説明

ポリオレフィン微多孔膜

【課題】優れた膜強度や透過性能を兼備したポリオレフィン微多孔膜を提供する。
【解決手段】ポリオレフィンのフィブリルから構成され、厚み方向に連通する細孔を有するポリオレフィン微多孔膜であって、該フィブリルの平均フィブリル径が40〜80nm、該細孔の平均孔径が15〜50nmであるポリオレフィン微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン微多孔膜に関するものであり、特に電池セパレータやフィルタ等に有用なポリオレフィン微多孔膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池用セパレータやフィルタ等の用途に適するフィルムとして各種のポリオレフィン微多孔膜が種々提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の技術は、ミクロフィブリルによって区分された微細な間隙と該ミクロフィブリルが均一に分散した網状組織とからなる表面構造を持ち、特定平均ミクロフィブリル径と、特定平均ミクロフィブリル間隙距離のポリオレフィン微多孔膜である。しかしながら、この提案のポリオレフィン微多孔膜は、高エネルギー密度化されたリチウムイオン二次電池のセパレータ用としては、膜強度や透過性能が不足する。
【0003】
非水電解液電池用セパレータの膜強度や透過性能を改良した技術として、特定の平均孔径、比表面積及び空孔率の多孔質フィルムが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この提案の多孔質フィルムでも、近年の高エネルギー密度化され、肉薄化の要求のあるリチウムイオン二次電池のセパレータ用としては、膜強度や透過性能が不足する。また、これら提案のポリオレフィン微多孔膜や多孔質フィルムをフィルタに適用した場合も、膜強度や透過性能が不足する。
【0004】
以上のように、高エネルギー密度化、肉薄化された電池セパレータや、高強度化、肉薄化されたフィルタの要求を満たすには、従来の技術では不十分であり、その改良が望まれている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/67536号公報
【特許文献2】特開2002−367590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、優れた膜強度や透過性能を兼備した実用的なセパレータやフィルタは得られていないのが現状である。そこで本発明は、優れた膜強度や透過性能を兼備したポリオレフィン微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔構造を詳細に検討したところ、ポリオレフィンのフィブリルから構成され、厚み方向に連通する細孔を有するポリオレフィン微多孔膜であって、フィブリルの平均フィブリル径と、細孔の平均孔径が特定範囲であるポリオレフィン微多孔膜であれば、上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
(1)ポリオレフィンのフィブリルから構成され、厚み方向に連通する細孔を有するポリオレフィン微多孔膜であって、該フィブリルの平均フィブリル径が40〜80nm、該細孔の平均孔径が15〜50nmであることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
(2)前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が30〜60%であることを特徴とする(1)記載のポリオレフィン微多孔膜。
(3)前記細孔の曲路率が1.2〜1.8であることを特徴とする(1)または(2)記載のポリオレフィン微多孔膜。
(4)前記ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度が300g以上であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
(5)前記ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が5〜25μmであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
(6)前記ポリオレフィンがポリエチレンであることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた膜強度や透過性能を兼備した実用的なポリオレフィン微多孔膜が得られる。かかるポリオレフィン微多孔膜を例えば電池セパレータに用いた場合、高エネルギー密度化・肉薄化の要求に十分に応え得る優れたセパレータを得ることができる。また、かかる本発明のポリオレフィン微多孔膜を例えばフィルタに用いた場合も、高強度化・肉薄化の要求に十分に応え得る優れたフィルタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンフィブリルの網目状構造を主構造とし、厚み方向に連通する細孔を有する。本発明では、ポリオレフィン微多孔膜の全構成が円柱状のフィブリルであると仮定し、ポリオレフィンの体積と表面積の測定結果から平均フィブリル径を算出する。また、本発明では、細孔の構造が全て円柱状であると仮定し、細孔容積と表面積の測定結果から平均孔径を算出する。
【0011】
[比表面積]
本発明では、上記平均フィブリル径と上記平均孔径の算出にポリオレフィン微多孔膜の表面積を用いる。この表面積は、比表面積の測定結果から算出する。
【0012】
比表面積は、例えば以下に示すガス吸着法で得られたN吸着量から下記のBET式を用いて求めることができる。(JIS Z 8830に準じた方法)
1/[W・{(P/P)−1}]={(C−1)/(Wm・C)}(P/P)(1/(Wm・C) … BET式
ここで、Pは吸着平衡における吸着質の気体の圧力、Pは吸着平衡における吸着質の飽和蒸気圧、Wは吸着平衡圧Pにおける吸着量、Wmは単分子吸着量、CはBET定数である。上記のガス吸着法による比表面積測定法(以下「BET法」と称することがある。)
【0013】
x軸を相対圧力P/P、y軸を1/[W・{(P/P)−1}]としてプロット(BETプロット)すると線形となる。このプロットにおける傾きをA、切片をBとすると、単分子吸着量Wmは以下の式となる。
Wm=1/(A+B)
【0014】
次いで、比表面積Sは下記式により求まる。
Ss=(Wm・N・Acs・M)/w
ここで、Nはアボガドロ数、Mは分子量、Acsは吸着断面積、wはサンプル重量である。例えばNの場合、吸着断面積は0.16nmである。
【0015】
[平均フィブリル径と平均孔径]
本発明における平均フィブリル径は、ポリオレフィン微多孔膜の全構成が円柱状のフィブリルであると仮定して、また本発明における平均孔径は、細孔の構造が全て円柱状であると仮定して下記の通り算出する。
【0016】
フィブリル繊維質の全体積をVs1、全細孔体積をVs2とする。フィブリルの直径をRs1、円柱状孔の直径をRs2とするとし、フィブリル全長をLs1、円柱状孔全長をLs2とすると、下記式(i)〜(v)が成り立つ。
Ss・Ws=πRs1・Ls1=πRs2・Ls2 … (i)
s1=π(Rs1/2)・Ls1 … (ii)
s2=π(Rs2/2)・Ls2 … (iii)
s2=ε・(Vs1+Vs2) … (iv)
s1=Ws/ds … (v)
ここで、Ssは比表面積(m/g)、Wsは目付(g/m)、εは空孔率(%)、dsは真密度(g/cm)である。
上記(i)〜(v)の式からRs1(フィブリル径)とRs2(孔径)を求めることができる。
【0017】
本発明のポリオレフィン微多孔膜において、平均フィブリル径が40〜80nmであることを必要とする。平均フィブリル径が40nmより小さくすることは成形上困難である。また、平均フィブリル径が80nmより大きくなると透過性が著しく低下し、膜強度も低下する。
【0018】
本発明のポリオレフィン微多孔膜において、細孔の平均孔径が15〜50nmであることを必要とする。すなわち、平均孔径を15〜50nmといった極めて小さい孔径とすることにより、高い透過性を実現できる。この高い透過性は、前述の平均フィブリル径が十分に小さく、40〜80nmの範囲であることにより実現する。平均孔径が15nmより小さいと透過性が阻害され、優れた透過性が得られない。一方、平均孔径が50nmを超えると、曲路率が大きくなってしまい、電池セパレータとして用いた場合、膜抵抗が大きく、負荷特性が大きくなって、電池性能が悪化するおそれがある。また、このように平均孔径が50nmを超えた場合は、膜強度も低下する傾向にあるため好ましくない。
【0019】
[空孔率]
本発明のポリオレフィン微多孔膜において、空孔率(ε)は、ポリオレフィン微多孔膜の目付(g/m)、真密度(g/cm)、膜厚(μm)より下記式により算出する。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、Wsは目付(g/m)、dsは真密度(g/cm)、tは膜厚(μm)である。
【0020】
この空孔率は30〜60%が好ましく、40%〜60%であることが更に好ましい。空孔率が30%より小さいと透過性が低下し好ましくない。一方、空孔率が60%より高いと力学強度が不十分となりハンドリング性が低下するため好ましくない。
【0021】
[曲路率]
本発明のポリオレフィン微多孔膜において、曲路率とは、任意のポリオレフィン微多孔膜中の細孔において流路長を膜厚で割った値をすべての孔で平均した値である。この曲路率は、ポリオレフィン微多孔膜に電解液を含浸させて膜抵抗を測定することで算出することができる。具体的には下記式により算出する。
τ={(Rm・ε)/(ρ・t)}(1/2)
ここで、τは曲路率、Rmは膜抵抗(ohm・cm)、εは空孔率(%)、ρは電解液の比抵抗(ohm・cm)、tは膜厚(μm)である。本発明においては電解液に1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を20℃で用いているが、この場合のρは2.663×10−2ohm・cmである。この値は透過性の指標であり、定義から1以上であり、小さいほど透過性に優れると言える。
【0022】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の曲路率が1.2〜1.8であることが好ましい。尚、本発明のポリオレフィン微多孔膜は細孔の平均孔径が小さいにも関わらずこの値が1.2〜1.8と小さく透過性に優れたものである。これは平均フィブリル径が小さく、膜が均一な網目状構造になっているためである。
【0023】
[突刺強度]
本発明のポリオレフィン微多孔膜は力学物性も良好なものである。電池セパレータやフィルタの力学物性の指標として突刺強度がある。本発明のポリオレフィン微多孔膜は、透過性に優れ、かつ空孔率も高いにも関わらず突刺強度が300g以上となり、電池セパレータやフィルタとして充分な強度を有するものである。このように高強度であるため、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、電池セパレータやフィルタを製造する際や、加工する際のハンドリング性が高いものである。
【0024】
[厚み]
本発明のポリオレフィン微多孔膜は力学強度も十分であることから5〜25μmという厚みにおいても好適に用いることができ、更に5〜15μmにおいても好適に用いることができる。
【0025】
[ポリオレフィン]
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンを主成分とし、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜である。ポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルペンテン、これらの組合せ等が挙げられる。特に好ましいのはポリエチレンであるが、このポリエチレンとしては高密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。
【0026】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、例えば下記に示す方法で製造できる。即ち、(I)ポリオレフィン組成物をパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等の溶剤に溶解させた溶液を調整する工程、(II)前記溶液をポリオレフィン組成物の融点以上かつ融点+60℃以下の温度でダイより押出し、冷却してゲル状組成物を形成する工程、(III)前記ゲル状組成物を延伸する工程、(IV)延伸されたゲル状組成物を熱固定する工程、(V)前記溶剤を除去する工程、(VI)アニールする工程を含む一連の工程により製造される。ここで延伸工程は二軸延伸が好ましく、縦延伸、横延伸を別々に実施する逐次二軸延伸、縦延伸、横延伸を同時に実施する同時二軸延伸いずれの方法も好適に用いることが可能である。
【0027】
本発明のような平均フィブリル径40〜80nm、平均孔径15〜50nmのポリオレフィン微多孔膜は、例えば、該溶剤に流動パラフィンとデカリンからなる混合溶剤を用い、ポリオレフィン組成物の濃度を15〜35重量%とし、延伸倍率を50〜100倍(縦延伸倍率×横延伸倍率)とし、熱固定温度を110〜140℃とし、アニール温度を熱固定温度以下の温度とすることで得ることができる。ただし、本発明はこの製造条件に限定されるものではなく、平均フィブリル径が40〜80nmで、かつ平均孔径が15〜50nmであるポリオレフィン微多孔膜が得られるものであればいずれの条件をも採用できることは言うまでもない。
【0028】
なお、ポリオレフィン組成物の濃度を低くしたり、延伸倍率を大きくすると、平均フィブリル径が小さくなったり、平均孔径が大きくなる傾向がある。また、ポリオレフィン組成物の濃度を高くしたり、延伸倍率を低くしたりすると平均フィブリル径が太くなったり、平均孔径が小さくなったりする傾向がある。また、熱固定温度を高くすると、平均孔径が大きくなったり、平均フィブリル径が太くなることがあり、逆に熱固定温度を低くすると平均孔径が小さくなったり、平均フィブリル径が細くなったりすることがある。アニール温度を熱固定温度より高くしたり、アニール時に大きく変形させるようなことがあると平均フィブリル径は太くなったり、平均孔径が大きくなったりすることがある。
【0029】
空孔率が30〜60%のポリオレフィン微多孔膜は、例えば、ポリオレフィン組成物の濃度を15〜35重量%とし、熱固定温度を140℃以下とし、アニールを熱固定温度より低い温度とすることで得ることができる。ポリオレフィン組成物の濃度を35重量%以上としたり、熱固定温度を140℃より高くしたり、アニールを熱固定温度より高い温度で実施したりすると空孔率は30%より低くなることがある。また、アニール時に大きな変形を伴うことがあると空孔率が30%より低くなることがある。ポリオレフィン組成物の濃度を15重量%より低くすると空孔率が60%より高くなることがある。
曲路率が1.2〜1.8のポリオレフィン微多孔膜は本発明の構造であれば実現できるので前述のような方法で作製することが可能である。
【0030】
[用途]
上記のような物性から本発明のポリオレフィン微多孔膜は非水系二次電池用セパレータとして優れた特性を有する。非水系二次電池用セパレータに適用する場合はポリオレフィンの材質としてポリエチレンがシャットダウン特性の観点から適切である。
また、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、フィルタに用いた場合の透過性能と膜強度に優れるものである。
【実施例】
【0031】
以下、本実施例における各種測定法について説明する。
【0032】
[目付]
サンプルを10cm×10cmに切り出し重量を測定する。この重量を面積で割ることで1m当たりの重量である目付を求めた。
【0033】
[膜厚]
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0034】
[空孔率]
空孔率εは以下の式から算出した。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、Wsは目付(g/m)、dsは真密度(g/cm)、tは膜厚(μm)である。
【0035】
[比表面積]
JIS K 8830に準じて測定を行った。NOVA−1200(ユアサアイオニクス社製)を用い、窒素ガス吸着法よりBET式で解析し求めた。測定の際のサンプル重量は0.1〜0.15gとした。解析は3点法にて実施し、BETプロットから比表面積Ss(m/g)を求めた。
【0036】
[平均フィブリル径と平均孔径]
フィブリル繊維質の全体積をVs1、全細孔体積をVs2とする。フィブリルの直径をRs1、円柱状孔の直径をRs2とするとし、フィブリル全長をLs1、円柱状孔全長をLs2とすると、下記式(i)〜(v)が成り立つ。
Ss・Ws=πRs1・Ls1=πRs2・Ls2 … (i)
s1=π(Rs1/2)・Ls1 … (ii)
s2=π(Rs2/2)・Ls2 … (iii)
s2=ε・(Vs1+Vs2) … (iv)
s1=Ws/ds … (v)
ここで、Ssは比表面積(m/g)、Wsは目付(g/m)、εは空孔率(%)、dsは比重(g/cm)である。
上記(i)〜(v)の式からRs1(フィブリル径)とRs2(孔径)を求めることができる。
【0037】
[膜抵抗]
サンプルを2.6cm×2.0cmのサイズに切り出す。非イオン性界面活性剤(花王社製;エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液に切り出したポリエチレン微多孔膜基材を浸漬し、風乾する。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出しリードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したサンプルをアルミ箔が短絡しないように挟む。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入する。このようなセルをアルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
【0038】
[ガーレ値]
ガーレ値(秒/100cc)はJIS P8117に従い測定した。
【0039】
[曲路率]
曲路率τは以下の式から算出した。
τ={(Rm・ε)/(ρ・t)}(1/2)
ここで、Rmは膜抵抗(ohm・cm)、εは空孔率(%)、ρは電解液の比抵抗(ohm・cm)、tは膜厚(μm)である。本発明においては電解液に1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を20℃で用いているが、この場合のρは2.663×10−2ohm・cmである。
【0040】
[突刺強度]
カトーテック社製KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度とした。ここでサンプルはΦ11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
【0041】
[非水系二次電池の試作]
コバルト酸リチウム(LiCoO;日本化学工業社製)粉末89.5重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)4.5重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6重量部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
【0042】
メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)粉末87重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)3重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10重量部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、90μmの負極を得た。
【0043】
上記正極及び負極を、セパレータを介して対向させた。これに電解液を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入して非水系二次電池を作製した。ここで、電解液には1M LiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)を用いた。
ここで、この試作電池は正極面積が2×1.4cm、負極面積は2.2×1.6cmで、設定容量は8mAh(4.2V−2.75Vの範囲)である。
【0044】
[負荷特性評価]
上記のような方法で作製した電池を用いて放電性評価を実施した。先ず、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、1.6mA、2.75Vで定電流放電という充放電サイクルを10サイクル実施し、10サイクル目に得られた放電容量をこの電池の放電容量とした。次に、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、16mA、2.75Vで定電流放電を行う。このとき得られた容量を10サイクル目の電池の放電容量で割り、得られた数値を負荷特性の指標とした。
【0045】
[実施例1]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を1:9(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(重量比)である。
【0046】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率11.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に125℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0047】
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を7:3(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が17重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=17:51:32(重量比)である。
【0049】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率11.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に120℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0050】
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を3:7(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(重量比)である。
【0052】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率11.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に135℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0053】
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
ポリエチレンパウダーとして三井化学社製のUH210とHD6720を用いた。UH210とHD6720を2:8(重量比:平均分子量74万)となるようにして、ポリエチレン濃度が20重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:50:30(重量比)である。
【0055】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.0倍、延伸温度は105℃、横延伸は延伸倍率13.0倍、延伸温度は115℃とした。横延伸の後に140℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、125℃、弛緩率9%でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0056】
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を3:7(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(重量比)である。
【0058】
このポリエチレン溶液にポリエチレンの重量に対し0.2倍のシリカ粉末(トクヤマ製:トクシール)を添加し分散させて、スラリーを調整した。このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率13.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に138℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理し、さらに酸性水溶液中でシリカを除去することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0059】
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を4:6(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が20重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:40:40(重量比)である。
【0061】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.0倍、延伸温度は105℃、横延伸は延伸倍率13.0倍、延伸温度は115℃とした。横延伸の後に135℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、125℃、弛緩率10%でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0062】
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0063】
[比較例4]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を3:7(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が20重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:60:20(重量比)である。
【0064】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は13.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率20.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に125℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。得られたポリエチレン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交錯し細孔を構成する構造を有するものであった。
【0065】
ただし、延伸工程で一部破断などが認められ成形性は非常に悪かった。
得られたポリエチレン微多孔膜の特性(目付、膜厚、比表面積、平均フィブリル径、平均孔径、空孔率、曲路率、突刺強度、ガーレ値及び膜抵抗)の測定結果を表1に示す。また、得られたポリエチレン微多孔膜を用いて非水系二次電池を試作し測定した負荷特性の測定結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示した結果より明らかなように、フィブリル状ポリオレフィンの平均フィブリル径及びポリオレフィン微多孔膜中の細孔の平均孔径が本発明の範囲である実施例1、2及び3のポリオレフィン微多孔膜は、空孔率が大きく、曲路率が小さく、突刺強度が大きいので、セパレータやフィルタに用いた場合の透過性能と膜強度とが良好なものであった。また、膜抵抗が小さく、負荷特性が大きいので、電池セパレータとして用いた場合の電池性能が良好なものであった。
【0068】
一方、フィブリル状ポリオレフィンの平均フィブリル径が本発明の範囲外(80nm超)で、かつポリオレフィン微多孔膜中の細孔の平均孔径が本発明の範囲外(50nm超)である比較例1、2のポリオレフィン微多孔膜は、曲路率が大きく、突刺強度が小さいので、セパレータやフィルタに用いた場合の透過性能と膜強度とが劣るものであった。また、膜抵抗が大きく、負荷特性が小さいので、電池セパレータとして用いた場合の電池性能が劣るものであった。
【0069】
また、フィブリル状ポリオレフィンの平均フィブリル径が本発明の範囲外(80nm超)である比較例3のポリオレフィン微多孔膜は、空孔率が小さく、セパレータやフィルタに用いた場合の透過性能が劣るものであった。また、膜抵抗が大きく、負荷特性が小さいので、電池セパレータとして用いた場合の電池性能が劣るものであった。
【0070】
また、平均フィブリル径および平均孔径がともに本発明の範囲外(平均フィブリル径40nm未満、平均孔径15nm未満)である比較例4のポリオレフィン微多孔膜は、成形が困難であったのに加え、平均孔径が小さすぎるため電解液の含浸が困難であり、その結果、膜抵抗が高くなり、それから算出される曲路率も高く、負荷特性が著しく悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、セパレータやフィルタに有用である。特に、非水系二次電池の特性向上の技術として有効に活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンのフィブリルから構成され、厚み方向に連通する細孔を有するポリオレフィン微多孔膜であって、該フィブリルの平均フィブリル径が40〜80nm、該細孔の平均孔径が15〜50nmであることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が30〜60%であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
前記細孔の曲路率が1.2〜1.8であることを特徴とする請求項1または2記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度が300g以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
前記ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が5〜25μmであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィンがポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。

【公開番号】特開2010−53245(P2010−53245A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219719(P2008−219719)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】