説明

ポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法及び熱可塑性樹脂組成物

【課題】ポリテトラフルオロエチレンの含有率が45質量%以上であり、乳化剤成分の残留が少なく、工業的生産に適した、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレン及び有機重合体を含有するポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法であって、ポリテトラフルオロエチレン45〜65質量%及び有機重合体55〜35質量%から構成される重合体100質量部に対して、乳化剤3〜5質量部を含有する水性分散液を、容積式回転ポンプを用いて送液することを特徴とする、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法、及びこれを用いた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称する)は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れ、撥水撥油性、非粘着性、自己潤滑性等の特異な表面特性を有する。また、高結晶性で分子間力が低いため、僅かな応力で繊維化する性質を有する。このため、PTFEを熱可塑性樹脂に配合することによって、熱可塑性樹脂の成形加工性、機械的特性等を改良することができる。よって、PTFEは熱可塑性樹脂用の添加剤として使用されている。
PTFEを用いた熱可塑性樹脂用の添加剤として、PTFE及び有機重合体を含有し、熱可塑性樹脂中での分散性に優れるPTFE含有粉体が提案されている(例えば特許文献1)。また、PTFE含有粉体の製造方法として、PTFE及び有機重合体から構成される重合体を含有する水性分散液中の40〜80質量%の重合体を凝析させ(第1段目)、次いで凝析を完了させる(第2段目)方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0003】
PTFE及び有機重合体から構成される重合体を含有する水性分散液は、凝析剤と接触させてスラリーとした後、これを凝固させて、洗浄及び乾燥して、PTFE含有粉体として回収することが一般的である。
特許文献1では、該水性分散液及び凝析剤を容器に添加して、一仕込み単位毎に凝析を行なうバッチ式を用いている。しかしながら、凝析をバッチ式で行なう方法は、該水性分散液を多量に凝析処理することが困難であり、工業的生産には適していない。
特許文献2では、該水性分散液及び凝析剤を供給しながら連続して凝析を行なう連続式を用いている。凝析を連続式で行なう方法は、該水性分散液を多量に凝析処理することが容易であり、工業的生産に適している。
【0004】
凝析を連続式で行なうには、ポンプを用いて、PTFE及び有機重合体から構成される重合体を含有する水性分散液を送液することが必要となる。このため、該水性分散液には、送液工程でのポンプの剪断力に耐え得る分散安定性が求められる。
特許文献2には、定量ポンプを用いて該水性分散液を送液して、凝析を連続式で行なう方法が記載されており、PTFE40質量%及び有機重合体60質量%から構成される重合体を含有する水性分散液が用いられている。
【0005】
PTFEは僅かな応力で繊維化する性質を有するため、PTFE及び有機重合体から構成される重合体中のPTFEの含有率が高くなると、送液工程でのポンプの剪断力によって水性分散液中のPTFEが繊維化しやすくなり、ポンプ詰まりを発生するという問題点がある。
前記のポンプ詰まりは、PTFE及び有機重合体から構成される重合体を含有する水性分散液に対して、乳化剤を多量に添加することにより、水性分散液の分散安定性を高めることで回避することが可能である。
【特許文献1】特許第3272985号公報
【特許文献2】特許第3471647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PTFE及び有機重合体から構成される重合体を含有する水性分散液に、多量の乳化剤を添加した場合には、水性分散液の凝析性が低下する。また、得られるPTFE含有粉体中に乳化剤成分が残留しやすくなるため、該PTFE含有粉体を配合した熱可塑性樹脂組成物は、熱安定性が低下するという問題点がある。
本発明は、PTFEの含有率が高い水性分散液でも、乳化剤成分の残留が少なく、工業的生産に適したPTFE含有粉体の製造方法、及び、該製造方法によって得られたPTFE含有粉体を配合し、熱安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、PTFE及び有機重合体から構成される重合体を含有する水性分散液に所定量の乳化剤を用い、容積式回転ポンプを用いることによって、PTFEの含有率が45質量%以上であり、乳化剤成分の残留が少ないPTFE含有粉体を、工業的生産に適した方法で製造できることを見出した。
本発明は、PTFE及び有機重合体を含有するPTFE含有粉体の製造方法であって、PTFE45〜65質量%及び有機重合体55〜35質量%から構成される重合体100質量部に対して乳化剤3〜5質量部を含有する水性分散液(A)を、容積式回転ポンプを用いて送液することを特徴とする。
前記水性分散液(A)は、PTFE水性分散液(A1)と、有機重合体水性分散液(A2)とを混合したものを用いることが好ましい。また、前記水性分散液(A)は、PTFE水性分散液(A1)の存在下でビニル単量体成分を重合して得られたものを用いることもできる。
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られたPTFE含有粉体が、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、PTFEの添加量が0.001〜20質量部となるように添加されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、従来よりもPTFEの含有率が従来よりも高い水性分散液でも、PTFE含有粉体を工業的に製造することができる。加えて、得られたPTFE含有粉体は乳化剤成分の残留が少ないため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂本来の特性を有し、成形加工時の熱安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかる実施形態について例示して説明する。
本発明のPTFE含有粉体の製造方法は、PTFE45〜65質量%及び有機重合体55〜35質量%から構成される重合体100質量部に対して乳化剤3〜5質量部を含有する水性分散液(A)を、容積式回転ポンプを用いて送液し、凝析工程にてスラリーを得る。得られたスラリーを凝固させて、洗浄及び乾燥して、PTFE含有粉体として回収するものである。
前述のように、PTFEは僅かな応力で繊維化する性質を有するため、前記の重合体に含まれるPTFEが45%以上となると、汎用の定量ポンプを用いて送液することは困難となる。また、前記重合体を含む水性分散液(A)に多量の乳化剤を添加すると、送液が可能となる反面、凝析性の低下やPTFE含有粉体への乳化剤成分の残留が多くなる。結果、凝析性の低下に伴う生産性低下、およびPTFE含有粉体を添加した熱可塑性樹脂の熱安定性低下を引き起こす。しかし、適切な乳化剤添加量と、送液ポンプの選択との組合せにより、送液中の繊維化とPTFE含有粉体への残乳化剤成分を抑えることを見出した。
【0011】
ここで使用される水性分散液(A)は、PTFEと有機重合体とを含む水性分散液であれば特に制限はされないが※1、PTFE水性分散液(A1)と有機重合体水性分散液(A2)とを混合したものを用いることが好ましい。
また、PTFE水性分散液(A1)の存在下でビニル単量体成分を重合して得られたものを用いることもできる。
さらには、PTFE水性分散液(A1)と有機重合体水性分散液(A2)との混合物の存在下で、ビニル単量体成分を重合して得られたものを用いることもできる。
【0012】
PTFE水性分散液(A1)は、含フッ素界面活性剤を用いた乳化重合でテトラフルオロエチレン単量体を重合して得られるものである。乳化重合の際には、PTFEの特性を損なわない範囲で、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキル等の含フッ素(メタ)アクリル酸アルキルを用いることができる。これら共重合成分の含量は、PTFEの特性を損なわせないため、PTFEの重合に用いる全単量体に対して10質量%以下であることが好ましい。また、PTFE水性分散液(A1)に含まれるPTFEの粒子径は特に規定されるものではないが、PTFEの粒子径が0.05μm以上であれば乳化重合の際に乳化剤が多量に必要とならず、1.0μm以下であればPTFE水性分散液(A1)の分散安定性が低下しない。したがって、PTFEの粒子径は0.05〜1.0μmであることが好ましい。
【0013】
このようなPTFE水性分散液(A1)の市販原料としては、例えば、旭硝子(株)製のフルオンAD−911、AD−938;ダイキン工業(株)製のポリフロンD−1、D−2;三井デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30Jが挙げられる。
【0014】
これらのPTFE水性分散液(A1)は、PTFEの重合時にアンモニウムパーフルオロオクタネイトを使用し、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系乳化剤を添加して濃縮されるのが一般的である。
【0015】
有機重合体水性分散液(A2)は、乳化重合でビニル単量体成分(a1)を重合して得られるものである。
本発明のビニル単量体成分(a1)は、単官能ビニル単量体を含有する。単官能ビニル単量体としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロルスチレン、p−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体が挙げられる。
【0016】
ビニル単量体成分(a1)は、これらの単官能ビニル単量体の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、最終的に得られるPTFE含有粉体の用途に応じて選択することが好ましい。
例えば、得られたPTFE含有粉体をポリオレフィン系樹脂に配合する場合、有機重合体はポリオレフィン系樹脂と親和性があり、相溶性が優れるものであることが好ましい。このような有機重合体を形成可能なビニル単量体成分(a1)としては、芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、オレフィン系単量体を好ましく使用できる。特に、PTFE含有粉体のポリオレフィン系樹脂に対する分散性の観点から、炭素数5以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体、スチレン、オレフィン系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体を20質量%以上含有するものが好ましい。
【0017】
また、例えば、得られたPTFE含有粉体をポリメタクリル酸メチルに配合する場合、有機重合体はポリメタクリル酸メチルと親和性があり、相溶性が優れるものであることが好ましい。このような有機重合体を形成可能なビニル単量体成分(a1)としては、PTFE含有粉体のポリメタクリル酸メチルへの分散性の観点から、(メタ)アクリル酸エステル単量体を20質量%以上含有するものが好ましい。あるいは、得られたPTFE含有粉体をポリエステル系樹脂に配合する場合、有機重合体はポリエステル系樹脂と親和性があり、相溶性が優れるものであることが好ましい。このような有機重合体を形成可能なビニル単量体成分(a1)としては、芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体を好ましく使用でき、特にPTFE含有粉体のポリエステル系樹脂に対する分散性の観点からは、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体を1質量%以上含有するものが好ましい。
【0018】
ビニル単量体成分(a1)を乳化重合して有機重合体水性分散液(A2)を得る方法としては、例えば、イオン性乳化剤を用いる乳化重合法、イオン性重合開始剤を用いるソープフリー乳化重合法が挙げられる。イオン性乳化剤としては、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性イオン乳化剤のいずれかを用いることができる。アニオン性乳化剤としては、例えば、脂肪酸塩類、脂肪族アルコール硫酸エステル塩類、脂肪族アルコール燐酸エステル塩類、脂肪酸エステルのスルホン酸塩類、脂肪族アミドスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類が挙げられる。カチオン性乳化剤としては、例えば、脂肪族アミン塩類、四級アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩類が挙げられる。両性イオン乳化剤としては、例えば、アルキルベタイン類が挙げられる。
【0019】
イオン性重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビス(イソブチロニトリルスルホン酸塩)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアニオン性重合開始剤;2,2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチルアミド二水和物等のカチオン性重合開始剤が挙げられる。
【0020】
このようにして得られる有機重合体水性分散液(A2)中での有機重合体の粒子径は、最終的に得られるPTFE含有粉体の安定性、即ち、PTFE粒子と有機重合体粒子との凝集状態の安定性に優れることから、PTFE水性分散液(A1)中でのPTFEの粒子径との間に式1の関係を有するものが好ましい。
【数1】

D:PTFEの粒子径
d:有機重合体の粒子径
即ち、PTFEの粒子径が0.05〜1.0μmの範囲である場合、有機重合体の粒子径は0.005〜10μmの範囲である。
【0021】
PTFE水性分散液(A1)と有機重合体水性分散液(A2)の混合には、公知の混合方法を用いることができる。混合方法としては、例えば、所定量のPTFE水性分散液(A1)と有機重合体水性分散液(A2)を容器に仕込み、室温で攪拌する方法が挙げられる。
PTFE水性分散液(A1)と有機重合体水性分散液(A2)との混合は、一括混合でもよいし、分割混合、または連続滴下による混合でもよい。また、混合は加熱条件下で行なってもよい。
【0022】
本発明の水性分散液(A)は、PTFE水性分散液(A1)の存在下でビニル単量体成分(a2)を重合して得ることもできる。ビニル単量体成分(a2)としては、前記ビニル単量体成分(a1)と同様のものを用いることができる。
PTFE水性分散液(A1)の存在下でビニル単量体成分(a2)を重合する方法としては、例えば、攪拌機を備えた反応容器に、PTFE水性分散液(A1)を仕込み、ビニル単量体成分(a2)、重合開始剤、必要に応じて水、乳化剤、連鎖移動剤、還元剤を添加して、加熱攪拌すればよい。
重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤、還元剤としては、公知のものが使用できる。また、各成分の反応容器への添加方法としては、一括添加でもよいし、分割添加、または連続滴下でもよい。
【0023】
本発明の水性分散液(A)は、PTFE及び有機重合体から構成される重合体中の、PTFEの含有率が45〜65質量%であり、有機重合体の含有率が35〜55質量%である。
PTFE及び有機重合体から構成される重合体中の、PTFEの含有率が45質量%以上であれば、PTFE含有率の高いPTFE含有粉体を得ることができ、熱可塑性樹脂(B)の成形加工性、機械的特性等を十分に改良することができる。PTFE及び有機重合体から構成される重合体中の、PTFEの含有率が65質量%以下であれば、乳化剤を多量に添加することなく、水性分散液(A)を容積式回転ポンプで送液することができる。
【0024】
PTFE及び有機重合体から構成される重合体中の、有機重合体の含有率が35質量%以上であれば、乳化剤を多量に添加することなく、水性分散液(A)を容積式回転ポンプで送液することができる。PTFE及び有機重合体から構成される重合体中の、有機重合体の含有率が55質量%以下であれば、PTFE含有率の高いPTFE含有粉体を得ることができ、熱可塑性樹脂(B)の成形加工性、機械的特性等を十分に改良することができる。
【0025】
水性分散液(A)中の乳化剤の含有量は、PTFE及び有機重合体から構成される重合体100質量部に対して3〜5質量部である。水性分散液(A)中の乳化剤の含有量が、PTFE及び有機重合体から構成される重合体100質量部に対して3質量部以上であれば、水性分散液(A)を容積式回転ポンプで送液することができる。水性分散液(A)中の乳化剤の含有量が、PTFE及び有機重合体から構成される重合体100質量部に対して5質量部以下であれば、得られたPTFE含有粉体中に乳化剤成分が残留せず、PTFE含有粉体を配合した熱可塑性樹脂組成物は熱安定性が低下しない。
【0026】
続いて、凝析工程について説明する。上述のように調製された水性分散液(A)を、容積式回転ポンプを用いて送液し、凝析工程にて、水性分散液(A)を攪拌しながら凝析剤に接触させて凝析したものをスラリーとして得る。
【0027】
本発明で用いられる容積式回転ポンプとしては、例えば、ギアポンプ、サインポンプ、スクリューポンプ、ラジアルスクリューポンプが挙げられる。
前記容積式回転ポンプを用いることにより、水性分散液(A)を低剪断力にて送液することが可能となり、PTFE45〜65質量%及び有機重合体35〜55質量%から構成される重合体を含有する水性分散液(A)を、乳化剤を多量に添加することなく、ポンプ詰まりを発生させずに送液することができる。ポンプでの送液が可能であることから、水性分散液(A)の凝析を連続式で行なうことができ、工業的生産に適している。
【0028】
凝析工程で使用する凝析剤としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;蟻酸、酢酸等の有機酸;硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等の無機塩;酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等の有機塩が挙げられる。凝析剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
その後、前記凝析工程で得られたスラリーに、60℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する硬質非弾性重合体を添加する工程を設けてもよい。この工程により、凝析工程で凝析された粉体の周囲を硬質非弾性重合体で覆い、粉体流動性、耐ブロッキング性等の粉体特性に優れたPTFE含有粉体を製造することができる。硬質非弾性重合体の添加の方法としては、特許第3711040号に記載の方法が挙げられる。
硬質非弾性重合体の添加工程としては、例えば、凝析工程で得られたスラリーに対して硬質非弾性重合体のスラリーを添加して混合する方法や、凝析工程で得られたスラリーに対して別途調製した硬質非弾性重合体のラテックスを添加し、このスラリー中で硬質非弾性重合体のラテックスを凝析する方法が挙げられる。特に後者の方法で硬質非弾性重合体添加工程を行なうと、凝析工程で得られた粉体の周囲を硬質非弾性重合体で均質に覆うことができ、その結果、非常に粉体特性の優れたポリフルオロエチレン含有粉体を得ることができ、好ましい。
【0030】
このような硬質非弾性重合体の添加工程においては、凝析工程で水性分散液(A)が凝析されて、ラテックスの状態でなくスラリーの状態となっているものに対して、硬質非弾性重合体を添加することが非常に重要である。即ち、凝析されておらず、ラテックスの状態にある水性分散液(A)に、硬質非弾性重合体のラテックスやスラリーを添加しても、粉体特性の優れたPTFE含有粉体を得ることはできない。
【0031】
硬質非弾性重合体の添加工程の後には、スラリーをさらに熱処理する凝固工程を行なうことが好ましい。硬質非弾性重合体の添加工程で得られた粉体は微細粒子が凝集した構造からなるが、このような凝固工程を行なうことによって、粉体における微細粒子同士の融着が促進され、粒子密度が向上して粒子保形力が強くなる。
凝固工程は、80〜120℃の温度範囲で20分以上熱処理することが好ましい。凝固工程は一定の温度条件下で行なってもよいが、段階的に温度を上げる多段条件下で行なうと、より粉体特性の優れたPTFE含有粉体を製造できる。凝固工程後、粉体を洗浄及び乾燥することにより、粉体特性に優れたPTFE含有粉体を得ることができる。
【0032】
続いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物について、その一例を説明する。該熱可塑性樹脂組成物は、任意に選択した熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して、PTFEの添加量が0.001〜20質量部となるように、PTFE含有粉体を添加した組成物である。熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して、PTFEの添加量が0.001質量部以上となるようにPTFE含有粉体を添加すれば、熱可塑性樹脂(B)の難燃性及び機械的特性を改良することができる。熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して、PTFEの添加量が20質量部以下となるようにPTFE含有粉体を添加すれば、熱可塑性樹脂(B)中にPTFE含有粉体が均一に分散し、熱可塑性樹脂組成物の成形が困難となることがない。したがって、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対して、0.001〜20質量部のPTFEが含有されていることが好ましい。
【0033】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性樹脂組成物に与える機能に従って選択することができる。また、本発明でいう熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性エラストマーをも包含する意味である。熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ABS、ASA、AES等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;ポリスルフォン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリフェニレンスルフィド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体等のα−オレフィンと各種単量体との共重合体類;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、脂肪族グリコール/脂肪族ジカルボン酸共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂;生分解性セルロース、ポリペプチド、ポリビニルアルコール、澱粉、カラギーナン、キチン・キトサン質等の生分解性樹脂が挙げられる。
また、前記熱可塑性樹脂を2種以上併用したポリマーアロイ;スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリブタジエン等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その特性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて難燃剤、充填剤、発泡剤、可塑剤、安定剤、耐衝撃性改質剤、滑剤、加工助剤、顔料、防曇剤、抗菌剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、結晶核剤、耐熱性向上剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0035】
難燃剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート等の燐酸エステル;フェニレンビス(フェニルグリシジルホスフェート)等の縮合燐酸エステル;赤燐等の燐系化合物;ホスフェート型ポリオール等のポリオール類;ヘキサブロモベンゼン等の芳香族ハロゲン化合物;ブロム化ビスフェノールA系エポキシ樹脂等のハロゲン化エポキシ樹脂;ハロゲン化ポリカーボネート樹脂;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;三酸化アンチモン等のアンチモン化合物;メラミン等のトリアジン化合物;カオリンクレーが挙げられる。
【0036】
充填剤としては、例えば、アルミニウム粉等の金属粉;アルミナ等の金属酸化物;珪酸または珪酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩;天然木材等の植物性繊維;絹粉等の動物性繊維;アラミド繊維等の合成繊維;タルク、マイカ、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、カーボンブラック、ガラスビーズ、再生充填剤材料が挙げられる。再生充填剤材料としては、例えば、籾殻等の農産廃棄物;牡蛎殻等の水産廃棄物;ビール麦芽粕、茶滓、オカラ等の食品加工廃棄物;おが屑等の木質系廃棄物;廃パルプが挙げられる。
【0037】
発泡剤としては、例えば、二酸化炭素等の無機発泡剤;脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素等の揮発性発泡剤;アゾジカーボンアミド等の分解型発泡剤が挙げられる。これらの発泡剤は適宜混合して用いることができる。発泡剤を使用する場合には、熱可塑性樹脂組成物の溶融混練物中に、更に気泡調整剤を添加しても良い。気泡調整剤としては、例えば、タルク等の無機粉末;多価カルボン酸と炭酸ナトリウムとの反応混合物;クエン酸が挙げられる。
【0038】
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;トリクレジルホスフェート等の燐酸エステル系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;ジブチルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルアゼレート等のアゼライン酸エステル系可塑剤;クエン酸トリエチル等のクエン酸エステル系可塑剤;メチルフタリルエチルグリコレート等のグリコール酸エステル系可塑剤;トリブチルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;メチルアセチルリシノレート等のリシリノール酸エステル系可塑剤;ポリプロピレンアジペート等のポリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤が挙げられる。
【0039】
安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤;マグネシウム等の金属とラウリン酸等の脂肪酸とから誘導される金属石鹸系安定剤;有機錫系安定剤;Ca−Zn系等の複合金属石鹸系安定剤;バリウム等の金属と、分岐脂肪酸、不飽和脂肪酸、脂肪環族酸、芳香族酸等の通常二種以上の有機酸とから誘導される金属塩系安定剤;燐がアルキル基等で置換され、かつ2価アルコール、芳香族化合物を有する有機亜燐酸エステル;BHT等のヒンダードフェノール;ベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン等の光安定剤;カーボンブラック等の紫外線遮蔽剤;トリメロールプロパン等の多価アルコール;β−アミノクロトン酸エステル等の含窒素化合物;ジアルキルチオジプロピオン酸エステル等の含硫黄化合物;アセト酢酸エステル等のケト化合物;有機珪素化合物、硼酸エステルが挙げられる。
【0040】
耐衝撃性改質剤としては、例えば、スチレン/ブタジエン系共重合体等のジエン系ゴム質重合体;シリコーン含有アクリル系ゴム等のシリコーン系ゴム質重合体;アクリル系ゴム質重合体;フッ素系ゴム質重合体;スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体等のオレフィン系ゴム質重合体;各種ゴム質重合体と各種単量体とのグラフト共重合体が挙げられる。
【0041】
滑剤としては、例えば、流動パラフィン等の純炭化水素類;ハロゲン化炭化水素類;高級脂肪酸等の脂肪酸類;脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド類;脂肪酸の低級アルコールエステル等のエステル類;金属石鹸、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステルが挙げられる。
【0042】
加工助剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、アクリロニトリル/スチレン/マレイミド共重合体が挙げられる。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出混練、ロール混練等の公知の方法を用いて、本発明の製造方法により得られたPTFE含有粉体を、熱可塑性樹脂(B)に溶融混練して得られる。また、本発明の製造方法により得られたPTFE含有粉体と、熱可塑性樹脂(B)の一部を混合してまずマスターバッチを作製し、熱可塑性樹脂(B)の残部をさらに添加、混合する多段階混合も可能である。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては、例えば、カレンダー成形、熱成形、押出ブロー成形、発泡成形、押出成形、射出成形、溶融紡糸が挙げられる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる有用な成形品としては、例えば、押出成形によるシート、フィルム及び異型成形品;押出ブロー成形や射出成形による中空成形品、射出成形品が挙げられる。その具体例としては、自動車のバンパー、スポイラー、サイドモール、シーリング、内装材、OA機器の筐体、窓枠、棚板、床材、壁材等の建材が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各記載中、「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
【0046】
[製造例1:PTFEと有機重合体とを含む水性分散液(ア−1)の製造]
PTFE水性分散液(旭硝子(株)製フルオンAD938、固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む)83.3部に、脱イオン水66.7部を添加し、固形分35.0%のPTFE水性分散液(ア−1−1)を得た。このPTFE水性分散液(ア−1−1)は、33.3%のPTFE粒子と1.7%のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含むものである。
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えた反応容器に、脱イオン水95部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を仕込み、窒素を通じることによって反応容器内の窒素置換を行なった。その後、系内を55℃に昇温して、脱イオン水5部と過硫酸カリウム0.1部からなる混合液を添加し、次いで、メタクリル酸メチル40部とメタクリル酸n−ブチル10部の混合液を90分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後、60分間保持して重合を完結した。一連の操作を通じて固形物の分離はみられず、均一な有機重合体水性分散液(ア−1−2)が得られた。
【0047】
有機重合体水性分散液(ア−1−2)151.1部に対し、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部を添加し、30分間攪拌を継続して固形分33.4%の水性分散液(ア−1)を得た。
このとき、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部中に含有されるPTFEは50部であり、有機重合体水性分散液(ア−1−2)151.1部中に含有される有機重合体は50部である。PTFE及び有機重合体から構成される重合体中のPTFEの含有率は50%である。
また、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部中に含有される乳化剤は2.5部であり、有機重合体水性分散液(ア−1−2)151.1部中に含有される乳化剤は1.0部である。PTFE及び有機重合体から構成される重合体100部に対する乳化剤量の合計は3.5部である。
【0048】
[製造例2:PTFEと有機重合体とを含む水性分散液(ア−2)の製造]
製造例1におけるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を3.0部にした以外は製造例1と同様の操作を行ない、固形分33.5%の水性分散液(ア−2)を得た。
【0049】
[製造例3:PTFEと有機重合体とを含む水性分散液(ア−3)の製造]
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えた反応容器に、脱イオン水95部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を仕込み、次いで、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部(PTFE50部)を反応容器に投入した後、窒素を通じることによって反応容器内の窒素置換を行なった。その後、系内を55℃に昇温して、脱イオン水5部と過硫酸カリウム0.1部からなる混合液を添加し、次いで、メタクリル酸メチル40部とメタクリル酸n−ブチル10部の混合液を90分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後、60分間保持して重合を完結した。一連の操作を通じて固形物の分離はみられず、均一な固形分33.4%の水性分散液(ア−3)を得た。
【0050】
このとき、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部中に含有されるPTFEは50部であり、ビニル単量体成分(メタクリル酸メチル及びメタクリル酸n−ブチル)を重合して得られる有機重合体は50部である。PTFE及び有機重合体から構成される重合体中のPTFEの含有率は50%である。また、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部中に含有される乳化剤は2.5部であり、ビニル単量体成分を重合する際に用いた乳化剤は1.0部である。PTFE及び有機重合体から構成される重合体100部に対する乳化剤量の合計は3.5部である。
【0051】
[製造例4:PTFEと有機重合体とを含む水性分散液(ア−4)の製造]
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えた反応容器に、脱イオン水95部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を仕込み、窒素を通じることによって反応容器内の窒素置換を行なった。その後、系内を55℃に昇温して、脱イオン水5部と過硫酸カリウム0.1部からなる混合液を添加し、次いで、スチレン35部とアクリロニトリル15部の混合液を90分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後、60分間保持して重合を完結した。一連の操作を通じて固形物の分離はみられず、均一な有機重合体水性分散液(ア−4−2)が得られた。
有機重合体水性分散液(ア−4−2)151.1部に対し、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部を添加し、30分間攪拌を継続して固形分33.4%の水性分散液(ア−4)を得た。
【0052】
[製造例5:PTFEと有機重合体とを含む水性分散液(ア−5)の製造]
製造例4におけるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を3.0部にした以外は製造例4と同様の操作を行ない、固形分33.5%の水性分散液(ア−5)を得た。
【0053】
[製造例6:PTFEと有機重合体とを含む水性分散液(ア−6)の製造]
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えた反応容器に、脱イオン水95部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を仕込み、次いで、PTFE水性分散液(ア−1−1)150部(PTFE50部)を反応容器に投入した後、窒素を通じることによって反応容器内の窒素置換を行なった。その後、系内を55℃に昇温して、脱イオン水5部と過硫酸カリウム0.1部からなる混合液を添加し、次いで、スチレン35部とアクリロニトリル15部の混合液を90分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後、60分間保持して重合を完結した。一連の操作を通じて固形物の分離はみられず、均一な固形分33.4%の水性分散液(ア−6)を得た。
【0054】
[製造例7:硬質非弾性重合体水性分散液(イ)の製造]
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えた反応容器に、脱イオン水300部、ジオクチルスルホコハク酸ソーダ1.0部、過硫酸アンモニウム0.2部、メタクリル酸メチル80部、アクリル酸n−ブチル20部、n−オクチルメルカプタン0.2部からなる混合物を仕込み、窒素を通じることによって反応容器内の窒素置換を行なった。その後、系内を65℃に昇温して、2時間保持して重合を完結した。一連の操作を通じて固形物の分離はみられず、均一な硬質非弾性重合体水性分散液(イ)を得た。当該硬質非弾性重合体のTgは70.3℃であった。
【0055】
[PTFE含有粉体の製造]
製造例で得られた前記の水性分散液ア−1〜ア−6を、それぞれ図1の凝析装置8で凝析させた。
図1の凝析装置8は、攪拌翼を備えたオーバーフロー型の攪拌槽を4槽直列に連結したものである。第一槽10、第二槽12、第三槽14、第四槽16にはそれぞれ攪拌翼18が備えられている。第一槽10には第一定量ポンプ20及び第二定量ポンプ22が備えられ、第二槽12には第三定量ポンプ24が備えられており、それぞれの定量ポンプは図示されない個別の容器に接続されている。
【0056】
第二定量ポンプ22により、前記の水性分散液ア−1〜ア−6のいずれかを第一槽10へ送液し、第一定量ポンプ20にて凝析剤である酢酸カルシウム水溶液を第一槽10に供給して凝析工程を行なった。第二槽12では第三定量ポンプ24により前記製造例7で得られた硬質非弾性重合体水性分散液(イ)を添加した。次いで、第三槽14、第四槽16ではスラリーの凝固を行なった。
第一槽10及び第二槽12の温度は80℃、第三槽14及び第四槽16の温度は90℃である。各槽での滞留時間は、それぞれ20分とした。第二定量ポンプ22に使用した定量ポンプの種類を表1に示す。
【0057】
凝析剤である酢酸カルシウム水溶液の流量は、水性分散液ア−1〜ア−6の流量と同じになるように調整した。供給する酢酸カルシウム水溶液の濃度は、第一槽中での、水性分散液と酢酸カルシウム水溶液の混合物中での酢酸カルシウムの濃度が、表1に示す値となるように調整した。硬質非弾性重合体水性分散液(イ)は、水性分散液ア−1〜ア−6の固形分100部に対して、硬質非弾性重合体の固形分が3部となるように添加した。
当該凝析装置8を使用して連続運転を行ない、定常状態になった後、第四槽16からスラリーをサンプリングし、洗浄及び乾燥を行ない、PTFE含有粉体を得た。
【0058】
前記の水性分散液ア−1〜ア−6を用いたPTFE含有粉体の製造実施例、及びその比較例の結果を表1に示す。なお、諸物性の測定は以下の方法により行なった。
(1)固形分濃度
水性分散液を180℃で30分間乾燥して求めた。
(2)送液性
所定のポンプにて水性分散液を送液した際のポンプ通過性を評価した。送液性は以下の基準で判定した。
○:送液可能、×:送液不可能(ポンプが停止する)
【0059】
(3)凝析性
第一槽を凝析スラリーが通過した際にサンプリングして、これを静置し、上澄み液の透明性を目視で評価した。凝析性は以下の基準で判定した。
○:透明(凝析性良好)、×:白濁あり(凝析性不良)
(4)熱安定性
乾燥して得られたPTFE含有粉体1部を、ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユーピロンS−2000F)100部に配合し、シリンダー温度260℃に設定した同方向二軸押出機(PCM−30)にてペレット化し、メルトインデクサー(テクノセブン社製L−243−1531)に320℃で30分間保持した後のストランドの着色状態を目視で評価した。熱安定性は以下の基準で判定した。
○:着色なし、×:着色あり
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1〜6の結果から明らかなように、容積式回転ポンプであるギアポンプ、サインポンプまたはラジアルスクリューポンプを使用した場合には、何れもポンプの送液に支障は見られなかった。加えて、水性分散液は凝析性に優れ、また、得られたPTFE含有粉体を配合した熱可塑性樹脂組成物は、熱安定性に優れていた。
実施例1〜3と比較例1との比較から、容積式回転ポンプは水性分散液の送液性に優れることがわかった。
比較例2では、水性分散液中の乳化剤を増加したことにより遠心ポンプでの送液に支障は見られなかったが、凝析剤の量を増加しても凝析性は不良であり、また、得られたPTFE含有粉体を配合した熱可塑性樹脂組成物の熱安定性は不良であった。
比較例3及び4では、水性分散液中の乳化剤を増加したことにより、ポンプによる送液に支障はなかったものの、凝析剤の量を増加しても凝析性は不良であり、また、得られたPTFE含有粉体を配合した熱可塑性樹脂組成物の熱安定性は不良であった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明で使用する凝析装置の一例を示す概略図である
【符号の説明】
【0063】
8 凝析装置
10 第一槽
12 第二槽
14 第三槽
16 第四槽
18 攪拌翼
20 第一定量ポンプ
22 第二定量ポンプ
24 第三定量ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン及び有機重合体を含有するポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法であって、
ポリテトラフルオロエチレン45〜65質量%及び有機重合体55〜35質量%から構成される重合体100質量部に対して乳化剤3〜5質量部を含有する水性分散液(A)を、容積式回転ポンプを用いて送液することを特徴とする、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法。
【請求項2】
前記水性分散液(A)が、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液(A1)と、有機重合体水性分散液(A2)とを混合したものである、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法。
【請求項3】
前記水性分散液(A)が、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液(A1)の存在下でビニル単量体成分を重合して得られたものである、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン含有粉体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られたポリテトラフルオロエチレン含有粉体が、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレンの添加量が0.001〜20質量部となるように添加された熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−291062(P2008−291062A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135482(P2007−135482)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】