説明

ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 ポリエステル樹脂に噛み込む泡の量を減少して含水率を低くし、加水分解性に優れると共に、硬化性に優れるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 減圧下におけるポリエステル樹脂重縮合反応を終了し、反応系の該減圧度を常圧側へ移行せしめて、解重合反応あるいは変性反応を行なうポリエステル樹脂製造方法において、解重合反応あるいは変性反応後に再度減圧することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂の製造方法に関する。さらに詳細には含水率が低く、加水分解性に優れると共に、硬化性に優れるポリエステル樹脂を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共重合ポリエステル樹脂は、その共重合成分によりガラス転移温度や融点、塗膜物性をコントロールすることが出来るため、塗料、接着剤、コーティング剤等の分野で幅広く使用されている。この際、用途にあった特性を有するポリエステル樹脂を得るために、ポリエステル樹脂の分子末端を変性したり、解重合反応したりすることがよく行われている。例えば特許文献1には制振鋼板用接着剤として、ポリエステル樹脂製造後に溶融状態でポリカプロラクトンモノマーを添加してポリエステルポリカプロラクトンブロックポリマーを得る方法が開示されている。また、特許文献2にはポリエステル樹脂重縮合反応後、酸無水物化合物である無水フタル酸を反応させる方法が開示されている。さらに、特許文献3ではポリエステル樹脂重縮合反応終了後、ポリエステル樹脂にトリメリット酸を添加して解重合反応する工程が開示されている。
【0003】
通常高分子量ポリエステル樹脂は高真空度により重縮合反応を実施するので、ポリエステル重縮合反応後に変性反応や解重合反応を行うための原料成分を添加するには、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより、反応系の圧力を常圧付近まで戻す工程を採ることが多い。その後、常圧付近で解重合反応や変性反応を行うが、反応を均一にしかも効率よく進行させるためには反応系を攪拌機で攪拌することが不可欠である。
【0004】
しかしながら、これら工程はいずれも常圧付近で行っており、ポリエステル樹脂の溶融粘度が非常に高いことも相まって、ポリエステル樹脂に泡が噛み込んでしまう。泡はいくら攪拌を行っても消え去ることはなく、その後の払い出し工程により冷却固化され、泡入りのポリエステル樹脂のペレット等が製造されてしまう。通常、払い出し工程では冷却するために多量の水を用いるが、泡入りの樹脂では、その泡部に水が入り込み、例えば強風で吹き飛ばすといった通常行われる簡単な水切り工程で水分を除去することが出来ず、水分率の高いポリエステル樹脂となる。
【0005】
脂肪族ジカルボン酸を共重合したポリエステル樹脂や、酸価の高いポリエステル樹脂は、共重合成分を有しないポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに比べて加水分解性に劣ることが知られているが、このように水分率の高いポリエステル樹脂は、保管時に加水分解反応を起こし易く、長期保存安定性に劣る結果となる。また、共重合ポリエステル樹脂を接着剤として用いる場合、有機溶剤に溶解し、硬化剤等を配合して塗布・乾燥・接着されることが多いが、このように水分率の高いポリエステル樹脂であれば、その含有水分が硬化反応を阻害するために、目標とする接着強度の得られないことが多々起こる。しかしながら、これまで、解重合反応あるいは変性反応を行なうポリエステル樹脂製造方法において、具体的に泡を除去する方法は知られておらず、改良が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開平1−198622号公報(実施例)
【特許文献2】特開平5−70737号公報(実施例)
【特許文献3】特開2002−173582号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリエステル樹脂に噛み込む泡の量を減少して含水率を低くし、加水分解性に優れると共に、硬化性に優れるポリエステル樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記のような課題に直面し、鋭意検討した結果、工業的レベルでも安価に効率よく変性あるいは解重合したポリエステル樹脂を製造することができる方法を見出した。すなわち本発明は、減圧下ポリエステル樹脂重縮合反応を終了し、反応系の該減圧度を常圧側へ移行せしめて、解重合反応あるいは変性反応を行なうポリエステル樹脂製造方法において、解重合反応あるいは変性反応後に再度減圧することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法である。
また、酸価が50〜5000eq/tで、0.80≦(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)≦1.00の条件を満足するポリエステル樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安価でしかも工業的に実施が可能で、品位に優れた変性、あるいは解重合したポリエステル樹脂を得ることが出来る。このポリエステル樹脂は、耐加水分解性に優れるため、長期保存しても使用が可能であり、また、それを用いた接着剤は、水分率の影響を受けにくいため、安定した接着性を発揮することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、減圧下ポリエステル樹脂重縮合反応を終了し、反応系の該減圧度を常圧側へ移行せしめて、解重合反応あるいは変性反応を行なうポリエステル樹脂製造方法において、解重合反応あるいは変性反応後に再度減圧することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法である。
【0011】
ポリエステル樹脂は通常高真空下で重合されるが、ポリエステル樹脂の重縮合反応終了時に副原料を添加するために常圧側へ減圧度を移行させる操作が必要である。この際、窒素、アルゴン等の不活性ガスを反応系に導入することが好ましい。
【0012】
続いて溶融ポリエステル樹脂に多価カルボン酸等の副原料を添加する工程が必要となる。この際、反応缶の上部投入口を開けて投入するか、あるいは反応缶に直接連結された投入機により副原料を投入することが出来る。
【0013】
その後、ポリエステル樹脂と投入した副原料を反応させる。解重合反応や変性反応を行う際、圧力を1×104〜1×106Paの範囲に調整することが好ましい。また、5×104〜5×105Paの範囲に調整することがさらに好ましい。圧力が1×104Pa未満であると反応が過度に進行してポリエステル樹脂のゲル化を起こしたり、あるいは副原料が昇華あるいは蒸発したりして正常な反応が進行しないおそれがある。圧力が1×106Paを超える場合、ポリエステル樹脂の分解を招くおそれがある。解重合反応や変性反応を効率的に、かつ均一に進行させるために反応混合物を攪拌することが望ましい。しかしながら攪拌を行うことによりポリエステル樹脂に泡を噛み込んでしまう。
【0014】
解重合反応や変性反応を終了した後、反応系を再度減圧する。ここで、減圧の前に攪拌を停止することが好ましい。減圧の速度は1×105〜1×103Pa/minの範囲にあることが好ましい。1×103Pa/minを超える速度で減圧すると発泡が激しく、液面が上昇することによりポリエステル樹脂が系外に溜出するおそれがある。1×105Pa未満では十分に脱泡することができない場合がある。最終到達減圧度は存在する泡の量やポリエステル樹脂の溶融粘度により設定することが出来るが、脱泡の効率の観点から5×101Pa以上1×104Pa未満の範囲にあることが好ましい。5×101Pa未満まで減圧度を上げると、さらに重縮合反応が進行し、部分的にゲル状物を発生することがある。1×104Pa以上である場合、十分に脱泡できないことがある。
【0015】
本発明に用いるポリエステル樹脂の多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン−マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリト酸、(無水)ピロメリト酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸等の3価以上のカルボン酸等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選択し使用できる。
【0016】
本発明に用いるポリエステル樹脂に使用される多価アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、4−プロピル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水素添加ビスフェノール類等の脂環族ポリアルコール等、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等の3価以上のポリアルコール等が挙げることができ、これらの中から1種、又はそれ以上を選び使用できる。
【0017】
ポリエステル樹脂を重縮合した後、解重合反応あるいは変性反応を行う。解重合反応においては、多価カルボン酸および/または多価アルコールを溶融ポリエステル樹脂に添加して反応させるものが好ましい。ここで用いる副原料成分としては、例えば上述したポリエステル樹脂を構成することの出来る多価カルボン酸、多価アルコールを用いることが出来る。この際、反応をコントロールしやすい、反応性の末端基が増加する等の理由から、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が好ましく用いられる。反応は150〜290℃の範囲で、1〜300分の時間をかけて行うことが好ましい。
【0018】
変性反応としては、ポリエステル樹脂へのラクトンモノマーの開環付加反応が例示できる。これによりポリエステル樹脂の末端にポリカプロラクトンが結合したブロックタイプのポリエステル樹脂を製造することが可能となる。用いるモノマーとしてはε−カプロラクトンが好ましい。反応は150〜290℃の範囲で、1〜300分の時間をかけて行うことが好ましい。
【0019】
また、変性反応としては、ポリエステル樹脂のラクチドモノマーの開環付加反応を例示することが出来る。これによりポリエステル樹脂の末端にポリ乳酸が結合したブロックタイプのポリエステル樹脂を製造することが可能となる。用いるモノマーはL−ラクチド、DL-ラクチド、D−ラクチドのいずれをも用いることが出来る。反応は150〜290℃の範囲で、1〜300分の時間をかけて行うことが好ましい。
【0020】
また、変性反応として、ポリエステル樹脂へのカルボン酸無水物の付加反応を挙げることも出来る。この方法により効率的にポリエステル分子末端にカルボキシル基を導入することが出来る。用いる副原料としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、2,3,2’,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等があり、これらの中から1種、または2種以上を選び使用できる。この中でも反応を制御し、効率的にカルボキシル基を分子に導入するという観点から、無水フタル酸、無水トリメリット酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物が好ましい。反応は150〜290℃の範囲で、1〜300分の時間をかけて行うことが好ましい。
【0021】
一般に、脂肪族ジカルボン酸を共重合したポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸のみを重合したポリエステル樹脂に比べて、加水分解性に劣ることが知られているが、この傾向は、特にポリエステル樹脂へのカルボン酸無水物の付加反応を行った変性ポリエステル樹脂や、多価カルボン酸により解重合反応を行ったポリエステル樹脂で顕著である。これらポリエステル樹脂は50〜5000eq/tという高い酸価を有しているからである。酸価は高いほうがそのような傾向がより強いため、本発明においては100〜5000eq/tの方が効果が顕著であり好ましい。この際、(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)を0.80〜1.00の範囲に調整することが望ましい。なお、ここで言うポリエステル樹脂の比重とは、ポリエステル樹脂のペレットやそれ以外の形態から試料を無作為に10点サンプリングし、ポリエステルを3mm×3mm×3mmの立方体に切断し、(ペレットである場合は切断せずにそのまま)、30℃に調整した塩化カルシウム水溶液(比重が1より軽いときはポリエステル樹脂を溶解せず1より比重の低い溶剤と別の溶剤の組み合わせ、以下同様)中にて、ポリエステル樹脂が水溶液の液面から底面までの中間に留まるように塩化カルシウムの濃度を調整した後、塩化カルシウム水溶液の比重を比重計にて測定することにより得た値である。ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重とは、上記測定したサンプルをそのまま融着しないようにして220℃の温度の恒温機や乾燥機にて熱処理し、泡を取り除いたサンプルについて再度同様に比重を測定した値である。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)が1であるということは全く泡を噛み込んでいない樹脂であることを意味する。0.80未満であると加水分解性が低下するために、樹脂の保存安定性や硬化性に影響を与える場合がある。
【0022】
上記変性あるいは解重合反応後のポリエステル樹脂のガラス転移温度は−100〜85℃であることが好ましい。好ましい下限は−50℃、さらに好ましくは−20℃である。一方上限は75℃以下が好ましく、70℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度が−100℃未満のポリエステル樹脂の場合、ポリエステル樹脂の溶融粘度が低い傾向にあるため、本発明の方法を用いた場合脱泡の効率の低いことがある。85℃を超える場合、樹脂の溶融粘度が高い傾向にあるため、脱泡しにくいことがある。ガラス転移温度は示差走査熱量分析計(DSC)にて測定することが出来る。
【0023】
また、上記変性あるいは解重合反応後のポリエステル樹脂の還元粘度は0.02〜1.80dl/gであることが好ましい。好ましい下限は0.05dl/g、より好ましくは0.10dl/gである。好ましい上限は1.0dl/g、より好ましくは0.60dl/gである。還元粘度が0.02dl/g未満であるとポリエステル樹脂の溶融粘度が低い傾向にあるため、本発明の方法を用いた場合脱泡の効率の低いことがある。1.80dl/gを超える場合、樹脂の溶融粘度が高い傾向にあるため、脱泡しにくいことがある。
【実施例】
【0024】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、ポリエステル樹脂の物性値測定は以下の方法により行った。
【0025】
ポリエステル樹脂の組成
ポリエステル樹脂を、重クロロホルム溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なってその積分比より決定した。
【0026】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度、融点
ポリエステル樹脂サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度はガラス転移温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。融点は吸熱ピークの頂点より求めた。
【0027】
ポリエステル樹脂の還元粘度
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25cm3に溶かし、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
【0028】
ポリエステル樹脂の水分率
三菱化学社製水分気化装置付きのCA−07型微量水分測定装置(電量滴定方式自動水分測定装置)により測定した。測定液としてはアクアミクロンAX、CXU(三菱化学社製)を用いた。
【0029】
ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル0.2gを20cm3のクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当たりの当量(eq/t)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。
【0030】
ポリエステル樹脂の比重
無作為に抽出した10サンプルのポリエステルを3mm×3mm×3mmの立方体に切断し、30℃に調整した塩化カルシウム水溶液中で測定した。ポリエステル樹脂が水溶液の液面から底面までの中間に留まるように塩化カルシウムの濃度を調整した後、塩化カルシウム水溶液の比重を比重計にて測定して、ポリエステル樹脂の比重とした。
また、そのポリエステルを融着しないようにして220℃の熱風乾燥機にて10分間熱処理後、室温まで放冷し、再度同様の方法により比重を測定した。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)を計算することにより、泡含有度の目安とした。
【0031】
[実施例1]
攪拌機、溜出用コンデンサーを備えた内容積3Lのステンレス製重合釜に、テレフタル酸166質量部、イソフタル酸66.4質量部、セバシン酸121.2質量部、エチレングリコール136.4質量部、ネオペンチルグリコール187.2質量部を仕込み、2.0kgf/cm3の加圧化、3時間かけて235℃まで昇温し、水を溜出させエステル化反応を行った。エステル化反応終了後チタンテトラブトキシド0.14質量部添加して10分攪拌後、30分かけて650Paまで初期減圧重合を行うと共に温度を255℃まで昇温し、さらにこのまま130Pa以下で45分間後期重合を行った。重合完了後、窒素で圧力を1.0×105Paにして、200℃まで冷却した。次いで攪拌を行ったまま、無水トリメリット酸7.7質量部を添加し、200℃にて30分間攪拌した。極少量のサンプリングを行うと、樹脂は多量の気泡を噛み込んでいた。
続いて攪拌を停止して、6.7×103Pa/minの速度で1.3×103Paまで減圧し、そのまま10分間保持することにより脱泡を行った。窒素にて1.0×105Paの圧力にし、さらに加圧状態にして変性ポリエステル樹脂を重合釜底部より排出した。その際、多量の水にて冷却固化を行い、エアを吹きかけることにより表面付着水を取り除いた。
得られた変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は8℃、還元粘度0.55dl/gであった。樹脂組成はテレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸/トリメリット酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/19/29/2//41/59(モル比)であった。酸価は154eq/t、樹脂水分率は0.11wt%であった。目視では全く気泡の噛み込みは認められなかった。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)は0.99であった。
【0032】
[実施例2]
攪拌機、溜出用コンデンサーを備えた内容積3Lのステンレス製重合釜に、テレフタル酸149質量部、イソフタル酸183質量部、エチレングリコール136.4質量部、ネオペンチルグリコール187.2質量部を仕込み、2.0kgf/cm3の加圧化、3時間かけて235℃まで昇温し、水を溜出させエステル化反応を行った。エステル化反応終了後チタンテトラブトキシド0.14質量部添加して10分攪拌後、30分かけて650Paまで初期減圧重合を行うと共に温度を255℃まで昇温し、さらにこのまま130Pa以下で45分間後期重合を行った。重合完了後、窒素で圧力を1.0×105Paにして、200℃まで冷却した。次いで攪拌を行ったまま、ε−カプロラクトン228質量部を添加し、200℃にて60分間攪拌した。極少量のサンプリングを行うと、樹脂は多量の気泡を噛み込んでいた。
続いて攪拌を停止して、8.3×103Pa/minの速度で8.5×102Paまで減圧し、そのまま10分間保持することにより脱泡を行った。窒素にて1.0×105Paの圧力にし、さらに加圧状態にして変性ポリエステル樹脂を重合釜底より排出した。その際、多量の水にて冷却固化を行い、エアを吹きかけることにより表面付着水を取り除いた。
得られた変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は−12℃、還元粘度0.98dl/gであった。樹脂組成はテレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール//カプロラクトン=45/55//41/59//100(モル比)であった。酸価は21eq/t、樹脂水分率は0.15wt%であった。目視では全く気泡の噛み込みは認められなかった。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)は0.98であった。
【0033】
[実施例3]
攪拌機、溜出用コンデンサーを備えた内容積3Lのステンレス製重合釜に、テレフタル酸133質量部、イソフタル酸133質量部、セバシン酸81部、エチレングリコール136.4質量部、1,9−ノナンジオール288.0質量部を仕込み、2.0kgf/cm3の加圧化、3時間かけて235℃まで昇温し、水を溜出させエステル化反応を行った。エステル化反応終了後チタンテトラブトキシド0.14質量部添加して10分攪拌後、30分かけて650Paまで初期減圧重合を行うと共に温度を255℃まで昇温し、さらにこのまま130Pa以下で45分間後期重合を行った。重合完了後、窒素で圧力を1.0×105Paにして、200℃まで冷却した。次いで攪拌を行ったまま、L−ラクチド287質量部、オクチル酸錫0.08質量部を添加し、200℃にて60分間攪拌した。極少量のサンプリングを行うと、樹脂は多量の気泡を噛み込んでいた。
続いて攪拌を停止して、8.3×103Pa/minの速度で8.5×102Paまで減圧し、そのまま10分間保持することにより脱泡を行った。窒素にて1.0×105Paの圧力にし、さらに加圧状態にして変性ポリエステル樹脂を重合釜底より排出した。その際、多量の水にて冷却固化を行い、エアを吹きかけることにより表面付着水を取り除いた。
得られた変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は−18℃、融点は146℃、還元粘度0.65dl/gであった。樹脂組成はテレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//エチレングリコール/1,9−ノナンジオール//ラクチド=40/40/20//13/87//97(モル比)であった。酸価は31eq/t、樹脂水分率は0.15wt%であった。目視では全く気泡の噛み込みは認められなかった。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)は0.86であった。
【0034】
[比較例1]
攪拌機、溜出用コンデンサーを備えた内容積3Lのステンレス製重合釜に、テレフタル酸166質量部、イソフタル酸66.4質量部、セバシン酸121.2質量部、エチレングリコール136.4質量部、ネオペンチルグリコール187.2質量部を仕込み、2.0kgf/cm3の加圧化、3時間かけて235℃まで昇温し、水を溜出させエステル化反応を行った。エステル化反応終了後チタンテトラブトキシド0.14質量部添加して10分攪拌後、30分かけて650Paまで初期減圧重合を行うと共に温度を255℃まで昇温し、さらにこのまま130Pa以下で45分間後期重合を行った。重合完了後、窒素で圧力を1.0×105Paにして、200℃まで冷却した。次いで攪拌を行ったまま、無水トリメリット酸7.7質量部を添加し、200℃にて30分間攪拌した。続いて窒素にて加圧状態にして重合釜底から変性ポリエステル樹脂を排出した。その際、多量の水にて冷却固化を行い、エアを吹きかけることにより表面付着水を取り除いた。
得られた変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は8℃、還元粘度0.54dl/gであった。樹脂組成はテレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸/トリメリット酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/19/29/2//41/59(モル比)であった。酸価は155eq/t、樹脂水分率は1.2wt%であった。目視では多量の気泡の噛み込みが確認された。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)は0.78であった。
【0035】
[比較例2]
攪拌機、溜出用コンデンサーを備えた内容積3Lのステンレス製重合釜に、テレフタル酸149質量部、イソフタル酸183質量部、エチレングリコール136.4質量部、ネオペンチルグリコール187.2質量部を仕込み、2.0kgf/cm3の加圧化、3時間かけて235℃まで昇温し、水を溜出させエステル化反応を行った。エステル化反応終了後チタンテトラブトキシド0.14質量部添加して10分攪拌後、30分かけて650Paまで初期減圧重合を行うと共に温度を255℃まで昇温し、さらにこのまま130Pa以下で45分間後期重合を行った。重合完了後、窒素で圧力を1.0×105Paにして、200℃まで冷却した。次いで攪拌を行ったまま、ε−カプロラクトン228質量部を添加し、200℃にて60分間攪拌した。次いで窒素にて加圧状態にして重合釜底から変性ポリエステル樹脂を排出した。その際、多量の水にて冷却固化を行い、エアを吹きかけることにより表面付着水を取り除いた。
得られた変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は−12℃、還元粘度0.99dl/gであった。樹脂組成はテレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール//カプロラクトン=45/55//41/59//100(モル比)であった。酸価は20eq/t、樹脂水分率は0.95wt%であった。目視では多量の気泡の噛み込みが確認された。(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)は0.76であった。
【0036】
以上のようにして得られたポリエステル樹脂を用いて以下、各種評価を行った。評価方法を以下に、評価結果を表1にまとめる。
【0037】
[ポリエステル樹脂の保存安定性]
3mm×3mm×3mmの大きさに切断したポリエステル樹脂を30℃×85%RHにて30日間保管した。その後の還元粘度を測定し、加水分解がどの程度進むかを判断した。
【0038】
[ポリエステル樹脂の硬化性]
ポリエステル樹脂100質量部にベンゾフェノンテトラカルボン酸1.2質量部、エポトートYD8125(東都化成社製)3.6質量部、安定剤としてチバスペシャリティケミカル社製イルガノックス1010 0.01質量部を、シクロヘキサノン78.6質量部、ソルベッソ100質量部に加え、70℃で1時間攪拌することにより混合した。室温まで冷却後、その混合ワニスにトリフェニルホスフィン0.8質量部を添加してさらに攪拌し、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面に乾燥膜厚が30μmになるように塗布し、180℃で3分間硬化反応を行った。3分後フィルムを取り出し、室温まで冷却後、3cm×4cmの大きさに切り、質量を測定した。次いでメチルエチルケトン/トルエン=1/1(質量比)に1時間浸漬し、室温で風乾して再度質量を測定した。予め測定しておいた同面積の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの質量をもとにゲル分率を計算した。ゲル分率は数値が大きいほど硬化性が良好であることを示す。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、安価でしかも工業的に実施が可能で、品位に優れた変性、あるいは解重合したポリエステル樹脂を得ることが出来る。このポリエステル樹脂は、耐加水分解性に優れるため、長期保存しても使用が可能であり、また、それを用いた接着剤は、水分率の影響を受けにくいため、安定した接着性を発揮することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下におけるポリエステル樹脂重縮合反応を終了し、反応系の該減圧度を常圧側へ移行せしめて、解重合反応あるいは変性反応を行なうポリエステル樹脂製造方法において、解重合反応あるいは変性反応後に再度減圧することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
解重合反応が、多価カルボン酸および/または多価アルコールをポリエステル樹脂と反応させるものである請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
変性反応が、カプロラクトンモノマーをポリエステル樹脂に開環付加反応させるものである請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
変性反応が、カルボン酸無水物化合物をポリエステル樹脂と付加反応させるものである請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
変性反応が、ラクチドをポリエステル樹脂と付加反応させるものである請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
解重合反応あるいは変性反応を1×104〜1×106Paで行う請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
解重合反応あるいは変性反応後に再度減圧する際の圧力が5×101Pa以上1×104Pa未満である請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
解重合反応あるいは変性反応後で再度減圧する前に攪拌を停止する請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
酸価が50〜5000eq/tで、0.80≦(ポリエステル樹脂の比重/ポリエステル樹脂を220℃×10分の熱処理した後の比重)≦1.00の条件を満足するポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2006−131752(P2006−131752A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322271(P2004−322271)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】