説明

ポリエステル系マスキングシート

【課題】被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速で巻き戻す際の負担を軽減でき、高温で使用した場合も糊残りや汚染なく再剥離できる、地球環境にやさしい植物由来材料を用いたマスキングシートを提供することを課題とする。
【解決手段】基材上に、植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとを、ジカルボン酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対しジオールに含まれる水酸基が1.01〜1.40モルとなる割合で縮合重合させて得られるポリエステル樹脂と、このポリエステル樹脂100重量部あたり10〜50重量部となる量の粘着付与剤とを含有し、架橋剤により架橋処理された粘着剤層を有し、この粘着剤層はゲル分率が40〜90%の範囲にあることを特徴とするポリエステル系マスキングシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に粘着剤層を有するマスキングシートに関し、より詳しくは粘着剤層の有効成分として地球環境にやさしい植物由来材料を原料成分としたポリエステル樹脂を使用したポリエステル系マスキングシートに関する。


【背景技術】
【0002】
マスキングシートは、被着体に貼り付けて使用されたのちは、剥離されて廃棄処理される。これまで、この種のマスキングシートには粘着剤層の有効成分として石油由来であるアクリル系の材料が主に用いられてきた(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−158596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のマスキングシートは、石油由来材料のため、石油桔渇のおそれがあり、また使用後の廃棄処理に二酸化炭素を排出していた。つまり、石油桔渇や産廃時の二酸化炭素排出の点より地球環境への配慮はなされていなかった。

昨今、化石資源の枯渇や地球の温暖化対策として環境への配慮が求められ、再生可能な材料である植物由来材料の使用が推奨され始めている。


【0004】
本発明は、このような事情に照らし、粘着剤層の有効成分として、化石資源(石油資源を含む)を用いず、化石資源の枯渇や二酸化炭素排出の問題のない、地球環境にやさしい植物由来材料を用いたバイオマスマスキングシートを提供すること、また、被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速で巻き戻す際の負担を軽減することを可能とし、さらに高温で使用した場合も糊残りや汚染なく剥離することが可能である、高性能のバイオマスマスキングシートを提供することを課題とする。


【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対し、鋭意検討した結果、基材上に化石資源の枯渇に影響されない植物由来材料を原料成分としたポリエステル樹脂を有効成分としこれに粘着付与剤を含ませ架橋剤により架橋処理してゲル分率を適正範囲に設定した粘着剤層を設けることにより、被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速でテープを巻き戻す際の負担を軽減でき、また高温で使用した場合も糊残りや汚染なく剥離でき、剥離した廃棄物は上記植物由来材料により二酸化炭素排出の問題のない、地球環境にやさしい高性能のバイオマスマスキングシートとなることを知り、本発明を完成した。


【0006】
すなわち、本発明は、基材上に、植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとを、ジカルボン酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対しジオールに含まれる水酸基が1.01〜1.40モルとなる割合で縮合重合させて得られるポリエステル樹脂と、このポリエステル樹脂100重量部あたり10〜50重量部となる量の粘着付与剤とを含有し、架橋剤により架橋処理された粘着剤層を有し、この粘着剤層はゲル分率が40〜90%の範囲にあることを特徴とするポリエステル系マスキングシートに係るものである。

また、本発明は、植物由来のジカルボン酸がダイマー酸であり、植物由来のジオールがダイマージオールである上記構成のポリエステル系マスキングシート、粘着付与剤が植物由来の材料を主成分としたものである上記構成のポリエステル系マスキングシート、架橋剤がポリイソシアネート化合物である上記構成のポリエステル系マスキングシート、を提供できものである。

なお、本発明における「ポリエステル系マスキングシート」には、通常幅広のシート状物だけでなく、通常幅狭のテープ状物も含まれ、その他、ラベル状物などの各種形態のマスキング製品が包含されるものである。


【発明の効果】
【0007】
このように、本発明は、基材上に、植物由来材料を原料成分としたポリエステル樹脂を有効成分としこれに粘着付与剤を加えて架橋剤により架橋処理して特定範囲のゲル分率を有する粘着剤層を設けたことにより、化石資源の枯渇に影響されず、使用後廃棄処理する場合に植物由来材料を用いているため二酸化炭素を排出してもカーボンニュートラルを実現できる、地球環境にやさしいポリエステル系マスキングシートを提供できる。またこのマスキングシートは、高性能のマスキングシーとして、被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速で巻き戻す際の負担を軽減することを可能とし、さらに高温で使用した場合も糊残りや汚染なく剥離することが可能である。

また、このポリエステル系マスキングシートは、上記のポリエステル樹脂を有効成分とした粘着剤の調製に際し、D相乳化〔水と多価アルコールを含んだ界面活性剤相(D相)に油成分としての上記樹脂を分散させてO/D型のゲルエマルションとし、このゲルエマルションに水を加えてO/W型のエマルションとする〕などによりエマルション化することが可能であり、これによりVOC(Voratile Organic Compounds)対策も可能で、脱有機溶剤化にも寄与することができる。


【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるポリエステル樹脂は、原料成分(モノマー成分)として植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとを使用し、これらの原料成分を縮合重合させることにより得られるものである。

上記の縮合重合は、常法により、有機溶剤を使用して行ってもよいし、減圧下無溶剤で行ってもよい。縮合重合反応に際して、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、三酸化アンチモン、ブチルスズオキシドなどの金属化合物などの適宜の触媒を用いて行うことができる。


【0009】
植物由来のジカルボン酸としては、植物由来であれば特に限定されないが、ヒマシ油由来のセバシン酸やオレイン酸などからつくられるダイマー酸などが挙げられる。このようなジカルボン酸は2種以上を併用することもできる。

また、植物由来のジオールとしては、植物由来であれば特に限定されないが、ヒマシ油から誘導される脂肪酸エステルやオレイン酸などからつくられるダイマージオールなどが挙げられる。このようなジオールは2種以上を併用することもできる。

なお、植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとは別に、植物由来でないジカルボン酸やジオールを併用することもできる。ただし、これら植物由来でないジカルボン酸やジオールは、原料成分全体の30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下であるのがよい。


【0010】
ジカルボン酸とジオールとの縮合重合は、ジカルボン酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ジオールに含まれる水酸基が1.01〜1.40モル、特に1.02〜1.30モルとなる割合で反応させるのが望ましい。

水酸基が1.01モルより少ないと、縮合重合して得られるポリエステル系樹脂の分子末端の水酸基が少なくなり、架橋剤による架橋処理が難しくなり、ゲル分率を適正範囲に調整しにくくなる。また、水酸基が1.40モルより多くなると、分子量が低くなり架橋剤による架橋処理でゲル化させるのが難しくなる。

このような縮合重合により得られるポリエステル樹脂は、重量平均分子量(Mw)が、通常1万〜20万の範囲にあるのが望ましい。


【0011】
本発明においては、上記のポリエステル樹脂を粘着剤の有効成分として、これに粘着付与剤とさらに架橋剤を配合して、粘着剤を調製する。

粘着剤の調製は、有機溶剤を用いて行ってもよいし、無溶剤下で行ってもよい。また、水に乳化分散させたエマルション型の粘着剤としてもよく、乳化分散を容易とするため、D相乳化によるエマルション化を利用してもよい。

D相乳化では、水と多価アルコールを含んだ界面活性剤相(D相)に油成分として上記樹脂を分散させてO/D型のゲルエマルションとし、このゲルエマルションに水を加えてO/W型のエマルションとする。粘着付与剤や架橋剤は上記樹脂と一緒に添加してもよいし、上記エマルションを得たのちに配合してもよい。D相乳化によれば、VOC対策が可能となり、脱有機溶剤化に寄与することができる。


【0012】
粘着付与剤には、従来公知のものを広く使用することができるが、植物由来の材料を主成分としたものが望ましい。このような粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂やテルペン系樹脂などが挙げられる。

ロジン系樹脂には、ロジン、重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル、ロジンフェノール樹脂などがある。また、テルペン系樹脂には、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂などがある。


【0013】
粘着付与剤の量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、10〜50重量部が好ましく、特に好ましくは15〜45重量部であるのがよい。

粘着付与剤の量が50重量部より多いと、粘着力が高くなりすぎ高温保持後の再剥離に際し糊残りや汚染の問題があり、また再剥離が難しくなる。また、粘着付与剤の量が10重量部より少ないと、自背面に対する粘着力が低くなり、ロール状にした際に剥がれが起きるなどの不具合を生じやすい。


【0014】
架橋剤には、ポリエステル樹脂の分子内に含まれる官能基(カルボキシル基、水酸基など)と反応して上記樹脂を架橋構造化しうる多官能性化合物が用いられる。

このような架橋剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、多価イソシアヌレート、多官能性イソシアネート化合物、多官能性メラミン化合物、多官能性エポキシ化合物、多官能性オキサゾリン化合物、多官能性アジリジン化合物、金属キレート化合物などを挙げることができる。これらの架橋剤の中でも、汎用性のある多価イソシアヌレートや多官能性イソシアネート化合物が好ましい。


【0015】
多価イソシアヌレートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート体を挙げることができる。例えば、市販品として、商品名「コロネートHX」(日本ポリウレタン社製)、商品名「コロネートHK」(日本ポリウレタン社製)、商品名「コロネート2096」(日本ポリウレタン社製)、商品名「デュラネートTPA−100」(旭化成ケミカルズ社製)などが挙げられる。


【0016】
多官能性イソシアネート化合物としては、分子中に少なくとも3個以上(3官能)のイソシアネート基を有する化合物であることが必要であるが、必要に応じて2個(2官能)のものを併用することもできる。

具体的には、脂肪族ポリイソシアネート類、脂環族ポリイソシアネート類、芳香族ポリイソシアネート類およびこれらの二量体や三量体を挙げることができる。


【0017】
脂肪族ポリイソシアネート類としては、1,2−テトラメチレンジイソシアネート、1,3−テトラメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネートなどのテトラメチレンジイソシアネート;1,2−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,5−ヘキサメチレンジイソシアネートなどのヘキサメチレンジイソシアネート;その他、1,2−エチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどを挙げることができる。


【0018】
脂環族ポリイソシアネート類としては、1,2−シクロペンチルジイソシアネート、1,3−シクロペンチルジイソシアネートなどのシクロペンチルジイソシアネート;1,2−シクロヘキシルジイソシアネート、1,3−シクロヘキシルジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルジイソシアネートなどのシクロヘキシルジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ノルボネンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。


【0019】
芳香族ポリイソシアネート類としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネートなどを挙げることができる。


【0020】
ポリイソシアネート類の二量体や三量体としては、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートなどの重合物などを挙げることができる。これらは、市販品を使用することもでき、例えば、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートの三量体付加物として、商品名「コロネートL」(日本ポリウレタン社製)や、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートの三量体付加物として、商品名「コロネートHL」(日本ポリウレタン社製)などを挙げることができる。


【0021】
多官能性メラミン化合物としては、メチル化メチロールメラミン、ブチル化ヘキサメチロールメラミンなどを挙げることができる。

多官能性エポキシ化合物としては、ジグリシジルアニリン、グリセリンジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。


【0022】
架橋剤の量は、架橋処理後のゲル分率が特定範囲となるように、架橋剤の種類に応じて適宜選択することができる。

例えば、ポリイソシアネート化合物では、ポリエステル樹脂(原料成分であるジカルボン酸とジオールとの合計量)100重量部あたり、0.5〜13重量部とするのが好ましく、特に好ましくは1〜12重量部である。このような使用量とすることにより、適度な架橋結合が形成されて、粘着力と保持性(凝集力)とを両立する、すぐれた粘着特性が得られ、透明性などにも好結果が得られやすい。

なお、ゲル分率を効率良く得るため、架橋剤と共に適宜の触媒を用いることができる。例えば、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルスズオキシド、ジオクチルスズジラウレートなどが用いられる。


【0023】
本発明においては、このように調製される粘着剤を基材上に塗布し、通常60〜120℃の温度で基材の樹類に応じた所定時間乾燥して、また、この乾燥と同時またはその後に架橋処理して、基材上に厚さが通常5〜100μm、好ましくは10〜80μmの範囲にある架橋処理した粘着剤層を有するポリエステル系マスキングシートを得る。


【0024】
このポリエステル系マスキングシートにおいて、架橋処理した粘着剤層は、ゲル分率が40〜90%、好ましくは60〜80%であるのがよい。

上記のゲル分率が90%より高いと、架橋密度が高くなりすぎて粘着力が低くなり固定が難しくなる。また、上記のゲル分率が40%より低いと、凝集力不足により固定が難しくなり、また糊残りや汚染が発生しやすい。


【0025】
粘着剤層を設ける基材には、クラフト紙、クレープ紙、和紙などの繊維状物質からなる紙、スフモス、ポリエステルなどからなる布、ポリスチレン、ポリプロピレンなどからなるプラスチックフィルムなどが用いられる。

これらの中でも、手で簡単に切れる(作業性)、また粘着剤を吹き付けた際の粘着剤とテープ背面との密着性の点から、多孔性の基材であるのが望ましい。多孔性の基材となりうる材料としては、上記の遷移状物質からなる紙材、特に叩解された木材パルプあるいはこれに1種以上の合成短繊維を混抄してなる多孔性薄葉紙材が好ましく、このような紙材からなる和紙が強度、伸びなどにすぐれる点で好ましい。


【0026】
上記の合成短繊維の材質には、例えば、ポリビニルアルコール(例えばビニロン)、ポリアミド(例えばナイロン)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリルなどがある。

特に、強度や伸度の向上、適度な剛性を付与できる点から、紙材に混抄される合成短繊維がビニロンであり、その混抄率が5%以上、好ましくは5〜70%、さらに好ましくは15〜50%である多孔性薄葉紙材が好適に使用される。中でも、このような多孔性薄葉紙材からなる和紙が本発明の基材として最も好ましい。


【0027】
多孔性薄葉紙材の坪量は、特に限定されないが、通常15〜80g/m2 、好ましくは25〜50g/m2 であるのがよい。

また、例えば、特開平2−151427号公報に記載のように、和紙などの基材にゴムおよび/または合成樹脂を含浸させることにより、剥離時に裂けや破断を防止することができる。上記のゴムや合成樹脂には、例えば、ブチルゴム、天然ゴム、スチレン、ブタジエンゴム、アクリル酸エステル共重合体などが用いられる。


【0028】
本発明のポリエステル系マスキングシートは、23℃におけるSUS板に対する粘着力が1.5〜8.0N/20mmの範囲にあり、特に好ましくは2.0〜7.0N/20mmの範囲にある。上記の粘着力が1.5N/20mmの未満では、被着体に対する粘着力が十分でなく使用中に剥離するおそれがある。また、上記の粘着力が8.0N/20mmを超えると、粘着力が強すぎ剥離する際に糊残りや基材が破れるおそれがある。


【0029】
また、本発明のポリエステル系マスキングシートは、23℃での粘着剤層と自背面との粘着力、つまり自背面粘着力が1.5N/20mm以上であり,特に好ましくは2.0N/20mm以上である。上記の自背面粘着力が1.5N/20mm未満であると、重ね貼り特性が悪くなり、剥がれたりずれ落ちたりなどの不具合が生じやすい。


【0030】
さらに、本発明のポリエステル系マスキングシートは、23℃における自背面高速剥離粘着力、いわゆる巻き戻し力が1.0〜8.0N/20mmの範囲にあり、特に好ましくは2.0〜7.0N/20mmの範囲にある。

上記の巻き戻し力が1.0N/20mm未満では、巻き戻し力が小さすぎて所定長さ以上に巻き戻ったり、何かの拍子で自重でテープが巻き戻る現象が生じやすい。また、上記の巻き戻し力が8.0N/20mmを超えると、巻き戻し力が大きすぎて作業性が悪く、また巻き戻し時にテープが切れるなどの不具合が生じやすい。


【0031】
本発明のポリエステル系マスキングシートは、自背面定荷重剥離試験(後述)において落下せず、そのずれ距離が60mm以下という性能を備えている。本試験で落下すると巻き戻し力が軽すぎ、作業性に劣るという不具合がある。

また、本発明のポリエステル系マスキングシートは、高温(例えば130℃)で保持した場合でも、糊残りや汚染なく再剥離できるという性能を備えている。


【0032】
本発明のポリエステル系マスキングシートは、上記の諸性能を有していることにより、自動車の塗装時のマスキング時に使用されるマスキング用テープ、養生用テープ、保護フィルムテープなどとして有用であり、その他、マスキングシートとして知られる各種の用途に有利に利用することができる。

これらの用途目的で使用したのち、被着体から剥離したマスキングシートは、粘着剤層が植物由来材料からなるため、これを廃棄処理した場合二酸化炭素を排出してもカーボンニュートラルを実現でき、地球環境に悪影響を及ぼすことはない。


【実施例】
【0033】
つぎに、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。また、以下の実施例および比較例で使用したポリエステル樹脂A〜Eは、下記の方法で製造したものである。


【0034】
<ポリエステル樹脂Aの製造>
三つ口セパラブルフラスコに撹拌機、温度計、真空ポンプを付し、これにダイマー酸(商品名「プリポール1009」Mw567 ユニケマ社製)110.7g、ダイマージオール(商品名「プリポール2033」Mw537 ユニケマ社製)100g、触媒としてチタンテトライソプロポキシド(キシダ化学社製)0.532gを仕込み、減圧雰囲気で撹拌しながら200℃まで昇温し、この温度を保持した。約3時間反応を続けてポリエステル樹脂Aを得た。重量平均分子量Mwは3万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が0.95モルとなる割合であった。


【0035】
<ポリエステル樹脂Bの製造>
ダイマー酸の使用量を104.9gに変更し、ダイマージオールの使用量は100gのままとした以外は、ポリエステル樹脂Aの場合と同様にして、ポリエステル樹脂Bを得た。重量平均分子量Mwは8.5万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が1.01モルとなる割合であった。


【0036】
<ポリエステル樹脂Cの製造>
ダイマー酸の使用量を100.9gに変更し、ダイマージオールの使用量は100gのままとした以外は、ポリエステル樹脂Aの場合と同様にして、ポリエステル樹脂Cを得た。重量平均分子量Mwは5.5万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が1.05モルとなる割合であった。


【0037】
<ポリエステル樹脂Dの製造>
ダイマー酸の使用量を88.3gに変更し、ダイマージオールの使用量は100gのままとした以外は、ポリエステル樹脂Aの場合と同様にして、ポリエステル樹脂Dを得た。重量平均分子量Mwは2万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が1.20モルとなる割合であった。


【0038】
<ポリエステル樹脂Eの製造>
ダイマー酸の使用量を73.1gに変更し、ダイマージオールの使用量は100gのままとした以外は、ポリエステル樹脂Aの場合と同様にして、ポリエステル樹脂Eを得た。重量平均分子量Mwは1万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が1.45モルとなる割合であった。


【0039】
実施例1
ポリエステル樹脂C100部に、架橋剤としてヘキサメテレンジイソシアネート(商品名「TPA−100」、旭化成ケミカルズ社製)2部、粘着付与剤〔商品名「リカタックPCJ」、(株)理化ファインテク 徳島製〕20部を配合し、粘着剤を調製した。

これを、坪量30g/m2 の紙基材(日本紙パピリア社製「AC−30G」)に乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で3分乾燥した。

乾燥後、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)シートの剥離処理面を貼り合わせ、エージングを50℃で5日間実施し、架橋処理した粘着剤層を有するポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0040】
実施例2
架橋剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し4部とした以外は、実施例1と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0041】
実施例3
架橋剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し10部とした以外は、実施例1と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0042】
実施例4
ポリエステル樹脂C100部に代え、ポリエステル樹脂B100部を使用した以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0043】
実施例5
ポリエステル樹脂C100部に代え、ポリエステル樹脂D100部を使用した以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0044】
実施例6
粘着付与剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し10部とした以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0045】
実施例7
粘着付与剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し40部とした以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0046】
比較例1
粘着付与剤を配合しなかった以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0047】
比較例2
粘着付与剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し60部とした以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0048】
比較例3
ポリエステル樹脂C100部に代え、ポリエステル樹脂A100部を使用した以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0049】
比較例4
ポリエステル樹脂C100部に代え、ポリエステル樹脂E100部を使用した以外は、実施例2と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0050】
比較例5
架橋剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し1部とした以外は、実施例1と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0051】
比較例6
架橋剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し15部とした以外は、実施例1と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。


【0052】
以上の実施例1〜7および比較例1〜6の各ポリエステル系マスキングシートに関し、粘着剤層のゲル分率、SUS板粘着力、自背面粘着力、自背面高速剥離試験、自背面定荷重剥離試験および高温剥離試験を、下記の方法により測定し、これらの結果を、下記の表1〜表4にまとめて示した。なお、各表には、使用した粘着剤の組成(ポリエステル樹脂の種類および原料成分の水酸基/カルボキシル基比、ポリエステル樹脂、粘着付与剤および架橋剤の使用部数)を併記した。


【0053】
<粘着剤層のゲル分率>
測定片として粘着付与剤を配合せずにその他は各実施例および比較例と同様のサンプルを作製した厚さ50μmのシートを5cm×5cm角に切り出した。

切り出したサンプルを、重さがわかっているポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートで包み重量を秤量し、トルエン中に23℃で7日間放置して、サンプル中のゾル分を抽出した。その後、130℃で2時間乾燥し、乾燥後の重量を秤量した。ゲル分率は、下記の式にて算出した。

ゲル分率(%)=〔(乾燥後の重量−PTFEシート重量)/(乾燥前の重量−PTFEシート重量)〕×100


【0054】
<SUS板粘着力>
ポリエステル系マスキングシート(幅20mmにカット)の粘着剤層面をSUS304板に2kgローラー1往復にて貼着させ、引張圧縮試験機(ミネベア社製「TG−1kN」)にて、180°ピール接着力(粘着力)(N/20mm)(剥離速度:300mm/分、温度:23±2℃、湿度:65±5%RH)を測定した。


【0055】
<自背面粘着力>
ポリエステル系マスキングシートの粘着剤層面をSUS304板に貼り合わせ固定し、その基材面(自背面)に同じくポリエステル系マスキングシート(幅20mmにカット)の粘着剤層面を2kgローラー1往復にて貼着させ、30分置いたのち、引張圧縮試験機(ミネベア社製「TG−1kN」)にて、180°ピール接着力(粘着力)(N/20mm)(剥離速度:300mm/分、温度:23±2℃、湿度:65±5%RH)を測定した。


【0056】
<自背面高速剥離試験>
ポリエステル系マスキングシートの粘着剤層面をSUS304板に貼り合わせ固定し、その基材面(自背面)に同じくポリエステル系マスキングシート(幅20mmにカット)の粘着剤層面を2kgローラー1往復にて貼着させ、30分置いたのち、引張圧縮試験機(ミネベア社製「TG−1kN」)にて、180°ピール接着力(粘着力)(N/20mm)(剥離速度:30m/分、温度:23±2℃、湿度:65±5%RH)を測定した。


【0057】
<自背面定荷重剥離試験>
ポリエステル系マスキングシートの粘着剤層面をSUS304板に貼り合わせ固定し、その基材面(自背面)に同じくポリエステル系マスキングシート(幅20mm、長さ300mmにカット)の粘着剤層面を500gローラー1往復にて貼着させ、30分置いたのち、40℃の条件下で30gの重りを直角にぶら下げ、1時間後、初期より剥離が進んだ距離を測定した。初期の接着部分の長さは200mmである。


【0058】
<高温剥離試験>
ポリエステル系マスキングシートを幅20mmに切り出し、その粘着剤層面をアルミニウム板に貼り合わせ、130℃の条件下で1時間エージングする。サンプルを取り出し、放置冷却後、手で剥離を行い、糊残りや汚染などの有無を観察した。


【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
なお、上記の表3,4中、「測定不能」とは、「比較例1」では自背面に対する粘着力が低すぎるために高速剥離試験において正確な値が得られない状態を、「比較例4,5」では凝集破壊により正確な値が得られない状態を、「比較例6」では貼り合わせの時点で被着体から剥がれ、測定ができない状態を、それぞれ示している。


【0064】
以上の結果から明らかなように、実施例1〜7の各ポリエステル系マスキングシートは被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速でテープを巻き戻す際の負担を軽減することができ、さらに高温剥離試験で糊残りや汚染などを生じることなく再剥離できる。これに対して、比較例1〜6の各ポリエステル系マスキングシートは上記いずれかの特性に劣り、すべての特性を満足させることができない。

また、実施例1〜7の各ポリエステル系マスキングシートは、上記優れた特性に加えて粘着剤層が植物由来であるため焼却処理してもCO2 の増加の抑制を期待でき、地球環境にやさしいバイオマスマスキングシートとしての特徴を有している。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとをジカルボン酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対しジオールに含まれる水酸基が1.01〜1.40モルとなる割合で縮合重合させて得られるポリエステル樹脂と、このポリエステル樹脂100重量部あたり10〜50重量部となる量の粘着付与剤とを含有し、架橋剤により架橋処理された粘着剤層を有し、この粘着剤層はゲル分率が40〜90%の範囲にあることを特徴とするポリエステル系マスキングシート。


【請求項2】
植物由来のジカルボン酸がダイマー酸であり、植物由来のジオールがダイマージオールである請求項1に記載のポリエステル系マスキングシート。


【請求項3】
粘着付与剤が植物由来の材料を主成分としたものである請求項1または2に記載のポリエステル系マスキングシート。


【請求項4】
架橋剤がポリイソシアネート化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系マスキングシート。



【公開番号】特開2009−280688(P2009−280688A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133679(P2008−133679)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】