説明

ポリエステル繊維構造体およびその製造方法

【課題】温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりし、しかも耐久性に優れたポリエステル繊維構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維で構成されるポリエステル繊維構造体において、前記ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、スチーム処理を用いて熱応答性高分子をグラフト重合により化学結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりするポリエステル繊維構造体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりする繊維構造体は種々のものが提案されている。例えば、特許文献1では、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりする熱応答性高分子を、バインダー樹脂を用いて繊維構造体に付与することが提案されている。
【0003】
しかしながら、かかる方法で得られた繊維構造体では、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりするものの、熱応答性高分子がバインダー樹脂により付着しているため、耐久性が十分でないという問題があった。
【特許文献1】特開平6−220775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりし、しかも耐久性に優れたポリエステル繊維構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル繊維で構成されるポリエステル繊維構造体において、ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、熱応答性高分子をグラフト重合により化学結合させることにより、親水性になったり疎水性になったりし、しかも耐久性に優れたポリエステル繊維構造体が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0006】
かくして本発明によれば、「ポリエステル繊維で構成されるポリエステル繊維構造体であって、前記ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、熱応答性高分子がグラフト重合により化学結合してなることを特徴とするポリエステル繊維構造体。」が提供される。
【0007】
ただし、熱応答性高分子とは、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりする高分子微粒子である。
その際、前記の熱応答性高分子がポリ−n−イソプロピルアクリルアミドであることが好ましい。また、前記の熱応答性高分子の重量比率が、ポリエステル繊維構造体の重量に対して0.2〜5.0重量%であることが好ましい。
【0008】
本発明のポリエステル繊維構造体において、その形態としては、糸条、織編物、不織布、詰綿からなる群より選択されるいずれか1種であることが好ましい。また、JIS L1096 6.26.1A法(滴下法)により測定したウイッキング時間において、温度40℃でのウイッキング時間が温度20℃でのウイッキング時間の1.4倍以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、「ポリエステル繊維で構成されるポリエステル繊維構造体に、熱応答性高分子を触媒とともに付与したのち、スチーム処理することを特徴とする、前記のポリエステル繊維構造体の製造方法。」が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりし、しかも耐久性に優れたポリエステル繊維構造体およびその製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル繊維構造体はポリエステル繊維で構成され、かつ該ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、熱応答性高分子がグラフト重合により化学結合している。
【0012】
ここで、熱応答性高分子とは、温度が変化することにより、親水性になったり、疎水性になったりする高分子微粒子である。かかる熱応答性高分子としては、特開平6−220775号公報に開示されたもの、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリアクリロイルピペリジン、ポリ−n−プロピルアクリルアミドなどが例示される。なかでも、ポリ−n−イソプロピルアクリルアミドが特に好適である。ポリ−n−イソプロピルアクリルアミドは、低温では親水性であるが高温では疎水性に変化するので、ポリ−n−イソプロピルアクリルアミドを含むポリエステル繊維構造体(例えば、布帛)を着用すると、通常の気温条件下では、吸汗性を有し、高温の気温条件下では、汗を布帛にとどめず下に落とすことで、布が重くなることを防止することができる。しかも、熱応答性高分子が、ポリエステル繊維を形成するポリエステルにグラフト重合により化学結合しているので、熱応答性高分子がバインダー樹脂により付着した従来のポリエステル繊維構造体に比べて優れた耐久性が得られる。
【0013】
前記の熱応答性高分子の重量比率としては、ポリエステル繊維構造体の重量に対して0.2〜5.0重量%であることが好ましい。該重量比率が0.2重量%よりも小さいと、温度変化による親水性・疎水性の変化が十分に得られないおそれがある。逆に、該重量比率が5.0重量%よりも大きいと風合いが硬くなったりコストアップとなるおそれがある。
【0014】
本発明のポリエステル繊維構造体において、ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、熱応答性高分子がグラフト重合により化学結合している。
ここで、ポリエステル繊維はジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステル樹脂には、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。さらには、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル繊維でもよい。
【0015】
ポリエステル繊維を形成する樹脂中には、必要に応じて、艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上が含まれていてもよい。
【0016】
ポリエステル繊維構造体の形態としては、糸条、織編物、不織布、詰綿などが例示される。糸条の形状としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよい。さらには、通常の仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸や2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸であってもよい。
【0017】
糸条を構成する繊維の単糸繊維繊度、総繊度、単糸数は、単糸繊維繊度0.1〜10.0dtex、総繊度20〜300dtex、単糸数10〜200本の範囲であることが好ましい。また、単糸繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、くびれ付扁平、十字形、六様形、あるいは中空形などの異型断面形状であってもよい。
【0018】
次に、本発明のポリエステル繊維構造体の製造方法について、以下説明する。まず、ポリエステル繊維を用いて前記のような形態を有するポリエステル繊維構造体を得る。次いで、該ポリエステル繊維構造体に、パデング法などにより前記の熱応答性高分子を触媒とともに付与したのち、スチーム処理することにより、本発明のポリエステル繊維構造体を得ることができる。その際、スチーム処理の時間としては1〜5分であることが好ましい。また、スチーム処理のあと、乾燥および/またはキュアーすることは好ましいことである。かかるスチーム処理により、ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、熱応答性高分子がグラフト重合により化学結合する。
【0019】
かくして得られたポリエステル繊維構造体において、JIS L1096 6.26.1A法(滴下法)により測定したウイッキング時間において、温度40℃でのウイッキング時間が温度20℃でのウイッキング時間の1.4倍以上であると、通常の気温条件(20℃)下では、吸汗性を有し、高温(40℃)の気温条件下では、汗を布帛にとどめず下に落とすことで、布が重くなることを防止することができ好ましい。
【0020】
なお、本発明のポリエステル繊維構造体には、必要に応じて通常のアルカリ減量加工、染色仕上げ加工、さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(1)吸汗性
JIS L1096 6.26.1A法(滴下法)によりウイッキング時間を測定した。
【0022】
[実施例1]
通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント延伸糸条(総繊度56dtex/24fil、帝人ファイバー(株)製)を経糸に配し、通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント延伸糸条(総繊度84dtex/36fil、帝人ファイバー(株)製)を緯糸に配して目付け55g/mのポリエステルタフタ織物を製織した。
【0023】
一方、下記の水分散液を用意した。
[水分散液の組成]
・N−イソプロピルアクリルアミド 50g/l
(和光純薬製 特級)
・過硫酸アンモニウム(触媒) 5g/l
(和光純薬製 特級)
【0024】
次いで、該水分散液中に前記ポリエステルタフタ織物を浸漬し、マングルで絞った(パデング法)後、スチーム加熱装置を用いて100℃で5分間スチーミング処理を行なった後、乾熱乾燥機で130℃、5分間乾燥し、さらに170℃で1分間熱処理(キュアー)した。
【0025】
かくして得られたポリエステル繊維構造体(織物)において、ウイッキング時間は、20℃で1秒、40℃だと6秒であった。この織物に汗を含浸させたところ、20℃だと生地重量対比100%の汗を含んだが、40℃だと70%しか含まず、高温時に織物が重くならなかった。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、下記の水分散液を用いること以外は実施例1と同様にした。
[水分散液の組成]
・SR−1000 50g/l
(高松油脂製)
【0027】
かくして得られたポリエステル繊維構造体(織物)において、20℃でも、40℃でも、ウイッキング1秒のウィッキング性を示した。この布帛に汗を含浸させたところ、20℃でも40℃でも生地重量対比100%の汗を含み、温度が上がると軽くなる効果を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりし、しかも耐久性に優れたポリエステル繊維構造体およびその製造方法が提供される。かかるポリエステル繊維構造体は、スポーツ衣料などの好適に使用することができ、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維で構成されるポリエステル繊維構造体であって、前記ポリエステル繊維を形成するポリエステルに、熱応答性高分子がグラフト重合により化学結合してなることを特徴とするポリエステル繊維構造体。
ただし、熱応答性高分子とは、温度が変化することにより、親水性になったり疎水性になったりする高分子微粒子である。
【請求項2】
前記の熱応答性高分子がポリ−n−イソプロピルアクリルアミドである、請求項1に記載ポリエステル繊維構造体。
【請求項3】
前記の熱応答性高分子の重量比率が、ポリエステル繊維構造体の重量に対して0.2〜5.0重量%である、請求項1または請求項2に記載のポリエステル繊維構造体。
【請求項4】
ポリエステル繊維構造体が、糸条、織編物、不織布、詰綿からなる群より選択されるいずれか1種の形態を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル繊維構造体。
【請求項5】
JIS L1096 6.26.1A法(滴下法)により測定したウイッキング時間において、温度40℃でのウイッキング時間が温度20℃でのウイッキング時間の1.4倍以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル繊維構造体。
【請求項6】
ポリエステル繊維で構成されるポリエステル繊維構造体に、熱応答性高分子を触媒とともに付与したのち、スチーム処理することを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル繊維構造体の製造方法。

【公開番号】特開2007−39845(P2007−39845A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226542(P2005−226542)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】