ポリジメチルシロキサンシートとこれを使用した光学素子およびこれらの製造方法
【課題】金属薄膜や所望の形状の金属パターンとの密着性が良好で、かつ、取扱い性、安定性に優れたPDMSシートと、信頼性が高く、取扱い性、安定性に優れた光学素子と、これらの製造方法を提供する。
【解決手段】光学素子21を、一方の面がパターン形成面33Aであり、他方の面がベース面34Aであるポリジメチルシロキサンシート31と、このパターン形成面上に位置する複数の金属パターン22とを備えたものとし、ポリジメチルシロキサンシート31は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層33を少なくともパターン形成面33Aに備え、低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層34を少なくともベース面34Aに備えた構造体32とし、ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより隣接する金属パターンの間隔が変化可能なものとする。
【解決手段】光学素子21を、一方の面がパターン形成面33Aであり、他方の面がベース面34Aであるポリジメチルシロキサンシート31と、このパターン形成面上に位置する複数の金属パターン22とを備えたものとし、ポリジメチルシロキサンシート31は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層33を少なくともパターン形成面33Aに備え、低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層34を少なくともベース面34Aに備えた構造体32とし、ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより隣接する金属パターンの間隔が変化可能なものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリジメチルシロキサンシート、特に金属薄膜や所望の形状の金属パターンを形成するためのポリジメチルシロキサンシートと、柔軟な樹脂基材上にナノオーダーの複数の金属パターンを配置した光学素子、および、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSとも記す)シートは、優れた耐熱性、耐寒性、耐候性や、安定した電気特性を有していることから、電子・電気機器等の種々の用途に活用されている。
また、従来から、ガラス基板等に回折格子を形成した光学素子が広く使用されているが、近年、柔軟な樹脂基材上に金属パターンを形成した光学素子が提案されている(非特許文献1)。この光学素子は、基材に外力を加えることにより金属パターン間のナノオーダーの配置が変化し、その結果、金属パターン間の近接場相互作用が変化し、光学応答が変化するものである。また、偏光方向に依存せずに物質界面での反射率をゼロとし、光を100%透過させることができるようにした光学素子が提案されている(特許文献1)。この光学素子は、メタマテリアルとして銀をC字形状に形成したナノ構造体である磁気共振器をガラス基板上に複数配置した構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−350232号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】王暁星ほか、第56回応用物理学会関係連合講演会(2009春、筑波大学)1p−H−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のPDMSシートは金属との密着性が悪いという問題があった。また、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板上にPDMSシートを載置して金属薄膜や所望の形状の金属パターンの形成加工を行う場合、あるいは、これらの基板上で長時間保管する場合、基板とPDMSシートとの固着を生じ、取扱い性、安定性に欠けるという問題もあった。
また、PDMSシートは柔軟で光透過性を有しているので、非特許文献1に記載されているような光学素子を構成する柔軟な樹脂基材として使用することができる。しかし、従来のPDMSシートに金属パターンを直接形成すると、PDMSシートに対する金属ナノ構造体の密着力が弱いため、PDMSシートに繰り返し外力が加えられることにより、金属パターンの剥がれ、脱落が生じるという問題があった。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、金属薄膜や所望の形状の金属パターンとの密着性が良好で、かつ、取扱い性、安定性に優れたPDMSシートと、金属パターンの剥離や脱落が防止され信頼性が高く、かつ、取扱い性に優れた光学素子と、これらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明の光学素子は、一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより隣接する前記金属パターンの間隔が変化可能であるような構成とした。
【0007】
また、本発明の光学素子は、一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、前記金属パターンは、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり、前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより前記切欠き部の間隔が変化可能であるような構成とした。
【0008】
本発明の他の態様として、前記金属パターンは、Au、Ag、Alのいずれかを主成分として含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記金属パターンと同一パターンであるような構成、あるいは、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記ポリジメチルシロキサンシートのパターン形成面の全域に存在するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記下地金属層は、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分として含有するような構成とした。
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面は、表面平均粗さRaが0.1μm以下であるような構成とした。
【0009】
本発明の光学素子の製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に複数の金属パターンを、隣接する該金属パターンの間隔が1000nm以下となるように形成する工程と、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【0010】
また、本発明の光学素子の製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり該切欠き部の間隔が1000nm以下である複数の金属パターンを形成する工程と、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【0011】
本発明の他の態様として、前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記パターン形成面上に金属層を形成し、その後、前記レジストパターンを剥離することによりレジストパターン上に形成された金属層をリフトオフして形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上に金属層を形成し、該金属層上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記金属層をエッチングし、その後、前記レジストパターンを剥離して形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成するような構成、あるいは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成するとともに、前記金属パターンの非形成部位の前記下地金属層もエッチング除去するような構成とした。
【0012】
本発明のポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも一方の面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも他方の面に備えた構造体からなるシートであり、前記高含有率ポリジメチルシロキサン層が被加工面であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層がベース面であるような構成とした。
【0013】
本発明の他の態様として、前記構造体の厚みは0.01〜10mmの範囲であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層の厚みは0.005〜5mmの範囲であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記被加工面の表面平均粗さRaは0.1μm以下であるような構成とした。
【0014】
本発明のポリジメチルシロキサンシートの製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体とし、その後、該構造体と前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリジメチルシロキサンシートは、被加工面である高含有率ポリジメチルシロキサン層が金属に対する優れた密着性を有するので、金属薄膜や金属パターン等の加工性に優れ、光学素子、フレキシブル画像表示装置、フレキシブル照明等への利用が可能であり、また、ベース面である低含有率ポリジメチルシロキサン層は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低く、これらの基板上にベース面を当接させて載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
【0016】
本発明のポリジメチルシロキサンシートの製造方法では、ポリジメチルシロキサンシートである構造体が、金属に対する優れた密着性を有する高含有率ポリジメチルシロキサン層を備えているにもかかわらず、低含有率ポリジメチルシロキサン層が支持基板側に位置するので、構造体と支持基板との離型が容易であり、また、成型基板の形状を適宜設定することにより、高含有率ポリジメチルシロキサン層の表面(被加工面)に所望の形状を付与することができ、用途に応じたポリジメチルシロキサンシートの製造が可能である。
【0017】
本発明の光学素子は、ポリジメチルシロキサンシートの高含有率ポリジメチルシロキサン層(パターン形成面)に金属パターンが位置しているので、金属パターンとポリジメチルシロキサンシートとの密着性が優れ、信頼性の高いものであり、また、ポリジメチルシロキサンシートの低含有率ポリジメチルシロキサン層(ベース面)は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低いので、これらの基板上にベース面を当接させて載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
【0018】
本発明の光学素子の製造方法では、ポリジメチルシロキサンシートである構造体を形成し、この構造体を構成する高含有率ポリジメチルシロキサン層(パターン形成面)に金属パターンを形成するので、金属パターンとポリジメチルシロキサンシートとの密着性が高く、また、構造体を構成する低含有率ポリジメチルシロキサン層が支持基板側に位置するので、支持基板からの光学素子の離型が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のポリジメチルシロキサンシートの一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】本発明のポリジメチルシロキサンシートの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】本発明の光学素子の一実施形態を示す部分平面図である。
【図4】図3に示される光学素子のI−I線における縦断面図である。
【図5】本発明の光学素子の他の実施形態を示す図4相当の縦断面図である。
【図6】本発明の光学素子の他の実施形態を示す図4相当の縦断面図である。
【図7】図3に示される本発明の光学素子の動作を説明するための図である。
【図8】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図9】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図10】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図11】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図12】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図13】本発明の光学素子の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図14】本発明の光学素子の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[ポリジメチルシロキサンシート]
図1は、本発明のポリジメチルシロキサン(PDMS)シートの一実施形態を示す部分断面図である。図1において、本発明のPDMSシート1は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲である高含有率PDMS層3と、低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲である低含有率PDMS層4との構造体2からなる。そして、構造体2の高含有率PDMS層3側は、金属薄膜や所望の形状の金属パターンを形成するための被加工面3Aであり、低含有率PDMS層4側は、ベース面4Aである。
本発明では、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としている。そして、本発明は、このような低分子量のシロキサンが、高分子量のシロキサンよりも、ケイ素含有基材に対する反応性が大きいこと、および、低分子量のシロキサンの含有量によって、金属に対する密着性と、ケイ素含有基材に対する反応性を制御可能なことに着目したものである。尚、本発明における低分子量シロキサンの含有量は、アセトンで抽出した後、ガスクロマトグラフィーを用いて検出する方法により測定する。低分子量シロキサン、および、この低分子量シロキサンの含有量については、以下の本発明の説明においても同様である。
【0021】
PDMSシート1を構成する高含有率PDMS層3の低分子量シロキサンの含有量が2000ppm未満であると、金属に対する密着性が不十分となり、高含有率PDMS層3(被加工面3A)に形成された金属薄膜や所望の形状の金属パターンに剥離や脱落が生じるおそれがあり好ましくない。一方、低含有率PDMS層4の低分子量シロキサンの含有量が1000ppmを超えると、PDMSシート1の製造工程、あるいは、PDMSシート1の加工工程、保管状態において、低含有率PDMS層4(ベース面4A)が、当接する基板、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素を含有する基板との固着を生じるおそれがあり好ましくない。
本発明のPDMSシート1(構造体2)の厚みは、0.01〜10mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲である。PDMSシート1の厚みが0.1mm未満であると、原料のPDMSの粘度が高いので、製造工程で厚みが不均一となったり、製造のための支持基板からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、PDMSシート1の厚みが10mmを超えると、例えば、光学素子への使用を想定した場合の後工程が困難となり好ましくない。
【0022】
また、PDMSシート1を構成する低含有率PDMS層4の厚みは0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲とすることができる。低含有率PDMS層4の厚みが0.005mm未満であると、低含有率PDMS層4の一部に欠陥が生じ、PDMSシート1のベース面4Aの全面を低含有率PDMS層4で被覆できないおそれがある。一方、低含有率PDMS層4の厚みが5mmを超えると、低含有率PDMS層4により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、PDMSシート1の製造コストが増大するので好ましくない。
【0023】
PDMSシート1を構成する高含有率PDMS層3の厚みは、PDMSシート1の厚み、低含有率PDMS層4の厚みを上記の範囲で設定することにより決まるものであり、特に制限はない。また、上記の構造体2からなるPDMSシート1は例示であり、本発明では、被加工面3Aに高含有率PDMS層3が存在し、ベース面4Aに低含有率PDMS層4が存在すればよく、したがって、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4との間には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、高含有率PDMS層3や低含有率PDMS層4とは異なる材料が存在するものであってもよい。尚、本明細書では説明の便宜上、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4とをそれぞれ「層」と区別しているが、本発明は図示の態様に限定して解釈されるものではない。したがって、本発明の一実施形態に係るポリジメチルシロキサンシートは高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4の境界が曖昧である構造体も包含する。すなわち、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4をそれぞれ「層」と認識することが困難であるが、被加工面3Aにおける低分子シロキサン含有量が2000ppm以上であり、ベース面4Aにおける低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である構造体も包含する。
【0024】
PDMSシート1の高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)の形状は、PDMSシート1の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、光学素子に使用する場合には、表面平均粗さRaが0.1μm以下であるような平坦面とすることができる。尚、表面平均粗さRaの測定は、AFM(原子間力顕微鏡)を使用して行うものとする。
PDMSシート1は、光学素子に使用する場合には、その光透過率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。ここで、光透過率は、大塚電子(株)製のスペクトル測定機MCPD2000により測定する。また、PDMSシート1の弾性率は、引張り強度において100kPa〜10MPaの範囲であることが好ましい。ここで、引張り強度は、万能試験機インストロン5565を用いてダンベル試験片の破断強度により測定した値とする。
【0025】
このような本発明のPDMSシート1は、被加工面3Aである高含有率PDMS層3が金属に対する優れた密着性を有するので、金属薄膜や金属パターン等の加工性に優れ、光学素子、フレキシブル画像表示装置、フレキシブル照明等への利用が可能である。また、ベース面4Aである低含有率PDMS層4がガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低く、これらの基板上にベース面を当接させてPDMSシート1を載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
[ポリジメチルシロキサンシートの製造方法]
図2は、本発明のポリジメチルシロキサン(PDMS)シートの製造方法の一実施形態を示す工程図であり、図1に示されるPDMSシート1を例としたものである。
図2において、まず、低含有率PDMS層4を形成するための原料を支持基板11上に塗布して、低含有率PDMS層用の塗布膜14を形成する(図2(A))。使用する原料は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲にあるPDMSである。支持基板11は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、塗布膜14を形成する面は、塗布膜14の厚みの均一性、後工程における構造体2との離型を考慮して、例えば、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。また、支持基板11上への塗布膜14の形成は、例えば、スピン塗布方法、刷毛による塗布方法等により行うことができ、塗布膜14の厚みは、後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層4の厚みが0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲となるように適宜設定することができる。後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層4の厚みが0.005mm未満となるような塗布膜14の厚みであると、形成される低含有率PDMS層4の一部に欠陥が生じ、後工程における構造体2と支持基板11との離型が困難になったり、構造体2の破断等が生じるおそれがある。一方、低含有率PDMS層4の厚みが5mmを超えるような塗布膜14の厚みであると、低含有率PDMS層4により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、PDMSシート1の製造コストが増大するので好ましくない。
【0027】
次に、低含有率PDMS層用の塗布膜14上に、高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給し(図2(B))、この原料13′に成型基板12を押し付けることにより、成型基板12と低含有率PDMS層用の塗布膜14との間に高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成し(図2(C))、その後、塗布膜13と成型基板12とを離型する(図2(D))。ここで使用する原料13′は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲にあるPDMSである。この原料13′の低含有率PDMS層用の塗布膜14上への供給は、例えば、ディスペンサを使用して液滴として供給することができるが、これに限定されるものではない。塗布膜13の厚みは、後工程で形成されるPDMSシート1(構造体2)の厚みが0.01〜10mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲となるように適宜設定することができる。構造体2の厚みが0.1mm未満となるような塗布膜13の厚みであると、原料13′の粘度が高いので、構造体2の厚みが不均一となったり、支持基板11からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、構造体2の厚みが10mmを超えるような塗布膜13の厚みであると、例えば、光学素子への使用を想定した場合の後工程が困難となり好ましくない。
【0028】
成型基板12は、原料13′を塗布膜13とするとともに、後工程で形成される高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)の形状を決定するものである。このような成型基板12としては、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、原料13′(塗布膜13)に押し付けられる面の形状は、目的とする高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)の形状に応じて適宜設定することができ、例えば、PDMSシート1が光学素子への使用を想定している場合には、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。
次いで、高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14を硬化させて、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4との構造体2とし(図2(E))、その後、構造体2と支持基板11とを離型する(図2(F))。これにより、本発明のPDMSシート1が得られる。
【0029】
上述のPDMSシートの製造方法の実施形態における高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14の形成方法としては、さらに次のような方法を用いてもよい。第1の方法は、低含有率PDMS層用の塗布膜14を形成した後、この塗布膜14上に高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給し、この原料13′に成型基板12を押し当て、高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成し、その状態で高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14を半硬化させる。そして、高含有率PDMS層用の塗布膜13と成型基板12を離型した後、高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14を完全に硬化させる。第2の方法は、低含有率PDMS層用の塗布膜14を形成し、この塗布膜14を半硬化させる。半硬化した低含有率PDMS層用の塗布膜14上に高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給し、この原料13′に成型基板12を押し当て、高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成し、その状態で塗布膜13を半硬化させる(低含有率PDMS層用の塗布膜14は完全に硬化した状態であってもよいし、半硬化状態であってもよい)。そして、高含有率PDMS層用の塗布膜13と成型基板12を離型した後、高含有率PDMS層用の塗布膜13を完全に硬化させる。この第1の方法、第2の方法によれば、高含有率PDMS層用の塗布膜13が半硬化の状態で成型基板12の剥離を行うので、高含有率PDMS層用の塗布膜13と成型基板12が強く固着される虞を排除することができる。また、低含有率PDMS層用の塗布膜14がほとんど硬化していないか、あるいは半硬化している状態で高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成することにより、両者の境界部分が混じり合い、構造体としての強度を高めることができる。なお、半硬化させるには、常温での放置としてもよいし、適度に加熱してもよい。
【0030】
このような本発明のPDMSシートの製造方法では、PDMSシート1である構造体2が、金属に対する優れた密着性を有する高含有率PDMS層3を備えているにもかかわらず、低含有率PDMS層4が支持基板11側に位置するので、構造体2と支持基板11との離型が容易である。従来のPDMSシートの製造では、支持基板との離型を考慮して、PDMSの加熱硬化前に支持基板から剥離し、その後、硬化処理を施していたので、製造工程での取扱い性が悪いものであったが、本発明では、このような問題が解消されている。
また、本発明では、成型基板12の形状を適宜設定することにより、高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)に所望の形状を付与することができ、用途に応じたPDMSシートの製造が可能である。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、PDMSシート1が、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4との間に、高含有率PDMS層3や低含有率PDMS層4とは異なる樹脂材料を有する構造体からなる場合、低含有率PDMS層用の塗布膜14上に、所望の他の樹脂材料を供給して塗布膜を形成し、この塗布膜上に高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給してもよい。
【0031】
[光学素子]
図3は、本発明の光学素子の一実施形態を示す部分平面図であり、図4は、図3に示される光学素子のI−I線における縦断面図である。図3および図4において、本発明の光学素子21は、一方の面がパターン形成面33Aであり、他方の面がベース面34Aであるポリジメチルシロキサン(PDMS)シート31と、パターン形成面33A上に位置する複数の金属パターン22と、を備えている。
PDMSシート31は、光透過性と柔軟性を有しており、光透過率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、弾性率は、引張り強度において100kPa〜10MPaの範囲である。このようなPDMSシート31は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲である高含有率PDMS33層と、低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲である低含有率PDMS層34との構造体32であり、高含有率PDMS層33側がパターン形成面33Aであり、低含有率PDMS層34側がベース面34Aである。このPDMSシート31は、上述の本発明のPDMSシート1と同様であり、パターン形成面33AはPDMSシート1の被加工面3Aに相当するものであり、ここでの説明は省略する。また、上記の構造体32からなるPDMSシート31は例示であり、本発明では、パターン形成面33Aに高含有率PDMS層33が存在し、ベース面34Aに低含有率PDMS層34が存在すればよく、したがって、高含有率PDMS層33と低含有率PDMS層34との間には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、高含有率PDMS層33や低含有率PDMS層34とは異なる樹脂材料が存在するものであってもよい。
【0032】
PDMSシート31のパターン形成面33A上に位置する複数の金属パターン22は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、長方形の左右両端に矩形の凸部を有する形状である。このような金属パターン22の最も近接した金属パターン間の間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。また、個々の金属パターン22の寸法は適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。このような金属パターン22は、例えば、Au、Ag、Al等のいずれかを主成分とするものであってよく、厚みを50〜1000nmの範囲とすることができる。尚、本発明において主成分とは、構成成分の50重量%を超えるものを意味する。
【0033】
本発明の光学素子は、図5に示されるように、PDMSシート31のパターン形成面33Aの全面に下地金属層23を備え、この下地金属層23上に金属パターン22を備える光学素子21′であってもよい。また、本発明の光学素子は、図6に示されるように、金属パターン22と同じパターン形状の下地金属層23を介して、パターン形成面33A上に金属パターン22を備える光学素子21″であってもよい。このような下地金属層23は、PDMSシート31と金属パターン22との密着性を更に向上させることを目的としたものである。下地金属層23の材質は、光学素子の動作、機能に支障を来さないように適宜選定することができ、例えば、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分として含有するものであってよく、下地金属層23の厚みは、例えば、1〜5nmの範囲とすることができる。
【0034】
次に、図3および図4に示される光学素子21を例として、本発明の光学素子の動作を図7を参照しながら説明する。
光学素子21は、例えば、金属パターン22側(パターン形成面33A側)が凸となるような曲げによる外力が加えられ、図3および図7に矢印aで示す方向の伸長力が作用することにより、隣接する金属パターン22の間隔がDからD′に広がる。このような隣接する金属パターン22の間隔の変化は、隣接する金属パターン22間に発生する近接場光相互作用を変化させることになる。これにより、光学素子21に垂直(図4に矢印bで示される方向)に入射する光は、その偏光状態が変化する。このような光学素子21の機能と偏光フィルタを利用することにより、例えば、入射光の透過と遮断を行う光スイッチ等として使用することが可能となる、また、隣接する金属パターン22の間隔Dを可視光領域(400〜700nm)となるように設計すれば、所定の外力を加えて間隔Dを変化させることにより、可視光領域の入射光の偏光を変化させることが可能となる。したがって、本発明の光学素子は、従来のガラスや石英等の基板を用いる光学素子に比べて利用範囲を拡大できる。
尚、隣接する金属パターン22の間隔を変化させるために光学素子21に加えられる外力は、曲げに限定されるものではなく、PDMSシート31を引っ張って矢印a方向に伸長させてもよい。
【0035】
図8は、本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。図8において、本発明の光学素子41は、一方の面がパターン形成面53Aであり、他方の面がベース面であるPDMSシート51と、このPDMSシート51の高含有率PDMS層53(パターン形成面53A)上に位置する複数の金属パターン42と、を備えている。
光学素子41を構成するPDMSシート51は、上述の光学素子21を構成するPDMSシート31と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0036】
PDMSシート51のパターン形成面53A上に位置する複数の金属パターン42は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、長方形状のパターンが長辺側を近接させて配列されたものである。このような金属パターン42の最も近接した金属パターン間の間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。また、個々の金属パターン42の寸法は適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。このような金属パターン42の材質は、上述の金属パターン22と同様とすることができる。
この光学素子41も、上述の光学素子21′、光学素子22″のように、PDMSシート51のパターン形成面53Aと金属パターン42との間に下地金属層を備えるものであってよい。
このような光学素子41は、上述の光学素子21と同様に、外力が加えられて隣接する金属パターン42の間隔Dが変化することにより、隣接する金属パターン42間に発生する近接場光相互作用を変化させることができる。
【0037】
さらに、本発明の光学素子の他の実施形態として、メタマテリアルとして機能する光学素子を図9〜図12に示して説明する。
図9は、メタマテリアルとして機能する本発明の光学素子の実施形態を示す部分平面図である。図9において、本発明の光学素子61は、一方の面がパターン形成面73Aであり、他方の面がベース面であるPDMSシート71と、このPDMSシート71の高含有率PDMS層73(パターン形成面73A)上に位置する複数の金属パターン62と、を備えている。
光学素子61を構成するPDMSシート71は、上述の光学素子21を構成するPDMSシート31と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0038】
PDMSシート71のパターン形成面73A上に位置する複数の金属パターン62は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、1つの切欠き部62aを有する略リング形状のパターンが配列されたものである。そして、個々の金属パターン62の切欠き部62aの間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。また、個々の金属パターン62の寸法L、および、金属パターン62の配列ピッチPは適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。ここで、本発明において略リング形状とは、少なくとも1つの切欠き部を有しながら、全体として環状である形状であり、環状とは、円環状、方環状、多角形の環状等の種々の形態であり、したがって、例えば、図10に示すような、1つの切欠き部62aを有する方環状のパターンであってもよい。このような金属パターン62の材質は、上述の金属パターン22と同様とすることができる。
【0039】
この光学素子61も、上述の光学素子21′、光学素子22″のように、PDMSシート71のパターン形成面73Aと金属パターン62との間に下地金属層を備えるものであってよい。
このような光学素子61は、上述の光学素子21と同様に、外力が加えられて、略リング形状の金属パターン62の切欠き部62aの間隔Dが変化することにより、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用を変化させることができる。
【0040】
図11は、メタマテリアルとして機能する本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。図11において、本発明の光学素子81は、一方の面がパターン形成面93Aであり、他方の面がベース面であるPDMSシート91と、このPDMSシート91の高含有率PDMS層93(パターン形成面93A)上に位置する複数の金属パターン82と、を備えている。
光学素子81を構成するPDMSシート91は、上述の光学素子21を構成するPDMSシート31と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0041】
PDMSシート91のパターン形成面93A上に位置する複数の金属パターン82は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、2つの切欠き部82a、82aを有する略リング形状のパターンが配列されたものである。そして、個々の金属パターン82の切欠き部82a、82aの間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。個々の金属パターン82の寸法L、および、金属パターン82の配列ピッチPは適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。また、金属パターン82は、例えば、図12に示すような、2つの切欠き部82a、82aを有する方環状のパターンであってもよい。このような金属パターン82の材質は、上述の金属パターン22と同様とすることができる。
【0042】
この光学素子81も、上述の光学素子21′、光学素子22″のように、PDMSシート91のパターン形成面93Aと金属パターン82との間に下地金属層を備えるものであってよい。
このような光学素子81は、上述の光学素子21と同様に、外力が加えられて、略リング形状の金属パターン82の切欠き部82a、82aの間隔Dが変化することにより、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用を変化させることができる。
【0043】
このような本発明の光学素子は、PDMSシート31,51,71,91の高含有率PDMS層33,53,73,93(パターン形成面)に金属パターン22,42,62,82が位置しているので、金属パターンとPDMSシートとの密着性が優れ、信頼性の高いものである。また、PDMSシートの低含有率PDMS層34(ベース面34A)は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低いので、これらの基板上にベース面を当接させて載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
【0044】
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、本発明の光学素子として、上述の光学素子61を積層した構造であってもよい。この場合、各層をなす光学素子61の略略リング形状の金属パターン62の切欠き部62aの位置は、積層方向で一致させてもよく、1層毎あるいは複数層毎に切欠き部62aの位置を交互にずらして配置してもよく、さらに、各層毎に切欠き部62aの位置をランダムに配置してもよい。このような構造の光学素子の積層数は、要求される光学特性、用途等に応じて適宜設定することができる。また、このような積層構造の光学素子は、上述の光学素子81を使用して構成することができる。
【0045】
[光学素子の製造方法]
図13および図14は、本発明の光学素子の製造方法の一実施形態を示す工程図であり、図3および図4に示される光学素子21を例としたものである。
本発明の光学素子の製造方法では、まず、低含有率PDMS層34を形成するための原料を支持基板37上に塗布して、低含有率PDMS層用の塗布膜34′を形成する(図13(A))。使用する原料は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲にあるPDMSである。支持基板37は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、塗布膜34′を形成する面は、塗布膜34′の厚みの均一性、後工程における構造体32との離型を考慮して、例えば、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。
【0046】
また、支持基板37上への塗布膜34′の形成は、例えば、スピン塗布方法、刷毛による塗布方法等により行うことができ、塗布膜34′の厚みは、後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層34の厚みが0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲となるように、適宜設定することができる。後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層34の厚みが0.005mm未満となるような塗布膜34′の厚みであると、形成される低含有率PDMS層34の一部に欠陥が生じ、後工程における構造体32と支持基板37との離型が困難になったり、構造体32の破断等が生じるおそれがある。一方、低含有率PDMS層34の厚みが5mmを超えるような塗布膜34′の厚みであると、低含有率PDMS層34により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、光学素子21の製造コストが増大するので好ましくない。
【0047】
次に、低含有率PDMS層用の塗布膜34′上に、高含有率PDMS層33を形成するための原料33″を供給し(図13(B))、この原料33″に成型基板38を押し付けることにより、成型基板38と低含有率PDMS層用の塗布膜34′との間に高含有率PDMS層用の塗布膜33′を形成し(図13(C))、その後、塗布膜33′と成型基板38とを離型する(図13(D))。ここで使用する原料33″は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲にあるPDMSである。この原料33″の低含有率PDMS層用の塗布膜14上への供給は、ディスペンサを使用して液滴として供給することができるが、これに限定されるものではない。塗布膜33′の厚みは、後工程で形成されるPDMSシート31(構造体32)の厚みが0.01〜10mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲となるように適宜設定することができる。構造体32の厚みが0.1mm未満となるような塗布膜33′の厚みであると、原料33″の粘度が高いので、構造体32の厚みが不均一となったり、支持基板37からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、構造体32の厚みが10mmを超えるような塗布膜33′の厚みであると、後工程の金属パターン22の形成が困難となり好ましくない。
【0048】
また、成型基板38は、原料33″を塗布膜33′とするとともに、後工程で形成される高含有率PDMS層33の表面(パターン形成面33A)の形状を決定するものである。このような成型基板38としては、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、原料33″(塗布膜33′)に押し付けられる面の形状は、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。
次いで、高含有率PDMS層用の塗布膜33′および低含有率PDMS層用の塗布膜34′を硬化させて、高含有率PDMS層33と低含有率PDMS層34との構造体32を支持基板37上に形成する(図13(E))。
上記の製造方法の実施形態における高含有率PDMS層用の塗布膜33′と成型基板38との離型時(図13(D))の塗布膜33′は、ほとんど硬化していない状態であってもよく、半硬化状態であってもよい。また、このときの低含有率PDMS層用の塗布膜34′は、完全に硬化した状態であってもよく、半硬化状態であってもよい。例えば、低含有率PDMS層用の塗布膜34′を半硬化させておいて高含有率PDMS層用の塗布膜33′を形成してもよく、この場合、低含有率PDMS層用の塗布膜34′と高含有率PDMS層用の塗布膜33′の境界部分が混じり合うことにより、構造体32としての強度を高めることができる。
【0049】
次に、構造体32の高含有率PDMS層33の表面(パターン形成面33A)にレジストパターン39を形成し(図14(A))、このレジストパターン39を被覆するように金属層22′を形成する(図14(B))。レジストパターン39は、例えば、感光性レジストを使用してフォトリソグラフィーにより形成することができる。また、金属層22′は、Au、Ag、Al等を主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法により形成することができ、厚みは50〜1000nmの範囲とすることができる。
次いで、レジストパターン39を除去するとともに、レジストパターン39上の金属層22′を除去(リフトオフ)し、金属パターン22を形成する(図14(C))。その後、構造体32と支持基板37とを離型する(図14(D))。これにより、本発明の光学素子21が得られる。
【0050】
上述の製造方法では、レジストパターン39の除去によるリフトオフ法で金属パターン22を形成しているが、これに限定されるものではない。例えば、構造体32の高含有率PDMS層33の表面(パターン形成面33A)にAu、Ag、Al等を主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法により金属層を形成し、その後、この金属層にパターンエッチングを施して金属パターン22を形成してもよい。
また、上述の光学素子21′のように、パターン形成面33Aの全面に下地金属層23を備え、この下地金属層23上に金属パターン22を備える光学素子を作製する場合には、構造体32を支持基板37上に形成(図13(E))した後、例えば、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法によりパターン形成面33Aの全面に下地金属層23を形成し、その後、上述のように金属パターン22を形成する。
【0051】
また、上述の光学素子21″のように、金属パターン22と同じパターンの下地金属層23を備える光学素子を作製する場合には、構造体32を支持基板37上に形成(図13(E))した後、例えば、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法によりパターン形成面33Aの全面に下地金属層23を形成する。その後、下地金属層23にAu、Ag、Al等を主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法により金属層を形成し、この金属層と下地金属層23とにパターンエッチングを施して金属パターン22(これと同一パターンの下地金属層23)を形成する。
【0052】
本発明の光学素子の製造方法では、PDMSシート31である構造体32を形成し、この構造体32を構成する高含有率PDMS層33(パターン形成面33A)に金属パターン22を形成するので、金属パターン22とPDMSシート31との密着性が高いものとなる。また、構造体32を構成する低含有率PDMS層34が支持基板37側に位置するので、支持基板37からの光学素子21の離型が容易である。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、PDMSシート31が、高含有率PDMS層33と低含有率PDMS層34との間に、高含有率PDMS層33や低含有率PDMS層34とは異なる樹脂材料を有する構造体からなる場合、低含有率PDMS層用の塗布膜34′上に、他の樹脂材料を供給して塗布膜を形成し、この塗布膜上に高含有率PDMS層33を形成するための原料33″を供給してもよい。
【実施例】
【0053】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
支持基板として、厚み0.625mm、直径150mmのシリコン基板を準備した。この支持基板の表面平均粗さRaは0.001μmであった。尚、表面平均粗さRaの測定は、AFM(セイコーインスツル(株)製 L-Trace II)を使用して行った。
低含有率PDMS層を形成するための原料Aに重合開始剤を混合した後、上記の支持基板上にスピンコート法で塗布して塗布膜Aを形成した。この原料Aは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときの低分子量シロキサンの含有量が1000ppmのPDMSであった。また、塗布膜Aの厚みは、硬化して形成される低含有率PDMS層の厚みが0.1mmとなるように設定した。
【0054】
次に、高含有率PDMS層を形成するための原料Bに重合開始剤を混合した後、低含有率PDMS層用の塗布膜A上にディスペンサを使用して滴下(20g)した。この原料Bは、低分子量シロキサンの含有量が2000ppmのPDMSであった。
次いで、供給した原料Bに、成型基板(成型面の表面平均粗さRaは0.001μm)を押し付けることにより、成型基板と低含有率PDMS層用の塗布膜Aとの間に高含有率PDMS層用の塗布膜Bを形成した。この状態で常温にて放置して塗布膜Bを半硬化させた後、塗布膜Bと成型基板とを離型した。次いで、半硬化状態にある塗布膜Aおよび塗布膜Bを加熱により完全に硬化させ、高含有率PDMS層と低含有率PDMS層との構造体(厚み1.2mm)とし、この構造体と支持基板とを離型して、PDMSシートを作製した。
【0055】
[実施例2]
高含有率PDMS層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が7000ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0056】
[実施例3]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が200ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0057】
[比較例1]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が200ppmのPDMSを使用し、高含有率PDMS層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が1000ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0058】
[比較例2]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が1500ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0059】
[比較例3]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が1300ppmのPDMSを使用し、高含有率PDMS層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が1700ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0060】
[評 価]
(離型性)
上述のPDMSシートの作製における支持基板からの構造体の離型を観察し、下記の基準で離型性を評価し、結果を下記の表1に示した。
(評価基準)
○ : 固着による支持基板への構造体の残りなし
× : 固着による支持基板への構造体の残りあり
【0061】
(金属密着性(対Cr))
上述のように作製したPDMSシートの高含有率PDMS層側(被加工面)に、スパッタリング法によりCr薄膜(厚み50nm)を形成し、このCr薄膜とPDMSシートとの密着力をクロスカット法により評価し、結果を下記の表1に示した。すなわち、1辺が1cmの正方形領域を100個形成するようにCr薄膜にカッターナイフで切り込みを入れ、100個の正方形領域全てについて、粘着テープ(ニチバン(株)製 セロテープ)を貼着後、直上に引き上げてCr薄膜の剥離の有無を観察し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
○ : Cr薄膜の正方形領域の剥離がなく、密着性が良好
× : Cr薄膜の正方形領域の剥離が発生し、密着性が不十分
【0062】
(金属密着性(対Au))
上述のように作成したPDMSシートの高含有率PDMS層側(被加工面)に、スパッタリング法によりAu薄膜(厚み50nm)を形成し、このAu薄膜とPDMSシートとの密着力を上記と同様に測定し、上記と同様の基準で密着性を評価し、結果を下記の表1に示した。
【0063】
(安定性)
上述のように作製したPDMSシートを、低含有率PDMS層側(ベース面)が当接するようにシリコン基板上に載置して120日間維持し、その後、シリコン基板に対するPDMSシートの固着発生の有無を観察し、結果を下記の表1に示した。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
ポリジメチルシロキサンシートを使用する種々の技術分野において有用であり、また、種々の光学素子の製造において有用である。
【符号の説明】
【0066】
1…ポリジメチルシロキサン(PDMS)シート
2…構造体
3…高含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
3A…被加工面
4…低含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
4A…ベース面
11…支持基板
12…成型基板
13,14…塗布膜
21,21′,21″,41,61,81…光学素子
22,42,62,82…金属パターン
23…下地金属層
31,51,71,91…ポリジメチルシロキサン(PDMS)シート
32…構造体
33,53,73,93…高含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
33A,53A,73A,93A…パターン形成面
34…低含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
34A…ベース面
33′,34′…塗布膜
37…支持基板
38…成型基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリジメチルシロキサンシート、特に金属薄膜や所望の形状の金属パターンを形成するためのポリジメチルシロキサンシートと、柔軟な樹脂基材上にナノオーダーの複数の金属パターンを配置した光学素子、および、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSとも記す)シートは、優れた耐熱性、耐寒性、耐候性や、安定した電気特性を有していることから、電子・電気機器等の種々の用途に活用されている。
また、従来から、ガラス基板等に回折格子を形成した光学素子が広く使用されているが、近年、柔軟な樹脂基材上に金属パターンを形成した光学素子が提案されている(非特許文献1)。この光学素子は、基材に外力を加えることにより金属パターン間のナノオーダーの配置が変化し、その結果、金属パターン間の近接場相互作用が変化し、光学応答が変化するものである。また、偏光方向に依存せずに物質界面での反射率をゼロとし、光を100%透過させることができるようにした光学素子が提案されている(特許文献1)。この光学素子は、メタマテリアルとして銀をC字形状に形成したナノ構造体である磁気共振器をガラス基板上に複数配置した構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−350232号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】王暁星ほか、第56回応用物理学会関係連合講演会(2009春、筑波大学)1p−H−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のPDMSシートは金属との密着性が悪いという問題があった。また、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板上にPDMSシートを載置して金属薄膜や所望の形状の金属パターンの形成加工を行う場合、あるいは、これらの基板上で長時間保管する場合、基板とPDMSシートとの固着を生じ、取扱い性、安定性に欠けるという問題もあった。
また、PDMSシートは柔軟で光透過性を有しているので、非特許文献1に記載されているような光学素子を構成する柔軟な樹脂基材として使用することができる。しかし、従来のPDMSシートに金属パターンを直接形成すると、PDMSシートに対する金属ナノ構造体の密着力が弱いため、PDMSシートに繰り返し外力が加えられることにより、金属パターンの剥がれ、脱落が生じるという問題があった。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、金属薄膜や所望の形状の金属パターンとの密着性が良好で、かつ、取扱い性、安定性に優れたPDMSシートと、金属パターンの剥離や脱落が防止され信頼性が高く、かつ、取扱い性に優れた光学素子と、これらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明の光学素子は、一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより隣接する前記金属パターンの間隔が変化可能であるような構成とした。
【0007】
また、本発明の光学素子は、一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、前記金属パターンは、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり、前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより前記切欠き部の間隔が変化可能であるような構成とした。
【0008】
本発明の他の態様として、前記金属パターンは、Au、Ag、Alのいずれかを主成分として含有するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記金属パターンと同一パターンであるような構成、あるいは、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記ポリジメチルシロキサンシートのパターン形成面の全域に存在するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記下地金属層は、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分として含有するような構成とした。
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面は、表面平均粗さRaが0.1μm以下であるような構成とした。
【0009】
本発明の光学素子の製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に複数の金属パターンを、隣接する該金属パターンの間隔が1000nm以下となるように形成する工程と、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【0010】
また、本発明の光学素子の製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり該切欠き部の間隔が1000nm以下である複数の金属パターンを形成する工程と、前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【0011】
本発明の他の態様として、前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記パターン形成面上に金属層を形成し、その後、前記レジストパターンを剥離することによりレジストパターン上に形成された金属層をリフトオフして形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上に金属層を形成し、該金属層上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記金属層をエッチングし、その後、前記レジストパターンを剥離して形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成するような構成、あるいは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成するとともに、前記金属パターンの非形成部位の前記下地金属層もエッチング除去するような構成とした。
【0012】
本発明のポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも一方の面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも他方の面に備えた構造体からなるシートであり、前記高含有率ポリジメチルシロキサン層が被加工面であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層がベース面であるような構成とした。
【0013】
本発明の他の態様として、前記構造体の厚みは0.01〜10mmの範囲であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層の厚みは0.005〜5mmの範囲であるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記被加工面の表面平均粗さRaは0.1μm以下であるような構成とした。
【0014】
本発明のポリジメチルシロキサンシートの製造方法は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体とし、その後、該構造体と前記支持基板とを離型する工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリジメチルシロキサンシートは、被加工面である高含有率ポリジメチルシロキサン層が金属に対する優れた密着性を有するので、金属薄膜や金属パターン等の加工性に優れ、光学素子、フレキシブル画像表示装置、フレキシブル照明等への利用が可能であり、また、ベース面である低含有率ポリジメチルシロキサン層は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低く、これらの基板上にベース面を当接させて載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
【0016】
本発明のポリジメチルシロキサンシートの製造方法では、ポリジメチルシロキサンシートである構造体が、金属に対する優れた密着性を有する高含有率ポリジメチルシロキサン層を備えているにもかかわらず、低含有率ポリジメチルシロキサン層が支持基板側に位置するので、構造体と支持基板との離型が容易であり、また、成型基板の形状を適宜設定することにより、高含有率ポリジメチルシロキサン層の表面(被加工面)に所望の形状を付与することができ、用途に応じたポリジメチルシロキサンシートの製造が可能である。
【0017】
本発明の光学素子は、ポリジメチルシロキサンシートの高含有率ポリジメチルシロキサン層(パターン形成面)に金属パターンが位置しているので、金属パターンとポリジメチルシロキサンシートとの密着性が優れ、信頼性の高いものであり、また、ポリジメチルシロキサンシートの低含有率ポリジメチルシロキサン層(ベース面)は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低いので、これらの基板上にベース面を当接させて載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
【0018】
本発明の光学素子の製造方法では、ポリジメチルシロキサンシートである構造体を形成し、この構造体を構成する高含有率ポリジメチルシロキサン層(パターン形成面)に金属パターンを形成するので、金属パターンとポリジメチルシロキサンシートとの密着性が高く、また、構造体を構成する低含有率ポリジメチルシロキサン層が支持基板側に位置するので、支持基板からの光学素子の離型が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のポリジメチルシロキサンシートの一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】本発明のポリジメチルシロキサンシートの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】本発明の光学素子の一実施形態を示す部分平面図である。
【図4】図3に示される光学素子のI−I線における縦断面図である。
【図5】本発明の光学素子の他の実施形態を示す図4相当の縦断面図である。
【図6】本発明の光学素子の他の実施形態を示す図4相当の縦断面図である。
【図7】図3に示される本発明の光学素子の動作を説明するための図である。
【図8】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図9】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図10】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図11】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図12】本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。
【図13】本発明の光学素子の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図14】本発明の光学素子の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[ポリジメチルシロキサンシート]
図1は、本発明のポリジメチルシロキサン(PDMS)シートの一実施形態を示す部分断面図である。図1において、本発明のPDMSシート1は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲である高含有率PDMS層3と、低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲である低含有率PDMS層4との構造体2からなる。そして、構造体2の高含有率PDMS層3側は、金属薄膜や所望の形状の金属パターンを形成するための被加工面3Aであり、低含有率PDMS層4側は、ベース面4Aである。
本発明では、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としている。そして、本発明は、このような低分子量のシロキサンが、高分子量のシロキサンよりも、ケイ素含有基材に対する反応性が大きいこと、および、低分子量のシロキサンの含有量によって、金属に対する密着性と、ケイ素含有基材に対する反応性を制御可能なことに着目したものである。尚、本発明における低分子量シロキサンの含有量は、アセトンで抽出した後、ガスクロマトグラフィーを用いて検出する方法により測定する。低分子量シロキサン、および、この低分子量シロキサンの含有量については、以下の本発明の説明においても同様である。
【0021】
PDMSシート1を構成する高含有率PDMS層3の低分子量シロキサンの含有量が2000ppm未満であると、金属に対する密着性が不十分となり、高含有率PDMS層3(被加工面3A)に形成された金属薄膜や所望の形状の金属パターンに剥離や脱落が生じるおそれがあり好ましくない。一方、低含有率PDMS層4の低分子量シロキサンの含有量が1000ppmを超えると、PDMSシート1の製造工程、あるいは、PDMSシート1の加工工程、保管状態において、低含有率PDMS層4(ベース面4A)が、当接する基板、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素を含有する基板との固着を生じるおそれがあり好ましくない。
本発明のPDMSシート1(構造体2)の厚みは、0.01〜10mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲である。PDMSシート1の厚みが0.1mm未満であると、原料のPDMSの粘度が高いので、製造工程で厚みが不均一となったり、製造のための支持基板からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、PDMSシート1の厚みが10mmを超えると、例えば、光学素子への使用を想定した場合の後工程が困難となり好ましくない。
【0022】
また、PDMSシート1を構成する低含有率PDMS層4の厚みは0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲とすることができる。低含有率PDMS層4の厚みが0.005mm未満であると、低含有率PDMS層4の一部に欠陥が生じ、PDMSシート1のベース面4Aの全面を低含有率PDMS層4で被覆できないおそれがある。一方、低含有率PDMS層4の厚みが5mmを超えると、低含有率PDMS層4により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、PDMSシート1の製造コストが増大するので好ましくない。
【0023】
PDMSシート1を構成する高含有率PDMS層3の厚みは、PDMSシート1の厚み、低含有率PDMS層4の厚みを上記の範囲で設定することにより決まるものであり、特に制限はない。また、上記の構造体2からなるPDMSシート1は例示であり、本発明では、被加工面3Aに高含有率PDMS層3が存在し、ベース面4Aに低含有率PDMS層4が存在すればよく、したがって、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4との間には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、高含有率PDMS層3や低含有率PDMS層4とは異なる材料が存在するものであってもよい。尚、本明細書では説明の便宜上、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4とをそれぞれ「層」と区別しているが、本発明は図示の態様に限定して解釈されるものではない。したがって、本発明の一実施形態に係るポリジメチルシロキサンシートは高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4の境界が曖昧である構造体も包含する。すなわち、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4をそれぞれ「層」と認識することが困難であるが、被加工面3Aにおける低分子シロキサン含有量が2000ppm以上であり、ベース面4Aにおける低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である構造体も包含する。
【0024】
PDMSシート1の高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)の形状は、PDMSシート1の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、光学素子に使用する場合には、表面平均粗さRaが0.1μm以下であるような平坦面とすることができる。尚、表面平均粗さRaの測定は、AFM(原子間力顕微鏡)を使用して行うものとする。
PDMSシート1は、光学素子に使用する場合には、その光透過率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。ここで、光透過率は、大塚電子(株)製のスペクトル測定機MCPD2000により測定する。また、PDMSシート1の弾性率は、引張り強度において100kPa〜10MPaの範囲であることが好ましい。ここで、引張り強度は、万能試験機インストロン5565を用いてダンベル試験片の破断強度により測定した値とする。
【0025】
このような本発明のPDMSシート1は、被加工面3Aである高含有率PDMS層3が金属に対する優れた密着性を有するので、金属薄膜や金属パターン等の加工性に優れ、光学素子、フレキシブル画像表示装置、フレキシブル照明等への利用が可能である。また、ベース面4Aである低含有率PDMS層4がガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低く、これらの基板上にベース面を当接させてPDMSシート1を載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
[ポリジメチルシロキサンシートの製造方法]
図2は、本発明のポリジメチルシロキサン(PDMS)シートの製造方法の一実施形態を示す工程図であり、図1に示されるPDMSシート1を例としたものである。
図2において、まず、低含有率PDMS層4を形成するための原料を支持基板11上に塗布して、低含有率PDMS層用の塗布膜14を形成する(図2(A))。使用する原料は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲にあるPDMSである。支持基板11は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、塗布膜14を形成する面は、塗布膜14の厚みの均一性、後工程における構造体2との離型を考慮して、例えば、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。また、支持基板11上への塗布膜14の形成は、例えば、スピン塗布方法、刷毛による塗布方法等により行うことができ、塗布膜14の厚みは、後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層4の厚みが0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲となるように適宜設定することができる。後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層4の厚みが0.005mm未満となるような塗布膜14の厚みであると、形成される低含有率PDMS層4の一部に欠陥が生じ、後工程における構造体2と支持基板11との離型が困難になったり、構造体2の破断等が生じるおそれがある。一方、低含有率PDMS層4の厚みが5mmを超えるような塗布膜14の厚みであると、低含有率PDMS層4により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、PDMSシート1の製造コストが増大するので好ましくない。
【0027】
次に、低含有率PDMS層用の塗布膜14上に、高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給し(図2(B))、この原料13′に成型基板12を押し付けることにより、成型基板12と低含有率PDMS層用の塗布膜14との間に高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成し(図2(C))、その後、塗布膜13と成型基板12とを離型する(図2(D))。ここで使用する原料13′は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲にあるPDMSである。この原料13′の低含有率PDMS層用の塗布膜14上への供給は、例えば、ディスペンサを使用して液滴として供給することができるが、これに限定されるものではない。塗布膜13の厚みは、後工程で形成されるPDMSシート1(構造体2)の厚みが0.01〜10mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲となるように適宜設定することができる。構造体2の厚みが0.1mm未満となるような塗布膜13の厚みであると、原料13′の粘度が高いので、構造体2の厚みが不均一となったり、支持基板11からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、構造体2の厚みが10mmを超えるような塗布膜13の厚みであると、例えば、光学素子への使用を想定した場合の後工程が困難となり好ましくない。
【0028】
成型基板12は、原料13′を塗布膜13とするとともに、後工程で形成される高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)の形状を決定するものである。このような成型基板12としては、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、原料13′(塗布膜13)に押し付けられる面の形状は、目的とする高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)の形状に応じて適宜設定することができ、例えば、PDMSシート1が光学素子への使用を想定している場合には、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。
次いで、高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14を硬化させて、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4との構造体2とし(図2(E))、その後、構造体2と支持基板11とを離型する(図2(F))。これにより、本発明のPDMSシート1が得られる。
【0029】
上述のPDMSシートの製造方法の実施形態における高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14の形成方法としては、さらに次のような方法を用いてもよい。第1の方法は、低含有率PDMS層用の塗布膜14を形成した後、この塗布膜14上に高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給し、この原料13′に成型基板12を押し当て、高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成し、その状態で高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14を半硬化させる。そして、高含有率PDMS層用の塗布膜13と成型基板12を離型した後、高含有率PDMS層用の塗布膜13および低含有率PDMS層用の塗布膜14を完全に硬化させる。第2の方法は、低含有率PDMS層用の塗布膜14を形成し、この塗布膜14を半硬化させる。半硬化した低含有率PDMS層用の塗布膜14上に高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給し、この原料13′に成型基板12を押し当て、高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成し、その状態で塗布膜13を半硬化させる(低含有率PDMS層用の塗布膜14は完全に硬化した状態であってもよいし、半硬化状態であってもよい)。そして、高含有率PDMS層用の塗布膜13と成型基板12を離型した後、高含有率PDMS層用の塗布膜13を完全に硬化させる。この第1の方法、第2の方法によれば、高含有率PDMS層用の塗布膜13が半硬化の状態で成型基板12の剥離を行うので、高含有率PDMS層用の塗布膜13と成型基板12が強く固着される虞を排除することができる。また、低含有率PDMS層用の塗布膜14がほとんど硬化していないか、あるいは半硬化している状態で高含有率PDMS層用の塗布膜13を形成することにより、両者の境界部分が混じり合い、構造体としての強度を高めることができる。なお、半硬化させるには、常温での放置としてもよいし、適度に加熱してもよい。
【0030】
このような本発明のPDMSシートの製造方法では、PDMSシート1である構造体2が、金属に対する優れた密着性を有する高含有率PDMS層3を備えているにもかかわらず、低含有率PDMS層4が支持基板11側に位置するので、構造体2と支持基板11との離型が容易である。従来のPDMSシートの製造では、支持基板との離型を考慮して、PDMSの加熱硬化前に支持基板から剥離し、その後、硬化処理を施していたので、製造工程での取扱い性が悪いものであったが、本発明では、このような問題が解消されている。
また、本発明では、成型基板12の形状を適宜設定することにより、高含有率PDMS層3の表面(被加工面3A)に所望の形状を付与することができ、用途に応じたPDMSシートの製造が可能である。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、PDMSシート1が、高含有率PDMS層3と低含有率PDMS層4との間に、高含有率PDMS層3や低含有率PDMS層4とは異なる樹脂材料を有する構造体からなる場合、低含有率PDMS層用の塗布膜14上に、所望の他の樹脂材料を供給して塗布膜を形成し、この塗布膜上に高含有率PDMS層3を形成するための原料13′を供給してもよい。
【0031】
[光学素子]
図3は、本発明の光学素子の一実施形態を示す部分平面図であり、図4は、図3に示される光学素子のI−I線における縦断面図である。図3および図4において、本発明の光学素子21は、一方の面がパターン形成面33Aであり、他方の面がベース面34Aであるポリジメチルシロキサン(PDMS)シート31と、パターン形成面33A上に位置する複数の金属パターン22と、を備えている。
PDMSシート31は、光透過性と柔軟性を有しており、光透過率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、弾性率は、引張り強度において100kPa〜10MPaの範囲である。このようなPDMSシート31は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲である高含有率PDMS33層と、低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲である低含有率PDMS層34との構造体32であり、高含有率PDMS層33側がパターン形成面33Aであり、低含有率PDMS層34側がベース面34Aである。このPDMSシート31は、上述の本発明のPDMSシート1と同様であり、パターン形成面33AはPDMSシート1の被加工面3Aに相当するものであり、ここでの説明は省略する。また、上記の構造体32からなるPDMSシート31は例示であり、本発明では、パターン形成面33Aに高含有率PDMS層33が存在し、ベース面34Aに低含有率PDMS層34が存在すればよく、したがって、高含有率PDMS層33と低含有率PDMS層34との間には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、高含有率PDMS層33や低含有率PDMS層34とは異なる樹脂材料が存在するものであってもよい。
【0032】
PDMSシート31のパターン形成面33A上に位置する複数の金属パターン22は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、長方形の左右両端に矩形の凸部を有する形状である。このような金属パターン22の最も近接した金属パターン間の間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。また、個々の金属パターン22の寸法は適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。このような金属パターン22は、例えば、Au、Ag、Al等のいずれかを主成分とするものであってよく、厚みを50〜1000nmの範囲とすることができる。尚、本発明において主成分とは、構成成分の50重量%を超えるものを意味する。
【0033】
本発明の光学素子は、図5に示されるように、PDMSシート31のパターン形成面33Aの全面に下地金属層23を備え、この下地金属層23上に金属パターン22を備える光学素子21′であってもよい。また、本発明の光学素子は、図6に示されるように、金属パターン22と同じパターン形状の下地金属層23を介して、パターン形成面33A上に金属パターン22を備える光学素子21″であってもよい。このような下地金属層23は、PDMSシート31と金属パターン22との密着性を更に向上させることを目的としたものである。下地金属層23の材質は、光学素子の動作、機能に支障を来さないように適宜選定することができ、例えば、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分として含有するものであってよく、下地金属層23の厚みは、例えば、1〜5nmの範囲とすることができる。
【0034】
次に、図3および図4に示される光学素子21を例として、本発明の光学素子の動作を図7を参照しながら説明する。
光学素子21は、例えば、金属パターン22側(パターン形成面33A側)が凸となるような曲げによる外力が加えられ、図3および図7に矢印aで示す方向の伸長力が作用することにより、隣接する金属パターン22の間隔がDからD′に広がる。このような隣接する金属パターン22の間隔の変化は、隣接する金属パターン22間に発生する近接場光相互作用を変化させることになる。これにより、光学素子21に垂直(図4に矢印bで示される方向)に入射する光は、その偏光状態が変化する。このような光学素子21の機能と偏光フィルタを利用することにより、例えば、入射光の透過と遮断を行う光スイッチ等として使用することが可能となる、また、隣接する金属パターン22の間隔Dを可視光領域(400〜700nm)となるように設計すれば、所定の外力を加えて間隔Dを変化させることにより、可視光領域の入射光の偏光を変化させることが可能となる。したがって、本発明の光学素子は、従来のガラスや石英等の基板を用いる光学素子に比べて利用範囲を拡大できる。
尚、隣接する金属パターン22の間隔を変化させるために光学素子21に加えられる外力は、曲げに限定されるものではなく、PDMSシート31を引っ張って矢印a方向に伸長させてもよい。
【0035】
図8は、本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。図8において、本発明の光学素子41は、一方の面がパターン形成面53Aであり、他方の面がベース面であるPDMSシート51と、このPDMSシート51の高含有率PDMS層53(パターン形成面53A)上に位置する複数の金属パターン42と、を備えている。
光学素子41を構成するPDMSシート51は、上述の光学素子21を構成するPDMSシート31と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0036】
PDMSシート51のパターン形成面53A上に位置する複数の金属パターン42は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、長方形状のパターンが長辺側を近接させて配列されたものである。このような金属パターン42の最も近接した金属パターン間の間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。また、個々の金属パターン42の寸法は適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。このような金属パターン42の材質は、上述の金属パターン22と同様とすることができる。
この光学素子41も、上述の光学素子21′、光学素子22″のように、PDMSシート51のパターン形成面53Aと金属パターン42との間に下地金属層を備えるものであってよい。
このような光学素子41は、上述の光学素子21と同様に、外力が加えられて隣接する金属パターン42の間隔Dが変化することにより、隣接する金属パターン42間に発生する近接場光相互作用を変化させることができる。
【0037】
さらに、本発明の光学素子の他の実施形態として、メタマテリアルとして機能する光学素子を図9〜図12に示して説明する。
図9は、メタマテリアルとして機能する本発明の光学素子の実施形態を示す部分平面図である。図9において、本発明の光学素子61は、一方の面がパターン形成面73Aであり、他方の面がベース面であるPDMSシート71と、このPDMSシート71の高含有率PDMS層73(パターン形成面73A)上に位置する複数の金属パターン62と、を備えている。
光学素子61を構成するPDMSシート71は、上述の光学素子21を構成するPDMSシート31と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0038】
PDMSシート71のパターン形成面73A上に位置する複数の金属パターン62は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、1つの切欠き部62aを有する略リング形状のパターンが配列されたものである。そして、個々の金属パターン62の切欠き部62aの間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。また、個々の金属パターン62の寸法L、および、金属パターン62の配列ピッチPは適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。ここで、本発明において略リング形状とは、少なくとも1つの切欠き部を有しながら、全体として環状である形状であり、環状とは、円環状、方環状、多角形の環状等の種々の形態であり、したがって、例えば、図10に示すような、1つの切欠き部62aを有する方環状のパターンであってもよい。このような金属パターン62の材質は、上述の金属パターン22と同様とすることができる。
【0039】
この光学素子61も、上述の光学素子21′、光学素子22″のように、PDMSシート71のパターン形成面73Aと金属パターン62との間に下地金属層を備えるものであってよい。
このような光学素子61は、上述の光学素子21と同様に、外力が加えられて、略リング形状の金属パターン62の切欠き部62aの間隔Dが変化することにより、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用を変化させることができる。
【0040】
図11は、メタマテリアルとして機能する本発明の光学素子の他の実施形態を示す部分平面図である。図11において、本発明の光学素子81は、一方の面がパターン形成面93Aであり、他方の面がベース面であるPDMSシート91と、このPDMSシート91の高含有率PDMS層93(パターン形成面93A)上に位置する複数の金属パターン82と、を備えている。
光学素子81を構成するPDMSシート91は、上述の光学素子21を構成するPDMSシート31と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0041】
PDMSシート91のパターン形成面93A上に位置する複数の金属パターン82は金属ナノ構造体を構成するものであり、図示例では、2つの切欠き部82a、82aを有する略リング形状のパターンが配列されたものである。そして、個々の金属パターン82の切欠き部82a、82aの間隔Dによって、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用の程度が変化する。このような間隔Dは、光学素子の適用光の波長に応じて適宜設定することができ、通常、1000nm以下であり、可視光に対して近接場光相互作用を発現させるためには、好ましくは200〜500nmの範囲とすることができる。個々の金属パターン82の寸法L、および、金属パターン82の配列ピッチPは適宜設定することができるが、1000nm以下であることが好ましい。また、金属パターン82は、例えば、図12に示すような、2つの切欠き部82a、82aを有する方環状のパターンであってもよい。このような金属パターン82の材質は、上述の金属パターン22と同様とすることができる。
【0042】
この光学素子81も、上述の光学素子21′、光学素子22″のように、PDMSシート91のパターン形成面93Aと金属パターン82との間に下地金属層を備えるものであってよい。
このような光学素子81は、上述の光学素子21と同様に、外力が加えられて、略リング形状の金属パターン82の切欠き部82a、82aの間隔Dが変化することにより、金属ナノ構造体間に発生する近接場光相互作用を変化させることができる。
【0043】
このような本発明の光学素子は、PDMSシート31,51,71,91の高含有率PDMS層33,53,73,93(パターン形成面)に金属パターン22,42,62,82が位置しているので、金属パターンとPDMSシートとの密着性が優れ、信頼性の高いものである。また、PDMSシートの低含有率PDMS層34(ベース面34A)は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板等のケイ素含有基板に対する反応性が低いので、これらの基板上にベース面を当接させて載置、保管しても固着発生が防止され、取扱い性、安定性に優れている。
【0044】
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、本発明の光学素子として、上述の光学素子61を積層した構造であってもよい。この場合、各層をなす光学素子61の略略リング形状の金属パターン62の切欠き部62aの位置は、積層方向で一致させてもよく、1層毎あるいは複数層毎に切欠き部62aの位置を交互にずらして配置してもよく、さらに、各層毎に切欠き部62aの位置をランダムに配置してもよい。このような構造の光学素子の積層数は、要求される光学特性、用途等に応じて適宜設定することができる。また、このような積層構造の光学素子は、上述の光学素子81を使用して構成することができる。
【0045】
[光学素子の製造方法]
図13および図14は、本発明の光学素子の製造方法の一実施形態を示す工程図であり、図3および図4に示される光学素子21を例としたものである。
本発明の光学素子の製造方法では、まず、低含有率PDMS層34を形成するための原料を支持基板37上に塗布して、低含有率PDMS層用の塗布膜34′を形成する(図13(A))。使用する原料は、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、この低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下、好ましくは0〜500ppmの範囲にあるPDMSである。支持基板37は、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、塗布膜34′を形成する面は、塗布膜34′の厚みの均一性、後工程における構造体32との離型を考慮して、例えば、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。
【0046】
また、支持基板37上への塗布膜34′の形成は、例えば、スピン塗布方法、刷毛による塗布方法等により行うことができ、塗布膜34′の厚みは、後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層34の厚みが0.005〜5mm、好ましくは0.05〜1mmの範囲となるように、適宜設定することができる。後工程で硬化して形成される低含有率PDMS層34の厚みが0.005mm未満となるような塗布膜34′の厚みであると、形成される低含有率PDMS層34の一部に欠陥が生じ、後工程における構造体32と支持基板37との離型が困難になったり、構造体32の破断等が生じるおそれがある。一方、低含有率PDMS層34の厚みが5mmを超えるような塗布膜34′の厚みであると、低含有率PDMS層34により奏される効果の更なる向上が期待できないとともに、光学素子21の製造コストが増大するので好ましくない。
【0047】
次に、低含有率PDMS層用の塗布膜34′上に、高含有率PDMS層33を形成するための原料33″を供給し(図13(B))、この原料33″に成型基板38を押し付けることにより、成型基板38と低含有率PDMS層用の塗布膜34′との間に高含有率PDMS層用の塗布膜33′を形成し(図13(C))、その後、塗布膜33′と成型基板38とを離型する(図13(D))。ここで使用する原料33″は、低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上、好ましくは5000〜30000ppmの範囲にあるPDMSである。この原料33″の低含有率PDMS層用の塗布膜14上への供給は、ディスペンサを使用して液滴として供給することができるが、これに限定されるものではない。塗布膜33′の厚みは、後工程で形成されるPDMSシート31(構造体32)の厚みが0.01〜10mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲となるように適宜設定することができる。構造体32の厚みが0.1mm未満となるような塗布膜33′の厚みであると、原料33″の粘度が高いので、構造体32の厚みが不均一となったり、支持基板37からの剥離時に破断が生じ易く、製造が難しくなる。一方、構造体32の厚みが10mmを超えるような塗布膜33′の厚みであると、後工程の金属パターン22の形成が困難となり好ましくない。
【0048】
また、成型基板38は、原料33″を塗布膜33′とするとともに、後工程で形成される高含有率PDMS層33の表面(パターン形成面33A)の形状を決定するものである。このような成型基板38としては、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板等の剛性がある基板を使用することができ、原料33″(塗布膜33′)に押し付けられる面の形状は、表面平均粗さRaが0.1μm以下の平坦面であることが好ましい。
次いで、高含有率PDMS層用の塗布膜33′および低含有率PDMS層用の塗布膜34′を硬化させて、高含有率PDMS層33と低含有率PDMS層34との構造体32を支持基板37上に形成する(図13(E))。
上記の製造方法の実施形態における高含有率PDMS層用の塗布膜33′と成型基板38との離型時(図13(D))の塗布膜33′は、ほとんど硬化していない状態であってもよく、半硬化状態であってもよい。また、このときの低含有率PDMS層用の塗布膜34′は、完全に硬化した状態であってもよく、半硬化状態であってもよい。例えば、低含有率PDMS層用の塗布膜34′を半硬化させておいて高含有率PDMS層用の塗布膜33′を形成してもよく、この場合、低含有率PDMS層用の塗布膜34′と高含有率PDMS層用の塗布膜33′の境界部分が混じり合うことにより、構造体32としての強度を高めることができる。
【0049】
次に、構造体32の高含有率PDMS層33の表面(パターン形成面33A)にレジストパターン39を形成し(図14(A))、このレジストパターン39を被覆するように金属層22′を形成する(図14(B))。レジストパターン39は、例えば、感光性レジストを使用してフォトリソグラフィーにより形成することができる。また、金属層22′は、Au、Ag、Al等を主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法により形成することができ、厚みは50〜1000nmの範囲とすることができる。
次いで、レジストパターン39を除去するとともに、レジストパターン39上の金属層22′を除去(リフトオフ)し、金属パターン22を形成する(図14(C))。その後、構造体32と支持基板37とを離型する(図14(D))。これにより、本発明の光学素子21が得られる。
【0050】
上述の製造方法では、レジストパターン39の除去によるリフトオフ法で金属パターン22を形成しているが、これに限定されるものではない。例えば、構造体32の高含有率PDMS層33の表面(パターン形成面33A)にAu、Ag、Al等を主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法により金属層を形成し、その後、この金属層にパターンエッチングを施して金属パターン22を形成してもよい。
また、上述の光学素子21′のように、パターン形成面33Aの全面に下地金属層23を備え、この下地金属層23上に金属パターン22を備える光学素子を作製する場合には、構造体32を支持基板37上に形成(図13(E))した後、例えば、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法によりパターン形成面33Aの全面に下地金属層23を形成し、その後、上述のように金属パターン22を形成する。
【0051】
また、上述の光学素子21″のように、金属パターン22と同じパターンの下地金属層23を備える光学素子を作製する場合には、構造体32を支持基板37上に形成(図13(E))した後、例えば、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法によりパターン形成面33Aの全面に下地金属層23を形成する。その後、下地金属層23にAu、Ag、Al等を主成分とする材料を用いてスパッタリング法や蒸着法等の真空成膜法により金属層を形成し、この金属層と下地金属層23とにパターンエッチングを施して金属パターン22(これと同一パターンの下地金属層23)を形成する。
【0052】
本発明の光学素子の製造方法では、PDMSシート31である構造体32を形成し、この構造体32を構成する高含有率PDMS層33(パターン形成面33A)に金属パターン22を形成するので、金属パターン22とPDMSシート31との密着性が高いものとなる。また、構造体32を構成する低含有率PDMS層34が支持基板37側に位置するので、支持基板37からの光学素子21の離型が容易である。
上述の実施形態は例示であり、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、PDMSシート31が、高含有率PDMS層33と低含有率PDMS層34との間に、高含有率PDMS層33や低含有率PDMS層34とは異なる樹脂材料を有する構造体からなる場合、低含有率PDMS層用の塗布膜34′上に、他の樹脂材料を供給して塗布膜を形成し、この塗布膜上に高含有率PDMS層33を形成するための原料33″を供給してもよい。
【実施例】
【0053】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
支持基板として、厚み0.625mm、直径150mmのシリコン基板を準備した。この支持基板の表面平均粗さRaは0.001μmであった。尚、表面平均粗さRaの測定は、AFM(セイコーインスツル(株)製 L-Trace II)を使用して行った。
低含有率PDMS層を形成するための原料Aに重合開始剤を混合した後、上記の支持基板上にスピンコート法で塗布して塗布膜Aを形成した。この原料Aは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときの低分子量シロキサンの含有量が1000ppmのPDMSであった。また、塗布膜Aの厚みは、硬化して形成される低含有率PDMS層の厚みが0.1mmとなるように設定した。
【0054】
次に、高含有率PDMS層を形成するための原料Bに重合開始剤を混合した後、低含有率PDMS層用の塗布膜A上にディスペンサを使用して滴下(20g)した。この原料Bは、低分子量シロキサンの含有量が2000ppmのPDMSであった。
次いで、供給した原料Bに、成型基板(成型面の表面平均粗さRaは0.001μm)を押し付けることにより、成型基板と低含有率PDMS層用の塗布膜Aとの間に高含有率PDMS層用の塗布膜Bを形成した。この状態で常温にて放置して塗布膜Bを半硬化させた後、塗布膜Bと成型基板とを離型した。次いで、半硬化状態にある塗布膜Aおよび塗布膜Bを加熱により完全に硬化させ、高含有率PDMS層と低含有率PDMS層との構造体(厚み1.2mm)とし、この構造体と支持基板とを離型して、PDMSシートを作製した。
【0055】
[実施例2]
高含有率PDMS層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が7000ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0056】
[実施例3]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が200ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0057】
[比較例1]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が200ppmのPDMSを使用し、高含有率PDMS層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が1000ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0058】
[比較例2]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が1500ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0059】
[比較例3]
低含有率PDMS層を形成するための原料Aとして、低分子量シロキサンの含有量が1300ppmのPDMSを使用し、高含有率PDMS層を形成するための原料Bとして、低分子量シロキサンの含有量が1700ppmのPDMSを使用した他は、実施例1と同様にして、PDMSシートを作製した。
【0060】
[評 価]
(離型性)
上述のPDMSシートの作製における支持基板からの構造体の離型を観察し、下記の基準で離型性を評価し、結果を下記の表1に示した。
(評価基準)
○ : 固着による支持基板への構造体の残りなし
× : 固着による支持基板への構造体の残りあり
【0061】
(金属密着性(対Cr))
上述のように作製したPDMSシートの高含有率PDMS層側(被加工面)に、スパッタリング法によりCr薄膜(厚み50nm)を形成し、このCr薄膜とPDMSシートとの密着力をクロスカット法により評価し、結果を下記の表1に示した。すなわち、1辺が1cmの正方形領域を100個形成するようにCr薄膜にカッターナイフで切り込みを入れ、100個の正方形領域全てについて、粘着テープ(ニチバン(株)製 セロテープ)を貼着後、直上に引き上げてCr薄膜の剥離の有無を観察し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
○ : Cr薄膜の正方形領域の剥離がなく、密着性が良好
× : Cr薄膜の正方形領域の剥離が発生し、密着性が不十分
【0062】
(金属密着性(対Au))
上述のように作成したPDMSシートの高含有率PDMS層側(被加工面)に、スパッタリング法によりAu薄膜(厚み50nm)を形成し、このAu薄膜とPDMSシートとの密着力を上記と同様に測定し、上記と同様の基準で密着性を評価し、結果を下記の表1に示した。
【0063】
(安定性)
上述のように作製したPDMSシートを、低含有率PDMS層側(ベース面)が当接するようにシリコン基板上に載置して120日間維持し、その後、シリコン基板に対するPDMSシートの固着発生の有無を観察し、結果を下記の表1に示した。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
ポリジメチルシロキサンシートを使用する種々の技術分野において有用であり、また、種々の光学素子の製造において有用である。
【符号の説明】
【0066】
1…ポリジメチルシロキサン(PDMS)シート
2…構造体
3…高含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
3A…被加工面
4…低含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
4A…ベース面
11…支持基板
12…成型基板
13,14…塗布膜
21,21′,21″,41,61,81…光学素子
22,42,62,82…金属パターン
23…下地金属層
31,51,71,91…ポリジメチルシロキサン(PDMS)シート
32…構造体
33,53,73,93…高含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
33A,53A,73A,93A…パターン形成面
34…低含有率ポリジメチルシロキサン(PDMS)層
34A…ベース面
33′,34′…塗布膜
37…支持基板
38…成型基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、
前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、
前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより隣接する前記金属パターンの間隔が変化可能であることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、
前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、
前記金属パターンは、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり、前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより前記切欠き部の間隔が変化可能であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記金属パターンは、Au、Ag、Alのいずれかを主成分として含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記金属パターンと同一パターンであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記ポリジメチルシロキサンシートのパターン形成面の全域に存在することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
前記下地金属層は、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分として含有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面は、表面平均粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、
前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、
該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に複数の金属パターンを、隣接する該金属パターンの間隔が1000nm以下となるように形成する工程と、
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、
前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、
該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり該切欠き部の間隔が1000nm以下である複数の金属パターンを形成する工程と、
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記パターン形成面上に金属層を形成し、その後、前記レジストパターンを剥離することによりレジストパターン上に形成された金属層をリフトオフして形成することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上に金属層を形成し、該金属層上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記金属層をエッチングし、その後、前記レジストパターンを剥離して形成することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成することを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成するとともに、前記金属パターンの非形成部位の前記下地金属層もエッチング除去することを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項14】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも一方の面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも他方の面に備えた構造体からなるシートであり、前記高含有率ポリジメチルシロキサン層が被加工面であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層がベース面であることを特徴とするポリジメチルシロキサンシート。
【請求項15】
前記構造体の厚みは0.01〜10mmの範囲であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層の厚みは0.005〜5mmの範囲であることを特徴とする請求項14に記載のポリジメチルシロキサンシート。
【請求項16】
前記被加工面の表面平均粗さRaは0.1μm以下であることを特徴とする請求項14または請求項15に記載のポリジメチルシロキサンシート。
【請求項17】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、
前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体とし、その後、該構造体と前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とするポリジメチルシロキサンシートの製造方法。
【請求項1】
一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、
前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、
前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより隣接する前記金属パターンの間隔が変化可能であることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
一方の面がパターン形成面であり、他方の面がベース面であるポリジメチルシロキサンシートと、該パターン形成面上に位置する複数の金属パターンと、を備え、
前記ポリジメチルシロキサンシートは、低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記パターン形成面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも前記ベース面に備えた構造体であり、
前記金属パターンは、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり、前記ポリジメチルシロキサンシートを変形させることにより前記切欠き部の間隔が変化可能であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記金属パターンは、Au、Ag、Alのいずれかを主成分として含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記金属パターンと同一パターンであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記金属パターンとの間に下地金属層が存在し、該下地金属層は前記ポリジメチルシロキサンシートのパターン形成面の全域に存在することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
前記下地金属層は、Cr、Ti、Ni、W、これらの酸化物および窒化物のいずれかを主成分として含有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面は、表面平均粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、
前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、
該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に複数の金属パターンを、隣接する該金属パターンの間隔が1000nm以下となるように形成する工程と、
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、
前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体からなるポリジメチルシロキサンシートとする工程と、
該ポリジメチルシロキサンシートの前記高含有率ポリジメチルシロキサン層をパターン形成面とし、該パターン形成面上に、少なくとも一部に切欠き部を有する略リング形状であり該切欠き部の間隔が1000nm以下である複数の金属パターンを形成する工程と、
前記ポリジメチルシロキサンシートと前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記パターン形成面上に金属層を形成し、その後、前記レジストパターンを剥離することによりレジストパターン上に形成された金属層をリフトオフして形成することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記金属パターンは、前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面上に金属層を形成し、該金属層上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンを介して前記金属層をエッチングし、その後、前記レジストパターンを剥離して形成することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成することを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記ポリジメチルシロキサンシートの前記パターン形成面の全域に下地金属層を形成し、その後、該下地金属層上に前記金属パターンを形成するとともに、前記金属パターンの非形成部位の前記下地金属層もエッチング除去することを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項14】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも一方の面に備え、前記低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を少なくとも他方の面に備えた構造体からなるシートであり、前記高含有率ポリジメチルシロキサン層が被加工面であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層がベース面であることを特徴とするポリジメチルシロキサンシート。
【請求項15】
前記構造体の厚みは0.01〜10mmの範囲であり、前記低含有率ポリジメチルシロキサン層の厚みは0.005〜5mmの範囲であることを特徴とする請求項14に記載のポリジメチルシロキサンシート。
【請求項16】
前記被加工面の表面平均粗さRaは0.1μm以下であることを特徴とする請求項14または請求項15に記載のポリジメチルシロキサンシート。
【請求項17】
低分子量シロキサンを[−Si(CH3)2O−]k(kは3〜20の整数)で表される環状構造としたときに、該低分子量シロキサンの含有量が1000ppm以下である低含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を支持基板上に塗布して、低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成する工程と、
該低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜上に、前記低分子量シロキサンの含有量が2000ppm以上である高含有率ポリジメチルシロキサン層を形成するための原料を供給し、該原料に成型基板を押し付けることにより、該成型基板と前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜との間に高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を形成し、その後、該高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜と前記成型基板とを離型する工程と、
前記低含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜および前記高含有率ポリジメチルシロキサン層用の塗布膜を硬化させて、高含有率ポリジメチルシロキサン層と低含有率ポリジメチルシロキサン層との構造体とし、その後、該構造体と前記支持基板とを離型する工程と、を有することを特徴とするポリジメチルシロキサンシートの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−181480(P2012−181480A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46011(P2011−46011)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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