説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法と通気部材

【課題】通気量および強度が高いレベルで両立したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を製造するPTFE多孔質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】未焼成のPTFEシートを、PTFEの融点未満の温度において所定の方向へ延伸し、前記延伸したシートを前記融点以上の温度で熱処理した後、前記熱処理後のシートを、前記融点未満の温度において、前記所定の方向に対して直交する方向にさらに延伸する。この方法により得たPTFE多孔質膜は、高い通気量および強度を有する。当該PTFE多孔質膜は、筐体の開口部に固定され、筐体内部への異物の侵入を防ぎながら筐体の通気性を確保する通気部材としての用途に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法に関する。また、本発明は、当該製造方法により得たポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を備える通気部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ランプ、圧力センサー、ECU(Electrical Control Unit)などの車両用電装部品ならびに携帯電話、カメラなどの電気製品の筐体に、筐体内外の通気を確保するとともに、筐体内部への水および塵芥などの異物の侵入を防ぐ通気部材が取り付けられている。このような通気部材は、気体を透過させるが異物を透過させない通気膜により実現される。通気膜には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜が好適である。
【0003】
PTFE多孔質膜の製造方法として、未焼成のPTFEシートを逐次二軸延伸する方法が広く採用されている。この方法により得られたPTFE多孔質膜は、延伸により生じた無数のPTFEフィブリルと当該フィブリル間の空隙とからなる多孔質構造を有する。
【0004】
逐次二軸延伸によりPTFE多孔質膜を得る具体的な方法として、特開平7-196831号公報には、未焼成のPTFEシートをPTFEの融点未満の温度にて逐次二軸延伸した後、PTFEの融点以上の温度で熱処理する方法が開示されている。特開2007-260547号公報には、未焼成のPTFEシートに対して、逐次二軸延伸の一段目の延伸をPTFEの融点以上の温度にて行い、次いで、二段目の延伸をPTFEの融点未満の温度にて、一段目の延伸とは異なる方向に行った後、PTFEの融点以上の温度で熱処理する方法(焼成延伸法)が開示されている。特表平11-515036号公報には、未焼成のPTFEシートに対して、逐次二軸延伸の一段目の延伸をPTFEの融点未満の温度にて行い、次いでPTFEの融点以上の温度で熱処理した後、二段目の延伸をPTFEの融点以上の温度にて行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-196831号公報
【特許文献2】特開2007-260547号公報
【特許文献3】特表平11-515036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平7-196831号公報および特表平11-515036号公報に開示の方法では、逐次二軸延伸における各延伸の倍率を高く設定することで、通気量が大きいPTFE多孔質膜が得られる一方、得られたPTFE多孔質膜における強度が低下する。焼成延伸法では、高強度のPTFE多孔質膜が得られる一方で、通気量が大きいPTFE多孔質膜を得ることが難しい。
【0007】
本発明は、高通気量および高強度を両立させたPTFE多孔質膜を製造できるPTFE多孔質膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のPTFE多孔質膜の製造方法は、未焼成のPTFEシートを、PTFEの融点未満の温度において所定の方向へ延伸し(延伸A)、前記延伸したシートを、前記融点以上の温度で熱処理した後、前記熱処理後のシートを、前記融点未満の温度において、前記所定の方向に対して直交する方向にさらに延伸する(延伸B)方法である。
【0009】
本発明の通気部材は、筐体の開口部に固定された状態で、前記開口部を通過する気体が透過する通気膜と、前記通気膜を支持する支持体と、を備える。前記通気膜は、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法により得たPTFE多孔質膜を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPTFE多孔質膜の製造方法によれば、高通気量および高強度を両立させたPTFE多孔質膜が得られる。
【0011】
このような特性を有するPTFE多孔質膜は、通気部材の通気膜としての用途に好適である。当該PTFE多孔質膜を有する通気膜を備える本発明の通気部材は、筐体の開口部への取り付けによって、筐体内外の高い通気性を実現するとともに、筐体内部への水および塵芥などの異物の侵入をより確実に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の通気部材の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例において実施した、PTFE多孔質膜の厚さ方向の強度を評価する方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[延伸A]
延伸Aでは、未焼成のPTFEシートを、PTFEの融点未満の温度において延伸する。未焼成のPTFEシートに対するこのような延伸が可能である限り、延伸Aの具体的な手法は特に限定されない。例えば、PTFEの融点未満の温度に保持した加熱炉を用いて、未焼成のPTFEシートを延伸すればよい(ゾーン延伸法)。ゾーン延伸法では、PTFEシートが加熱炉内に位置する時間を適切に設定することで、PTFEシートを上記融点未満の温度において延伸できる。延伸Aは、PTFEの融点未満の温度に加熱した加熱ロールを用いた熱ロール法により行ってもよい。
【0014】
延伸Aの延伸方向(上記所定の方向)は、PTFEシートの面内におけるいずれかの方向であり、具体的な方向は特に限定されないが、未焼成のPTFEシートが押出工程および/または圧延工程を経て得たシートである場合、例えば、当該各工程におけるMD方向(Machine Direction:押出方向、圧延方向)である。未焼成のPTFEシートが帯状である場合、例えば、その長手方向である。
【0015】
延伸Aの延伸温度は、340℃未満であり、好ましくは327℃未満である。延伸温度の下限は、例えば150℃であり、これ以下ではPTFE多孔質膜自体を得ることが難しくなる。延伸Aの延伸温度がPTFEの融点以上になると、延伸B後に最終的に得られたPTFE多孔質膜の強度が低下する。延伸Aの延伸温度は、150℃以上327℃未満が好ましい。
【0016】
延伸Aの延伸倍率の上限は、40倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましい。延伸倍率の下限は、例えば1.2倍であり、2倍以上が好ましい。延伸Aの延伸倍率は、2〜40倍が好ましい。延伸Aの延伸倍率が過度に大きいと、延伸B後に最終的に得られたPTFE多孔質膜の強度が低下する。
【0017】
延伸Aでは、未焼成のPTFEシートにおいて、その延伸の方向に伸びるフィブリルが形成されるとともに、PTFEが部分的に凝集したノードが形成されると考えられる。
【0018】
[熱処理]
本発明の製造方法では、延伸A後のPTFEシートを、PTFEの融点以上の温度に加熱して熱処理する。熱処理の具体的な手法は特に限定されず、例えば、PTFEの融点以上の温度に保持した加熱炉に、延伸A後のPTFEシートを収容すればよい。当該PTFEシートが加熱炉に収容される時間を適切に設定することにより(通常5秒以上、好ましくは10秒以上200秒以下)、当該PTFEシートをPTFEの融点以上の温度で熱処理できる。PTFEの融点以上の温度に加熱した加熱ロールを用いて、熱処理を行ってもよい。
【0019】
熱処理温度は、340℃以上であり、350℃以上400℃以下が好ましい。
【0020】
熱処理は、延伸Aに続いて連続的に行ってもよい。
【0021】
熱処理では、PTFEシートにおけるフィブリルの統合が進行すると考えられる。これにより、延伸Aにより形成されたPTFEフィブリルの径が太くなって、最終的に高強度のPTFE多孔質膜が得られることになる。
【0022】
なお、必要に応じて、延伸A後のPTFEシートを熱処理しながら、延伸Aと同一の方向(上記所定の方向)にさらに延伸してもよい。この熱処理に伴う延伸の延伸倍率は、最大でも2倍以下とする。
【0023】
[延伸B]
本発明の製造方法では、熱処理後のPTFEシートを、PTFEの融点未満の温度において、延伸Aの方向に対して直交する方向にさらに延伸する。熱処理後のPTFEシートに対するこのような延伸が可能である限り、延伸Bの具体的な手法は特に限定されず、例えば、延伸Aにおいて説明したゾーン延伸法を適用できる。
【0024】
延伸Bの延伸方向は、PTFEシートの面内方向であって、延伸Aの方向と直交する方向である限り特に限定されない。延伸Aを行う前の未焼成のPTFEシートが押出工程および/または圧延工程を経て得たシートである場合、例えば、当該各工程におけるTD方向(Transverse Direction)である。延伸A前の未焼成のPTFEシートが帯状である場合、例えば、その幅方向である。帯状のシートをその幅方向に延伸するためには、例えば、テンター法を用いればよい。シートが矩形状である場合、二軸延伸機を使用することもできる。
【0025】
本発明の製造方法では、延伸Aを行う前の未焼成のPTFEシートが帯状であり、延伸Aの方向(所定の方向)が当該帯状のシートの長手方向であり、延伸Bの方向(所定の方向に直交する方向)が当該帯状のシートの幅方向であってもよい。
【0026】
延伸Bの延伸温度は、340℃未満であり、好ましくは327℃未満である。延伸温度の下限は、例えば50℃であり、これ以下では、熱処理により統合したフィブリル間の間隔を増大させて高通気量のPTFE多孔質膜を得ることが難しくなる。延伸Bの延伸温度がPTFEの融点以上になると、得られたPTFE多孔質膜の強度が低下する。延伸Bの延伸温度は、50℃以上327℃未満が好ましい。
【0027】
延伸Bの延伸倍率の上限は、40倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましい。延伸倍率の下限は、例えば1.2倍であり、2倍以上が好ましい。延伸Bの延伸倍率は、2〜40倍が好ましく、2〜10倍がより好ましく、2〜6倍がさらに好ましい。延伸Bの延伸倍率が過度に大きいと、膜が破断することがある。延伸Bの延伸倍率が過度に小さいと、最終的に得られたPTFE多孔質膜の強度が低下する。
【0028】
即ち、本発明の製造方法では、延伸Aの(所定の方向への)延伸倍率が2倍以上40倍以下であり、延伸Bの(所定の方向とは直交する方向への)延伸倍率が2倍以上40倍以下であることが好ましい。
【0029】
延伸Bは、熱処理に続いて連続的に行ってもよい。
【0030】
延伸Bでは、熱処理後のPTFEシートにおいて、熱処理により統合したフィブリル間の間隔が増大して、シートの強度が確保されたまま、その通気性が向上する。
【0031】
[未焼成のPTFEシート]
本発明の製造方法に用いる未焼成のPTFEシートの形成方法は特に限定されない。例えば、PTFE微粉末(ファインパウダー)と液状潤滑剤との混合物を、押出および圧延から選ばれる少なくとも1つの方法によりシートに成形すればよい。
【0032】
PTFE微粉末の種類は特に限定されず、市販の製品を用いることができる。市販のPTFE微粉末は、例えば、ポリフロンF−104(ダイキン工業製)、フルオンCD−123(旭・ICIフロロポリマーズ社製)、テフロン6J(三井・デュポンフロロケミカル社製)である。
【0033】
液状潤滑剤の種類は、PTFE微粉末の表面を濡らすことが可能であり、上記混合物をシートに成形した後に、蒸発や抽出などの手段によって除去可能な物質である限り、特に限定されない。液状潤滑剤は、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油であり、各種のアルコール類、ケトン類、エステル類などを用いることもできる。
【0034】
PTFE微粉末と液状潤滑剤との混合比は、PTFE微粉末および液状潤滑剤の種類あるいはPTFEシートの形成方法に応じて適宜調整でき、通常、PTFE微粉末100重量部に対して、液状潤滑剤が5〜50重量部程度である。
【0035】
押出および/または圧延の具体的な方法は特に限定されない。例えば、上記混合物をロッド状に押出成形した後、得られたロッド状の成形体を一対のロールにより圧延してシートに成形してもよい。あるいは、上記混合物をそのままシートに押出成形してもよいし、シートに押出成形した後に、さらに圧延を加えてもよい。
【0036】
未焼成のPTFEシートの厚さは、得たいPTFE多孔質膜の厚さに応じて適宜調整すればよく、通常、0.05〜0.5mm程度である。
【0037】
液状潤滑剤は、延伸Aを行う前に、加熱あるいは抽出などの手法によりPTFEシートから除去することが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法では、延伸A、延伸Bおよび熱処理の温度、延伸AおよびBの延伸倍率、ならびに未焼成のPTFEシートの厚さなどを調整することにより、以下に示す特性を有するPTFE多孔質膜が得られる。
【0039】
[通気量]
本発明の製造方法では、JIS P8117に準拠して測定したガーレー通気度にして、3秒/100mL以下、好ましくは2秒/100mL以下のPTFE多孔質膜を形成できる。
【0040】
[強度]
本発明の製造方法では、実施例に記載の方法により測定した面内強度にして、20MPa以上、好ましくは24MPa以上のPTFE多孔質膜を形成できる。また、実施例に記載の方法により測定した厚さ方向の強度にして、10N/25mm以上、好ましくは11N/25mm以上のPTFE多孔質膜を形成できる。
【0041】
[通気部材]
本発明の通気部材は、上述した本発明の製造方法により得たPTFE多孔質膜を有する通気膜を備える。本発明の製造方法により得たPTFE多孔質膜は、高通気性および高強度である。このようなPTFE多孔質膜を有する当該通気膜は、高い通気性を有するとともに、水および塵芥などの異物の透過をより確実に防ぐ、即ち、例えば、高い耐水性を示す。本発明の通気部材は、当該部材が備えるPTFE多孔質膜および通気膜のこのような特性に基づき、筐体の開口部への取り付けによって、筐体内外の高い通気性を実現するとともに、筐体内部への異物の侵入をより確実に抑制する。
【0042】
本発明の通気部材が備える通気膜は、本発明の製造方法により得たPTFE多孔質膜以外の層を有していてもよい。当該層は、例えば、PTFE多孔質膜を支持する通気性支持材である。この場合、通気膜の強度が向上し、当該通気膜を備える通気部材の寿命が長くなる。
【0043】
PTFE多孔質膜および通気性支持材を有する通気膜は、両者を重ね合わせて、あるいは接着ラミネート、熱ラミネートなどの手法により一体化して製造できる。
【0044】
通気性支持材の材料、構造は、本発明の製造方法により得たPTFE多孔質膜よりも通気性に優れる限り、特に限定されない。
【0045】
通気性支持材の構造は、例えば、フェルト、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)である。強度、柔軟性および製造工程における作業性に優れることから、不織布からなる通気性支持材が好ましく、この場合、不織布を構成する少なくとも一部の繊維が、いわゆる芯鞘構造を有する複合繊維であることが好ましい。芯成分の融点が鞘成分の融点よりも高い芯鞘構造を有する場合、通気膜を製造する際における通気性支持材とPTFE多孔質膜との加熱圧着が容易となる。
【0046】
通気性支持材の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエステル;ナイロンなどのポリアミド、芳香族ポリアミド;ならびにこれらの複合材である。通気性支持材として、フッ素系樹脂、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の多孔質膜を用いてもよい。
【0047】
図1に、本発明の通気部材の一例を示す。図1に示す通気部材1は、上述した本発明の製造方法により得たPTFE多孔質膜を有する通気膜2と、通気膜2を支持する支持体3とを備える。通気膜2は、筒状の支持体3の一方の開口を覆うように、支持体3に接合されている。支持体3の他方の開口に筐体11の開口部12が挿入されることによって、通気部材1は、筐体11の開口部12に固定されている。通気部材1が開口部12に固定されている状態で、気体は、通気膜2、支持体3の内部および開口部12を通って、筐体11の内部から外部へ、あるいは外部から内部へと流れる。気体の経路に通気膜2が存在するために、水および塵芥などの異物の筐体11内部への侵入が抑制される。
【0048】
図1に示す通気部材1は、保護カバー4をさらに備える。保護カバー4は、筐体11外部と通気膜2との間で気体の経路が確保されるように、支持体3に固定されている。保護カバー4は、比較的大きな異物が通気膜2に衝突して、通気膜2が破損することを防ぐ。
【0049】
支持体3および保護カバー4は、典型的には、樹脂により構成される。支持体3は、常温において可撓性を有する樹脂またはエラストマーにより構成されることが好ましく、この場合、筐体11の開口部12への固定が容易かつ確実となる。
【0050】
本発明の通気部材の構成は、図1に示す例に限定されない。本発明の効果が得られる限り、本発明の通気部材は、任意の構成を有することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0052】
本実施例では、製造方法を変化させることで4種類のPTFE多孔質膜を作製し(実施例1種類、比較例3種類)、作製したPTFE多孔質膜の通気量および強度を評価した。
【0053】
PTFE多孔質膜における特性の評価方法を示す。
【0054】
[通気量]
通気量としてPTFE多孔質膜のガーレー通気度(秒/100mL)を、JIS P8117に準拠し、自動ガーレー式デンソメーターを用いて評価した。
【0055】
[強度]
PTFE多孔質膜の強度として、その面内方向および厚さ方向のそれぞれの強度を、以下のように評価した。なお、強度を評価した面内方向は、圧延により得た延伸前のPTFEシートにおける圧延方向(MD方向)である。また、面内方向の強度は引張強度、厚さ方向の強度は引き剥がし強度である。
【0056】
・面内方向(MD方向)の強度
面内方向の強度(MPa)は、PTFE多孔質膜に対してテンシロン(オリエンテック製、UTM-III-100)を用いた引張試験を行うことで評価した。引張試験の条件は、以下のとおりである:サンプル形状は幅10mmの短冊、チャック間距離は20mm、引張速度は200mm/分、測定温度は25℃。
【0057】
・厚さ方向の強度
厚さ方向の強度(N/25mm)は、次のように求めた。最初に、評価対象であるPTFE多孔質膜を、TD方向が幅方向となるように、幅25mmの短冊状に加工した。これとは別に、幅25mmの短冊状に加工した接着フィルム(東セロ製、アドマーQE-060)およびアルミシートを準備し、PTFE多孔質膜を、当該接着フィルムを介して一対の当該アルミシートにより挟持した。このとき、PTFE多孔質膜、接着フィルムおよびアルミシートの幅方向および長手方向を揃えた。また、アルミシートの長さをPTFE多孔質膜の長さよりも長くすることで、各アルミシートに、接着フィルムを介してPTFE多孔質膜に接しない部分を設けた。次に、各層を、200℃、2秒の加熱により熱溶着させ、アルミシート103/接着フィルム102/PTFE多孔質膜101/接着フィルム102/アルミシート103の積層体(幅25mmの短冊状、図2(a)参照)を形成した。
【0058】
次に、図2(b)に示すように、アルミシート103におけるPTFE多孔質膜101に接しない部分103aを持ち手として、各アルミシート103を、互いに逆の方向に引っ張った。引っ張る力を強くしていくと、ある時点で、図2(c)に示すようにPTFE多孔質膜101が裂け始めるが、この時点においてアルミシート103に加えた力を、PTFE多孔質膜の厚さ方向の強度(N/25mm)とした。
【0059】
(実施例1)
PTFEファインパウダー(ダイキン工業製、ポリフロンF104)100重量部と、液状潤滑剤としてドデカン19重量部とを均一に混合し、PTFEファインパウダーと液状潤滑剤との混合物であるPTFEペーストを形成した。次に、形成したPTFEペーストを、2MPa(20kg/cm2)の圧力でロッド状に押出成形し、さらに1対の金属ロールにより圧延して、帯状のPTFEシートを形成した。次に、形成したPTFEシートから、120℃、3分の熱乾燥によって液状潤滑剤を除去した。
【0060】
このようにして得た未焼成かつ未延伸のPTFEシートを、ゾーン延伸法により、そのMD方向(長手方向)に、延伸温度300℃、延伸倍率4倍で延伸した後に、380℃で30秒間、熱処理した。次に、熱処理後のPTFEシートを、ゾーン延伸法により、そのTD方向(幅方向)に、延伸温度100℃、延伸倍率5倍で延伸して、PTFE多孔質膜を得た。なお、MD方向の延伸には、回転速度が異なる一対のロールを用いた。この場合、延伸倍率は、実質的に双方のロールの回転速度の比により示される。TD方向の延伸は、テンター法により行った。延伸方法は、以降の比較例においても同様である。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同様にして得た未焼成かつ未延伸のPTFEシートを、ゾーン延伸法により、そのMD方向(長手方向)に、延伸温度300℃、延伸倍率4倍で延伸した後に、引き続きそのTD方向(幅方向)に、延伸温度200℃、延伸倍率5倍で延伸した。次に、延伸後のPTFEシートを、380℃で60秒間、熱処理して、特開平7-196831号公報に開示の方法に基づくPTFE多孔質膜を得た。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様にして得た未焼成かつ未延伸のPTFEシートを、ゾーン延伸法により、そのMD方向(長手方向)に、延伸温度380℃、延伸倍率4倍で延伸した。次に、延伸後のPTFEシートを、380℃で60秒間、熱処理した。次に、熱処理後のPTFEシートを、そのTD方向(幅方向)に、延伸温度300℃、延伸倍率5倍で延伸して、特開2007-260547号公報に開示の方法(焼成延伸法)に基づくPTFE多孔質膜を得た。
【0063】
(比較例3)
実施例1と同様にして得た未焼成かつ未延伸のPTFEシートを、ゾーン延伸法により、そのMD方向(長手方向)に、延伸温度300℃、延伸倍率4倍で延伸した後に、380℃で30秒間、熱処理した。次に、熱処理後のPTFEシートを、ゾーン延伸法により、そのTD方向(幅方向)に、延伸温度380℃、延伸倍率5倍で延伸して、特表平11-515036号公報に開示の方法に基づくPTFE多孔質膜を得た。
【0064】
実施例および比較例で作製した各PTFE多孔質膜について、その通気量および強度の評価結果を以下の表1に示す。また、実施例および比較例3について、MD方向への延伸および熱処理を行った後、TD方向への延伸を行う前の時点におけるPTFEシートの通気量および面内強度の評価結果を、中間物における通気量および面内強度として、併せて表1に示す。さらに比較例2について、PTFEの融点以上の温度におけるMD方向への延伸を行った後、TD方向への延伸を行う前の時点におけるPTFEシートの通気量および面内強度の評価結果を、中間物における通気量および面内強度として、併せて表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すように、比較例に比べて実施例では、高通気量かつ高強度のPTFE多孔質膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のPTFE多孔質膜の製造方法によれば、通気量と強度とを高いレベルで両立させたPTFE多孔質膜が得られ、このようなPTFE多孔質膜は、通気部材の通気膜としての用途に好適である。
【符号の説明】
【0068】
1 通気部材
2 通気膜
3 支持体
4 保護カバー
11 筐体
12 開口部
101 PTFE多孔質膜
102 接着フィルム
103 アルミシート
103a 持ち手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未焼成のポリテトラフルオロエチレンシートを、ポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度において所定の方向へ延伸し、
前記延伸したシートを、前記融点以上の温度で熱処理した後、
前記熱処理後のシートを、前記融点未満の温度において、前記所定の方向に対して直交する方向にさらに延伸する、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成のポリテトラフルオロエチレンシートが帯状であり、
前記所定の方向が、当該シートの長手方向であり、
前記直交する方向が、当該シートの幅方向である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記所定の方向への延伸倍率が、2〜40倍であり、
前記直交する方向への延伸倍率が、2〜40倍である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレン微粉末と液状潤滑剤との混合物を、押出および圧延から選ばれる少なくとも1つの方法によりシートに成形して、前記未焼成のポリテトラフルオロエチレンシートを得る、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
筐体の開口部に固定された状態で、前記開口部を通過する気体が透過する通気膜と、
前記通気膜を支持する支持体と、を備える通気部材であって、
前記通気膜が、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得たポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を有する通気部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178970(P2011−178970A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47328(P2010−47328)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】