説明

ポリエステル樹脂及びその製造方法

【目的】アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂であって、アンチモンの溶出量が抑制され、且つ、色調も良好で、副生成物の発生も低減化されたポリエステル樹脂を提供する。
【構成】芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であるポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂に関し、更に詳しくは、重縮合後の後処理工程、及び繊維加工後の染色工程等の、水や溶剤等との接触時におけるアンチモンの溶出量が抑制されたポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、衛生性等に優れ、又、比較的安価で軽量であるために、容器やフィルム等の各種包装資材、或いは繊維等として広く用いられており、主としてアンチモン化合物を重縮合触媒として製造されているが、樹脂中に残存したアンチモン成分が、例えば、重縮合後の冷却等の水と接触する工程、或いは、繊維加工後の染色等の溶剤と接触する工程等において、溶出して環境汚染を引き起こす等の問題が懸念されている。
【0003】
一方、重縮合触媒としてアンチモン化合物に代えてチタン化合物を用いるとか、或いはチタン化合物を併用する等により製造されたポリエステル樹脂が種々提案されているが、いずれも、色調が低下するとか、アセトアルデヒドやジエチレングリコール等の副生成物が増加して溶融熱安定性が低下する等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述の従来技術に鑑みてなされたもので、アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂であって、アンチモンの溶出量が抑制され、且つ、色調も良好で、副生成物の発生も低減化されたポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
更に、本発明は、かかるポリエステル樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成すべくなされたものであって、即ち、本発明は、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であるポリエステル樹脂、を要旨とする。
【0006】
他の要旨は、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを重縮合させることによるポリエステル樹脂の製造方法であって、下記の重合触媒由来の各原子を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
0<T≦50(重量ppm)
10≦Sb≦250(重量ppm)
0.1≦P≦20(重量ppm)
6.0≦Sb/P≦30
(上式において、Tは樹脂中のチタン原子、ハフニウム原子及び、ジルコニウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子の濃度の合計(ppm)、Sbは樹脂中のアンチモン原子濃度(ppm)、Pは樹脂中のリン原子濃度(ppm))に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂であって、アンチモンの溶出量が抑制され、且つ、色調も良好で、副生成物の発生も低減化されたポリエステル樹脂を提供することができる。
又、本発明のポリエステル樹脂の製造方法によれば、上記ポリエステル樹脂を重合性、生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたものである。
【0009】
本発明において、その芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、具体的には、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、並びに、テレフタル酸ジメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル等の、これら芳香族ジカルボン酸の炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物等が挙げられ、中で、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、或いはそれらのアルキルエステルが好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。
【0010】
尚、前記芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分としては、例えば、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びに、これらの脂環式ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸の炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0011】
又、エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0012】
更に、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分、等の一種又は二種以上が、共重合成分として用いられていてもよい。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂は、前記芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を、ジカルボン酸成分の50モル%以上、好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上を占めるジカルボン酸成分と、エチレングリコールをジオール成分の50モル%以上、好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上を占めるジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て重縮合させることにより製造されたものである。尚、反応系内で副生したジエチレングリコールが共重合されていてもよく、共重合成分として系外から添加される分も含めたジエチレングリコールの含有量は5モル%以下であるのが好ましい。ジエチレングリコールの含有量が多いと、ポリエステル樹脂としてアンチモンの溶出量の抑制の程度が低下する傾向となる外、樹脂としての溶融熱安定性、耐熱性、及び機械的強度等が低下する傾向となる。
【0014】
そして、本発明においては、その重縮合は少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下になされたものであり、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には少なくともアンチモン成分及び燐成分が含有される。
【0015】
ここで、そのアンチモン化合物としては、具体的には、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン、トリフェニルアンチモン、アンチモングリコレート等が挙げられ、中で、三酸化アンチモンが好ましい。
【0016】
又、その燐化合物としては、具体的には、例えば、正燐酸、ポリ燐酸、及び、それらのエステル類、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等、の5価の燐化合物、次亜燐酸、亜燐酸、及び、それらのエステル類、例えば、ジメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト等、並びに、それらのリチウム、ナトリウム、或いはカリウム等の金属塩類等、の3価の燐化合物等が挙げられ、中で、エチルアシッドホスフェート等の正燐酸エステル類等の5価の燐化合物、次亜燐酸、亜燐酸、及び、ジエチルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の亜燐酸エステル類等の3価の燐化合物が好ましく、亜燐酸、及び亜燐酸エステル類等の3価の燐化合物が特に好ましい。
【0017】
本発明において、前記アンチモン化合物、及び前記燐化合物の重縮合時の各使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における各含有量は、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10〜250重量ppmであるのが好ましく、30〜150重量ppmであるのが更に好ましく、50〜110重量ppmであるのが特に好ましい。アンチモン原子としての含有量が前記範囲未満では、重縮合性が不足して生産性の低下を招くと共に、色調も低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる。
【0018】
又、ポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子(P)としての含有量が、0.1〜20重量ppmであるのが好ましく、1.0〜15重量ppmであるのが更に好ましく、2.0〜10重量ppmであるのが特に好ましい。燐原子としての含有量が前記範囲未満では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる。
【0019】
又、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Sb/P)が、6.0〜30であるのが好ましく、8.0〜20であるのが更に好ましく、9.0〜15であるのが特に好ましい。アンチモン原子としての含有量と燐原子としての含有量との比が前記範囲未満では、重縮合性が不足して生産性の低下を招くと共に、色調も低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる。
【0020】
又、重縮合は、周期律表第1A族、同第IIA族、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素の化合物の共存下になされたものであるのが好ましく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には、その周期律表第1A族、同第IIA族、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有されるのが好ましい。
【0021】
そして、本発明において、これらの金属化合物の重縮合時の合計使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における合計含有量は、ポリエステル樹脂中のそれらの金属元素成分の金属原子(M)としての合計含有量が0.1〜100重量ppmであるのが好ましい。
【0022】
前記の共存金属化合物としては、例えば、周期律表第1A族のリチウム、ナトリウム、カリウム等、同第IIA族のベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等、及び、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトの、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0023】
これらの共存金属化合物の中で、本発明においては、周期律表第1A族、同第IIA族の金属化合物、就中、同第IIA族のマグネシウム化合物が好ましく、そのマグネシウム化合物としては、具体的には、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、中で、酢酸マグネシウムが好ましい。
【0024】
又、マグネシウム化合物の重縮合時の使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における含有量は、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が、0.1〜30重量ppmであるのが好ましく、1.0〜20重量ppmであるのが更に好ましく、3.0〜15重量ppmであるのが特に好ましい。マグネシウム原子としての含有量が前記範囲未満では、溶出量を抑制することが困難な傾向となり、一方、前記範囲超過では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となる。
【0025】
又、共存金属化合物がマグネシウム化合物である場合、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1〜3.0であるのが好ましく、1.3〜2.5重量ppmであるのが更に好ましく、1.5〜2.0であるのが特に好ましい。マグネシウム原子としての含有量と燐原子としての含有量との比が前記範囲未満では、溶出量を抑制することが困難な傾向となり、一方、前記範囲超過では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となる。
【0026】
又、これらの共存金属化合物の中で、チタン化合物も好ましく、特に周期律表第1A族、同第IIA族の金属化合物、就中、同第IIA族の前記マグネシウム化合物との併用が好ましく、そのチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、チタンアセチルアセトナート、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中で、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
【0027】
又、チタン化合物の重縮合時の使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における含有量は、ポリエステル樹脂中のチタン成分のチタン原子(Ti)としての含有量が、0.25〜10重量ppmであるのが好ましく、0.75〜5.0重量ppmであるのが更に好ましく、1.5〜4.0重量ppmであるのが特に好ましい。チタン原子としての含有量が前記範囲未満では、溶出量の抑制の程度が低下する傾向となり、一方、前記範囲超過では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となる。
【0028】
尚、その他の共存金属化合物としては、代表的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の周期律表第1A族の金属の化合物、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等の周期律表第IIA族の金属の化合物、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、亜鉛メトキサイド、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛等の亜鉛化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、蓚酸ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酸化マンガン、水酸化マンガン、マンガンメトキサイド、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、塩化マンガン等のマンガン化合物、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、安息香酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、蓚酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等のコバルト化合物等が挙げられる。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂は、前記芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化又はエステル交換反応を経て、少なくとも前記アンチモン化合物と前記燐化合物の存在下、好ましくは前記金属化合物、就中、マグネシウム化合物、及び/又は、チタン化合物の共存下に重縮合させることにより製造されるが、基本的には、ポリエステル樹脂の慣用の製造方法による。即ち、前記芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、必要に応じて用いられる共重合成分等と共に、スラリー調製槽に投入して攪拌下に混合して原料スラリーとなし、エステル化反応槽で常圧〜加圧下、加熱下で、エステル化反応させ、或いは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、前記化合物の存在下に、常圧から漸次減圧としての減圧下、加熱下で、溶融重縮合させることにより製造される。
【0030】
アンチモンの溶出量が特定範囲の本発明のポリエステル樹脂を得ることが出来る製造方法は特に限定されないが、アンチモン、リン等の原子を、得られるポリエステル樹脂に対して前述の如き特定範囲、特定量比で添加することが挙げられ、よって本発明は、そのようなポリエステル樹脂の製造方法にも関する。
すなわち、本発明のポリエステル樹脂を製造するための好適な方法としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを重縮合させることによるポリエステル樹脂の製造方法であって、重合触媒由来の各原子を得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法があげられる。
0<T≦50ppm
10≦Sb≦250ppm
0.1≦P≦20ppm
6.0≦Sb/P≦30
(上式において、Tは樹脂中のチタン原子、ハフニウム原子及びジルコニウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子または複数の濃度の合計(ppm)、Sbは樹脂中のアンチモン原子濃度(ppm)、Pは樹脂中のリン原子濃度(ppm))
尚、ppmは特に断りのない限り、重量ppmを意味する。
【0031】
更に、該製造方法におけるジカルボン酸成分、ジオール成分、T、Sb、Pなどの好ましい範囲は、本発明のポリエステル樹脂の成分について前述されるものである。
また、上記本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、好ましくは、上記重合触媒に加えて、更に下記の重合触媒を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように触媒を反応系に添加する。
0.1≦M≦200ppm
1.1≦M/P≦15
(Mは樹脂中のIA族金属原子、IIA族金属原子、マンガン原子、鉄原子及び、コバルト原子から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属原子の合計の含有量(ppm))
該製造方法における、M、Pなどの好ましい範囲は、本発明のポリエステル樹脂の成分について前述されるものである。
【0032】
さらに好ましくは、エステル化率が90%未満の段階において、エステル化反応物を含む反応混合物に燐化合物を添加し、エステル化率が90%以上に達した後、IA族元素化合物、IIA族化合物、マンガン化合物、鉄化合物及び、コバルト化合物の中から選ばれる少なくとも一種の金属原子の化合物を添加し、しかる後に、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を添加する。
尚、エステル交換反応の場合はエステル交換触媒を用いる必要があり、そのエステル交換触媒を多量に用いる必要があることから、本発明においてはエステル化反応を経て製造されたものであるのが好ましい。
【0033】
ここで、エステル化反応による場合、原料スラリーの調製は、芳香族ジカルボン酸を主成分とするシカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分、及び必要に応じて用いられる共重合成分等とを、ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比を、好ましくは1.02〜2.0、更に好ましくは1.03〜1.7の範囲として混合することによりなされる。同モル比が前記範囲未満ではエステル化反応性が低下することとなり、一方、前記範囲超過ではジエチレングリコールの生成量が増加することとなる。
【0034】
又、エステル化反応は、通常、複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、エチレングリコールの還流下、且つ、反応で生成する水と余剰のエチレングリコールを系外に除去しながら、エステル化率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上、好ましくは93%以上に達するまで行われる。又、得られるエステル化反応生成物としてのポリエステル低分子量体の数平均分子量は500〜5,000であるのが好ましい。
【0035】
エステル化反応における反応条件としては、第1段目のエステル化反応槽における反応温度を、通常240〜270℃、好ましくは245〜265℃、大気圧に対する相対圧力を、通常5〜300kPa(0.05〜3kg/cm2 G)、好ましくは10〜200kPa(0.1〜2kg/cm2 G)とし、最終段における反応温度を、通常250〜280℃、好ましくは255〜275℃、大気圧に対する相対圧力を、通常0〜150kPa(0〜1.5kg/cm2 G)、好ましくは0〜130kPa(0〜1.3kg/cm2 G)とする。尚、単数のエステル化反応槽で反応を行う場合には、前記最終段における反応条件が採られる。
【0036】
尚、エステル化反応において、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物等を少量添加しておくことにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
【0037】
又、溶融重縮合は、通常、複数の溶融重縮合槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、減圧下に、生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行われる。反応装置としては、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器であり、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなるものが用いられる。
【0038】
溶融重縮合における反応条件としては、第1段目の重縮合槽における反応温度を、通常250〜290℃、好ましくは260〜280℃、絶対圧力を、通常65〜1.3kPa(500〜10Torr)、好ましくは26〜2kPa(200〜15Torr)とし、最終段における反応温度を、通常265〜300℃、好ましくは270〜295℃、絶対圧力を、通常1.3〜0.013kPa(10〜0.1Torr)、好ましくは0.65〜0.065kPa(5〜0.5Torr)とする。中間段における反応条件としては、それらの中間の条件が選択され、例えば、3段反応装置においては、第2段における反応温度を、通常265〜295℃、好ましくは270〜285℃、絶対圧力を、通常6.5〜0.13kPa(50〜1Torr)、好ましくは4〜0.26kPa(30〜2Torr)とする。
【0039】
尚、重縮合における前記アンチモン化合物、前記燐化合物、及び前記共存金属化合物等の反応系への添加は、原料のジカルボン酸成分とジオール成分等のスラリー調製工程、エステル化反応工程の任意の段階、又は、溶融重縮合工程の初期の段階のいずれであってもよいが、樹脂中の固体異物生成を抑制し、十分な重合活性を得た上で、得られるポリエステル樹脂におけるアンチモンの溶出量を抑制し、アセトアルデヒド等の副生成物を低減化する効果を有効に発現させるためには、前記燐化合物は、スラリー調製槽又は第1段目のエステル化反応槽に添加するのが好ましく、スラリー調製槽に添加するのが特に好ましい。又、前記アンチモン化合物、及び前記共存金属化合物は、エステル化反応工程においてエステル化率90%以上のエステル化反応生成物、具体的には、例えば、多段反応装置における最終段のエステル化反応槽、又は、エステル化反応生成物を溶融重縮合工程に移送する段階、に添加するのが好ましく、前記アンチモン化合物、及び、前記共存金属化合物の中の周期律表第1A族、同第IIA族の金属化合物は、前記共存金属化合物の中の亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の化合物よりも前に添加するのが特に好ましい。
【0040】
前記溶融重縮合により得られた樹脂は、通常、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状、チップ状等の粒状体とされるが、更に、この溶融重縮合後の粒状体を、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、大気圧に対する相対圧力として、通常100kPa(1kg/cm2 G)以下、好ましくは20kPa(0.2kg/cm2 G)以下の加圧下、或いは、絶対圧力として、通常6.5〜0.013kPa(50〜0.1Torr)、好ましくは1.3〜0.065kPa(10〜0.5Torr)の減圧下で、通常190〜230℃、好ましくは195〜225℃の温度で加熱することにより、固相重縮合される。この固相重縮合により、更に高重合度化させ得ると共に、アセトアルデヒド等の副生物を低減化することもできる。
【0041】
その際、固相重縮合に先立って、不活性ガス雰囲気下、又は、水蒸気雰囲気下或いは水蒸気含有不活性ガス雰囲気下で、通常120〜200℃、好ましくは130〜190℃で加熱することにより、樹脂粒状体表面を結晶化させることが好ましい。
【0042】
又、更に、前述の如き溶融重縮合又は固相重縮合により得られた樹脂を、通常、40℃以上の温水に10分以上浸漬させる水処理、或いは、60℃以上の水蒸気又は水蒸気含有ガスに30分以上接触させる水蒸気処理等の処理を施すとか、又は、有機溶剤による処理、或いは、各種鉱酸、有機酸、燐酸等の酸性水溶液による処理、或いは、第IA族金属、第IIA族金属、アミン等のアルカリ性水溶液若しくは有機溶剤溶液による処理を施すことにより、重縮合に用いた触媒を失活させることもできる。
【0043】
本発明のポリエステル樹脂は、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であるものであり、0.5μg以下であるのが好ましく、0.2μg以下であるのが更に好ましく、0.1μg以下であるのが特に好ましい。
【0044】
尚、ここで、アンチモン原子(Sb)としての溶出量は、数平均粒重24mgとしたポリエステル樹脂粒状体50gを、120℃で10時間加熱して結晶化させた後、95℃の熱水150g中に60分間浸漬し、そのとき水中に抽出されたアンチモンを、アンチモン原子濃度C(ppb)として誘導結合プラズマ質量分析法により測定し、下記式により、ポリエステル樹脂1g当たりのアンチモン原子としての溶出量D(μg)を算出したものである。
D(μg)=(C/109 )×(150/50)×106
【0045】
又、本発明のポリエステル樹脂は、固有粘度(〔η〕)としては、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒の溶液で30℃で測定した値として、溶融重縮合樹脂では、通常0.35〜0.75dl/gであるが、固相重縮合樹脂では、0.70〜0.90dl/gであるのが好ましく、0.70〜0.80dl/gであるのが特に好ましい。又、色調としては、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標bが、3以下であるのが好ましく、−5〜2であるのが特に好ましい。又、アセトアルデヒド含有量としては、5ppm以下であるのが好ましく、3ppm以下であるのが特に好ましい。
【0046】
又、本発明において、ポリエステル樹脂には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、核剤、可塑剤、着色剤、充填材等が含有されていてもよい。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂は、例えば、射出成形によってプリフォームに成形された後、延伸ブロー成形することによって、或いは、押出成形によって成形されたパリソンをブロー成形することによって、ボトル等に成形され、又、押出成形によってシートに成形された後、熱成形することによってトレイや容器等に成形され、或いは、該シートを二軸延伸してフィルム等とされ、又、繊維状に成形されて各種繊維加工体とされる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
スラリー調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で865:485の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートの0.3重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対して燐原子(P)としての含有量が9.0重量ppmとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力50kPa(0.5kg/cm2 G)、平均滞留時間4時間に設定された第1段目のエステル化反応槽、次いで、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力5kPa(0.05kg/cm2 G)、平均滞留時間1.5時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、エステル化反応させた。そのとき、以下に示す方法により測定した平均エステル化率は、第1段目においては85%、第2段目においては95%であった。
【0050】
<平均エステル化率>
試料を重水素化クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒に濃度3重量%で溶解させた溶液について、核磁気共鳴装置(日本電子社製「JNM−EX270型」)にて、 1H−NMRを測定して各ピークを帰属し、末端カルボキシル基量(Aモル/試料トン)をピークの積分値から計算し、以下の式により、テレフタル酸単位の全カルボキシル基のうちエステル化されているものの割合としてのエステル化率(E%)を算出した。
エステル化率(E)=〔1−A/{(1000000/192.2)×2}〕×100
【0051】
又、その際、第2段目に設けた上部配管を通じて、酢酸マグネシウム4水和物の0.6重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してマグネシウム原子(Mg)としての含有量が15重量ppmとなる量、及び、三酸化アンチモンの1.9重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してアンチモン原子(Sb)としての含有量が90重量ppmとなる量で連続的に添加した。
【0052】
引き続いて、前記で得られたエステル化反応生成物を溶融重縮合槽に移送する際、その移送配管に、テトラブチルチタネートの0.2重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してチタン原子(Ti)としての含有量が2.0重量ppmとなる量で連続的に添加しつつ、270℃、絶対圧力2.6kPa(20Torr)、平均滞留時間1.2時間に設定された第1段目の溶融重縮合槽、次いで、278℃、絶対圧力0.5kPa(4Torr)、平均滞留時間1.2時間に設定された第2段目の溶融重縮合槽、次いで、280℃、絶対圧力0.3kPa(2Torr)、平均滞留時間1.2時間に設定された第3段目の溶融重縮合槽に連続的に移送して、溶融重縮合させ、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断して、数平均粒重が24mgのチップ状粒状体としたポリエステル樹脂を製造した。得られた樹脂の固有粘度は0.60dl/gであった。
【0053】
引き続いて、前記で得られたポリエステル樹脂チップを、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下で205℃で加熱することにより固相重縮合させた。
【0054】
得られた固相重縮合樹脂チップについて、95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0055】
<アンチモンの溶出量>
数平均粒重24mgとしたポリエステル樹脂粒状体50gを、120℃で10時間加熱して結晶化させた後、95℃の熱水150g中に60分間浸漬し、そのとき水中に抽出されたアンチモンを、アンチモン原子濃度C(ppb)として誘導結合プラズマ質量分析装置(ヒューレットパッカード社製「HP4500」)を用いて測定し、下記式により、ポリエステル樹脂1g当たりのアンチモン原子としての溶出量D(μg)を算出した。
D(μg)=(C/109) ×(150/50)×106
【0056】
又、得られた固相重縮合樹脂チップについて、燐成分、マグネシウム成分、アンチモン成分、及びチタン成分の各燐原子(P)、マグネシウム原子(Mg)、アンチモン原子(Sb)、及びチタン原子(Ti)としての含有量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0057】
<金属原子含有量>
樹脂試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製「JY46P型」)を用いて、プラズマ発光分光分析法により定量した。
【0058】
更に、得られた固相重縮合樹脂チップについて、ジエチレングリコール共重合量、固有粘度、色調としての色座標b値、及びアセトアルデヒド含有量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0059】
<ジエチレングリコール共重合量>
樹脂試料を重水素化クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒に濃度3重量%で溶解させた溶液について、核磁気共鳴装置(日本電子社製「JNM−EX270型」にて、 1H−NMRを測定して各ピークを帰属し、ピークの積分値から全ジオール成分に対するジエチレングリコールのモル%を計算した。
【0060】
<固有粘度>
凍結粉砕した樹脂試料0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dlとして、溶融重縮合樹脂の場合は110℃で30分間、固相重縮合樹脂の場合は120℃で30分間で溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で、原液との相対粘度(ηrel )を測定し、この相対粘度(ηrel )−1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求め、同じく濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0061】
<色座標b値>
樹脂試料を、内径36mm、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルにすりきりで充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標bを、反射法で、セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0062】
<アセトアルデヒド含有量>
樹脂試料5.0gを精秤し、純水10mlと共に内容積50mlのミクロボンベに窒素シール下に封入し、160℃で2時間の加熱抽出を行い、その抽出液中のアセトアルデヒド量を、イソブチルアルコールを内部標準としてガスクロマトグラフィー(島津製作所製「GC−14A」)で定量した。
【0063】
更に、得られたポリエステル樹脂チップを真空乾燥機にて130℃で10時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「FE−80S」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×105 Pa、射出率45cc/秒、保圧力30×105 Pa、金型温度20℃、成形サイクル約40秒で、外径約29mm、高さ約165mm、平均肉厚約3.7mm、重量約60gの試験官状の予備成形体(プリフォーム)を射出成形した。得られた予備成形体を、石英ヒーターを備えた近赤外線照射炉内で70秒間加熱し、25秒間室温で放置した後、160℃に設定したブロー金型内に装入し、延伸ロッドで高さ方向に延伸しながら、ブロー圧力7×105 Paで1秒間、更に30×105 Paで40秒間ブロー成形し、ヒートセットし、空冷することにより、外径約95mm、高さ約305mm、胴部平均肉厚約0.37mm、重量約60g、内容積約1.5リットル、比表面積約0.7cm-1のボトルを成形した。
【0064】
得られたボトルについて、アンチモンの熱水溶出量、色調、及びアセトアルデヒド臭を、以下に示す方法で測定、評価し、結果を表1に示した。
【0065】
<ボトルの熱水溶出量>
ボトルに93℃の蒸留水約1.5リットルを充填し、室温にて放冷した後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ヒューレットパッカード社製「HP4500」)を用いて、水中のアンチモン原子の濃度(ppb)を測定した。
【0066】
<ボトルの色調>
ボトルの口栓部の色調を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎;無色透明。
○;若干黄色味を帯びているが、実用上問題なし。
×;黄色味を帯びており、実用上問題あり。
【0067】
<ボトルのアセトアルデヒド臭>
ボトルをオーブン中で50℃で1時間加熱した後のアセトアルデヒド臭を官能検査し、以下の基準で評価した。
◎;アセトアルデヒド臭極めて少ない。
○;アセトアルデヒド臭少ない。
×;鼻につく程度のアセトアルデヒド臭あり。
【0068】
実施例2〜14
燐化合物として表1に示す化合物(但し、表1中、「EAP」はエチルアシッドホスフェートを、「H3 PO4 」は燐酸を、「H3 PO3 」は亜燐酸を、それぞれ示す。)を用い、生成ポリエステル樹脂に対して燐原子(P)としての含有量が表1に示す量となる量で添加し、又、生成ポリエステル樹脂に対して、マグネシウム原子(Mg)、アンチモン原子(Sb)、及びチタン原子(Ti)としての含有量が表1に示す量となる量で添加して、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0069】
比較例1
燐化合物として燐酸の溶液を用い、第2段目のエステル化反応槽の上部配管を通じて添加したこと、酢酸マグネシウムの溶液を第1段目のエステル化反応槽の上部配管を通じて添加したこと、三酸化アンチモンの溶液とテトラブチルチタネートの溶液を第2段目のエステル化反応槽から第1段目の溶融重縮合槽への移送配管に添加したこと、及び、各化合物を、生成ポリエステル樹脂に対して各金属原子含有量が表1に示す量となる量で添加したこと、の外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0070】
比較例2
テトラブチルチタネートを添加しなかったこと、三酸化アンチモンの溶液と酢酸マグネシウム4水和物の溶液を第2段目のエステル化反応槽から第1段目の溶融重縮合槽への移送配管に添加したこと、及び、各化合物を、生成ポリエステル樹脂に対して各金属原子含有量が表1に示す量となる量で添加したこと、の外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0071】
比較例3
ジメチルテレフタレート100重量部とエチレングリコール70重量部とを、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1水塩及び酢酸マグネシウム4水塩を表1に示す各金属原子含有量となる量で用いて、常法に従ってエステル交換反応を開始させ、メタノールの留出開始より20分後、三酸化アンチモンを表1に示す金属原子含有量となる量で添加して、エステル交換反応を継続させた後、トリメチルホスフェートを表1に示す金属原子含有量となる量で添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。引き続き、更にテトラブチルチタネートを表1に示す金属原子含有量となる量で添加した後、高温高真空下で常法に従って重縮合させることによりポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Sb/P)が、6.0〜30である請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
ポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子(P)としての含有量が、0.1〜20重量ppmである請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
燐成分における燐元素の原子価が3価である請求項1乃至3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
周期律表第1A族、同第IIA族、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素の化合物の共存下に重縮合され、ポリエステル樹脂中のそれらの金属元素成分の金属原子(M)としての合計含有量が0.1〜100重量ppmである請求項1乃至4のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
共存化合物がマグネシウム化合物であって、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1〜3.0である請求項5に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
共存化合物がマグネシウム化合物であって、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が、0.1〜30重量ppmである請求項5又は6に記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
共存化合物がチタン化合物であって、ポリエステル樹脂中のチタン成分のチタン原子(Ti)としての含有量が、0.25〜10重量ppmである請求項5乃至7のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項9】
ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10〜250重量ppmである請求項1乃至8のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項10】
芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを重縮合させることによるポリエステル樹脂の製造方法であって、下記の重合触媒由来の各原子を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
0<T≦50(重量ppm)
10≦Sb≦250(重量ppm)
0.1≦P≦20(重量ppm)
6.0≦Sb/P≦30
(上式において、Tは樹脂中のチタン原子、ハフニウム原子及び、ジルコニウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子の濃度の合計(ppm)、Sbは樹脂中のアンチモン原子濃度(ppm)、Pは樹脂中のリン原子濃度(ppm))
【請求項11】
下記の重合触媒由来の各原子を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とする請求項10に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
0.1≦M≦200(重量ppm)
1.1≦M/P≦15
(Mは樹脂中のIA族金属原子、IIA族金属原子、マンガン原子、鉄原子及び、コバルト原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子の合計含有量(ppm))
【請求項12】
該ジカルボン酸成分と、該ジオール成分とをエステル化反応し、エステル化率が90%未満の段階において、エステル化反応物を含む反応混合物に燐化合物を添加し、エステル化率が90%以上達した後、IA族元素化合物、IIA族化合物、マンガン化合物、鉄化合物及びコバルト化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属原子の化合物を添加し、しかる後に、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びハフニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を添加することを特徴とする、請求項10又は11に記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−284696(P2007−284696A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204232(P2007−204232)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【分割の表示】特願2002−196126(P2002−196126)の分割
【原出願日】平成14年7月4日(2002.7.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】