説明

ポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物

【課題】ポリエステル系樹脂に対する熱融着性が良好であり、かつ柔軟性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(a)ポリエステル系熱可塑性エラストマー5〜95質量部、および(b)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体および/またはその水素添加物5〜95質量部(ただし、前記(a)および(b)成分の合計は100質量部である)を含有することを特徴とするポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂、特にポリブチレンテレフタレートに対する熱融着性が良好であり、かつ、柔軟性に優れるポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成樹脂(プラスチック)製部品や部材の性能の高度化、機能の高度化の要求が厳しく、その中で優れた機械的強度をもつエンジニアプラスチックと熱可塑性エラストマーとの複合化を試みる動きがある。そして、その複合化に際し両者に共通した成形手段である射出成形技術により、両者を相互に熱融着させて複合化することが最も効果的である。
【0003】
エンジニアリングプラスチックは、負荷荷重のかかる機械部品、あるいは構造部品などに用いられている。この種の熱可塑性樹脂のエンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリエステル系樹脂、ポリスルフォン、全芳香族ポリエステルなどが広く知られている。
【0004】
一方、熱可塑性エラストマーの成形体も、特に生産性の良い射出成形技術により成形され、多くの用途に使用されている。この種の熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、などが知られている。
【0005】
この射出成形法は、複雑な形状の成形品でも成形することができ、かつ大量生産に適するものであり、前記したエンジニアリングプラスチックにも射出成形法が適用され、各種の機械部品、構造部品が効率よく製造されている。
【0006】
一般に熱可塑性のエンジニアリングプラスチックとゴム弾性に優れた熱可塑性エラストマーとの熱融着性は悪く、両者を強固に接合させることができない。このため、熱可塑性のエンジニアリングプラスチックと熱可塑性エラストマーを複合化して付加価値の高い複合部品、複合部材などの複合成形体を製造しようとする場合、両者の接合部に凹凸の係止部を設けて機械的に接合する方法、両者の接合部に接着剤を適用して接合する方法など、極めて非生産的な接合手段を採用せざるを得ないのが現状である。
【0007】
このような熱可塑性のエンジニアリングプラスチックと熱可塑性エラストマーとの複合化技術は非効率的であるとともに接合面の強度やシール性など多くの問題を有するものである。即ち、凹凸嵌合などの係止部を設けて機械的に接合する方法は、金型の構造が複雑になったり、あるいは構造によっては工程数が多くなるなどの問題がある。また最終の複合成形体の形状からみて強力な結合構造とすることができないこともある。
【0008】
また、接着剤を用いる接合方法は、接着剤の塗布などの工程を要するとともに、接着剤の劣化などもあって接合強度が弱いという問題がある。
【0009】
ところで、従来技術においては、一般に熱融着が難しいとされるポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂に対して熱融着可能で且つ柔軟性に富む熱可塑性エラストマーは存在せず、それらに対しては上記のような両者の接合部に凹凸の係止部を設けて機械的に接合する方法、両者の接合部に接着剤を適用して接合する方法など、極めて非生産的な接合手段を採用せざるを得ないのが現状であった。
例えば特許文献1には、熱可塑性ポリエステル樹脂の層と、スチレン系エラストマーの層とからなることを特徴とする複合成形体が開示されているが両者の接着力は全く不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−127313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ポリエステル系樹脂に対する熱融着性が良好であり、かつ柔軟性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意研究の結果、驚くべきことにポリエステル系熱可塑性エラストマーに対し、柔軟成分として特定のブロック共重合体を特定の配合量で添加することにより上述の目的を達し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の組成物を用いる成形法としては、例えば押出成形では共押出法、射出成形としてはダブルインジェクション法やインサート成形法が挙げられる。射出成形においては同時または連続的に成形が行われる前者成形法の方が、被着体表面温度がより高温であり、2材質の熱融着性に有利である。しかしながら、本発明の組成物を用いれば、一方の成形体が充分に冷却されている後者成形法でも充分な融着強度を有する成形体を得ることができる。一般にインサート成形法において2材質を熱融着させる場合は、成形温度がより高い方が熱融着に有利に作用する。しかし、本発明の組成物を用いることで、より低温での成形によっても十分な接着強度を有した積層体を得ることが可能であり、生産コスト低減も期待される。
【0014】
すなわち本発明は、以下の通りである。
1.(a)ポリエステル系熱可塑性エラストマー5〜95質量部、および
(b)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体および/またはその水素添加物5〜95質量部(ただし、前記(a)および(b)成分の合計は100質量部である)
を含有することを特徴とするポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
2.前記(b)成分において、前記芳香族ビニル化合物含有量が、前記(b)成分中、20質量%以下であることを特徴とする前記1に記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
3.前記(b)成分が、スチレン−エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体であることを特徴とする前記1または2に記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
4.前記(a)および(b)成分の合計100質量部に対し、極性基含有化合物で修飾された芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体(c)5〜25質量部をさらに配合してなることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
5.前記(a)成分のJIS K6253に従い測定したJIS−D硬度が、20〜60であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
6.被着体であるポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
7.前記1〜6のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物と、ポリエステル系樹脂とを積層してなる積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いることにより、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂と熱可塑性エラストマーとを、効率的な熱融着手段により強力に融着接合させることができる。それにより、新しい性能、機能をもった複合成形体が効果よく提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】剥離強度を測定するための試験片の正面図である。
【図2】剥離強度を測定するための試験片の断面図である。
【図3】剥離強度を測定するための測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(a)成分 ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物
本発明で用いられる(a)成分は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物である。これは、硬質(ハード)セグメントと軟質(ソフト)セグメントを有するものである。この種のポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ジカルボン酸と短鎖グリコールから調整されるポリエステルセグメント(ハードセグメント)と、芳香族ジカルボン酸とポリアルキレングリコール(長鎖グリコール)から調製されるポリエーテルセグメント(ソフトセグメント)を有するポリエーテル・エステル型のコポリマーがよく知られている。また、ソフトセグメントとしてポリカプロラクトンを使用して調製したポリエステル・エステル型のコポリマーも知られている。
【0018】
前記したポリエステル系熱可塑性エラストマーの典型的なものは、テレフタル酸ジメチル、1,4−ブタンジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールを出発原料として重縮合反応およびエステル交換反応をさせることにより調製された下記一般式で示されるものがある。
【0019】
【化1】

【0020】
(上記一般式中、m、nは繰り返し単位数を表し、1以上の整数である)
【0021】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーはハードセグメントとソフトセグメントの比率により、あるいは各セグメントの構成成分の種類によりその性質が変わるものであるが、一般的な特徴は、耐屈曲性,耐油性,耐摩耗性,耐熱性などに優れている。
【0022】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、ハイトレル(東レ・デュポン株式会社商品名)、ペルプレン(東洋紡績株式会社製商品名)、グリラックス(大日本インキ化学工業株式会社商品名)などがある。
【0023】
本発明においては、柔軟性の観点から、(a)成分のJIS K6253に従い測定したJIS−D硬度は、20〜60であるのが好ましく、20〜40であるのがさらに好ましい。
【0024】
(b)成分 芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個のとからなるブロック共重合体および/またはその水素添加物
次に本発明で用いられる(b)成分について説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物における(b)成分は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個のとからなるブロック共重合体および/またはその水素添加物であり、例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体および/またはその水素添加物である。
【0025】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体か、芳香族ビニル化合物と50質量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のみからなる重合体か、共役ジエン化合物と50質量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0026】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン等が挙げられ、単独でも2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂との熱融着性の点でスチレンが好ましい。重合体ブロックA中の任意的な共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが挙げられ、単独でも2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂に対する熱融着性の点でブタジエン、イソプレンが好ましい。さらに好ましくはイソプレンである。
本発明では、被着体であるポリエステル系樹脂に対する熱融着強度の観点から、芳香族ビニル化合物含有量が、ブロック共重合体中、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であり、好ましい下限としては1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また、被着体であるポリエステル系樹脂に対する熱融着強度の観点から、重合体ブロックAが、スチレンを主体とし、かつスチレン含有量がブロック共重合体中、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、好ましい下限としては1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。
【0027】
前記(b)成分が水素添加される場合、その水素添加率は任意であるが、好ましくは50%以上、ポリエステル樹脂に対する熱融着性の点でより好ましくは90%以上である。
【0028】
前記(b)成分の重量平均分子量は、好ましくは、10,000〜550,000の範囲である。ポリエステル樹脂に対する熱融着性の点でより好ましくは40,000〜80,000である。また、分子量分布は10以下である。ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのうちでいずれであってもよい。好ましくは直鎖状である。
【0029】
前記(b)成分としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(部分水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、SBBS)等を挙げることができる。本発明の効果の点から前記(b)成分は水素添加物が好適であり、ポリエステル樹脂に対する熱融着性の点でSEPS、SEEPS、SEBSが好ましく、特に好ましくはSEPSである。
【0030】
前記(b)成分の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒またはチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合させて製造することができる。こうしたブロック共重合体の水素添加処理は、公知の方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に行うことができる。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物においてその配合割合は、前記(a)および(b)成分の合計を100質量部としたときに、(a)成分が5〜95質量部、(b)成分が5〜95質量部である。
前記範囲を外れると、ポリエステル系樹脂との熱融着性が不充分となる。また、(a)成分単体、(b)成分単体でもポリエステル系樹脂との熱融着性が不充分である。
被着体であるポリエステル系樹脂との熱融着性の点で好ましい範囲は、(a)成分が20〜80質量部、(b)成分が20〜80質量部である。
被着体であるポリエステル系樹脂との熱融着性の点でさらに好ましい範囲は、(a)成分が50〜70質量部、(b)成分が30〜50質量部である。
【0032】
(c)成分 極性基含有化合物で修飾された芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体 (任意成分)
本発明では、前記(a)および(b)成分の合計100質量部に対し、極性基含有化合物で修飾された芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体(c)5〜25質量部をさらに配合してなることが好ましい。
このような(c)成分を配合することにより、ポリエステル系樹脂に対する熱融着性を落とすことなく柔軟性をさらに向上することができる。しかしながら、25質量部を超える(c)成分を添加すると、熱融着性が大幅に低下してしまう。
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体(c)は、水添物であってもよく、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、SBBS)、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体(SIBS)などが挙げられる。極性基含有化合物としては、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(グリシジルメタクリレート、オキサゾリルメタクリレート、メチルメタクリレート等)、アリルエーテル(アリルグリシジルエーテル、アリルオキサゾリルエーテル、アリルカルボキシルエーテル等)などが挙げられる。中でも柔軟性と熱融着性の両立において好ましくは無水マレイン酸である。修飾方法は公知であり、公知の方法にしたがって上記極性基含有化合物をブロック共重合体に導入すればよい。極性基含有化合物の修飾の割合は、ブロック共重合体に対し、例えば0.5〜5質量%がよい。
前記(c)成分は市販されているものを利用することもでき、例えば無水マレイン酸で変性されたスチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)であるタフテックM1913(旭化成ケミカルズ株式会社製品、JIS−A硬度84、マレイン酸グラフト率2質量%)、クレイトンFG1901X(クレイトンポリマー社製品、JIS−A硬度71、マレイン酸グラフト率2質量%)が挙げられる。
ポリエステル系樹脂との熱融着性の点で(c)成分の配合量は、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対し、5〜25質量部が好ましく、10〜20質量部であることがさらに好ましい。この範囲内において、ポリエステル系樹脂に対する熱融着性を保持しながら、柔軟性も向上することができる。25質量部を超えるとポリエステル系樹脂に対する熱融着特性が著しく低下する。
【0033】
その他の成分(d)
なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、各種のブロッキング防止剤、シール性改良剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、着色剤等を含有することも可能である。ここで、酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。このうちフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤は、上記の(a)および(b)成分の合計100質量部に対して、0〜3.0質量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0034】
熱可塑性エラストマー組成物の製造
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記(a)および(b)成分、または必要に応じて(c)成分等を加えて、各成分を同時にあるいは任意の順に加えて溶融混練することにより製造することができる。
【0035】
溶融混練の方法は、特に制限はなく、通常公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーまたは各種のニーダー等を使用し得る。例えば、適度なL/Dの二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等を用いることにより、上記操作を連続して行うこともできる。ここで、溶融混練の温度は、好ましくは180〜220℃である。
【0036】
また本発明は、前記熱可塑性エラストマー組成物と、ポリエステル系樹脂とを積層してなる積層体を提供するものである。
被着体としてのポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、中でも熱融着性の観点からポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリブチレンテレフタレートがとくに好ましい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物と、ポリエステル系樹脂との積層方法としては、押出成形法や射出成形法が挙げられる。なかでも射出成形法が生産性の観点から好適である。射出成形の条件としてはとくに制限されないが、ダブルインジェクション成形法のような被着体が溶融状態である方法やすでに冷却固化した被着体を金型にインサートしたインサート射出成形法が例示される。本発明の組成物ではより熱融着に厳しいインサート射出成形であっても優れた熱融着性を有する。
【実施例】
【0037】
次に本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0038】
1.使用原材料
実施例および比較例で使用した原料は以下の通りである。
(1)ポリエステル系熱可塑性エラストマー(a)成分
(a−1)TPEE−1:ハイトレルG3548L(東レ・デュポン株式会社製品、芳香族ジカルボン酸と短鎖グリコールから調整されるポリエステルセグメント(ハードセグメント)と、芳香族ジカルボン酸とポリアルキレングリコール(長鎖グリコール)から調製されるポリエーテルセグメント(ソフトセグメント)を有するポリエーテル・エステル型のコポリマー、JIS−D硬度=30、Tm=154℃)
(a−2)TPEE−2:ハイトレル4767(東レ・デュポン株式会社製品、芳香族ジカルボン酸と短鎖グリコールから調整されるポリエステルセグメント(ハードセグメント)と、芳香族ジカルボン酸とポリアルキレングリコール(長鎖グリコール)から調製されるポリエーテルセグメント(ソフトセグメント)を有するポリエーテル・エステル型のコポリマー、JIS−D硬度=47、Tm=199℃)
【0039】
(2)ブロック共重合体(b)成分
(b−1)セプトン2063(株式会社クラレ製品、化合物名:スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、JIS−A硬度36、スチレン含有量:13質量%、重量平均分子量:65,000、水素添加率90%以上)
(b−2)セプトン2004(株式会社クラレ製品、化合物名:スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、JIS−A硬度67、スチレン含有量:18質量%、重量平均分子量:65,000、水素添加率90%以上)
(b−3)セプトン2002(株式会社クラレ製品、化合物名:スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、JIS−A硬度80、スチレン含有量:30質量%、重量平均分子量:65,000、水素添加率90%以上)
(b−4)タフテックN504(旭化成ケミカルズ社製、化合物名:スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン含有量30質量%、重量平均分子量:250,000、水素添加率90%以上)
【0040】
(3)その他成分(c)
(c−1)無水マレイン酸で変性されたスチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS):タフテックM1913(株式会社クラレ製品、JIS−A硬度84、無水マレイン酸変性量=2質量%)
【0041】
(実施例1〜7および比較例1〜2)
1.組成物の調製
表1に示す量の各成分を所定量(質量部)配合した後にスクリュー径が20mmの2軸押出混練機(製造温度180℃)にて実施例および比較例の組成物からなるペレットを調製した。得られた各種組成物を用い、下記の各種評価を行なった。
【0042】
2.評価方法
(1)硬度:JIS K 6253に準拠し、上記で調製した各種組成物の硬度を測定した。試験片は6.3mm厚プレスシートを用いた。
【0043】
(2)引張強さ:JIS K 6251に準拠し、上記で調製した各種組成物の引張強さを測定した。試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
【0044】
(4)破断伸び:JIS K 6251に準拠し、上記で調製した各種組成物の破断伸びを測定した。試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
【0045】
(5)熱融着性強度
図1〜3に示す試験片1を用い、180度剥離強度試験により剥離強度で表した。
図1〜3において、長さ150mm、幅25mm、厚さ4mmのポリエステル製樹脂板3を下記の射出条件で射出成形にて作成した。樹脂板作成に使用した樹脂は次のとおりである。
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂:TR−8550(帝人株式会社製)
(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂:トレコン1401 X06(東レ株式会社製)
(樹脂板の射出条件は、使用した樹脂メーカーの推奨射出条件に準拠した。)
射出成形機:日精樹脂工業社製 FS−120
成形温度:(A)270〜290℃、(B)230〜250℃
金型温度:(A)60℃、(B)80℃
射出速度:(A)、(B)ともに30〜40mm/秒
射出圧力:(A)、(B)ともに180〜200MPa
保圧圧力:(A)、(B)ともに40〜60MPa
射出時間:(A)、(B)ともに10秒
冷却時間:(A)、(B)ともに30秒
【0046】
上記で得られたポリエステル製樹脂板を48時間以上室温放冷した後、紙4をこの樹脂板3の一部に両面テープで貼り付け、金型内にインサートした後、熱可塑性エラストマー組成物を下記条件で射出して、ポリエステル製樹脂板3と熱可塑性エラストマー組成物板2がAの箇所で熱接着した試験片を作成した。
【0047】
射出成形機:日精樹脂工業社製FS−120
成形温度:220〜270℃
金型温度:30〜60℃
射出速度:75〜85mm/秒
射出圧力:200MPa
保圧圧力:0MPa
射出時間:5秒
冷却時間:30秒
【0048】
次に、得られた試験片について、図3のように熱可塑性エラストマー組成物板2を折り曲げて2および3の両端をそれぞれ矢印の方向に引張ることにより、180度剥離強度を測定した。
【0049】
(6)射出成形性:上記で調製した各種組成物の130mm×130mm×2mmのシートを、下記の射出成形条件で射出成形し、その外観を目視により観察し、フローマーク、ヒケ発生の有無を次の基準で評価した。
○:良い、×:悪い
【0050】
射出成形条件:
成形温度 250℃
金型温度 30℃
射出速度 70〜80 mm/秒
射出圧力 100〜160 MPa
保圧圧力 0〜30 MPa
射出時間 5秒
冷却時間 30秒
【0051】
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示されるように、実施例1〜7は、(a)ポリエステル系熱可塑性エラストマーと(b)ブロック共重合体の混合系であり、ポリエステル系樹脂に対する熱融着性が良好であり、特に実施例1〜4については柔軟性にも優れる。
比較例1、2は、それぞれ(a)ポリエステル系熱可塑性エラストマー、(b)ブロック共重合体を単体で使用した例であり、(a)、(b)それぞれのみではポリエステル系樹脂に対する熱融着強度が充分ではない。
【符号の説明】
【0054】
1 試験片
2 熱可塑性エラストマー組成物板
3 ポリエステル製樹脂板
4 紙
A 熱融着部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエステル系熱可塑性エラストマー5〜95質量部、および
(b)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体および/またはその水素添加物5〜95質量部(ただし、前記(a)および(b)成分の合計は100質量部である)
を含有することを特徴とするポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記(b)成分において、前記芳香族ビニル化合物含有量が、前記(b)成分中、20質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記(b)成分が、スチレン−エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記(a)および(b)成分の合計100質量部に対し、極性基含有化合物で修飾された芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体(c)5〜25質量部をさらに配合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記(a)成分のJIS K6253に従い測定したJIS−D硬度が、20〜60であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
被着体であるポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル系樹脂接着用熱可塑性エラストマー組成物と、ポリエステル系樹脂とを積層してなる積層体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−256252(P2011−256252A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130879(P2010−130879)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】