説明

ポリエステル捲縮糸及びその製造方法

【課題】 均一な捲縮形態を有し、ソフトで高バルキー性に優れ、ノントルクであるポリエステル捲縮糸であって、さらに、表面品位が高い織編物を製造でき、編地の斜行を防止でき、織編物用の捲縮糸として好適なポリエステル捲縮糸を提供する。
【解決手段】 少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維からなる糸条を、緊張処理した後、続いて弛緩熱処理することによりポリエステル捲縮糸を製造する。この捲縮糸は、伸縮伸長率が5〜100%、残留トルクが実質的にゼロ、かつ、熱水収縮率が10%以下であることにより特定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート系のポリエステル複合繊維からなる捲縮糸に関する。さらに詳しくは、ソフトな風合い、バルキー性、および微細で均一な捲縮形態をあわせ持ち、しかも残留トルクがなく、特に織編物用として好適なポリエステル捲縮糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる糸条に嵩高性とソフト風合いを付与する方法として、1段のヒーターで仮撚加工を行うウーリー加工が、また、ウーリー加工に続いて第2ヒーターで弛緩熱処理を行うブレリア加工が一般的に知られている。
【0003】
しかし、ウーリー加工による捲縮加工糸は、非常に大きな捲縮性を持つために糸自体のバルキー性に富んでいるが、一方でその大きな捲縮に起因してガサツキ感が強く、熱水収縮率が高く、繊維製品にしたときにソフトな風合いに欠けるものとなる。さらに、仮撚の加撚および解撚によって残留トルクを持っているために、スナールが発生し易く、編物での斜行が発生する。
また、ブレリア加工による捲縮加工糸は、ウーリー加工後の弛緩熱処理によって熱水収縮率と捲縮を調整してガサツキ感を低減しているものであるが、ポリエチレンテレフタレートのポリマ自体の硬さは解消されないのでソフト風合いはあまり改善されない。
【0004】
さらに、仮撚加工工程において、ポリエステル繊維糸条は仮撚スピンドル等による擦過を受け、さらに捻り変形等の複合的な外力を受けるので、強力低下が生じ易く、毛羽の発生や弱糸化という不具合が生じ、その後の撚糸や製編織等の後工程でのトラブルを増加させ易い。
【0005】
これらウーリー加工やブレリア加工を、ポリトリメチレンテレフタレート繊維に適用することも提案されている。例えば、ポリトリメチレンテレフタレート繊維のウーリー加工は特許文献1に、また、ポリトリメチレンテレフタレート繊維のブレリア加工は特許文献2に記載されている。
【0006】
ポリトリメチレンテレフタレートはポリエチレンテレフタレートよりもヤング率が低いので、ウーリー加工されたポリトリメチレンテレフタレート捲縮加工糸は、ソフト風合が改善される。しかし、仮撚加工によって強い捲縮が付与されバルキー性が高く、ガサツキ感、ふかつき感が強調されているので、ポリトリメチレンテレフタレート繊維自身の持つソフト風合いは活かされ難い。さらに、熱水収縮率や残留トルクが大きく、捲縮形態が粗く、編地や織物の表面品位が低く、ソフト風合いも不十分な布帛となる。また、仮撚加工による大きな残留トルクが内在しているのでスナールが発生し易く、織編物の表面品位の低下ととともに織編物の斜行が発生する。
【0007】
また、ブレリア加工されたポリトリメチレンテレフタレート捲縮加工糸の場合、残留トルクが減少し、単糸のスナールが軽減し、均一な捲縮形態の加工糸とすることができる。しかし、このブレリア加工した捲縮糸でも、残留トルクをゼロ近辺まで低減させることは困難であり、残留トルクに起因する編地の斜行問題を完全に解消することは困難である。さらに、ウーリー加工と弛緩熱処理とを行うことによって、プロセス的な加工コストが高くなるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平11−93026号公報
【特許文献2】特許第3124259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前記した従来技術の問題点を解消し、ソフトな風合い、バルキー性、及び微細で均一な捲縮をあわせ持つとともにノントルクであるポリエステル捲縮糸を提供すること、さらに、表面品位が高い織編物を製造でき、編地の斜行を防止でき、織編物用の捲縮糸として好適なポリエステル捲縮糸を提供することを目的とする。また、従来のブレリア加工よりも加工コストを低減させることが可能な捲縮糸製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これら目的を達成するため、本発明のポリエステル捲縮糸は、少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維からなる弛緩熱処理された捲縮糸であって、伸縮伸長率が5〜100%であり、残留トルク数が実質的にゼロであり、かつ、熱水収縮率が10%以下であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のポリエステル捲縮糸の製造方法は、少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維からなる糸条を、緊張処理し、続いて弛緩熱処理することを特徴とするものである。
【0012】
即ち、本発明の目的とするノントルク捲縮糸は、ポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維からなる糸条を用い、かつ、緊張処理し、続いて弛緩熱処理するという加工処理によって製造できるものである。これにより、ソフトな風合い、バルキー性と伸縮性に優れ、しかもノントルクで、均質性良好なポリエステル捲縮糸の製造が可能になったものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるポリエステル捲縮糸は、従来のポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸よりも編織物用捲縮糸として優れたものである。即ち、ソフトな風合い、バルキー性、及び微細で均一な捲縮形態等において優れている。しかも、残留トルクがないので、編地の斜行を解消できる。さらに、バルキー性等の糸特性が糸長手方向にわたってばらつかず均質であるので、表面品位が優れた編織物を製造することができる。
【0014】
本発明法によると、複合繊維のコイル捲縮の位相が揃うことを崩し、残留トルクのない微細で均一な捲縮形態の捲縮糸を、低い加工コストで製造することができ、しかも、ポリトリメチレンテレフタレートのソフトな風合いが活かされ、表面品位が極めて良質で斜行のない織編物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、ポリエステル繊維として、少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維を使用することが必要である。ポリトリメチレンテレフタレートは、ポリマ自体のヤング率が低いために、繊維にソフトな風合いを付与することができる。さらに、複合繊維であるので、弛緩熱処理によってノントルク性の強い捲縮が発現され、バルキー性に富むノントルク性捲縮糸とすることができる。
【0016】
このポリエステル複合繊維は、捲縮発現可能な繊維複合形態を有するものであり、例えば、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型のように、複合繊維を構成する層どうしが偏って位置する繊維複合形態をとるものである。
【0017】
ここで複合繊維を構成する各層のうち、少なくとも1層はポリトリメチレンテレフタレート層である。例えば、ポリトリメチレンテレフタレート層と他のポリエステルからなる層とが複合された複合繊維や、低粘度のポリトリメチレンテレフタレートからなる層と高粘度のポリトリメチレンテレフタレートからなる層とが複合された複合繊維が挙げられる。前者の複合繊維の場合は、各層のポリマが相違することによってコイル状捲縮が発現するものであり、例えば、ポリトリメチレンテレフタレート層とポリエチレンテレフタレート層とからなるサイドバイサイド複合繊維や偏心芯鞘型複合繊維が挙げられる。また、後者の複合繊維の場合は、各層のポリマが同種でも粘度が相違することによってコイル状捲縮が発現するものである。
【0018】
本発明で用いる複合繊維の少なくとも1層を構成するポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらには80モル%以上、特に好ましくは90〜100モル%含むものである。即ち、トリメチレンテレフタレート単位以外の共重合単位が含まれたトリメチレンテレフタレート系ポリエステルであってもよい。
【0019】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその誘導体と、トリメチレングリコール又はその誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に重縮合させることにより合成されて製造される。この重縮合工程において、他のジカルボン酸やグリコール等を添加して共重合ポリエステルとしてもよい。
【0020】
添加する共重合成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等が挙げられる。また、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体の実質的な線状性を阻害しない範囲内であれば使用してもよい。
【0021】
また、ポリトリメチレンテレフタレート層と他のポリエステル層とからなるポリエステル複合繊維の場合、他のポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、すなわち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエチレンテレフタレートでもよい。
【0022】
上記したポリトリメチレンテレフタレート層や他のポリエステル層には、さらに必要に応じて、二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
【0023】
本発明で用いるポリエステル複合繊維は、各層用に準備したポリエステル組成物(複数)を供給し、通常の溶融複合紡糸装置によって所望の複合構造にして溶融吐出(紡糸)し、冷却した後、1500m/分程度の巻取り速度で未延伸糸を一旦巻取り、その後2〜3.5倍程度で延伸する紡糸延伸2工程法により、また、未延伸糸で巻取りせずに、紡糸に続いて延伸を行う紡糸延伸直結法(DSD法)により、さらにまた、紡糸時の引取り速度を5000m/分以上と高速にし、実質的に延伸なしで巻取る高速紡糸法により製造することができる。
【0024】
このポリエステル複合繊維の単糸横断面は、複合構造に応じ任意の形状をとることができる。例えば、サイドバイサイド複合繊維の場合、丸断面でもよいが、変形断面形状であることが好ましい。変形断面形状としては、まゆ形や雪だるま形のような非円形形状や、長円のような変形円形状が挙げられる。まゆ形や雪だるま形断面形状の場合には、略丸形状の各ポリマ層が連接された複合形状がとられる。
【0025】
また、ポリエステル複合繊維におけるポリトリメチレンテレフタレート層と他の層との重量比率は、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から、30/70以上、70/30以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
ポリエステル複合繊維の単糸繊度は、0.1〜5dtex程度とするのが好ましい。単糸繊度が0.1dtexよりも細い場合には緊張処理と弛緩熱処理工程での糸切れが発生し易く操業性が悪くなり、5dtexよりも太い場合は織編物にした場合に風合いが硬くなる。
【0027】
次に、本発明によるポリエステル捲縮糸の製造方法、及びポリエステル捲縮糸について説明する。
本発明法においては、少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維からなる糸条を、緊張処理し、続いて弛緩熱処理する。
【0028】
ここで、緊張処理に供する糸条は、溶融複合紡糸工程によって製造されたポリエステル複合繊維糸条(いわゆる、生糸(なまいと))であり、複合繊維構造由来の小さなコイル状捲縮を持っていて、各フィラメントのコイル状捲縮の位相が揃う程度は、通常、糸条長手方向に沿ってばらついている。即ち、繊維長さ方向に対し、単繊維のコイル状捲縮位相の揃った集束部と捲縮位相の崩れた開繊部とが不規則に混在し、長手方向のばらつきがある。従って、このポリエステル複合繊維糸条の生糸を、緊張処理も仮撚り加工もせずに弛緩熱処理すると、この捲縮位相の揃った集束が形態ムラとなって織物や編物にした場合に表面品位を損なうことに繋がる。複合繊維糸条の生糸を弛緩熱処理して得られる捲縮糸は、図3に模式的に示すように、各単糸がばらけてバルキー性の高い部分21と、各単糸のコイル形状が揃ってバルキー性の低い部分22とが混在し、形態ムラのある捲縮糸となる。
【0029】
緊張処理は、ポリエステル複合繊維糸条に実質的に撚りを加えず、かつ緊張状態に保って走行させるものであり、延伸倍率1.01〜1.15倍のような低倍率延伸と同様の処理である。この緊張処理は、捲縮の位相が揃い過ぎている集束部分について位相をばらけさせることにより、これに続く弛緩熱処理によって捲縮を発現させた後に、糸条長手方向に沿ってバルキー性の均質化が図られるものである。この緊張処理に供する糸条の繊度は、33〜660dtex程度であることが好ましい。
【0030】
緊張処理する際の延伸倍率は1.01〜1.15倍が好ましく、特に1.03〜1.10倍が好ましい。延伸倍率が1.01倍未満であると、3次元コイル捲縮の位相が揃った集束部の単繊維の絡みを十分にほぐすことが難しく、緊張処理による効果が不十分となり易い。延伸倍率が1.15倍を超えると、繊維の強度低下が起こり易く、糸切れ、毛羽の発生が生じて加工性低下となり易い。
【0031】
また、この緊張処理は、加熱を伴う熱延伸であっても、加熱なしの冷延伸であってもよいが、加熱温度は高くても150℃程度であることが好ましい。更には、熱ピン又は非加熱ピンを用いるピン延伸が好ましいが、ピンレス延伸でもよい。なかでも、ピン温度40〜100℃程度の熱ピンを用いてピン延伸すると、熱ピンによるしごき作用が加わって集束部での単繊維絡みが十分にほぐされるので、好ましい。
【0032】
上記緊張処理に続いて行われる弛緩熱処理することによって、複合繊維本来の捲縮特性は加熱されることによって極めて短時間で(瞬時的に)コイル状捲縮が顕在化する。その際の加熱手段は、接触式ヒーター、非接触式ヒーターのいずれであってもよいが、捲縮の顕在化をムラなく効率的に行うためには、パイプ式の非接触ヒーターを用いることが好ましい。
【0033】
この加熱ヒーターの温度は、100〜200℃が好ましく、さらには130〜180℃の範囲が好ましい。加熱ヒーター温度が100℃より低いと捲縮が十分に発現されず、バルキー性が不十分となり易い。加熱ヒーター温度が200℃よりも高いと、繊維が融着したり強度が低下したりして加工性を損なうので好ましくない。
【0034】
弛緩熱処理する際の弛緩率は+5%〜+100%であることが好ましく、さらには+20%〜+80%の範囲とすることが好ましい。弛緩率が低すぎると、充分な収縮が得られずに捲縮の発現が足りずにバルキー性に欠け、捲縮形態も粗さが残る。弛緩率が高すぎるとヒーター内で糸の走行性が不安定となって糸切れを起こすために好ましくない。この弛緩率は、捲縮糸に要求される品質を満たすように適宜調整すればよい。
【0035】
緊張処理及び弛緩熱処理を続けて行う処理工程としては、例えば、図1に概略を示す工程が挙げられる。図1において、ポリエステル複合繊維糸条ドラムパッケージ(1)から解舒されて給糸されるポリエステル複合繊維糸条は、テンサー(2)で張力制御され、第1糸道ガイド(3)を経て、緊張処理ゾーンに送られる。緊張処理ゾーンでは、第1フィードローラー(4)と第2フィードローラー(6)との間で、所定倍率の延伸が行われるが、その途中の糸道上に、延伸ピン(5)を介在させる。この延伸ピン(5)には走行糸条を1周回程度、巻回す。第2フィードローラー(6)と第3フィードローラー(8)との間での糸条は所定の弛緩率の弛緩状態で走行し、その間で熱処理ヒーター(7)により熱処理される。第3フィードローラー(8)の後、走行糸条は第2糸道ガイド(9)を経た後に巻取られ、捲縮糸巻取りチーズパッケージ(10)が形成される。
【0036】
このように、本発明法では、緊張処理ゾーンと弛緩熱処理ゾーンとを連続的に配置した一連の工程(装置)によって、緊張処理と弛緩熱処理とを続けて行うものであり、これによって、糸長手方向についてバルキー性等の捲縮特性の均質化を図ることができる。本発明法によって製造されるポリエステル捲縮糸は、図2に模式的に示すように、糸長手方向に沿って単糸ばらけ程度が均質であり、バルキー性等の形態バラツキのないものとなる。
【0037】
このような本発明法によって製造することができる本発明のポリエステル捲縮糸は、伸縮伸長率が5〜100%であり、残留トルクが実質的にゼロであり、かつ、熱水収縮率が10%以下であるという特性を有する。
【0038】
本発明のポリエステル捲縮糸における伸縮伸長率(%)、残留トルク数(回/m)、熱水収縮率(%)は次の方法で測定したものである。
【0039】
(1)伸縮伸長率、伸縮弾性率
JIS−L−1090伸縮性試験方法(A法)に準じて伸縮伸長率(%)、伸縮弾性率(%)の測定を行う。試料の前処理方法としては、2mg/dの荷重をかけた状態で、90℃、20分間の熱水処理をする。次いで、荷重を外し、1昼夜風乾する。次いで2mg/d荷重下での試料の長さを測定する(L0)。その後、0.1g/dの荷重を加えた荷重下での試料の長さを測定する(L1)。更に、除重後、2分間放置して再び2mg/d荷重下での試料の長さを測定する(L2)。そして下記式にて伸縮伸長率と伸縮弾性率を算出する。
伸縮伸長率=[(L1−L0)/L0]×100(%)
伸縮弾性率=[(L1−L2)/(L1−L0)]×100(%)
【0040】
(2)残留トルク数
解舒撚が入らないようにチーズから解舒し、糸長が1mになるように捲縮糸の両端を粘着シールで固定する。糸の中央部に0.1g/dの初荷重を掛けた後、両手で両方のシールを持ちながら初荷重を中心に糸が二つ折りになるようにゆっくり両手を近づける。残留トルクの旋回力で荷重が旋回して2本の糸が撚合わされる。荷重の旋回が静止するまで放置する。静止後、シールと荷重を検撚機のクリップに固定し、2本の糸が撚り合わされた撚数を検撚機で測定する。これを5回繰り返して測定し、5回の平均値で残留トルク数を算出し、回/mで表示する。
【0041】
(3)沸水収縮率
カセ巻き機でカセ長40cm、巻き数10回のカセを作り、常温下で24時間放縮させる。次に、収縮測定台上部のフックにカセを吊し、カセ下端に荷重(0.1g/d)を吊り下げる。荷重を吊り下げてから30秒後にカセの原長(L1)を測る。原長を測った後、カセの収縮を妨げないように紗織物に柔らかく包み、これを98℃の熱水に30分間浸漬処理する。処理後、紗織物の包みごと脱水機に掛けて水分を除く。脱水後、カセを取り出し濾紙上に並べて24時間風乾させる。再度、収縮測定台上部のフックにカセを吊し、前記と同じ荷重を吊り下げてから30秒後のカセ長(L2)を測定する。この測定値から下記の式で沸水収縮率を算出する。n=3の平均値で表示する。
熱水収縮率=[(L1−L2)/L1]×100(%)
【0042】
本発明の捲縮糸は、ポリトリメチレンテレフタレート層を少なくとも1層とする複合繊維からなり、かつ弛緩熱処理された糸である。ポリトリメチレンテレフタレートは、ヤング率が低いためにソフトな風合いの繊維となり、また、製糸工程や弛緩熱処理によって加わる熱により、単繊維内で収縮差による歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態が発現する。
【0043】
この3次元コイル捲縮によってバルキーで伸縮伸長可能な捲縮糸となる。即ち、伸縮伸長率は5〜100%であり、好ましくは5〜50%である。伸縮伸長率が5%よりも小さいと実用的なバルキー性が不足し、100%を超えるとガサツキ感、ふかつき感を有する風合いになるので、編織物用の捲縮糸には不適当である。さらに、伸縮弾性率は、80%以上であることが好ましい。伸縮弾性率は捲縮糸を伸ばした後の伸長回復のし易さを表すものであり、この値が80%以上であると、熱処理糸のバルキー性に優れ、布帛にした際の反撥性、弾力性に優れたものとなる。
【0044】
また、本発明の捲縮糸は、仮撚り加工せずに所望の伸縮特性が付与されたものであるので、ノントルク性であり、しかも、熱水収縮率が小さいものである。即ち、残留トルク数が実質的にゼロであり、さらに、熱水収縮率が10%以下である。
【0045】
残留トルクのある捲縮糸は、そのトルクが大きいほど捲縮形態が粗くなるため編地にした時の布帛の斜行が大きくなって表面品位が悪化する。従って、残留トルクを実質的にゼロとすることにより、編地の斜行は回避することができ表面品位が一段と向上し、また、製編織等の後工程における捲縮糸の取扱性が容易になる。
【0046】
また、捲縮糸の熱水収縮率が10%を超えると織編物の残留収縮率が大きくなり、布帛をアイロン掛けや洗濯する時の寸法安定性が悪くなる。
【0047】
このように、本発明法によって加工処理して製造されるポリエステル捲縮糸は、ポリエステル編織物用として好適な特性を有するものであり、ソフトな風合いで表面品位が極めて良質で、斜行もない高品質の布帛とすることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
なお、実施例中におけるポリマの極限粘度[η]は次の方法で求めた。
オルソクロロフェノール10mlに対しポリマ試料0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0050】
[実施例1]
極限粘度が1.31のポリトリメチレンテレフタレートと極限粘度が0.52のポリエチレンテレフタレートとを別々に溶融し、紡糸温度260℃で24孔の複合紡糸口金より、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレートの重量比率が50/50でサイドバイサイドに複合された状態で溶融吐出し、ロールで引き取り、続いて延伸し、3400m/分で巻き取り、56dtex24フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合繊維糸条(延伸糸)を製造した。この複合繊維の単糸横断面はまゆ型であり、ポリトリメチレンテレフタレート層が高収縮層として機能し、コイル状捲縮発現性をもつ。
【0051】
得られたポリエステル複合繊維糸条を、村田機械(株)製MACH−335J型エアー加工機を用いて、加工速度400m/min、延伸倍率1.05倍、延伸ピン温度100℃、延伸ピン巻き回数1回、弛緩率+30%、弛緩熱処理温度160℃の条件で、緊張処理と弛緩熱処理を一貫工程で行って捲縮糸を製造した。
【0052】
得られたポリエステル捲縮糸はノントルク性であって、沸水収縮率が小さく、伸縮特性に優れたものであり、伸縮伸長率、伸縮弾性率、沸騰水収縮率、トルク数は表1に示すとおりであった。
【0053】
また、得られたポリエステル捲縮糸を用いて、通常の編成方法で筒編み地を作製し、生地表面の特性および斜行の有無を目視により検査した。その結果、生地表面はフラットで良好な品位を示すと共に斜行の発生もなく、いずれも優れたものであった。その結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1と同じサイドバイサイド型ポリエステル複合繊維糸条(延伸糸)を用い、弛緩率を+30%から+25%に変更した以外は実施例1と同じ条件(下記条件)にて一貫工程での加工を行い、捲縮糸を製造した。
加工速度: 400m/min
延伸倍率: 1.05(延伸ピン温度100℃、延伸ピン巻き回数1回)
弛緩率: +25%
弛緩熱処理温度: 160℃
【0055】
得られたポリエステル捲縮糸はノントルク性であって、沸水収縮率が小さく、伸縮特性に優れたものであり、伸縮伸長率、伸縮弾性率、沸騰水収縮率、トルク数は表1に示すとおりであった。また、この捲縮糸から実施例1の場合と同様に編成して得られた筒編み地は、生地表面がフラットで斜行のない良好な品位のものであった。その結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
実施例1と同じサイドバイサイド型ポリエステル複合繊維糸条(延伸糸)を用い、通常のピン方式の1ヒーター仮撚り加工機で下記条件でウーリー加工し、捲縮糸を製造した。
加工速度: 150m/min
仮撚り加工のドラフト:1.03
仮撚り数: 3000t/m
仮撚り加工温度: 160℃
【0057】
得られたウーリー加工糸は、残留トルクが大きく、沸水収縮率の大きいものであった。また、この捲縮糸から実施例1の場合と同様に編成して得られた筒編み地は、生地表面に凹凸があり、しかも斜行のある品位のものであった。その結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1と同じサイドバイサイド型ポリエステル複合繊維糸条(延伸糸)を用い、通常のピン方式の2ヒーター仮撚り加工機で下記条件でブレリア加工し、捲縮糸を製造した。
【0059】
加工速度: 150m/min
仮撚り加工のドラフト:1.03
仮撚り数: 3000t/m
仮撚り加工温度: 160℃
弛緩熱処理温度: 160℃
弛緩率: +50%
【0060】
得られたブレリア加工糸には残留トルクがあり、これから得られた筒編み地の生地表面はフラットながら、斜行のある品位のものであった。その結果を表1に示す。
このように、複合繊維糸条を仮撚加工した後に弛緩熱処理することによっても、生地表面を良好にすることはできるが、捲縮糸の残留トルクを十分に低減させることは難しく、編地の斜行を無くすことは困難である。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明法により得られるポリエステル捲縮糸は、伸縮特性に優れ、しかも、ノントルク性で沸水収縮率が小さいので、特に、編織物用の捲縮糸として有用である。さらに、糸長手方向に沿ってバルキー性等の糸特性が均質であるので、布帛にした場合でも生地表面に凹凸が生じず、生地表面のフラット性が良好な布帛とすることができる。また、斜行のない編地とすることができる。従って、本発明のポリエステル捲縮糸は、生地表面特性が重視される用途、例えば衣料用生地に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明法を実施する工程の一実施態様を示す概略工程図である。
【図2】本発明法によって製造されるポリエステル捲縮糸の一実施態様の捲縮形状を模式的に示す捲縮糸側面図である。
【図3】緊張処理することなく弛緩熱処理して得られるポリエステル捲縮糸の捲縮形状を模式的に示す捲縮糸の側面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ポリエステル複合繊維糸条ドラムパッケージ
2 テンサー
3 第1糸道ガイド
4 第1フィードローラー
5 延伸ピン
6 第2フィードローラー
7 熱処理ヒーター
8 第3フィードローラー
9 第2糸道ガイド
10 捲縮糸巻取りチーズパッケージ
21 バルキー性の高い部分
22 バルキー性の低い部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維からなる弛緩熱処理された捲縮糸であって、伸縮伸長率が5〜100%であり、残留トルク数が実質的にゼロであり、かつ、熱水収縮率が10%以下であることを特徴とするポリエステル捲縮糸。
【請求項2】
ポリエステル複合繊維糸条を緊張処理し、続いて弛緩熱処理することにより製造されるポリエステル捲縮糸であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル捲縮糸。
【請求項3】
ポリエステル複合繊維がサイドバイサイド型複合繊維又は偏心芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル捲縮糸。
【請求項4】
少なくとも1層がポリトリメチレンテレフタレート層であるポリエステル複合繊維からなる糸条を、緊張処理し、続いて弛緩熱処理することを特徴とするポリエステル捲縮糸の製造方法。
【請求項5】
緊張処理を延伸倍率1.01〜1.15倍で行うことを特徴とする請求項4に記載のポリエステル捲縮糸の製造方法。
【請求項6】
緊張処理を加熱ピン又は非加熱ピンに糸条を接触走行させつつ行うことを特徴とする請求項4又は5に記載のポリエステル捲縮糸の製造方法。
【請求項7】
弛緩熱処理を、加熱温度100〜200℃、かつ、弛緩率+5〜+100%で行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のポリエステル捲縮糸の製造方法。
【請求項8】
ポリエステル複合繊維がサイドバイサイド型複合繊維又は偏心芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のポリエステル捲縮糸の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−52493(P2006−52493A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234421(P2004−234421)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】