説明

ポリオレフィン系帯電防止繊維およびそれからなる不織布

【課題】原料繊維の高速での紡糸性に優れ、埃や塵が付着せず、揮発成分の少ない、搬送や梱包に適した半永久的帯電防止性能を有した不織布、それを構成するための繊維、並びに前記不織布を用いた成形体を提供する。
【解決手段】メタロセン触媒を用いて得られたポリエチレン系樹脂(A)と高分子型帯電防止剤(B)を含むポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面を形成してなる繊維であって、揮発性有機物質の炭素数20までの総量(90℃、30分)が、10μg/g以下であるポリオレフィン系帯電防止性繊維それからなる不織布及び成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子型帯電防止剤を含む特定のポリエチレン樹脂組成物からなる繊維、当該繊維から成る不織布及び前記不織布からなる成形体に関する。更に詳しくは、揮発性有機物質の発生が少なく、半永久帯電防止性を有し、紡糸性に優れた特に電子材料向け包装材として好適に用いられる不織布などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送用の緩衝材や包装材として段ボールなどの紙が使用されていたが、近年、液晶テレビやプラズマテレビなどのフラットパネルディスプレイ用に用いられるガラス板や精密電子部品などの搬送用の緩衝材や包装材では、紙粉や揮発性有機物質の発生しないものが要求され、ポリオレフィン系樹脂からなるシート(下記特許文献1)やポリオレフィン系樹脂からなる発泡シート(下記特許文献2,3、4)が提案されている。
【0003】
また、梱包時や搬送時に静電気による埃や塵の付着の防止の要求から、ポリオレフィン系樹脂発泡シートそれ自体に帯電防止剤を練り込んだ緩衝材(下記特許文献5、6)と高分子型帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂フィルムを積層された梱包材(下記特許文献7)が提案されている。
【0004】
しかし、ポリオレフィン系樹脂中に含まれる低分子の揮発成分の被包装材への転写、汚染を生じガラス板や精密電子部品への影響が及んでしまい、発泡空気層に帯電防止剤が取込まれ帯電防止剤の効果が得られ難く、発泡シートの厚みが厚く輸送時に嵩張る課題がある。
【0005】
厚さを薄くしたものとして、ポリエステル連続繊維からなる薄い不織布シートを熱エンボス加工を施して、接触する面積率を低下させて用いること(特許文献9)が提案されているが、繊維用として用いる場合に高温度で溶融させることが必要となり、帯電防止剤の分解が生じやすく充分な帯電防止効果が得られない。
【0006】
また、電子部品の搬送用として、ポリマー型帯電防止剤の相溶性から特定のポリプロピレン樹脂に限定された静電防止シート(特許文献8)が提案されている。
【0007】
しかし、特許文献8に提案の樹脂はシート用やフィルム用の高粘度の樹脂であるため、繊維用として用いることができない。繊維用として用いるとすれば高温度で溶融させることが必要となり、ポリマー型帯電防止剤の分解が生じ充分な帯電防止効果が得られない。
【0008】
ポリオレフィン系樹脂などの高分子系樹脂では、一般的に(非特許文献1参照)はLDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)の順で、密度が高くなるに連れて、帯電防止効果が得られ難い傾向にあり、特にポリオレフィン系樹脂から得られた成型品の中で高密度ポリエチレン樹脂により構成されている製品は少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−226354号公報
【特許文献2】特開2005−239242号公報
【特許文献3】特開平8−174737号公報
【特許文献4】特開平10−24540号公報
【特許文献5】特開2007−262409号公報
【特許文献6】特開2005−194433号公報
【特許文献7】実用新案3143726号公報
【特許文献8】特開2008−156396号公報
【特許文献9】特開平2009−173510号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】東京インキ株式会社 マスターバッチ カタログ(2006.5.6K)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、帯電防止剤の効果が有効に発現されて、埃や塵が付着せず、揮発成分の少ない、搬送や梱包に適した不織布、それを構成するための繊維、並びに前記不織布を用いた成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリオレフィン樹脂と特定の帯電防止剤を配合した樹脂組成物を用いることにより、単独繊維または鞘芯型複合繊維を得る高速での紡糸性にも優れ、半永久的帯電防止性能を有した不織布が得られることを見出し本発明を完成した。半永久的帯電防止性能とは、成形直後から半永久的に帯電防止効果が持続し、水洗してもほとんど変化しない、また湿度依存性が小さく、低湿度下でも帯電防止性を発揮することを意味する。
【0013】
即ち、本発明は次のものである。
【0014】
(1)メタロセン触媒を用いて得られたポリエチレン樹脂(A)と高分子型帯電防止剤(B)を含むポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面を形成してなる繊維であって、揮発性有機物質の炭素数20までの総量(90℃、30分)が、10μg/g以下であるポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0015】
(2)ポリエチレン樹脂(A)が、密度0.94〜0.97g/cm3の高密度ポリエチレンである、前記(1)記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0016】
(3)ポリエチレン樹脂(A)のメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分である、前記(1)または(2)記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0017】
(4)ポリエチレン樹脂組成物が、ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、更に、メタロセン触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.87〜0.92g/cm3の低密度ポリエチレン樹脂(c1)、及び、メタロセン触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.91〜0.94g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(c2)から選ばれた少なくとも一種の低密度ポリエチレン樹脂(C)5〜20重量部を含むことを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0018】
(5)ポリエチレン樹脂組成物が繊維表面を完全に覆う鞘成分を形成してなる鞘芯型複合繊維である、前記(1)〜(4)のいずれか1に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0019】
(6)芯成分が、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.94〜0.97g/cm3の高密度ポリエチレン樹脂(D)100重量部と、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.87〜0.92g/cm3の低密度ポリエチレン樹脂(e1)、及び、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.91〜0.94g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(e2)から選ばれた少なくとも一種の低密度ポリエチレン樹脂(E)5〜20重量部、を含んでなる前記(5)記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0020】
(8)示差走査熱量計(DSC)による昇温速度10℃/分で測定される融点において、芯成分の融点が、鞘成分の融点より10℃以上高いことを特徴とする、前記(5)〜(7)のいずれか1に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0021】
(9)ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対して、高分子型帯電防止剤(B)が5〜30重量部の割合で混合されていることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0022】
(10)繊維が連続繊維である、前記(1)〜(9)のいずれか1に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0023】
(11)繊維が、スパンボンド法、メルトブローン法のいずれかの製造方法で製造された繊維である前記(10)記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【0024】
(12)前記(1)〜(11)のいずれか1に記載の繊維を用いて得られた不織布。
【0025】
(13)不織布の表面抵抗値が、103〜1013Ωの範囲である、前記(12)記載の不織布。
【0026】
(14)前記(12)または(13)記載の不織布に他の層が積層されてなる、複合化不織布。
【0027】
(15)前記(12)もしくは(13)記載の不織布、または前記(14)記載の複合化不織布を用いて得られた成形体。
【発明の効果】
【0028】
本発明の帯電防止性繊維から得られる帯電防止性不織布とそれからなる成形体は、帯電防止性に優れ、揮発性有機物質が少ない特徴を有するとともに、当該不織布を構成している繊維の紡糸性が優れることから均一で細い繊維が得られ、薄くて強度がある不織布が得られるため、埃や塵の付着を嫌う液晶パネル用ガラス板や電子部品の搬送に嵩張ることなく好適に用いることができる。本発明の繊維、及びそれを用いて得られる不織布は、適切な材料の選択に伴う揮発性有機物質発生の低減化に加え、紡糸性が良好なので、添加した高分子型帯電防止剤の分解が生じるような高温で紡糸する必要がなく、得られた繊維製品の表面汚れの低減と、低温紡糸・低温加工が可能となる。そして、高分子型帯電防止剤などの添加剤の分解等に伴う分解生成物の発生等のリスクが解消される効果とが相俟って、従来にない低VOC値の達成、および低VOC値を維持したシートの提供・安定生産を可能にした。
【0029】
また、本発明によれば、特に繊維を鞘芯型(同心鞘芯型や扁心鞘芯型)の複合繊維とすることで繊維の強度および表面抵抗値が要求に応じ調整可能であり、性能とコストを含め汎用性に優れた不織布が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の帯電防止性繊維並びに前記繊維からなる不織布は、メタロセン触媒を用いて得られたポリエチレン樹脂(A)に高分子型帯電防止剤(B)を含むポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面を形成してなる繊維であって、揮発性有機物質の炭素数20までの総量(90℃、30分)が、10μg/g以下であるポリオレフィン系帯電防止性繊維並びに前記繊維からなる不織布である。
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0031】
本発明のポリエチレン樹脂組成物に用いられるポリエチレン樹脂(A)は、揮発性有機化合物(無極性成分、極性成分とも)が少ないことから、低VOC値を達成できるという点、被包装体への揮発性有機物質の付着を抑制できるという点、繊維表面のべとつきを生じないという点で、メタロセン触媒を用いて重合されたポリエチレンを使用する。また、さらに、ポリエチレン樹脂(A)は、繊維の風合いや繊維の強さの点で、密度が0.94〜0.97g/cm3、特に、密度が0.95〜0.96g/cm3である高密度ポリエチレンであるのが好ましい。また、さらに、本発明のポリエチレン樹脂(A)は、細い繊維を高速で紡糸する点で、190℃、2.16kg荷重で測定したメルトインデックス(以下、MIと略す)が、10〜100g/10分であるのが好ましく、15〜100g/10分であるのが尚好ましい。
【0032】
また、ポリエチレン樹脂組成物が、ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、更に、メタロセン触媒を用いて得られた低密度ポリエチレン樹脂(c1)およびメタロセン触媒を用いて得られた直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(c2)より選ばれた少なくとも一種の低密度ポリエチレン樹脂(C)を5〜20重量部含むことが、高速で細い繊維を得る点で好ましい。このとき、低密度ポリエチレン樹脂(c1)としては、MIが10〜100g/10分、好ましくは15〜100g/10分、密度が0.87〜0.92g/cm3、好ましくは0.91〜0.92g/cm3のものが好ましく、エチレンの単独重合体またはエチレンを主体とする炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体が使用できる。また、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(c2)としては、MIが10〜100g/10分、好ましくは15〜100g/10分、密度が0.91〜0.94g/cm3、好ましくは0.91〜0.93g/cm3のものを使用するのが好ましく、エチレンの単独重合体またはエチレンを主体とする炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体が使用できる。なお、ポリエチレン樹脂(A)に低密度ポリエチレン樹脂(C)を含有させる場合においても、ポリエチレン樹脂(A)は低密度ポリエチレン樹脂(C)とは独立して上述した態様(メタロセン触媒を用いて重合されたものであって密度が0.94〜0.97g/cm3(特に0.95〜0.96g/cm3)である高密度ポリエチレン、あるいはMIが10〜100g/10分(特に15〜100g/10分)であるものであってもよい)が好ましい。
【0033】
本発明で用いるポリエチレン樹脂組成物は、高分子型帯電防止剤(B)を除いた成分のMIが10〜100g/10分の範囲であるのが好ましい。MIが、10g/10分以上であれば、粘度が高速紡糸性に適した低い範囲に保たれ、かつ細い繊維を得るのに好適である。一方、100g/10分以下であれば繊維強度が高く保たれ繊維が脆くなることはなく、また、溶融押出時の発煙成分量(揮発性有機物質)を抑えることができ、発煙成分が繊維に付着することはない。即ち、MIが10〜100g/10分の範囲であると、高速紡糸性が良好で、細い繊維が得られ易く、溶融押出時の発煙成分量が少なくなるため、発煙成分が繊維に付着しにくく、繊維強度の低下も少なく好ましい。
【0034】
本発明においては、ポリエチレン樹脂組成物が繊維表面を形成してなる繊維を製造し、この繊維を用いて不織布を製造する。得られた不織布は、従来はフィルムやシートが使用されていた電子材料向け包装用シート等として有効に使用される。
【0035】
一般に、フィルムやシートの製造に使用される樹脂は、繊維の製造に使用される樹脂に比べて高粘度である。つまり、繊維の製造(紡糸)に比べて、高温での成形加工が通常必要とされ、成形加工時に発生する発煙成分が製品表面に付着しやすく、添加剤の加熱減量に伴う、VOC値の悪化のリスクを負っているとも言えるものである。よって、このようなフィルムやシートではなく、一般に成形条件が緩やかな繊維及びそれを用いて得られる不織布をターゲットにして取組むことは、低VOC値の達成、及び、低VOC値のシートを安定的に供給するための根本的な有効策となりうるものである。また、本発明では本発明の繊維を用いて不織布とすることによって一般に見劣りがちな強度を確保するため、繊維表面を形成する成分として、高密度ポリエチレンを使用するのが好ましい。そして、帯電防止性については、使用する樹脂の密度が高くなるにつれ帯電防止性が発揮され難くなる傾向であるため、微細な繊維が蜜に集積された構造を有する不織布ゆえの表面積の増大によって帯電防止効果を補填することができるのである。
【0036】
ここで、「ポリエチレン系樹脂(A)と高分子型帯電防止剤(B)を含むポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面を形成してなる繊維」とは、「ポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面の少なくとも一部を形成している繊維」、及び、「ポリエチレン樹脂組成物が、少なくとも繊維表面を形成している繊維」をも含む。すなわち、ポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面の一部のみを形成している複合繊維や、前記ポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面の全部を形成している複合繊維、前記ポリエチレン樹脂組成物が繊維表面も繊維内部も形成している単繊維を含む意味であり、このうちでも、前記ポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面の50%以上を形成している複合繊維が好ましく、特に、ポリエチレン樹脂組成物が、鞘成分として、繊維表面を完全に覆っている鞘芯型(同心鞘芯型や扁心鞘芯型)の複合繊維が特に好ましく、用途に応じ、前記ポリエチレン樹脂組成物が繊維表面も繊維内部も形成している単繊維も好ましい。
【0037】
本発明のポリオレフィン系帯電防止性繊維が複合繊維である場合において、本発明は上述の鞘芯型だけに限定されるものではなく、繊維表面を形成するポリエチレン樹脂組成物が繊維表面を完全に覆わない態様(複合繊維のもう一方の成分の一部が繊維表面に露出する態様で、例としては並列型複合繊維)も挙げられる。
【0038】
このように、本発明の繊維、及びそれを用いて得られる不織布は、適切な材料の選択に伴う揮発性有機物質発生の低減化に加え、成形性(紡糸性)の改善に伴う、得られた繊維製品の表面汚れの低減と、低温紡糸・低温加工が可能となる。そして、添加剤の分解等に伴う分解生成物の発生等のリスクが解消される効果とが相俟って、従来にない低VOC(Volatile Organic Compound)値の達成、および低VOC値を維持したシートの提供・安定生産を可能にならしめたものである。
【0039】
本発明で用いられる高分子型帯電防止剤(B)は、その分解開始温度が、ポリエチレン樹脂(A)が紡糸可能な温度以上であることが帯電防止剤の性能を損なわない点で好ましい。また、高分子型帯電防止剤(B)は、親水基を有しブロック共重合されているポリエーテル類が好ましい。例えば、市場で入手できる高分子型帯電防止剤(B)として、三洋化成社製の商品名「ペレスタット」、「ペレクトロン」、三光化学社製の商品名「サンコノール」、三井・デュポン社製の商品名「エンティラAS」、アルケマ社製の商品名「ぺバックス」、ルーブリゾール社製の商品名「スタットライト」が挙げられる。上記高分子型帯電防止剤は、単独または組み合わせて使用してもよい。これらの帯電防止剤の配合量は、ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対して、5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部とすることで、繊維より構成される不織布の表面抵抗値が103〜1013Ωの範囲、好ましくは106〜1012Ωの範囲に調整することができる。
【0040】
本発明に用いられるポリエチレン樹脂組成物には、上記の高分子方帯電防止剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で添加剤を必要に応じて適宜配合してもよい。配合する添加剤として着色剤、酸化防止剤、耐候剤、光安定剤、抗菌剤、分散剤、結晶核剤、難燃剤、金属不活性剤、剛性を付与する無機フィラーなどを用いてもよく、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。
【0041】
本発明で用いられる繊維は、上記ポリエチレン樹脂組成物からなる単繊維、または上記ポリエチレン樹脂組成物が繊維表面を形成する複合繊維とすることができる。特に上記ポリエチレン樹脂組成物が鞘成分として繊維表面を完全に覆う鞘芯型の複合繊維であるのが、帯電防止性能を発揮しやすい点で好ましい。芯成分としては、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたMIが10〜100g/10分、好ましくは15〜80g/10分、密度が0.94〜0.97g/cm3、好ましくは0.95〜0.96g/cm3の高密度ポリエチレン樹脂(D)100重量部と、低密度ポリエチレン樹脂(e1)、および直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(e2)から選ばれた少なくとも一種の低密度ポリエチレン樹脂(E)5〜20重量部を含むことが、低温での高速紡糸性の点で好ましい。このとき、低密度ポリエチレン樹脂(e1)としては、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたMIが10〜100g/10分、好ましくは15〜80g/10分、密度が0.87〜0.92g/cm3、好ましくは0.91〜0.92g/cm3のものが好ましく、エチレンの単独重合体またはエチレンを主体とする炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体が使用できる。また、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(e2)としては、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたMIが10〜100g/10分、好ましくは15〜80g/10分、密度が0.91〜0.94g/cm3、好ましくは0.91〜0.93g/cm3のものを使用するのが好ましく、エチレンの単独重合体またはエチレンを主体とする炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体が使用できる。複合繊維が鞘芯型ではなく、複合繊維のもう一方の成分の一部が繊維表面に露出する態様(例としては並列型複合繊維)の場合も、複合繊維のもう一方の成分は、上記芯成分と同様であることが好ましい。
また、本発明で用いられる繊維は、上記鞘芯型の複合繊維においては、耐熱性および寸法安定性の点で、芯成分を、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて重合されたポリプロピレン樹脂を使用できる。
本発明の複合繊維においては、芯成分が、上記高密度ポリエチレン樹脂(D)を主成分とするもののほうが、上記ポリプロピレン樹脂を主成分とするものよりも、環境負荷低減(リサイクルしやすさ)の点で好ましい。
【0042】
本発明の鞘芯型ポリオレフィン複合繊維において、DSCによる10℃/分の昇温速度で測定される融点において、芯成分の融点が、鞘成分の融点よりも、10℃以上高いことが好ましい。融点の差が10℃未満であると芯成分の溶融が生じ、繊維の形態が維持できにくくなる傾向になる。
【0043】
芯成分と鞘成分の割合(芯成分/鞘成分)は、重量比で90/10〜10/90の範囲であるのが繊維の剛性を持たせる点で好ましい。更に好ましいのは70/30〜50/50の範囲である。
【0044】
本発明で用いられる繊維は、VDA278(ドイツ自動車工業規格:Verband der Automobilindustrie)に準拠した揮発性有機物質(VOC)の測定において、VOC総量が、10μg/g以下、好ましくは5μg/g以下であることが望ましい。VOC総量が10μg/gを越えると、被梱包体などへの揮発成分の付着が生じ製品への影響が懸念される。
【0045】
VOCの測定方法は、VDA278に準拠した加熱脱着装置のガラスチューブ内に繊維または不織布を30mg直接入れ、90℃、30分加熱した際に放散される揮発成分をガスクロマトグラフ質量分析計装置により炭素数20まで測定して得られる。
【0046】
本発明の帯電防止性繊維は、連続繊維であることが好ましい。連続繊維であると、短繊維からなる不織布に比べて、不織布中での繊維の端面の存在密度を大幅に削減でき、繊維中の有機物質の揮発基点を有効に奪うことができる。連続繊維は、特にスパンボンド法またはメルトブローン法で得られる繊維であることが好ましい。スパンボンド法やメルトブローン法は直接不織布を得る製造方法であり、不織布化までの工程で、繊維表面へ繊維処理剤等を付着させる工程を含まない。よって、効率的に低VOC値シートの安定生産が可能である。
【0047】
本発明の不織布は、上記のポリエチレン樹脂組成物等を押出機にて溶融し、紡糸口金より単繊維または鞘芯型複合繊維を連続で紡糸し、熱圧着することにより製造する。
【0048】
さらに詳しくは、上記のポリエチレン樹脂組成物等に必要に応じて添加剤を配合し、押出機で溶融し、単繊維が得られる紡糸口金より吐出させ、エアーサッカーにて溶融延伸させた後、コンベアー上に連続繊維を集積させるスパンボンド法または高温のエアージェットで溶融延伸させた後、コンベアー上に連続繊維を集積させるメルトブローン法によりウェッブを形成し、100〜140℃に設定したエンボスロール等で繊維同士を接着し不織布を製造することができる。
【0049】
また、押出機2台以上を用いて、鞘成分と芯成分のそれぞれの樹脂組成物をそれぞれの押出機で溶融し、鞘芯型の複合繊維が得られる紡糸口金より吐出させ、上記のスパンボンド法またはメルトブローン法により連続繊維を集積し、エンボスロールにて100〜140℃に設定したエンボスロール等で繊維同士を接着し不織布を製造することができる。
【0050】
本発明の不織布に、本発明の別の不織布を積層してもよく、本発明の不織布とは別の他の層を積層して、複合化不織布とすることもできる。他の層としては、短繊維を熱風により熱接着された不織布、短繊維を水圧で交絡された不織布、短繊維をスチームジェットで交絡された不織布、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ポリオレフィン樹脂製シートなどを例示でき、これらに限定されない。
【0051】
本発明の繊維で得られた不織布は、電子製品、シリコン半導体、ディスプレイ用ガラス基材などの電子材料向け包装材不織布のほか、OA機器の防塵カバー不織布、クリーンルーム用機器の保護不織布、医療用機器の保護不織布などに使用できる。
本発明で得られた不織布または複合化不織布は、真空成型、圧空成型、マッチモールド成型などにより、成形体に加工することができる。加熱による容器成型をすることもできる。成形体としては、緩衝材、キャリアテープ、物品収納ケース、食品容器やトレーなどが例示できる。
【実施例】
【0052】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
本発明で用いた測定方法および評価方法は以下に示す。
【0054】
(1)メルトインデックス(MI):JIS K6760に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgfにて測定した。単位:g/10分
(2)融点:ティ・エイ・インスツルメンツ社製の示差走査型熱量計(DSC)を用いて、室温から10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱し5分間保持した後、10℃/分の降温速度で30℃まで冷却し、再度10℃/分の昇温速度で昇温し、その融解吸熱温度を融点として測定した。単位:℃
(3)紡糸性:紡糸孔径がφ0.5mm、孔数が100個を有する紡糸口金より、樹脂温度230℃、吐出量0.28g/分・孔にて溶融紡糸を行い、2500m/分に相当する速度でエアーサッカーにて引取り、30分間の糸切れ回数を測定した。
【0055】
(4)不織布強度: 島津製作所製の引張り試験機(オートグラフAGS-1kNJ形)を用いて、不織布の引取方向(長さ方向)に、試料間100mm、引張り速度100mm/分にて引っ張った際の最大強力を測定した。単位:N
(5)表面抵抗:表面抵抗計(シムコジャパン株式会社、ワークサーフェイステスターST−3)を用いて25℃、50%の雰囲気下、不織布成形24時間後の不織布の表面抵抗値を測定した。単位:Ω
(6)VOC:VDA278に準拠し、ヘッドスペース型ガスクロマトグラフ質量分析計(Clarus 600 GC/MS & TurboMatrix Trap 40)にて90℃、30分の加熱により製品より発生する炭素数20までの揮発成分の総濃度を測定した。単位:μg/g
【0056】
[使用材料]
ポリエチレン樹脂1:メタロセン触媒系 高密度ポリエチレン
旭化成社製 “クレオレックス QR603A”
(MI=27g/10分 密度=0.96g/cm3 融点=132℃)
ポリエチレン樹脂2:メタロセン触媒系 高密度ポリエチレン
旭化成社製 “クレオレックス QR600B”
(MI=100g/10分 密度=0.96g/cm3 融点=132℃)
ポリエチレン樹脂3:メタロセン触媒系 高密度ポリエチレン
旭化成社製 “クレオレックス QT4750”
(MI=5g/10分 密度=0.96g/cm3 融点=130℃)
ポリエチレン樹脂4:チーグラー触媒系 高密度ポリエチレン
旭化成社製 “サンテックHD J302”
(MI=42g/10分 密度=0.96g/cm3 融点=132℃)
ポリエチレン樹脂5:チーグラー触媒系 高密度ポリエチレン
旭化成社製 “サンテックHD J240”
(MI=5g/10分 密度=0.97g/cm3 融点=132℃)
ポリエチレン樹脂6:メタロセン触媒系 低密度ポリエチレン
日本ポリエチレン社製 “カーネル KJ640T”
(MI=30g/10分 密度=0.88g/cm3 融点=58℃)
ポリエチレン樹脂7:チーグラー触媒系 低密度ポリエチレン
旭化成社製 “サンテックLD M6545”
(MI=45g/10分 密度=0.92g/cm3 融点=113℃)
ポリエチレン樹脂8:メタロセン触媒系 直鎖状低密度ポリエチレン
日本ポリエチレン社製 “ハーモレックス NH845N”
(MI=15g/10分 密度=0.91g/cm3 融点=120℃)
ポリエチレン樹脂9:チーグラー触媒系 直鎖状低密度ポリエチレン
日本ポリエチレン社製 “ノバテックLL UJ480”
(MI=30g/10分 密度=0.92g/cm3 融点=124℃)
ポリプロピレン樹脂1:メタロセン触媒系
日本ポリプロ社製 “ウィンテック WMG03”
(MFR=30g/10分 密度=0.91g/cm3 融点=142℃)
ポリプロピレン樹脂2:チーグラー触媒系
日本ポリプロ社製 “ノバテック SA04D”
(MFR=40g/10分 密度=0.91g/cm3 融点=165℃)
ポリプロピレン樹脂3:メタロセン触媒系
日本ポリプロ社製 “ウィンテック WFX4T”
(MFR=7g/10分 密度=0.91g/cm3 融点=125℃)
帯電防止剤1:三洋化成社製 “ペレスタット230”
(ポリエーテル系・ポリマー型 融点=165℃)
帯電防止剤2:三洋化成社製 “ペレスタットLA120”
(ポリエーテル系・ポリマー型 融点=156℃)
帯電防止剤3:三光化成社製 “サンコノールTBX310”
(ポリエーテル・ポリマー型 融点=135℃)
帯電防止剤4:クラリアント社製 “ハイドロセロールCT3117”
(グリセリンモノステアレート 融点=110℃)
【0057】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
表1に記載の配合(各樹脂と帯電防止剤の項の数値は重量部を示す。)を、それぞれのペレット状態でブレンドし、φ30mm押出機により、各配合された樹脂を押出機にて230℃で溶融し、単繊維が得られる紡糸口金より吐出し、スパンボンド法により、2500m/分に相当する速度でエアーサッカーにて引取り、コンベアー上でウェブを形成した後、125℃にてエンボス加工し、目付30g/m2の不織布を各々に得た。
【0058】
得られた該不織布を用いて、上記記載の方法にて表面抵抗値、不織布強度およびVOCを測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
[実施例6〜10、比較例4,5]
表2に記載の配合(各樹脂と帯電防止剤の項の数値は重量部を示す。)を、それぞれのペレット状態でブレンドし、鞘成分用φ30mm押出機および芯成分用φ30mm押出機により、それぞれの該押出機にて230℃で樹脂を溶融し、鞘成分と芯成分の吐出比率が50%と50%となる鞘芯型の複合繊維が得られる紡糸口金より吐出し、スパンボンド法により、2500m/分に相当する速度でエアーサッカーにて引取り、コンベアー上でウェブを形成した後、125℃にてエンボス加工し、目付30g/m2の不織布を各々に得た。
【0061】
得られた該不織布を用いて、上記記載の方法にて表面抵抗値、不織布強度およびVOCを測定した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
本発明の特定のポリオレフィン樹脂と高分子型帯電防止剤との構成により得られた、帯電防止性繊維は優れた高速紡糸性を有する。また、それから得られた不織布は高い強度および帯電防止性能を有すると共に、高い温度環境での揮発成分を発生しない優れた性能を有する。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリオレフィン系帯電防止性繊維およびそれからなる不織布は、包装材料として十分な強度を有しており、更に薄いため液晶パネル用ガラス基板や電子部品の搬送で嵩張らず、静電気による埃付着を嫌うOA機器周りのカバー包装材などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒を用いて得られたポリエチレン樹脂(A)と高分子型帯電防止剤(B)を含むポリエチレン樹脂組成物が、繊維表面を形成してなる繊維であって、揮発性有機物質の炭素数20までの総量(90℃、30分)が、10μg/g以下であるポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項2】
ポリエチレン樹脂(A)が、密度0.94〜0.97g/cm3の高密度ポリエチレンである、請求項1記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項3】
ポリエチレン樹脂(A)のメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分である、請求項1または2記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項4】
ポリエチレン樹脂組成物が、ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、更に、メタロセン触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.87〜0.92g/cm3の低密度ポリエチレン樹脂(c1)、及び、メタロセン触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.91〜0.94g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(c2)から選ばれた少なくとも一種の低密度ポリエチレン樹脂(C)5〜20重量部を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項5】
ポリエチレン樹脂組成物が繊維表面を完全に覆う鞘成分を形成してなる鞘芯型複合繊維である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項6】
芯成分が、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.94〜0.97g/cm3の高密度ポリエチレン樹脂(D)100重量部と、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.87〜0.92g/cm3の低密度ポリエチレン樹脂(e1)、及び、メタロセン触媒またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたメルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)が10〜100g/10分、密度が0.91〜0.94g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(e2)から選ばれた少なくとも一種の低密度ポリエチレン樹脂(E)5〜20重量部、を含んでなる請求項5記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項7】
示差走査熱量計(DSC)による昇温速度10℃/分で測定される融点において、芯成分の融点が、鞘成分の融点より10℃以上高いことを特徴とする、請求項5〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項8】
ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対して、高分子型帯電防止剤(B)が5〜30重量部の割合で混合されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項9】
繊維が連続繊維である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項10】
繊維が、スパンボンド法、メルトブローン法のいずれかの製造方法で製造された繊維である請求項9記載のポリオレフィン系帯電防止性繊維。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の繊維を用いて得られた不織布。
【請求項12】
不織布の表面抵抗値が、103〜1013Ωの範囲である、請求項11記載の不織布。
【請求項13】
請求項11または請求項12記載の不織布に他の層が積層されてなる、複合化不織 布。
【請求項14】
請求項11もしくは請求項12記載の不織布、または請求項13記載の複合化不織布を用いて得られた成形体。

【公開番号】特開2012−167404(P2012−167404A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29010(P2011−29010)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(399120660)JNCファイバーズ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】