説明

ポリエステル樹脂組成物

【課題】 透明性、低結晶性、溶融粘弾性、耐熱性に優れ、且つ成形加工性にも優れたポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 所定量の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位と所定量のナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位からなるポリエステル樹脂と、環状アセタール骨格を有しないポリエステル樹脂とからなるポリエステル樹脂組成物であって、当該ポリエステル樹脂組成物中の全ジオール構成単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が0.05モル%以上であるポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジオール単位中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位であるポリエステル樹脂と、環状アセタール骨格を有しないポリエステル樹脂とからなる、透明性、低結晶性、溶融粘弾性、耐熱性、成形加工性に優れるポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある)は透明性、機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトルやフィルムなどの用途に用いられている。しかしながらPETには耐熱性、結晶性、透明性に関して以下のような欠点が存在する。すなわち、耐熱性に関してはPETのガラス転移温度は80℃程度であるため、殺菌、滅菌が必要とされる容器、耐熱透明飲料用カップ、再加熱を要する容器、赤道直下を越えるような輸出製品の包材等、高い耐熱性が要求される用途には利用できない。また、結晶性に関しては、PETは結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性を損なってしまう。
【0003】
このため、従来、耐熱性の要求される分野に対しては、ポリエチレンナフタレートやポリアリレート等が用いられてきた。また、低結晶性を必要とする用途には1,4−シクロヘキサンジメタノール変性PETやイソフタル酸変性PETといったポリエステル樹脂が用いられてきた。
【0004】
しかし、ポリエチレンナフタレートやポリアリレートは耐熱性は改善されるものの、結晶性はPETと同等であり、また高価な樹脂である事から使用できる用途は限られている。1,4−シクロヘキサンジメタノール変性PETやイソフタル酸変性PETは結晶性は改善されるものの、耐熱性はほとんど改善されない。このように従来、高耐熱性、低結晶性等が同時に要求される用途に適したポリエステル樹脂は知られていなかった。
【0005】
一方、耐熱性のポリエステル樹脂として、PETを3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンで変性したポリエステル樹脂が開示されている(特許文献1)。本発明者らが、該米国特許で開示されているポリエステル樹脂を重合したところ、重合はゲル化を伴って進行し、押出成形等の成形に適したポリエステル樹脂を得る事ができなかった。
【0006】
我々は3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンで変性した機械的性能、成形性に優れるポリエステル樹脂を開示し(特許文献2)、更にこのポリエステル樹脂と他のポリエステル樹脂との透明性、低結晶性、溶融粘弾性、耐熱性、成形加工性に優れるポリエステル樹脂組成物を開示した(特許文献3)。
【0007】
しかしながら、特許文献3で開示されたポリエステル樹脂組成物では耐熱性が不足する事があった。
【0008】
【特許文献1】米国特許2,945,008号公報
【特許文献2】特開2002−69165号公報
【特許文献3】特開2003−246922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は前記の如き状況に鑑み、透明性、低結晶性、溶融粘弾性、耐熱性に優れ、且つ成形加工性にも優れたポリエステル樹脂組成物を提供することにある。更には、該ポリエステル樹脂を用いたシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、所定量の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位と所定量のナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位からなるポリエステル樹脂と、環状アセタール骨格を有しないポリエステル樹脂とからなるポリエステル樹脂組成物であって、当該ポリエステル樹脂組成物中の全ジオール構成単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が0.05モル%以上であるポリエステル樹脂組成物が、透明性、低結晶性、溶融粘弾性、耐熱性、成形加工性等に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明はジオール単位中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位であるポリエステル樹脂(A)と、環状アセタール骨格を有しないポリエステル樹脂(B)とからなるポリエステル樹脂組成物(C)であって、ポリエステル樹脂組成物(C)中の全ジオール構成単位中の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の割合が0.05モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物に関するものである。更には上記ポリエステル樹脂組成物(C)を用いて得られるポリエステル系シートに関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、透明性、低結晶性、溶融粘弾性、耐熱性に優れ、且つ成形加工性に優れており、耐熱透明シート等の有用な素材として用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、ポリエステル樹脂組成物(C)を得るために使用するポリエステル樹脂(A)について説明する。ポリエステル樹脂(A)は一般式(1):
【化1】

又は一般式(2):
【化2】

で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位をジオール単位中1〜80モル%有する。一般式(1)と(2)において、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。RおよびRは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの構造異性体が好ましい。これらの構造異性体としては、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基が例示される。Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体が好ましい。これらの構造異性体としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基が例示される。一般式(1)及び(2)の化合物は1種類を単独で用いても良いし、2種類以上を使用しても良い。一般式(1)及び(2)の化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等が特に好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂(A)中の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の割合は、ジオール単位中1〜80モル%であり、好ましくは5〜60モル%、更に好ましくは10〜45モル%である。環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位を持つ事でポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が上昇し、本発明のポリエステル樹脂組成物の耐熱性が向上する為好ましい。また、環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が上記範囲である事で、本発明のポリエステル樹脂組成物は低結晶性で、溶融粘弾性、耐衝撃性が優れたものとなり好ましい。
【0015】
また、ポリエステル樹脂(A)は環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位をジオール単位中20〜99モル%有する。環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位としては、特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等のジオールに由来する単位が例示できる。ポリエステル樹脂(A)の機械強度、耐熱性を考慮するとエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等に由来する単位が好ましく、エチレングリコールに由来する単位が特に好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)は環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位を上記したものの中から1種類含んでも、2種類以上含んでも良い。
【0016】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位である。ナフタレン骨格を有するジカルボン酸単位としては特に制限はないが、例えば1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位である事が好ましく、機械的性能の面から2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位である事が特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)はナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位を1種類含んでも、2種類以上含んでも良い。ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位である事で、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が上昇し、本発明のポリエステル樹脂組成物の耐熱性が向上する為好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸単位中の0〜99モル%がナフタレン骨格を有しないジカルボン酸に由来する単位であり、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する単位が例示できる。これらの中で、ポリエステル樹脂(A)の熱物性、機械物性等の面から芳香族ジカルボン酸に由来する単位が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する単位が特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)はナフタレン骨格を有しないジカルボン酸に由来する単位を1種類含んでも、2種類以上含んでも良い。
【0018】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は耐熱性を考慮すると環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位として3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来する単位を、ナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位として2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位を有する事が好ましく、経済性、機械的性能のバランスをも考慮すると環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位としてエチレングリコールに由来する単位、ナフタレン骨格を有しないジカルボン酸に由来する単位としてテレフタル酸に由来する単位を有する事が好ましい。
【0019】
また、ポリエステル樹脂(A)には本発明の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のモノアルコール単位やトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール単位、安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸単位やトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸単位を導入することもできる。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)を製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用できる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法又は溶液重合法、固相重合法を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)の極限粘度は低過ぎると機械強度等の物性が損なわれる事があり、高過ぎると成形性が損なわれる事があり好ましくない。好ましい極限粘度の範囲は、例えば、混合溶媒(重量比:フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=6/4)を用いて25℃の恒温下、ウベローデ粘度計で測定した値が0.4〜1.5dl/gであり、より好ましくは0.5〜1.0dl/g、更に好ましくは0.5〜0.9dl/gである。極限粘度が上記0.4dl/g以上で成形品の強度特性に優れ、上記1.5dl/g以下の場合に成形性に優れる。
【0022】
次に本発明に使用する環状アセタール骨格を有しないポリエステル樹脂(B)について説明する。ポリエステル樹脂(B)は特に制限されるものではないが、ポリエステル樹脂組成物(C)の耐熱性、透明性、機械的性能、成形加工性等の点から、テレフタル酸、イソフタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる1種以上の芳香族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位とエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAから選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位からなる芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。中でも耐熱性、機械的性能、成形加工性、透明性等の点からPET、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン(2,6−)ナフタレートが好ましく、成形加工性、透明性、経済性を特に考慮するとPETが特に好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂組成物(C)は上記のポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを混合もしくは混練することにより得られる。ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の配合割合は、物性や用途によって任意に変えることができるが、ポリエステル樹脂組成物(C)中の全ジオール構成単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が0.05モル%以上となるように配合することが必要であり、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.2モル%以上となるように配合することが望ましい。上記値を0.05モル%以上とすることにより、結晶化速度の抑制効果や二次加工性が良好に発現する。尚、成形加工性等の理由から前記割合の和は一般的に48モル%以下とするのが好ましく、より好ましくは45モル%以下、更に好ましくは42モル%以下である。
【0024】
成形加工性、透明性に関しては、特に好適な領域がそれぞれ存在する。ポリエステル樹脂(A)は一般的に溶融粘度が高く、射出成形やシート成形には適さない場合がある。このため、成形加工性に関しては、ポリエステル樹脂(A)の濃度が重要であり、ポリエステル樹脂組成物(C)中のポリエステル樹脂(A)の濃度が1〜95重量%、好ましくは1〜90重量%の範囲である場合に本発明のポリエステル樹脂組成物は適度な溶融粘度を有し、良好な成形加工性を示す。ポリエステル樹脂(A)の濃度を上記範囲とすることにより、温度270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が300〜700Pa・sとなり、良好な成形加工性が得られる。
【0025】
ポリエステル樹脂組成物(C)の透明性に関しては、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との屈折率差が重要である。ポリエステル樹脂組成物(C)の透明性が優れる為には屈折率差がナトリウムD線を光源とした場合に0.005以下である事が必要であり、好ましくは0.004、更に好ましくは0.003以下である事が必要である。ポリエステル樹脂(A)の屈折率は構成単位の種類、割合を変える事で調整できる。例えば環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の割合を増やす事でポリエステル樹脂(A)の屈折率は低下し、ナフタレンジカルボン酸に由来する単位を増やす事でポリエステル樹脂(A)の屈折率は上昇する。
【0026】
本発明において、透明性に優れるとは0.6mmのシートの、JIS−K−7105に準じて測定した全光線透過率が88%以上、かつ、曇価が3%以下である事を言う。ポリエステル樹脂組成物(C)の全光線透過率が89%以上、曇価が2.5%以下であるとより好ましく、全光線透過率が90%以上、曇価が2.0%以下であると特に好ましい。
【0027】
ポリエステル樹脂(B)がPETである場合に本発明のポリエステル樹脂組成物(C)が透明性に優れる事が産業的に特に有用である。ポリエステル樹脂(A)とPETから多層シートを作製する際に、シート端部や打ち抜きカスを粉砕、PET層に混ぜて再使用する際にPET層に混入するポリエステル樹脂(A)によるPET層の濁りが生じないからである。
【0028】
ポリエステル樹脂(B)がPETである場合、PETの屈折率は約1.575である為、透明性に優れるポリエステル樹脂組成物(C)を得るにはポリエステル樹脂(A)の屈折率は1.570〜1.580である必要がある。この様な屈折率範囲のポリエステル樹脂(A)を与える組成は多数あるが、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度を考慮すると、環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位、ナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位は共に多い方が好ましく、例えばジオール単位中の36〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の50〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位である事が好ましい。ポリエステル樹脂(A)が上記組成で、ポリエステル樹脂(B)がPETである場合、ポリエステル樹脂組成物(C)の透明性はポリエステル樹脂組成物(C)中のポリエステル樹脂(A)の濃度によらず優れたものとなる。上記組成では、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度を容易に100℃以上とする事ができる。この事は多層シートの耐熱層としてポリエステル樹脂(A)を使用する場合に好ましく、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が110℃以上ではより好ましく、120℃以上では更に好ましく、130℃以上では特に好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂組成物(C)は溶剤を含んでも良く、また、脂肪族ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテル、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンオキシド等の樹脂を単独に又は複数含んでいてもよい。
【0030】
更に用途に応じて各種の成形助剤や添加剤、例えばフィラー、着色剤、補強剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、増量剤、つや消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、熱可塑性オリゴマー等を含むこともできる。
【0031】
混合、混練には公知の装置を用いることができ、例えばタンブラー、高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ミキシングロール、ニーダー、インテンシブミキサー、単軸押出機、二軸押出機などの混合、混練装置を挙げることができる。また、ゲートミキサー、バタフライミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサーなどの液体混合装置を用いることもできる。
【0032】
混合、混練を行う際、特に溶融混練を行う際にポリエステル樹脂間で一部エステル交換反応が起こることがあるが、エステル交換反応の有無やエステル交換反応の度合いにより本発明の効果が損なわれるものではなく、エステル交換反応が起こった樹脂組成物も本発明のポリエステル樹脂組成物に属するものである。本発明のポリエステル樹脂組成物の透明性に関してはエステル交換反応が進行することにより透明になる場合もある。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂組成物は射出成形体、単層又は多層のシート、単層又は多層のフィルム、熱収縮性フィルム、中空容器、発泡体、繊維、溶液型塗料、粉体塗料、トナー、接着剤等種々の用途に用いることができるが、シート用途には特に好適に用いられる。
【0034】
シート用途で使用する際にはポリエステル樹脂組成物(C)が成形加工性、透明性に優れる事、結晶性が小さい事が有利に働く。特に2mmを越えるような厚いシートではPETやポリブチレンテレフタレートのような結晶性の樹脂からシートを製造すると、結晶化により透明性、耐衝撃性が低下する事があるが、ポリエステル樹脂組成物(C)を使用すると、結晶化による透明性、耐衝撃性の低下を抑制できる。
【0035】
また、多層シート用途では上記特徴の他に本発明のポリエステル樹脂組成物(C)が透明性に優れる事が特に必要とされる。PETシートから得られる成形体は耐熱性が十分ではなく、例えば殺菌、滅菌が必要とされる容器、耐熱透明飲料用カップ、再加熱を要する容器、赤道直下を越えるような輸出製品の包材等、高い耐熱性が要求される用途には利用できない。この事から、上記用途ではよりガラス転移温度の高い他のポリエステル樹脂をスキン層又はコア層に使用して多層シート化して耐熱性を付与している。経済性の観点からこの多層シートの端部や打ち抜きカスは再使用する事が好ましく、通常PET層に混ぜ込まれている。従って、使用する他のポリエステル樹脂とPETとの組成物が透明性に優れる事が必要となる。すなわち、本発明のポリエステル樹脂組成物(C)が透明性に優れる事で、少なくともPET層とポリエステル樹脂(A)層からなる多層シートの端部や打ち抜きカスをPET層に混ぜ込んだ際に透明性の優れた多層シートが得られる(この時にはポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂組成物(C)との多層シートになっている)。この場合に得られる多層シート成形体は耐熱性が良好な物となり、例えば殺菌、滅菌が必要とされる容器、耐熱透明飲料用カップ、再加熱を要する容器、赤道直下を越えるような輸出製品の包材等、高い耐熱性が要求される用途に好適に使用する事ができる。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂組成物(C)は用途に応じてそれぞれ公知の方法で成形することができる。例えば成形体用途では通常の射出成形を行うことができるし、シート、フィルム等では押出成形、キャスト成形、カレンダー成形を行うことができる。また発泡体用途では押出発泡成形や型内発泡成形を行うことができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0038】
製造例1〜6〔ポリエステル樹脂(A)の合成〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置、窒素導入管を備えた0.15立方メートルのポリエステル製造装置に表1、2に記載量の原料モノマーを仕込み、ジカルボン酸成分100モルに対し酢酸マンガン四水和物0.03モルの存在下、窒素雰囲気下で215℃迄昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して80%以上に達した後、ジカルボン酸成分100モルに対し、酸化アンチモン(III)0.01モルとリン酸トリエチル0.06モルを加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に280℃、100Pa以下で重合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂(A)を得た。
尚、表中の略記は下記を意味する。
DMT:ジメチルテレフタレート
NDCM:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル
EG:エチレングリコール
SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
DOG:5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン
【0039】
参考例1〔ポリエステル樹脂(B)〕本実施例中で使用したポリエステル樹脂を以下に記す。また、これらのポリエステル樹脂に関する評価結果を表2に示す。
(1)PET:ポリエチレンテレフタレート(日本ユニペット(株)製、商品名:UNIPET RT543C)
【0040】
〔ポリエステル樹脂(A)の評価方法〕
(1)共重合組成
各構成単位の組成をH−NMR測定にて算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400を用い、400MHzで測定した。溶媒には重クロロホルムを用いた。
(2)ガラス転移温度
(株)島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、ポリエステル樹脂約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中、昇温速度20℃/minで280℃まで加熱、溶融したものを急冷して測定用試料とした。該試料を同条件で測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
(3)極限粘度
混合溶媒(重量比:フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=6/4)を用いて25℃の恒温下ウベローデ粘度計を用いて測定した。
【0041】
【表1】

【表2】

【0042】
実施例1〜9
表3〜5に記載量のポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)を二軸押出機(スクリュー径:25mmφ、L/D:25)で、Tダイ法によりシリンダー温度235〜295℃、Tダイ温度250〜270℃、スクリュー回転数130rpm、冷却ロール温度65〜70℃の作製条件で、厚さ0.6mmのポリエステル樹脂組成物のシートを作製した。各種評価は以下に示す方法により行った。
【0043】
〔ポリエステル樹脂組成物のシートの評価方法〕
(1)全光線透過率
全光線透過率は、JIS K−7105、ASTM D1003に準じて0.6mm厚のシートを測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
(2)曇価
曇価は、JIS K−7105、ASTM D1003に準じて0.6mm厚のシートを測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
(3)耐熱性
0.6mm厚のシートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片をオーブン内で30分加熱し、加熱後の縦及び横方向の収縮率が5%を越えない最高温度を測定した。
【0044】
【表3】

【表4】

【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール単位中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位であるポリエステル樹脂(A)と、環状アセタール骨格を有しないポリエステル樹脂(B)とからなるポリエステル樹脂組成物(C)であって、ポリエステル樹脂組成物(C)中の全ジオール構成単位中の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の割合が0.05モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)中の環状アセタール骨格を有するジオール単位が一般式(1):
【化1】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の非環状炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる特性基を表す。)
又は一般式(2):
【化2】

(式中、R1は前記と同様であり、R3は炭素数が1〜10の非環状炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる特性基を表す。)
で表されるジオールに由来する単位である請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来する単位である請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位中のナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位が1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来する単位である請求項1ないし3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位中のナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位が2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位である請求項4に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)のナトリウムD線を光源として測定した屈折率差が0.005以下であり、以下の式(1)、(2)を満たす、透明性に優れる請求項1ないし5のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
(1)押出し成形で得られる厚さ0.6mmのシートの、JIS−K−7105に準じて測定した全光線透過率が88%以上
(2)押出し成形で得られる厚さ0.6mmのシートの、JIS−K−7105に準じて測定した曇価が3%以下
【請求項7】
ポリエステル樹脂(B)がポリエチレンテレフタレートである請求項1ないし6のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
ポリエステル樹脂(A)のジオール単位中の36〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の50〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位である請求項1ないし7のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8に記載のいずれかのポリエステル樹脂組成物を用いて得られるポリエステル系シート。

【公開番号】特開2008−189809(P2008−189809A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25644(P2007−25644)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】