説明

ポリオレフィン微多孔膜、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池

【課題】耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層と複合した際に、優れたシャットダウン特性を有する非水系二次電池用セパレータを提供できるポリオレフィン微多孔膜を提供すること。
【解決手段】105℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が10〜23%であり、120℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が20〜35%であり、120℃における熱収縮率が105℃における熱収縮率に対し1.5〜2.5倍であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜に関わるものであり、特に非水系二次電池の安全性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にリチウムイオン二次電池は、正極にコバルト酸リチウムに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極にリチウムをドープ・脱ドープ可能な炭素材料を用いている。このようなリチウムイオン二次電池を代表とする非水系二次電池は、高エネルギー密度を有するという特徴から、携帯電話に代表される携帯電子機器の電源として重要なものであり、これら携帯電子機器の急速な普及に伴いその需要は高まる一方である。また、ハイブリッド自動車など、環境対応を意識した自動車が数多く開発されているが、搭載される電源の一つとして、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が大きく注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の多くは、正極、電解液を含むセパレータおよび負極の積層体から構成されている。セパレータは、主たる機能として正極と負極の短絡防止を担っているが、他の要求特性としてリチウムイオンの移動度、強度、耐久性などがある。
【0004】
現在、リチウムイオン二次電池セパレータ用途に適するフィルムとして、各種のポリオレフィン微多孔膜が数多く提案されている。ポリオレフィン微多孔膜中でもポリエチレン微多孔膜は、上述にある要求特性を満たし、かつ高温時の安全機能として、高温による孔の閉塞から電流を遮断する事による熱暴走防止機能、いわゆるシャットダウン機能を有している事もあり、リチウムイオン二次電池のセパレータとして幅広く使用されている。
【0005】
しかしながら、温度上昇により微多孔膜の孔が閉塞されて電流が一旦遮断されても、電池温度が微多孔膜を構成するポリエチレンの融点を超えて、ポリエチレンの耐熱性の限界を超えると、微多孔膜自体が溶融してシャットダウン機能が失われる。その結果、電極間の短絡をきっかけとして電池の熱暴走がおこり、リチウムイオン二次電池を組み込んだ装置の破壊や、発火による事故発生などを招くおそれがある。このため、さらなる安全性確保のために、高温時でもシャットダウン機能を維持できるセパレータが求められている。
【0006】
そこで、特許文献1には、ポリエチレン微多孔膜の表面に、全芳香族ポリアミド等の耐熱性ポリマーからなる耐熱性多孔質層を被覆した非水系二次電池用セパレータが提案されている。また、特許文献2には、耐熱性多孔質層中にアルミナ等の無機微粒子を含ませて、シャットダウン機能に加えて耐熱性の向上を図った構成が示されている。また、特許文献3には、耐熱性多孔質層中に水酸化アルミニウム等の金属水酸化物粒子を含ませて、シャットダウン機能および耐熱性に加えて難燃性の向上を図った構成が示されている。これらの構成はいずれも、シャットダウン機能と耐熱性を両立させた点において、電池の安全性という観点において優れた効果が期待できる。
【0007】
しかし、非水系二次電池用セパレータはポリオレフィン微多孔膜を耐熱性多孔質層でコーティングするという構造のため、ポリオレフィン微多孔膜の有するシャットダウン機能を抑制する傾向にあり、ポリオレフィン微多孔膜に匹敵するシャットダウン機能を有する非水系二次電池用セパレータが望まれており、本発明者らはすでに特許文献4を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−209570号公報
【特許文献2】国際公開第2008/062727号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/156033号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2008/149895号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐熱性多孔質層と複合した時に優れたシャットダウン特性を付与できるポリオレフィン微多孔膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、耐熱性多孔質層と複合した時に優れたシャットダウン機能を付与できるポリオレフィン微多孔膜を提供すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリオレフィン微多孔膜の105℃および120℃における熱収縮率と、120℃および105℃における熱収縮率の比を制御することにより、優れたシャットダウン機能の付与が可能である事を見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、105℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が10〜23%であり、120℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が20〜35%であり、120℃における熱収縮率が105℃における熱収縮率に対し1.5〜2.5倍であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜である。
【0012】
また、本発明は前記ポリオレフィン微多孔膜を耐熱性多孔質層で被覆した非水系二次電池用セパレータである。また、本発明はリチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、前記非水系二次電池用セパレータを用いたことを特徴とする非水系二次電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、耐熱性多孔質層と複合した時に優れたシャットダウン機能を付与できるポリオレフィン微多孔膜を提供することができる。本発明のポリオレフィン微多孔膜によれば、非水系二次電池の安全性を向上させる事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0015】
[ポリオレフィン微多孔膜]
本発明のポリオレフィン微多孔膜において、微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を言う。
【0016】
本発明で用いられるポリオレフィン微多孔膜の原料としては、ポリオレフィン、すなわち例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体等が挙げられる。中でもポリエチレンが好ましく、より好ましくは高密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物が、強度、耐熱性等の観点から好ましい。なお、本発明で用いるポリオレフィン微多孔膜は、90重量%以上がポリオレフィンからなるものであればよく、10重量%以下の電池特性に影響を与えない他の成分を含んでいても構わない。
【0017】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、105℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が10〜23%であり、120℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が20〜35%であり、120℃における熱収縮率が105℃における熱収縮率に対し1.5〜2.5倍である。熱収縮率及び熱収縮率の比がこの範囲にある時、本発明のポリオレフィン微多孔膜を使用した非水系二次電池用セパレータのシャットダウン特性が優れたものとなる。
【0018】
105℃における熱収縮率が10%未満の場合、ポリオレフィン微多孔膜を用いた非水系二次電池用セパレータのシャットダウン特性が悪くなり、好ましくない。逆に23%を超える場合、ポリオレフィン微多孔膜を用いた非水系二次電池セパレータが、高温においてポリオレフィンが完全溶融して短絡が発生するメルトダウンと呼ばれる現象が発生しやすくなり、安全上好ましくない。105℃における熱収縮率の大きい方の値は13〜23%、さらには15〜20%とすることが好ましい。
【0019】
また、120℃における熱収縮率が20%未満の場合、ポリオレフィン微多孔膜を用いた非水系二次電池セパレータのシャットダウン特性が悪くなり、好ましくない。逆に35%を超える場合、ポリオレフィン微多孔膜を用いた非水系二次電池セパレータが、高温においてメルトダウンが発生しやすくなり、安全上好ましくない。120℃における熱収縮率の大きい方の値は20〜33%、さらには23〜30%とすることが好ましい。
【0020】
また、小さい方の熱収縮率の値は大きい方の熱収縮率の値以下であれば良く、仮に両方向が同じ熱収縮率を有していても構わない。105℃における小さい方の熱収縮率の値は、大きい方の熱収縮率の値に比べ0〜7%小さいことが好ましい。120℃における小さい方の熱収縮率の値は、大きい方の熱収縮率の値に比べ0〜10%小さいことが好ましい。
【0021】
更に、120℃における大きい方の熱収縮率が105℃における大きい方の熱収縮率に対し1.5倍未満の場合、昇温しても熱収縮が進行し難くなり、ポリオレフィン微多孔膜を用いた非水系二次電池用セパレータのシャットダウン特性が悪くなるため、好ましくない。逆に2.5倍を超える場合、昇温による熱収縮が急激に進行することになり、ポリオレフィン微多孔膜を用いた非水系二次電池用セパレータが高温においてメルトダウンしやすくなるため、好ましくない。120℃における熱収縮率は、105℃における熱収縮率に対し1.5〜2.2倍であることが好ましい。
【0022】
105℃および120℃における熱収縮率を制御して、本発明の膜を得る方法に特に限定は無いが、たとえばポリオレフィンの分子量や分岐構造の制御、ポリオレフィン微多孔膜の延伸条件やアニール条件の制御等が挙げられる。
【0023】
ポリオレフィンの分子量の制御においては、分子量を下げる程、熱収縮率が大きくなる傾向にある。用いるポリオレフィンとして、具体的には重量平均分子量が150万以上の超高分子量ポリエチレンと重量平均分子量が5〜100万のポリエチレンを混合して用いるか、あるいは重量平均分子量が30〜100万の高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンを混合して用いる場合の混合比率(重量)は、超高分子量ポリエチレン:ポリエチレン=5:95〜30:70とすることが好ましい。ポリオレフィンの分岐構造の制御においては、分岐の数を減らす程、熱収縮率が大きくなる傾向にある。
【0024】
延伸条件については、より緩和した延伸条件を用いるほど、熱収縮率が大きくなる。例えば膜厚5〜25μmの膜を得ようとする場合、機械方向の延伸をポリオレフィンの融点マイナス25〜50℃にて4〜10倍の延伸倍率で実施するか、あるいは機械垂直方向の延伸倍率をポリオレフィンの融点マイナス25〜50℃にて6〜15倍の延伸倍率で実施することが好ましい。アニール条件については、アニール温度を上げるほど、熱収縮率は向上する傾向にあることから、ポリマーの融点マイナス5〜25℃にて熱固定処理することが好ましい。
【0025】
追ってポリオレフィン微多孔膜の好ましい製造法について具体的に述べるが、ここで述べた105℃、120℃における熱収縮率を制御する方法を適宜組合わせることにより、本発明の膜を好ましく得ることができる。
【0026】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、5〜25μmであることが好ましい。5μmを下回る場合、力学強度が不十分となりハンドリング性が低下する場合があるため、好ましくない。25μmを超える場合、非水系二次電池のエネルギー密度が低下し、十分な負荷特性を達成するのが困難になる場合があるため、好ましくない。
【0027】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は30〜60%であることが好ましい。更に好ましくは、40%〜60%である。空孔率が30%を下回る場合、透過性が低下しリチウムイオンの移動度が低下するため、好ましくない。一方、空孔率が60%を越える場合、力学強度が不十分となりハンドリング性が低下する場合があるため、好ましくない。
【0028】
本発明のポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(JIS・P8117)は50〜500sec/100ccであることが好ましい。ガーレ値がこの範囲にある時、セパレータの機械強度と膜抵抗のバランスがとれたものとなる。50sec/100cc未満の場合、該セパレータの機械強度が低下する傾向にあり好ましくない。500sec/100ccを超える場合、ポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0029】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は0.5〜5ohm・cmであることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は、これを加工して得た非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池の負荷特性に影響するため、小さい方が好ましい。
【0030】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は250g以上であることが好ましい。250gを下回る場合、非水系二次電池を作成した場合、電極の凹凸や衝撃等でセパレータにピンホール等が発生し、非水系二次電池が短絡する可能性が高くなる。250g以上という事は、電池用セパレータとして充分な強度を有する事を意味し、製造する際や、加工する際のハンドリング性及び耐久性が高い事を示す。
【0031】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の引張強度は10N以上であることが好ましい。10Nを下回る場合、非水系二次電池を作成する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損する可能性が高くなる。10N以上という事は、電池セパレータとして充分な強度を有する事を意味し、製造する際や、加工する際のハンドリング性が高い事を示す。
【0032】
本発明のポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン温度は130〜150℃であることが好ましい。シャットダウン温度は、抵抗値が10ohm・cmとなった温度を差す。シャットダウン温度が130℃より小さい場合、シャットダウン現象が低温で発現するのと同じく、ポリオレフィン微多孔膜が完全溶融し短絡現象が発生するメルトダウンと呼ばれる現象も低温で発生する事になり、安全上好ましくない。また、シャットダウン温度が150℃より大きい場合、高温時の十分な安全機能が期待できず好ましくない。好ましくは135〜145℃である。
【0033】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造法]
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造法に、特に制限は無いが、具体的には下記(1)〜(6)の工程を経て製造することが好ましい。なお、原料に用いるポリオレフィンについては上述のとおりである。
【0034】
(1)ポリオレフィン溶液の調整
ポリオレフィンを溶剤に溶解させた溶液を調整する。この時、溶剤を混合して溶液を作成しても構わない。溶剤としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35重量%が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1重量%未満では、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤されるため変形し易く、取扱いに支障をきたす場合がある。一方、35重量%を超えると押し出しの際の圧力が高くなるため吐出量が低くなり生産性が上げられない場合があり、また押し出し工程での配向が進み、延伸性や均一性が確保できなくなる場合がある。
【0035】
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調整した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロールまたは冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
【0036】
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。また不揮発性溶媒の場合は圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお溶媒は完全に除く必要はない。
【0037】
(4)ゲル状組成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行っても良い。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時または逐次のどちらであってもよい。また縦多段延伸や3、4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、90℃〜ポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点を越える場合は、ゲル状成形物が溶解するために延伸できない。又、加熱温度が90℃未満の場合は、ゲル状成形物の軟化が不十分で延伸において破膜し易く高倍率の延伸が困難となる場合がある。
本発明においては、所定の熱収縮率を有するという観点から、例えば膜厚5〜25μmの膜を得ようとする場合、機械方向の延伸をポリマーの融点マイナス25〜50℃にて実施するか、あるいは機械垂直方向の延伸倍率をポリマーの融点マイナス25〜50℃にて実施することが好ましい。具体的にポリエチレンの場合は、延伸温度が90〜115℃であることが好ましい。
また、延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行うことが好ましい。
本発明においては、所定の熱収縮率を有するという観点から、延伸倍率が機械方向に4〜10倍、また機械垂直方向に6〜15倍であることが好ましい。
延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
【0038】
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤はポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、微多孔膜中の溶媒を1重量%未満に迄除去する。
【0039】
(6)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは80〜150℃で実施する。本発明においては、所定の熱収縮率を有するという観点から、アニール温度が115〜135℃であることが好ましい。
【0040】
[非水系二次電池用セパレータ]
本発明の非水系二次電池用セパレータは、上述したポリオレフィン微多孔膜と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであることを特徴とする。
【0041】
このような本発明の非水系二次電池用セパレータによれば、ポリオレフィン微多孔膜によりシャットダウン機能が得られると共に、耐熱性多孔質層によりシャットダウン温度以上の温度においてもポリオレフィンが保持されるため、メルトダウンが生じ難く、高温時の安全性を確保できる。従って、本発明のセパレータによれば、安全性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
【0042】
本発明の非水系二次電池用セパレータは、全体の膜厚が30μm以下であることが好ましい。セパレータが30μmを超える場合、非水系二次電池のエネルギー密度が低下する傾向があり、好ましくない。
【0043】
本発明の非水系二次電池用セパレータの空孔率は30〜70%であることが好ましい。更に好ましくは、40%〜60%である。空孔率が30%を下回る場合、透過性が低下しリチウムイオンの移動度が低下するため、好ましくない。一方、空孔率が70%を越える場合、力学強度が不十分となりハンドリング性が低下する。
【0044】
本発明の非水系二次電池用セパレータのガーレ値(JIS・P8117)は100〜500sec/100ccであることが好ましい。ガーレ値がこの範囲にある時、セパレータの機械強度と膜抵抗のバランスがとれたものとなる。100sec/100cc未満の場合、該セパレータの機械強度が低下する傾向にあり好ましくない。500sec/100ccを超える場合、該非水系二次電池用セパレータの膜抵抗が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0045】
本発明の非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は非水系二次電池の負荷特性に影響するため、小さい方が好ましい。
【0046】
本発明の非水系二次電池用セパレータの突刺強度は250〜1000gであることが好ましい。突刺強度が250g未満の場合、非水系二次電池を作成した場合、電極の凹凸や衝撃等でセパレータにピンホール等が発生し、非水系二次電池が短絡する可能性があり好ましくない。250gを超えているという事は、非水系二次電池用セパレータとして充分な強度を有する事を意味し、製造する際や、加工する際のハンドリング性及び耐久性が高い事を示す。
【0047】
本発明の非水系二次電池用セパレータの引張強度は10N以上であることが好ましい。10N未満の場合、非水系二次電池を作成する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損する可能性が高くなる。10N以上という事は、非水系二次電池用セパレータとして充分な強度を有する事を意味し、製造する際や、加工する際のハンドリング性が高い事を示す。
【0048】
本発明の非水系二次電池用セパレータのシャットダウン温度は130〜155℃であることが好ましい。シャットダウン温度は、抵抗値が10ohm・cmとなった温度を差す。シャットダウン温度が130℃未満の場合、メルトダウンが低温で発生する事になり、安全上好ましくない。また、シャットダウン温度が155℃より大きい場合、高温時の十分な安全機能が期待できず好ましくない。好ましくは135〜150℃である。
【0049】
本発明の非水系二次電池用セパレータの105℃における熱収縮率は0.5〜10%であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にある時、非水系二次電池用セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものとなる。10%以上の場合、高温時の形状安定性が悪くなり、好ましくない。更に好ましくは0.5〜5%である。
【0050】
[耐熱性多孔質層]
本発明において、耐熱性多孔質層としては、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができるが、より優れた耐熱性が得られる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。ここで、微多孔膜状の層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層のことを言う。
【0051】
本発明で用いられる耐熱性樹脂は、融点200℃以上のポリマー、あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマーが適当である。このような耐熱性樹脂の好ましい例としては、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質層を形成しやすく耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドがさらに好適である。
【0052】
本発明において、耐熱性多孔質層はポリオレフィン微多孔膜の両面または片面に形成すればよいが、ハンドリング性、耐久性および熱収縮の抑制効果の観点から、基材の表裏両面に形成した方が好ましい。なお、耐熱性多孔質層を基材上に固定するためには、耐熱性多孔質層を塗工法により基材上に直接形成する手法が好ましいが、これに限らず、別途製造した耐熱性多孔質層のシートを基材上に接着剤等を用いて接着する手法や、熱融着や圧着などの手法も採用することができる。
【0053】
本発明において、耐熱性多孔質層の厚みについては、耐熱性多孔質層が基材の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、耐熱性多孔質層が基材の片面にのみ形成されている場合は耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。耐熱性多孔質層の空孔率は60〜90%の範囲が好適である。
【0054】
[無機フィラー]
本発明において、耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることが好ましい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、具体的にはアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などが好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から結晶性の高いものが好ましい。
【0055】
中でも、無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものであるものが好ましい。この様な特性を有する無機フィラーとして、特に限定されないが、金属水酸化物、硼素塩化合物または粘土鉱物等からなる無機フィラーであって、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられ、これらは単独若しくは2種以上を組合せて用いることができる。また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩などの他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。
【0056】
ここで、非水系二次電池では、正極の分解に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解は300℃近傍で起こる。このため、吸熱反応の発生温度が200℃〜400℃の範囲であれば、非水系二次電池の発熱を防ぐ上で有効である。なお、200℃以上においては、負極はほぼ活性を失っているので、金属水酸化物から発生した水と反応して発熱を引き起こすことはなく安全である。また、無機フィラーの吸熱反応温度が400℃を超える場合、非水系二次電池の発熱を好適に防止できないおそれがあるため好ましくない。例えば、水酸化アルミニウムやドーソナイト、アルミン酸カルシウムは200〜300℃の範囲において脱水反応が起こり、また、水酸化マグネシウムや硼酸亜鉛は300〜400℃の範囲において脱水反応が起こるため、これらの無機フィラーのうち少なくともいずれか一種を用いることが好ましい。
【0057】
特に本発明では、無機フィラーは金属水酸化物からなることが好ましい。金属水酸化物は、加熱により大きな吸熱を伴う脱水反応が起こるため、水の放出と吸熱の双方による難燃性の向上効果が得られる。水の放出は、可燃性の電解液を希釈して、電池そのものも難燃化する上で有効である。また、金属水酸化物はアルミナ等のような金属酸化物と比較して軟らかい材料であるため、セパレータに含まれる無機フィラーによって製造時の各工程で使用する部品が磨耗してしまうといったハンドリング上の問題が発生しない。また、耐熱性多孔質層に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した場合は、帯電した電荷の減衰が速くなるため、帯電を低いレベルに保つことが可能となり、ハンドリング性が改善される。さらに、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムはフッ酸を吸着・共沈させる機能があるため、電解液中のフッ酸濃度を低いレベルに維持することが可能であり、非水系二次電池の耐久性を改善することが可能となる。よって、無機フィラーは金属水酸化物であることが好ましく、中でも水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0058】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は0.1〜2μmの範囲が好ましい。無機フィラーの平均粒子径が2μmを超えると、耐熱性多孔質層の高温時の耐短絡性が低下するため好ましくない。さらに、耐熱性多孔質層を適切な厚みで成形する上で支障をきたすといった不具合もある。また、無機フィラーの平均粒子径が0.1μm未満であると、塗膜強度が低下し粉落ちの課題が生じるだけでなく、このように小さいものを用いることはコスト上の観点から実質的に困難である。
【0059】
本発明において、耐熱性多孔質層における無機フィラーの含有量は50〜95重量%であることが好ましい。無機フィラーの含有量が50重量%未満であると、無機フィラーによる耐熱性向上の効果が十分に得られない場合があるため好ましくない。また、無機フィラーの含有量が95重量%を超えると、耐熱性多孔質層が緻密化されすぎてイオン透過性が低下したり、耐熱性多孔質層が脆くなってハンドリング性が低下する場合があるため好ましくない。
【0060】
なお、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性多孔質層が微多孔膜状である場合は耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在しており、耐熱性多孔質層が不織布等の場合は構成繊維中に存在するか、樹脂などのバインダーにより不織布表面等に固定されていればよい。
【0061】
[耐熱性多孔質層の製造法]
本発明において、非水系二次電池用セパレータの製造法は、上述した構成の本発明のセパレータが製造できれば特に限定されないが、例えば下記(1)〜(5)の工程を経て製造することが可能である。
【0062】
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定は無いが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9重量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0063】
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
【0064】
(3)スラリーの凝固
スラリーが塗工された基材を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理する。塗工用スラリーを塗工した基材を、当該耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性多孔質層を形成する。凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した基材に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、または、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になったりという問題が生じる。また、水の量が80重量%より多いと、溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速くなりすぎて表面が十分に多孔化されなかったりという問題が生じる。
【0065】
(4)凝固液の除去
凝固液を水洗することによって除去する。
【0066】
(5)乾燥
シートから水を乾燥して除去する。乾燥方法は特に限定は無いが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0067】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、上述した構成の非水系二次電池用セパレータを用いたことを特徴とする。非水系二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。
【0068】
負極は、負極活物質、導電助剤およびバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0069】
正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0070】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0071】
外装材は、金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
[測定方法]
本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜厚は、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0073】
(2)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの目付は、サンプルを10cm×10cmに切り出し重量を測定する。この重量を面積で割ることで1m当たりの重量である目付を求めた。
【0074】
(3)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの空孔率は、
ε={1−Ws/(ds・t)}×100 から求めた。
ここで、ε:空隙率(%)、Ws:目付(g/m)、ds:真密度(g/cm)、t:膜厚(μm)である。
【0075】
(4)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータのガーレ値はJIS P8117に従って求めた。
【0076】
(5)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は、以下の方法で求めた。
まず、サンプルを2.6cm×2.0cmのサイズに切り出す。非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾する。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出しリードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したサンプルをアルミ箔が短絡しないように挟む。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入する。このようなセルをアルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
【0077】
(6)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの突刺強度は、カトーテック社製KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度とした。ここでサンプルはΦ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した
【0078】
(7)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの引張強度は、10×100mmに調整したサンプルを引張試験機(A&D社製、RTC−1225A)を用い、ロードセル荷重5kgf、チャック間距離50mmの条件で測定した。
【0079】
(8)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータのシャットダウン温度は、以下の方法で求めた。
まず、サンプルをΦ19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾した。サンプルをΦ15.5mmのSUS板に挟んだ。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)(キシダ化学社製)を含浸させた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。抵抗値が10ohm・cm以上となった温度をシャットダウン温度とした。
【0080】
(9)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの熱収縮率は、サンプルを105℃、あるいは120℃で1時間加熱することによって測定した。
【0081】
(10)非水系二次電池の放電性評価を、以下の方法で実施した。
1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、1.6mA、2.75Vで定電流放電の充放電サイクルを10サイクル実施し、10サイクル目に得られた放電容量をこの電池の放電容量とした。次に、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、16mA、2.75Vで定電流放電を行った。このとき得られた容量を10サイクル目の電池の放電容量で割り、得られた数値を負荷特性の指標とした。
【0082】
(11)非水系二次電池の耐熱性評価を、以下の方法で実施した。
上記(8)に記載のシャットダウン特性の評価において、150〜200℃の範囲で抵抗値が10ohm・cm以上を維持し続けた場合は、耐熱性が良好(○)と評価し、そうでなかった場合は耐熱性が不良(×)と判断した。
【0083】
[実施例1]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製GUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を2:8(重量比)となる様にして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製スモイルP−350:沸点480℃)とデカリン(和光純薬社製、沸点193℃)の混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:67.5:2.5(重量比)である。
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸を逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸6倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率7倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に130℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し、細孔を構成する構造を有するものであった。
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、105℃あるいは120℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値、120℃における熱収縮率と105℃における熱収縮率との比)の測定結果を表1に示す。なお、以下の比較例1,2についても同様に表1に示す。
【0084】
[比較例1]
延伸倍率を縦延伸6倍、横延伸15倍とした事以外、実施例1と同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0085】
[比較例2]
延伸倍率を縦延伸4倍、横延伸4倍とした事以外、実施例1と同様にポリエチレン微多孔膜を得た。
【0086】
【表1】

【0087】
[実施例2]
実施例1で得られたポリオレフィン微多孔膜を用い、この両面に耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層を積層させて、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。
具体的に、耐熱性樹脂として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス)を用いた。この耐熱性樹脂を、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に溶解させて、塗工用スラリーを作製した。なお、塗工用スラリーにおけるポリメタフェニレンイソフタルアミドの濃度は5.5重量%となるように調整した。そして、マイヤーバーを2本対峙させ、その間に塗工液を適量のせた。この後、ポリオレフィン微多孔膜を、塗工液がのっているマイヤーバー間を通過させて、ポリオレフィン微多孔膜の表裏面に塗工液を塗工した。ここで、マイヤーバー間のクリアランスは20μmに設定し、マイヤーバーの番手は2本とも#6を用いた。これを重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬し、次いで水洗・乾燥を行った。これにより、ポリオレフィン微多孔膜の表裏両面に耐熱性多孔質層が形成された非水系二次電池用セパレータを得た。
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、ガーレ値、空孔率、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、熱収縮率)の測定結果を表2に示す。なお、以下の実施例3,4および比較例3,4についても同様に表2に示す。
【0088】
[実施例3]
実施例1で得られたポリオレフィン微多孔膜を用い、これに耐熱性樹脂と無機フィラーからなる耐熱性多孔質層を積層させて、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。
具体的に、耐熱性樹脂として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス)を用いた。この耐熱性樹脂を、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に溶解させた。このポリマー溶液に、無機フィラーとしてのα−アルミナ(岩谷化学工業社製、SA−1、平均粒子径0.8μm)を分散させて、塗工用スラリーを作製した。なお、塗工用スラリーにおけるポリメタフェニレンイソフタルアミドの濃度は5.5重量%となるようにし、かつ、ポリメタフェニレンイソフタルアミドと無機フィラーの重量比は25:75となるように調整した。そして、マイヤーバーを2本対峙させ、その間に塗工液を適量のせた。この後、ポリオレフィン微多孔膜を、塗工液がのっているマイヤーバー間を通過させて、ポリオレフィン微多孔膜の表裏面に塗工液を塗工した。ここで、マイヤーバー間のクリアランスは20μmに設定し、マイヤーバーの番手は2本とも#6を用いた。これを重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬し、次いで水洗・乾燥を行った。これにより、ポリオレフィン微多孔膜の表裏両面に耐熱性多孔質層が形成された非水系二次電池用セパレータを得た。
【0089】
[実施例4]
無機フィラーとして水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キスマ−5P、平均粒子径1.0μm)を使用した以外は、実施例3と同様に非水系二次電池用セパレータを得た。
【0090】
[比較例3]
ポリオレフィン微多孔膜として比較例1で得られたものを使用し、マイヤーバーのクリアランスを17μmにした以外は、実施例4と同様に非水系二次電池用セパレータを得た。
【0091】
[比較例4]
ポリオレフィン微多孔膜として比較例2で得られたものを使用し、マイヤーバーのクリアランスを22μmにした以外は、実施例4と同様に非水系二次電池用セパレータを得た。
【0092】
【表2】

【0093】
[実施例5]
コバルト酸リチウム(LiCoO:日本化学工業社製)89.5重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製デンカブラック)4.5重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6重量部となるように、N−メチル−ピロリドンを用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)87重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製商品名デンカブラック)3重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10重量部となるようにN−メチル−2ピロリドンを用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、90μmの負極を得た。
上記正極及び負極を、実施例2で作製した非水系二次電池用セパレータを介して対向させた。これに電解液を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入して非水系二次電池を作製した。ここで、電解液には1M LiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)を用いた。
ここで、この試作電池は正極面積が2×1.4cm、負極面積は2.2×1.6cmで、設定容量は8mAh(4.2V−2.75Vの範囲)である。
得られた非水系二次電池の特性(放電容量、負荷特性、耐熱性)の測定結果を表3に示す。なお、以下の実施例6,7および比較例5,6についても同様に表3に示す。
【0094】
[実施例6]
非水系二次電池用セパレータとして実施例3で得られたものを使用した以外は、実施例5と同様に非水系二次電池を得た。
【0095】
[実施例7]
非水系二次電池用セパレータとして実施例4で得られたものを使用した以外は、実施例5と同様に非水系二次電池を得た。
【0096】
[比較例5]
非水系二次電池用セパレータとして比較例3で得られたものを使用した以外は、実施例5と同様に非水系二次電池を得た。
【0097】
[比較例6]
非水系二次電池用セパレータとして比較例4で得られたものを使用した以外は、実施例5と同様に非水系二次電池を得た。
【0098】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、120℃及び105℃における熱収縮率、120℃と105℃における熱収縮率の比を制御する事で、これと耐熱性樹脂からなる耐熱性多孔質層と複合した非水系二次電池用セパレータのシャットダウン特性が優れたものとなる。これにより、非水系二次電池の安全性を確かなものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
105℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が10〜23%であり、
120℃における機械方向および機械垂直方向の熱収縮率のうち大きい方の値が20〜35%であり、
120℃における熱収縮率が105℃における熱収縮率に対し1.5〜2.5倍であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層と、を備えたことを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱性樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記無機フィラーは200〜400℃において吸熱反応を生じる無機フィラーであることを特徴とする請求項4に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記無機フィラーは水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、請求項2〜6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータを用いたことを特徴とする非水系二次電池。

【公開番号】特開2011−192447(P2011−192447A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55819(P2010−55819)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】