説明

ポリエステル組成物の製造方法

【課題】シリカが均一に分散されており、生産性に優れ、表面の凹凸が大きく空気抜け性に優れたポリエステルフィルムに用いるに好適なポリエステル組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル組成物を、エステル化反応及び重縮合反応により製造するに際し、エステル化反応終了後のポリエステル低重合体に、触媒、リン酸エステル及びアルカリ土類金属化合物を添加した後、攪拌を0.5〜2時間行い、次いで、平均粒子径が1〜10μmであり、最大粒子径が20μm未満であるシリカを2〜20質量%含有するシリカ/エチレングリコール分散液を、ポリエステル組成物に対してシリカが0.5〜3質量%含有するように、ポリエステル低重合体の温度が240〜300℃の状態で添加し、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレート系ポリエステル組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、生産性に優れ、空気抜け性の良好なポリエステルフィルムを提供しうるポリエステル組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、優れた化学的・物理的性質を有することから、各種のフィルムやシート等として広く用いられている。しかし、ポリエステルフィルムは空気抜け性が悪いという欠点があり、接着や貼り合わせ等を行う際に、空気溜まりが生じることがある。
【0003】
この欠点は、ポリエステルフィルムが密着して空気の通り道を塞ぐことにより発生しており、主にポリエステルフィルムの表面状態に起因する。
【0004】
これまで、ポリエステルフィルムの空気抜け性を改善するために、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリエステルフィルムに孔径が数μm〜数十μmの貫通または未貫通の微細な孔を多数形成させる方法が提案されている。しかし、この方法によって得られたフィルムは強度に問題があるほか、フィルムの後加工が必要となる等の問題点がある。
【0005】
また、ポリエステル組成物中に微粒子を存在させることにより、フィルム表面に凹凸を形成する方法が提案されている。この方法は、ポリエステル重合時に使用する触媒、着色防止剤等の一部または全部を重合反応過程で析出させて微粒子として存在させる方法と、ポリエステル重合時の任意の段階で外部より無機微粒子を添加する方法に大別される。
【0006】
しかし、ポリエステル重合反応過程に微粒子を析出させる方法は、粒子量や粒子径のコントロールが困難であり、粗大粒子の生成が避け難い等の問題がある。
【0007】
特許文献2、3等には、外部より無機粒子を添加する方法として、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化ケイ素−酸化マグネシウム化合物、シリカ−アルミナ化合物、アルミナ化合物、ガラス粉末、炭酸カルシウム、クレイ、雲母、タルク等をポリエステル中に添加する方法が提案されている。用途に応じて、平均粒子径が0.001〜10μmのものが使い分けられているが、無機微粒子の凝集による粗大粒子の生成が避け難いという問題がある。
【0008】
無機粒子の凝集を抑制するために、特許文献4には、特定の化学構造を有するリン化合物をエステル化物に添加する方法が提案されている。しかし、文献記載のリン化合物はコストが高いため、生産においては不利なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−252718号公報
【特許文献2】特公昭59−8216号公報
【特許文献3】特開昭52−3645号公報
【特許文献4】特開2007-224238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ポリエステル中のシリカの分散性を向上させ、粗大粒子の生成を抑制することにより、生産性に優れ、空気抜け性の良好なポリエステルフィルムを作製しうるポリエステル組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題を解決するために検討を行った結果、ポリエステル低重合体を重縮合反応する際に、触媒等の添加剤、及び特定のシリカ/エチレングリコール分散液を特定の方法にて添加することでポリエステル組成物中でのシリカの粗大粒子化を抑えることができることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステル組成物を、エステル化反応及び重縮合反応により製造するに際し、エステル化反応終了後のポリエステル低重合体に、触媒、リン酸エステル及びアルカリ土類金属化合物を添加した後、攪拌を0.5〜2時間行い、次いで、平均粒子径が1〜10μmであり、最大粒子径が20μm未満であるシリカを2〜20質量%含有するシリカ/エチレングリコール分散液を、ポリエステル組成物に対してシリカが0.5〜3質量%含有するように、ポリエステル低重合体の温度が240〜300℃の状態で添加し、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレート系ポリエステル組成物の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリカの粗大粒子を生成することなく、分散性良好な状態でシリカをポリエステル組成物中に含有させることができる。したがって、本発明によって得られるポリエステル組成物中のシリカの平均粒子径を、組成物への添加前の平均粒子径とほぼ同等とすることができ、また、最大粒子径を20μm未満とすることができため、成形の際には濾過圧力の上昇を抑えることができ、これから得られるポリエステルフィルムは生産性に優れ、空気抜け性の良好なポリエステルフィルムとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明でいうポリエステル組成物とは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエチレンテレフタレート系ポリエステル組成物である。このジカルボン酸成分の一部を他のジカルボン酸成分に置き換えてもよく、またグリコール成分の一部を他のグリコール成分に置き換えてもよい。
【0015】
他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムイソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸等のオキシカルボン酸類またはそのエステル等が挙げられる。
【0016】
また、他のグリコール成分としては、炭素数2〜10のアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(β−オキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールAのビスグリコールエーテル、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0017】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲で、トリメリット酸、ピロメリット酸等のポリカルボン酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオール、フェニル酢酸等の重合停止剤を用いても良い。
【0018】
本発明においては、まず、上記の原料を用いてエステル化反応を行い、ポリエステル低重合体を取得する。エステル化反応は、エステル化反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールを、モル比がテレフタル酸:エチレングリコール=1.4〜1.8となるよう仕込み、常圧下250〜260℃で、溶融状態で攪拌することにより行うことができる。
【0019】
本発明で用いるポリエステル低重合体の平均重合度は特に規定するものではないが、好ましくは2.0〜10.0、より好ましくは4.0〜8.0である。
【0020】
本発明においては、上記したポリエステル低重合体に、以下に説明する触媒、リン酸エステル及びアルカリ土類金属化合物を添加する。
【0021】
本発明で用いる触媒は、重縮合反応を行うために添加するものであり、具体的には、一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガン、コバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o−スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物等を挙げることができる。
【0022】
触媒の添加量は特に規定するものではないが、重合性、熱安定性等の観点から、好ましくは、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して0.5×10−4〜5.0×10−4モル、さらに好ましくは、2.0×10−4〜4.0×10−4モルである。
【0023】
本発明で用いるリン酸エステルは、溶融時の熱分解抑制、色調改良のための熱安定剤として添加するものであり、具体的には、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート等が挙げられる。
【0024】
リン酸エステルの添加量は特に規定するものではないが、色調改良効果、熱安定性等の観点から、好ましくは、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して0.5×10−4〜30×10−4モル、さらに好ましくは、1.0×10−4〜20×10−4モルである。
【0025】
本発明で用いるアルカリ土類金属化合物は、得られるポリエステル組成物を製膜した際の巻き取り性を向上させる点からピニング剤として添加するものであり、具体的には、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、プロピン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸カルシウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の添加量は特に規定するものではないが、重合性、熱安定性等の観点から、好ましくは、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して2.0×10−4〜50×10−4モル、さらに好ましくは4.0×10−4〜40×10−4モルである。
【0026】
本発明においては、エステル化反応終了後のポリエステル低重合体に上記した触媒、リン酸エステル及びアルカリ土類金属化合物を添加し、その後0.5〜2時間の攪拌を行うことが必要である。好ましくは、0.7〜1.8時間、さらに好ましくは、0.8〜1.5時間である。撹拌時間が0.5時間未満であると、次工程で添加するシリカの分散性が悪化し、凝集による粗大粒子が生じやすいため採用できない。これは、撹拌を始めた段階では添加剤が密集しており、シリカを引きつける分子間力が強くなるため、凝集の核となり易くなること等が原因と考えられる。一方、2時間を超えると、ポリエステル低重合体の熱劣化によって、色調の悪化や副生成物が多く発生し、また、生産効率が低下するため採用できない。ここでの攪拌の方法としては何ら限定するものではないが、パドル型、アンカー型、ダブルヘリカル型等の攪拌翼にて、任意の攪拌数にて行うことができる。
【0027】
また、攪拌時のポリエステル低重合体の温度は特に規定するものではないが、ポリエステル低重合体の熱劣化による色調悪化や副生成物の発生を抑制するため、300℃以下とすることが好ましく、より好ましくは280℃以下である。
【0028】
上記した触媒、リン酸エステル及びアルカリ土類金属化合物の添加順については特に規定するものではなく、任意の添加順とすることができる。
【0029】
本発明においては、上記した所定時間の攪拌が終了した後、以下に説明するシリカ/エチレングリコール分散液を添加することが必要である。先にシリカ/エチレングリコール分散液を添加し、所定時間の攪拌を行った後に触媒などの添加剤を添加すると、添加剤が密集した状態で、シリカを含有するポリエステル低重合物に添加されることとなり、シリカの凝集の核となり易くなるため、触媒などを添加し攪拌後にシリカ/エチレングリコール分散液を添加することが必要となる。
【0030】
本発明において用いるシリカ/エチレングリコール分散液は、シリカが2〜20質量%の濃度でエチレングリコールに分散しているものであり、好ましくは5〜15質量%、さらに好ましくは8〜12質量%のシリカ濃度である。シリカの濃度が2質量%未満であると、分散液を多量に添加する必要が生じ、ポリエステル低重合体が温度低下により固化しやすく、再融解に時間を要し、また、エチレングリコールの使用量が増加し、生産性が低下するため採用できない。一方、20質量%を超えると、分散液中にてシリカの凝集による粗大粒子が生じやすいため採用できない。
【0031】
本発明において用いるシリカ/エチレングリコール分散液に存在するシリカの平均粒子径は、1〜10μmとすることが必要であり、3〜8μmとすることが好ましく、4〜6μmとすることがさらに好ましい。平均粒子径が1μm未満であると、フィルムとした際に表面の凹凸が小さく、空気抜け性が不十分となるため採用できない。一方、10μmを超えると、製膜時に溶融押出機のフィルター目詰まりによって濾過圧力が上昇したり、フィルムの欠点となったりするため採用できない。
【0032】
また、シリカ/エチレングリコール分散液に存在するシリカの最大粒子径は、20μm未満とすることが必要である。粒子径が20μm以上のものが存在すると、製膜時に溶融押出機のフィルター目詰まりによって濾過圧力が上昇したり、フィルムの欠点となったりするため採用できない。
【0033】
なお、本発明でいうシリカの平均粒子径及び最大粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD−2000)を用いて測定して得られた値である。シリカをエチレングリコールに2質量%となるよう添加したスラリーを作成し、攪拌及びソノレータ超音波分散処理を2時間行った分散液を、上記測定装置にて回折/散乱光強度が40〜60%の範囲内となるようエチレングリコールにて希釈調整し、n=4にて測定したものの平均値を取った。
【0034】
本発明に用いるシリカについては特に規定するものではないが、二次粒子同士の結合が強いために数nm程度の一次粒子がほぼ見られず、粒度分布がシャープである、湿式法によるゲルタイプシリカが好ましい。具体的には、東ソー・シリカ株式会社製のAZ−400、CX−400や、富士シリシア化学株式会社製のSY−350、SY−430が好適に使用できるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明で用いるシリカ/エチレングリコール分散液は、製造方法に関して特に限定するものではないが、あらかじめエチレングリコールを攪拌槽に満たしておき、エチレングリコールを攪拌しながら粉体状態のシリカを所定濃度となるよう添加し、十分な時間攪拌させた後、ソノレータ、ホモジナイザー等の超音波分散処理を行うことにより得られる。
【0036】
本発明においてシリカ/エチレングリコール分散液の添加量は、得られるポリエステル組成物中のシリカの含有量が0.5〜3質量%となる量を添加することが必要であり、1〜2.5質量%とすることが好ましく、1.5〜2.0質量%とすることがさらに好ましい。0.5質量%未満であると、フィルムとした際に表面の凹凸が少なく、空気抜け性が不十分となることから、一方、3質量%を超えると、シリカの分散性が悪化し凝集による粗大粒子が生じやすいことから、ともに採用できない。
【0037】
また本発明においては、上記したシリカ/エチレングリコール分散液をポリエステル低重合体に添加する際のポリエステル低重合体の温度を240〜300℃としておくことが必要であり、好ましくは260〜280℃であり、さらに好ましくは265〜275℃である。240℃未満であると、シリカ/エチレングリコール分散液を添加した際に温度低下によりポリエステル低重合体の固化が生じやすく、再融解に時間を要し、生産性が低下することから、一方、300℃を超えると、ポリエステル低重合体とシリカ/エチレングリコール分散液との温度差により、シリカの凝集が生じやすくなることから、ともに採用できない。
【0038】
本発明においては、シリカ/エチレングリコール分散液をポリエステル低重合体に添加した後、ポリエステル低重合体の重縮合反応を行い、ポリエステル組成物とする。重縮合反応に関しては、何ら限定するものではないが、一例として、重縮合触媒をポリエステル低重合体に添加し、270〜290℃で溶融攪拌しながら0.2〜1.3hPa程度まで減圧することにより行うことができる。
【0039】
本発明においてポリエステル組成物を製造するに際して、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料、顔料のような色調改良剤、可塑剤、難燃剤等を一種類または二種類以上添加してもよい。
【0040】
本発明の製造方法によって得られるポリエステル組成物は、その極限粘度が、0.5以上とすることが好ましい。極限粘度が0.5未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るため好ましくない。一方、極限粘度が高すぎても加工操業性が悪化するため、実用上1.5以下とすることが好ましい。ポリエステル組成物の極限粘度を0.5以上とするためには、上記の重縮合反応において触媒量、重縮合反応温度、重縮合反応時間等を、任意の極限粘度となるよう、所定のものとすればよい。
【0041】
本発明の製造方法によって得られるポリエステル組成物は、組成物中に存在するシリカの平均粒子径が、添加するシリカの平均粒子径とほぼ等しく、かつ最大粒子径も20μm未満に抑えられており、シリカの凝集による粗大粒子が生じていないものである。したがって、ポリエステル組成物からフィルムなどに成形する際には濾過圧力の上昇を抑えることができる。
【0042】
また本発明の製造方法によって得られるポリエステル組成物は、特にフィルムとして好適に用いられるものであり、得られるフィルムは表面粗度に優れたものとなり、空気抜け性が良好なフィルムとなる。その製膜法は限定されるものではないが、一例としては、ポリエステル組成物のペレットを常法により乾燥し、溶融押出機に供給して未延伸フィルムとし、これを縦及び/または横方向へ延伸して加熱処理し、フィルムとする方法が挙げられる。フィルムの形態としては、単層としてもよく、異種複層としてもよい。また、本発明の製造方法によって得られるポリエステル組成物は、単体で用いてもよく、無機微粒子を含有しない他のポリエステル組成物とブレンドして用いてもよい。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中で示した各測定値は以下の方法により求めたものである。
【0044】
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
【0045】
(b)使用するシリカの平均粒子径及び最大粒子径
上述した方法により測定した。
【0046】
(c)ポリエステル組成物中のシリカの平均粒子径及び最大粒子径
フェノールと四塩化エタンとの当量混合物を溶媒としてポリエステル組成物を溶解させ、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD−2000)を用いて測定した。
【0047】
(d)ポリエステル組成物中のシリカ含有量
ポリエステル組成物を円盤状に溶融成形し、リガク社製のX線スペクトロメーター3270を用いて測定した。
【0048】
(e)フィルターの濾過圧力上昇
平均目開き20μmの金網製フィルターを装着した濾過圧力試験機を用いて、温度290℃、濾過速度30g/minで濾過したときの濾過圧力を測定し、単位時間当たりに上昇した圧力(MPa/h)で評価した。
【0049】
(f)フィルムの三次元表面粗さ
フィルムの空気抜け性の指標として、フィルムの中心面表面粗さSRaを測定した。この値が大きいほど空気抜け性に優れることとなる。小坂研究所製表面粗さ測定器SE−3AK型を用いて、JIS B−0601法に準じて測定した。なお、触針径2μmR、触針圧10mg、高さ倍率50000倍とした。
【0050】
実施例1
ポリエステル低重合体の存在するエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコールのスラリー(モル比がテレフタル酸:エチレングリコール=1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、滞留時間8時間としてエステル化反応率95%のポリエステル低重合体を連続的に得た。このポリエステル低重合体を、270℃に加熱した2tonスケールの重縮合反応缶に1.8ton投入し、容器内を窒素で置換した。ポリエステル低重合体の溶融を確認した後、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して2.0×10−4モル、熱安定剤としてトリメチルホスフェートをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1×10−4モル、ピニング剤として酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して4×10−4モルとなるよう添加した後、ポリエステル低重合体の温度が270℃の状態にて1時間撹拌した。
【0051】
次いで、平均粒子径が4.0μ、最大粒子径が12.5μmであるシリカを10質量%となるようにエチレングリコールへ投入して均一に分散させたシリカ/エチレングリコール分散液を作液し、ポリエステル組成物中のシリカの含有量が2質量%となるように270℃のポリエステル低重合体に添加した。
【0052】
続いて、ポリエステル低重合体の溶融を確認した後、圧力を徐々に減じて1時間後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら重縮合反応を2時間行った後、常法により払い出してペレット化し、極限粘度が0.68のポリエステル組成物を得た。
【0053】
このペレットを常法により乾燥し、無機微粒子を含有しない極限粘度0.59のポリエチレンテレフタレートペレットに10質量%ブレンドした後、290℃で溶融押出し、未延伸フィルムを得た。さらに、この未延伸フィルムを90℃で縦及び横方向へそれぞれ3倍に延伸して220℃で10秒間加熱処理し、厚さ50μmのフィルムを得た。
【0054】
実施例2〜3、比較例1〜2
使用するシリカの平均一次粒子径及び最大一次粒子径を表1に示す値のものに変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0055】
実施例4〜5、比較例3〜4
ポリエステル組成物中のシリカの含有量を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0056】
実施例6〜7、比較例5〜6
シリカ/エチレングリコール分散液を添加する際のポリエステル低重合体温度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0057】
実施例8〜9、比較例7〜8
添加剤を添加後、シリカ/エチレングリコール分散液を添加するまでの攪拌時間を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0058】
実施例10〜11、比較例9〜10
シリカ/エチレングリコール分散液の濃度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0059】
比較例11
2tonスケールの重縮合反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールのポリエステル低重合体を1.8ton投入し、容器内を窒素で置換した後、270℃で加熱した。ポリエステル低重合体の溶融を確認した後、平均粒子径が4.0μ、最大粒子径が12.5μmであるシリカを10質量%となるようにエチレングリコールへ投入して均一に分散させたシリカ/エチレングリコール分散液を作液し、ポリエステル組成物中のシリカの含有量が2質量%となるように270℃のポリエステル低重合体に添加し、ポリエステル低重合体の温度が270℃の状態にて1時間撹拌した。
【0060】
次いで、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して2.0×10−4モル、熱安定剤としてトリメチルホスフェートをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1×10−4モル、ピニング剤として酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して4×10−4モルとなるよう添加した。すなわち、シリカ/エチレングリコール分散液と触媒などの添加剤の添加順を逆にした以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0061】
実施例1〜11、比較例1〜11により得られた結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例の製造方法によって得られたポリエステル組成物は、ポリエステル組成物中のシリカの平均粒子径がスラリー中のシリカの平均粒子径と等しく、かつ最大粒子径が20μm未満であり、シリカの凝集による粗大粒子が生じておらず、濾過圧力の上昇が小さかった。また、得られたポリエステル組成物を用いて製膜したフィルムは表面粗度に優れたものであった。
【0064】
一方、比較例1においてはシリカの平均粒子径が小さく、比較例3においてはシリカの含有量が少なかったため、得られたポリエステル組成物を用いて製膜したフィルムは表面粗度に劣るものであった。比較例2においてはシリカの平均粒子径が大きかったため、濾過圧力の上昇が大きかった。比較例4においてはシリカの含有量が多かったため、比較例7においては添加剤を添加後、シリカ/エチレングリコール分散液を添加するまでの攪拌時間が短かったため、比較例10においてはシリカ/エチレングリコール分散液の濃度が高かったため、比較例11においては、添加剤とシリカ/エチレングリコール分散液の添加順序を逆としたため、シリカの分散性が悪化し凝集による粗大粒子が生じ、濾過圧力の上昇が大きかった。比較例5においては攪拌時のポリエステル低重合体温度が低かったため、比較例9においてはシリカ/エチレングリコール分散液の濃度が低かったため、シリカ/エチレングリコール分散液を添加した際に内温低下によってポリエステルオリゴマーが固化し、再溶融に時間を要し、生産効率上好ましくないものであった。比較例6においてはシリカ/エチレングリコール分散液を添加する際のポリエステル低重合体温度が高かったため、ポリエステル低重合体とシリカ/エチレングリコール分散液との温度差によりシリカの凝集が生じ、濾過圧力の上昇が大きかった。比較例8においては添加剤を添加してからシリカ/エチレングリコール分散液を添加するまでの攪拌時間が長かったため、攪拌中に熱劣化物等の副生成物が多く生じ、濾過圧力の上昇が大きく、また、生産効率上好ましくないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステル組成物を、エステル化反応及び重縮合反応により製造するに際し、エステル化反応終了後のポリエステル低重合体に、触媒、リン酸エステル及びアルカリ土類金属化合物を添加した後、攪拌を0.5〜2時間行い、次いで、平均粒子径が1〜10μmであり、最大粒子径が20μm未満であるシリカを2〜20質量%含有するシリカ/エチレングリコール分散液を、ポリエステル組成物に対してシリカが0.5〜3質量%含有するように、ポリエステル低重合体の温度が240〜300℃の状態で添加し、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレート系ポリエステル組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−174213(P2010−174213A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21461(P2009−21461)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】