説明

ポリエステル用難燃剤の組み合わせ及びそれにより難燃化されたポリエステル成形組成物

ホスフィナートの塩、ホスホナートのオリゴマー、ポリマー又はコポリマー、及びメラミンの誘導体をベースとする、熱可塑性ポリエステルのための難燃剤の混合物を含む新しい組成物が開示される。その組成物は、加工特性、熱特性及び機械特性の優れた組み合わせを示し、そして難燃性である。さらに、繊維、フィルム、被覆基板、成形品、発泡体、繊維強化物品、又はそれらいずれかの組み合わせのようなこれら材料から製造された製造の物品が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフィナートの塩及びホスホナートのオリゴマー、ポリマー及び/又はコポリマー及びメラミン誘導体をベースとする、熱可塑性ポリエステルのための難燃剤混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスフィン酸の塩(ホスフィナート)は、熱可塑性プラスチックポリマーに対して有効な難燃添加剤であることが証明されている(ドイツ国特許出願公開第2252258A号(特許文献1)及びドイツ国特許出願公開第2447727A号(特許文献2))。ホスフィン酸カルシウム及び/又はホスフィン酸アルミニウムは、ポリエステルにおいて特に有効であり、高分子成形組成物の特性に対して、例えばアルカリ金属塩ほど害を与えないものとして説明されている(欧州特許出願公開第0699708A号(特許文献3))。
【0003】
ホスフィナート類と、種々の窒素含有化合物との相乗的な組み合わせもまた見出されており、そして多数の高分子における難燃剤として、ホスフィナート類単独よりもさらに有効である(国際公開第97/39053号(特許文献4)、ドイツ国特許出願公開第19734437A号(特許文献5)、ドイツ国特許出願公開第19737727A号(特許文献6)及び米国特許第6,255,371B1号(特許文献7))。
【0004】
ある種のホスフィナート類が、UL 94 V−0におけるような消炎特性が要求される燃焼試験に関して有効な難燃剤であるのに反して、IEC60695−2−13に準拠したグローワイヤ試験のように、燃えやすさが尺度である試験におけるその性能は常に十分というわけではない。電気器具の設計に関して、775℃というGWIT(グローワイヤ発火温度)が、強化ポリエステル材料には望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第252258A号
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第2447727A号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0699708A号
【特許文献4】国際公開第97/39053号
【特許文献5】ドイツ国特許出願公開第19734437A号
【特許文献6】ドイツ国特許出願公開第19737727A号
【特許文献7】米国特許第6,255,371B1号
【特許文献8】米国特許第2,716,101号
【特許文献9】米国特許第3,326,852号
【特許文献10】米国特許第4,328,174号
【特許文献11】米国特許第4,331,614号
【特許文献12】米国特許第4,374,971号
【特許文献13】米国特許第4,415,719号
【特許文献14】米国特許第5,216,113号
【特許文献15】米国特許第5,334,692号
【特許文献16】米国特許第4,374,971号
【特許文献17】米国特許第3,442,854号
【特許文献18】米国特許第6,291,630B1号
【特許文献19】米国特許第6,861,499B1号
【特許文献20】米国特許出願公開第20050020800A1号
【特許文献21】米国特許出願公開第20070219295A1号
【特許文献22】米国特許出願公開第20080045673A1号
【特許文献23】米国特許第2,534,252号
【特許文献24】米国特許第3,946,093号
【特許文献25】米国特許第3,919,363号
【特許文献26】米国特許第6,288,210B1号
【特許文献27】米国特許第2,682,522号
【特許文献28】米国特許第2,891,915号
【特許文献29】米国特許第4,046,724号
【特許文献30】ドイツ公開明細書番号第2,925,206号
【特許文献31】ドイツ公開明細書番号第2,925,208号
【特許文献32】米国特許第4,782,123号
【特許文献33】米国特許第4,762,905号
【特許文献34】米国特許出願公開第20070129511A1号
【特許文献35】国際特許出願第PCT/US2004005337号
【特許文献36】国際特許出願第PCTA/JS2004005443号
【特許文献36】欧州特許出願公開第0584567A号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”Ullmanns encyclopedia of industrial chemistry”, ed.Barara Elvers, VoI A21 , Chapter ”Polyesters” (pp 227−251), VCH, Weinheim−Basel−Cambridge−New York 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ホスフィナート類が単一(neat)難燃剤として、又は窒素相乗作用付与剤(nitrogen synergists)と組み合わせてポリステルにおいて使用される場合、一般に、加工中にある程度のポリマー分解が起こる結果となり、これは、機械特性に対して不利な影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、いくつかのホスフィナートのオリゴマー類、ポリマー類、又はコポリマー類を添加することによって、ホスフィナート類の難燃作用が更に向上され、GWITが向上されると同時に、ホスフィナート類によって起こるポリマー分解が阻止もしくは抑制されることが今や見出された。
【0009】
したがって、本発明は、熱可塑性ポリエステル用難燃剤混合物を提供するものであり、該難燃剤混合物は、成分Aとして、次式(I)又は(II)で表されるホスフィン酸の塩を含む。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、R1及びR2は、同一又は異なっていて、H又は直鎖状又は分岐状のC1−C6−アルキル、及び/又はアリールであり;
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K及び/又はプロトン化窒素塩基であり;好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、及び/又は亜鉛イオンであり、
mは1〜4であり;nは1〜4であり;xは1〜4であり、mは好ましくは2又は3であり;nは好ましくは1又は3であり、そしてxは好ましくは1又は2である。
【0012】
ホスフィン酸の塩の成分として適したホスフィン酸の例は:
ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸である。
【0013】
本発明によれば、ホスフィン酸の塩は、例えば、欧州特許出願公開第699708A号(特許文献3)により詳細に説明されている公知の方法によって調製できる。ここで、ホスフィン酸は、例として、金属炭酸塩、金属水酸化物、又は金属酸化物水溶液中で反応させる。
【0014】
本発明は、成分Bとして、ホスホナートのオリゴマー類、ポリマー類又はコポリマー類を更に含む。直鎖状及び分岐状のホスホナートのオリゴマー類及びポリマー類は、文献において周知である。分岐状のホスホナートのオリゴマー類またはポリマー類については、米国特許第2,716,101号(特許文献8)、同第3,326,852号(特許文献9)、同第4,328,174号(特許文献10)、同第4,331,614号(特許文献11)、同第4,374,971号(特許文献12)、同第4,415,719号(特許文献13)、同第5,216,113号(特許文献14)、同第5,334,692号(特許文献15)、同第4,374,971号(特許文献16)、同第3,442,854号(特許文献17)、同第6,291,630B1号(特許文献18)及び同第6,861,499B1号(特許文献19)を参照されたい。ホスホナートのオリゴマー類については、米国特許出願公開第20050020800A1号(特許文献20)、同第20070219295A1号(特許文献21)及び同第20080045673A1号(特許文献22)を参照されたい。ホスホナートのオリゴマー類については、米国特許出願第20050020800A1号、同20070219295A1号及び同20080045673A1号を参照されたい。直鎖状のホスホナートのオリゴマー類及びポリマー類の参考文献には、米国特許第2,534,252号(特許文献23)、同第3,946,093号(特許文献24)、同第3,919,363号(特許文献25)、同第6,288,210B1号(特許文献26)、同第2,682,522号(特許文献27)、同第2,891,915号(特許文献28)及び同第4,046,724号(特許文献29)が包含される。
【0015】
ホスホナートのコポリマー類は、ランダム又はブロックであることができる。ランダムポリエステルホスホナート類及びランダムポリカーボネートホスホナート類は、ビスフェノール、ホスホン酸エステルモノマー及びカルボン酸エステルモノマーから、又はビスフェノール、ホスホン酸エステルモノマー及びジフェニルカーボネートモノマーからの溶融縮合のようないくつかの方法によって調製できる(例えば、ドイツ公開明細書番号第2,925,206号(特許文献30)及び同第2,925,208号(特許文献31)を参照されたい)。これらの方法を用いて調製されたポリマーは、モノマー類のランダム(又は統計的)混合物である。ランダムコポリホスホナートは、芳香族ポリエステル類及び芳香族ポリホスホナート類の溶液を、昇温下で押出すことによっても調製できる(米国特許第4,782,123号(特許文献32))。米国特許第4,762,905号(特許文献33)では、熱可塑性ポリホスホナートカーボネートは、少なくとも一種の芳香族ジヒドロキシ化合物を、ジアリールカーボネート及びホスホン酸ジアリールエステルと、塩基性の重縮合触媒の存在下で、加熱しながら、減圧下で重縮合させることによって調製される。米国特許第4,508,890号(特許文献34)においては、熱可塑性ポリホスホナートカーボネートは、少なくとも一種の芳香族ジヒドロキシ化合物を、ジアリールカーボネート及びホスホン酸ジアリールエステルと、中性触媒の存在下で重縮合させることによって調製されている。好ましいホスホナートのコポリマー類は、ポリ(ブロックホスホナートエステル)又はポリ(ブロックホスホナートカーボネート)のようなブロックコポリマーである。これらは周知であり、そして、公開された米国特許出願公開第20070129511A1号(特許文献34)中に開示されている。いくつかの実施形態において、少なくとも一種のホスホナートのオリゴマー類又はポリホスホナート及び一種又は複数種のポリエステル又はポリカーボネートは、エステル交換反応又は重縮合反応により相互に結合させることができ、そして、ある実施形態では、ポリ(ブロックホスホナートエステル)及び/又はポリ(ブロックホスホナートカーボネート)は、単一のガラス遷移温度(Tg)を示し得る。
【0016】
本発明の実施形態のホスホナートのオリゴマー類、ポリマー類、又はコポリマー類は、二塩化メチレン中で測定された、約1.03〜約1.35超の相対溶液粘度(ηrei)を有することができる。相対粘度は、ポリマー溶液の特定の体積がキャピラリーチューブを通って流れるまでに要する時間と、純粋な溶媒がそれに要する相当時間との比である。二塩化メチレン中に溶解しないポリホスホナートもまた適当である。
【0017】
ビスフェノールAを用いて調製されたホスホナートのオリゴマー類又はポリマー類は、約28℃〜約107℃のTgを有することができる。そのコポリマーは、145℃という高いTgを示すことができる。いくつかの実施形態において、ホスホナートのオリゴマー類、ポリマー類又はコポリマー類は、分岐状又は直鎖状であることができ、そして約50モル%までの分岐剤でもって調製することができる。その他の実施形態において、ホスホナートのオリゴマー類、ポリマー類又はコポリマー類は、約2,000g/モル〜約35,000g/モルの分子量(M)を有することができ、そして、好ましいMは、約4000〜約20,000g/モルである。
【0018】
ホスホジエステルとも呼ばれる、オリゴマーのホスホナート及びポリホスホナートを製造するのに使用されるホスホン酸ジアリールエステルは、次式(1)で表されるものを包含できる。
【0019】
【化2】

【0020】
式中、各(R8)u及び各(R10)vは、独立して、水素、C1−C4の低級アルキルであることができ、そしてu及びvは、独立して、u=1〜5及びv=1〜5である整数であり;R<9>は、低級アルキルC−C4であることができる。実施形態において、ホスホン酸ジアリールエステルは、メチルホスホン酸ジフェニルエステル又はメチルジフェノキシホスフィンオキシドを含み、ここでR<9>は、アルキル残基又はアルキル基であることができ、メチル残基又はメチル基であり得る。
【0021】
本発明の実施形態において、オリゴマーのホスホナート及び/又はポリホスホナートを調製するのに使用される式(1)で表されるようなホスホジエステルは、ビスフェノールに対して、構造式1のホスホジエステルを+−50モル%まで、いくつかの実施形態においては、+−20モル%まで、別の実施形態においては+−10モル%までのモル割合を有することができる。
【0022】
様々なジヒドロキシ芳香族化合物類又はビスフェノール類は、本発明の実施形態における使用目的で、単独で、又は互いに組み合わせて、オリゴマーのホスホナート類及び/又はポリホスホナート類を形成するのに使用できる。しかし、これらのジヒドロキシ芳香族化合物類は、一般式(3)のものに限定されない。
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、各(R1)m及び(R2)nは、独立して、水素、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基、又はC6−C20アリール含有基であることができ;m及びnは、独立して、1〜4の整数であり;及びQは、分割不可能なビスフェノール類の結合部、酸素原子、硫黄原子、又はSO2基であることができ、そして分割不可能なビスフェノール類について、Qは、次の基であることができる。
【0025】
【化4】

【0026】
式中、R3及びR4は、独立して、水素原子、低級アルキルC1−C4アルキル基、アリール、及び置換されたアリールであることができる。R3及びR4は、C1−C20アルキル基、アリール基、又はそれらの組み合わせの一種又は複数種で任意に置換される、C4−C20環式脂肪族の環を形成するよう結合させることができる。)
【0027】
一種又は複数種のビスフェノールを用いて、オリゴマーのホスホナート又はポリホスホナートを調製することができ、そしてこれらのビスフェノール類は、それらに限定されることなく、ビスフェノールA、レゾルシノール、ヒドロキノン及びそれらの混合物、又はそれらに限定されないが、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホン、9,9−ジヒドロキシジフェニルフルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−メチルシクロヘキサン(TMC)のような式(3)のその他のビスフェノール類を含む混合物を包含する。レゾルシノール及びヒドロキノン及びそれらの混合物、又はそれらと構造式(3)のビスフェノールの一種又は複数種との混合物のようなその他のビスフェノール類もまた、本発明の実施形態において有用である。
【0028】
例えば、本発明の実施形態において、ビスフェノールAの量は、他のビスフェノール類に対して約100%〜約0.5%の範囲であることができる。いくつかの実施形態において、本発明の実施形態のポリマーのリン含有量は、オリゴマーのホスホナート又はポリホスホナートに使用されるビスフェノールの分子量(Mw)によって制御できる。特に、より低い分子量のビスフェノールにより、オリゴマーのホスホナート又はポリホスホナートのより高いリン含有量がもたらされる。例えば、レゾルシノール、ヒドロキノン又はそれらの組み合わせのようなビスフェノール類、又は類似の低分子量ビスフェノール類は、高いリン含有量を有するオリゴマーのホスホナート又はポリホスホナートを製造するのに使用できる。
【0029】
ホスホナートのオリゴマー類又はポリマー類の、重量百分率で表されるリン含有量は、2%〜18%の範囲内であることができる。例えば、ビスフェノールA又はヒドロキノンから調製されたホスホナートのオリゴマー又はポリマーは、10.8及び18%のリン含有量をそれぞれ有する。ホスホナートのコポリマー類は、ホスホナートのオリゴマー類又はポリマー類よりも少量のリン含有量を有する。例えば、ホスホナート成分が、メチルジフェニルホスホナート及びビスフェノールAを20%の濃度で含んでなるホスホナート成分及びカーボネート成分を含有するコポリマーは、わずか約2.16%のリンしか含まないことになる。ホスホナートのオリゴマー、ポリマー又はコポリマーにおけるリン含有量の好ましい範囲は、約2%〜約18%である。
【0030】
エステル交換触媒は、エステル交換触媒のいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、エステル交換触媒は、例えば、ホスホニウムテトラフェニルフェノラート、金属フェノラート、ナトリウムフェノラート、ビスフェノールAのナトリウムもしくは他の金属の塩、アンモニウムフェノラート、ハロゲン不含のエステル交換触媒などのような非中性のエステル交換触媒、又は2004年2月24日に出願された国際特許出願第PCT/US2004005337号(特許文献35)及び同第PCTAJS2004005443号(特許文献36)(これら全体を参照により本明細書に組み入れる)に開示されているようなエステル交換触媒である。
【0031】
本発明の難燃剤混合物は、好ましくは更なる成分Cとして、メラム、メレム及び/又はメロンのようなメラミン縮合物を含む。
【0032】
本発明の難燃剤混合物は、好ましくは更なる成分Cとして、ベンゾグアナミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、グリコールウリル、メラミン、メラミンシアヌレート、ジシアンジアミド及び/又はグアニジンを含む。
【0033】
本発明の難燃剤混合物は、好ましくは更なる成分Cとして、次式(III)〜(VIII)で表される窒素化合物、又はそれらの混合物を含む。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
式中、R5〜R7は、水素、置換されていないか、又はヒドロキシル官能性又はC1−C4−ヒドロキシアルキル官能性で置換されたC1−C8−アルキル、又はC5−C16−シクロアルキル又はC5−C16−アルキルシクロアルキル、又はC2−C8−アルケニル、C1−C8−アルコキシ、C1−C8−アシル、又はC1−C8−アシルオキシ、又はC6−C12−アリール又はC6−C12−アリールアルキル、又は−OR8>又は脂環式−N型又は芳香族−N型の系を含む−N(R8)R9(式中、R8>は水素、ヒドロキシル官能性又はC1−C4−ヒドロキシアルキル官能性で置換されたC1−C8−アルキル、C5−C6−シクロアルキル又はC5−C6−アルキルシクロアルキル、又はC2−C8−アルケニル、C1−C8−アルコキシ、C1−C8−アシル、又はC1−C8−アシルオキシ、又はC6−C12−アリール又はC6−C12−アリールアルキルである。)であり、
R9〜R13は、R8で表される基、又はO−R8で表される基であり、
m及びnは、互いに独立して、1、2、3、又は4であり、
Xは、トリアジン化合物(III)と付加物を形成し得る酸である。
【0037】
本発明は、1〜25重量%の成分A(ホスフィン酸の塩)、1〜25重量%の成分B(ホスホナートのオリゴマー、ポリマー又はコポリマー)、及び0〜20重量%の成分C(メラミン誘導体)、及び同様に20〜98重量%の熱可塑性ポリエステルを含むプラスチック成形組成物を提供する。任意に、ガラスのような強化剤及びテフロンのような滴下防止剤(anti−dripping agent)を存在させることができる。また、慣用の補助剤及び添加剤も存在させることができ、成分全体で100重量%を構成する。
【0038】
好ましいプラスチック成形組成物は、3〜20重量%の成分A、3〜10重量%の成分B、0〜10重量%の成分C、及び同様に53〜94重量%のポリエステルを含む。任意に、ガラス繊維を、約5〜約40重量%の範囲で存在させることが好ましい。また、適切であれば、慣用の補助剤及び添加剤を、全組成物が100重量%になるまでそれら成分全体を添加する。
【0039】
特に好ましいプラスチック成形組成物は、5〜15重量%の成分A、5〜10重量%の成分B、0〜5重量%の成分C、及び同様に60〜90重量%のポリエステル、及び任意に、約15〜約30重量%の範囲のガラス繊維、及び同様に、適切であれば、慣用の補助剤及び添加剤を、全組成物が100重量%になるまで、添加されたそのままの状態のそれら成分を含む。
【0040】
本発明は、ポリエステル類に難燃性を付与するための本発明の難燃剤混合物の使用も提供する。ポリエステル類とは、ポリマー鎖が、エステル基によって結合された繰り返し単位を有するポリマー類である。本発明によって使用できるポリエステル類は、”Ullmanns encyclopedia of industrial chemistry”, ed.Barara Elvers, VoI A21 , Chapter ”Polyesters” (pp 227−251), VCH, Weinheim−Basel−Cambridge−New York 1992(非特許文献1)中で例として説明されており、特に参照により、ここに組み入れられる。コポリエステル類もまた適している。
【0041】
本発明の難燃剤組成物が、フィラー、潤滑剤、界面活性剤、有機バインダー、ポリマーバインダー、架橋剤、カップリング剤、テフロンのような滴下防止剤、熱安定剤及び光安定剤、静電防止剤、酸化防止剤、核形成剤、カルボジイミド、着色剤、インキ、染料、又はそれらのいずれかの組合せを含み得ることが意図される。欧州特許出願公開第0584567A号(特許文献37)は、使用できる添加剤の例を提供している。
【0042】
本発明の難燃剤組成物は、コーティングとして使用できるか、又は自立フィルム、繊維、発泡体、成形品及び繊維強化複合体のような物品を製造するのに使用できる。繊維強化複合体の場合、この強化は、ガラス、炭素、シリコンカーバイドのような無機繊維、及び有機繊維、又はそれらの組み合わせのような、連続繊維、織り繊維、又は短繊維の形態にあることができる。これらの物品は、耐火性が要求される用途に十分適合させることができる。
【0043】
本発明の難燃剤混合物及び、適切な場合、以下に定義されるようなフィラー及び強化材料及び/又はその他の添加剤を含むポリエステル類は、これ以降、プラスチック成形組成物と称する。
【0044】
難燃性プラスチック成形組成物のポリマー類は、好ましくは熱可塑性ポリエステルを含み、より好ましくは、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)又はポリ(エチレンテレフタレート)(PET)である。
【0045】
ポリマー類に添加されるホスフィン酸の塩(成分A)の量は、広い限界内で変化し得る。使用される量は、一般に、プラスチック成形組成物に基づいて0.1〜30重量%である。理想的な量は、ポリマーの性質及び成分B及び成分Cの種類、及び使用される実際のホスフィン酸の塩の特性に依存する。好ましい量は、プラスチック成形組成物に基づいて、0.5〜25重量%であり、特に、1〜20重量%である。
【0046】
本発明の難燃剤及び組み合わされる安定剤に対して、上述のホスフィン酸塩が使用される物理的形態は、使用されるポリマーの種類、及び所望の特性に依存して変化させることができる。例として、ホスフィン酸の塩は、ポリマー内でのより良好な分散性を達成するべく微細な粒子形態になるよう粉砕できる。様々なホスフィン酸の塩の混合物も、所望により使用できる。
【0047】
ポリマーに添加されるホスホナートのオリゴマー、ポリホスホナート又はコポリホスホナート(成分B)の量は、広い範囲内で変化させることができる。使用される量は、一般に、プラスチック成形組成物に基づいて0.1〜20重量%である。理想的な量は、ポリマーの性質、使用されるホスフィン酸の塩(成分A)の種類、及び使用される窒素化合物(成分C)の種類に依存する。0.5〜15重量%、特に1〜10重量%の量が好ましい。
【0048】
ポリマーに添加すべき窒素化合物(成分C)の量は、広い範囲内で変化できる。使用される量は、一般に、プラスチック成形組成物に基づいて、0.1〜20重量%である。理想的な量は、ポリマーの性質、使用されるホスフィン酸の塩(成分A)の性質、使用されるホスホナートのオリゴマー、ポリホスホナート又はコポリホスホナート(成分B)の種類、及び使用される窒素化合物の種類に依存する。
【0049】
これらの成分を混合する可能な方法は多数あり、各成分を添加する順序は、所望する混合プロセスに適合させていずれの順番であることもできる。成分A、成分B及び成分Cを熱可塑性ポリエステル中へ導入する方法の一例は、第一のステップで成分の全部をミキサー中で、粉末形態及び/又はペレット形態にプレミックスし、そしてその後、第二のステップで、その材料を、配合装置(例えば、二軸スクリュー押出機)中で均質化してポリマー溶融物にする。任意に、第一のステップにおいてガラス繊維のような追加の材料も添加されて混合される。その溶融物は、通常、押出し物の形態で引き出され、冷却され、そしてペレット化される。成分A、成分B及び成分C、及び任意にガラス繊維及び/又は追加的な添加剤を混合する別の例も、計量システムを使って、いずれかの所望する順番でその配合装置中へ直接導入できる。押出しプロセスの終了付近で成分B(ホスホナートのオリゴマー、ポリマー又はコポリマー)、及び所望によりガラス繊維を添加するのが好ましい。
【0050】
難燃剤の添加剤A、B及びC、及び任意にガラス繊維及び/又は追加の添加剤を、すぐに使えるポリマーペレット又はすぐに使えるポリマーパウダーと混合させることもでき、その混合物は射出成形機で直接加工されて成形品をもたらす。
【0051】
例として、ポリエステル類の場合、難燃剤の添加剤A、B及びC、及び任意にガラス繊維及び/又は追加の添加剤は、重縮合プロセスの間にそのポリエステル類へ添加することもできる。
【0052】
すでに説明したように、成分A、成分B及び成分Cから構成される本発明の難燃剤混合物に加えて、成形組成物に、ガラス繊維、ガラスビーズ、又はチョークのような鉱物類などをフィラー及び強化材料として加えることもできる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0053】
1. 使用する成分
市場から入手可能なポリマー類(ペレット):
ポリブチレンテレフタレート(PBT): Ultradur(登録商標) B 4500(BASF AG、ドイツ(D))

成分A: ジエチルホスホン酸アルミニウム(以下、DEPALと称する)
成分B: ポリホスホナート(以下、FRX−100と称する)は、次の手順によって調製した。
ポリホスホナートの合成。
【0054】
蒸留塔及び機械式撹拌装置を備えた6Lの反応器中に、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA、1.308kg、5.737モル)、120mgのナトリウムフェノラート(NaOPh)触媒、1467g(5.915モル)のメチルホスホン酸ジフェニルエステル、及び225mgのテトラフェニルホスホニウムフェノラートを装入した。約8〜9時間かけて圧力を150mmHgから0.4mmHgに減圧しながら、混合物を250〜300℃に加熱した。反応過程にわたって約1374gの蒸留物を集めた。溶融物の溶液粘度における注目すべき急速な増加が、反応の最後の1時間にわたって観察された。最後に、(溶融粘度、つまり分子量として測定された)トルクは、300℃において110rpmの撹拌速度で12.5+0.4であった。
【0055】
反応器からポリマーを水浴中へ押出ししてストランドを形成させ、その後ペレット化した。ポリマーは、透明で、無色で強靭であった。これは、102℃のTgを示した。この生成物は、12時間後には、塩化メチレン中に完全には可溶ではなかった。このポリマー中のリンのパーセンテージは10.8重量%であった。分子量は、屈折率検出器を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。ポリスチレン換算に基づき、ポリホスホナートは、9379のMn、43480のMw、及び4.6の多分散性を示した。

成分C: Melapur(登録商標) MC(メラミンシアヌレート)(Ciba Specialty Chemicals、スイス(CH))
他の添加剤:
Vetrotex EC 10 P 952 (ガラス繊維)
【0056】
2. 難燃性プラスチック成形組成物の調製、加工及び試験
難燃剤の成分及び安定剤の成分を、表中に示した割合で、ポリマーペレット及び任意に添加剤と混合し、240〜280℃の温度で二軸スクリュー押出機(Leistritz ZSE 27 HP−44D)に導入した。均質化されたポリマーストランドを引き出し、水浴中で冷却し、それからペレット化した。
【0057】
適当な乾燥の後、成形組成物を射出成形機(Arburg Alirounder、230℃)中で、260〜280℃の溶融温度で加工し、試験試料を得た。その後、これらの試験試料を、UL 94 vertical test (Underwriters Laboratories)に従って、難燃性について試験して分類した。
【0058】
米国材料試験協会(ASTM)D 2863に説明されている通りに限界酸素指数(LOI)を測定した。LOI値が高いほど、材料は、通常、発火及び燃焼に対するより高い耐性を有する。
【0059】
溶解粘度(SV)を、ポリエステルにおける本発明の組み合わせの加工特性を評価するのに使用した。適当な乾燥の後に、ジクロロ酢酸中の1.0%強度の溶液を調製するのにプラスチック成形組成物のペレットを使用し、そして、SV値は、無次元の数として測定された。SVが高いほど、難燃剤の導入の間のポリマー分解の程度がより小さい。
【0060】
IEC 60695−2−13に説明された手順に従って、“グローワイヤ発火温度”(GWIT)を測定した。GWITが高いほど、通常、電気装置における欠陥(例えば、短絡(short circuit))の条件下で材料が発火する可能性は低い。
【0061】
IEC 60112に従って、“比較トラッキング指数(comparative tracking index)”(CTI)を測定した。CTI値は、塩化アルミニウム溶液を50滴たらした後の、試験されるプラスチック材料の表面上の二つの電極間でトラッキングが生じない電圧を示す。このCTI値が高いほど、電気的ストレス下で含水電導性不純物にその表面が晒されたときの、600Vまでの電圧に対するトラッキングに対する絶縁材料の耐性がより良好である。
【0062】
3. 試験結果
表1は、PBTにおける本発明の組み合わせの例、及び列5〜8で得られた試験結果を示している。例1〜4は比較例であり、PBT単独で試験され、そしてジエチルホスフィン酸アルミニウム(DEPAL)(成分A)、ポリホスホナート(FRX−100)(成分B)、及びメラミンシアヌレート(成分C)をそれぞれ、PBT中の唯一の難燃剤成分として試験した。
【0063】
【表1】

nc=分類不可能
【0064】
本発明の難燃剤混合物が使用された本発明の実施例5〜8の結果は、これらの組み合わせによってUL分類のV−O又はV−2、及び高いLOI値が達成されていることを示している。さらに、高い水準の溶解粘度及びGWITが測定された。この組み合わせによるこれらの望ましい結果は、いずれかの難燃剤単独だけでは達成できない。本発明の組み合わせについて測定したCTIのレベルは、FRX−100単独又はメラミンシアヌレート単独のいずれかで難燃化された強化PBTのそれよりもずっと高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分、すなわち、1) 熱可塑性ポリエステル、2) ホスフィナートの塩、3) メラミン、メラミン誘導体、又はメラミンの塩、及び4) オリゴマーのホスホナート、ポリホスホナート、又はコポリホスホナートを含むホスホナート成分のそれぞれを少なくとも一つずつ含むプラスチック成形組成物。
【請求項2】
前記ホスホナート成分が、少なくとも2重量%のリン含有量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステルがポリブチレンテレフタレートであり、前記ホスフィナートの塩がジエチルホスフィン酸アルミニウムであり、前記メラミン誘導体がメラミンシアヌレートであり、そして前記ホスホナート成分が、ジフェニルメチルホスホナート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、及び1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンから調製された分岐状のポリホスホナートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、ガラス繊維、炭素繊維、無機繊維、有機繊維、フィラー、界面活性剤、有機バインダー、ポリマーバインダー、架橋剤、カップリング剤、滴下防止剤、着色剤、インキ、染料、酸化防止剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される追加の成分の少なくとも一種を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記追加の成分の少なくとも一種がガラス繊維である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、少なくとも775℃のグローワイヤ発火温度を示す、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の組成物から構成される製造の物品。
【請求項8】
前記物品が、繊維、フィルム、コーティング材、成形品、発泡体、繊維強化物品、又はそれらのいずれかの組み合わせである、請求項7に記載の製造の物品。
【請求項9】
前記組成物が、少なくとも775℃のグローワイヤ発火温度示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物から構成される製造の物品。
【請求項11】
前記物品が、繊維、フィルム、コーティング材、成形品、発泡体、繊維強化物品、又はそれらのいずれかの組み合わせである、請求項10に記載の製造の物品。
【請求項12】
少なくともホスフィナートの塩が、次式(I)又は(II)で表されるホスフィン酸の塩である、請求項1に記載のプラスチック成形組成物。
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なっていて、H又は直鎖状又は分岐状のC1−C6−アルキル、又はアリールであり;
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、プロトン化窒素塩基又はそれらの混合物であり;
mは1〜4であり;nは1〜4であり;xは1〜4である。)
【請求項13】
前記Mがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、又はそれらの混合物である、請求項12に記載のプラスチック成形組成物。
【請求項14】
mが2又は3であり、nが1又は3であり、そしてxが1又は2である、請求項12に記載のプラスチック成形組成物。

【公表番号】特表2012−514681(P2012−514681A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545364(P2011−545364)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/068452
【国際公開番号】WO2010/080491
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(596081005)クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド (27)
【出願人】(508163991)エフアールエックス ポリマーズ、インク. (4)
【Fターム(参考)】