説明

ポリオレフィン−シリコーン共重合体、それを含有する熱可塑性樹脂組成物、それらの成形体

【課題】簡易な方法により、熱可塑性樹脂の摺動性、耐擦傷性、耐摩耗性などを改善し、またその効果を持続させることのできる、ポリオレフィン−ポリオルガノシロキサン共重合体を提供する。
【解決手段】反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物とシリコーン系マクロモノマーを溶融混練し反応させた後の反応率が70%以上であることを特徴とするポリオレフィン−シリコーン共重合体。本発明のポリオレフィン−ポリオルガノシロキサン共重合体を、ポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂に配合することにより、その耐擦傷性を向上させることが出来た。また当該共重合体の反応率を向上させることにより、配合したポリプロピレン樹脂の耐擦傷性改良効果に持続性が発現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物と、該反応性官能基と反応性を有する官能基を有するシリコーン系化合物とを溶融混練して得られることを特徴とする、ポリオレフィン−シリコーン共重合体に関するものである。また、該共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物、それらの成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂はその成形性、剛性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などに優れたものであり、また安価であることから、フィルム、繊維、そのほか様々な形状の成形品などの広い範囲で汎用的に使用されている。反面、ポリオレフィン系樹脂はその成形品表面の摺動性、耐擦傷性、耐摩耗性などに課題があり、例えば、インスツルメントパネルやドアトリムなどの自動車内装部品に使用すると爪等との接触による傷で容易に外観を損ねることなどが問題となり、またグラスランチャネルなどの外装部品でもガラスに対する摺動性が悪いため耐久性などが問題となった。
【0003】
この課題解決のため、ポリオルガノシロキサンに代表されるシリコーンオイルや脂肪酸アミドなどの滑剤をポリオレフィン系樹脂に配合する方法での摺動性、耐擦傷性、耐摩耗性の改良が試みられているが、これらは一般にポリオレフィン系樹脂との相溶性が悪く、混練時もしくは成形時に分離しやすい、また、成形後にブリードアウトしてきて成形品の外観や触感を損なう、などの問題があった。摺動性改良剤としてポリオレフィン変性ポリシロキサンを使用する技術(特許文献1)も知られているが、ベース樹脂との組み合わせによっては十分な物性を発揮できない場合があった。
【特許文献1】特開2001-200166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡易な方法により、熱可塑性樹脂の摺動性、耐擦傷性、耐摩耗性などを改善し、またその効果を持続させることのできる、ポリオレフィン−シリコーン共重合体、該共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物、それらの成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するにいたった。即ち本発明は、以下の構成を有するものである。
【0006】
1)(A)反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物100重量部
(B)反応性官能基を有するシリコーン系化合物50〜300重量部
を溶融混練し反応させて得られ、(B)の反応率が70%以上であることを特徴とするポリオレフィン−シリコーン共重合体。
【0007】
2)前記(A)がカルボキシル基、または無水マレイン酸基を有するポリオレフィン系化合物であり、前記(B)がアミノ基、またはエポキシ基を有するシリコーン系化合物であることを特徴とする、1)に記載のポリオレフィン−シリコーン共重合体。
【0008】
3)熱可塑性樹脂100重量部に対して、1)〜2)のいずれか1項に記載のポリオレフィン−シリコーン共重合体を0.1〜5重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
4)前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする3)記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【0010】
5)3)〜4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体により、ポリオレフィン系樹脂に耐擦傷性、耐磨耗性、摺動性を付与することができるため、自動車用材料、電気電子材料、建築材料、文具、雑貨などとして工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<<A成分について>>
本発明では(A)成分として反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物を使用する。本発明でいう反応性官能基とは、化学反応性を有する一般的な官能基の総称であり、例示するとヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、シリル基などの官能基や種々のラジカル重合性基が挙げられる。ラジカル重合性基としては、例えばビニル基、アリル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。これら反応性基は分子中に2個以上有していてもよいし、異なる反応性基を有していてもよい。
【0014】
また、本発明で(A)成分に使用するポリオレフィン系化合物は、炭素数2〜12のα―オレフィンの単独重合体、又はそれらが主成分となる共重合体であることが好ましい。これらの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンとのランダムあるいはブロック共重合体、プロピレンと1−ブテンとのランダムあるいはブロック共重合体、プロピレンとエチレンと1−ブテンとのランダムあるいはブロック三元共重合体に反応性官能基を導入したものなどが挙げられる。また、上記α―オレフィンと共重合可能なモノマーとして、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル化合物などを用いることもできる。これらのなかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはプロピレンとエチレンとのランダムあるいはブロック共重合体が、入手性の点で好適に用いることができ、特にポリエチレンが好適に用いることができる。
【0015】
ポリオレフィン系化合物への反応性官能基の導入方法に制限はないが、一般的には末端、あるいは分子鎖中に重合性の不飽和二重結合をもつ化合物を有機過酸化物と同時に添加し、ラジカル反応によって導入する方法が例示できる。具体例としては、ヒドロキシル基を導入する場合に用いることができる化合物として、アリルアルコール、エチレングリコールモノアリルエーテル、2−ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどが挙げられる。アミノ基を導入する場合は、アリルアミン、2−アミノエチルアクリレート、2−アミノエチルメタクリレートなどが挙げられる。エポキシ基を導入する場合は、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、脂肪族エポキシメタアクリレート、脂肪族エポキシアクリレートなどが挙げられる。カルボキシル基を導入する場合は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、カルボキシエチルアクリレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレートなどが挙げられる。酸無水物基の場合は、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。シリル基を導入する場合は、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、安価かつ安定的に入手でき、また比較的高確率でポリオレフィン系樹脂に導入できる点から、無水マレイン酸などの酸無水物基や、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基を導入したポリオレフィン系化合物が好適に用いられ、特に無水マレイン酸基を導入したポリオレフィン系化合物が好ましい。特にそれらが末端に存在すると(B)シリコーン系マクロモノマーとの反応性の点から好ましい。
【0016】
本発明で用いられる(A)成分の数平均分子量は特に限定されないが、500〜100,000が好ましく、1,000〜50,000がより好ましい。数平均分子量が500よりも小さいと、得られる共重合体を配合する熱可塑性樹脂との相溶性が十分でなくなる傾向がある。数平均分子量が100,000よりも大きいと、得られる共重合体を熱可塑性樹脂に配合した時の改質効果が十分でなくなる傾向がある。
【0017】
<<B成分について>>
本発明で用いられる(B)反応性官能基を有するシリコーン系化合物としては(A)反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物の反応性官能基と反応する基を1つ以上有するポリオルガノシロキサンであればよく、アルコール変性ポリオルガノシロキサン、アミノ変性ポリオルガノシロキサン、エポキシ変性ポリオルガノシロキサン、カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。またラジカル重合性基を持つものではアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する変性ポリオルガノシロキサン、無水マレイン酸変性ポリオルガノシロキサン、スチレン変性ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。これらのうち反応性を考慮するとエポキシあるいはアミノ変性ポリオルガノシロキサン(アミノ基またはエポキシ基を有するシリコーン系化合物)が好ましく、特にアミノ変性ポリオルガノシロキサン(アミノ基を有するシリコーン系化合物)が好ましい。
【0018】
本発明で用いられる(B)成分の主鎖骨格は直鎖状でも環状でも分岐状でも良く、架橋により三次元的な網目構造を取っていても良い。本発明の(B)成分は微粒子であってもよい。単一のシリコーン系化合物のみからなるものであっても良いし、2種以上のシリコーン系化合物からなる複合粒子、共重合体、ブレンドであっても良い。
【0019】
本発明で用いられる(B)成分の数平均分子量は特に限定されないが、100〜100,000が好ましく、1,000〜40,000がより好ましい。数平均分子量が100よりも小さいと、共重合体に占めるシロキサン単位の割合が少なくなり、得られる共重合体を熱可塑性樹脂に配合した時の改質効果が十分でなくなる傾向がある。数平均分子量が100,000よりも大きいと、得られる共重合体を熱可塑性樹脂に配合した時に共重合体がその成形体表面付近に出てきにくくなり、改質効果が十分でなくなる傾向がある。
【0020】
本発明の(A)成分に対する(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、(B)成分50〜300重量部の範囲であり、好ましくは80〜200重量部である。(B)成分の配合量が50重量部を超えることで、得られる共重合体を熱可塑性樹脂に配合した時に本発明の目的とする改質効果が発現されやすい傾向がある。一方で、配合量が300重量部を超えると、得られる共重合体のハンドリングが悪くなったり、(A)成分と反応しなかった(B)成分が成形体の外観や触感を損なったりする傾向がある。
【0021】
<<その他成分について>>
本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体を製造する際、(A)成分反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物、(B)成分反応性官能基を有するシリコーン系化合物以外の成分を少量添加しても良い。使用できる(A)成分、(B)成分以外の成分の具体例としては、通常良く知られた酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機系難燃剤、有機系難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤などが挙げられる。これらは単独または2種以上併用して使用することができ、使用量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定は無いが、得られるポリオレフィン−シリコーン共重合体100重量部に対して、好ましくは1重量部未満、より好ましくは0.1重量部未満未満である。
【0022】
また、反応を促進させる目的で有機過酸化物やそれ以外の触媒を少量添加しても良い。有機過酸化物としては、特に限定されないが、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上併用して使用しても良い。有機過酸化物の添加量は、ベースとなるポリオレフィン−シリコーン共重合体100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内にあることが好ましく、さらには0.05〜8重量部、特には0.1〜5重量部の範囲内にあることが好ましい。0.01重量部未満では反応促進の効果が十分でない傾向があり、10重量部を超えると得られる共重合体の機械的物性の低下を招く傾向がある。
【0023】
有機過酸化物以外の触媒としては、特に限定されないが、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン系化合物;トリメチルアミン、トリメタノールアミンなどのアミン系化合物;1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムテトラフェニルボレートなどのボレート系化合物;イミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2、4−ジメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;2−メチルイミダゾリン、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2、4−ジメチルイミダゾリンなどのイミダゾリン類;2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンなどのトリアジン類などが挙げられる。これらは単独あるいは2種以上併用して使用しても良く、添加量はポリオレフィン−シリコーン共重合体100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内にあることが好ましく、さらには0.05〜8重量部、特には0.1〜5重量部の範囲内にあることが好ましい。0.01重量部未満では反応促進の効果が充分でない傾向があり、10重量部を超えると得られる共重合体の機械的特性の低下を招く傾向がある。
【0024】
<<溶融混練>>
本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体の製造方法において、(A)成分反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物と(B)反応性官能基を有するシリコーン系化合物の溶融混練方法は特に限定されないが、高温下の装置中に一括添加して反応させる方法、あるいは(A)成分をあらかじめ溶融状態にしておき、(B)成分を後で添加して、反応させる方法などが例示できる。反応に用いる装置についても限定はなく、例えば、オートクレーブ、撹拌翼付のセパラブルフラスコ、一軸押出機、二軸押出機、プラストミル、ニーダー、バンバリーミキサー、加熱ロールなどが好適に用いられる。なお、混練条件については、各成分の種類と組み合わせにより任意に設定できるが、反応温度は概ね150℃〜250℃の範囲であり、反応時間は約2時間以内であることが材料の熱安定性、反応効率などの観点から好ましく、(B)成分の反応率は70%以上であることが好ましく、さらには85%以上であることが好ましい。
【0025】
(B)成分の反応率は、未反応の(B)成分を溶解し(A)成分と(B)成分の共重合体を溶解しない溶媒で反応生成物を洗浄し、得られた不溶物中に含まれる(B)成分の重量を(A)成分と(B)成分が完全に反応した場合に(A)成分と反応する(B)成分の重量で除して求めることができる。
【0026】
本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体は、熱可塑性樹脂用の耐擦傷性付与剤、耐摩耗性付与剤、摺動性付与剤、低温脆性改良剤、可塑剤、難燃助剤、耐衝撃性改良剤、耐薬品性改良剤、ガス透過性付与剤、相溶化剤などとして好適に用いることができ、特にポリオレフィン系樹脂用の改質剤として好適に用いることが出来る。
【0027】
<<熱可塑性樹脂組成物>>
本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体は、熱可塑性樹脂に添加することにより、熱可塑性樹脂組成物として用いることができる。熱可塑性樹脂の種類に特に制約はなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂に加え、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニルクロライド、ポリイミド、ポリアリレート、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル−スチレン−メチルアクリレート共重合体(ASA)、ポリ酢酸ビニル、エチレン−ビニルアセテート共重合体(EVA)等が挙げられる。これらは、1種単独、あるいは2種以上併用したアロイ樹脂として組み合わせても良い。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂が、本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体と相溶性を含めたバランスに優れることから、目的とする効果を発現しやすい。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンとのランダムあるいはブロック共重合体、プロピレンと1−ブテンとのランダムあるいはブロック共重合体、プロピレンとエチレンと1−ブテンとのランダムあるいはブロック三元共重合体などが挙げられる。また、上記α―オレフィンと共重合可能なモノマーとして、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル化合物なども用いることができ、これらとのランダムあるいはブロック共重合体などがあげられ、さらにはポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)も挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合しても用いることができる。
【0029】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系共重合ゴムと結晶性オレフィン系重合体とからなり、その形態としては、これらの単純ブレンド組成物、部分架橋ブレンド組成物、及び完全架橋(動的架橋)ブレンド組成物などが挙げられる。具体的には、オレフィン系共重合ゴムと結晶性ポリオレフィン系重合体の混練物に有機過酸化物を加え、両者を部分架橋させる方法、オレフィン系共重合ゴムと有機化酸化物を混練してゴム相を部分架橋させ、これを結晶性オレフィン系重合体にブレンドさせる方法などが挙げられる。また、オレフィン系共重合ゴムと結晶性ポリオレフィン系重合体の混練物に有機過酸化物を加え、オレフィン系共重合ゴム成分を完全に架橋体とさせても良い。
【0030】
熱可塑性樹脂への本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体の配合量は、成形品の物性がバランスよく得られるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためには本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体の量が熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部、更には0.5〜5重量部が好ましい。
【0031】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常良く知られた添加剤、たとえば酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機系難燃剤、有機系難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤などやクレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイトなどの充填剤を単独でまたは2種以上併用して適宣使用することができる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、通常の熱可塑性樹脂の配合に用いられる方法を用いることができ、たとえば、熱可塑性樹脂と本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体および任意によりその他の添加剤成分とを、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。
【0033】
かくして得られる熱可塑性樹脂組成物の成形法としては、通常のこれら熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる方法をあげることができ、たとえば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などの成形法が挙げられる。
【0034】
<<熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体について>>
本発明によって得られる熱可塑性樹脂組成物は成形体としても用いることができ、代表的な用途としては、自動車のポリオレフィン系部材として利用できる。具体的には、フロント・リアバンパー、フェンダープロテクター、ラジエターグリル、エンジン及びトランスミッション用アンダーカバー、リニアフィッシャー、オーバーフェンダー、サイドモール、エアロパーツ、エアダクトカバー、エアダクトホース、ウェザーストリップ、グラスランチャネル、ウィンドウモール、ドアシール、タイミングベルトカバー、サンルーフハウジング、ドアミラー、インストルメントパネル、コンソールボックス、シートフレーム、シートベルト構成製品、トリム類(ドアトリム、内装トリムなど)、成形天井、サンバイザー、リアクションカバー、ステアリングパッド、コンソール、ピラー類、ランプハウジング、ファンシュラウド、空調ケース、空調ドア、チャイルドシート、メーターケース、シート材(内装シート、インパネ表皮、ガラスシェード・装飾シート、サンバイザーシート、シフトレバー、アームレストなど)、エアバックカバーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。自動車用途以外でも、建築分野(土木・建築用の止水材、目地材、化粧鋼板の被覆材など)、電気分野(各種ハウジング、家電製品の滑り止め、ガスケット、パッキン、グリップ類など)、スポーツ用品、文具・雑貨分野で利用できる。また、リサイクル性に優れるなど循環型社会に適合している。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0036】
[耐擦傷性試験]
後述の手順で厚さ2mmのサンプル板を作成した。なお全てのサンプル板について、試験後の傷の観察を容易にする目的で、配合時に微量のカーボンブラックを添加して黒く着色を行った。HEIDON TYPE 14DR(新東科学社製)に金巾3号で覆った直径2.5cm、高さ1.0cmの半円柱のアルミを取り付け、そこにサンプル板をセットし、一定荷重(1kg)をかけてサンプルシートを所定回数(20回)摩擦した。なお、試験毎に金巾3号の交換を行った。試験後のサンプルについて、光学顕微鏡VHX−100F(キーエンス社製)で傷跡を観察し、摩擦方向と平行についた傷の本数を数え、傷付き具合の指標とし、耐擦傷性を評価した。
【0037】
[耐久性試験]
後述の手順で厚さ2mmのサンプル板を作成した。このサンプル板に大量のメタノールを吹きかけて洗った後、傷が付かないよう優しくメタノールを拭き取り、24時間室温での養生を行った。養生後のサンプル板について、上述の耐擦傷性試験を行い、本発明の耐擦傷性改善効果の耐久性の指標とした。
【0038】
[(B)成分反応率]
共重合体中に含まれる(B)成分の反応率について以下の手法で評価した。すなわち、生成物およそ1gを100mlナスフラスコに入れ、ヘキサン80ml(和光純薬製)を加え、室温で10分撹拌した。その後、不溶分について濾過で分離し、さらに大量のヘキサンで洗った。操作後の[{ヘキサン洗浄後不溶分質量}−{ナスフラスコに仕込んだ共重合体質量}×{共重合体中の(A)成分質量分率}]を{共重合体中(A)成分と反応した(B)成分質量}とした。得られた{共重合体中(A)成分と反応した(B)成分質量}を、(A)成分と(B)成分が完全に反応したと仮定した場合の{共重合体中(A)成分と反応した(B)成分質量}で除した値を反応率とした。
【0039】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却機、温度計及び窒素導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに両末端無水マレイン酸変性PE(三洋化成社製、ユーメックス2000、Mn=8000)100重量部を仕込んだ後、窒素ガスを吹き込むことによって内部を窒素で置換した。撹拌をしながらオイルバスで系を昇温し、PEが溶け、溶融PE中の温度が210℃となったところで側鎖モノアミン変性ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製、BY16−213、Mn=4000、アミン等量:2700)100重量部を加えた。系中の温度を保ったまま1時間撹拌した後、撹拌を続けたまま系を放冷し、ぱさぱさした触感の肌色固体として共重合体を得た。得られた共重合体について上述の手法で(B)成分反応率を評価した。
【0040】
得られた共重合体1重量部、TSOP−5G(トヨタ社製、灰分:20%、曲げ弾性率:2600MPa、Izod:260J/m)100重量部、カーボンブラック(旭カーボン社製 旭#15)0.1重量部を200℃に設定した2軸押出機(日本製鋼所製、TEX30:L/D=28)を用いて溶融混練することにより樹脂組成物を得、さらにその樹脂組成物から200℃に設定した射出成形機(東芝社製、IS80EPN)を用いて、サンプル板(120mm正方形、厚さ2mm)を作成し、48時間養生した後、上述の耐擦傷性試験、および耐久性試験を行い評価した。
【0041】
(実施例2)
溶融した両末端無水マレイン酸変性PEの温度が170℃となったところで、側鎖モノアミン変性ポリジメチルシロキサンを加え、系中の温度を保ったまま1時間撹拌した以外は、(実施例1)と同様の操作を行い、得られた共重合体について上述の手法で(B)成分反応率を評価した。また(実施例1)と同様の操作でサンプル板を用意し、上述の耐擦傷性試験、および耐久性試験を行い評価した。
【0042】
(比較例1)
溶融した両末端無水マレイン酸変性PEの温度が135℃となったところで、側鎖モノアミン変性ポリジメチルシロキサンを加え、系中の温度を保ったまま1時間撹拌した以外は、(実施例1)と同様の操作を行い、得られた共重合体について上述の手法で(B)成分反応率を評価した。また(実施例1)と同様の操作でサンプル板を用意し、上述の耐擦傷性試験、および耐久性試験を行い評価した。
【0043】
(比較例2)
TSOP−5G10重量部、側鎖モノアミン変性ポリジメチルシロキサン1重量部、カーボンブラック(旭カーボン社製 旭#15)0.1重量部をラボプラストミル(東洋精機製、LABOPLASTOMILL)を用いて200℃で溶融混練することにより、マスターバッチを得た。このマスターバッチ10.1重両部とTSOP−5G90重量部を2軸押出機で溶融混練することにより樹脂組成物を得、さらにその組成物から200℃に設定した射出成形機を用いて、サンプル板(120mm正方形、厚さ2mm)を作成し、48時間養生した後、上述の耐擦傷性試験、および耐久性試験を行い評価した。
【0044】
(比較例3)
TSOP−5G100重量部、カーボンブラック(旭カーボン社製 旭#15)0.1重量部を2軸押出機を用いて溶融混練することにより樹脂組成物を得、さらにその樹脂組成物から200℃に設定した射出成形機を用いて、サンプル板(120mm正方形、厚さ2mm)を作成し、48時間養生した後、上述の耐擦傷性試験、および耐久性試験を行い評価した。
【0045】
(反応率・耐擦傷性試験・耐久性試験結果)
下記表1に重合後反応率とサンプル平板についての評価結果を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、本発明のポリオレフィン−シリコーン共重合体を、ポリプロピレン樹脂に配合することにより、その耐擦傷性を向上させることが出来た。また当該共重合体の反応率を向上させることにより、配合したポリプロピレン樹脂の耐擦傷性改良効果に持続性が発現した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)反応性官能基を有するポリオレフィン系化合物100重量部
(B)反応性官能基を有するシリコーン系化合物50〜300重量部
を溶融混練し反応させて得られ、(B)の反応率が70%以上であることを特徴とするポリオレフィン−シリコーン共重合体。
【請求項2】
前記(A)がカルボキシル基、または無水マレイン酸基を有するポリオレフィン系化合物であり、前記(B)がアミノ基、またはエポキシ基を有するシリコーン系化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のポリオレフィン−シリコーン共重合体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリオレフィン−シリコーン共重合体を0.1〜5重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項3記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた成形体。

【公開番号】特開2009−270025(P2009−270025A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122387(P2008−122387)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】