説明

ポリエステルの製造方法及び成形体

【課題】主原料のテレフタル酸とエチレングリコールから直接エステル化法により紫外線遮断性に優れたポリエステルを製造する方法において、ナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用しポリエステルの着色・異物生成のない中空容器用の優れた特性を有するポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とから、エステル化反応工程及び溶融重縮合工程を経てポリエステルを製造する方法において、エステル化反応工程で、該ジカルボン酸成分中のジカルボン酸類に対して、0.002モル%以上、2モル%以下のナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用することを特徴とするポリエステルの製造方法、並びに該製造方法で得られたポリエステルからなる、中空成形容器、シート及びフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造方法及びその成形体に関する。更に詳しくは、紫外線遮断性に優れたポリエステルの製造方法、及び該製造方法で得られたポリエステルから形成される中空成形容器等の成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステルは、優れた機械的性質および化学的特性のため、各種の繊維、フィルム等に広く使用されてきたが、近年その優れた透明性、気体遮断性、安全衛生性等から、炭酸飲料、果汁飲料、液体調味料、食用油、酒やワイン用の容器としての好適性が注目され、中空成形容器として広範囲の分野で応用されて来ている。
【0003】
しかしながら、一般のポリエステル製容器は、300nm程度までの短波長側の紫外線遮断性には優れているが、それ以上の長波長側の紫外線、可視光線等は、ほとんど透過させてしまう。このようなポリエステル製容器に、例えば、炭酸飲料、ジュースなどの清涼飲料、食用油や、みりん、ドレッシング等の液体調味料を充填し、数ケ月の保存期間を経た場合、それぞれの充填食品の性質により、また、保存条件によって、バラツキはあるが、徐々に内容物の劣化、例えば、色、味、香りに微妙な変化を起こすことが多い。この様な内容物の劣化は、酸素、光とりわけ紫外線、微生物等の外因によって起こるが、ポリエステル製容器の場合、酸素遮断性には比較的優れているので、紫外線遮断性をさらに改善することがのぞまれてきた。そのため、紫外線吸収剤等を添加したり、或いは特許文献1に示されるようにポリエステル成分にナフタレンジカルボン酸及びそのアルキルエステル成分を添加することにより紫外線遮断性を向上させる方法が提案されている。
【0004】
ポリエステル製造の方式としては、主にテレフタル酸と必要に応じ加えられる他のジカルボン酸等からなるジカルボン酸成分と主にエチレングリコールからなるグリコール成分とを原料とし、エステル化反応によりポリエステル低重合体を得、続いて重縮合触媒の存在下重縮合反応を行う直接エステル化法と、主にテレフタル酸ジエステルと要すれば用いられる他のジカルボン酸ジエステル等からなるジカルボン酸ジエステル成分と主にエチレングリコールからなるグリコール成分とを原料とし、触媒存在下エステル交換反応によりポリエステル低重合体を得、続いて重縮合触媒の存在下重縮合反応を行うエステル交換法があることは一般によく知られている。
【0005】
近年においては中空容器に用いられるポリエステルの製造には経済性の観点およびエステル交換反応触媒の使用を避ける観点から直接エステル化法が採用されることが多い。直接エステル化法によりポリエステルを製造する場合、紫外線遮断性の改善の為に上記特許文献1で使用されているナフタレンジカルボン酸を適用すると、ナフタレンジカルボン酸はエステル化反応系に溶解しにくいため、生成ポリエステル中の異物となりやすく、加えて工業的に入手され得るナフタレンジカルボン酸は純度が低いので、その不純物によって得られるポリエステルが着色しやすいなどの問題があった。
【特許文献1】特開平10−53696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、主にテレフタル酸を含むジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とに、紫外線遮断性を改良するためのナフタレンジカルボン酸類を用い、直接エステル化法によりポリエステルを製造する方法において、上記問題点、即ち、ナフタレンジカルボン酸を使用する際のエステル化反応系に溶解しにくい問題、及び工業的製品である低純度のナフタレンジカルボン酸によるポリエステルの着色問題等を解決し中空容器用としての特性に優れたポリエステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ポリエステルの直接エステル化方法において、原料のテレフタル酸を含むジカルボン酸類(以下、全ジカルボン酸と称することもある)に対し、ナフタレンジカルボン酸に代えて所定量のナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用することにより、生成ポリエステルの紫外線遮断性及び異物や着色問題を解決し得ることを見出し本発明にいたった。
即ち、本発明の要旨は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とから、エステル化反応工程及び溶融重縮合工程を経てポリエステルを製造する方法において、エステル化反応工程で、該ジカルボン酸成分中のジカルボン酸類に対して、0.002モル%以上、2モル%以下のナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用することを特徴とするポリエステルの製造方法、並びに該製造方法で得られたポリエステルからなる、中空成形容器、シート及びフィルムに存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により所定量のナフタレンジカルボン酸エステルを用いて得られるポリエステルは、色調良好かつ異物が少なく、紫外線遮断性にも優れているので、該ポリエステルにより有用な中空成形容器、シート等を提供することができる。
また、該ポリエステルからなる窓貼りフィルムでは、例えば、太陽光線からの紫外線を遮断し、家具、書籍、調度品等の屋内設置備品の変色を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、それらの内容に限定されるものではない。
本発明方法におけるポリエステルの製造は、ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応工程及び溶融重縮合工程を包含する、所謂直接エステル化法によるものであり、本発明方法では、エステル化反応工程において、ポリエステル原料のジカルボン酸成分中の全ジカルボン酸に対して所定量のナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用することが必須である。
【0010】
<ナフタレンジカルボン酸ジエステル>
本発明のポリエステルの製造方法において、エステル化反応工程で使用されるナフタレンジカルボン酸ジエステルは下記化学構造式で示される。
【化1】

(上記式中、R及びR は同一でも異なっていてもよく、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアラルキル基を示し、これらの基は更に置換されていてもよい。)
【0011】
上記式で示されるナフタレンジカルボン酸ジエステルの例としては、2,6−、2,7−、2,3−、1,8−、1,7−、1,6−、1,5−、1,4−、1,3−及び1,2−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸構造異性体の各々のジエステルがあげられる。なかでも、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジエステルは純度が高いものが入手しやすいので好ましい。
また、R及びRで示される置換基の炭素数は、好ましくは炭素数10以下、より好ましくは炭素数7以下、さらに好ましくは炭素数4以下、最も好ましくは炭素数1であり、好ましい置換基としては炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。ナフタレンジカルボン酸ジエステルの好ましい例としては、具体的には、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル等の炭素数1〜4のアルキル基のジエステルが挙げられ、中でもジメチルエステルが特に好ましい。
最も好ましいナフタレンジカルボン酸ジエステルは、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルである。
【0012】
原料のジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類を含有しており、ナフタレンジカルボン酸ジエステルの使用量は、該ジカルボン酸成分中のジカルボン酸類に対して0.002モル%以上、2モル%以下である。該使用量の下限は好ましくは0.2モル%以上、さらに好ましくは0.5モル%以上であり、上限は好ましくは1.8モル%以下である。
この使用量が下限値より少ないと、得られたポリエステルを用いてボトルなどの成形品にしたときの紫外線遮断効果が劣る傾向となり、他方、上限値より多いとポリエステルの結晶性が低下する場合があり、例えば、必要に応じ重縮合反応後に行われる固相重縮合工程においてポリエステルを結晶化処理する際等にチップ同士の融着を起こしやすくなる。
【0013】
<ジカルボン酸成分>
本発明の製造方法により製造されるポリエステルは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分を原料として製造される。ここで、「テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類」とは、ジカルボン酸成分中に含まれる全ジカルボン酸の90モル%以上がテレフタル酸であることを言い、99モル%以上であることが好ましい。ジカルボン酸類が含有し得る他のジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、ジフエニルエーテルジカルボン酸、ジフエニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の上記芳香族ジカルボン酸の核水添化合物である脂環族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマール酸、4−カルボキシ桂皮酸等の不飽和ジカルボン酸が挙げられる。これらの他のジカルボン酸から選ばれる1種以上のジカルボン酸は、テレフタル酸に対して10モル%以下含有されていてもよい。
テレフタル酸が全ジカルボン酸の90モル%より少ないと、得られるポリエステルの融点が低くなる傾向となり耐熱性の良い成形品が得にくい。
【0014】
<ジオール成分>
ポリエステルの他の原料であるジオール成分において、エチレングリコールを主成分とするとは、ジオール成分の90モル%以上がエチレングリコールであることを言う。エチレングリコールが90モル%より少ないと得られるポリエステルの融点が低くなる傾向となり耐熱性の良い成形品が得にくい。
ジオール成分が含有し得るエチレングリコール以外の他のジオール成分としては、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、2,2−ビス−(4’−β−ヒドロキシエトキシフエニル)プロパン、ビス−(4’−β−ヒドロキシエトキシフエニル)スルホン等のビスフエノール誘導体、更には、一般式HO−〔−(−CH2 −)n−O−〕m −H(式中nは、1≦n≦6の整数、mは、m≧4の整数)で示されるポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらのグリコールの1種以上を、全ジオール成分の10モル%以下含有していてもよい。
【0015】
本発明の製造方法においては、生成ポリエステルの線状構造が実質的に維持される限り、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリツト酸、トリメシン酸、ピロメリツト酸等の3官能以上の多官能化合物や、o−ベンゾイル安息香酸等の単官能化合物を共重合成分として用いてもよく、また、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸成分も共重合成分として使用することができる。
【0016】
<製造工程>
本発明のポリエステルの製造方法は、直接エステル化法と称されるものでジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応工程及び溶融重縮合工程を包含し、要すれば続いて固相重縮合工程が実施されるものである。本発明の製造方法では、回分方式、連続方式のいずれの方式をも採用することができる。以下、連続方式の製造方法の一例について説明するが、本発明の製造方法ではテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類を含有するジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを反応させる際、前記した如くジカルボン酸成分中の全ジカルボン酸に対して0.002モル%以上、2.0モル%以下のナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用すること以外は以下の方式に限定されるものではない。
【0017】
<エステル化反応工程>
通常は、先ず、主成分のテレフタル酸と場合により用いられる他のジカルボン酸等とを含むジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とから原料スラリーを調製する。このスラリーは、エステル化反応工程に連続的に供給される。ナフタレンジカルボン酸ジエステルの供給方法としては、ナフタレンジカルボン酸ジエステルをこのスラリー中に混合し原料スラリーとして供給してもよく、また、別途ナフタレンジカルボン酸ジエステルをエチレングリコールに混合し溶解した状態、或いはスラリー状態でエステル化反応工程に連続的に供給してもよい。更にまた、ナフタレンジカルボン酸ジエステルを溶融させて単独で添加してもよい。
【0018】
原料スラリーにおけるテレフタル酸(ナフタレンジカルボン酸ジエステルをスラリーに混合する場合は、テレフタル酸とナフタレンジカルボン酸ジエステルの合計)とエチレングリコールとのモル比は、通常、1:1.0乃至1:2.0であり、好ましくは1:1.05乃至1:1.6である。またナフタレンジカルボン酸ジエステルをエチレングリコールに混合し、溶解状態或いはスラリー状態のいずれかて供給する場合は、その量比はナフタレンジカルボン酸ジエステルとエチレングリコールとのモル比で通常1:1.0乃至1:10.0、好ましくは1:1.05乃至1:5.0である。
【0019】
通常エステル化反応は、1つの反応器を有する装置または2以上の反応器を直列に連結した装置を用いて、定常状態にある第1段目の反応液中に上記スラリーを連続添加して、反応によって生成した水とアルコールを連続的に系外に除去しながら行う。
ナフタレンジカルボン酸ジエステルをテレフタル酸とは別に供給する場合には、例えばエステル化反応工程を2段で実施する場合、ナフタレンジカルボン酸ジエステルは第一段反応器、第2段反応器のどちらに添加してもよく、また両反応器を連結する配管中に添加してもよい。
【0020】
一般に、第1段目のエステル化反応は、反応温度を通常240〜270℃、好ましくは245〜265℃、反応圧力を、通常絶対圧力105〜400kPa、好ましくは絶対圧力110〜300kPaとし、第2段目における反応温度を、通常250〜280℃、好ましくは255〜275℃、反応圧力を、通常絶対圧力100〜250kPa、好ましくは絶対圧力100〜230kPaとして行われる。
【0021】
これらの各段におけるエステル化反応率は特に制限はされないが、最終段のエステル化反応生成物においては通常90%以上、好ましくは93%以上にすることが望ましい。
このエステル化反応工程により、テレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールとのエステル化物(低次縮合物)が得られ、この低次縮合物の数平均分子量は、通常、500〜5000程度である。
エステル化反応では、通常触媒は使用されないが、場合によりアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などの重縮合触媒の共存下に行うことも可能である。
【0022】
<溶融重縮合工程>
上記のようなエステル化反応工程で得られた低次縮合物は、次いで溶融重縮合工程に供給される。
溶融重縮合工程においては、通常は重縮合触媒の存在下に、エステル化反応工程で得られた低次縮合物を、減圧下で、かつポリエステルの融点以上の温度(通常250〜300℃)に加熱することにより重縮合させる。なお、この重縮合反応では、生成するエチレングリコールおよび未反応のエチレングリコールを反応系外に留去させながら行われるのが一般的である。
【0023】
重縮合反応は、1段階で行ってもよく、複数段階に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が複数段階で行われる場合には、第1段目の重縮合反応は、反応温度250〜290℃、好ましくは260〜280℃、絶対圧力65〜1.3kPa、好ましくは絶対圧力26〜2kPaとされ、最終段の重縮合反応は、反応温度265〜300℃、好ましくは270〜295℃、絶対圧力を、通常1.3〜0.013kPa、好ましくは絶対圧力0.65〜0.065kPaとされる。
重縮合反応を3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段目の1段前までの重縮合反応は、上記1段目の反応条件と最終段目の反応条件との間の条件で行われる。例えば、重縮合反応工程が3段階で行われる場合には、第2段目の重縮合反応は、通常、反応温度260〜295℃、好ましくは270〜285℃で、絶対圧力を通常6.5〜0.13kPa、好ましくは4〜0.26kPaで行われる。
【0024】
<触媒>
重縮合反応触媒は、重縮合反応時に存在していれば、いずれの工程で添加してもよい。また、重縮合反応は、安定剤の共存下で行われることが望ましい。
添加する重縮合反応触媒としては、ポリエステルの重縮合触媒として従来から使用されている触媒を用いることができ、例えば、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ-n-ブトキシド等のゲルマニウム化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン等のアンチモン化合物、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム等のチタン化合物等が挙げられる。これらの触媒は、単独で或いは複数組み合わせて用いることが出来、さらに、マグネシウム、コバルト等の有機酸塩等を併用してもよい。その使用量は、生成するポリエステル収量に対して10〜1000ppmとなる量とするのが好ましく、30〜400ppmとなる量とするのが特に好ましい。
【0025】
<リン化合物>
重縮合反応触媒と共に使用する安定剤としては、リン化合物が一般的に用いられる。
安定剤としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸およびそれらのエステル類、ポリリン酸などのリン化合物等があげられる。具体的には、リン酸、亜リン酸のほか、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル類があげられる。このようなリン化合物の添加量は、生成するポリエステル収量に対して10〜1000ppmとなる量とするのが好ましく、30〜400ppmとなる量とするのが特に好ましい。
【0026】
以上の溶融重縮合工程から得られるポリエステルの固有粘度は、通常0.40〜1.0dl/g、好ましくは0.50〜0.90dl/gである。溶融重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、ストランド状に押し出され水冷されつつカッティングされて粒状(チップ)にされる。
【0027】
<固相重縮合工程>
溶融重縮合工程で得られるポリエステルは、必要に応じさらに高重合度化させると共に、環状三量体,アセトアルデヒド等の反応副生成物を低減化させるために固相重縮合に供され得る。
固相重縮合は溶融重縮合工程で得られたポリエステルチップを、常法により結晶化等の必要な前処理をした後、不活性ガス流通下または減圧下、180〜240℃で行われる。
固相重縮合で得られた粒状ポリエステルの固有粘度は、通常0.60〜1.00dl/gであり、好ましくは0.75〜0.95dl/gである。固有粘度が、0.60dl/g以下であるとこれを用いた成形品の機械強度が劣る傾向となり、1.0dl/g以上であると成形時の溶融樹脂の粘度が高すぎて流動性が悪く均質な成形品が得られ難い傾向となる。
【0028】
<成形>
本発明の製造方法で得られるポリエステルは、一般的に行われている成形法により中空成形容器、シート及びフィルム等に成形することができる。例えば、ポリエステルを射出成形によってプリフォームに成形した後、延伸ブロー成形することによって、或いは、押出成形によって成形したパリソンをブロー成形することによって、ボトル等の中空成形容器に成形される。また、押出成形によってシートに成形した後、熱成形することによってトレイや容器等に成形し、或いは、該シートを二軸延伸してフィルム等とすることにより、特に飲食品の包装資材等として有用なものとなすことができる。これらの成形法によって得られた成形体、特に紫外線遮断性が良好な中空成形容器は極めて有用である。
【0029】
本発明の製造方法で得られるポリエステルは、中でも、射出成形によって得られたプリフォームを二軸延伸するブロー成形法よってボトルを成形するのに好適であり、このポリエステルから成形されたボトルは、例えば、炭酸飲料、アルコール飲料、醤油、ソース、みりん、ドレッシング等の液体調味料等の容器として、さらには、ヒートセットを施して、果汁飲料、ビタミン飲料、フレーバーティー、ミネラルウォーター等の飲料等の容器として、好適に用いられる。
【0030】
本発明の製造方法で得られるポリエステルは、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で各種の添加成分を配合することができる。添加成分としては、例えば、ガラスパウダー、ガラスバルーン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機充填材、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、相溶化剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、パラフィンオイル等の可塑剤、フッ素樹脂パウダー、スリップ剤、分散剤、着色剤、防菌剤、蛍光増白剤等といった各種添加剤が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、本発明の実施例等における物性等の各種測定法を以下に示す。
【0032】
(測定法)
<エステル化反応率>
試料をジメチルホルムアミドに溶解しアルカリ滴定した値を酸価(eq/T)とし、試料をアルカリ加水分解し酸で逆滴定した値をケン化価(eq/T)とし、エステル化反応率(%)を次式により計算した。
エステル化反応率(%)=[(ケン化価−酸価)/ケン化価]×100
【0033】
<固有粘度>
試料ポリエステルを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)混合液を溶媒として濃度1.0g/dlの溶液を調製し、この溶液についてウベローデ型粘度計を用いて30℃で測定することにより求めた。
【0034】
<ハンター色座標b値>
試料ポリエステルチップを、内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測色用セルに充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値を、反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0035】
<紫外線透過率>
肉厚0.35mmのボトル胴部の波長360nmにおける光線透過率を日立スペクトルフォトメーター340型を用い常法により測定した。
透過率が低いほど紫外線遮断性が良好である。
【0036】
<ボトル異物評価>
ボトル胴部100cm2を目視で観察した。
異物が認められないものを○、異物が認められるものを×とした。
【0037】
[実施例1]
スラリー調製槽、およびそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、および2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続重合装置を用いた。スラリー調製槽に、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(アモコ社製)とエチレングリコールとを重量比で865:7.4:485の割合で[2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルの全ジカルボン酸(テレフタル酸)に対する量は0.58モル%]連続的に供給すると共に、生成するポリエステルに対し120ppmとなるように正リン酸をエチレングリコールの溶液として連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製した。
【0038】
このスラリーを、窒素雰囲気下で260℃、絶対圧力150kPa、平均滞留時間4時間に設定された第1段目のエステル化反応槽、次いで、窒素雰囲気下で260℃、絶対圧力105kPa、平均滞留時間1.5時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、エステル化反応させた。そのとき、エステル化反応率は、第1段目においては85%、第2段目においては95%であった。
引き続いて、得られたエステル化反応生成物を連続的に溶融重縮合槽に移送する際、その移送配管中のエステル化反応生成物に、生成するポリエステルに対し120ppmとなるように二酸化ゲルマニウムをエチレングリコールの溶液として連続的に添加しつつ、270℃、絶対圧力2.6kPaに設定された第1段目の溶融重縮合槽、次いで、278℃、絶対圧力0.5kPaに設定された第2段目の溶融重縮合槽、次いで、280℃、絶対圧力0.3kPaに設定された第3段目の溶融重縮合槽に連続的に移送して、得られるポリエステルの固有粘度が0.60dl/gとなるように各重縮合槽における滞留時間を調整して溶融重縮合させた。溶融重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口から生成ポリエステルを連続的にストランド状に抜き出し、水冷しつつカッターで切断してチップ状のポリエステルを製造した。
【0039】
引き続いて、得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機(BEPEX社式)内に滞留時間が約15分となるように連続的に供給して結晶化させた。この時チップ同士の融着は認められなかった。引き続いてチップをホッパードライヤー型乾燥機にて窒素流通下160℃平均滞留時間3時間で連続的に乾燥後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、750Nm3/hr・tonポリエステルの窒素流通下、210℃で、得られるポリエステルの固有粘度が0.76dl/gとなるように滞留時間を調整して固相重縮合させた。該固相重縮合品(チップ)の固有粘度は0.76dl/g、該チップのハンター色座標b値は1.0であった。
【0040】
この固相重縮合品のポリエステルチップを、真空乾燥機にて130℃で10時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「FE−80S」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×10Pa、射出率45cc/秒、保圧力30×10Pa、金型温度20℃、成形サイクル約40秒で、外径約29mm、高さ約165mm、平均肉厚約3.7mm、重量約60gの試験管状の予備成形体(プリフォーム)に射出成形した。
次いで、得られたプリフォームを、石英ヒーターを備えた赤外線照射炉内で70秒間加熱した。加熱後のプリフォームは25秒間室温で放置した後、98℃に設定したブロー金型内に装入し、延伸ロッドで高さ方向に延伸しながら、ブロー圧力7×10Paで1秒間、さらに30×10Paで40秒間ブロー成形することにより、外径約95mm、高さ約305mm、胴部平均肉厚約0.35mm、重量約60g、内容積約1.5リットルのボトルに成形した。
この成形したボトル胴体の0.35mm肉厚部の波長360nmにおける光線透過率(紫外線透過率)は、0.1%であった。またボトル胴部には異物は観察されなかった。これらの評価の結果を纏めて表1に示す。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとを重量比で865:19.4:485の割合(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルのテレフタル酸に対する量は1.5モル%)に変更した以外は実施例1と同様に行った。評価の結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとを重量比で865:39.4:485の割合(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルのテレフタル酸に対する量は3モル%)に変更した以外は実施例1と同様に行ったところ、固相重縮合前における結晶化処理時にチップ同士の融着が見られた。評価の結果を表1に示す。
【0043】
[比較例2]
実施例1において2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを使用しなかった以外は実施例1と同様に行ったところ、得られたボトルの紫外線透過率が高かった。評価の結果を表1に示す。
【0044】
[比較例3]
実施例1において2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルに替えて、2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸のテレフタル酸に対する量は0.58モル%)とした以外は実施例1と同様に行った。評価の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸類を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とから、エステル化反応工程及び溶融重縮合工程を経てポリエステルを製造する方法において、エステル化反応工程で、該ジカルボン酸成分中のジカルボン酸類に対して、0.002モル%以上、2モル%以下のナフタレンジカルボン酸ジエステルを使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル製造方法によって得られたポリエステルからなる、中空成形容器、シート及びフィルム。

【公開番号】特開2006−2046(P2006−2046A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180271(P2004−180271)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】