説明

ポリエステルの製造方法およびこれによって得られる繊維

【課題】 多量なリン酸を添加して重縮合反応を行ってポリエステルを製造する際に生じる問題を解決し、かつアンチモンをはじめとする重金属を含まない環境面を考慮した抗ピリング性繊維用に好適なポリエステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルの製造方法であって、平均重合度10以下のエチレンテレフタレートオリゴマーに、1〜10質量%のリン酸のグリコール溶液をポリエステル中の全酸成分に対しリン酸が0.5〜1.0モル%となるよう添加し、0.2〜2時間エステル化反応を行った後アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を30〜200ppm添加し、極限粘度が0.55以上となるまで重縮合反応を行うことを特徴とする抗ピリング性繊維用ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ピリング性繊維用として好適なポリエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート繊維は、機械的特性、化学的安定性等から衣料用や産業資材用等として広く用いられている。しかし、ポリエチレンテレフタレート繊維を衣料用に使用する場合、ピリング(毛玉)の発生等好ましくない現象が発現し、実用上大きな欠点の一つになっている。
【0003】
従来、このようなピリング性を防止するための方法については、種々提案されている。例えば、低重合度のポリエステルを紡糸して抗ピリング性繊維を製造する方法が提案されている。(特許文献1参照) しかし、この方法で十分な抗ピリング性を有する繊維を得るためには、ポリマーの重合度を大幅に低下させなければならず、紡糸性が大幅に損なわれるという欠点があるばかりでなく、加工性や紡績性も著しく損なわれるという問題がある。また、エチレンテレフタレートオリゴマーにリン酸等のリン化合物を添加して重縮合し得られたポリエステルを紡糸し、さらに熱処理することにより抗ピリング性のポリエステル繊維を得る方法についても提案されている。(特許文献2参照) しかし、抗ピリング性を付与するのに十分な量のリン酸を添加するには、リン酸を高濃度のグリコール溶液として添加しなければならず、結果的にポリマーが着色すると共に、重合度が上がり難くなるという問題があった。
【0004】
一方、PETの重縮合触媒としては、従来より三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物が広く用いられている。三酸化アンチモンは安価で、かつ優れた触媒活性を有する重縮合触媒であるが、近年、環境面からアンチモンの安全性に関する問題が欧米をはじめ各国で指摘されている。
【0005】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒としては、一般に、テトラアルコキシチタネートやゲルマニウム化合物などが実用化されてきている。しかしながら、テトラアルコキシチタネートを用いたポリエステルについては、著しく着色し、かつ熱分解を容易に起こす問題がある。また、ゲルマニウム化合物については、非常に高価であるばかりか、反応中に系外へ溜出しやすいため、反応系の触媒濃度が変化し、反応の制御が困難になるといった問題がある。
【特許文献1】特公昭35-8562号公報
【特許文献2】特公昭58-18447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するものであって、多量なリン酸を添加してポリエステルを製造する際に生じる問題を解決し、かつアンチモンをはじめとする環境面に負荷を与える重金属を含まない抗ピリング性繊維用ポリエステルの製造方法および、これによって得られる抗ピリング性に優れたポリエステル繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を要旨とする。
a)ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルの製造方法であって、平均重合度10以下のエチレンテレフタレートオリゴマーに、1〜10質量%のリン酸のグリコール溶液をポリエステル中の全酸成分に対しリン酸が0.5〜1.0モル%となるよう添加し、0.2〜2時間エステル化反応を行った後、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された組成物を30〜200ppm添加し、極限粘度が0.55以上となるまで重縮合反応を行うことを特徴とする抗ピリング性繊維用ポリエステルの製造方法。
b)前記製造方法から得られるポリエステルを紡糸してなることを特徴とする抗ピリング性ポリエステル繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法では、ポリエステルの重合触媒としてアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された組成物を用いており、被覆層であるチタン酸と固溶体との複合効果により適度な重合活性が得られることから、重合度の高いポリエステルを容易に得ることができる。また、当該触媒はポリエステル中への分散性が良好であるため、得られるポリエステルは、異物の発生がなく溶融状態で長時間フィルタ濾過しても圧の上昇がほとんどみられず、熱安定性が良好となる。
【0009】
また、本発明の製造方法によれば、良好な引張強度を有し、優れた抗ピリング性を示す繊維用に好適なポリエステルを製造することができる。
【0010】
また、本発明におけるポリエステルおよびこれを用いてなる繊維は、色調および透明性に優れる。さらには、アンチモンをはじめとする環境に負荷を与える重金属を含まない、環境面を考慮したポリエステルが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルとしては、ポリエステルを形成する主成分として、テレフタル酸、及びエチレングリコール(EG)が用いられる。なお、発明の効果を損なわない範囲で以下のような成分が共重合されたものであってもよい。例えば、酸成分としては、イソフタル酸、(無水)フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、(無水)コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、炭素数20〜60のダイマー酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、(無水)シトラコン酸、メサコン酸などの脂肪族ジカルボン酸、(無水)ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸や、(無水)トリメリット酸、トリメシン酸、(無水)ピロメリット酸などの多官能カルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体を挙げることができる。
【0012】
また、ジオール成分としては、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド、あるいはプロピレンオキシド付加物などの芳香族ジオールなどを挙げることができる。さらには、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールなどを挙げることができる。
【0013】
本発明の製造方法において、優れた抗ピリング性を発現させるために、エステル化反応に先立って、リン酸をポリエステルの酸成分に対して0.5〜1モル%添加することが必要である。リン酸の添加量が0.5モル%未満である場合、染色(130℃×1時間程度)に代表される湿熱処理を行っても、優れた抗ピリング性は発現しない。一方、リン酸が1モル%を超えて添加された場合、ポリエステルが三次元化するため、紡糸性や色調、透明性などの本発明におけるポリエステルの優れた性質が損なわれる。
【0014】
また一方で、本発明の製造方法において、リン酸は、1〜10質量%のグリコール溶液として添加することが必要である。グリコール溶液中のリン酸の濃度が1質量%未満であると、投入するグリコール量が非常に多くなるために、その後の工程で多量のグリコールを溜出させることが必要となり、経済的でない。一方、リン酸の濃度が10質量%を超えると、重合速度が著しく遅くなり、ポリエステル繊維として十分な強度を付与するのに必要な極限粘度0.55以上のポリエステルを得ることが不可能になるばかりでなく、得られるポリエステルの色調が悪くなる。 また、リン酸を添加する際に使用するグリコールとしては、ポリエステルを製造する際に使用するグリコールと同じものを使用することが好ましい。 リン酸のグリコール溶液は、常温で添加してもよいが、加熱して添加すれば反応系の温度低下を防ぐことができる。この場合の加熱温度としては、50〜150℃であることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法におけるエチレンテレフタレートオリゴマーの平均重合度としては、10以下であることが必要である。当該オリゴマーの平均重合度がこれを超えるものである場合、後にグリコール溶液として添加されるリン酸とオリゴマーとのエステル化反応が円滑に進行しないため、2時間を超えて反応時間を要することとなり、下記のような問題を生ずることとなる。また、エステル化反応時における反応性の面から、オリゴマーの平均重合度は4以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の製造方法において、エステル化反応としては、平均重合度10以下のエチレンテレフタレートオリゴマーにリン酸のグリコール溶液を添加後、0.2〜2時間行うことが必要であり、0.5〜1.5時間行うことが好ましい。ここで、エステル化の反応時間が0.2時間未満である場合、リン酸についてのエステル化反応が十分に進行しないため、後の重縮合工程で添加される重合触媒と未反応のリン酸との反応が起こり、これによりポリマーの色調が著しく悪化するばかりか重合触媒が失活し、重合時間が長くなる。逆に、反応時間が2時間を超えた場合、無用のコストアップにつながるばかりか、ポリマー中のジエチレングリコール量が増加する傾向となる。なお、エステル化反応の温度は、230〜280℃とするのが妥当である。
【0017】
本発明の製造方法において、重縮合触媒として、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された組成物(以下、チタン酸からなる被覆層が形成された組成物と略す場合がある。)を、ポリエステル中に30〜200ppm含有させる必要がある。チタン酸からなる被覆層が形成された組成物の含有量が30ppm未満では重合活性が不足し、所望する極限粘度のポリエステルが得られない。一方、200ppmを越えると得られるポリエステルの色調が悪化する。
【0018】
本発明におけるポリエステルの極限粘度としては、0.55以上が必要である。極限粘度が0.55未満では、十分な強度を有するポリエステル繊維を得られない。また、ポリエステル繊維の紡糸性の面から、極限粘度は0.75以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法としては、例えば次のような方法を挙げることができる。
まず、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートまたはその低重合体の存在するエステル化反応槽に、エチレングリコールとテレフタル酸からなり、両者のモル比が1.1〜2.0のスラリーを連続的に添加し、滞留時間7〜8時間で平均重合度10以下のエステル化反応物を連続的に得る。次に、このエステル化反応物を重縮合反応缶に移し、濃度が1〜10質量%のリン酸のグリコール溶液をポリエステルの全酸成分に対してリン酸が0.5〜1モル%となるように添加し、230〜280℃の温度で0.2〜2時間エステル化反応を行った後、重縮合触媒としてチタン酸からなる被覆層が形成された組成物を添加した後、重縮合反応缶の温度を260〜300℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、極限粘度が0.55以上となるまで重縮合反応を行う。
【0020】
また、本発明のポリエステルの製造方法において、発明の効果を阻害しない範囲であれば、ポリエステル中にヒンダートフェノール系化合物のような抗酸化剤、蛍光剤、染料のような色調改良剤、耐光剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0021】
本発明におけるチタン酸が被覆された組成物について、以下に説明する。
本発明におけるポリエステルは、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された組成物を重縮合触媒として用いることで、十分な重合度が得られ、かつ透明性が良好なポリエステルとなる。
【0022】
本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体とは、それぞれが溶け合って均一な相となった固体であり、これらの結晶格子の一部は他の原子によって置き換わり、組成を変化させることができるものである。固溶体中におけるモル比率としては、アルミニウム/マグネシウム=0.1〜10であり、優れた透明性となるポリエステルを得るには0.2〜5とするのが好ましい。
【0023】
固溶体を形成するアルミニウム化合物の例としては、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩および無機酸塩が好ましく、これらの中でもさらに水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムがとくに好ましい。
【0024】
また、固溶体を形成するマグネシウム化合物の例としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸塩などが挙げられ、特に水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
本発明におけるチタン酸からなる被覆層が形成された組成物としては、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の存在下で、5〜100℃の温度範囲、好ましくは15〜70℃の温度範囲で、チタン化合物を加水分解させた後、当該固溶体の表面にチタン酸として析出させることによって調整される。 ここで、チタン化合物としては、チタンハロゲン化物、チタン酸塩、チタンアルコキシド類が挙げられる。
【0025】
チタン酸からなる被覆層が形成された組成物の添加方法としては、粉末状態であってもよいし、エチレングリコールなどを溶媒としたスラリー状であってもよい。
【0026】
本発明におけるポリエステルは、常法を利用して溶融紡糸し、延伸し、捲縮を付与した後、切断して短繊維とすることができる。
【0027】
そして、本発明のポリエステル繊維は、湿熱処理することにより、抗ピリング性の優れたポリエステル繊維となる。当該湿熱処理は、長繊維あるいは短繊維の状態で行っても、紡績糸、織編物などに加工した後に行ってもよい。本発明の製造方法における湿熱処理としては、熱水または水蒸気等を用いて、80〜160℃の温度範囲で、約0.5〜2時間行うのが好ましい。処理温度が80℃未満では、繊維に十分な抗ピリング性を付与することができず、160℃を超える温度ではポリエステル繊維の強度が低くなりすぎ、ポリエステル繊維本来の好ましい性質が損なわれる。なお、熱水または水蒸気処理はそれ自体単独の工程として行ってもよいし、繊維または布帛の種々の加工、例えば染色工程等と兼用してもよい。また、湿熱処理は、若干酸性あるいはアルカリ性の条件で行ってもよく、通常pH3〜10の範囲で行われる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明のポリエステルの製造法および繊維について具体的に説明する。なお、特性値等の測定および評価方法は、次の通りである。
(1)極限粘度[η]
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃下で常法に従って測定した。
(2)エチレンテレフタレートオリゴマーの平均重合度
エチレンテレフタレートオリゴマーについて、上記の方法にて極限粘度を求め、常法に従って換算式から求めた。
(3)色調
日本電飾工業社製の色差計ND−シグマ80型を用い、ハンターのLab表色系のb値を求めて評価した。因みにb値は、値が大きいほど黄色味、小さいほど青色味が強くなり、極端に小さくならない限り、小さいほうがよい。b値が10以下である場合を合格とした。
(4)抗ピリング性
JIS−L−1076−Aの方法に準じて測定し、4級以上である場合を合格とした。
(5)繊維強度
オリエンティック社テンシロンUTM−4−100型を用い、試料長20mm、引張速度20mm/分で測定した。繊維強度が3cN/dtex以上の場合を合格とした。
【0029】
(実施例1)
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびその低重合体の存在するエステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコール(EG)とのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、平均重合度7のエチレンテレフタレートオリゴマーを連続的に得た。
このエチレンテレフタレートオリゴマー55.5kgを重縮合缶に仕込み、濃度3質量%のリン酸のEG溶液を、ポリエステルの酸成分1モルに対してリン酸が0.75モル%となる量を添加した後、エステル化反応を250℃で1時間行った。その後、重縮合触媒として、チタン酸からなる被覆層が形成された化合物の粉末を、ポリエステルに対して120ppmになる量加え、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で、4時間重縮合反応を行った。
このポリエステルを孔径0.3mm、孔数720の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、紡糸速度900m/分、吐出量360g/分の紡糸条件で溶融紡糸し、その後、引き揃えて12万dtexの未延伸トウを得た。
【0030】
次いで、この未延伸トウを加熱ローラ温度65℃で、3.3倍に第一延伸した後、加熱ローラ温度60℃で、1.1倍に第二延伸した。その後、ヒートドラムで温度190℃で熱セットし、機械捲縮を付与した後、長さ51mmに切断し短繊維とした。
得られた短繊維は、繊度1.4dtex、強度4.7cN/dtex、伸度35%であった。この短繊維を常法により英式番手40Sの紡績糸とし、筒編み地を作成した後、
130℃の熱水中で60分間処理した。 熱処理後の筒編み地の抗ピリング性は5級であった。
【0031】
(実施例2〜4および比較例1〜6)
実施例1におけるエチレンテレフタレートオリゴマーの重合度、リン酸の添加量や溶液の濃度、およびリン酸のEG溶液添加後のエステル化反応時間、重縮合触媒の添加量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に行った。得られたポリエステルおよびポリエステル繊維の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1〜4では、得られたポリエステルの[η]や色調は良好であり、それからなるポリエステル繊維は十分な強度を有すると共に、優れた抗ピリング性を有していた。
【0034】
比較例1では、リン酸の添加量が少なかったため、ポリエステル繊維の抗ピリング性は2級と不十分なものであった。
比較例2では、リン酸の添加量が多かったため、重縮合反応中にポリエステルが急激に三次元化し、反応缶から払い出せなかった。
比較例3では、リン酸のグリコール溶液の濃度が高かったため、重縮合反応速度が極端に遅く、最終的に目標の極限粘度まで到達しなかった。これに伴い得られたポリエステル繊維は所定の強度を有しなかった。また、ポリエステルが長時間反応缶中に存在していたため、ポリエステルの色調が悪化した。
【0035】
比較例4では、リン酸のグリコール溶液添加後のエステル化時間が短かったため、未反応のリン酸により、その後添加した重縮合触媒が失活し、目標の極限粘度まで到達しなかった。また、得られたポリエステルは色調が悪く、繊維の強度も低いものであった。
比較例5では、重縮合触媒の添加量が多かったため、ポリエステルの色調が極端に悪化すると共に糸切れが多発した。
比較例6では、重縮合触媒の添加量が少なかったため、重縮合反応が速やかに進行せず、目標の極限粘度まで到達しなかった。その結果、ポリエステルを繊維とするのに十分な強度が得られず、繊維化は不可能であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルの製造方法であって、平均重合度10以下のエチレンテレフタレートオリゴマーに、1〜10質量%のリン酸のグリコール溶液をポリエステル中の全酸成分に対しリン酸が0.5〜1.0モル%となるよう添加し、0.2〜2時間エステル化反応を行った後、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された組成物を30〜200ppm添加し、極限粘度が0.55以上となるまで重縮合反応を行うことを特徴とする抗ピリング性繊維用ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法から得られるポリエステルを紡糸してなることを特徴とする抗ピリング性ポリエステル繊維。


【公開番号】特開2008−63384(P2008−63384A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240326(P2006−240326)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】