包含することを意図する。本発明において有用なジカルボン酸のエステルの例としては、ジメチル、ジプロピル、ジイソプロピル、ジブチル、ジフェニル等が挙げられる。
【0015】
例えば、用語「テレフタル酸」は、テレフタル酸自体、更にテレフタル酸の任意の誘導体(その関連する異性体、酸ハライド、エステル、半エステル、塩、半塩、無水物、混合無水物、およびこれらの混合物が挙げられる)(ジオールと反応してポリエステルを形成するのに有用であるもの)を包含することを意図する。
【0016】
一態様において、テレフタル酸を、ポリエステル成分のための二塩基酸出発物質として使用できる。別の態様において、イソフタル酸を二塩基酸出発物質として使用できる。別の態様において、テレフタル酸およびイソフタル酸の混合物を二塩基酸出発物質として使用できる。
【0017】
ポリエステルのジカルボン酸部は、他の芳香族ジカルボン酸で、20モル%以下(しかし好ましくは10モル%未満)置き換えられていてもよい。好適な他の芳香族ジカルボン酸の例としては、4,4’−ビフェニルジカルボン酸;1,5−,2,6−,および2,7−ナフタレンジカルボン酸;4,4’−オキシジ安息香酸;およびトランス−4,4’−スチルベンジカルボン酸が挙げられる。加えて、ポリエステルのジカルボン酸部は、脂肪族または脂環式のジカルボン酸(6〜12個の炭素原子を含有するもの)(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、およびドデカンジカルボン酸)で置き換えられていてもよい。
【0018】
TMCBは、シス、トランス、または2つの混合物であることができる。CHDMは、シス、トランス、または2つの混合物であることができる。
【0019】
ポリエステルのグリコール部は、10モル%以下(しかし好ましくは5モル%未満)の別のグリコール(2〜16個の炭素原子を含有するもの)を含有してもよい。好適な他のグリコールの例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、およびp−キシレングリコールが挙げられる。ポリエステルはまた、ポリエチレングリコールまたはポリテトラメチレングリコールで改質してもよい。
【0020】
一態様において、ポリエステルのジカルボン酸部は100モル%のテレフタル酸残基を含み、そしてポリエステルのグリコール部は5〜70モル%のTMCB残基および30〜95モル%のCHDM残基を含む。別の態様において、ポリエステルのジカルボン酸部は100モル%のテレフタル酸残基を含み、そしてポリエステルのグリコール部は5〜50モル%のTMCB残基および50〜95モル%のCHDM残基を含む。
【0021】
一態様において、ポリマーブレンド物のポリエステル成分は、ガラス転移温度(Tg)が90〜140℃の範囲である。Tgは、例えば、TAインスツルメンツの示差走査熱量計(DSC)機器を走査速度20℃/分で用いることにより評価できる。
【0022】
別の態様において、ポリマーブレンド物のポリエステル成分は、ガラス転移温度が、100〜130℃の範囲である。
【0023】
一態様において、ポリエステル成分のインヘレント粘度は、0.4〜0.9dL/gの範囲(60/40(wt/wt)フェノール/テトラクロロエタン中、濃度0.5g/100mlで25℃にて測定したとき)である。
【0024】
別の態様において、ポリエステルのインヘレント粘度は、0.5〜0.8dL/gの範囲である。
【0025】
ポリマーブレンド物のポリエステル成分は、当該分野で公知の方法によって調製できる。
【0026】
本発明において用いるABSコポリマーは、当該分野で公知の方法によって調製できる。例えば、これは、スチレンおよびアクリロニトリルをポリブタジエンの存在下で重合することによって形成できる。モノマーは、ABSコポリマー中に、これらの対応する残基として組み込まれる。
【0027】
一態様において、ポリマーブレンド物のABS成分は:
15〜40モル%のアクリロニトリルモノマー;
6〜40モル%のブタジエンモノマー;および
40〜80モル%のスチレンモノマー;
を含む。
【0028】
別の態様において、ポリマーブレンド物のABS成分は:
20〜40モル%のアクリロニトリルモノマー;
20〜40モル%のブタジエンモノマー;および
40〜60モル%のスチレンモノマー;
を含む。
【0029】
特記がない限り、本明細書で用いる用語「アクリロニトリル」は、アクリロニトリル自体およびアクリロニトリルの任意の誘導体(ABSコポリマーの調製において使用できるもの)(例えば、メタクリロニトリル、更にその対応する残基、およびこれらの混合物)を包含することを意図する。
【0030】
特記がない限り、本明細書で用いる用語「ブタジエン」は、ブタジエン自体および任意の他のジエン(ABSコポリマーの調製において使用できるもの)(例えば、エチレン−プロピレンジエンモノマー(EPDM)、その対応する残基、およびこれらの混合物)を包含することを意図する。用語はまた、飽和アクリレートエラストマーを包含する。ABSコポリマーのブタジエンは、典型的には、0.1〜5ミクロンの範囲の粒径を有する別個の相として存在する。ブタジエン相は二峰性サイズ分布を有することができる。
【0031】
特記がない限り、本明細書で用いる用語「スチレン」は、スチレン自体およびスチレンの任意の誘導体(ABSコポリマーの調製において使用できるもの)(例えば、アルファメチルスチレン、更にその対応する残基、およびこれらの混合物)を包含することを意図する。
【0032】
ABSコポリマーは、別のコポリマー(例えばスチレン−無水マレイン酸コポリマー、メチルメタクリレートアルファ−メチルスチレンコポリマー、スチレン−無水マレイン酸−メチルメタクリレートコポリマー、およびアクリル酸コポリマー)を添加することにより改質できる。
【0033】
ポリマーブレンド物は、0.01〜25質量%の、着色剤、染料、型離型剤、難燃剤、可塑剤、成核剤、UV光安定剤、熱安定剤、フィラー、衝撃改質剤、加工助剤、および補強材(例えばガラス繊維)から選択される少なくとも1種の添加剤を含むことができる。
【0034】
本発明のポリマーブレンド物は、当該分野で公知の従来の混合方法(例えば溶融ブレンドまたは溶液ブレンド)によって製造できる。好適な方法としては、これらに限定するものではないが、ポリエステルとABSコポリマーとの成分を、粉末または顆粒の形状で押出機内にて混合するステップ、混合物をストランドに押出すステップ、ストランドをペレットにチョップ(切り落とし)するステップ、およびペレットを所望の1つまたは複数の物品に成形するステップが挙げられる。
【0035】
一態様において、本発明に係るポリマーブレンド物は:
(a)(i)テレフタル酸、イソフタル酸、または両者の残基を90〜100モル%含むジカルボン酸部;および
(ii)5〜50モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基および50〜95モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むグリコール部;
を含む、60〜95質量%のポリエステル;ならびに
(b)20〜40質量%のアクリロニトリルモノマー、20〜40質量%のブタジエンモノマー、および40〜60質量%のスチレンモノマーを含む、5〜40質量%のコポリマー;
を含む。
【0036】
別の態様において、ポリマーブレンド物は、約70〜90質量%のポリエステルおよび約10〜30質量%のABSコポリマーを含む。
【0037】
本発明の別の側面は、本発明のポリマーブレンド物を含む製造物品に関する。このような製造物品は、フィルム、シート、繊維、および成形品から選択できる。
【0038】
一態様において、本発明のポリマーブレンド物は、消費者家電の筐体として有用である。消費者家電としては、日常使用を意図する電気器具が挙げられる。消費者家電は、娯楽、通信、および事務生産において最もしばしば使用される。消費者家電として分類される幾つかの製品としては、これらに限定するものではないが、パーソナルコンピュータ、電話、MP3プレーヤー、オーディオ機器、テレビ、計算機、GPS自動車ナビゲーションシステム、ならびに再生および記録のビデオ媒体(例えばDVD、CD、VHSまたはカムコーダ)が挙げられる。
【0039】
別の態様において、本発明のブレンド物は、医療機器筐体のために、またはこれにおいて、有用である。
【0040】
本発明は、以下の実施例によって更に例示できるが、これらの例は単に例示の目的で含まれ、本発明の範囲の限定を意図しないことを理解すべきである。
【0041】

測定方法
ポリエステルのインヘレント粘度は、60/40(wt/wt)フェノール/テトラクロロエタン混合物中、濃度0.5g/100mlで25℃にて測定した。
【0042】
ガラス転移温度(Tg)は、TAインスツルメンツのDSC機器を走査速度20℃/分で用いて評価した。
【0043】
ポリエステルのグリコール含量とシス/トランス比は、プロトン核磁気共鳴(NMR)分光計によって評価した。全てのNMRスペクトルは、JEOL Eclipse Plus 600MHz核磁気共鳴分光計で、クロロホルム−トリフルオロ酢酸(70−30体積/体積)をポリマーについて、または、オリゴマーサンプルについて60/40(wt/wt)フェノール/テトラクロロエタンを、重水素化クロロホルム(ロック用に添加)とともに用いて記録した。2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールの共鳴についてのピーク同定は、モデルの2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールのモノ−およびジベンゾエートエステルとの比較によって行った。これらのモデル化合物は、ポリマーおよびオリゴマーにおいて見出した共鳴位置を近似する。
【0044】
溶融粘度は、Rheometrics Dynamic Analyzer(RDA II)を用いて測定した。溶融粘度は、剪断速度の関数として、周波数1〜400rad/秒の範囲で、報告する温度にて測定した。
【0045】
特記がない限り、熱たわみ温度は、264psiにてASTM D648に従って評価した。曲げ弾性率および曲げ強さはASTM D790に従って評価した。引張特性はASTM D638に従って評価した。フラットワイズ衝撃強さはASTM D3763に従って評価した。
【0046】
ブレンド方法
特記がない限り、ポリマーブレンド物は、18mmのLeistritz二軸押出機において調製した。ポリマーは、タンブル(転回)ブレンドによって前混合し、そして押出機内に供給した。押出したストランドをペレット化した。ペレットを次いでToyo 90射出成形機で部品に射出成形した。押出機は、350rpmにて、80〜100%の間のマシーントルクを与える供給速度で運転した。
【0047】
実施例1
ポリマーブレンド物は、種々の濃度のコポリエステルおよびABSコポリマーで調製した。
【0048】
ブレンド物のコポリエステル成分は、100モル%のテレフタル酸残基、46.0モル%のTMCB残基(46.1モル%のシス異性体)、および54モル%のCHDM残基を含有していた。コポリエステルのインヘレント粘度は、0.59dL/gと測定された。
【0049】
ブレンド物のABSコポリマー成分は、26.2モル%のアクリロニトリル、29.7モル%のブタジエン、および44.1モル%のスチレンを含有していた。
【0050】
コポリエステルを90℃で乾燥させ、そしてABSコポリエステルを80℃で乾燥させた後、上記の方法に従ってポリマーブレンド物を形成した。押出しおよび成形の間に用いた加工温度は260〜290℃の範囲であった。
【0051】
ブレンド物の組成および特性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1中の幾つかのブレンド物についての2つのTg値は、これらのブレンド物が2相を有することを示唆する。ブレンド物Bもまた2相を有すると考えられるが、10%ABS相についてのTgはDSCによって検出するには弱すぎる。ABSの添加は、ブレンド物組成の全範囲に亘るモジュラスの増大をもたらす。同時に、溶融粘度は連続的に低減する。ブレンド物はまた、良好な低温フラットワイズ衝撃強さを有し、これは、ある場合には、純粋なコポリエステルのものよりも更に高い。
【0054】
実施例2
ポリマーブレンド物は、種々の濃度のコポリエステルおよびABSコポリマーで調製した。
【0055】
実施例1と同じコポリエステルを用いた。
【0056】
ブレンド物のABSコポリマー成分は、29.7モル%のアクリロニトリル、23.3モル%のブタジエン、および46.9モル%のスチレンを含有していた。
【0057】
コポリエステルを90℃で乾燥させ、そしてABSコポリマーを80℃で乾燥させた後、上記の方法に従ってポリマーブレンド物を調製した。押出しおよび成形の間に用いた加工温度は260〜290℃の範囲であった。ブレンド物の組成および特性を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
2つのTg値が表2において2相を有するブレンド物として報告された。
【0060】
実施例1と同様、ABSの添加は、ブレンド物組成の全範囲に亘るモジュラスの増大および溶融粘度の低減をもたらす。少なくとも1つの場合において、ブレンド物の低温フラットワイズ衝撃強さは純粋なコポリエステルのものよりも高い。
【0061】
実施例3
ポリマーブレンド物は、種々の濃度のコポリエステルおよびABSコポリマーで調製した。
【0062】
ブレンド物のコポリエステル成分は、100モル%のテレフタル酸残基、23.5モル%のTMCB残基(54.4モル%のシス異性体)、および76.5モル%のCHDM残基を含有していた。コポリエステルのインヘレント粘度は、0.67dL/gと測定された。
【0063】
実施例1と同じABSコポリマーを用いた。
【0064】
コポリエステルを90℃で乾燥させ、そしてABSコポリマーを80℃で乾燥させた後、上記の方法に従ってブレンド物を形成した。押出しおよび成形の間に用いた加工温度は 260〜270℃の範囲であった。
【0065】
ブレンド物の組成および特性を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
この例において、ABSの添加は、繰り返すがモジュラスの連続的な増大をもたらす。この場合において、全てのブレンド組成物が、純粋なコポリエステルよりも高い低温フラットワイズ衝撃強さを有する。10%ABSの組成物を除き、全てのブレンド物はまた、純粋なポリエステルよりも低い溶融粘度を有する。
【0068】
比較例1
ポリマーブレンド物は、種々の濃度のコポリエステルおよびABSコポリマーで調製した。
【0069】
ブレンド物において用いたコポリエステルは、100モル%のテレフタル酸残基、80モル%のCHDM残基、および20モル%のエチレングリコール(EG)残基を含有していた。コポリエステルのインヘレント粘度は、0.75dL/gであった。
【0070】
実施例1と同じABSコポリマーを用いた。
【0071】
コポリエステルを70℃で乾燥させ、そしてABSコポリマーを80℃で乾燥させた後、上記の方法に従ってブレンド物を形成した。押出しおよび成形の間に用いた加工温度は260〜270℃の範囲であった。
【0072】
ブレンド物の組成および特性を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
2つのTg値が、表4において2相を有するブレンド物について報告された。
【0075】
実施例1〜3のブレンド物に反し、表4のブレンド物の曲げ弾性率は全て、ブレンドしていないコポリエステルの曲げ弾性率よりも低いかまたは同等であった。加えて、ブレンド物の溶融粘度は、ブレンドしていないコポリエステルのものよりも高かった。
【0076】
比較例2
ポリマーブレンド物は、種々の濃度のコポリエステルおよびABSコポリマーで調製した。
【0077】
ブレンド物において用いたコポリエステルは、100モル%のテレフタル酸残基、62モル%のCHDM残基、および38モル%のEG残基を含有していた。コポリエステルのインヘレント粘度は、0.73dL/gと測定された。
【0078】
実施例1と同じABSコポリマーを用いた。
【0079】
コポリエステルを70℃で乾燥させ、そしてABSコポリマーを80℃で乾燥させた後、上記の方法に従ってブレンド物を形成した。押出しおよび成形の間に用いた加工温度は260〜270℃の範囲であった。
【0080】
ブレンド物の組成および特性を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
2つのTg値が、表5において2相を有するブレンド物について報告された。
【0083】
実施例1〜3のブレンド物に反し、この比較例のポリマーブレンド物の総エネルギーおよび最大荷重でのエネルギーの両者によって測定されるフラットワイズ衝撃強さは全て、ブレンドしていないコポリエステルのものよりも小さかった。
【0084】
比較例3
ポリマーブレンド物は、種々の濃度のコポリエステルおよびコポリマーで調製した。
【0085】
ブレンド物において用いたコポリエステルは、100モル%のテレフタル酸残基、24.8モル%のTMCB残基(54.6モル%のシス異性体)、および75.2モル%のCHDM残基を含有していた。インヘレント粘度は、0.72dL/gと測定された。
【0086】
ABSコポリマーに代えて、スチレンおよびアクリロニトリル(SAN)のコポリマーを用いた。このコポリマーは、37.5モル%のアクリロニトリルおよび62.5モル%のスチレンを含有していた。
【0087】
コポリエステルを90℃で乾燥させ、そしてSANコポリマーを80℃で乾燥させた後、上記の方法に従ってブレンド物を形成した。押出しおよび成形の間に用いた加工温度は240〜270℃の範囲であった。
【0088】
ブレンド物の組成および特性を表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】
実施例1〜3のブレンド物に反し、この比較例のブレンド物の総エネルギーおよび最大荷重でのエネルギーの両者によって測定されるフラットワイズ衝撃強さは全て、ブレンドしていないコポリエステルのものよりも小さかった。
【0091】
上記の例におけるデータの比較から、本発明に係るポリマーブレンド物は、他のポリマーブレンド物と比べて、衝撃強さ、ガラス転移温度、モジュラス、溶融粘度、および/または堅牢性に関して明確な利点を与えることが分かる。
【0092】
本発明を、その好ましい態様を特に参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の精神および範囲の中で変形および改変をなすことが可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)テレフタル酸、イソフタル酸、または両者の残基を含むジカルボン酸部;および
(ii)5〜100モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCB)残基および0〜95モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)残基を含むグリコール部;
を含む、5〜95質量%のポリエステル;ならびに
(b)アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)モノマーを含む、5〜95質量%のコポリマー;
を含む、ポリマーブレンド物。
【請求項2】
ポリエステルのジカルボン酸部が、100モル%のテレフタル酸残基を含み、そしてポリエステルのグリコール部が、5〜70モル%のTMCB残基および30〜95モル%のCHDM残基を含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項3】
ポリエステルのグリコール成分が、5〜50モル%のTMCB残基および50〜95モル%のCHDM残基を含む、請求項2に記載のポリマーブレンド物。
【請求項4】
ABSコポリマーが、15〜40モル%のアクリロニトリルモノマー、6〜40モル%のブタジエンモノマー、および40〜80モル%のスチレンモノマーを含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項5】
ABSコポリマーが、20〜40モル%のアクリロニトリルモノマー、20〜40モル%のブタジエンモノマー、および40〜60モル%のスチレンモノマーを含む、請求項4に記載のポリマーブレンド物。
【請求項6】
60〜95質量%のポリエステルおよび5〜40質量%のABSコポリマーを含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項7】
約70〜90質量%のポリエステルおよび約10〜30質量%のABSコポリマーを含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項8】
ポリエステルのジカルボン酸部が、他の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸またはこれらの混合物の残基を20モル%以下含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項9】
ポリエステルのグリコール部が、2〜16個の炭素原子を含有する他のグリコールの残基を10モル%以下含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項10】
着色剤、染料、型離型剤、難燃剤、可塑剤、成核剤、光安定剤、熱安定剤、フィラー、衝撃改質剤、および補強材から選択される1種以上の添加剤を0.01〜25質量%更に含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項11】
(a)(i)テレフタル酸、イソフタル酸、または両者の残基を90〜100モル%含むジカルボン酸部;および
(ii)5〜50モル%の2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基および50〜95モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を含むグリコール部;
を含む、60〜95質量%のポリエステル;ならびに
(b)20〜40モル%のアクリロニトリルモノマー、20〜40モル%のブタジエンモノマー、および40〜60モル%のスチレンモノマーを含む、5〜40質量%のコポリマー;
を含む、請求項1に記載のポリマーブレンド物。
【請求項12】
約70〜90質量%のポリエステルおよび約10〜30質量%のABSコポリマーを含む、請求項11に記載のポリマーブレンド物。

【公表番号】特表2011−525941(P2011−525941A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516281(P2011−516281)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/003708
【国際公開番号】WO2009/157982
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】