説明

ポリオキソメタレートを有する埋込み電極

ポリオキソメタレート(POM)を含む電極表面を有する電極。電極表面でのPOMの使用は、電気化学的に活性な表面積を増大させ、結果的に、容量とインピーダンスを増大させて、電極と組織の接合面での偏光損失を減少させる。さらに、POMを有する電極は、POMの酸化還元特性および電荷蓄積特性から疑似容量特性を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリオキソメタレート(POM)構造を含む生体材料に関する。特に、本開示は、POM構造を有する埋込み電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電気刺激および感知用の埋込み電極はかなり小型にすることができる。電極の埋め込みが可能な位置における電極のサイズ低減への原動力は増加の一途にある。さらに、電極の小型化は、刺激閾値を低下させ、電源(たとえば、バッテリ)の使用寿命を延長させることができる。認識され得るように、バッテリ使用寿命の延長は、植込み型装置(たとえば、ペースメーカー)の潜在的な耐用年数の延長を可能にする。しかしながら、電極のサイズ低減(たとえば、電極の幾何学的表面積の低減)に伴い、電極間の電流密度が増大する。この電流密度の増大によって、安全な電荷限界を超える可能性が高まり、電極材料の溶解、電解質の酸化還元反応、および/または有毒化学物質の生成につながるおそれがある。電流密度を制御するために、電極の全体の物理的寸法を増大させずに実際の電極表面積を増大させる様々なオプションが提案され、使用されてきた。このようなオプションの例は、多孔性電極材料、焼結小球体、フラクタル電極表面形態、フラクタルに被覆された電極などである。しかしながら、電極の全体の物理的寸法を増大させずに実際の電極表面積を増大させることに対する需要はなお続いている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示の実施形態は、ポリオキソメタレート(POM)を含む埋込み電極を提供する。各種実施形態では、POMが、電気化学的に活性で柔軟な低偏光疑似容量性電極表面を埋込み電極に提供することができる。POMを含む電極表面は、安全な電荷注入限界と電気化学的電位窓を超えずに、たとえば最大10ボルトの低〜高の電圧刺激パルスを伝達するのに適切であると思われる。さらに、POMを含む埋込み電極は、電極と組織の接合面での偏光損失を低減することができる。
【0004】
本明細書で使用される際、「ポリオキソメタレート」、すなわち「POM」は、金属−酸化物または金属−酸素イオン(たとえば、アニオン)、金属酸化物クラスタアニオンなどの様々な形のクラスタまたはケージを含む。各種実施形態では、POMは、電極表面上の膜に含めることができる。もしくは、POMは、電気的に活性なポリマーを作製するため、ポリマーマトリックス内のドーピングイオンとして含めることができる。さらに、POMは、POM酸化還元特性(たとえば、POMは、電極と組織の接合面でファラデー酸化還元遷移を可能にするいくつかの酸化状態を有する電気的活性種を提供する)のためにPOMが使用される埋込み電極の電荷蓄積容量を増大させるのを助けることができる。POMの擬似容量性特性は、多孔率、電気的活性領域(二重層)、およびPOMが経ることのできるファラデー酸化還元段階の組み合わせを含むことができる。本明細書で使用される際、「膜」は、埋込み電極の表面に直接的および/または間接的に蒸着される導電物質の層を指す。
【0005】
本開示の方法の実施形態は、重合可能な混合物にPOMを組み込むステップと、POMを混入した重合可能な混合物の膜を電極表面上に形成するステップとも含む。このような方法の例は、POMが存在する溶液からのポリマーの化学的または電気化学的生成を含むが、それに限定されない。電気化学的重合中に生成される膜は、膜に均一にPOMを混入させることを含む。
【0006】
その他の蒸着技術も可能である。たとえば、POMを含む膜を、膜の生成後の酸ベースのドーピングプロセスによって膜に導入させることができる。認識されるように、膜の形成には、ゾル−ゲル法やその他の同時蒸着法を用いてPOMと膜を同時に形成するなど、他のプロセスも利用することができる。その他の蒸着技術には、特に、吸着、静電相互作用を通じた自己組立、層間蒸着、ラングミュアー・ブロジェット(LB)法などがある。
【0007】
POMの化学的組成および構造は、電極表面の膜の電気的性能を変更するため、各種実施形態に従い調整することができる。たとえば、膜に組み込まれるPOMと追加のドーピングアニオンの選択と使用は、結果としてできる埋込み電極の容量とインピーダンスを制御するのに使用することができる。さらに、電極表面は、活性表面積を一層増大させるために多孔性であってもよい。電気導体として機能するPOMに加えて、膜はPOMでドープされた導電性ポリマーから構成することができる。このような導電性ポリマーの例は、ポリ(ピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリナフタレン、ポリ(アセチレン)、ポリ(アニリン)、ポリ(フルオレン)、ポリフェニレン、ポリ(p−硫化フェニレン)、ポリ(パラ−フェニレンビニレン)、およびポリフランを含むがそれらに限定されない。
【0008】
POMを有する埋込み電極の実施形態は、無線および有線電極での使用に適すると思われる。本明細書で使用される際、「電極」は、生体組織への、且つ生体組織からの電位を提供する、および/または感知するのに使用できる導電構造(たとえば、電極本体)を含む。このような電極の例は、心臓組織を感知しペースを調整するのに使用される電極(たとえば、ペーシング電極)、除細動エネルギーを感知し心臓組織に運ぶ電極(たとえば、除細動電極)、脳、脊髄、耳などの神経系からの電気信号を感知し、脳、脊髄、耳などの神経系に刺激パルスを供給する電極、および血管系、血液、および/または尿路系に刺激パルスを供給する電極を含むが、それらに限定されない。このような電極は、有効な固定機構(たとえば、螺旋ネジおよび/または尖叉)を伴う、あるいは伴わない、コイル構造、半球構造、環状および/または半環状電極とすることができる。
【0009】
各種実施形態では、POMを有する電極はリード本体、リード本体内の導体、およびPOMを含む表面を有するリード本体上の電極を有するリードの形状を取ることができる。本明細書で説明されるように、POMは電極表面の膜に含めることができる。別の実施形態では、無線電極は、POMを含む表面を有する第1および第2の電極と、第1および第2の電極間に連結される誘導コイルとを含むことができる。第1および第2の電極は、誘導コイルで受け取るエネルギー(たとえば、無線周波数エネルギー)からの電位放電を生成するために使用することができる。さらに、無線電極は誘導コイルに連結されるバッテリをさらに含むことができ、バッテリは、外部送信器からの無線周波数エネルギーを受け取る誘導コイルから生成される電流で再充電することができる。無線電極は、第1の電極と第2の電極間の電位を蓄積し送出する誘導コイルに連結された蓄積コンデンサをさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本開示による、電極を有するリードの実施形態を示し、電極はポリオキソメタレート(POM)を含む膜を有する。
【図2】本開示による、電極を有する無線電極の実施形態を示し、電極はPOMを含む膜を有する。
【図3】電極を有する無線電極の追加の実施形態を示し、電極は本開示によるPOMを含む膜を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の図面は、最初の桁が図番号に対応し、残りの桁が図面内の素子または構成要素を特定するという付番規則に従う。異なる図面間で同じ素子または構成要素は同じ数字を用いて特定することができる。たとえば、110は図1の素子「10」を指し、同様の素子が図2では210として参照される。図面の拡大縮小は図面に示される各種素子の正確な寸法を表していないことは自明なはずである。
【0012】
本開示は、電極表面に金属酸化物を組み込むことによってナノコンポジット構造を形成することを定める。特に、本開示は、電極の全体の物理的寸法を増大させずに電極の電気化学的に活性な擬似容量性表面積を増大させるため、電極表面に組み込まれる金属酸化物の「クラスタ」、すなわち複合物の一種であるポリオキソメタレート(POM)を規定する。
【0013】
POMは、酸化インジウム(IrOx)などの疑似容量性ペーシング電極との酸化還元特性における相似性を発揮する。IrOxと同様、POMは、可逆性の多電極酸化還元プロセスを受ける能力を有する。POMは、電極と組織の接合面でのファラデー酸化還元遷移を可能にするいくつかの酸化状態を電気活性種に提供することもできる。IrOxを有する電極と同様、POMを有する電極は、低偏光、高容量、低感知インピーダンス、および低電圧閾値を有することができる。
【0014】
本開示によると、POMは、結果としてできる電極表面の構造的、電気化学的、および光物理学的特性に関して多用性を提供することができる。POMが組み込まれた電極表面は、電極を用いて伝送される電気刺激用の電位窓を良好に維持しつつ、電極の偏光損失を低減するのを助ける。POMは、電極印加にとって有利な、過酸化水素と窒素酸化物における良好な電気触媒活動を発揮する。POMを組み込んだ電極表面は、大幅なエネルギー損失なく、電極からの電荷移動を可能にすることもできる。概して、本開示に記載されるPOM化合物は、式(I)で表わすことができる。
【0015】
[L] (I)
式中、Aは、第1〜17群(IUPAC)の元素、ナトリウム(Na)、ポタシウム(K)、アンモニウム、アルキルアンモニウム、アルキルホシホニウム、およびアルキルアルソニウムから成る群から選択される少なくとも1つのイオンである。Lは、水素と第13〜17群の元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Mは、第4および7〜12群の金属から成る群から選択される1つの金属である。Jは、第5〜6群の金属から成る群から選択される1つの金属である。下添え字aは、Aの原子価によって乗算されたとき、括弧内のPOM複合物への電荷と釣り合う数字である。下添え字1は0〜約20の範囲の数字、下添え字mは0〜約20の範囲の数字、下添え字zは約1〜約50の範囲の数字、下添え字yは約7〜約150の範囲の数字である。
【0016】
一実施形態では、Lはリン(P)、ヒ素(As)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、水素(H)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、およびボロン(B)の群のうちの少なくとも1つの元素、Mは亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、およびレニウム(Re)の群のうちの少なくとも1つの元素、Jはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロミウム(Cr)、タンタル(Ta)、およびバナジウム(V)の群のうちの少なくとも1つの金属である。さらに、下添え字Iは0〜約4の範囲の数字、下添え字mは0〜約6の範囲の数字、下添え字zは約6〜約24の範囲の数字、下添え字yは約18〜約80の範囲の数字である。
【0017】
POM化合物の例は、ヘキサメタレートアニオン[M6−m]、ケギンアニオン[L1 or 212−m]、およびドーソンアニオン[L2〜418−m]を含むがそれらに限定されない。ヘテロポリオキソメタレートの具体例は、ケギンアニオンの代表的な分子構造を発揮する化合物HPW1240である同じ構造を有するヘテロポリオキソメタレートの他の例は、HSiW124O、HPMo1240、HPMo1040、およびHPMo11VO40である。これらの例は、ヘテロポリオキソメタレートを単に説明することを目的としており、ヘテロポリオキソメタレートの種類を限定することを目的としていないと理解される。本開示の実施形態によると、POMは電極表面に組み込むことができる。本明細書で説明されるように、これは、電極表面にPOMを含む膜を形成することによって達成可能である。次に、POMは、植込み型装置のサイズを増大させずに、既存の導電性電極材料の電気化学的に活性な表面積と容量を増大させるのに役立てることができる。活性表面積と容量の増大は、埋込み電極の物理的サイズの低減も可能とし、送達を容易にし、組織の外傷を低減する点で有益であろう。電極表面でのPOMの使用は、適切な電気刺激用電位窓内に保持しつつ、偏光損失を低減させるのに役立つ。
【0018】
本開示によると、様々な固定化技術が、POMと電極との合体に有効である。たとえば、POMは、化学的または電気化学的重合処理時にモノマーとPOMを含む溶液から成長するポリマー膜に閉じ込めることができる。たとえば、電気化学的重合処理時に、モノマーは、遊離基を生成する重合電位で電気化学的に酸化させることができる。これらの遊離基は電極表面に吸着され、その後、様々な反応を経て、POMを閉じ込めるポリマーネットワークを形成しつつ至る。重合は電極表面で局所的に発生するため、POMは電極表面に近接して閉じ込められる。これは電極表面の被覆に特に適する。
【0019】
他の重合可能な状態も可能である。それには、ポリマー膜へのPOMの吸着、化学蒸着、静電相互作用を通じたポリマー上でのPOMの層間(LBL)自己組立などが含まれる。その他のLBL蒸着技術も、POMをポリマー膜に組み込む際に使用することができる。さらに、ゾル−ゲル法が、電極上にPOMを含む膜を形成するのに利用することができる。ラングミュアー・ブロジェット(LB)技術も、ポリマー膜上にPOMの膜(たとえば、層状膜)を形成するのに利用することができる。
【0020】
POMを含む膜の組成、構造、厚さ、機能特性、および配向の制御は、膜が生成される蒸着方法や状態の影響を受ける可能性がある。たとえば、POMを含むポリマー膜の成長は、ポリマーの電気的特徴に左右される場合がある。さらに、(たとえば動電位的に)電位をサイクルする、あるいは固定電位(たとえば定電位)で生成することにより生成されるポリマー膜は、膜厚とその成長の精密な制御を可能にする。
【0021】
本明細書で説明されるように、POMは、電極表面上にPOMアニオンでドープされた導電性ポリマーの膜を形成することによって、埋込み電極に組み込むことができる。本明細書で使用される際、導電性ポリマーは、導電性を可能にするバンド構造を含む有機ポリマー半導体を含むことができる。代表的な導電性ポリマーは、ポリ(ピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリナフタレン、ポリ(アセチレン)、ポリ(アニリン)(ロイコ−エメラルジン塩基、エメラルジン塩基、およびペルニグラニリン塩基)、ポリ(フルオレン)、ポリフェニレン、ポリ(p−硫化フェニレン)、ポリ(パラ−フェニレンビニレン)、ポリフラン、およびその誘導体を含むがそれらに限定されない。膜は、たとえば、電気重合によって成長させることができる。
【0022】
POMとともに使用可能な導電性ポリマーおよび/またはドーピングイオンの追加例は、生物学的性質を有するもの、超容量性を発揮するもの、トランス−、およびシス−ポリアセチレン、および/またはポリビニルスルホン酸(ドーピングイオン)を含む。たとえば、陽極基板上の電気化学的重合の一実施形態は、ピロール、ナトリウムポリビニルスルホン酸、およびポタシウムポリオキシメタレートの溶液を混合し、陽極に0.4ボルト(V)〜1.2Vの電位を印加することである。その後、ポタシウムPOMアニオンの所望のドーピングレベルは、ナトリウムポリビニルスルホン酸および/またはスルホン酸ポリスチレンのポリマードーパントで調節することができる。一実施形態では、POMは、MおよびJは本明細書に記載したとおりの[Mp−形状のイソポリアニオン、または[Mq−形状のヘテロポリアニオンである。
【0023】
導電性ポリマー膜は、膜の層間成長と、分子レベルでの各層の組成、厚み、および配向の制御とを可能にする層間(LBL)自己組立プロセスによっても形成することができる。上記したように、LBL組立プロセスは、薄多層膜構造を生成することのできる静電引力を介する逆荷電種の交互吸着を含む。また、LBL自己組立プロセスは、POMおよびジアゾ樹脂で使用することができる。この場合、化合物間で形成される通常のイオン結合であったジアゾポリマーを有するPOM複合物は、共有結合に切り替えることができ、体内での長期適用に有効な非常に安定した薄膜を作製する。
【0024】
たとえば、POMを含む多層膜は、一般的に、水溶液内での一連の被覆ステップを通じてLBLプロセスによって形成することができる。被覆ステップ中、電極基板は、導電性ポリマー(たとえば、ポリアニリン)を含むカチオン性水溶液に浸漬し、その後、POMを含むアニオン性水溶液に浸漬することができる。溶液のモル濃度は、酸性pH(たとえば、約pH=5未満)で小さくすることができる(たとえば0.1M、0.01M、または0.001M)。このような多層膜は、中間での水洗と乾燥を伴い所定時間、所望の電極表面をカチオン導電性ポリマーおよびアニオンPOMの溶液に交互に浸すことによって形成することができる。
【0025】
他の実施形態では、POMは、酸ベースのドーピングによって膜の重合後に電極表面に組み込むことができる。たとえば、電極表面は、塩素の物理的吸着または塩素での電極表面の化学修飾によって塩基性にすることができる。その後、POMアニオンが塩基性の活性化された電極表面に導入されて、POMアニオンおよびプロトン付加された塩基を備える吸着イオン対を形成するように塩基と反応する。オープンサイトまたは緩く結合した交換可能なリガンドを有するPOM化合物内の周辺ヘテロ原子へのドナー原子による直接連携があってもよい。
【0026】
追加の実施形態では、電極表面内のPOMアニオンの濃度は、他のドーピングアニオンの同時混入によって調節することができる。他のドーピングアニオンは、トリポリリン酸、クエン酸、シアン酸群、ヘパリン、または硫酸群を含むがそれらに限定されない生体分子から成る群から選択することができる。追加のドーピングアニオンとPOMアニオンとを使用することにより、POMアニオンの化学組成とドーピングレベルを変更して電極容量とインピーダンスを制御し調整することができる。
【0027】
本開示の電極表面は、様々な物理的構造を取ることができる。たとえば、導電膜を受け取る電極表面は、多孔性にする、焼結する、および/またはパターニングすることができる。適切な多孔性電極表面の例は、白金(Pt)と、酸化インジウム、炭化タングステン、炭化ケイ素、酸化タンタル−酸化イリジウム(TiO−IrO)、酸化イリジウム−二酸化タンタル(IrO−TaO)、酸化スズ、酸化インジウム、およびフラーレンなどの導電性セラミックとの群から選択される材料を含む。これらの材料は、スパッタリング、電着、またはゾル−ゲル法によって多孔性にすることができる。一方、多孔性電極表面は、ゾル−ゲル法、共蒸着(層間自己組立)の様々な方法、およびペンダント表面リガンドとの反応の群から選択されるプロセスを用いて、POMアニオンと同時形成することもできる。
【0028】
本開示で有効な追加の電極表面は、活性炭、炭素エアロゲル、ポリマーから得られる炭素発泡体、酸化物、水和性酸化物、TiNなどの窒化物セラミック、炭化物、窒化物、およびその他の導電ポリマーを含むがそれらに限定されない。酸化物および水和性酸化物の例は、RuO、IrO、NiO、MnO、VO、PbO、およびAgOなどである。さらに、炭化物と窒化物の例は、MoC、MON、WC、およびWNなどである。
【0029】
本明細書で説明されるように、電極表面に固定化されたPOMアニオンは、結果としてできる電極の導電表面個所の数と容量を増大させることができる。たとえば、POMアニオン構造(たとえば、3成分および2成分混合酸化物の様々な組み合わせ)の化学組成を調節することによって、結果としてできる電極の容量、偏光、電気化学的性能、および安定性を変更することができる。さらに、本明細書で説明したように、POMアニオンの使用を通じて電極用の表面積を増大させることで、電極の幾何学的表面積を実質上変更せずに、電流密度を低減し、容量を増大させることができる。そのうえ、大きな表面積を提供することによって、POMは本明細書で説明されるように、多孔率、電気的活性領域(二重層)、およびPOMが経ることのできるファラデー酸化還元段階の組み合わせを提供することができる。
【0030】
上記の電極の例は、心臓組織を感知しペースを調整するために使用される電極、除細動エネルギーを感知し心臓組織に運ぶために使用される電極、脳、脊髄、耳などの神経細胞および神経系からの電気信号を感知する、および/または脳、脊髄、耳などの神経細胞および神経系に刺激パルスを供給するために使用される電極、および血管系、血液、および/または尿路系に刺激パルスを供給するために使用される電極を含むが、それらに限定されない。
【0031】
POMを有する電極表面の実施形態は、リード電極および/または無線電極とともに使用することができる。各種実施形態では、POMを有するリード電極は、リード本体、リード本体内の導体、および表面にPOMを有するリード本体上の電極を含む。別の実施形態では、無線電極は、表面にPOMを有する第1および第2の電極と、第1および第2の電極間に連結された誘導コイルとを有する。第1および第2の電極は、誘導コイルで受け取った無線周波数エネルギーから電位放電を生成することができる。さらに、無線電極は、誘導コイルに連結されるバッテリも含むことができ、バッテリは、外部送信器から無線周波数エネルギーを受け取る誘導コイルから生成された電流で再充電可能である。さらに、無線電極は、第1の電極と第2の電極間の電位を蓄積し送出するために誘導コイルに連結される蓄積コンデンサを含むことができる。
【0032】
図1は、リード100を示す。図示されるように、リード100は、リード本体105と、リード本体105内の導体115とを含む。導体115は、表面127を有する電極125に連結されて示される。パルス発生器(たとえば、ペースメーカー)145も図示され、リード100はヘッダ構造を介してパルス発生器145に脱着可能に装着される。一実施形態では、パルス発生器145は、信号の解析、処理、および制御を実行する電子部品を含むことができる。このような電子部品は、細動、頻脈、および徐脈などの心不整脈に反応して心臓に送られる心室細動、心房細動、電気除細動、および/またはペーシング(二重または単独チャンバ)に関する異なるエネルギーレベルおよびタイミングの電気ショックおよび/またはパルスの配送を決定し制御するため、感知した心臓信号の処理と評価を提供する1つまたはそれ以上のマイクロプロセッサを含むことができる。パルス発生器145は、電源、上記バッテリ、コンデンサ、およびその他の構成要素も含むことができる。
【0033】
本開示によると、電極125の表面127は、本開示の実施形態に従い形成されたPOMを有する膜135を含む。電極125の材料の例も、本明細書に説明される本開示の実施形態に従う。たとえば、電極125の材料は、白金(Pt)、金(Au)、およびイリジウム(Ir)を含むことができるがそれらに限定されない。
【0034】
追加の実施形態では、リード本体105内の導体115は、本開示によると、POMアニオンでドープされたポリマーから少なくとも部分的に形成することができる。本実施形態の場合、POMアニオンでドープされたポリマーは、蒸着、鋳造、または押出成形して導体115を形成することができる。さらに、導体115を形成するPOMアニオンドープされたポリマーと周囲のリード本体105とを同時押出成形することが可能である。リード本体105の材料は、当該技術において既知な材料から選択することができる。
【0035】
他の実施形態では、リード100は生分解性になるように構成することができる。たとえば、導体115は、生分解性ポリマーのリード本体105が周囲に形成された蒸着POM層から形成することができる。生分解性導体115を形成する1つの方法は、LBL自己組立アプローチを利用して、適切なカチオン逆分子でアニオンPOMの層を作製することである。たとえば、POMを組み込んだチトサン層は、体内の各種塩イオンによってゆっくりと破壊され得る層間のイオン結合を形成することができる。生分解性ポリマーの他の例は、ポリカルボン酸、無水マレイン酸ポリマーを含むポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリアミノ酸、ポリ酸化エチレン、ポリホスファゼン、ポリアクト酸、ポリグリコール酸およびコポリマー、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(D,L,−ラクチド)、ポリ(乳酸−グリコール酸共重合体)、50/50(DL−ラクチド−グリコリド共重合体)などのそのコポリマーおよび混合物、ポリジオキサノン、フマル酸ポリプロピレン、ポリデプシペプチド、ポリカプロラクトン、ポリ(D,L−ラクチド−カプロラクトン共重合体)、およびポリカプロラクトン−アクリル酸ブチル共重合体などのそのコポリマーおよび混合物、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩および混合物、チロシン由来ポリカーボネートやアリレートなどのポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリジメチル−トリメチルカーボネート、シアノアクリレート、リン酸カルシウム、ポリグリコサミノグリカン、多糖類などの巨大分子(ヒアルロン酸、セルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチ、スターチ、デキストラン、アルギン酸およびその誘導体を含む)、タンパク質およびポリペプチド、上記のいずれかの混合物およびコポリマーを含むことができるがそれらに限定されない。生分解性ポリマーも、ポリヒドロキシ酪酸およびそのコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリ酸無水物(結晶質および非結晶質の両方)、および無水マレイン酸コポリマーなどの表面浸食可能なポリマーであってよい。
【0036】
さらに、膜135を含む電極125は、本開示にしたがい形成されるPOMアニオンでドープされた生分解性導電性ポリマーで形成することもできる。本実施形態では、電極125は、鉄(Fe)および/またはマグネシウム(Mg)などの酸化しやすい材料で形成することができる。
【0037】
図2は、本開示に係る無線電極210を示す。無線電極210は第1の電極220および第2の電極240を含み、誘導コイル250が電極220、240の間に連結される。第1および第2の電極220、240の表面の一方または両方が、本開示によるPOMを有する膜235をさらに含む。誘導コイル250は、電極220、240間に電位放電を生成するために、平行な角度で誘導コイル250と交差するエネルギー260を受け取る。
【0038】
さらに別の実施形態では、無線電極210は、生分解性を有するように構成することができる。たとえば、誘導コイル230は、POMの層を重ねた後、生分解性ポリマー絶縁体外装でPOMを絶縁することによって作製することができる。さらに、電極220および240は、本明細書で説明されるように、1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーおよび/または酸化金属から形成することができる。
【0039】
図3は、バッテリ370、誘導コイル350に連結される蓄積コンデンサ380、およびAC/DCコンバータ(図示せず)をさらに含む無線電極310の追加の実施形態を示す。バッテリ370は、外部送信器から受け取ったRFエネルギー360から誘導コイル250により生成される電流で再充電可能である。次に、誘導コイル350に連結される蓄積コンデンサ380は、第1の電極320と第2の電極340との間の電位を蓄積し送出するために使用することができる。このような無線電極の例は、譲受人共通の米国特許出願「リード線なし心臓刺激システム(Leadless Cardiac Stimulation System)」(BSCI Docket#04−0229)に提示されており、引用により全文が本明細書に組み込まれるものとする。
【0040】
本開示の追加の実施形態は、周囲組織の治癒を促進するため、POMアニオンを有する植込み型医療装置の表面に電気刺激を与えることである。たとえば、POMアニオンを有する電極表面は本明細書で説明されるように、植え込まれた、または遠隔のエネルギー源により刺激パルスが植込み装置近接の組織に送られる、人工血管、合成心臓弁、および左心室補助装置(LVAD)表面などの植込み装置の表面に一体化させることができる。パルスの電圧振幅は、細胞を刺激するのに十分でなければならないが、電極表面での有害な反応を防ぐため閾値未満でなければならない。これは、本明細書の実施形態に記載されるように、植込み装置の幾何学的表面積を増加させずに電極表面積を増大させる電極にPOMを含む膜を貼付することによって部分的に達成可能である。このような医療装置の例は、譲受人共通の米国特許出願「植込み装置表面での細胞成長刺激(Stimulation of Cell Growth at Implant Surfaces)」(BSCI Docket#04−0062)に提示されており、引用により全文が本明細書に組み込まれるものとする。
【0041】
本発明は、各種特定の実施形態を参照して説明し、実施例に関して説明した。しかしながら、実施例と詳細な説明に示されるものを超えた、本発明の基本テーマに関する多くの拡張、変形、および修正があり、それらは本発明の精神と範囲に含まれると理解される。
【0042】
本明細書で引用される特許、特許文書、および参考文献の開示は、それらが個々に組み込まれた場合と同様、その全文が引用により本明細書の一部をなすものとする。本開示の様々な変更や修正は、本開示の範囲と精神を逸脱せずに当業者にとって自明である。本開示は、本明細書に記載される実施形態や例によって不当に制限されることを目的としておらず、上記例と実施形態は以下本明細書に記載される請求項によってのみ限定される本開示の範囲を単に例示のために述べたものであると理解されたい。
【0043】
上記の詳細な説明において、本開示を簡潔化する目的で、様々な特徴が一緒にグループ化されている。この開示方法は、本開示の実施形態が各請求項に明確に記載されるよりも多くの特徴を要するという意図を反映するものと解釈すべきではない。むしろ、以下の請求項が反映するように、発明の主題は単独の開示された実施形態の全特徴よりも少ない。よって、以下の請求項はこれにより詳細な説明の一部をなすものとし、各請求項は別個の実施形態として自身に基づく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキソメタレート(POM)を有する電極表面を備える、埋込み電極。
【請求項2】
前記POMが前記電極表面上の膜に含まれる、請求項1に記載の埋込み電極。
【請求項3】
前記膜が前記POMでドープされた導電性ポリマーである、請求項2に記載の埋込み電極。
【請求項4】
前記導電性ポリマーが、ポリピロール、ポリビニルスルホン酸、ポリチオフェン、ポリアニリン、およびポリフランから成るグループから選択される、請求項3に記載の埋込み電極。
【請求項5】
前記POMが、前記電極表面上の前記膜の電気重合中に、前記電極表面に閉じ込められる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の埋込み電極。
【請求項6】
前記膜が、POMおよびジアゾポリマーを含んで提供される、請求項2に記載の埋込み電極。
【請求項7】
前記電極表面が、前記埋込み電極の疑似容量性電極表面を提供する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の埋込み電極。
【請求項8】
前記電極表面が多孔性担体の被覆を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の埋込み電極。
【請求項9】
前記電極が前記多孔性担体で被覆される前に、前記POMが前記多孔性担体と同時形成される、請求項8に記載の埋込み電極。
【請求項10】
前記多孔性担体が、白金(Pt)、酸化イリジウム、炭化タングステン、炭化ケイ素、酸化チタニウム−酸化イリジウム(TiOa−IrO)、酸化インジウム−二酸化タンタル(IrO−TaO)、酸化スズまたは酸化インジウム、およびフラーレンから成るグループから選択される、請求項8に記載の埋込み電極。
【請求項11】
表面にポリオキソメタレート(POM)を有する第1の電極と、
表面にPOMを有する第2の電極と、
前記第1と第2の電極との間に連結される誘導コイルと、
を備え、前記第1および第2の電極が、前記誘導コイルで受け取られる無線周波数エネルギーから電位放電を生成することができる、無線埋込み電極。
【請求項12】
前記POMが、前記電極表面上の導電性ポリマー膜に含まれる、請求項11に記載の無線埋込み電極。
【請求項13】
前記無線電極が生分解性である、請求項11または12に記載の無線埋込み電極。
【請求項14】
前記誘導コイルに連結されるバッテリを含み、前記バッテリが、外部送信器から無線周波数エネルギーを受け取る前記誘導コイルから生成される電流で再充電可能である、請求項11〜12のいずれか1項に記載の無線埋込み電極。
【請求項15】
前記第1の電極と前記第2の電極間の電位を蓄積し且つ送出するために前記誘導コイルに連結された蓄積コンデンサを含む、請求項11または12に記載の無線埋込み電極。
【請求項16】
ポリオキソメタレート(POM)を重合可能な混合物に組み込むステップと、
前記POMを混入した前記重合可能な混合物の膜を埋込み電極の表面に形成するステップと、
を備える方法。
【請求項17】
前記膜を形成するステップが、電気重合を実行して、前記埋込み電極の前記表面上に前記膜を形成するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記膜の重合可能な混合物が導電性ポリマーである、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記膜を形成するステップが、前記膜に前記POMを均一に閉じ込めるステップを含む、請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記膜を形成するステップが、前記POMが前記電極の前記表面上のポリカチオンによって安定化される層間プロセスを含む、請求項16〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記膜の電気的性能を変更するために前記POMの化学組成および構造を調節するステップを含む、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記電極の前記表面が、前記電極を形成する導電材料を蒸着することによって形成される多孔性構造を有する、請求項16〜21のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−503462(P2010−503462A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528318(P2009−528318)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/020081
【国際公開番号】WO2008/033546
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】