説明

ポリエチレン微多孔膜

【課題】薄膜でありながら高強度であり、かつイオン交換特性を保持できる補強材として好適なポリエチレン微多孔膜を提供する。
【解決手段】空孔率78〜93%、厚さ5〜50μm、表面の平均開孔率が10〜40%、および断面の平均孔面積が0.05〜1.0μm2であることを特徴とするポリエチレン微多孔膜。ポリエチレン組成物の揮発性溶剤による調整、溶融混練、押し出し冷却固化、一次延伸、溶剤乾燥、二次延伸により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の多孔構造、なかでも特定の表面平均開孔率および断面の平均孔面積を有するポリエチレン微多孔膜に関する。本発明のポリエチレン微多孔膜は、薄膜でありながらイオン交換膜の補強材として良好な、強度とイオン交換特性の保持性能を同時に有する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロトン伝導性イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子電解質型燃料電池の研究が活発に進んでいる。
現在使用されるイオン交換膜は、通常厚さ50〜200μmであり、特にスルホン酸基を含有するパーフルオロカーボン重合体が、基本特性に優れるため広く検討されている。しかし、高出力密度を得るためには、現在のイオン交換膜は抵抗が充分には低くなく、スルホン酸基濃度を増加する方法や膜厚を薄くする方法がとられている。
【0003】
しかしながら、スルホン酸基濃度が著しく増加すると、イオン交換膜の機械的強度が低下する、さらには、燃料電池の長期運転による膜強度低下が進行しやすくなる、といった耐久性低下の問題が生じる。また、膜厚を薄くすると膜の機械的強度が低下し、ガス拡散電極と接合させるときなどの加工においてハンドリング性が低下し、例えば、電極と電解質膜のホットプレス接合時に膜の破壊によるガス漏れが発生する等の問題が生じる。
【0004】
そこで、イオン交換膜の交換特性を低下させることなく、機械的強度を向上させる提案がなされている。例えば、特許文献1は、イオン交換樹脂を繊布に埋め込む方法を提案している。また特許文献2〜4では、高分子多孔質膜の空隙(孔部分)にイオン交換樹脂を含有させることで、交換特性、機械的強度の両立を提案している。特許文献5は、スルホン酸基を含有するパーフルオロカーボン重合体からなる高分子電解質にスルホン化高分子からなる補強材による高強度のイオン交換膜を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−57693号公報
【特許文献2】特開平6−29032号公報
【特許文献3】特開平8−259710号公報
【特許文献4】特開2005−166557号公報
【特許文献5】特開2002−216800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、薄膜でありながら高強度であり、かつイオン交換特性を保持できる補強材として好適なポリエチレン微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の多孔構造を持つことで、薄膜でありながらイオン交換膜の補強材として良好な、強度とイオン交換特性の保持性能を同時に有する膜が提供できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、空孔率78〜93%、厚さ5〜50μm、表面の平均開孔率が10〜40%、断面の平均孔面積が0.05〜1.0μm2のポリエチレン微多孔膜である。
【0008】
本発明の膜は、(I)重量平均分子量が6×10以上の超高分子量ポリエチレンを1重量%以上含むポリエチレン組成物と大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調整し、(II)これを溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押出し冷却固化してゲル状成形物を得て、(III)ゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し、(IV)一次延伸後あるいは一次延伸と同時に溶剤の乾燥を行い、残存溶媒量が5〜30重量%の一次延伸成形物を得て、(V)一次延伸成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)することで好ましく得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエチレン微多孔膜は、イオン交換膜の補強材として良好な強度とイオン交換特性の保持性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエチレン微多孔膜は、内部に多数の微細孔を有し、それらの微細孔が連結された連通する細孔からなる多孔構造を有し、特定の空孔率、厚さ、表面平均開孔率、断面平均孔面積を有する。
【0011】
[表面の平均開孔率、断面の平均孔面積]
本発明のポリエチレン微多孔膜は、表面の平均開孔率が10〜40%であり、断面の平均孔面積が0.05〜1.0μm2であることを特徴とするものである。
表面の平均開孔率は好ましくは10〜35%であり、さらに好ましくは、10〜30%である。また、断面の平均孔面積は好ましくは0.05〜0.8μm2である。
【0012】
本発明における表面の平均開孔率および断面の平均孔面積は、表面および断面について電子顕微鏡で撮影した画像をコントラストの最大強度255に対して閾値175を設定し、二値化した像を得ることにより算出できる。断面の平均孔面積は、観察断面に存在する開孔数および開孔部分の総面積を求め、総面積を開孔数で除して求めることができる。
【0013】
上記の表面の平均開孔率が10%より小さい場合は、イオン交換樹脂を均質にかつ高密度に含浸させるための制約条件(例えば、固形分濃度や溶液粘度等)が厳しくなり、工業的な含浸加工が困難になる。一方、平均開孔率が40%を超えるとイオン交換樹脂を含浸した後の膜の強度が不足する。したがって、平均開孔率が所定の範囲を満たさない場合は、いずれもイオン交換膜の成型が困難である。
【0014】
また、断面の平均孔面積が0.05μm2よりも小さい場合は、ポリエチレン微多孔膜中にイオン交換樹脂を均質かつ高密度に含浸することが困難であり、一方、1.0μm2を超える場合は、イオン交換樹脂を含浸した後の膜の強度が不足し、イオン交換樹脂膜の成型が困難である。
【0015】
[空孔率]
本発明のポリエチレン微多孔膜において、空孔率(ε)は、ポリエチレン微多孔膜の目付け(g/m)、真密度(g/cm)、膜厚(μm)より下記式により算出する。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、Wsは目付け(g/m)、dsはポリエチレンの真密度(g/cm)、tは膜厚(μm)である。
【0016】
本発明のポリエチレン微多孔膜の空孔率は78〜93%であり、好ましくは80%〜93%、さらに好ましくは83%〜93%である。空孔率が78%より小さいとイオン交換性能が低下する。一方、空孔率が93%を超えるとイオン交換樹脂膜の力学強度が不十分となりハンドリング性が低下する。
【0017】
[厚み]
本発明のポリエチレン微多孔膜は、薄くても強度に優れることを特徴とし、ポリエチレン微多孔膜の厚さが5〜50μmにおいて好適に用いることができ、好ましくは9〜40μm、さらに好ましくは12〜35μmである。ポリエチレン微多孔膜の厚さが50μmを超えると、イオン交換性能が低下する。一方、厚さが5μmより薄いと力学強度が不十分となり、ポリエチレン微多孔膜の加工時等におけるハンドリング性が低下する。
【0018】
[空気透過時間]
本発明のポリエチレン微多孔膜は、1μmル厚みあたりの100cc空気透過時間が1.0秒以下であることが好ましく、0.8秒以下であることがさらに好ましい。1マイクロメートル厚みあたりの100cc空気透過時間が1.0秒を超えると、ポリエチレン微多孔膜へのイオン交換樹脂の含浸時間を長く要するため、工業的な成型において問題を有するため好ましくない。
【0019】
また、本発明のポリエチレン微多孔膜は、厚みに関わらず、該ポリエチレン微多孔膜を100ccの空気が透過するために要する時間が10秒以下であることが好ましく、8秒以下であることがさらに好ましく、6秒以下であることが特に好ましい。
ポリエチレン微多孔膜を100ccの空気が透過するために要する時間が10秒を超えるとポリエチレン微多孔膜へのイオン交換樹脂の含浸時間を長く要するため好ましくない。
【0020】
[引張強度]
本発明のポリエチレン微多孔膜は、少なくとも一方向の引張強度が5MPa〜25MPaであることが好ましく、5MPa〜20MPaであることがさらに好ましい。ポリエチレン微多孔膜の強度が5MPaより低いとイオン交換樹脂膜の力学強度が不十分となりハンドリング性が低下する。一方、ポリエチレン微多孔膜の強度を25MPaより高くすると、ポリエチレン微多孔膜そのものの製膜が困難になるため好ましくない。
【0021】
[ポリエチレン]
本発明のポリエチレン微多孔膜は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜である。本発明に用いられるポリエチレンとしては、高密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。
【0022】
また、ポリエチレン以外の成分として、少量の1種類またはそれ以上の他種ポリマー、特にポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、またはポリプロピレンと少量のポリエチレンとの共重合体などのアルケン−1−ポリマーを含有させてもよい。また、ポリオレフィンとして性質の相互に異なるポリオレフィンを用いる、すなわち相互に相溶性の乏しい重合度や分岐性の異なる、換言すれば結晶性や延伸性・分子配向性を異にするポリオレフィンを組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明に用いるポリエチレンとして、重量平均分子量が少なくとも6×10である超高分子量ポリエチレンを1重量%以上含むポリエチレン組成物であることが好ましく、超高分子量ポリエチレンを5重量%以上含む組成物であることがさらに好ましく、特に該超高分子量ポリエチレンを10〜40重量%含む組成物であることが好ましい。また、2種以上のポリエチレンを適量配合することによって、延伸時のフィブリル化に伴うネットワーク網状構造を形成させ、空孔発生率を増加させる効用がある。
【0024】
[ポリエチレン微多孔膜の製造方法]
本発明のポリエチレン微多孔膜は、(I)重量平均分子量が6×10以上の超高分子量ポリエチレンを1重量%以上含むポリエチレン組成物と大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調整し、(II)これを溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押出し冷却固化してゲル状成形物を得て、(III)ゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し、(IV)一次延伸後あるいは一次延伸と同時に溶剤の乾燥を行い、残存溶媒量が5〜30重量%の一次延伸成形物を得て、(V)一次延伸成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程により好ましく製造することができる。
【0025】
工程(I)ではポリエチレン組成物と大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調整する。ここで溶液は好ましくは熱可逆的ゾル・ゲル溶液であり、すなわち該ポリエチレンを該溶剤に加熱溶解させることによりゾル化させ、熱可逆的ゾル・ゲル溶液を調整する。工程1)における大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤としてはポリエチレンを十分に溶解できるものであれば特に限定されない。以下溶媒の大気圧における沸点を括弧内に記すが、好ましくはテトラリン(206−208°C)、エチレングリコール(197.3°C)、デカリン(187−196℃)、トルエン(110.6°C)、キシレン(138−144℃)、ジエチルトリアミン(107℃)、エチレンジアミン(116℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)、ヘキサン(69°C)等の液体溶剤が好ましく挙げられ、これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでもデカリン、ヘキサン、キシレンが好ましい。
【0026】
工程(I)の溶液においては、ポリエチレン組成物の濃度(固形分濃度)を10〜40重量%とすることが好ましい。ポリエチレン組成物の濃度を低くすると、表面の開孔率や断面の平均孔面積が大きくなる傾向があり、特にポリエチレン微多孔膜の製膜において切断の発生頻度が増加する。また、ポリエチレン組成物の濃度を高くすると表面の開孔率や断面の平均孔面積が小さくなる傾向がある。ポリエチレン組成物の濃度は好ましくは15〜40重量%である。
【0027】
工程(II)は工程(I)で調整した溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押出し、冷却固化してゲル状成形物を得る。好ましくはポリエチレン組成物の融点乃至融点+65℃の温度範囲においてダイより押出して押出物を得、ついで前記押出物を冷却してゲル状成形物を得る。成形物としてはシート状に賦形することが好ましい。冷却は水溶液または有機溶媒へのクエンチでもよいし、冷却された金属ロールへのキャスティングでもどちらでもよいが、一般的には水またはゾル・ゲル溶液時に使用した揮発性溶媒へのクエンチによる方法が使用される。
【0028】
工程(III)はゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)する工程である。工程(III)の一次延伸工程は、縦延伸のみもしくは横延伸のみの一軸延伸でも二軸延伸でも好適に用いることができる。二軸延伸においては、縦延伸、横延伸を別々に実施する逐次二軸延伸、縦延伸、横延伸を同時に実施する同時二軸延伸いずれの方法も好適に用いることが可能である。一次延伸は特に縦延伸のみの一軸延伸が好ましい。一次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、好ましくは1.1倍から3倍である。
【0029】
工程(IV)は、工程(III)の一次延伸後あるいは一次延伸と同時に、溶剤の乾燥を行い、残存溶媒量が5〜35重量%の一次延伸成形物を得る工程である。ここで、工程(IV)の乾燥工程はゲル状成形物が変形しない温度であれば特に制限なく実施されるが、常温下で行われることが特に好ましい。
【0030】
また乾燥工程(IV)は、工程(III)の一次延伸と同時に行っても良く、工程(III)の一次延伸に次いで行っても良い。乾燥工程は段階的に、例えば予備乾燥と本乾燥といった2段階としても良い。例えば予備乾燥しながら工程(III)の一次延伸を行い、しかる後、乾燥処理(本乾燥)を行って、工程(V)の二次延伸に供しても良いし、また予備乾燥と本乾燥の間に工程(III)の一次延伸を行い、工程(V)の二次延伸に供しても良い。
【0031】
すなわち乾燥工程(IV)は、少なくとも工程(V)の二次延伸の前に行う。乾燥工程(IV)により得られ工程(V)の二次延伸に供される一次延伸成形物の残存溶媒量は、好ましくは5重量%〜35重量%であり、さらに好ましくは8重量%〜29重量%である。
延伸は、乾燥を制御し、溶剤を好適な状態に残存させた状態で行うことが出来る。
【0032】
工程(V)は、一次延伸成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程である。
ここで工程(V)の二次延伸工程は、二軸延伸が好ましく、縦延伸、横延伸を別々に実施する逐次二軸延伸、縦延伸、横延伸を同時に実施する同時二軸延伸、いずれの方法も好適に用いることが可能である。また縦方向に複数回延伸した後に横方向に延伸する方法、縦方向に延伸し横方向に複数回延伸する方法、逐次二軸延伸した後にさらに、縦方向および/または横方向に1回もしくは複数回延伸する方法も好ましい。
【0033】
二次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は好ましくは50〜100倍である。延伸倍率を大きくすると、表面の開孔率や断面の平均孔面積が大きくなる傾向があり、特にポリエチレン微多孔膜の製膜において切断の発生頻度が増加する。また、延伸倍率を低くすると表面の開孔率や断面の平均孔面積が小さくなる傾向がある。延伸は、乾燥を制御し、上述のごとく溶剤を好適な状態に残存させた状態で行うことが出来る。好ましい延伸温度は85℃〜140℃である。
【0034】
また(V)の二次延伸工程に次いで熱固定処理を行っても良く、好ましい熱固定温度は110〜140℃である。熱固定温度を低くすると表面の開孔率や断面の平均孔面積が大きくなる傾向がある。
この製法により、従来の方法では、ゲル状組成物からの溶剤除去時の脱溶剤に伴い収縮していたポリエチレン組成物を、クエンチ時に形成した空孔を維持したまま、あるいは、形成した空孔を成長させながら縦方向および横方向に二軸延伸を行うことができるため高空孔率のポリエチレン微多孔膜を提供することが可能になる。
【0035】
[用途]
上記のような物性から本発明のポリエチレン微多孔膜は、特定の多孔構造をもち、薄膜でありながら高強度であり、かつイオン交換特性を保持できる補強材として好適である。固体高分子型燃料電池の構成部材であるプロトン伝導性ポリマーからなる電解質膜における、電解質膜の性能低下を抑えながら、強度付与を実現するポリエチレン微多孔膜として優れた特性を有する。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(1)目付け
サンプルを10cm×10cmに切り出し重量を測定する。この重量を面積で割ることにより1m当たりの重量である目付けを求めた。
【0037】
(2)膜厚
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製 ライトマチックVL−50)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0038】
(3)空孔率
空孔率εは以下の式から算出した。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、Wsは坪量(g/m)、dsはポリエチレンの真密度(g/cm)、tは膜厚(μm)である。
【0039】
(4)空気透過時間および1μm厚みあたりの空気透過時間
空気透過時間および1μm厚みあたりの100cc空気透過時間τは以下のように求めた。
JIS P8117に従ってポリエチレン微多孔膜の空気透過時間(秒/100cc)Tを測定した。
上記の空気透過時間と膜厚みから下記式により1μm厚みあたりの100cc空気透過時間を求めた
τ = T/t
ここで、TはJIS P8117に従い測定した空気透過時間(秒/100cc)、tは膜厚(μm)である。
【0040】
(5)引張強度
引張試験機(オリエンテック社製 RTE−1210)にて、短冊状の試験片(幅15mm、長さ50mm)を 200mm/分の速度で引っ張り、引張強度を求めた。
【0041】
(6)重量平均分子量(Mw)
ポリエチレン試料をo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、GPC(Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム;GMH6−HTおよびGMH6−HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行った。
【0042】
(7)平均開孔率
平均開孔率は以下のように算出した。
ポリエチレン微多孔膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて所定の倍率(1000倍〜25000倍)で撮影した。得られた撮影画像をコントラストの最大強度255に対して閾値175を設定して二値化を行った。二値化した画像の画像解析から開孔部分の総面積を求め、観測面積全体に占める比率の平均値を算出し、平均開孔率とした。
【0043】
(8)平均孔面積
平均孔面積は以下のように算出した。
ポリエチレン微多孔膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて所定の倍率(1000倍〜25000倍)で撮影した。得られた撮影画像をコントラストの最大強度255に対して閾値175を設定して二値化を行った。二値化した画像の画像解析により、所定の範囲に存在する開孔数および開孔部分の総面積を求め、総面積を開孔数で除して平均孔面積とした。
【0044】
[実施例1]
ポリエチレン樹脂として、GUR(登録商標)2126(Ticona社製、重量平均分子量460万)とGUR(登録商標)X143(Ticona社製、重量平均分子量56万)を用いた。GUR2126とGURX143を1:9の重量比にて配合し、ポリエチレン樹脂総量の濃度が30重量%となるようにしてデカリン(新日鐵化学製;デカヒドロナフタレン)と混合し、ポリエチレン溶液を調製した。
このポリエチレン溶液を温度160℃でダイよりシート状に押出し、ついで前記押出物を水浴中で冷却し、ゲル状シートを作製した。
該ゲル状シートを70℃の温度雰囲気下にて20分間、予備乾燥を行い、その後、室温下で長手方向に1.5倍で(III)の一次延伸をした後に、本乾燥を60℃の温度雰囲気下にて5分間行った。本乾燥後の一次延伸成形物中に残存する溶剤は20重量%であった。本乾燥を完了した後、(V)の二次延伸として該一次延伸成形物を長手方向に温度100℃にて倍率5.5倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度125℃にて倍率13倍で延伸し、その後直ちに120℃で熱処理(熱固定)を行って、二軸延伸ポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜は好適な多孔構造(表面の平均開孔率、断面の平均孔面積、空孔率)を有し、ハンドリング性にも優れた基材であった。
得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、GUR2126とGURX143を3:7の重量比にて配合し、ポリエチレン樹脂総量の濃度が30重量%となるようにデカリンと混合し、ポリエチレン溶液を調製した以外は同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
なお、得られたポリエチレン微多孔膜は、強度にも優れ、ハンドリング性に優れた基材であった。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、ベーステープの予備乾燥後の一次延伸を長手方向に1.2倍で行った以外は同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
なお、得られたポリエチレン微多孔膜は、多孔構造、ハンドリング性ともに好適な基材であった。
【0047】
[実施例4]
実施例1において、GUR2126とGURX143を1:9の重量比にて配合し、ポリエチレン樹脂総量の濃度が20重量%となるようにデカリンと混合し、ポリエチレン溶液を調製した以外は同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
なお、得られたポリエチレン微多孔膜は、多孔構造、ハンドリング性ともに好適な基材であった。
【0048】
[実施例5]
実施例1において、(V)の二次延伸工程での縦方向の延伸倍率を4倍、横方向の延伸倍率を11倍とした以外は同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
なお、得られたポリエチレン微多孔膜は、多孔構造、ハンドリング性ともに好適な基材であった。
【0049】
[実施例6]
実施例1において、熱処理(熱固定)温度を135℃とした以外は同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
なお、得られたポリエチレン微多孔膜は、多孔構造、ハンドリング性ともに好適な基材であった。
【0050】
[比較例1]
市販のポリエチレン微多孔膜 ソルポア(登録商標)(品番;7P03A)の物性を表1に示す。
ソルポアは、表面の平均開孔率および断面の平均孔面積ともに好適な範囲を超えた基材であり、イオン交換樹脂膜としてハンドリング性が悪く適さなかった。
【0051】
[比較例2]
実施例2において、ゲル状シートの予備乾燥および(III)の一次延伸を行わなかった以外は同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
得られたポリエチレン微多孔膜は、表面の平均開孔率および断面の平均孔面積が低い基材であり、イオン交換樹性能が不足し適さなかった。
【0052】
[比較例3]
ポリエチレン樹脂として、GUR2126(Ticona社製、重量平均分子量460万)とGURX143(Ticona社製、重量平均分子量56万)を用いた。GUR2126とGURX143を3:7の重量比にて配合し、ポリエチレン樹脂総量の濃度が30重量%となるようにしてデカリン(新日鐵化学製;デカヒドロナフタレン)2重量%およびパラフィン(松村石油研究所;スモイルP−350P)68重量%と混合し、ポリエチレン溶液を調製した。このポリエチレン溶液から実施例1と同様にして、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。
該ベーステープの予備乾燥および(III)の一次延伸を行わずに、60℃の温度雰囲気下にて20分間、本乾燥を行った後、(V)の二次延伸および熱固定を実施例1と同様に行い、続いて、フィルム中に残存するパラフィンを洗浄溶媒に浸漬して除去した後に120℃の温度下にて加熱乾燥を施し、二軸延伸ポリエチレン微多孔膜を得た。
なお、得られたポリエチレン微多孔膜は、表面の平均開孔率および断面の平均孔面積が低い基材であり、イオン交換性能が不足し、イオン交換樹脂膜としてハンドリング性が悪く適さなかった。得られたポリエチレン微多孔膜の物性を表1に示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリエチレン微多孔膜は、固体高分子型燃料電池の構成部材であるプロトン伝導性ポリマーからなる電解質膜における、電解質膜の性能低下を抑えながら、薄膜化、強度付与を実現する支持体として有効に活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔率78〜93%、厚さ5〜50μm、表面の平均開孔率が10〜40%、および断面の平均孔面積が0.05〜1.0μm2であることを特徴とするポリエチレン微多孔膜。
【請求項2】
1μm厚みあたりの100cc空気透過時間が1秒以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項3】
少なくとも一方向の引張強度が5〜25MPaであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項4】
該微多孔膜の100cc空気透過時間が10秒以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項5】
重量平均分子量が6×10以上の超高分子量ポリエチレンを1重量%以上含むポリエチレン組成物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項6】
燃料電池の電解質を保持するために用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項7】
(I)重量平均分子量が6×10以上の超高分子量ポリエチレンを1重量%以上含むポリエチレン組成物と大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調整し、(II)これを溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押出し冷却固化してゲル状成形物を得て、(III)ゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し、(IV)一次延伸後あるいは一次延伸と同時に溶剤の乾燥を行い、残存溶媒量が5〜30重量%の一次延伸成形物を得て、(V)一次延伸成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエチレン微多孔膜の製造方法。
【請求項8】
一次延伸における延伸倍率が1.1〜3倍であることを特徴とする請求項7に記載のポリエチレン微多孔膜の製造方法。

【公開番号】特開2011−241361(P2011−241361A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117351(P2010−117351)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】