説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜およびその製造方法、並びにエアフィルタ濾材

【課題】厚みが比較的厚くてもPF値が大きいPTFE多孔質膜を提供する。
【解決手段】本発明のPTFE多孔質膜の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む殻内に前記熱可塑性樹脂の軟化点よりも沸点が低い揮発性膨張剤が封入された熱膨張性マイクロカプセルとポリテトラフルオロエチレン微粉末とを含む混合物をシート状物へ加工した後、前記シート状物を少なくとも1軸方向に、前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で延伸する工程を含み、前記工程において、前記シート状物を得た後に、前記揮発性膨張剤の沸点以上前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で、前記熱膨張性マイクロカプセルを加熱することにより、前記殻を膨張させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と言う)多孔質膜およびその製造方法、並びにエアフィルタ濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTFE多孔質膜は、エアフィルタ、バグフィルタ、液ろ過用フィルタとして広く使用されている。PTFE多孔質膜は、例えば、下記のようにして作製される。まず、PTFEパウダーと液状潤滑剤とを混合してペーストを作製し、このペーストを用いて押出成形により予備成形体を作製する。その後、得られた予備成形体を、押出しおよび/または圧延等してシート状物とし、次いで、シート状物を少なくとも1軸方向に延伸して、PTFE多孔質膜を得る。
【0003】
ところで、半導体工場のクリーンルームの空気清浄化に用いられるエアフィルタ濾材は、そのPF(Performance of filter)値が高いことが望まれている。掃除機や空気清浄機等の家庭用電気製品等に用いられるエアフィルタ濾材についても同様である。尚、PF値とは、捕集効率と圧力損失のバランスを示す尺度であり、PF値が大きな濾材ほど粒子の捕集効率は高く、かつ圧力損失は低い。
【0004】
PF値を高めるべく改良がなされたエアフィルタ濾材(例えば、特許文献1、特許文献2参照)では、捕集効率を高めるために平均孔径を極めて小さく(例えば0.5μm以下)しており、平均孔径を小さくしたことによる圧力損失の増大を抑制するために、PTFE多孔質膜の厚さを、例えば10μm以下と極めて薄くしている。上記平均孔径やPTFE多孔質膜の厚さの制御、すなわち、PF値の制御は、延伸条件を変化させることにより行われている。
【特許文献1】特開平7−196831号公報
【特許文献2】国際公開番号WO94/16802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、延伸条件の制御のみでは、PF値の制御について限度があり、例えば、よりPF値が高いPTFE多孔質膜を作製することは困難であった。また、従来のPTFE多孔質膜は、上記のとおり圧力損失の増大の抑制のために、その厚さが極めて薄く設定されているので、長期使用に耐えず耐久性が良くないとう問題があった。長期使用を可能とするためには、PTFE多孔質膜についてある程度の厚さが必要である。
【0006】
本発明は、厚みが比較的厚くてもPF値が大きいPTFE多孔質膜の実現が可能な、PTFE多孔質膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のPTFE多孔質膜の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む殻内に前記熱可塑性樹脂の軟化点よりも沸点が低い揮発性膨張剤が封入された熱膨張性マイクロカプセルとポリテトラフルオロエチレン微粉末とを含む混合物をシート状物へ加工した後、前記シート状物を少なくとも1軸方向に、前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で延伸する工程を含み、前記工程において、前記シート状物を得た後に、前記揮発性膨張剤の沸点以上前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で、前記熱膨張性マイクロカプセルを加熱して、前記殻を膨張させることを特徴とする。
【0008】
本発明のPTFE多孔質膜は、中空粒子が分散され、下記式のPF値が15以上であることを特徴とする。
【0009】
(数1)
PF値=[−Log(透過率/100)/圧力損失(mmH2O)]×100
透過率=100−捕集効率
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱膨張性マイクロカプセルの殻の膨張により熱膨張性マイクロカプセルを中心に三次元的にミクロフィブリルが形成される。そのため、厚みが比較的厚くてもPF値が、例えば15以上と高い、PTFE多孔質膜を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明のPTFE多孔質膜およびその製造方法の一例を説明する。
【0012】
まず、例えば、PTFEファインパウダー(微粉末)に、熱膨張性マイクロカプセルと液状潤滑剤とを加えてペースト状の混合物とし、これを圧縮成形する。熱膨張性マイクロカプセルは、PTFEファインパウダー100重量部に対して、例えば、0.1〜50重量部、より好ましくは、0.1〜10重量部添加される。液状潤滑剤は、PTFEファインパウダー100重量部に対して、例えば、5〜50重量部添加される。圧縮形成は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力で行うと好ましい。
【0013】
次に、圧縮成形により得られた予備成形体を所定形状に押出成形する。押出成形により得られた成形体の形状について特に制限はないが、例えば、ロッド状、板状である。その後、例えば、上記成形体を圧延してシート状物とし、これを管状芯体にロール状に巻回する。次いで、シート状物を少なくとも1軸方向に延伸した後、揮発性膨張剤の沸点以上の温度で熱膨張性マイクロカプセルを加熱して、熱膨張性マイクロカプセルの殻を膨張させ、PTFE多孔質膜を得る。
【0014】
延伸により、PTFE多孔質膜には延伸方向に配向したミクロフィブリルが形成されるが、本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法では、熱膨張性マイクロカプセルの膨張により、熱膨張性マイクロカプセルを中心に放射状にミクロフィブリルが形成される。このように、本実施形態のPTFE多孔質膜の製造方法では、ミクロフィブリルが三次元的に形成されるので、後述の実施例において示すように、PTFE多孔質膜の厚みが比較的厚くても、PF値の高いPTFE多孔質膜を実現できる。尚、ミクロフィブリルの形成の程度、すなわち、PTFEの繊維化の程度は、熱膨張性マイクロカプセルの、PTFEファインパウダーに対する配合割合により調整できる。
【0015】
尚、熱膨張性マイクロカプセルの加熱は、所定形状の成形体を圧延してシート状物とした後であれば、延伸後に制限されず、延伸前、延伸中および延伸後から選ばれる少なくとも1つの段階で行えばよい。また、シート状物を2方向に延伸させる場合は、シート状物を1軸方向(例えば長手方向)に延伸した後に、熱膨張性マイクロカプセルを加熱して膨張させ、その後に2軸方向(例えば幅方向)に延伸してもよいし、2方向への延伸後に、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させてもよい。特には、シート状物を少なくとも1軸方向に延伸した後に、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるのが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの膨張が良好に行えるからである。
【0016】
熱膨張性マイクロカプセルを膨張させる直前のシート状物の厚みについては、熱膨張性マイクロカプセルが膨張可能である限り特に制限はないが、効率的な生産の観点からは0.5mm以下が好ましい。
【0017】
熱膨張性マイクロカプセルの加熱温度は、揮発性膨張剤の沸点以上であって、殻に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点未満、つまり熱膨張性マイクロカプセルの破裂温度以下である必要がある。
【0018】
熱膨張性マイクロカプセルの加熱方法としては、例えば、加熱炉内の高温雰囲気に曝し、または赤外線を照射する方法等が好ましい。これらは非接触の加熱方法であるため、加熱ムラが起きにくく、均一な加熱を行うことができる。また、熱膨張性マイクロカプセルの加熱は、乾燥機を用いて行ってもよいし、加熱ロールにシート状物(延伸中および延伸後のシート状物も含む)を沿わせることによって行ってもよい。
【0019】
尚、延伸条件は、適宜設定できるが、PTFEを軟化させて延伸しやすくするために行う延伸の際の加熱温度(延伸温度)は、熱膨張性マイクロカプセルを構成する殻に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点未満であることを要する。延伸温度が熱可塑性樹脂の軟化点以上であると、延伸中に熱膨張性マイクロカプセルが破裂して、熱膨張性マイクロカプセルの膨張による効果が十分に得られない恐れがあるからである。例えば、熱可塑性樹脂の軟化点が200℃である場合、例えば、シート状物の長手方向の長さが2倍〜30倍となるように、30℃以上200℃未満の温度で延伸し、次いで、シート状物の幅方向の長さが2倍〜30倍となるように、30℃以上200℃未満の温度で延伸する。尚、これらの温度は、シート状物表面の温度であり、加熱炉内の設定温度と等しい。また、延伸の際の加熱を利用して熱膨張性マイクロカプセルを膨張させることが可能であるように、マイクロカプセルの材料を選択すると、PTFE多孔質膜の製造が効率的に行え、好ましい。熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるための加熱を、延伸のための加熱と別に行う必要がないからである。
【0020】
PTFEファインパウダーとしては、例えば、乳化重合により得られた分子量600万以上のものを用いることができる。
【0021】
液状潤滑剤としては、PTFEファインパウダーの表面を濡らすことができ、溶剤による抽出や加熱により除去できるものであれば特に制限されず、例えば、流動パラフィン、ナフサ等の炭化水素を用いることができる。液状潤滑剤を加熱により除去する場合、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるための加熱により液状潤滑剤を除去してもよいし、マイクロカプセルを膨張させた後に、再加熱を行って液状潤滑剤を除去してもよい。
【0022】
熱膨張性マイクロカプセルとは、熱可塑性樹脂を含む殻内に、上記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度でガス状になる揮発性膨張剤が封入されたプラスチック微粒子のことである。熱膨張性マイクロカプセルは、揮発性膨張剤の沸点以上に加熱されると、殻内のガス圧が増し、殻がそのガス圧により膨張する。熱膨張性マイクロカプセルの殻の厚みは、膨張前において、通常、0.01μm〜1μmが適当である。
【0023】
殻に含まれる熱可塑性樹脂の重合性単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、スチレン、酢酸ビニル、α−メチルスチレン、クロロプレン、ネオプレン、ブタジエン等のビニル単量体が挙げられる。これらの重合性単量体はそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて重合され、殻を構成する熱可塑性樹脂として使用できる。
【0024】
揮発性膨張剤としては、上記熱可塑性樹脂の軟化点より沸点が低いものであれば特に制限されないが、沸点が、80℃〜200℃のものが適当である。そのような揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、石油エーテル、ヘプタン等の炭化水素、CCl3F等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。
【0025】
また、熱膨張性マイクロカプセルには、特開平11−60868号公報、特開2000−17103号公報、特公昭42−26524号公報、特開昭62−286534号公報、特開平9−19635号公報、特開平5−285376号公報に記載されたものも使用できる。
【0026】
以上のように、熱可塑性樹脂を含む殻内に上記熱可塑性樹脂の軟化点よりも沸点が低い揮発性膨張剤が封入された熱膨張性マイクロカプセルとPTFE微粉末とを含む混合物をシート状物へ加工した後、シート状物を少なくとも1軸方向に前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で延伸し、シート状物を得た後に、揮発性膨張剤の沸点以上熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で、熱膨張性マイクロカプセルを加熱することにより殻を膨張させて得たPTFE多孔質膜では、膨張後の熱膨張性マイクロカプセルが、中空粒子となってPTFE多孔質膜中に分散されている。
【0027】
上記PTFE多孔質膜の厚みは、通常、20μm〜500μmであり、PF値は15〜40であり、圧力損失は5mmH2O〜30mmH2Oである。本実施形態のPTFE多孔質膜は、厚みが比較的厚いので耐久性が高く長期使用可能であり、かつ、PF値が高いので、例えば、エアフィルタ濾材として有用である。
【0028】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。尚、圧力損失、捕集効率、PF値、濾材の厚み、および軟化点は、下記の方法に従って測定した。
【0029】
(1)圧力損失
サンプルを有効面積が100cm2となるように円形ホルダーにセットし、入口側から大気塵を供給しつつ、入口側と出口側に圧力差を与え、このサンプルを通過する空気の透過速度を流量計で5.3cm/sに調整した。この状態で、圧力損失(初期値)を圧力計(マノメーター)で測定した。尚、大気塵とは、雰囲気中に浮遊している塵埃をいう。
【0030】
(2)捕集効率
圧力損失の測定方法と同様にしてサンプルをセットした。そして、サンプルを通過する空気の透過速度を5.3cm/sにして、サンプルの上流側に、粒径0.1μm〜0.15μmの多分散ジオクチルフタレート(以下「DOP」という。)粒子を、濃度が107個/リットルとなるように供給した。上流側のDOP粒子濃度(個/リットル)と、サンプルを透過してきた下流側のDOP粒子濃度(個/リットル)とをパーティクルカウンターで測定して下記式(数2)により捕集効率を求めた。
【0031】
(数2)
捕集効率(%)=(1−(下流側の粒子濃度/上流側の粒子濃度))×100
(3)PF値
PF値は、上記式(数1)によって算出した。
【0032】
(4)濾材の厚み
ダイアルシックネスゲージ(測定子径:10mmφ、最少目盛り:1μm)を用いて、厚みを3点測定し、その平均値を求めた。
【0033】
(5)軟化点
JIS K 7196に規定された熱機械分析法(TMA法)により測定した。
【実施例1】
【0034】
PTFEファインパウダー(旭硝子フロロポリマーズ(株)製、フルオンCD123)100重量部に対して、液状潤滑剤(エッソ石油(株)製、「アイソパーM」)25重量部と、熱膨張性マイクロカプセル(大日精化(株)製、「ダイフォーム」、殻に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点:200℃、揮発性膨張剤の沸点:150℃)6重量部とを均一に混合してペースト状とし、このペースト状の混合物を約2.0MPaの圧力で圧縮成形した。得られた予備成形体を押出法によりロッド状の成形体に加工し、この成形体を1対の金属製圧延ロール間に通して、厚さ0.2mm、幅150mmのシート状物を得た。
【0035】
次いで、シート状物を80℃に加熱して、シート状物から液状潤滑剤を除去し、液状潤滑剤が除去されたシート状物をロール状に巻回した。
【0036】
巻回されたシート状物を、ロール延伸法により、その長さが長手方向に5倍になるように、100℃で延伸し、続いて、テンターを用いて、その長さが幅方向に10倍になるように、120℃で延伸した。その後、熱膨張性マイクロカプセルを180℃で10分間加熱して、熱膨張性マイクロカプセルの殻を膨張させ、PTFE多孔質膜を得た。熱膨張性マイクロカプセルの加熱には、乾燥機を用いた。
【実施例2】
【0037】
巻回されたシート状物を、ロール延伸法により、長手方向に10倍になるように、50℃で延伸し、続いて、テンターを用いて、その長さが幅方向に10倍になるように、170℃で延伸したこと以外は、実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【実施例3】
【0038】
巻回されたシート状物を、ロール延伸法により、長手方向に15倍になるように、190℃で延伸しながら熱膨張性マイクロカプセルを膨張させ、続いて、テンターを用いて、その長さが幅方向に10倍になるように、180℃で延伸しながら熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて、PTFE多孔質膜を得た。尚、熱膨張性マイクロカプセルの加熱時間は約30秒間となるようにした。
【実施例4】
【0039】
シート状物から液状潤滑剤を除去した後、液状潤滑剤が除去されたシート状物について長手方向および幅方向の延伸を行う前に、熱膨張性マイクロカプセル(シート状物)を150℃で20分間加熱して、熱膨張性マイクロカプセルの殻を膨張させたこと以外は実施例1と同様にしてPTFE多孔質膜を作製した。
【実施例5】
【0040】
PTFEファインパウダー(旭硝子フロロポリマーズ(株)製、フルオンCD123)100重量部に対して、液状潤滑剤(エッソ石油(株)製、「アイソパーM」)25重量部と、熱膨張性マイクロカプセル(大日精化(株)製、「ダイフォーム」、殻に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点:200℃、揮発性膨張剤の沸点:150℃)10重量部とを均一に混合してペースト状とし、このペースト状の混合物を約2.0MPaの圧力で圧縮成形した。得られた予備成形体を押出法によりロッド状の成形体に加工し、この成形体を1対の金属製圧延ロール間に通して、厚さ0.2mm、幅150mmのシート状物を得た。
【0041】
次いで、シート状物を100℃に加熱して、シート状物から液状潤滑剤を除去し、液状潤滑剤が除去されたシート状物をロール状に巻回した。
【0042】
巻回されたシート状物を、ロール延伸法により、その長さが長手方向に5倍になるように、140℃で延伸し、続いて、テンターを用いて、その長さが幅方向に10倍になるように、160℃で延伸しながら熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて、PTFE多孔質膜を得た。尚、熱膨張性マイクロカプセルの加熱時間は約1分間となるようにした。
【実施例6】
【0043】
熱膨張性マイクロカプセルの配合割合を、PTFEファインパウダー100重量部に対して、1重量部とし、シート状物を、その長さが長手方向に30倍になるように、50℃で延伸し、続いて、その長さが幅方向に10倍になるように、160℃で延伸しながら熱膨張性マイクロカプセルを膨張させたこと以外は実施例5と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【0044】
(比較例1)
熱膨張性マイクロカプセルを添加しないこと以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【0045】
(比較例2)
熱膨張性マイクロカプセルを添加しないこと以外は実施例2と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【0046】
(比較例3)
長手方向への延伸の温度を250℃としたこと以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【0047】
(比較例4)
幅方向への延伸の温度を350℃としたこと以外は実施例5と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【0048】
(比較例5)
熱膨張性マイクロカプセルに代えて、化学発泡剤(永和化成(株)製、「DW#6」)を用い、シート状物について長手方向および幅方向への延伸を行った後に、化学発泡剤を220℃で10分間加熱して、化学発泡剤を発泡させた。以上のこと以外は、実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜を作製した。
【0049】
図1に、実施例1のPTFE多孔質膜の走査型電子顕微鏡による観察図を、図2に比較例1のPTFE多孔質膜の走査型電子顕微鏡による観察図を示している。図1に示すように、膨張した熱膨張性マイクロカプセルは、PTFE多孔質膜の結節部(ノード)やミクロフィブリルを押しのけて存在している。図1に示したPTFE多孔質膜と図2に示したPTFE多孔質膜とを比較すると、図2に示したPTFE多孔質膜では、ミクロフィブリルは、延伸方向にのみ配向しているが、図1に示したPTFE多孔質膜では、延伸方向に配向したミクロフィブリルのみならず、厚み方向に配向したミクロフィブリルが、結節部から部分的ではあるが存在しており、ミクロフィブリルが三次元的に形成されていた。これは、熱膨張性マイクロカプセルの膨張に起因するものと思われる。尚、厚み方向に配向したミクロフィブリルには、厚み方向とほぼ等しい方向に配向したミクロフィブリルも含まれる。
【0050】
表1に、実施例および比較例のPTFE多孔質膜の圧力損失、捕集効率、PF値、厚みを示している。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例1〜6のPTFE多孔質膜は、比較例1〜5のPTFE多孔質膜よりも、厚みが厚いにもかかわらずPF値が、同等若しくは高い。実施例1〜6のPTFE多孔質膜の厚みは20μm以上であり、PF値は15以上である。この結果は、熱膨張性マイクロカプセルが膨張したことによって、3次元的にミクロフィブリルが形成されたことに起因しているものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法によって製造されたPTFE多孔質膜は、厚みが厚いにもかかわらずPF値が高いので、例えば、エアフィルタ濾材の材料として用いれば、高性能で高耐久性を有するエアフィルタ濾材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1のPTFE多孔質膜の走査型電子顕微鏡による観察図
【図2】比較例1のPTFE多孔質膜を走査型電子顕微鏡による観察図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法であって、
熱可塑性樹脂を含む殻内に前記熱可塑性樹脂の軟化点よりも沸点が低い揮発性膨張剤が封入された熱膨張性マイクロカプセルとポリテトラフルオロエチレン微粉末とを含む混合物をシート状物へ加工した後、前記シート状物を少なくとも1軸方向に、前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で延伸する工程を含み、
前記工程において、前記シート状物を得た後に、前記揮発性膨張剤の沸点以上前記熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度で、前記熱膨張性マイクロカプセルを加熱して、前記殻を膨張させることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
中空粒子が分散されており、下記式のPF値が15以上であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
PF値=[−Log(透過率/100)/圧力損失(mmH2O)]×100
透過率=100−捕集効率
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜は、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法にて製造された請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項4】
5.3cm/sの流速で空気を透過させたときの圧力損失が5mmH2O〜30mmH2Oである請求項2または3に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかの項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いたことを特徴とするエアフィルタ濾材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−112942(P2007−112942A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307553(P2005−307553)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】