説明

ポリオキサジアゾールポリマーの製造方法、ポリオキサジアゾールポリマーとその使用部品

【課題】 高い分子量と改良された機械的特性を有するポリオキサジアゾールポリマーの製造方法と新たなポリオキサジアゾールポリマーの使用部品を提供する。
【解決手段】 ポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、ジカルボン酸又はこれらの誘導体との一段重縮合反応によるポリオキサジアゾールポリマーの製造方法であって、前記ポリリン酸を予め160℃以上の温度まで加熱し、前記加熱したポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、1種以上のジカルボン酸又はこれらの誘導体とを混合して基礎溶液とし、前記基礎溶液を不活性雰囲気下で加熱して、前記基礎溶液中でポリマーを沈殿させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、ジカルボン酸又はこれらの誘導体との一段重縮合反応によるポリオキサジアゾールポリマーの製造方法に関し、さらにポリオキサジアゾールポリマーとその使用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオキサジアゾール(以下、PODとも称する)は、良好な化学的安定性と高温安定性とともに、高いガラス転移点温度を示す。ポリオキサジアゾールは、直接加工ができ、例えば繊維を紡いだり、コート材としたりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】旧東ドイツ特許DD292919A5号明細書
【特許文献2】ドイツ特許DE2408426C2号明細書
【特許文献3】ロシア特許RU2263685号明細書
【特許文献4】特開昭63−118331号公報
【特許文献5】ドイツ特許DE102007029542.3号明細書
【特許文献6】特開2009−1800号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.Iwakura,K.Uno,S.Hara,J.Polym. Sci.:PartA, 1965,3,45−54頁
【非特許文献2】Y.S.Krongauz,V.V.Korshak,Z.O.Virpsha,A.P.Tranikowa,V.Sheina,B.V.Lokshin,Vysokomol soyed 1970;A12135−139頁
【非特許文献3】D.Gomes,C.P.Borges,J.C.Pinto,Polymer 2001,42,851−865頁
【非特許文献4】D.Gomes,PhD Thesis,COPPE/UFRJ,Rio de Janeiro,Brazil,2002
【非特許文献5】D.Gomes,S.P.Nunes,J.C.Pinto,C.P.Borges,Polymer 2003,44,3633−3639頁
【非特許文献6】D.Gomes,C.P.Borges,J.C.Pinto,Polymer 2004,45,4997−5004頁
【非特許文献7】D.Gomes,J.Roeder,M.L.Ponce,S.P.Nunes,J.Power Sources 2008 175,49−59頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリオキサジアゾールは多種の溶媒(溶液)中で製造(合成)される。例えば、オレウム(発煙硫酸)を溶媒とした合成が知られている。オレウムは、非常に有毒かつ腐食性のある合成材料からなるという問題点がある。また合成反応の最終形態では、多量の中和物質が必要である。オレウム中のポリオキザジアゾールの合成としては、例えば特許文献1(DD292919A5)や特許文献2(DE2408426C2)がある。
【0006】
非特許文献1にてイワクラ(Iwakura)らは、ポリリン酸(以下、PPAとも称する)中でのヒドラジン硫酸塩と、ジカルボン酸との反応によるポリオキサジアゾールの製造方法を最初に開示した。しかしながら、作り出されたポリオキサジアゾールの特性と多種の合成パラメータとの相関は長期間に亘って不明確なままであり、深く理解するための研究がなされていない。
【0007】
特許文献3(RU2263685)には、分子量が60,000から450,000Da(単位はダルトンであり、g/モルに対応)のポリオキサジアゾール(1,3,4−オキサジアゾール)の製造方法が開示されている。この方法は、3から7時間に亘ってリン酸トリフェニルの存在下での溶媒中で、190から220℃の温度でのジカルボン酸と、ヒドラジン誘導体若しくはジカルボン酸ジヒドラジドの重縮合反応を有する。
【0008】
特許文献4(特開昭63−118331号公報)には、ジカルボン酸と、五酸化リンと縮合剤であるメタンスルホン酸の混合物を用いて濃縮された硫酸ヒドラジンから効率よくポリオキサジアゾールを合成する方法が開示されている。
【0009】
ポリリン酸は五酸化リンと水との反応によって産出され、次の一般式
【化3】


(式の右側はリン酸(PA)を表し、式の左側はポリリン酸(PPA)を表し、nは0より大きい自然数である)で表される。
【0010】
ポリリン酸(PPA)は、多くの有機化合物のための優れた溶媒である。PPAは、アシル化、アルキル化、環化、酸触媒反応を実行するための最も効果的な試薬の1つである。PPAは、ポリマー合成において有用であることが実証されている。PPAを適用した合成の分野では多数の出版物があるにも関わらず、PPAの酸触媒反応の効果に関しては知られていない。提案された仕組みの大半が実験データではPPAの関与を支援していない。
【0011】
非特許文献2にてクロンガウツ(Krongauz)らは、PPA中の重合過程にて五酸化リン(P)を反応溶媒に加えることで高分子量のポリオキサジアゾールが合成されるという仮説を提唱した。五酸化リン(P)が存在する状態で粘度が2.34の合成されたポリマーとなり、五酸化リン(P)が存在しない状態で粘度が1.2の合成されたポリマーとなった。それ故、塩基を加えることで分子量が増大すると結論付けがなされた。しかしながら、異なる反応条件下で異なる温度と反応時間での比較実験では、五酸化リン(P)の影響下での合成されたポリマー分子量についての明確な研究報告がなされていない。
【0012】
特許文献5(DE102007029542.3)や特許文献5の日本への優先権主張出願である特許文献6(特開2009−1800号公報)からは、ポリリン酸中のヒドラジン硫酸塩と、ジカルボン酸又はそれらの誘導体のうちの1種から重縮合反応を経てスルホン化ポリオキサジアゾールを合成する方法を知ることができる。このポリマーは、燃料電池のメンブレン(膜)の製造に使用される。
【0013】
ゴメス(Gomes)らの非特許文献3から7にて、多数の合成パラメータの合成されたポリオキサジアゾールの特性への影響の体系的な研究が開示された。とりわけ、分子量、残留ヒドラジドの分画とポリリン酸(PPA)中のポリオキサジアゾール(POD)合成過程でのスルホン化の程度が調査された。
【0014】
ゴメス(Gomes)らの非特許文献4にて、他のすべての反応変数定数(温度、時間、単量体濃度、モル希釈)を維持して溶媒中に加える五酸化リン(P)の割合を変えることによる、ポリリン酸(PPA)中のポリオキサジアゾール(POD)合成過程での無水五酸化リン(P)濃度の影響の研究が開示された。この場合、五酸化リン(P)の添加が反応溶媒の粘度を増大させ、反応装置内の反応溶媒を長い時間攪拌することができないことがわかった。それ故、反応生成物質の均質化と再現性が乏しいものとなった。すべての実験は再現性の研究に費やされた。
【0015】
ゴメス(Gomes)らの非特許文献3にて、ポリリン酸(PPA)に水を加えない場合に比べて、ポリリン酸(PPA)に水を加えた場合の方が高い固有粘度のポリオキサジアゾールが得られることが開示された。この目的のために、7gの水がポリリン酸(PPA)に加えられた。自己重合反応を得るために10回に亘って水が加えられた。
【0016】
ポリオキサジアゾールの合成の再現性が乏しい要因のひとつとして、重合過程での高粘度の反応溶媒によって、ミクロレベルでの攪拌(ミクロ攪拌とも称する)の程度が悪いことが挙げられる。高粘度の反応溶媒が局所的なモノマーの大幅な変動要因となり、ポリマー鎖を短くすることになってしまう。
【0017】
ゴメス(Gomes)らの非特許文献3では、不活性溶媒の反応溶媒への添加によって均質化が改善できることを提案しており、合成されたポリオキサジアゾールの特性が同様の反応条件下で高い再現性をともなうように達成可能であるとしている。しかしながら、ゴメス(Gomes)らの非特許文献3と非特許文献4では、少量のNMP(N−メチル−2−ピロリドン)とDMSO(ジメチルスルホキシド)をポリリン酸(PPA)に加えても攪拌状態の改善には繋がらないことが判った。
【0018】
多量の溶媒をポリリン酸(PPA)に加えることで、最終的に溶液の粘度が低下する。この最後のケースでは、しかしながら、ポリリン酸(PPA)による触媒作用の反応によって、重合速度がかなり低下してしまう。もちろん、反応溶媒に少量の水を加えることで、ポリリン酸(PPA)の粘度を低下させることは可能であるが、水は縮合反応を妨げることとなり、合成されたポリオキサジアゾールの特性を変質させる。
【0019】
ゴメス(Gomes)らの非特許文献3と非特許文献4では、ヒドラジドグループの残存が少なくて有機溶媒中の高い溶解度を示すポリリン酸(PPA)中にて、ポリオキサジアゾール試料の重量を最大470,000g/モルとする高い分子量での合成を再現させるために実験状態が最適化された。
【0020】
最新の技術水準では、一般的に、弾性率が約4,000MPa、引っ張り強度が最大100MPa、破断伸びが約14%のポリオキサジアゾールポリマーが製造されている。
【0021】
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、高い分子量と改良された機械的特性を有するポリオキサジアゾールポリマーの製造方法と新たなポリオキサジアゾールポリマー使用部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法は、ポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、ジカルボン酸又はこれらの誘導体との一段重縮合反応によるポリオキサジアゾールポリマーの製造方法であって、前記ポリリン酸を予め160℃以上の温度まで加熱し、前記加熱したポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、1種以上のジカルボン酸又はこれらの誘導体とを混合して基礎溶液とし、前記基礎溶液を不活性雰囲気下で加熱して、前記基礎溶液中でポリマーを沈殿させることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、最大740,000g/モルの高い分子量で狭い分子量分布の改良された機械的特性を有するポリオキサジアゾールポリマーが製造される。本発明によれば、弾性率が最大4GPa、引っ張り強度が最大200MPa、破断伸びが最大60%を示すポリオキサジアゾールポリマーが量的高収率で製造される。
【0024】
最新の技術水準によれば、重合反応のための開始剤を室温にてポリリン酸(PPA)にもはや添加することはできない。本発明では、前記ポリリン酸を予め160℃以上の温度まで加熱することで、驚くべきことに、反応溶媒の均質性が維持されるか良くなり、ポリリン酸(PPA)の触媒活性が維持されるか、増大される。さらに、重合溶媒の、ミクロ攪拌の程度の悪さが避けられる効果がある。
【0025】
本発明は、前記基礎溶液中でポリマーを中和させることを特徴とする。ポリリン酸(PPA)の触媒活性の増大は、ポリリン酸中で自由リン酸濃度が増大することによるものであるからである。
【0026】
本発明は、前記ジカルボン酸又はこれらの誘導体が、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族複素環ジカルボン酸、又はこれらの誘導体からなることを特徴とする。本発明は、前記ジカルボン酸又はこれらの誘導体がジカルボン酸エステルと混合されることが好ましい。
【0027】
本発明は、前記ポリリン酸を1時間以上加熱することを特徴とする。本発明は、前記ポリリン酸をガス雰囲気下で加熱することが好ましく、特に、前記ガス雰囲気が窒素及び/又はアルゴンからなることが好ましい。前記ガス雰囲気は、水分を伴っていても良く、水分を伴っていなくても良い。
【0028】
本発明は、前記基礎溶液を予め160から200℃の温度まで加熱し、好ましくは予め160から180℃の温度まで加熱することを特徴とする。本発明は、前記基礎溶液を4から24時間加熱し、好ましくは4から16時間加熱し、さらに好ましくは6から8時間加熱することを特徴とする。
【0029】
本発明は、前記ポリオキサジアゾールが2つの窒素原子と1つの酸素原子からなる共役環を1つか若しくは1つ以上繰り返す次の構造
【化1】


(Rはそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、Yは次の構造
【化2】


R’はそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、R”は窒素原子若しくは1から40の炭素原子を有する基であり、nとmがいずれも0より大きい自然数である)を有することを特徴とする。
【0030】
本発明のポリオキサジアゾールポリマーは、上述した本発明のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法によって製造されたホモ重合体若しくは共重合体であることを特徴とする。本発明は、前記ポリオキサジアゾールポリマーの平均分子量が470,000g/モルより大きいことを特徴とする。本発明は、前記ポリオキサジアゾールポリマーの分子量分布Mw/Mnが3より小さいか、好ましくは2.4より小さいことを特徴とする。ここで、符号Mwは重量平均分子量であり、符号Mnは数平均分子量である。
【0031】
上記本発明のポリオキサジアゾールポリマーは、卓越した機械特性を有し、その引張強度が120MPaより大きく、さらに180MPaより大きい。上記本発明のポリオキサジアゾールポリマーは、その破断伸びが20%以上であり、さらに50%より大きい。
【0032】
上記本発明のポリオキサジアゾールポリマーからメンブレン加工製品若しくは繊維加工製品が製造される。上記本発明のポリオキサジアゾールポリマーから軽量構造材若しくはコート材(コーティング材)が製造される。
【0033】
上述した本発明のポリオキサジアゾールポリマーによりメンブレン(膜)が製造される。上述した本発明のポリオキサジアゾールポリマーにより繊維が製造される。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、最大740,000g/モルの高い分子量で狭い分子量分布であり、弾性率が最大4GPa、引っ張り強度が最大200MPa、破断伸びが最大60%を示すポリオキサジアゾールポリマーが量的高収率で製造される。前記ポリリン酸を予め160℃以上の温度まで加熱することで、反応溶媒の均質性が維持されるか良くなり、ポリリン酸(PPA)の触媒活性が維持されるか、増大される。さらに、重合溶媒の、ミクロ攪拌の程度の悪さが避けられる。前記ポリリン酸(PPA)の触媒活性の増大は、ポリリン酸中の自由リン酸濃度によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来の製造方法で合成の持続時間を変えて製造したポリオキサジアゾールポリマーの分子量分布を示すグラフである。
【図2】本発明の製造方法によるポリオキサジアゾールポリマーの分子量分布を示すグラフである。
【図3】本発明の製造方法によるポリオキサジアゾールポリマーの引張強度を示すグラフである。
【図4】本発明の製造方法によるポリオキサジアゾールポリマーのポリリン酸(PPA)のNMRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例や図に限定されるものではない。また、上述の説明にてすでに明らかである事柄については、繰り返し説明することを省略する。
【実施例】
【0037】
実施例1 ポリオキサジアゾール製造物
本発明の製造方法で合成されたポリオキサジアゾールポリマーの機械的特性と、従来の製造方法で合成されたポリオキサジアゾールポリマーの機械的特性を比較した。
【0038】
合成されたポリオキサジアゾールポリマーの平均分子量は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって決まる。ビスコテック(Viskotec)社製のSEC装置、ユーロゲル(Eurogel)社製のスペクトルカラムSEC1000とPSS Gram100と1000を用いて、8x300mmのサイズでポリオキサジアゾールポリマーを測定した。装置は、平均分子量が309から944,000g/モルの範囲で、メルク(Merck)社製のポリスチレン標準体にてキャリブレーションされた。測定結果、キャリア流体として用いられたジメチルアセトアミド(DMAc)の中に0.05Mの臭化リチウムが検出された。
【0039】
ジメチルスルホキシド(DMSO)中に準備された4重量%の濃度のポリオキサジアゾールポリマーから均質なフィルム、及び/又は、メンブレン(膜)が製造される。上記メンブレンを、温度が60℃の真空オーブンに24時間入れて、ジメチルスルホキシド(DMSO)を蒸発させた。
【0040】
上記メンブレンを、温度が50℃の水槽に48時間浸漬して、残余の溶媒を除去して、その後、温度が60℃の真空オーブンに24時間入れて、乾燥させた。このようにして作られたメンブレンの膜厚は、約50μmであった。
【0041】
上記メンブレンの機械的特性である引張強度試験を、ツィック‐ロエル(Zwick−Roell)社製装置のASTN D882−00によって測定した。伸び速度は、室温にて、5mm/分であった。上記メンブレンの破断伸びと弾性率(ヤング率)が測定された。サンプル数5個の平均値を特性値とした。
【0042】
1.既知の製造方法によるポリマー合成
ゴメス(Gomes)らの非特許文献3、非特許文献6、非特許文献7に関連するポリオキサジアゾールポリマーの合成では、フラスコにポリリン酸(PPA)が注がれ、乾燥窒素雰囲気下にて、温度が100℃まで加熱された。そして、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高いヒドラジン硫酸塩(HS)が上記ポリリン酸(PPA)に加えられ、攪拌により均質化され、さらに反応溶媒が加熱された。反応温度に達した後、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高い4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジアジド(DPE)がフラスコに加えられた。
【0043】
PPAとHSの希釈モル比(PPA/HS)は10を維持して、PPAとHSの単量体モル比(HS/DPE)は、1.2を維持した。DPEとHSを4から6時間に亘って反応させた。その後、反応溶媒が、水が5%重量/容積の割合で含まれているベテック(VETEC)社製の純度が99%の水酸化ナトリウムに注がれ、ポリマーが順に沈殿された。ゴメス(Gomes)らの非特許文献6に関連する方法で、上記のポリマー懸濁液のpHが監視された。
【0044】
ポリオキサジアゾール(POD)ポリマーは次の化学構造式で示される。
【化4】

【0045】
既知の方法にて、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)とDMSO(ジメチルスルホキシド)が溶かされた溶媒中でポリオキサジアゾールポリマーが得られ、SECにて測定された平均分子量は、4時間の反応時間で約330,000g/モルであり、6時間の反応時間で約470,000g/モルであった。
【0046】
図1は、既知の方法にて製造されたポリオキサジアゾールポリマーを、ポリスチレン標準体にて正規化したSECプロファイルである。反応時間を4時間から6時間に増大させると、同時分解反応の結果、10g/モル規模の低分子量のポリマーが形成された(ゴメス(Gomes)らの非特許文献3、非特許文献7を参照)。
【0047】
ポリオキサジアゾールの反応時間を6時間とし、高い分子量としたにもかかわらず、機械的特性は良くなかった。それは、ポリオキサジアゾールポリマーの分子量分布Mw/Mnがかなり大きい(Mw/Mn=8.1)ことによる。次の表1に結果を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
2.本発明の製造方法によるポリマー合成
本発明の製造方法によるポリマー合成では、フラスコにポリリン酸(PPA)が注がれ、乾燥窒素雰囲気下にて、温度が160℃まで加熱された。そして、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高いヒドラジン硫酸塩(HS)が上記ポリリン酸(PPA)に加えられ、攪拌により均質化され、さらに反応溶媒が加熱された。ヒドラジン硫酸塩(HS)が溶解した後、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高い4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジアジド(DPE)がフラスコに注がれた。
【0050】
PPAとHSの希釈モル比(PPA/HS)は10を維持して、PPAとHSの単量体モル比(HS/DPE)は、1.2を維持した。DPEとHSを4時間に亘って反応させた。その後、反応溶媒が、水が5%重量/容積の割合で含まれているベテック(VETEC)社製の純度が99%の水酸化ナトリウムに注がれ、ポリマーが順に沈殿された。ゴメス(Gomes)らの非特許文献6に関連する方法で、上記のポリマー懸濁液のpHが監視された。
【0051】
本発明の製造方法にて、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)とDMSO(ジメチルスルホキシド)が溶かされた溶媒中でポリオキサジアゾールポリマーが得られ、SECにて測定された平均分子量は、約747,000g/モルであった。
【0052】
本発明の製造方法にて製造されたポリオキサジアゾールポリマーを、ポリスチレン標準体にて正規化したSECプロファイルを図2に示す。本発明の製造方法にて製造されたポリマーフィルムの引張強度グラフを図3に示す。
【0053】
本発明の製造方法にて製造されたポリオキサジアゾールポリマーの機械的特性を次の表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、従来の製造方法にて製造されたポリオキサジアゾールポリマーの機械的特性は、既知の値となった。いっぽう、本発明の製造方法にて製造されたポリオキサジアゾールポリマーの機械的特性は、従来のものよりも優れた機械的特性を示している。本発明のポリオキサジアゾールポリマーの重量平均分子量は、従来の2倍よりも大きい値である。本発明のポリオキサジアゾールポリマーの分子量分布は、従来よりも小さい値である。本発明のポリオキサジアゾールポリマーの引張強度は、従来の2倍に近い値である。本発明のポリオキサジアゾールポリマーの破断伸びは、従来の約4倍の値である。
【0056】
実施例2 ポリリン酸(PPA)のエージング処理の検討
本発明におけるエージング処理とは、ポリリン酸(PPA)をポリマー合成より前に、予め加熱することである。
【0057】
フラスコにポリリン酸(PPA)が注がれ、乾燥窒素雰囲気下にて、加熱時間を30分から3時間までの範囲で変化させて、ポリリン酸(PPA)が予め160℃の温度まで加熱された。ポリリン酸中でリン酸濃度の増大が31P NMR分光分析にて測定された(NMRは、Nuclear magnetic resonanceの略称)。
【0058】
加熱時間が3時間のエージング処理を行ったポリリン酸(PPA)の31P NMRスペクトルグラフを図4に示す。ブルッカー(Bruker)社製のDCX−300分光計がNMR分光分析に用いられ、周波数が121.50MHzにて操作された。基準として、85%のリン酸が用いられた。
【0059】
リン種、及び/又は、リン種によるスペクトルのピークを図4中に矢印で示す。NMRスペクトルのδが−30.54 ppm(δ=−30.54)のPがPPA鎖の中鎖リン原子である。NMRスペクトルのδが−13.99ppm(δ=−13.99)のPがPPA鎖の端のリン原子(端鎖リン)である。NMRスペクトルのδが0ppm(δ=0)が自由リンであり、自由リンのピークと一緒にいるNMRスペクトルのδが0.966ppm(δ=0.966)のPがリン酸(PA,HPO)中のリン原子である。
【0060】
ポリリン酸(PPA)にエージング処理を行う前と後で、それぞれ3つのリン種について、単一のP,P,Pピークを集積した値を次の表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
ポリリン酸(PPA)にエージング処理を行うと、自由リン酸濃度が増大し、PPA鎖の中鎖リンの比率が低下することが表3から読み取れる。加熱により自由リン酸濃度が約30%増大すると、PPAの触媒活性が充分なものとなる。このため、本発明の製造方法により製造されたポリオキサジアゾールポリマーが、非常に高い分子量と非常に優れた機械的特性を示すと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、ジカルボン酸又はこれらの誘導体との一段重縮合反応によるポリオキサジアゾールポリマーの製造方法であって、
前記ポリリン酸を予め160℃以上の温度まで加熱し、前記加熱したポリリン酸中でヒドラジン硫酸塩と、1種以上のジカルボン酸又はこれらの誘導体とを混合して基礎溶液とし、前記基礎溶液を不活性雰囲気下で加熱して、前記基礎溶液中でポリマーを沈殿させることを特徴とするポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記基礎溶液中でポリマーを中和させることを特徴とする請求項1記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸又はこれらの誘導体が、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族複素環ジカルボン酸、又はこれらの誘導体からなることを特徴とする請求項1又は2記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記ジカルボン酸又はこれらの誘導体がジカルボン酸エステルと混合されることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記ポリリン酸を1時間以上加熱することを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記ポリリン酸をガス雰囲気下で加熱することを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記ガス雰囲気が窒素及び/又はアルゴンからなることを特徴とする請求項6記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記基礎溶液を予め160から200℃の温度まで加熱し、好ましくは予め160から180℃の温度まで加熱することを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記基礎溶液を4から24時間加熱し、より好ましくは4から16時間加熱し、さらに好ましくは6から8時間加熱することを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記ポリオキサジアゾールが2つの窒素原子と1つの酸素原子からなる共役環を1つか若しくは1つ以上繰り返す次の構造
【化1】


(Rはそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、Yは次の構造
【化2】


R’はそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、R”は窒素原子若しくは1から40の炭素原子を有する基であり、nとmがいずれも0より大きい自然数である)を有することを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーの製造方法によって製造されたホモ重合体若しくは共重合体であるポリオキサジアゾールポリマー。
【請求項12】
前記ポリオキサジアゾールポリマーの平均分子量が470,000g/モルより大きいことを特徴とする請求項11記載のポリオキサジアゾールポリマー。
【請求項13】
前記ポリオキサジアゾールポリマーの分子量分布Mw/Mnが3より小さいか、好ましくは2.4より小さいことを特徴とする請求項11又は12記載のポリオキサジアゾールポリマー。
【請求項14】
前記ポリオキサジアゾールポリマーの引張強度が120MPaより大きいか、好ましくは180MPaより大きいことを特徴とする請求項11ないし13のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマー。
【請求項15】
前記ポリオキサジアゾールポリマーの破断伸びが20%以上であるか、好ましくは50%より大きいことを特徴とする請求項11ないし14のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマー。
【請求項16】
請求項11ないし15のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーから製造されるメンブレン加工製品若しくは繊維加工製品。
【請求項17】
請求項11ないし15のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーを用いた軽量構造材若しくはコート材。
【請求項18】
請求項11ないし15のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーにより製造されたメンブレン。
【請求項19】
請求項11ないし15のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマーにより製造された繊維。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−191265(P2009−191265A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29559(P2009−29559)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(508368530)ゲーカーエスエス・フォルシュユングスツェントルウム ゲーエストハフト ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】