説明

ポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品

【課題】
繊維表面において高い導電性と小さな導電性斑という特性を具有し、さらには柔軟性に優れたポリエステル繊維と、その繊維を用いてなる繊維ブラシなどのポリエステル繊維製品を提供する。
【解決手段】
メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を主たる共重合成分としてランダムに共重合した共重合芳香族ポリエステルおよびカーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物が、導電層として繊維表面の少なくとも一部を形成しているポリエステル繊維において、前記共重合芳香族ポリエステル中で、ジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上で、かつ芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいことを特徴とするポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品に関するものである。より詳しくは、本発明は、繊維長手方向の導電性斑が極めて小さく、高い導電性を具備したポリエステル繊維とそのポリエステル繊維を用いたブラシなどのポリエステル繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維の高機能化においては様々な機能性付与が検討され、導電性もその1つとして重要視されている。この導電性を有する繊維(以後、導電性繊維ということがある。)は、例えば、クリーンルーム用の衣料用繊維やカーペットへの混繊用繊維として用いられている他、近年では、各種装置内に組み込まれる部品用に使用される繊維として、静電気を除去する目的や装置内で電荷を付与する目的等で使用されている。特にIT分野においては、電子情報機器、特に携帯電話などの無線端末の普及により、日常的な環境においても電磁波の暴露量が増加し、健康への影響が懸念されていることから、導電性繊維は電磁波遮蔽素材としても利用されている。このように導電性繊維は、衣料用途だけでなく各種産業用などの幅広い分野において重要な繊維素材として用途が広がり、また需要が高まると共に、更なる技術革新が進められている。
【0003】
この導電性繊維の技術開発については多くの繊維形成材料での検討が行われている。例えば、ポリオレフィンやポリアミドあるいはポリエステルについて数多くの検討がなされており、中でも特に耐熱性に優れたポリエステルについて精力的に検討がなされている。しかしながら、比較的容易に入手可能な導電剤であるカーボンブラック(以後、CBと略記することがある。)や白色金属酸化物粒子をポリエステルに適用した導電性繊維については、これら導電剤の多量添加時に、微分散困難性(いわゆる凝集)によるポリエステルの大幅な粘度上昇や生成凝集物による製糸性不良が起こり易い。そのため、これらの課題を解決する試みが多数なされている
例えば、ベースポリマーである芳香族ポリエステルに脂肪族ポリエステルが溶融混合されてなる混合ポリマーやブロックコポリマーにCBを添加してなる導電性繊維の技術が開示されている(例えば、特許文献1あるいは2参照。)。これら技術においては、脂肪族ポリエステルを混練することによって柔軟性あるいはストレッチ性を付与することを目的としており、確かに導電性に優れる繊維が得られるものの、脂肪族ポリエステル由来の物理物性の劣性(低強度や脆さ)や脂肪族ポリエステル界面での耐摩耗性の低さ(界面剥離や削れ)が現れやすいことから、防塵衣など強度や耐摩耗性を必要とする用途、あるいは電子機器など極度に削れカスを嫌う用途においては適用が困難であった。
【0004】
また、繊維製品としての外観を損ねないために導電剤として金属酸化物を用いた技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。該技術においては、白色系の導電剤を用いることによって、カーボンブラックなどの黒色系導電剤を適用する場合と比較して、確かに外観を損ねない繊維を形成しうるものの、30日の長期に渡り経時的に導電性が変化するため導電安定性に乏しく、また本質的に金属酸化物からなる導電剤はカーボンブラックなど炭素(グラファイト)系の導電剤と比較して導電性が劣ることから、高濃度で繊維中に導電剤を含有せしめる必要があるものの、同程度の重量%濃度のカーボンブラックを含有させた繊維と比較して導電性は劣り、また過度に添加した導電剤は、ベースの熱可塑性共重合ポリエステルとの親和性が低いために凝集しやすく、前述のように経時的な導電性の変化を起こすほか、凝集した粒子が繊維表面に存在し、接触摩耗によって該凝集粒子が脱落しやすいあるいは白色導電剤自体の高い硬度によって接触した相手を傷つけてしまう場合があることから、導電性繊維としては用途が限られるものであった。
【0005】
あるいは共重合成分を導入してポリエステルを改質し、導電性粒子の混入量増加や導電性粒子含有時の製糸性向上を図った技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。該技術においては、結晶化速度の大きいポリブチレンテレフタレート(以後、PBTと略記することがある)に共重合成分を導入、非晶化させることでPBT自体の結晶性を制御(低下)して導電性粒子を含有せしめた際の混和性を向上させることにより、共重合成分のないPBT対比で導電剤を高濃度添加した場合に確かに紡糸性が優れるものの、イソフタル酸あるいはアジピン酸を共重合したPBTのCBとの本質的な親和性は、何も共重合していないPBTホモポリマーと大きく変わらないため、CBの分散状態は大差なく、繊維長手方向の導電性斑としては殆ど改善が見られないものであった。
【0006】
一方で本発明者らは、導電剤を多量に含有しても製糸性が良好で導電性に優れた、ポリエステル繊維の技術を提案している(特許文献5参照。)。この提案においては、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以後、3GT系ポリマーと略記することがある)を、導電剤を含有するベースポリマーとしたものであり、従来汎用的に用いられてきたエチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以後、PET系ポリマーと略記することがある。)やブチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以後、PBT系ポリマーと略記することがある。)と比較して、導電剤を多量に含有させた際の製糸性が優れ、また得られた繊維の導電性(導電性が高いことあるいは繊維長手方向の導電性斑が小さいことなど。)も優れている。しかしながらこの提案によっても、導電性繊維の更なる高度化という観点で、高導電性や繊維長手方向の均質な導電性、さらに優れた繊維物性の全てを満足する繊維を得る場合に、導電剤を高濃度で含有したポリマーが大変形を伴うという繊維製法によって繊維を形成せしめると、やはり製糸性不良が起こったり繊維物性低下が見られたりすることがあるため、特に繊維長手方向の均質な導電性という観点でより付加価値の高い導電性繊維を形成するために、導電剤との親和性を考慮した、更に優れたポリマー設計が望まれていた。
【特許文献1】特開昭51−90345号公報(特許請求の範囲、実施例第1表)
【特許文献2】特開昭56−85423号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭58−109622号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−44071号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献5】特開2007−191843号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消、あるいは不十分であった性能をより高め、繊維表面での高い導電性および小さな導電性斑という特性と優れた繊維物性を有するポリエステル繊維、およびそのポリエステル繊維を用いてなるポリエステル繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の構成を採用するものである。
【0009】
(1)メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を主たる共重合成分としてランダムに共重合した共重合芳香族ポリエステルおよびカーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物が、導電層として繊維表面の少なくとも一部を形成しているポリエステル繊維において、前記共重合芳香族ポリエステル中で、ジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上で、かつ芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいことを特徴とするポリエステル繊維。
【0010】
(2)脂肪族ジカルボン酸のメチレン基の鎖長が8以上である前記(1)に記載のポリエステル繊維。
【0011】
(3)平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が0.1以下である前記(1)または(2)に記載のポリエステル繊維。
【0012】
(4)平均抵抗率Pが1.0×108.0[Ω/cm]以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0013】
(5)繊維表面が全て、ポリエステル樹脂組成物で覆われてなる前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0014】
(6)単繊維繊度が6dtex以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0015】
(7)共重合芳香族ポリエステルの固有粘度(IV)が0.85〜2.00の範囲にある前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0016】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品。
【0017】
(9)前記の繊維製品が繊維ブラシである前記(8)に記載のポリエステル繊維製品。
【0018】
(10)前記の繊維ブラシが電子写真装置用のブラシである、前記(9)に記載のポリエステル繊維製品。
【0019】
(11) メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を主たる共重合成分としてランダムに共重合した共重合芳香族ポリエステルおよびカーボンブラックを含有せしめたポリエステル樹脂組成物を、導電層として、繊維表面の少なくとも一部に形成せしめる、ポリエステル繊維の製造方法において、下記(ア)〜(エ)の条件を満たす前記ポリエステル樹脂組成物を用いることを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
【0020】
(ア)ジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上。
【0021】
(イ)芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きい。
【0022】
(ウ)ポリエステル樹脂組成物を構成する共重合芳香族ポリエステルの固有粘度(IV)が1.00〜2.50。
【0023】
(エ)含有せしめたカーボンブラックの体積平均粒径Dvが前記ポリエステル樹脂組成物中で1.50μm以下。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステル樹脂組成物を構成する芳香族ポリエステルとして、メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が主たる共重合成分としてランダムに共重合され、またジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上で、かつ芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいという特徴を有する共重合芳香族ポリエステルを用いていることにより、従来のポリエステル、例えば、前述のPET系ポリマーはもとより、3GT系ポリマーやメチレン鎖長の短い成分を共重合した芳香族ポリマーを樹脂組成物の構成ポリマーとする場合と比較して、導電剤であるカーボンブラック(CB)との親和性が更に高められている。従って繊維中のポリエステル樹脂組成物(換言すると、導電層)にCBが存在する場合、CBが低濃度である場合はもとより、CB粒子間距離が小さくなって凝集しやすいとされる30重量%以上の高濃度であってもCBの粒子の均一な微分散化を達成しうるため、導電層としての繊維長手方向の導電性斑を極めて小さくしうるし、またCB粒子凝集に由来する繊維欠陥が低減されるため、破断強度などの繊維物性も飛躍的に向上する。すなわち、カーボンブラック高濃度化での高導電性、繊維長手方向の導電均一性、および繊維物性の全てにおいて、従来に比して優れた性能を有するポリエステル繊維を得ることが可能となった。また加えて、樹脂組成物を構成する樹脂がより高疎水性の長鎖メチレン部分を有する共重合芳香族ポリエステルであることから、吸水性あるいは吸湿性が殆どなく、結果として導電性の湿度依存性が極めて小さいため、高湿度下から低湿度に至るあらゆる導電性が非常に安定する。
【0025】
これらのことから、本発明のポリエステル繊維は、防塵衣などの衣料用途、建造物の壁材、屋内外のカーペットおよび車両内装材等の非衣料用途分野で静電気を逃がす必要のある素材として好適に用いられる。また、本発明のポリエステル繊維は、高い導電性および環境変化に対する導電性の安定性が必要とされる用途、特に電子写真装置等に用いられる各種繊維ブラシなどに好適に採用できる。
【0026】
また本発明のポリエステル繊維は、導電剤(CB)を含有した共重合芳香族ポリエステルが繊維表面の少なくとも一部を形成している構成であることから、導電層としての繊維長手方向の導電性の斑が非常に小さく均一な導電特性を示すが、より好ましいとする構成として繊維表面が全てポリエステル樹脂組成物で覆われてなる、すなわち導電層で全て覆われてなる場合には、繊維表面全体で導電性の斑が小さく、均一な導電性能を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のポリエステル繊維における繊維とは、細く長い形状のものを指し、その長さは一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であっても良い。短繊維の場合は、用途に応じて所望の長さにすればよく、紡績工程あるいは後述するような電気植毛加工などに用いられることを考慮すると、長さは0.05〜150mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜120mmである。また、特に電気植毛加工に用いる場合は、長さは、より好ましくは0.1〜10mmであり、特に好ましくは0.2〜5mmである。
【0028】
また、本発明において、繊維の太さ、すなわち単繊維繊度に関しては、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で、単繊維繊度は6.0dtex(デシテックス)以下であることが好ましい。この単繊維繊度の範囲では、例えば、後述する電子写真装置に組み込まれて用いる場合には、トナー除去性能やトナー担持性能あるいは帯電性能や除電性能が優れる。また衣料用途、特に衣服の裏地や防塵衣、あるいは、衣料用途以外の車両内装材、建造物の壁材などの内装材およびカーペットや床材などの敷物のような非衣料用途に用いられる場合にも、単繊異繊度は上記の範囲であることが好ましい。そしてより柔軟性が高く、また上記のトナーとの接触頻度が高くなり、トナー除去あるいはトナー担持性能が優れてかつ繊維の破断強力など物理物性も維持しうるという点で、0.5〜4.5dtexの範囲の単糸繊度であることが特に好ましい。ここで単繊維繊度は、後述の実施例におけるA.項に記載の方法で求める。
【0029】
また、繊維断面、すなわち繊維軸方向に垂直な繊維横断面の形状については、用途に応じて所望の形状とすることが可能である。繊維の断面形状が丸形の場合には、均一な繊維物性および繊維断面内における等方的な導電性を有するため、後述する繊維ブラシ用に用いられる。そのブラシが電子写真装置に組み込まれる場合に、前述のトナー除去性能やトナー担持性能あるいは帯電性能や除電性能などのような好ましい特性を発揮し得る。また、断面形状は、偏平形、多角形、多葉形、中空形状および不定形などの異形断面とすることも可能である。ブラシに用いる場合には、繊維の曲がる方向に異方性を持たせて剛性を高めることができる。また、電子写真装置においては、トナーとの良好な接触性を得てより優れた清掃性能を発現させることが可能となる。そのため、繊維の断面形状は、偏平形、多角形および多葉形が好ましく、特に、扁平型、3角断面、4角断面、3葉断面、4葉断面、6葉断面および8葉断面がより好ましい態様である。断面形状については、後述の実施例のM.項の方法で観察して判断することができる。
【0030】
本発明のポリエステル繊維においては、メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が主たる共重合成分としてランダムに共重合され、またジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上で、かつ芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいという特徴を有する共重合芳香族ポリエステルとカーボンブラック(CB)とからなるポリエステル樹脂組成物(以後、カーボンブラックを含有する前記共重合芳香族ポリエステルを、単にポリエステル樹脂組成物と略記することがある)が、繊維表面の少なくとも一部を形成している。ポリエステル繊維自体の導電性は、このポリエステル樹脂組成物の導電性によって決まるため、導電剤であるCBの添加量や用いるCBの性状に応じた前記共重合芳香族ポリエステル(以後、LDAポリエステルと略記することがある)の分子設計によって導電性能を自由に制御することができることから、大変優れた導電性を有するポリエステル繊維となる。
【0031】
そして本発明のポリエステル繊維は、繊維表面が全て、ポリエステル樹脂組成物で覆われてなることが好ましい。導電層であるポリエステル樹脂組成物が繊維表面を全て占めることにより、繊維の長手方向はもとより、繊維軸方向に垂直な繊維横断面の繊維外周においても導電性斑が殆どなく、極めて安定した導電性を発現する。そのため、本発明のポリエステル繊維は用途展開の上で非常に優れることとなる。ここで本発明のポリエステル繊維の繊維表面が全て、ポリエステル樹脂組成物で覆われてなるという、好ましく、また特徴ある構成については、ポリエステル繊維は実質的にポリエステル樹脂組成物のみからなるものであっても良い。ここで、実質的にポリエステル樹脂組成物のみからなるとは、本発明の目的を損ねるものを含有しない、すなわち前述したポリエステル樹脂組成物が繊維表面を全て占める際に高い導電性を持ちかつ斑のない優れた導電性を達成するために、斑のない優れた導電性を損ねるものを含まない、という意味である。斑のない優れた導電性は、後述の実施例のC.項で測定される平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)の値で評価され、比Rが0.1以下であることが好ましい。そして後述するような様々な用途で安定した導電性が確保されることが好ましいことから、比Rはより好ましくは0.08以下である。比Rは小さい値をとるほど、繊維長手方向の導電性の斑が小さいということになり、これは安定かつ優れた導電性を有することを意味する。前述の導電性繊維の平均抵抗率が1.0×10[Ω/cm]以下である場合には、比Rは0.07以下であることが好ましい。また、比Rは前述のとおり小さい値をとるほど好ましく、0.001までの値を通常とり得るし、全く繊維長手方向の導電性の斑が無い場合は、0.001以下の値もとり得る。
【0032】
また、本発明のポリエステル繊維の構成としては、前述の好ましい態様である繊維表面が全て、CBを含有するLDAポリエステル、すなわちポリエステル樹脂組成物で覆われてなるのであれば、該ポリエステル樹脂組成物と他の1種または他の複数種のポリマーとからなる複合繊維であっても良い。
【0033】
本発明のポリエステル繊維中のポリエステル樹脂組成物以外の他の1種または複数種のポリマー(以後、他のポリマー成分と略記することがある。)は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面中で1箇所配置されていても良く、あるいは2箇所以上の複数箇所に配置されていても良い。以後、1箇所であれば「芯」と称し、2箇所以上の複数箇所であれば「島」と称することがある。他のポリマー成分が2箇所以上の複数箇所に配置されている場合には、高々100箇所配置されていることが好ましい。他のポリマー成分が2箇所以上の複数箇所に配置されている場合には、曲げ剛性や引張強度あるいは引張弾性率などの繊維物性が均質になるという点で、他のポリマー成分は繊維軸方向に垂直な繊維横断面において繊維中心点に対して対称となるよう等しく配置されることが好ましい。本発明においては、製糸性に優れ、かつポリエステル樹脂組成物の補強成分として機能し得ることから、前述の他のポリマー成分を芯とし、ポリエステル樹脂組成物を鞘とする芯鞘型複合繊維の構成が特に好ましい態様である。
【0034】
ここで他のポリマー成分は、導電剤を含まないかあるいは本発明の目的を損ねない範囲において少量の導電剤を含有してもよい。例えば、他のポリマー成分は、本発明のポリエステル繊維の強度や伸度のような導電性以外の他の繊維物性を担う成分であっても、あるいは、他のポリマー成分自身が別の機能を担っても良く、あるいは機能性成分を含有することで別の機能を担わせたものであっても良い。
【0035】
また、この複合繊維において、他のポリマー成分の、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における芯あるいは島の形状としては、円あるいは楕円であっても、三角形や四角形あるいはそれ以上の多角形など、多種多様な形状であっても良い。三角形以上の多角形においては、通常、ポリマー自身の溶融時の挙動で角が丸みを帯びた形状となることがしばしばある。芯あるいは島が円形状であれば、前述の繊維横断面において、曲げに対して等方的な強度(剛性)を有するが、丸形状以外の形状、例えば、楕円や三角形においては、曲げの剛性が曲げる方向において異なるという挙動を示すことがある。特に後述するような、本発明のポリエステル繊維を、例えば、ブラシなどに用いる場合には、芯あるいは島を丸形状以外の三角形や四角形あるいはそれ以上の多角形の形状とすることにより、繊維自身の剛性を高く制御できるため、特に清掃ブラシとして非常に高性能なものとなり得る。
【0036】
本発明のポリエステル繊維は、様々な用途に用いられるための繊維物性、特に繊維の破断強度や引張初期弾性率が所望のレベルに設定可能で、また製糸性に優れかつ製造装置が簡便な設計となるという点でも、導電層(ポリエステル樹脂組成物)で繊維表面が全て覆われてなり、かつ他のポリマー成分を芯に配置した芯鞘複合繊維であることが好ましい。ここで、芯を形成するCBを含有するLDAポリエステル以外の他のポリマー成分は、1種であっても複数種のポリマーからなるものであっても良い。
【0037】
繊維軸方向に垂直な繊維横断面における(換言すると繊維中の)ポリエステル樹脂組成物)の面積割合は、目的とする用途に応じて適宜設定すればよいものの、好ましくは10%以上100%までの範囲で用いることができる。優れた導電性を保ちつつ狙いの繊維物性(例えば、強度、残留伸度および初期引張弾性率等)を達成し得るという点で、ポリエステル繊維中のポリエステル樹脂組成物の面積割合は、より好ましくは20%以上80%以下であり、最も好ましくは20%以上70%以下である。
【0038】
上記のポリエステル繊維中のポリエステル樹脂組成物の面積割合は、単繊維の繊維軸方向に垂直な繊維横断面におけるポリエステル樹脂組成物部分の、単繊維断面積に対する面積比率から求めることができ、下記の実施例のN.項の方法にて測定したものを採用する。
【0039】
本発明の繊維表面を全て占めるポリエステル樹脂組成物の構成成分である共重合芳香族ポリエステル(LDAポリエステル)は、(i)ジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上、(ii)メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が主たる共重合成分としてランダムに共重合されている、(iii)芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きい、という3つの特徴で規定される芳香族ポリエステルである。
【0040】
まず(i)については、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上のジオール成分としては、ブタンジオール(ブチレングリコールと称されることもある)、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオールなどの長いメチレン鎖部分を有するジオール成分が挙げられ、これらジオール成分を芳香族ポリエステルの主たる繰り返し構造単位中のジオール成分として用いることを意味する。そして主たるとは、該繰り返し構造単位部分が、重合原料としてポリマー鎖を構成する全ての繰り返し構造単位の中で50モル%以上、好ましくは60モル%以上、特に好ましくは65モル%以上の分率で共重合芳香族ポリエステル(LDAポリエステル)を構成することを意味する。ここで該繰り返し構造単位中の芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。そしてポリマーの性状として、多くの用途に展開が可能となるようなポリマーの結晶融解温度(以下、融点またはTmと略記することがある)が成形性の点で過度に高くもなく、また繊維特性を維持するために過度に低くもない芳香族ポリエステルとして、前記ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分の中から組み合わされるより好ましい繰り返し構造単位は、直線的な繰り返し構造を持つことが好ましいことから、ブタンジオールを用いたブチレンテレフタレート(またはテトラメチレンテレフタレートと称する)やブチレンナフタレート、ペンタンジオールを用いたペンタメチレンテレフタレートやペンタメチレンナフタレート、ヘキサンジオールを用いたヘキサメチレンテレフタレートやヘキサメチレンナフタレートであり、主たる繰り返し構造単位としてブチレンテレフタレートを用いたポリブチレンテレフタレート系ポリマー(PBT系ポリマー)、と主たる繰り返し構造単位としてヘキサメチレンテレフタレートを用いたポリヘキサメチレンテレフタレート系ポリマー(以下、6GT系ポリマーと略記することがある)が特に好ましく、強度の高い繊維がより容易に得られやすいという点で、PBT系ポリマーが最も好ましい。
【0041】
また(ii)については、まずメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸として、メチレン基の鎖長が短いものから順に、ピメリン酸(メチレン基の鎖長が5)、スベリン酸(同6)、アゼライン酸(同7)、セバシン酸(同8)、ウンデカン2酸(同9)、ドデカン2酸(同10)、トリデカン2酸(同11)、テトラデカン2酸(同12)、ペンタデカン2酸(同13)、ヘキサデカン2酸(同14)、ヘプタデカン2酸(同15)、オクタデカン2酸(同16)、ノナデカン2酸(同17)、エイコサン2酸(同18)等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸を共重合した芳香族ポリエステルは、該脂肪族ジカルボン酸のメチレン鎖長が長いほど、カーボンブラックとの親和性が優れ、また溶融紡糸における変形追従性も高められるため好ましいことから、メチレン基の鎖長が8以上(セバシン酸以上の長鎖)の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、メチレン基の鎖長が10以上(ドデカン2酸以上の長鎖)の脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。また「主たる共重合成分」であるというのは、これらメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が共重合成分として、1種類単独で共重合された場合にはモル%として最も多い共重合成分であることを意味し、また複数種用いられる場合には、これらメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸の合計モル%が共重合成分の中で最も多い共重合成分量であることを意味する。さらに「ランダムに共重合されている」というのは、本発明における前記共重合芳香族ポリエステルを調製するための通常の重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階で、前記メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を添加・共重合せしめることによって、芳香族ポリエステル中にランダムに、すなわちポリマー全体としては均等かつ均質に脂肪族ジカルボン酸を共重合させたものを意味し、前述の特許文献1あるいは特許文献2に示されるような、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとを溶融混合して得られる混合ポリマーもしくはブロックコポリマーとは本質的に異なる。該混合ポリマーもしくはブロックコポリマーは特許文献1または2に記載の通り、確かに目視では均質なポリマーとなりうるが、カーボンブラックを含有せしめたポリエステル樹脂組成物とした場合には、カーボンブラックの混練不均一が生じやすいことにより繊維形成時に繊維長手方向の大きな導電性斑を引き起こしやすく、また製糸性に関しても冷却時の構造形成速度の不均一や溶融伸長粘度の変形速度依存性の点で不均一が生じやすいことにより製糸性、特に溶融紡糸における曳糸性が劣る傾向にあるため、高い導電性が求められる導電繊維であればあるほど該混合ポリマーもしくはブロックコポリマーの適用は難しく、従ってランダムに共重合されていることが必要である。なおここでランダムに共重合されていることの確認は、下記の実施例のH.項の方法にて行う。
【0042】
そして(iii)については、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいこととは、共重合芳香族ポリエステルを構成するポリマー鎖のCBとの親和性の高さを意味するが、この計算は下記の実施例のQ.項の方法で算出する。ここで該メチレン基の平均鎖長は大きいほどCBとの親和性が高まり好ましいことから、メチレン基の平均鎖長は4.50以上であることが好ましく、5.00以上であることが特に好ましい。そして該ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が好ましいとされる大きさとするためには、メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸の全酸成分の中における共重合量は5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることが特に好ましく、15モル%以上であることが最も好ましい。また該共重合量の上限としては50モル%未満であるが、より高温での寸法安定性に優れるなど、本発明におけるポリエステル繊維となした場合に安定した繊維物性を有する点で、45モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることが特に好ましく、35モル%以下であることが最も好ましい。
【0043】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物を構成するLDAポリエステルには、LDAポリエステルの主たる繰り返し構造単位である芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分、および共重合成分であるメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸以外に、他の成分、例えば、他の芳香族エステルの繰り返し構造単位、他の脂肪族エステルの繰り返し構造単位、あるいはポリカーボネート、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタンおよびポリオルガノシロキサンなどの成分を、前記メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸よりも少ない共重合量、すなわち重合原料としてポリマー鎖を構成する全ての繰り返し構造単位の中で20モル%未満、好ましくは10モル%未満、より好ましくは5モル%未満、共重合しても良い。ただし特に好ましくはこれら他の成分が全く共重合されていないLDAポリエステルのホモポリマーである。
【0044】
従来、汎用的に用いられてきたポリエステル、例えば、PET系ポリマーやPBT系ポリマーの場合は、通常、特にカーボンブラック等の導電剤を10重量%以上の濃度で含有させた場合には溶融紡糸中の糸切れが多発して全く引き取りができないことから、これ迄、減粘剤添加やカーボン修飾による製糸性の向上など多くの検討がなされてきたが、大きく改善されるものではなかった。また、本発明者らがこれ迄提案した3GT系ポリマーの適用や前述の従来技術において挙げたような短い鎖長の脂肪族ジカルボン酸を共重合したPBT系ポリマーの適用においては、導電剤を20重量%以上の濃度で含有させた場合でも溶融粘度が過度に大きく変化せず、得られるポリエステル繊維の高導電性と溶融紡糸における製糸性や高次加工における工程通過性の大幅な改善を見出していた。しかしながら、それでも更に25重量%以上の濃度になると、繊維中のカーボンブラック凝集に由来すると推測される繊維物性の低下や、より細い繊維が得られにくいあるいは工程通過性の悪化などが頻度として高くなりやすいなどという現象が見受けられた。
【0045】
しかしながら、本発明のポリエステル繊維に適用される、メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が主たる共重合成分としてランダムに共重合され、またジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上で、かつ芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいという特徴を有する共重合芳香族ポリエステル(LDAポリエステル)から構成されかつカーボンブラック(CB)を含有するポリエステル樹脂組成物は、CB粒子の優れた均一微分散化を達成しうる。その結果、繊維長手方向の極めて小さな導電性斑(導電安定性)と破断強力が高いといった優れた繊維物性とを具有するポリエステル繊維が得られることを本発明者らは見出したのである。詳細は分かっていないものの、芳香族ポリエステルとしてジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上であることは、CB粒子が高濃度で添加される場合でも本質的に高度な変形追従性能(溶融紡糸における高い曳糸性)を有していて、また一方メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸成分を共重合することは、メチレン基の鎖長が4以下の脂肪族ジカルボン酸成分を共重合した場合と比較してCB粒子の均一微分散化という点で飛躍的な向上が見られることから、CBと本質的に高い親和性を有していて、該メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸成分を共重合した芳香族ポリエステルはCBと高い親和性が付与されていると推測される。
【0046】
本発明のポリエステル繊維においては、カーボンブラックを含有するLDAポリエステル(ポリエステル樹脂組成物)以外の成分(他のポリマー成分)が配置されて(含まれて)いる場合、他のポリマー成分は、主たる成分として繊維形成能を有するポリマーからなるものである。他のポリマー成分としては、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される例えばポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、およびその他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
【0047】
他のポリマー成分としてはより具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニル系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、およびポリアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、例えば、ポリエチレンのみあるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであっても良いし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであっても良い。他のポリマー成分は、例えば、スチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、本発明の目的を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであっても良い。
【0048】
また、他のポリマー成分としては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができる。他のポリマー成分は具体的には、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられるほか、第3、第4の成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであっても良い。
【0049】
また、他のポリマー成分としては、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマーを挙げることができる。具体的には、本発明で用いられるポリエステル系ポリマーとしては、例えば、前述のポリエステル系ポリマーを挙げることができる。かかるポリマーとしては、PET系ポリマー、3GT系ポリマー、PBT系ポリマー、6GT系ポリマーの他、主たる繰り返し構造単位としてペンタメチレンテレフタレートを用いたポリペンタメチレンテレフタレート系ポリマー(以下、5GT系ポリマーと略記することがある)、主たる繰り返し構造単位としてエチレンナフタレートを用いたポリエチレンナフタレート系ポリマー(以下、PEN系ポリマーと略記することがある)、主たる繰り返し構造単位としてトリメチレンナフタレートを用いたポリトリメチレンナフタレート系ポリマー(以下、3GN系ポリマーと略記することがある)、主たる繰り返し構造単位としてブチレンナフタレートを用いたポリブチレンナフタレート系ポリマー(以下、PBN系ポリマーと略記することがある)および主たる繰り返し構造単位としてシクロヘキサンジメタノールテレフタレートを用いたポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート系ポリマー(以下、PCDMT系ポリマーと略記することがある)等の芳香族ポリエステルや、脂肪族ポリエステル、あるいは主たる繰り返し構造単位として乳酸やグリコール酸を用いたポリ乳酸やポリグリコール酸等のポリヒドロキシカルボン酸などが挙げられ、本発明の目的を損ねない範囲で他の成分が共重合されているポリエステルであってもよい。
【0050】
これら他のポリマー成分は、繊維表面の全てを占めるLDAポリエステルと同様に吸湿性が低く、導電性能への影響がほとんどないという点で、ポリオレフィン系ポリマーやポリエステル系ポリマーが好ましい。さらに、本発明で用いるポリエステル樹脂組成物との界面接着性が良好で剥離が生じがたいという点で、ポリエステルがより好ましく用いられ特に融点が高く高温下での変形が小さい点で優れることから、PET系ポリマー、3GT系ポリマー、PBT系ポリマー、6GT系ポリマー、ポリ乳酸系ポリマーおよびポリグリコール酸系ポリマーが特に好ましく、融点を幅広く設計可能でかつ柔軟性に優れることから、3GT系ポリマー、PBT系ポリマーおよび6GT系ポリマーが最も好ましく用いられる。
【0051】
本発明のポリエステル繊維における他のポリマー成分としては、上記の中から選ばれるポリマー1種類を単独で用いても良く、また本発明の目的を損ねない範囲において複数種のポリマーを併用しても良い。
【0052】
ポリエステル樹脂組成物に含有されるカーボンブラック(CB)は、多種多様のものを採用することができ、本発明の共重合芳香族ポリエステルに応じて適宜採用して用いることができる。具体的には、ファーネス法により得られるファーネスブラック(以後、FBと略記することがある)、ケッチェン法により得られるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラック(以後、ABと略記することがある)、カーボンナノチューブ(以後、CNTと略記することがある)、および気相成長炭素繊維(以後、VGCFと略記することがある)などが好適に用いられるが、本発明者らは、本発明のLDAポリエステルを用いた場合、前述のカーボンブラックの中で、特にFBとABを高濃度で含有せしめた場合、およそ20重量%未満の低濃度の添加では繊維長手方向の導電性の変化(斑)が小さいことを、またおよそ20重量%以上の中濃度添加、特に30重量%以上の高濃度添加では、CB粒子の繊維中での分散性に優れることから、従来にないCBの高濃度化による高導電化と優れた繊維物性を両立しうることをそれぞれ見出した。繊維物性に関しては、従来汎用的に用いられていたPET系ポリマーあるいは3GT系ポリマーと比較すると、CBが同一濃度において導電性はほぼ同等で、繊維物性、特に繊維の破断強力(もしくは強度)が高い繊維が得られることを見出した。詳細は分からないものの、本発明のLDAポリエステルは、ポリマー設計の観点では、メチレン基の平均鎖長が従来のPET系ポリマーや3GT系ポリマーよりも十分大きいことからCBと優れた親和性を有していると推測され、また製糸性の観点からは、前述のようにLDAポリエステルとCB粒子の優れた親和性により、CBが高濃度であってもCB粒子同士の凝集が阻害されて安定した紡糸性を発現するためだと推測される。すなわち該FBやABはより好ましいカーボンブラックとして用いられる。また一方でCNTは、その直径が50nm以下では導電性も高く、少量添加で導電パスを形成することが可能であるが、CBと類似のグラファイト構造に由来して、本発明のLDAポリエステルとの親和性がやはり高く、高い導電性と優れた分散性を両立しうることから、好適なカーボンブラックとして用いられる。なおこれら導電性のカーボンブラックの導電性は、比抵抗値として5000[Ω・cm]以下のものが好ましく用いられ、特に好ましい比抵抗値は、1.0×10−6[Ω・cm]〜500[Ω・cm]である。ここで比抵抗値は、下記の実施例のE.項(比抵抗の測定方法)にて測定して求める。
【0053】
本発明のポリエステル繊維に含まれるポリエステル樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量は、繊維が高い導電性を有すること、および繊維の強度や伸度などの物性が安定していることなどから、導電性ファーネスブラック、導電性ケッチェンブラックおよび導電性アセチレンブラックの場合には10重量%以上50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上40重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以上35重量%以下である。カーボンブラックがCNTまたはVGCFの場合には、含有量は0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下であり、さらに好ましくは1.0重量%以上10重量%以下である。ポリエステル樹脂組成物中の導電剤の含有量は、後述のL.項の方法にて測定される。
【0054】
本発明のポリエステル繊維は、平均抵抗率Pが1.0×108.0[Ω/cm]以下であることが好ましい。平均抵抗率の範囲ついては、後述するような多様な用途、例えば、衣料、ブラシローラーおよびこれらを組み込んでなる様々な製品などにおいて、所望の導電性が付与される。平均抵抗率Pは、小さければ小さいほど導電性が高い、すなわち電気を流し易いため、用途によっては低い平均抵抗率を持つ必要があるものの、繊維表面を全て占めるLDAポリエステルに最大限含有せしめることが可能なカーボンブラックの量を鑑み、平均抵抗率Pの下限は1.0×10[Ω/cm]であることが好ましい。平均抵抗率Pは、安定して制御可能であることから、1.0×10[Ω/cm]〜1.0×10[Ω/cm]の範囲であることが好ましい。
【0055】
特に、電子写真装置に組み込むブラシローラーに本発明のポリエステル繊維を用いる際には、ブラシローラーの用いられる部材や装置の特性に応じて後述するような範囲の平均抵抗率のポリエステル繊維が好適に採用される。ここで、平均抵抗率Pは、後述の実施例におけるC項の方法にて測定したものを採用する。
【0056】
さらに本発明のポリエステル繊維は、温湿度変化、具体的には例えば梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても冬季のように低温で乾燥した気候であっても、繊維の導電性能は何ら変わらないことが好ましい。そのため、中温中湿度(23℃湿度55%)での平均抵抗率X[Ω/cm]と、低温低湿度(10℃湿度15%)での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が、1〜5の範囲にあることが好ましく、1〜4の範囲にあることがより好ましく、1〜2の範囲にあることが特に好ましい態様である。比Y/Xは、1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。ここで、平均抵抗率の比は、後述の実施例におけるD項の方法で測定したものを採用する。
【0057】
本発明のポリエステル繊維は、使用時の環境によっては高温に曝される場合もあることから、耐熱性に優れるという点で、98℃熱水で15分間保持した際の収縮率(熱水収縮率と称する。)が20%以下であることが好ましい。この熱水収縮率は、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。熱水収縮率は、低いほど好ましく、0%までのものが好適に用いられる。ここで、熱水収縮率は、下記の実施例G.項の方法にて測定したものを採用する。
【0058】
本発明のポリエステル繊維は、様々な用途に応じて適宜繊維としての物性を制御すればよいものの、特に本発明で用いられるポリエステル樹脂組成物を構成するLDAポリエステルの特性から柔軟な繊維とすることが可能で、かつ該特性を様々な用途に広く適用できる点で、5〜40cN/dtexの初期引張弾性率を持つことが好ましく、また、この範囲で安定して製造可能である。特定の用途によっては、更に好ましいとされる初期引張弾性率がある。例えば、電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材としてトナーなどの着色剤を除去するために用いられるような場合や、帯電装置の部材で感光体に電荷を付与する部材として用いられる場合、あるいは現像装置の部材においてトナーなどの着色剤を担持する部材として用いられるような場合には、概して初期引張弾性率と高い相関がある剛性の低い繊維が好まれるため、初期引張弾性率が5〜35cN/dtexであることが好ましい。この場合、初期引張弾性率は低いほど好ましい。
【0059】
ここで初期引張弾性率を好ましいとする40cN/dtex以下とするには、本発明で用いられるポリエステル樹脂組成物自体をそのまま用いても設計が可能である。また、前述の3GT系ポリマーやPBT系ポリマー、6GT系ポリマーあるいはLDAポリエステル、特に好ましいものとしては3GT系ポリマーやLDAポリエステル、6GT系ポリマーを用いて繊維となすことも好ましい態様である。ここで、初期引張弾性率は、後述の実施例におけるB項の方法で測定したものを採用する。
【0060】
本発明のポリエステル繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が0.5cN/dtex以上であることが好ましい。破断強度は、より好ましくは0.8cN/dtex以上であり、さらに好ましくは1.0cN/dtex以上である。通常、導電性の高い繊維を作製するためカーボンブラックを高濃度で含有せしめたポリエステルのみからなる繊維については、そもそも従来のPET系ポリマーを適用した場合には本質的に安定して繊維を得ることは困難であった。また、仮に繊維を形成し得た場合であっても、破断強度が1.0cN/dtex未満のように非常に低く、どのような手段を採っても破断強度を高めることは困難であった。しかしながら、本発明のLDAポリエステルを用いた場合には、カーボンブラックが高濃度で含有されていたとしても、カーボンブラックが均一に微分散することから特異的に破断強度の高い繊維が得られるのである。この破断強度は、高いほど工程通過性に優れるため好ましいものの、生産性を考慮すると10.0cN/dtex以下であることが好適である。ここで、破断強度は、後述の実施例におけるB.項の方法にて測定したものを採用する。
【0061】
本発明のポリエステル繊維のポリエステル樹脂組成物部分を構成するLDAポリエステルは、前述の好ましい繊維物性を発現しうることから、固有粘度(IV)は0.85〜2.00であることが好ましく、より好ましくは0.90〜1.80であり、特に好ましくは1.00〜1.70である。この固有粘度(IV)は、後述の実施例におけるK.項の方法により求められる。
【0062】
本発明のポリエステル繊維は、特に短繊維となして電気植毛加工を行う際に、より効率的に加工が行えるという点で、比抵抗値が10〜10[Ω・cm]であることが好ましく、より好ましくは10〜10[Ω・cm]である。これら好ましいとされる比抵抗値の値を有する短繊維とせしめるために、導電調製剤等で短繊維を処理することが好ましい。導電調製剤としては、例えば、シリカ系粒子が混合された水系溶剤あるいは有機系溶剤を挙げることができる。その際のシリカ系粒子の粒径は、通常1nm〜200μmの大きさであり、3nm〜100μmの大きさの粒径が好ましい。ここで、比抵抗値は、下記の実施例E.項の方法にて測定したものを採用する。
【0063】
本発明のポリエステル繊維は、本発明の目的を損ねない範囲で、艶消剤、難燃剤、滑剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤および末端基封止剤等の添加剤を少量保持しても良い。また、これら添加剤は、本発明のポリエステル繊維が複合繊維の場合には、カーボンブラックを含有するLDAポリエステル(ポリエステル樹脂組成物)および/またはポリエステル樹脂組成物以外の成分のいずれに保持されていても良い。
【0064】
次に、本発明のポリエステル繊維の製造方法について例示説明する。
【0065】
本発明のポリエステル繊維は、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸および乾湿式紡糸などの溶液紡糸など、種々の合成繊維の紡糸方法を採用して製造することができる。LDAポリエステル中のカーボンブラックを高濃度で含有せしめることが容易かつ可能であり、また繊維形状を精密に制御可能であることから、溶融紡糸により製造することが好ましい。カーボンブラックを含有するLDAポリエステル(ポリエステル樹脂組成物)を単独で、あるいはポリエステル樹脂組成物が繊維表面を全て占めるように他のポリマー成分と共に複合紡糸することにより、本発明のポリエステル繊維を好適に得ることができる。なお溶融紡糸に用いるポリエステル樹脂組成物を構成するLDAポリエステルの固有粘度(IV)については、紡糸時の優れた曳糸性および後述のようなカーボンブラックの優れた微分散性を発現しうることから、1.00〜2.50であることが好ましく、より好ましくは1.05〜2.20であり、特に好ましくは1.10〜2.00である。この固有粘度(IV)は、後述の実施例におけるK.項の方法により求められる。
【0066】
またここで、ポリエステル樹脂組成物中に含有せしめて用いられるカーボンブラックについては、繊維を形成する場合に、溶融紡糸性を損ねず、また繊維を形成した際に繊維長手方向の導電性斑が小さいことが望ましいことから、溶融紡糸に用いる前のポリエステル樹脂組成物中のCBの分散径(体積平均粒径)Dvは、1.50μm以下であることが好ましい。体積平均粒径Dvは1.20μm以下であることがより好ましく、1.10μm以下であることが特に好ましい。体積平均粒径Dvの下限については、カーボンブラックが全てバラバラに分かれて分散する大きさ(カーボンブラック粒子そのものの大きさ)で、適用するカーボンブラックの種類にも依存する。また、体積平均粒径Dvは、小さい値ほどポリエステル樹脂組成物中での分散径が微細で、カーボンブラックを高濃度添加可能となり、繊維として高い導電性を発現し得るため好ましいものの、好適には0.05μmが下限である。一層高導電化を発現するために、体積平均粒径Dvはより好ましくは0.10μm以上であり、さらに好ましくは0.5μm以上である。
【0067】
そして本発明において、ポリエステル樹脂組成物を製造する(カーボンブラックをLDAポリエステル中に含有せしめる)方法としては任意の方法が採用できる。具体的には、(A)不活性気体の雰囲気下にLDAポリエステルを溶融した後、カーボンブラックを添加し、エクストルーダや静置混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(B)通常のLDAポリエステルの重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階でカーボンブラックを含有せしめて混練する方法、および(C)LDAポリエステルを溶融する以前の任意の段階で粉体あるいは粒体としたLDAポリエステルと、粉体あるいは粒体のカーボンブラックとをあらかじめ所定の分量で混合、攪拌したものを溶融せしめて、エクストルーダや静置混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、などが挙げられる。簡便に混練が達成できかつカーボンブラックが高濃度であってもカーボンブラックとLDAポリエステルとがより微細に混練されることから、上記の(A)または(C)の方法が好ましく、特に(C)の方法が好ましい。ここで特に、エクストルーダに関しては、1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルーダを好適に用いることができるが、LDAポリエステル成分とカーボンブラックとを混練した際にカーボンブラックが微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルーダを採用することが好ましい。なおエクストルーダの軸の長さ(l)および軸の太さ(w)の比l/wについては、混練性向上の点でl/wは10以上であることが好ましく、より好ましくは20以上であり、さらに好ましくは30以上である。ポリマーの装置中の滞留時間を鑑み、l/wは200以下であることが好ましい。このときカーボンブラックの添加は前述のとおり、エクストルーダに供給する以前の段階で乾式ブレンドしておいても良く、あるいはエクストルーダに配設したサイドフィーダーを用いて溶融したLDAポリエステルとエクストルーダ中にて混合しても良い。また、特に静置混練子に関しては、例えば、溶融したLDAポリエステルの流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であればよく、より混練性が優れるという点で、静置混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることが更により好ましい態様である。また、流路の必要長さにも依るものの、静置混練子の段数は50段以下であることが好ましい。
【0068】
また、カーボンブラックのポリエステル樹脂組成物中の分散分布(多分散指数)Dv/Dnは5.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.5以下であり、さらに好ましくは4.0以下である。多分散指数Dv/Dnの下限値は理論的に1.0である。多分散指数Dv/Dnは、その値が小さいほどポリエステル樹脂組成物中でのカーボンブラックの分散径が均一であり、得られる糸の強度も高く、高次工程における工程通過時の糸切れも大幅に抑制されるため、好ましい特性を具備し得る。ここで、上記のカーボンブラックの体積平均粒径Dvおよび多分散指数Dv/Dnは、下記の実施例P.の方法にて測定される。なお前述のカーボンナノチューブ(CNT)については、前述のDv並びDnが測定できないため、別の指標が必要であるが、まずその直径は平均で0.1〜100nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50nmの範囲である。CNTの直径Dと長さLの比(アスペクト比)L/Dについては、適度な大きさをもつことにより、ポリエステル樹脂組成物中でCNT同士が凝集しにくく、あるいは繊維を形成させた場合には繊維の長手方向に略配向して繊維長手方向の導電性が均質になる好ましい特性を有する。このことから、L/Dは10〜10000であることが好ましく、より好ましくは15〜5000であり、さらに好ましくは20〜3000である。ここで、CNTのL/Dは、下記の実施例J.の方法にて測定される。
【0069】
溶融吐出された繊維(未延伸糸)は、ポリエステル樹脂組成物を単独で紡糸する場合にはLDAポリエステルのガラス転移温度(Tg;℃)以下の温度に冷却され、また複合繊維として溶融吐出される場合には繊維を形成するポリマー成分(ポリエステル樹脂組成物もしくはその他のポリマー成分)のうち低い方のTg(℃)以下の温度に冷却され、処理剤を付着しなくともよいが、好ましくは処理剤を付着せしめた後、通常100〜10000m/分の引取速度で引き取られる。引取速度の上限は好ましくは4000m/分以下であり、より好ましくは3000m/分以下であり、特に好ましくは2500m/分以下である。また、生産性を考慮して、下限としては好ましくは500m/分以上、より好ましくは700m/分以上の引取速度で引き取られる。本発明で用いられるLDAポリエステルは、過度に高い引取速度で引き取った場合に、工程安定性に劣る場合もあることから、最も好ましい引取速度は700〜2500m/分の範囲である。
【0070】
ここで口金孔から吐出される繊維一束の本数(糸条の繊維本数)は、目的とする使用方法あるいは用途に応じて適宜選択すればよく、1本のモノフィラメントの状態であっても、3000本以下の複数糸条からなるマルチフィラメントでも良い。諸物性の安定した繊維が得られ、各種用途に好適に採用されるという点で、本数は2〜500本が好ましく、より好ましくは3〜400本である。また、付着せしめる処理剤は、繊維の用途に応じて適宜用いることができ、含水系あるいは非含水系の処理剤がここに採用され得る。本発明のポリエステル繊維を用いてなるブラシが、電子写真装置の感光体に接触して用いられる場合には、感光体が劣化することを防止するために、感光体を劣化せしめるような化合物が含有されていないことが好ましい。
【0071】
前述のようにして繊維を引き取った後、巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、繊維を構成するポリマー成分(ポリエステル樹脂組成物もしくはその他のポリマー成分)のうち、高い方のガラス転移温度(Tg)+100℃以下の温度に加熱して、好ましくはガラス転移温度が高い方のガラス転移温度Tg−20℃〜ガラス転移温度が高い方のTg+80℃の温度範囲に加熱して、延伸糸の残留伸度が5〜100%となる倍率で、好ましくは延伸糸の残留伸度が10〜50%となる倍率で、すなわち1.1〜4.0倍の範囲の延伸倍率で、1段目の延伸を施す。ここで、一旦延伸した後(すなわち1段目の延伸を終えた後)、さらに1倍以上2倍以下の倍率で2段目の延伸を施してもよい。
【0072】
延伸した後、繊維は最終延伸温度以上で、かつポリエステル樹脂組成物もしくはその他のポリマー成分のどちらか低い方の融点(Tm)以下の温度で熱処理することが好ましい。延伸後に高温で熱処理を施すことにより、より耐熱性が高く、かつ、前述の平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が低く、繊維の長手方向の導電性の斑が小さい優れた繊維となすことができる。ここで、TgとTmは、後述の実施例におけるH項の方法にて測定したものを採用する。
【0073】
さらに、上記の熱処理の前または熱処理の後で、0.9倍以上1.0倍未満の倍率で繊維をごくわずかに収縮させてリラックス処理を施すことが好ましい。これによっても、前述の平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が低く、繊維の長手方向の導電性の斑が小さい優れた繊維となすことができる。
【0074】
上記の延伸方法あるいは延伸後の熱処理方法としては、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バス、あるいは加熱気体、加熱蒸気および電磁波などを用いた非接触式加熱媒体などを採用することが可能である。これらの方法のうち、装置が簡便で加熱効率が高いことから、加熱されたピン状物、ローラー状物およびプレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バスなどが好ましく、加熱されたローラー状物が特に好ましく用いられる。熱処理された繊維は、空気中を走行中に冷却されるものの、熱処理手段の下流に−50℃〜50℃の範囲の冷却媒体にて冷却されることが好ましい。最終的には、冷却媒体を通過した後、巻き取られて繊維を得る。
【0075】
本発明のポリエステル繊維は、織物あるいは編物、さらには様々な衣料用途に用いる場合には、前述の延伸の後、もしくは延伸に代えて仮撚り加工を施しても良い。仮撚り加工において繊維は、延伸糸あるいは未延伸糸を加熱することなくもしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸仮撚り加工された繊維は、そのまま巻き取られても良いが、さらに熱セットされた後に巻き取られることが好ましい。また、本発明のポリエステル繊維は、前述仮撚り加工の代わりに撚糸加工を施しても良い。
【0076】
本発明のポリエステル繊維は、例えば、織物や編物のような通常の繊維製品とする他、それらを用いた繊維ブラシ、衣料、敷物、短繊維を用いた植毛体などにおいて、それを少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品となすことができる。
【0077】
次に、ポリエステル繊維製品について具体的に詳述する。
【0078】
本発明のポリエステル繊維は、用いられ得る用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた織物となすことができる。ここで、例えば1重織物としては、ブロード、ボイル、ローン、ギンガム、トロピカル、タフタ、シャンタンおよびデシンなどの平織、デニム、サージおよびギャバジンなどの綾織、サテンやドスキンなどの朱子織、バスケット、パナマ、マット、ホップサックおよびオックスフォードなどのななこ織、グログラン、オットマンおよびヘアコードなどの畝織、フランス綾、ヘリンボーンおよびブロークンツイルなどの急斜文、緩斜文、山形斜文、破れ斜文、飛び斜文、曲り斜文および飾斜文、不規則朱子、重ね朱子、拡げ朱子および昼夜朱子、蜂巣織、ハック織、梨地織およびナイアガラなどが挙げられる。
【0079】
また、2枚の織物を合わせて1枚の織物となした2重織物としては、ピケやフクレ織などの経2重織、ベッドフォードコードなどの緯2重織、風通織や袋織などの経緯2重織などが挙げられる。また、繊維が起毛したパイル織物としては、別珍やコールテンなどの緯パイル織や、タオル、ビロードおよびベルベットなどの経パイル織などが挙げられる。その他に、紗織や絽織などのからみ織物、ドビー織やジャガード織などの紋織物などを挙げることができる。特に、後述の繊維ブラシ用織物に用いられるものとしては、繊維が起毛したパイル織物が好ましい。
【0080】
織物を作製するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は、生糸、撚糸および仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)および短繊維(ステープル)など、いずれの形態も使用可能である。
【0081】
また、本発明のポリエステル繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた編物となすことができる。ここで編物としては、天竺やシングルなどの平編、ゴム編やフライスなどのリブ編、リンクスなどのパール編の他、鹿の子、梨地、アコーディオン編、スモールパターン、レース編、裏毛編、片畦編、両畦編、リップル、ミラノリブおよびダブルピケ等の緯編、トリコット、ラッセルおよびミラニーズなどの経編などを挙げることができる。特に、後述の繊維ブラシ用編物に用いられるものとしては、裏毛編やあるいはパイル状繊維を編物表面に突出させるための起毛処理を施した編物が好ましい。編物を作製するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は、生糸、撚糸および仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)および短繊維(ステープル)などいずれの形態も使用可能である。
【0082】
本発明のポリエステル繊維が少なくとも一部に用いられてなる前述の織物あるいは編物は、常法による精練、染色および熱セット等の加工を受けてもよい。また、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工およびヒートセッティングなどの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工および泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用および低温プラズマ応用などの応用処理がなされていてもよい。
【0083】
本発明のポリエステル繊維は、導電性に優れることから繊維そのものとしても非常に有用で、繊維の一形態としては前述のとおり好ましくは0.05〜150mmの長さの短繊維として用いられる。短繊維は、フィラメントを1つの糸条単独であるいは複数の糸条を束ねたトウになして切断されてなるものであり、特に0.1〜10mmの長さの短繊維としたものは、例えば、電気植毛加工や吹きつけ加工などの多種多様な方法によって、基盤に植設されてなる植毛体とすることができる。電気植毛体において、植毛加工により植設された繊維は、その50%以上が基盤に対し10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に植設される。ここで、本発明の目的を損ねない範囲で、植毛体となす場合に用いられる短繊維には、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明のポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。
【0084】
また、植毛体は、基盤に短繊維を接着して植設してもよく、接着する場合には、例えば、アクリル系、ウレタン系およびエステル系の接着剤を用いて接着することができる。ここで接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また、植設される基盤は、前記の植毛体を組み込む装置や用いられる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板および布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接植毛してもよい。ここで特に、前記の接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートを用いることが好ましい。基盤が前記のフィルム、シート、紙、板および布帛など表裏を形成している素材であれば、用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に植設することができる。植毛体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性の繊維ブラシローラーとして用いることができる。
【0085】
具体的には、本発明のポリエステル繊維からなる前記の短繊維を少なくとも一部に用いてなる植毛体を、少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシとして形成し用いることができる。特に、繊維が棒状物体に直接植設された繊維ブラシローラーであることが好ましい。ここで用いられる短繊維は、上記のように、棒状物体に植設される際に、気体により短繊維を吹き付けてもよく、電気植毛加工を行ってもよいが、棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから、電気植毛加工により得られることが好ましい。このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、本発明の目的を損ねない範囲で、用いられる短繊維には、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明のポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また、接着して植設する際の接着剤としては、アクリル系、ウレタン系およびエステル系の接着剤が用途あるいは目的に応じて種々選択されて用いられる。ここで接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。
【0086】
前述の棒状物体の芯となる主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すればよく、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材および鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに、棒状物体が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記の織物および/または編物が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。この中間層として用いられる素材は、主としてクッション性を棒状物体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述する例えば清掃装置におけるトナー除去性能、あるいは現像装置におけるトナー付与性能を格段に向上せしめる。中間層には、例えば、ウレタン系素材、エラストマー素材、ゴム素材およびエチレン−ビニルアルコール系素材などが好適に用いられる。中間層の厚みは、0.05〜10mmであることが好ましく、さらに必要に応じて前述の導電性制御剤あるいは磁性制御剤が添加されていてもよい。
【0087】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物、編物は、基盤と接合して布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるものもしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが、ポリエステル繊維ブラシローラーにおいて、より機能が高められる場合があり好ましく用いられる。接合する際に接着して形成させる場合には、例えば、アクリル系、ウレタン系およびエステル系の接着剤を用いて接着することができる。ここで接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。
【0088】
また、接着される基盤は、布帛複合体を組み込む装置や用いられる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、あるいは他の布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着してもよい。ここで特に接着剤との親和性を高めるために、基盤は、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートであることが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に織物や編物を接着して布帛複合体となすことができる。布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため、導電性のポリエステル繊維ブラシとして用いることができる。
【0089】
本発明のポリエステル繊維からなる織物および/または編物は、少なくとも一部に用いられるかあるいは全部に用いて、ポリエステル繊維ブラシを形成することができる。特に形態が安定している点では、織物を用いることが好ましい。この場合、織物はパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるものが、ポリエステル繊維ブラシローラーにおいて、より機能が高められる場合があり好ましく用いられる。ここで用いられる織物および/または編物は、棒状物体に接合してポリエステル繊維ブラシローラーを形成する際に、棒状物体の機能的に必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接合してもよく、あるいは棒状物体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを、棒状物体にスパイラル状に巻き付けて接合してもよい。接合する際にはあらかじめ凹凸を棒状物質に付けるなどして嵌合してもよいが、確実に接合するという点では接着剤を用いて接着することが好ましい。
【0090】
ここで用いられる接着剤は、用途あるいは目的に応じて適宜採用すれば良く、アクリル系、エステル系およびウレタン系の接着剤など種々のものを採用できる。また、接着剤には、必要に応じてカーボンブラックや金属などの導電性制御剤あるいは鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属あるいはこれら金属の酸化物あるいはこれらの混合物などの磁性制御剤などが添加されていてもよい。ここで接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。さらに、織物および/または編物は、接着される以前の段階で接着面に10〜1010Ω・cmの比抵抗を有する導電処理剤を施してもよく、もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を貼り合わせてもよい。
【0091】
本発明のポリエステル繊維は、少なくとも一部あるいは全部に用いてなる衣料となすことができる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であってもよい。衣料となした場合に、例えば、導電性に優れることで冬季あるいは乾燥時の静電気発生を抑制することができるなど、より快適な着心地となるし、あるいは埃を寄せ付けにくいことから、手術衣あるいは半導体製造時の作業衣など防塵衣料を形成し得る。その際には、本発明のポリエステル繊維を、数本ごとに経糸および/または緯糸として用いることが好ましい。また、副次的な効果として、本発明のポリエステル繊維にはカーボンブラックが多量に含有されていることから繊維の熱伝導性が向上し、着衣時に瞬時に熱を奪う接触冷感素材やあるいは冬季に寒い外部から暖かい室内に入ったとき直ぐに体が温まる温感素材などとして利用することができる。
【0092】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、例えば、電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。清掃装置の中でブラシローラーは、回転しながら、必要であれば電気を印加されながら、例えば、電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤(トナー)などの不要物を捕捉して除去する。本発明のポリエステル繊維を用いた場合には、前述のとおり、繊維長手方向の導電性斑が小さく、また温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れるのである。また、ポリエステル繊維ブラシローラーの清掃装置内での使用方法としては、感光体にポリエステル繊維ブラシローラーが直接接触して清掃すること以外に、ポリエステル繊維ブラシローラーあるいは従来技術であればブレード状の部材のような感光体を清掃する部材を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するもの、もしくは回収した不要着色剤(トナー)を別の場所に移送するためのポリエステル繊維ブラシローラーとしても用いられる。また、前記の清掃装置には、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを、目的、効果および清掃の機構に応じて、1本用いてもあるいは2本以上の複数本用いてもよい。
【0093】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、電子写真装置に用いられ得る帯電装置に好適に組み込まれて用いられる。
【0094】
ブラシローラーを用いてなる帯電装置の性能は、ブラシローラーの導電性能、すなわち導電性繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより、電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度や湿度変化に対してブラシローラーの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して、本発明のポリエステル繊維は、従来の導電繊維よりも繊維長手方向の導電性斑が小さい、すなわち、繊維のどこをとっても均質な導電抵抗を有していることから、ブラシとなした際に、ブラシの毛先において感光体の帯電斑が起こりにくく、非常に優れた帯電装置となる。加えて、電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも、ブラシローラーはブラシ状であって、清掃ローラーを兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がない、もしくは殆どないという点でも優れている。さらには、電子写真装置を小型化する場合には、前記の清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく、清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能であるため、その点でも格段に優れている。また、帯電装置中には、目的や機構に応じて前記のブラシローラーを1本あるいは2本以上の複数本用いてもよい。
【0095】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、現像装置に好適に組み込まれて用いられる。現像装置は、電子写真装置においては、前記の帯電装置により一様に帯電された感光体表面にレーザーによって描かれた潜像を顕像化するものであるが、電子写真装置内の環境変化に対してもブラシローラーの抵抗率変化がな久、また繊維長手方向の導電性斑が従来よりも小さいことから、顕像化するためのトナーが均一に感光体に供給され顕像化し、得られた現像物あるいは印刷物は汚染あるいは印刷斑のない、もしくは殆どない非常に美しいものとなるため、格段に優れている。
【0096】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられ得る除電装置に好適に組み込まれて用いられる。特に、電子写真装置に用いる際には、ブラシローラーの導電性繊維が安定かつ斑のない除電効果を発現し、通常、除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能である他、電子写真装置を小型化する場合にはブラシローラーを用いることにより除電装置兼清掃装置として組み込むことができ、格段に優れている。
【0097】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品を組み込んだ、清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置として、具体的には、レーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、発光ダイオードを用いたモノクロあるいはカラープリンターモノクロ複写機、カラー複写機、モノクロまたはカラーファクシミリあるいは多機能型複合機、およびワードプロセッサーなどを挙げることができる。
【0098】
帯電した感光体にレーザーおよび/または発光ダイオードで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、本発明のポリエステル繊維を用いていることから、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有する。また、得られた印刷あるいは現像物は、モノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に非常に美しいものとなる。さらには、電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち、単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。また、本発明のポリエステル繊維を用いてなる電子写真装置は、さらなる小型化、省スペース化および省電力化を図ることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の部は重量部を意味する。実施例中の物性値は、下記の方法によって測定した。
A.繊度[dtex]および単繊維繊度[dtex]の測定
繊維(マルチフィラメント)を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値に100を掛ける。同様に測定して得た3回の平均値を、その繊維の繊度とした。単繊維繊度については、上記の繊度をフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単繊維繊度[dtex]とした。
B.繊維の初期引張弾性率、残留伸度および破断強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSIRON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、また延伸糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分で初期引張弾性率(延伸糸のみ)、強度および残留伸度をそれぞれ測定し、5回測定した平均値をそれぞれの測定値とした。初期引張弾性率は、チャート紙にチャート速度100cm/分、応力フルレンジ500gとして記録して、引張初期の曲線の傾きから求めた。
C.平均抵抗率P[Ω/cm]および平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)の測定
中温中湿度(温度23℃、湿度55%)で、測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印加電圧100V、送糸速度60cm/分、ローラー間の糸張力が0.05〜0.1cN/dtexの範囲となるようにして(この範囲であれば測定値に差はない)、絶縁抵抗計でのサンプリングレート0.2秒で120cmの長さ分、抵抗値を測定して、得られた値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に、得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出した後、上記のPとQとの比R(R=Q/P)を算出した。
D.中温中湿度(温度23℃、湿度55%)での平均抵抗率Xと低温低湿度(温度10℃、湿度15%)での平均抵抗率Yとの平均抵抗率の比Z(Z=Y/X)(温湿度変化Z)
中温中湿度については、上記のC.項の測定方法を採用し、また低温低湿度においても上記のC.項と同様に測定して平均抵抗率を求め、それぞれ得た平均抵抗率XとYの比Z(Z=Y/X)を求めた。
E.比抵抗値の測定方法
測定は、前記Dの中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(このとき、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また、測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、次式からガットの比抵抗値を求めた。
・比抵抗値=R×(D/2)×π/10
そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、ポリマー押出ピストン速度1mm/分(剪断速度12.16[1/秒])で、サンプル充填直後から10分経過したのち測定した。5回測定した値の平均値を各剪断速度での溶融粘度とした。
G.98℃熱水中で15分間の収縮率(熱水収縮率)の算出
延伸糸1mの輪を5本枷取りした束にクリップを1つ留め、束の長さL1を測る(このとき、約500mmの長さである。)。次に、この束を98℃の温度の熱水中にゆっくりと下ろして15分間静置し、15分後に取り出して1時間以上風乾する。風乾した後、再度束の長さL2を測定する。収縮率(%)を、次式で算出する。
・熱水収縮率(%)={(L1−L2)÷L1}×100。
H.ポリマーのガラス転移点(Tg)、結晶融解温度(融点;Tm)の測定、およびメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が「ランダムに共重合されている」ことの確認
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用い、試料10mgで測定した。TmとTgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、約(Tm1+20)℃の温度で5分間保持した後、−50℃まで急冷し、(急冷時間および−50℃の保持時間を合わせて5分間保持)、再度3℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。そしてランダムに共重合されていることの確認は、ポリエステル繊維を構成する他のポリマー成分のTmを除いて、ポリエステル樹脂組成物を構成する共重合芳香族ポリエステルのTmが1つのみ見られる場合は明確にランダムに共重合されているとし、またポリマーのTmが2つ見られる場合でも(便宜的に2つのピーク温度をTma,Tmbとする)TmaとTmbの差が10℃以内でかつTgが1つ観測されればランダムに共重合されている(ポリエステルの結晶構造が複数種あって、それによる複数のTmのピークが現れたと考えられる)として、TmaとTmbの差が10℃以内でもTgが2つ観測される場合、あるいはTmaとTmbの差が10℃を超えて大きい場合には、ランダムに共重合されているのではなくブロック共重合もしくは混合ポリマーであるとした。
I.短繊維の繊維長の測定
長さ20mm以上の短繊維は0.1g/dtexの荷重をかけてノギスを用いて、また20mm未満の短繊維はNIPPON KOGAKU K.K製SHADOW GRAPH Model6を用いて20倍で、短繊維50本の長さを測定し、その平均値を繊維長とした。
J.カーボンナノチューブ(CNT)の直径Dと長さLの比(アスペクト比)L/Dの確認
CNTを含有した繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所社製、H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。得られた写真を、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において、黒で見えるCNTを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については、写真上に存在する全てのCNTの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算したCNTの直径の平均値によって算出した。
K.固有粘度(IV)の測定
ポリエステル系ポリマーの場合は、試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃の温度で測定した。また、ポリアミド系ポリマーの場合は、試料を蟻酸に溶解し、ポリエステル系ポリマーと同様の方法で測定した。
L.カーボンブラックのLDAポリエステル中における含有量
カーボンブラックを含有する樹脂組成物のみからなる繊維でカーボンブラックの含有量を求める場合は、(株)日立ハイテクノロジーズ社の分光光度計U−3010を用いて、あらかじめカーボンブラックの濃度が判っている、異なる濃度の溶液(ポリエステルを溶解する溶媒;LDAポリエステル、PET系ポリマー、3GT系ポリマー、PBT系ポリマー、6GT系ポリマーであれば、ヘキサフルオロイソプロパノール)5種類を用いて検量線を作成した後、カーボンブラックを含有した樹脂組成物中でのカーボンブラックの含有量を求めた。複合繊維である場合は、後述のN.項で求めたカーボンブラックを含有する樹脂組成物の割合から、カーボンブラックの含有量を算出した。
M.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25〜50μmであれば5千倍、15〜25μmであれば1万倍、5〜15μmであれば2万倍)で確認した。その際、単繊維直径は、少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得られた平均値を単繊維直径とする。
N.繊維中での、カーボンブラックを含有する共重合芳香族ポリエステル(ポリエステル樹脂組成物)の割合の算出、および繊維断面(繊維軸方向に垂直な繊維横断面)の形状観察
割合を算出する繊維のフィラメントをエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で繊維横断面を観察・撮影した後、得られた繊維横断面写真について、前記の三谷商事株式会社製WinROOFにおいてポリエステル樹脂組成物部分と、他のポリマー成分との面積を画像解析することによってそれぞれ求めて割合を算出した。
P.カーボンブラックの体積平均粒径Dvおよび多分散指数Dv/Dnの算出
カーボンブラックを含有するLDAポリエステル(ポリエステル樹脂組成物)の試料量0.02〜0.06mgをガラス容器に入れた後、ヘキサフルオロイソプロパノール20mLを静かに注ぎ入れ、静置下で72時間(3日間)以上保持して測定液を調製した。その後、株式会社島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000J(光源:半導体レーザー(波長680nm)、回分セル、センサー:76素子回折/散乱光センサー、粒子の複素屈折率2.00−0.10i(カーボンに関するマニュアル記載値)、粒子径計測範囲:0.03〜700μm)を用いて、あらかじめセル内に分散媒を加え、攪拌棒でゆっくりと攪拌しながら、その中に適切な光回折強度または吸光度になるまで前記の測定液を投入し、適切な光回折強度になったところで測定を行った。
測定によって得られた結果(粒子径(μm)と差分値(%))から、次の数式(1)、(2)および(3)に従って、体積平均粒径Dv(μm)、数平均粒径Dn(μm)および多分散指数Dv/Dnを求めた。
【0100】
【数1】

【0101】
【数2】

【0102】
・多分散指数=Dv/Dn(体積平均粒径/数平均粒径) ・・・(3)
(ただし式中、d:i番目の粒子径(μm)、n:i番目の粒径の粒子数。)。
Q.芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長の計算方法
Q-(1)共重合される脂肪族ジカルボン酸成分が1種類である場合:共重合芳香族ポリエステルにおいて、芳香族ポリエステルの主たる繰り返し構造単位におけるジオール成分のメチレン鎖長をM、共重合される脂肪族ジカルボン酸成分のメチレン鎖長をN、かつ該脂肪族ジカルボン酸成分の全ジカルボン酸成分に対する共重合量をYモル%とした場合に、次の数式(4)で平均鎖長が求められる。
【0103】
【数3】

【0104】
Q-(2)共重合される脂肪族ジカルボン酸成分がn種類(nは2以上の自然数)である場合:共重合芳香族ポリエステルにおいて、芳香族ポリエステルの主たる繰り返し構造単位におけるジオール成分のメチレン鎖長をM、共重合されるj番目の脂肪族ジカルボン酸成分のメチレン鎖長をN、かつ該j番目の脂肪族ジカルボン酸成分の全ジカルボン酸成分に対する共重合量をYモル%とした場合に、次の数式(5)で平均鎖長が求められる。
【0105】
【数4】

【0106】
[比較例1](ポリエチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを添加したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部を用い通常のエステル化反応によって得られた低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.67、溶融粘度181[Pa・秒](測定温度290℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)256℃のポリエチレンテレフタレート(以後PETとする。)のペレットを得た。
【0107】
このPETペレットを、150℃の温度で24時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とした後、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=45)を用いて溶融混練する前に、窒素雰囲気下でカーボンブラックとしてデグサ社製ファーネスブラック(“Printex”(登録商標)、タイプLSQ、比抵抗0.06[Ω・cm]、以後FBとする。)を粉体同士で混ぜ合わせた後、溶融して上記の2軸エクストルーダで混練した。ここでFBは、混練終了後に得られるPETとFBとの樹脂組成物において、FBが16重量%となるように調製し、また280℃の温度で混練した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の温度の水道水で冷却した後カッターで切断し、溶融粘度1253[Pa・秒](測定温度290℃、12.16[1/秒])のPETとFBとの樹脂組成物(以後PET−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、102.38[Ω・cm]であった。
【0108】
このPET−FBを用いて、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を備えたエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度290℃で孔径が0.3mm、孔数が24個の丸形の孔形状の口金および濾層の目の細かさが20μのフィルタを設置して溶融紡糸を行い、実効成分として糸に対して1重量%の付着量となるように水系処理剤(実効成分20重量%濃度)を付着せしめた後、1000m/分の引取速度で引き取る溶融紡糸を試みた。しかしながら、1000m/分の引取速度では断糸が激しく全く引き取りができなかったため200m/分の引取速度としたが、それでも断糸が激しく、結果として紡糸性は非常に悪いもので巻き取り糸は得られなかった。
【0109】
[比較例2](ポリトリメチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを添加したポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)および酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得られた低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃の温度で、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.05、溶融粘度382[Pa・秒](測定温度250℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)228℃のポリトリメチレンテレフタレート(以後3GTとする。)ペレットを得た。
【0110】
この3GTペレットを、140℃の温度で24時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、250℃の温度で混練したこと以外は、同じ装置で同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1051[Pa・秒](測定温度250℃、12.16[1/秒])の3GTとFBとの樹脂組成物(以後3GT−FB)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、101.59[Ω・cm]であった。
【0111】
この3GT−FBを用いて、比較例1で用いた同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度を260℃としたこと以外は、同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く問題なく総繊度362dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。紡糸性に全く問題はなく、24時間の連続紡糸においても全く断糸は見られなかった。しかしながら、これより単繊維繊度の細い繊維は、糸切れが頻発して得ることができなかった。
【0112】
得られた362dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度320m/分、第2ローラーは140℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは25℃で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生しなかった。糸物性を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
[比較例3](カーボンブラックを含有したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート;“トレコン”(登録商標;タイプ1100SS、融点(Tm)223℃、溶融粘度164[Pa・秒](測定温度250℃、12.16[1/秒])、以後PBTと称する。)のペレットを、140℃の温度で24時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、250℃の温度で混練したこと以外は、同じ装置で同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1129[Pa・秒](測定温度250℃、12.16[1/秒])のPBTとFBとの樹脂組成物(以後PBT−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、101.73[Ω・cm]であった。
【0115】
このPBT−FBを用いて、比較例1で用いた同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度を260℃としたこと以外は、同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く問題なく総繊度360dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。紡糸性については、24時間の連続紡糸において2.6回/時間の糸切れ(単繊維切れ)が発生した。また、これより単繊維繊度の細い繊維は、糸切れが頻発して得ることができなかった。
【0116】
得られた360dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度320m/分、第2ローラーは140℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは25℃で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生しなかった。糸物性を表1に示す。
【0117】
[比較例4](アジピン酸を共重合したポリブチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを含有したアジピン酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
特許文献4の実施例3に準じて、樹脂組成物および繊維を以下の手順で調製した。すなわちテレフタル酸ジメチル1024部(85モル部)、アジピン酸ジメチル162部(15モル部)、1,4−ブタンジオール1100部、およびチタンテトラブトキシド0.4部を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。得られた低重合体に、さらにチタンテトラブトキシド0.6部を添加し、1,4−ブタンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のIV0.75、溶融粘度75.2[Pa・秒](測定温度240℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)206℃のアジピン酸共重合ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT/Aとする。)ペレットを得た。
【0118】
このPBT/Aペレットを、130℃の温度で24時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、240℃の温度で混練したこと以外は、比較例1と同じ装置で、同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度921[Pa・秒](測定温度240℃、12.16[1/秒])の、文献4の実施例3に示されるPBT/AとFBとの樹脂組成物(以下、PBT/A−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、101.81[Ω・cm]であった。
【0119】
このPBT/A−FBを用いて、比較例1で用いたものと同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度250℃としたこと以外は、比較例1と同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で8.6回/時間の頻度で糸切れ(単繊維切れ)が起こり、特許文献4の記載にはなかったが、単成分紡糸では曳糸性は劣っていることが判った。総繊度360dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取って得た。また更に単繊維繊度の小さい(細い)繊維について紡糸を行ったところ、糸切れ(全繊維切れあるいは単繊維切れ)が頻発し、糸を巻き取ることができなかった。
【0120】
得られた、360dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは70℃の温度で送糸速度320m/分、第2ローラーは110℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは25℃の温度で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生しなかった。糸物性を表1に示す。溶融紡糸における曳糸性の劣りは特許文献にて好ましいとしている固有粘度とアジピン酸共重合量のバランスが悪かったためだと考えられる。
【0121】
[比較例5](カーボンブラックを含有した芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとのアロイの調製および繊維の製造)
芳香族ポリエステルとして前述のPBTペレットを52.5重量%分(ポリマー分のみでは70重量%)として用い、また脂肪族ポリエステルとして昭和高分子株式会社製ポリブチレンサクシネート“ビオノーレ”(登録商標;タイプ#1003、以下ビオノーレ)を22.5重量%分(ポリマー分のみでは30重量%)用い、このPBTペレットおよびビオノーレペレットをそれぞれ140℃、70℃の温度で24時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、250℃の温度で混練したこと以外は、比較例1と同じ装置で、同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1106[Pa・秒](測定温度250℃、12.16[1/秒])の、アロイ樹脂組成物(以下、アロイ−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、101.76[Ω・cm]であった。またH.項の方法により混合ポリマーであることを確認した。
【0122】
このアロイ−FBを用いて、比較例1で用いたものと同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度250℃としたこと以外は、比較例1と同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で2.1回/時間の頻度で糸切れ(単繊維切れ)が起こり、単成分紡糸では曳糸性は劣っていることが判った。結果として総繊度358dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取って得た。また更に単繊維繊度の小さい(細い)繊維について紡糸を行ったところ、糸切れ(全繊維切れあるいは単繊維切れ)が頻発し、糸を巻き取ることができなかった。
【0123】
得られた、358dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは70℃の温度で送糸速度320m/分、第2ローラーは110℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは25℃の温度で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生しなかった。糸物性を表1に示す。混練ポリマーにおいて、カーボンブラックの不均一分散(凝集)によると思われる、比Rの増大が見られた。
【0124】
[実施例1](セバシン酸を共重合したポリブチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを含有したセバシン酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル1024部(80モル部)、セバシン酸ジメチル304部(20モル部)、1,4−ブタンジオール1100部、およびチタンテトラブトキシド0.4部を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。得られた低重合体に、さらにチタンテトラブトキシド0.6部を添加し、1,4−ブタンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のIV1.31、溶融粘度223[Pa・秒](測定温度230℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)191℃のセバシン酸共重合ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT/Sとする。)ペレットを得た。
【0125】
このPBT/Sペレットを、130℃の温度で24時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、240℃の温度で混練したこと以外は、比較例1と同じ装置で、同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1159[Pa・秒](測定温度230℃、12.16[1/秒])の、PBT/SとFBとの樹脂組成物(以下、PBT/S−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、101.96[Ω・cm]であった。
【0126】
このPBT/S−FBを用いて、比較例1で用いたものと同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度240℃としたこと以外は、比較例1と同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く糸切れ(単繊維切れ)は発生せず、単成分紡糸での曳糸性は優れていることが判り、総繊度360dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取って得た。また更に単繊維繊度の小さい(細い)繊維について紡糸を行ったところ、総繊度240dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。この240dtex−24フィラメントの未延伸糸についても全く紡糸性について問題なく、24時間の連続紡糸を行っても断糸は見られなかった。
【0127】
得られた単繊維繊度の小さい240dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは70℃の温度で送糸速度320m/分、第2ローラーは110℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず、延伸性は優れていた。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。糸物性を、表1に示す。
【0128】
[実施例2](エイコサン2酸を共重合したポリブチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを含有したエイコサン2酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル912部(80モル部)、1,4−ブタンジオール1100部、およびチタンテトラブトキシド0.4部を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。得られた低重合体に、エイコサン2酸を402部(20モル部)、およびチタンテトラブトキシド0.6部を添加した後、1,4−ブタンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のIV1.42、溶融粘度289[Pa・秒](測定温度230℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)187℃のエイコサン2酸共重合ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT/Eとする。)ペレットを得た。
【0129】
このPBT/Eペレットを、130℃の温度で24時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、240℃の温度で混練したこと以外は、比較例1と同じ装置で、同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1014[Pa・秒](測定温度230℃、12.16[1/秒])の、PBT/EとFBとの樹脂組成物(以下、PBT/E−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、102.03[Ω・cm]であった。
【0130】
このPBT/E−FBを用いて、比較例1で用いたものと同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度240℃としたこと以外は、比較例1と同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く糸切れ(単繊維切れ)は発生せず、単成分紡糸での曳糸性は優れていることが判り、総繊度360dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取って得た。また更に単繊維繊度の小さい(細い)繊維について紡糸を行ったところ、総繊度180dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。この180dtex−24フィラメントの未延伸糸についても全く紡糸性について問題なく、24時間の連続紡糸を行っても断糸は見られなかった。
【0131】
得られた単繊維繊度の小さい180dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは70℃の温度で送糸速度320m/分、第2ローラーは110℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず、延伸性は優れていた。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。糸物性を、表1に示す。
【0132】
[実施例3〜9]
実施例1において、表2のとおりにFB量をそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の製糸条件にて、紡糸工程においては単繊維繊度を最も小さく(細く)しうる単繊維繊度として、また延伸条件に関しては、実施例1と同様にして繊維を得た。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。カーボンブラックの含有量が増大しても、ポリエステル樹脂組成物は安定して得られ、またそれによって得られた繊維の物性は、導電性および繊維の長手方向の導電性斑は向上するが、その他の物性は低下する傾向にある。また、カーボンブラックがより高濃度(35重量%;実施例7、40重量%;実施例8、50重量%;実施例9)では、得られた繊維自体は高い導電性能を有していたものの、溶融紡糸において、やや糸切れが起こりやすい傾向が見られた。糸物性を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
[実施例10〜15]
実施例2において、表3のとおりにエイコサン2酸の共重合量をそれぞれ変更したこと以外は、実施例2と同様の製糸条件にて、紡糸工程においては単繊維繊度を最も小さく(細く)しうる単繊維繊度として、また延伸条件に関しては、実施例2と同様にして繊維を得た。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。脂肪族ジカルボン酸の共重合量が増大するに従い紡糸時の曳糸性が向上し、糸切れが無くなり、単繊維繊度を小さくしうる。糸物性を、表3に示す。
【0135】
【表3】

【0136】
[実施例16](エイコサン2酸を共重合したポリヘキサメチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを含有したエイコサン2酸共重合ポリヘキサメチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル912部(80モル部)、1,6−ヘキサンジオール1442部および、チタンテトラブトキシド0.013部を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。得られた低重合体に、エイコサン2酸を402部(20モル部)、およびチタンテトラブトキシド0.6部を添加した後、1,6−ヘキサンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のIV1.26、溶融粘度318[Pa・秒](測定温度150℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)106℃のエイコサン2酸共重合ポリヘキサメチレンテレフタレート(以後6GT/Eとする。)ペレットを得た。
【0137】
さらにこの6GT/Eペレットを60℃の温度で24時間真空乾燥したのち、160℃の温度で混練したこと以外は、比較例1と同じ装置で、同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1354[Pa・秒](測定温度150℃、12.16[1/秒])の、6GT/EとFBとの樹脂組成物(以下、6GT/E−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、102.17[Ω・cm]であった。
【0138】
この6GT/E−FBを用いて、比較例1で用いたものと同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度160℃としたこと以外は、比較例1と同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く糸切れ(単繊維切れ)は発生せず、単成分紡糸での曳糸性は優れていることが判り、総繊度360dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取って得た。また更に単繊維繊度の小さい(細い)繊維について紡糸を行ったところ、総繊度180dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。この180dtex−24フィラメントの未延伸糸についても全く紡糸性について問題なく、24時間の連続紡糸を行っても断糸は見られなかった。
【0139】
得られた単繊維繊度の小さい180dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは50℃の温度で送糸速度320m/分、第2ローラーは70℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸を25℃に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず、延伸性は優れていた。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。糸物性を、表3に示す。
【0140】
[実施例17,18]
実施例1において、表3のとおりにカーボンブラック種(実施例17、電気化学工業社製アセチレンブラック;“デンカブラック”(登録商標)、タイプHS−100、比抵抗値0.22[Ω・cm];以後ABとする。実施例18:カーボンナノチューブ;以後CNTとする。)をそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の製糸条件にて、単繊維繊度がそれぞれ最も細くしうる3.0dtex(実施例17),4.0dtex(実施例18)として、また延伸条件に関しては、実施例1と同様にして繊維を得た。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。カーボンブラックの種類が変わっても、製糸性は問題なかった。糸物性を、表3に示す。
【0141】
[実施例19〜22]
2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で、鞘成分として実施例2で用いたPBT/E−FBを用いて、また芯成分に東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート;“トレコン”(登録商標;タイプ1200S、融点(Tm)223℃、溶融粘度502[Pa・秒](測定温度260℃、12.16[1/秒])、以後PBT2と称する。)を用い、図1に示す芯鞘型の複合繊維(PBT/E−FBを鞘に配置)を得る複合紡糸を、PBT/E−FB(導電層)の割合が表4のとおりとなるように、芯と鞘の比率を変えて紡糸を行ったこと以外は、実施例2と同様の方法で溶融紡糸を行い巻き取ってポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維を更に延伸するに際し、実施例2と同様の延伸条件で表4に示す繊維を得た。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。実施例20、21においては、カーボンブラックの濃度は実施例19や22と同じであるものの、鞘成分(導電層)の割合が少ないことに由来すると思われる、実施例19や22に対する平均抵抗率Pや比Rの上昇が見られたが、製糸性は良好であった。実施例2と同様に、導電性および糸物性の優れた繊維が得られた。
【0142】
【表4】

【0143】
[実施例23、24]
実施例19〜22と同様の2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機を用いて、複合紡糸を行った。鞘成分には実施例1のPBT/S−FBを用い、また芯成分としては、実施例23および24共に、前記の3GTを用いて、図1に示す芯鞘型の複合繊維(導電層はPBT/S−FBで、実施例23および24ともに鞘に配置)を得る複合紡糸を、導電層の割合が表4のとおりに定めて紡糸を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い巻き取ってポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維を更に延伸するに際し、実施例1と同様の延伸条件で表4に示す繊維を得た。得られたポリエステル繊維は、繊維表面が全てLDAポリエステルとカーボンブラックを含有する樹脂組成物で覆われていた。実施例1と同様に、導電性および糸物性の優れた繊維が得られた。
【0144】
[実施例25]
実施例23と同様に2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で溶融紡糸を行うに際し、図3に示すように、導電層が繊維表面に3カ所持つように配設して各導電層が15%となす(導電層全体で45%)とした以外は、実施例23と同様の溶融紡糸および同様の延伸条件で延伸を行い、表4に記載の物性を有する繊維を得た。
【0145】
[比較例6]
実施例23と同様に2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で溶融紡糸を行うに際し、実施例1で用いたPBT/S−FBを導電層として芯に配置し、また鞘成分として前述の3GTを配置した以外は、実施例23と同様の方法で溶融紡糸を行い、巻き取ってポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維を更に延伸するに際し、実施例23と同様の延伸条件で、表4に示す繊維を得た。繊維表面に導電層が配置されていない(導電性を担う層が繊維表面に露出していない)ことから、導電性は実施例1や2に比べて低い導電性繊維が得られた。
【0146】
[実施例26]
実施例1〜25において得られたポリエステル繊維を、それぞれ平均繊維長が0.5、1.0、および2.0mmの長さの短繊維に切断した後、日産化学工業株式会社製コロイダルシリカ「“スノーテックスOS”(登録商標)」で処理した。次いで、東レ株式会社製ポリエステルフィルム「“ルミラー”(登録商標)QT33(厚さ100μm)」に大日本インキ化学工業株式会社製アクリル酸エステル系接着剤DICNAL K−1500(K−1500の100重量%に対し、増粘剤としてDICNAL VS−20を2重量%使用;以後「接着剤A」と称する。)を、約100μmの厚さでフィルムの片面に塗布し、この接着剤を塗布したフィルムの片面に上記の単繊維を電気植毛加工し、植毛体を作製した。植毛性(植毛の成功の度合い)については、ほぼ直立している(◎)、寝ている繊維が少し見られる(○)、半数程度繊維が寝ている(△)、直立しているものが少ない(×)と視覚的に判断して評価したところ、全てにおいて2重丸◎と優れていた。
【0147】
また、実施例1〜26において得られた繊維それぞれを用いて撚糸加工を施した後、パイル織物と、シングルトリコット編物を作成した後起毛処理したものをそれぞれ作成し、前記と同様に、接着剤Aを用いて前記のポリエステルフィルムに接着して、それぞれ布帛複合体を作製した。前記と同様、起毛性は全て優れていた。
【0148】
[実施例27]
実施例1〜25において得られたポリエステル繊維を用いて、平均繊維長が2mmの短繊維を作製した。実施例26の接着剤Aを用いて、SUS304からなる導電性カーボンブラックを5%添加したウレタン製中間層(厚さ1.5mmで金属棒端部2cmを残して覆った物)を設けた金属棒状物体Aに、上記の短繊維を用いて、前記中間層部分のみに電気植毛加工を施し、未接着短繊維を各々棒状物体から掃きとった後、ブラシローラーを得た(A1〜A25)。また、実施例1〜25を用いて実施例26と同様に撚糸加工したものを用いてパイル織物を作製し、パイルを起毛させて、更に起毛したパイル織物を1cm幅のスリット状にしたものを前記金属棒状物体Aに巻き付けて、ブラシローラー(Br1〜Br25)を得た。
【0149】
[実施例28]
実施例27において得られたブラシローラーのうち、Br1、Br7〜Br12、Br17、Br23およびBr24を、清掃装置にそれぞれ組み込んで配設したモノクロレーザープリンターを用いて長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認した。その結果、印刷開始1000枚程度でプリンター中の湿度は初期の61%から38%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では37%まで低下したものの、印刷枚数が20000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性、トナー除去性などは優れていた。また、ブラシローラーのうちBr7〜Br9、Br17、Br23およびBr24について、帯電装置にそれぞれ組み込んで同様に検討したところ、やはり印刷枚数が30000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性は優れていた。
【0150】
[実施例29]
実施例1、2,7〜13、16,17,19と22〜24において得られたそれぞれのポリエステル繊維を用いて、1つはそれを緯糸のみに用いて、経糸には、ポリエチレンテレフタレートからなる総繊度75dtexで36本の単繊維横断面が丸のマルチフィラメント延伸糸を用いて平織りした物からYシャツを作製した(衣料X1、X2,X7〜X13、X16,X17,X19とX22〜X24)。もう1つは、経糸および緯糸全てに実施例1、2,7〜13、16,17,19と22〜24において得られたポリエステル繊維を用いてYシャツを作製した(衣料Y1、Y2,Y7〜Y13、Y16,Y17,Y19とY22〜Y24)。無作為に選んだ男性10名のモニターで着衣テストを行ったところ、衣料X1、X2,X7〜X13、X16,X17,X19とX22〜X24、衣料Y1Y1、Y2,Y7〜Y13、Y16,Y17,Y19とY22〜Y24の全てにおいて、全員が着衣すると冷たく感じる(接触冷感がある)と回答し、衣料X7〜X9、X17、X23、X24、衣料Y7〜Y9、Y17、Y23、Y24の12点については、全員が着衣すると非常に冷たく感じる(接触冷感を強く感じる)と回答した。
【0151】
[実施例30]
実施例7〜9、17、23および24で得られたポリエステル繊維を用いて、これらのポリエステル繊維がそれぞれ10重量%混紡して含まれるナイロン6繊維から主としてなる大きさ1m×1mのウィルトンカーペット(パイル長:カットパイル6mm、全厚:7mm)を作製し、その上で導電加工等を施していない合成皮革からなる革靴を履いて温度23℃、湿度55%の雰囲気下で足踏みを100回行った後、カーペットの上に乗ったまま金属製のドアノブに触れる実験を行ったところ、全ての繊維の使用において、静電気の放電は起こらなかった。
【0152】
以上の如く、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物は、非常に優れた導電性を有するポリエステル繊維を用いることから、織物全体に本発明のポリエステル繊維を用いる場合はもとより、織物の一部に本発明のポリエステル繊維を用いた場合であっても、優れた導電性能あるいは電気を逃がすことのできる静電性能を有する織物となるため、例えば、幕やカーテン、人体の静電気が発生しやすい自動車、鉄道、航空機など乗り物のシート、壁材や敷物、布団、毛布および敷布などの寝具などの各種資材用途に用いることができ、優れた性能を発揮することができる。
【0153】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる編物は、織物と同様に導電性能あるいは静電性能を有する編物となるため例えば、建物の壁材や絨毯などの敷物、自動車、鉄道航空機などの乗り物のシート、壁材、敷物乗り物用シートあるいはその敷物、布団、毛布および敷布などの寝具などの各種資材用途に用いることができ、優れた性能を発揮することができる。
【0154】
また、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維や、織物、特にパイル織物や編物の更に別の用途としては、これらを用い、基盤に植設することにより植毛体あるいは布帛複合体となすことができる。これらの植毛体あるいは布帛複合体は、導電性あるいは制電性に優れていることから、手触りの優れたものとして様々な内装材となり得る。
【0155】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる衣料は、導電性に優れた繊維を用いることから、着衣時の静電気発生を抑制し体外に逃がすことができる。従って、特に静電気の発生を嫌う半導体産業の作業着や静電気が発生し難いことから埃を寄せ付けないため防塵衣として用いた場合に有用である。また、カーボンブラックが熱伝導性に優れるため、体外に熱を放散することができる接触冷感衣類や、あるいは逆に冷えた身体に直ぐに体外からの熱を取り込み得る接触温感衣類などとしても有用である。例えば、これらの機能が必要とされるゴルフウェア、ゲートボール、野球、テニス、サッカー卓球、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ホッケー、陸上競技、トライアスロン、スピードスケート、およびアイスホッケーなどのユニフォームなどのスポーツ衣料や、幼児、婦人、年輩者の衣料、その他にも靴、カバン、サポーター、靴下および登山着などのアウトドア衣料に好適に用いることができる。
【0156】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物を少なくとも一部に用いて接着してなるポリエステル繊維ブラシローラーは、導電性を有するポリエステル繊維を少なくとも一部に用いることから、電気的作用を利用することにより、効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有するため、優れた性能を発揮することができる。
【0157】
また、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維を用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、導電性を有するポリエステル繊維を少なくとも一部に用いることから、前述と同様に電気的作用を利用することにより、効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有する点で優れている。また、短繊維の繊維長を制御することにより、ブラシローラーの繊維植設密度あるいは繊維ブラシローラーの前記除去性能あるいは付与性能を目的に応じて容易に制御できる点でも優れている。特に、植設される棒状物体が主として金属からなる場合は、本発明のポリエステル繊維の導電性を制御することにより、繊維ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御することが可能であり、さらには棒状物体が金属および金属の少なくとも一部を覆う中間層とからなる場合には、中間層の材質や厚さなどを制御することでクッション性を付与し得る。従って、繊維ブラシローラー自体の前記除去性能あるいは付与性能を格段に向上せしめることができ、優れた性能を発揮することができる。
【0158】
また、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる清掃装置は、ブラシローラー自体が回転することにより、不要物を除去し清掃する場合には非常に除去性能に優れている。例えば、後述の電子写真装置などではトナーなどを電気的に除去し得る際に電子写真装置内の環境変化、特に湿度変化などがあった場合にもブラシローラーの導電性能が変動することがないため、常に安定した除去性能を有している。また、本発明のポリエステル繊維を用いたブラシローラーは、清掃装置において、対象となる物質、例えば電子写真装置においては感光体に直接接触して清掃を行う他にも、清掃活動を行う部材自身から不要物を除去して清掃装置自体を清掃するための部材としても有用であり、結果的に高性能な清掃装置となる。
【0159】
また、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる帯電装置は、ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御することで用いられる。例えば、電子写真装置などで感光体を一様に帯電させるブラシローラーとして用いられる際に、感光体を均一に帯電させることができる。また、電子写真装置内の環境変化、例えば電子写真装置の稼働中あるいは季節変化による湿度変化に対しても、ブラシローラー自体の比抵抗値は変化しないかもしくは非常に変化が小さいため、感光体の帯電斑が発現しにくいという点でも優れている。また、電子写真装置の感光体に清掃が不十分なために残存した着色剤(トナー)があった場合に、ブラシローラーは清掃ローラーとしての機能を兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がないかもしくは殆どない。加えて、電子写真装置を小型化する場合には、清掃装置および帯電装置を個別に設置せずに、兼用、すなわち清掃装置兼帯電装置としてブラシローラーのみで適用し得るため、非常に優れた性能を発揮することができる。
【0160】
また、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる除電装置は、繊維中に含有される導電性カーボンブラックなどのカーボンブラックの含有量を制御してブラシローラーの導電性(比抵抗値)を小さくすることにより、非常に優れた除電性能を有するブラシローラーとなる。特に、それを電子写真装置に用いる際には、無数の毛(繊維)からなるブラシローラーが安定かつ均一な除電効果を有していることから、除電装置の後に配設される清掃装置による清掃効果をより高めることが可能である。また、電子写真装置を小型化する場合には、ブラシローラーを用いることにより除電装置兼清掃装置として組み込むことができる。
【0161】
さらに、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる清掃装置および/または帯電装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームプリンター、複写機、ファクシミリ、多機能型複合機およびワードプロセッサーなどの帯電した感光体にレーザーで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、電子写真装置内の環境変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有していることから、得られた印刷あるいは現像物は非常に美しいものとなる。また、繊維ブラシローラーの繊維長あるいは含有するカーボンブラックの含有量などを最適化することにより、より安定した清掃・帯電・除電性能を有するため、電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品は、優れた導電性が要求される種々の用途、湿度変化等に対して安定した導電性が要求される種々の用途、さらには他の性能、例えば除電性能や帯電性能が要求される種々の用途に、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1は、実施例19〜24で得られたポリエステル繊維の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は、比較例6で得られたポリエステル繊維の概略構成を示す断面図である。
【図3】図3は、実施例25で得られたポリエステル繊維の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0164】
1:ポリエステル樹脂組成物
2:他のポリマー成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を主たる共重合成分としてランダムに共重合した共重合芳香族ポリエステルおよびカーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物が、導電層として繊維表面の少なくとも一部を形成しているポリエステル繊維において、前記共重合芳香族ポリエステル中で、ジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上で、かつ芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分の、ポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きいことを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が0.1以下である請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
平均抵抗率Pが1.0×108.0[Ω/cm]以下である請求項1または2に記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
繊維表面が全て、ポリエステル樹脂組成物で覆われてなる請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
単繊維繊度が6dtex以下である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
共重合芳香族ポリエステルの固有粘度(IV)が0.85〜2.00の範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品。
【請求項8】
繊維製品が繊維ブラシである請求項7記載のポリエステル繊維製品。
【請求項9】
繊維ブラシが電子写真装置用のブラシである請求項8記載のポリエステル繊維製品。
【請求項10】
メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を主たる共重合成分としてランダムに共重合した共重合芳香族ポリエステルおよびカーボンブラックを含有せしめたポリエステル樹脂組成物を、導電層として、繊維表面の少なくとも一部に形成せしめる、ポリエステル繊維の製造方法において、下記(ア)〜(エ)の条件を満たす前記ポリエステル樹脂組成物を用いることを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
(ア)ジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の鎖長が4以上。
(イ)芳香族ジカルボン酸を除くジカルボン酸成分とジオール成分のポリエステル主鎖を構成するメチレン基の平均鎖長が4を超えて大きい。
(ウ)ポリエステル樹脂組成物を構成する共重合芳香族ポリエステルの固有粘度(IV)が1.00〜2.50。
(エ)含有せしめたカーボンブラックの体積平均粒径Dvが前記ポリエステル樹脂組成物中で1.50μm以下。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−191398(P2009−191398A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33109(P2008−33109)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】