説明

ポリエチレン繊維、その使用およびその製造方法

本発明は、ポリマーを溶融紡糸して得られる新規のポリエチレンポリマー繊維、該繊維の使用、前記繊維の製造方法および前記繊維を含む製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンポリマーを溶融紡糸して得られるポリエチレンポリマー繊維、該繊維の使用、および前記繊維の製造方法に関する。さらに本発明は、ヒートシール可能なフィルターペーパー、複合繊維、エアレイド製品、水流交絡製品および不織布製品に関する。
【背景技術】
【0002】
紙状の基材(例えばティーバッグ、コーヒーパッド)の製造において、木材パルプの代わりに合成パルプを使用することは、例えば米国特許第4,049,493号などにより当該技術分野において公知である。特にティーバッグ紙は、バッグをヒートシールできるように、その組成は天然繊維が約75%、合成素材が約25%となっている。
【0003】
米国特許第5,173,154号は、天然繊維からなる第1層とヒートシール可能な合成繊維からなる第2層とを含むティーバッグ紙を開示しており、その重量比は第1層が60〜85%、第2層はその残りにあたる約15〜40%である。このティーバッグ紙は、バッグがヒートシール可能な面を有するため、特殊なティーバッグ自動高速包装機で加工することができるとされている。
【0004】
合成パルプの製造方法については、例えば米国特許第4,049,492号や第4,049,493号などによりいくつか当該技術分野において公知であるが、その製造方法は一般に複雑であり、有機分散剤中で固形のポリオレフィンフィブリッドを精製する工程と、該分散剤を水で置換してポリオレフィンフィブリッドを含む本質的に水性のスラリーを形成させる工程とを含む。
【0005】
従って、例えば紙状の基材、特にヒートシール可能なフィルターペーパーの製造において、木材パルプの代替として有用であって、容易かつ経済的に製造可能な合成ポリマー素材が現在も求められている。
【0006】
ポリエチレン、そのコポリマーおよびそのポリマーブレンドは有利な特性を持つことからポリエチレン繊維は多くの用途に使用されており、このことは当該技術分野において公知である。ポリエチレンは、熱可塑性ポリマーで化学安定性に優れており、低価格で入手できる。ポリエチレンポリマーを溶融紡糸することによって、様々な特性のポリマー繊維を製造することができる。しかし、溶融紡糸工程においては、ポリマー素材の特定の性質を考慮しなければならない。溶融紡糸工程における重要なパラメータは、分子量、メルトフローインデックス(MFI)および原料の分子量分布であり、これらは製造される繊維の特性プロファイルにとっても重要なものである。
【0007】
一般に、MFIが5g/10分未満のポリマーを溶融紡糸することは可能である。しかし、このような高粘度のポリマーを溶融紡糸するには高圧を加える必要があり、これにはコストがかかる。さらに、このようなポリマーの溶融紡糸における最高速度は、MFIが約5〜100g/10分、特に約5〜40g/10分のポリマーで得られる速度と比べると極めて低くなる。
【0008】
一方、ポリマーのMFI値が高すぎるとポリマーの粘度は低くなり、繊維をノズル口より引き出すことができなくなる。従って、低粘度ポリマーの場合、溶融紡糸によって長繊維を得ることはできない。また、MFIの高い(100g/10分超)ポリマーを溶融紡糸して得られる繊維片は、機械的安定性が低く、例えば製織などのさらなる処理に不向きである。
【0009】
従って、溶融紡糸工程により、ポリマーメルトの流動学的性質に関する原料の品質には大きな制約がある。その結果、溶融紡糸による繊維の製造に適したポリマーのMFI値は、一定の範囲、すなわち5g/10分超から約100g/10分以下、特に5g/10分超から約40g/10分以下の範囲でなければならない。
【0010】
しかし、ヒートシール可能なフィルターペーパーにおいて、MFIが5g/10分超から約100g/10分以下であるポリマーからなるポリエチレン繊維を合成パルプの代わりに使用すると、フィルターペーパーを製造する際の特に乾燥ユニット、およびフィルターペーパーをヒートシールする際のティーバッグ包装機において、機械部品上に付着物が蓄積することが分かっている。このような付着物の蓄積は機械の性能に悪影響を及ぼすため、ヒートシール可能なフィルターペーパーにおけるこのような公知のポリエチレンポリマー繊維の使用は不適となっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
先行技術におけるこの問題を克服するために、公知のポリエチレン繊維を電離放射線を用いて架橋すると、驚くべきことに、この架橋ポリマー繊維を、特にヒートシール可能なフィルターペーパーにおいて、合成パルプの代替として見事に使用できることが分かった。特に、フィルターペーパーを製造する際の特に乾燥ユニット、およびフィルターペーパーをヒートシールする際のティーバッグ包装機において、機械部品上に付着物が蓄積しない。
【0012】
従って、本発明は、MFIが5g/10分超から約100g/10分以下、好ましくは5g/10分超から約40g/10分以下、特に10g/10分超から約40g/10分以下のポリマーを溶融紡糸して得られるポリマー繊維であって、溶融紡糸工程後に電離放射線で処理されることを特徴とするポリマー繊維に関する。架橋した繊維のMFI値は、5g/10分以下、好ましくは約2g/10分以下、例えば約1.5g/10分以下または約1g/10分以下である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
繊維の製造に適したポリマーは特に限定されず、溶融紡糸によるポリマー繊維の製造に有用であって、当業者に公知のポリマーであればいずれも使用できる。このようなポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、熱可塑性エラストマーまたはこれらの混合物を含むポリマーが挙げられる。
【0014】
本発明の繊維の製造に使用されるポリマーはポリエチレンである。ポリエチレンはホモポリマーでも、コポリマーでもよく、例えばポリエチレンホモポリマー、ポリエチレン/ポリプロピレンコポリマーなどのポリエチレンコポリマーなどが例として挙げられる。また、ポリマーの1つとしてポリエチレンを含むポリマーブレンドでもよく、例えばポリエチレン/ポリプロピレンブレンドなどが例として挙げられる。さらに、上記したホモポリマー、コポリマーおよび/またはポリマーブレンドの混合物でもよく、ポリエチレンベースの熱可塑性エラストマー(TPE)などが例として挙げられる。
【0015】
本発明の一実施形態において、ポリマー繊維に使用されるポリマーは、ポリエチレン、ポリエチレンコポリマー、またはポリマーの1つとしてポリエチレンを含むポリマーブレンドを本質的に含む。使用されるポリエチレンは、ポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリマーの1つとしてポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーを含むポリマーブレンドのいずれであってもよい。好ましいポリエチレンのコポリマーまたはポリマーブレンドは、ポリエチレンと、プロピレンや1−ブテン(好ましくはプロピレン)などのα−オレフィンとのコポリマーまたはポリマーブレンドである。好ましくは、α−オレフィン(例えばプロピレン)を約1〜15重量%、より好ましくは約2〜9重量%含むコポリマーまたはポリマーブレンドとしてのポリエチレンであって、最も好ましくはメルトフローインデックスが約5〜20g/10分であるポリエチレンが使用される。具体的には、エチレンとプロピレンとのランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたはポリマーブレンドが使用される。ポリエチレンのホモポリマー、コポリマーまたはポリマーブレンドは、ポリプロピレン(例えばメルトフローインデックスが約5〜20g/10分のポリプロピレン)などのプロピレンポリマーと混合してもよく、かつ/またはプロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エチルなどのポリマーとエチレンとのコポリマーと混合してもよい。ポリマー中のポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーの量としては、好ましくは約70〜100重量%、より好ましくは約80〜95重量%、例えば約85〜90重量%である。最も好ましいポリマーは、ポリエチレンホモポリマーである。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリマーはポリエチレンベースのTPE(熱可塑性エラストマー)である。TPEは当該技術分野において「熱可塑性ゴム」とも呼ばれる。TPEは、熱可塑性と弾性とを合わせ持つ素材からなるコポリマーまたはポリマーブレンドの一種である。一般にTPEは、ポリエチレンまたはポリプロピレンとゴムとのブレンドであり、例えばポリエチレン/EPDMブレンド、ポリプロピレン/EPDMブレンド(EPDM:エチレンプロピレンジエンモノマーゴム)などが挙げられる。EPDMにおいて、モノマーはMクラス(ASDN基準D−1418の分類を参照)に属するものが好ましい。一般的なEPDMゴムは、DCPD(ジシクロペンタジエン)、ENB(エチリデンノルボルネン)およびVNB(ビニルノルボルネン)である。ポリエチレン/EPDMブレンドにおける一般的なポリエチレン含有量は、約50〜95重量%、より好ましくは約70〜90重量%である。EPDMゴムにおける一般的なエチレン含有量は、約45〜75重量%、好ましくは約55〜70重量%である。エチレン含有量が高いほどポリマーを高充填することが可能となり、よって混合や押出を良好に行うことができる。ポリマーブレンド中に一般に約2.5〜12重量%、好ましくは約5〜10重量%含まれるジエンは、架橋として機能し、最終用途において不要な粘性、クリープ(変形)や浮き上がり(float)が生じるのを防止する。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施形態において、ポリエチレンはHDPE、LDPE、LLDPEまたはこれらの混合物である。HDPE、LDPEまたはLLDPEは、上記ポリマーブレンドに好ましく使用される。またポリエチレンは、ポリエチレン/EVA(エチレン酢酸ビニル)コポリマーであってもよく、これは上記ポリマーブレンドに好ましく使用される。一般に、EVAにおける酢酸ビニルの含有量は、約5〜45重量%、好ましくは約10〜40重量%であり、好ましくはエチレンがその残りを占める。EVAベースのコポリマーは有利な弾性を有する上に、他の熱可塑性物質と同様に加工することができる。
【0018】
本明細書において「本質的に含む」とは、それぞれの成分量がそれぞれの組成物の全重量に対して少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、特に少なくとも95重量%、例えば少なくとも99重量%であることを意味する。本発明の好ましい一実施形態において、ポリマー繊維に使用されるポリマーは、ポリエチレン、またはそのコポリマーもしくはポリマーブレンドを唯一のポリマー成分として含む。
【0019】
特に上述した本発明の繊維においてポリエチレンを使用するさらなる利点は、一般にポリエチレンが、特にポリプロピレンまたはポリエステルなどの他のポリマーに比べてより良好な耐薬品性、特に耐酸性(フッ化水素酸などに対する耐酸性)を有する点である。このため、本発明のポリエチレン繊維および該ポリエチレン繊維から製造される製品は、他のポリマーから製造される公知の製品に比べて耐薬品性が高い。従って、上述したポリエチレンまたはポリエチレンのコポリマーもしくはポリマーブレンドを含有しかつ電離放射線処理が施された本発明の繊維を含む製品は、放射線により付与される優れた耐熱性と、ポリエチレン素材により付与される耐薬品性とを合わせ持つ。
【0020】
本発明の繊維の製造に使用されるポリマーは、さらなるポリマーおよび添加剤を含んでいてもよく、例として着色剤、滑沢剤、紡糸助剤、機能性コポリマー、低分子量ポリプロピレン、ポリプロピレンワックス、アタクチックポリプロピレン、反応性成分、熱安定剤、紫外線安定剤などが挙げられる。これらの添加剤は、最終的に得られる繊維の使用目的や溶融紡糸工程の特有の要件に応じて当業者が選択することができる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、ポリマーは、公知の金属活性化剤を含み、例えばFe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、Cu/Cu2+、Cr2+/Cr3+またはMn2+/Mn3+/Mn4+のようなレドックス活性遷移金属イオンを含む金属活性化剤が挙げられ、具体的にはCuOなどである。一般に、前記ポリマーは、全重量の約0.001〜1重量%、好ましくは約0.01〜0.5重量%の金属活性化剤を含む。ポリマー中に金属活性化剤が存在すると、電離放射線の効果が増大されることが分かっている。従って、より少ない放射線量でポリエチレンポリマーを十分に架橋することができるため、金属活性化剤の存在は有利である。
【0022】
本発明の一実施形態において、本発明の繊維の製造に使用されるポリマーは、架橋剤を含む。上述したポリマーにおいてポリエチレンと共に使用される架橋剤は、一般に、脂肪族多価アルコールのトリアクリレートまたはトリメタクリレートである。架橋剤として好適な化合物の具体例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリアクリレートおよびテトラメチロールメタントリアクリレートなどが挙げられる。特に好ましいのは、トリメチロールプロパントリアクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレートである。架橋剤の量としては、一般に、ポリエチレンの重量に対して約0.5〜4重量%である。トリメチロールプロパントリアクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレートは、ポリエチレンとの相溶性が高く、高い架橋効果を示す。架橋剤の量としては、ポリエチレンの重量に対して約1.0〜2.5重量%の範囲であることが最も好ましい。米国特許第4,367,185号に記載されている化合物のようなフェノール化合物誘導体をさらに用いて、架橋効果を増強させてもよい。フェノール化合物誘導体の量としては、一般に、ポリエチレンの重量に対して0.01〜5.0重量%の範囲である。
【0023】
本発明の一実施形態において、本発明の繊維の製造に使用されるポリマーは、シランベースの架橋剤を含む。一般的なシラン架橋剤は当該技術分野において公知である。好適なシラン架橋剤としては、ビニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル、シクロヘキセニル、ガンマ−(メタ)アクリロキシアリルなどのエチレン性不飽和ヒドロカルビル基と、ヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルボニルオキシ、ヒドロカルビルアミノなどの加水分解性基とを含む不飽和シランが挙げられるが、これに限定されない。本発明の別の実施形態において、シランは、ポリマーへのグラフト反応が可能な不飽和アルコキシシランである。好適なシラン架橋剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよびこれらの組み合わせなどが挙げられる。シラン架橋剤の量としては、一般に、ポリマーの全重量に対して約0.1〜1重量%、好ましくは約0.5〜1重量%の範囲である。本明細書に記載した上述の架橋剤およびシリコーンベースの架橋剤は共に、本明細書に記載の電離放射線による架橋反応と見事に組み合わせることができる。これに対して、当該技術分野で公知である、過酸化物による架橋反応は、架橋ポリエチレン繊維の製造にうまく適用できないことが分かっている。
【0024】
溶融紡糸による繊維の製造は当業者に公知である。その方法は、例えばB. von Falkai, Synthesefasern, Grundlagen, Technologie, Verarbeitung und Anwendung, Verlag Chemie, Weinheim 1981に記載されている。溶融紡糸工程においては、一般に、ポリマーの性質に顕著な変化は見られない。よって、例えば、この溶融紡糸工程で得られる繊維のMFI値は、出発原料として使用されるポリマー顆粒のMFI値とほぼ同じである。従って、溶融紡糸により得られるポリマー繊維のMFI値は、溶融紡糸工程に適したポリマーのMFI値と同じ範囲にあり、すなわち、5g/10分超から約100g/10分以下、特に5g/10分超から約40g/10分以下、例えば約10〜40g/10分の範囲である。
【0025】
本発明において、溶融紡糸工程で得られるポリマー繊維の流動学的性質は、該繊維の使用目的の要件に応じて、電離放射線で該繊維を処理することによって調整される。電離放射線はγ線またはβ線であることが好ましい。
【0026】
γ線およびβ線による処理は、当該技術分野で公知の放射線照射の手法によって行われる。電子線としても知られているβ線は、当該技術分野で一般に知られている電子加速器により生成される。産業上使用されるγ線は、一般に、コバルト60(60Co)からニッケル60(60Ni)への放射性壊変により放出され、このγ線は浸透深度が高いという特性がある。β線の照射時間は一般に数秒以内であるが、γ線の照射時間は数時間に及ぶ場合がある。本発明のポリマー繊維に照射する放射線量は特に限定されないが、通常約10〜300kGy(キログレイ)、好ましくは約30〜160kGyの範囲である。
【0027】
ポリマーの架橋、すなわち電離放射線処理によって、ポリマー繊維の性質は変化する。例えば、ポリマー繊維のMFI値は、繊維の製造に使用されるポリマーに応じて増減する。例えばポリプロピレンの場合には、MFI値はポリマー鎖の切断により増大する。一方、ポリエチレンの場合には、MFI値はポリマーの架橋により減少する。その結果、ポリマー繊維の他の性質、例えばポリマーの平均分子量および/またはポリマーの分子量分布なども変化する。また、放射線照射により、ポリエチレンは熱可塑性から熱弾性に変化する。これは、例えば放射線照射後のポリエチレンにおける熱収縮の消失に見ることができる。このように、ポリエチレン繊維の性質は、該繊維の使用目的の要件に応じて調整できる。
【0028】
本発明のポリマー繊維にとって特に重要なのは、メルトフローレート(MFR)とも呼ばれるMFI(メルトフローインデックス)値である。ポリマー繊維のMFI値は、DIN EN ISO 1133に従って測定される。この規定において、MFI値を求めるための標準の測定条件は、ポリエチレンでは190℃/2.16kg、ポリプロピレンでは230℃/2.16kgとされている。MFI値の単位はg/10分であり、MFI値はキャピラリーレオメーターを用いて測定される。具体的には、素材、すなわちポリマーを円筒容器内で溶融し、一定の圧力により規定のノズルから押し出し、押し出されたポリマーメルトの質量を時間の関数として検出する。
【0029】
本発明のポリマー繊維の製造方法に使用されるポリマーは、ポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリマーの1つとしてポリエチレンを含むポリマーブレンドまたはこれらの混合物である。架橋した繊維のMFI値は、約5g/10分以下、好ましくは約2g/10分以下、例えば約1.5g/10分以下または約1g/10分以下である。
【0030】
本発明のポリマー繊維は、ポリマーを溶融紡糸する工程と、得られた繊維を電離放射線で処理する工程とを含むポリマー繊維の製造方法により得られる。本発明は、この製造方法にも関する。この方法において、繊維は長繊維として得るか、この長繊維を切断して繊維片とする。電離放射線による処理は、繊維が形成された直後に行ってもよい。例えば、繊維を延伸する前、その最中または繊維を延伸した後に行うことができ、繊維を切断する前または切断した後に行ってもよい。また、長繊維または切断された繊維片が得られた後、それらを暫くの間保存してから、電離放射線による処理を行ってもよい。
【0031】
本発明のポリマー繊維に適した繊維径は、一般に、約170μm未満、好ましくは約100μm未満、特に約40μm未満であり、好ましくは約5〜170μm、より好ましくは約12〜50μmの範囲である。繊維径として最も好ましくは約20〜25μmであり、例えば約23μmである。
【0032】
電離放射線により繊維を架橋させる前のポリマー繊維の繊維長は、一般に、約20mm未満、好ましくは約10mm未満、特に約6mm未満、好ましくは約0.1〜40mmの範囲、例えば約2〜20mmの範囲、特に約2〜5mmの範囲、例えば約2〜3mmの範囲である。電離放射線により繊維を架橋させることによって繊維長は短くなり、放射線の総照射量にもよるが、一般に照射前の3分の1程度の長さに短縮される。従って、繊維は、長い繊維片の方が取り扱いなどにおいて有利であることから、放射線照射前に切断するのが好ましい。
【0033】
一態様において、本発明は、上述の通り電離放射線により架橋したポリエチレン繊維の、ヒートシール可能なフィルターペーパーにおける使用に関する。
【0034】
好ましい態様において、本発明は、ヒートシール可能なフィルターペーパーにおける上記ポリマー繊維の使用と同様に、上記ポリマー繊維を含むヒートシール可能なフィルターペーパーも提供する。ヒートシール可能なフィルターペーパーにおいて、ポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリマーの1つとしてポリエチレンを含むポリマーブレンドまたはこれらの混合物を含むポリエチレン繊維が好ましく使用される。ポリマーは電離放射線処理により架橋し、これはMFI値の減少により確認できる。ポリマーが架橋することにより、溶融紡糸後に電離放射線処理を行わないポリエチレン繊維から得られる製品に比べて、より溶融粘度の高い製品を得ることができる。繊維の架橋により上記フィルターペーパーに有利な性質を付与することができる。
【0035】
一態様において、本発明は、上記の架橋ポリエチレン繊維を成分の1つとして含む複合繊維に関する。ポリマー複合繊維は、サイドバイサイド型繊維または芯鞘型繊維として知られている。MFIが5g/10分超から約100g/10分以下のポリエチレン繊維を複合繊維の一方の成分として用いる場合、もう一方の成分は、ポリエステルのように、ヒートシール中に十分な安定性を提供する支持ポリマーである必要がある。しかし、ポリエチレンを架橋させることにより、特に架橋ポリエチレン成分は十分な支持体となるだけでなく、さらに繊維にヒートシール性を付与するため、優れた性質を持つ複合繊維が得られる。
【0036】
好ましい態様において、本発明は、架橋ポリエチレン繊維、特に上記ポリマー繊維を含むヒートシール可能なフィルターペーパーに関する。本願のヒートシール可能なフィルターペーパーは、ティーバッグまたはコーヒーパッドに有利に使用できる。従って本発明は、好ましくは、本発明のヒートシール可能なフィルターペーパーを含むティーバッグまたはコーヒーパッド、およびティーバッグまたはコーヒーパッドにおける前記繊維の使用にも関する。
【0037】
本願のヒートシール可能なフィルターペーパーは、一般に、フィルターペーパーにおける公知の成分を含む。例えば重量比にして、天然繊維を約60〜85%含み、その残りにあたる約15〜40重量%を合成パルプなどの合成繊維が占めるが、この合成繊維は少なくとも一部、特に約20〜100重量%、好ましくは約50〜100重量%が本願の架橋ポリエチレン繊維で置き換えられている。
【0038】
本発明の別の態様は、エアレイド製品、水流交絡製品および不織布製品における架橋ポリエチレン繊維、特に上記ポリマー繊維の使用、ならびに架橋ポリエチレン繊維、特に上記ポリマー繊維を含む上記製品である。ポリマー繊維を用いる上記製品の製造は当該技術分野において公知である。放射線照射によりポリマー繊維の性質を上述の通り調整することによって、新しく有利なこの種の製品を製造することができる。
【0039】
以下、本発明について、実施例によりさらに説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0040】
ポリエチレン(PE)繊維のβ線処理:
PE繊維サンプルとして、繊維長6mm、繊度4dtex(繊維径で約23μmに相当)のbaumhueter extrusion社製のPB Eurofiber cut F−2427を、35〜160kGyの線量のβ線で処理した。照射後の繊維長は約4.5mmである。電離放射線処理の前後でMFI値を測定した。さらに、PE繊維サンプルとして、繊維長2mm、繊度4dtex(繊維径で約23μmに相当)のbaumhueter extrusion社製のPB Eurofiber cut F−2382を、50kGyの線量のβ線で処理した。照射後の繊維長は約1.5mmである。電離放射線処理の前後でMFI値を測定した。MFIの測定は、DIN EN ISO 1133に従い、標準条件(すなわち190℃/2.16kg)のもと行った。放射線照射による架橋反応を行う前または行った後のF−2382繊維を含むそれぞれのフィルターペーパーのヒートシール性を調べた。その結果を以下の表にまとめた。
【0041】
【表1】

* 架橋度が高く、溶融しない。
1) 架橋反応を行っていない繊維は溶融しやすいため乾燥ユニットに問題が生じてしまい、抄紙機上で加工することができない。
2) 何ら問題なくティーバッグ紙を製造し、この紙を用いてティーバッグ包装機で試験を行うことができた。
【0042】
上記の結果により、放射線照射した本発明のPE繊維は、ヒートシール可能な紙に適用できるが、照射処理を実施しなかった繊維は適用できないことが分かった。さらに、放射線照射したPE繊維を含むフィルターペーパーをヒートシールする場合、ティーバッグ包装機でフィルターペーパーを製造する際の機械部品上にポリマー付着物の蓄積は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFI値が5g/10分超から約100g/10分以下のポリマーを溶融紡糸して得られるポリマー繊維であって、溶融紡糸工程後に電離放射線で処理されることを特徴とし、前記ポリマーがポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリマーの1つとしてポリエチレンを含むポリマーブレンド、またはこれらの混合物であり、架橋したポリマー繊維のMFI値が約5g/10分以下であるポリマー繊維。
【請求項2】
前記架橋ポリマー繊維のMFI値が、約2g/10分以下である請求項1に記載のポリマー繊維。
【請求項3】
電離放射線の照射量が、約10〜300kGyの範囲にある請求項1または2に記載のポリマー繊維。
【請求項4】
ポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリマーの1つとしてポリエチレンを含むポリマーブレンド、またはこれらの混合物であり、かつMFI値が5g/10分超から約100g/10分以下であるポリマーを溶融紡糸する工程と、得られた繊維を電離放射線で処理してMFI値が約5g/10分以下の架橋ポリマー繊維を得る工程とを含むポリマー繊維の製造方法。
【請求項5】
ヒートシール可能なフィルターペーパーにおける架橋ポリエチレン繊維の使用。
【請求項6】
前記架橋ポリマー繊維が、先行する請求項1〜3のいずれか1項に記載のものである請求項5に記載の使用。
【請求項7】
エアレイド製品、水流交絡製品または不織布製品における架橋ポリエチレン繊維の使用。
【請求項8】
前記架橋ポリマー繊維が、先行する請求項1〜3のいずれか1項に記載のものである請求項7に記載の使用。
【請求項9】
架橋ポリエチレン繊維を含むヒートシール可能なフィルターペーパー。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー繊維を含む請求項9に記載のヒートシール可能なフィルターペーパー。
【請求項11】
成分の1つとして架橋ポリエチレンを含む複合繊維。
【請求項12】
成分の1つとして請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー繊維を含む請求項11に記載の複合繊維。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー繊維を含むエアレイド製品、水流交絡製品または不織布製品。

【公表番号】特表2012−520946(P2012−520946A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500195(P2012−500195)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053183
【国際公開番号】WO2010/105981
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511226867)バウムフェター エクストリュージョン ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】