説明

ポリテトラフルオロエチレン繊維

【課題】高速で縫製されるのに適するPTFE繊維を提供すること。
【解決手段】この繊維は、約0.36グラム/デニール(g/d)を上回る靱性を有する。靱性の範囲は約0.36〜約1.01g/dであり、好ましい範囲は約0.50〜約0.80g/dである。本発明の繊維の靱性は、最も好ましくは約0.60g/dである。本発明の繊維は、約1.6g/dを上回るピーク工学応力と約15.5%を上回る破断歪みを有する。ピーク工学応力の好ましい範囲は約3.0〜約5.0g/dであり、破断歪みの好ましい範囲は約20%〜約50%である。最も好ましくは、ピーク工学応力は約4.4g/dであり、破断歪みは約24%である。もう1つの局面において、本発明は、PTFE繊維を提供し、約70%以下のオーバーフィードでそのPTFE繊維をオーバーフィードしながら、そのPTFE繊維を約300℃〜約500℃の温度に加熱するプロセスを提供する。好ましい温度範囲は約350℃〜約450℃であり、そのオーバーフィード工程におけるオーバーフィードの好ましい範囲は約10%〜約20%である。最も好ましくは、その加熱工程における温度が約400℃であり、そのオーバーフィード工程におけるオーバーフィードが約15%である。PTFE繊維は、改良されたデンタルフロスのフィラメントとして使用することができ、改良されたベアリング材料としても適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、より詳しくは、改良された靱性を有するPTFE繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE繊維は、PTFEの丈夫な物理的特性のため、多くの厳しい条件の用途に使用される。これは、優れた高温と低温の性能、耐薬品性、紫外線の暴露に対する抵抗性を有有する。PTFE繊維の代表的な用途には、デンタルフロス、ベアリング、また、製織、編組、編成、ニードルパンチなどの広範囲な製布プロセスから製造される布帛としての用途が挙げられる。また、PTFE繊維は縫糸として使用される。
【0003】
PTFE縫糸は、一般に、PTFE繊維を作成又は入手し、それを長手方向に撚りを入れてほぼ丸い横断面とし、次いで、繊維のその撚りを恒久的に固定するように、その撚りを入れた繊維を高温に曝すことによって製造される。これらの方法には、マルチフィラメントのエマルジョン紡糸(例えば、米国特許第2772444号に記載)、ペースト押出と延伸膨張(例えば、米国特許第3953566号に記載)、ペースト押出と溶融伸長(例えば、米国特許第5167890号に記載)が挙げられる。
【0004】
上記のいずれかの方法によって製造される縫糸は、一般に、縫製することが困難である。例えば、エマルジョン紡糸したマルチフィラメントPTFEから製造される縫糸は、別なPTFE縫糸の強度の約半分以下である。このため、このエマルジョン紡糸PTFEを用いて縫製すると、その間に糸が切れることが非常に多い。また、この材料は、茶色又は白色(茶色を漂白)でのみ入手可能である。
【0005】
いずれかのペースト押出法から得られる縫糸は、エマルジョン紡糸材料よりも強度があるが、特に、通常のポリエステル縫糸に比較すると縫製が難しい。PTFE繊維を取り扱うために縫製機を調整するとき、注意を払う必要がある。特に重要なことは、糸の張力の調節、機械のタイミング、糸の潤滑、針の選択である。これらの工程で注意を払ったとしても、PTFE縫糸の破断が生じることがある。
【0006】
ポリエステル縫糸は、糸の機械的特性のおかげて縫製において丈夫である。とりわけ、ポリエステル糸の「靱性」(本願で定義する意味において)、一般的なPTFE糸よりはるかに高く現れる。縫製プロセスは、割合に高い周波数(約1000回/分を超える)の引張負荷を縫糸に与える。縫製速度を高めると、この負荷の周波数は、それに応じて高くなる。本願で縫製について指称する「高い速度」とは、ロックステッチ縫製機で1500針/分以上であることを意味する。
【0007】
縫糸が縫製プロセスの際に張力を受けると、弾性と非弾性の変形の双方によって反応する(一時的と恒久的な縫い)。理論に束縛されるつもりはないが、ポリエステルの高レベルの靱性のため、ポリエステル縫糸は、同等な条件下で、PTFE縫糸よりも破断頻度がはるかに少ないことが可能である。この高い靱性は、ポリエステル縫糸が、縫糸の縫い付けによる縫製の間の引張負荷をより迅速に吸収することを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高い靱性を有するPTFE繊維が多くの用途で望まれている。とりわけ、高速で縫製されるのに適するPTFE繊維が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、約0.36グラム/デニール(g/d)を上回る靱性を有するPTFE繊維を提供する。靱性の範囲は約0.36g/d〜約1.01g/dであり、好ましい範囲は約0.50g/d〜約0.80g/dである。本発明のPTFE繊維の靱性は、最も好ましくは、約0.60g/dである。
本発明の繊維は、約1.6g/dを上回るピーク工学応力と、約15.5%を上回る破断歪みを有する。好ましいピーク工学応力は約2.0g/dを上回り、好ましい破断歪みは約15.5%を上回る。より好ましくは、ピーク工学応力は約2.5g/dを上回り、好ましい破断歪みは約25%を上回る。さらに好ましくは、ピーク工学応力は約3.0g/dを上回り、好ましい破断歪みは約30%を上回る。ピーク工学応力の好ましい範囲は約3.0〜約5.0g/dであり、破断歪みの好ましい範囲は約20〜約50%である。より好ましくは、ピーク工学応力は約4.4g/dであり、破断歪みは約24%である。
【0010】
もう1つの局面において、本発明は、PTFE繊維を提供し、約70%以下のオーバーフィードでPTFE繊維をオーバーフィードしながら、約300℃〜約500℃の温度にPTFE繊維を加熱することを含む、繊維の製造プロセスを提供する。温度の好ましい範囲は約350℃〜約450℃であり、オーバーフィード工程におけるオーバーフィードの好ましい範囲は約10%〜約20%である。最も好ましくは、加熱工程における温度は約400℃であり、オーバーフィード工程におけるオーバーフィードは約15%である。
もう1つの局面において、本発明は、約0.18g/dを上回る靱性を有する改良されたエマルジョン紡糸PTFE繊維を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるプロセスの代表的な態様の概略図である。
【図2】図2は、本発明による処理の前のPTFE繊維の特性を示すグラフである。
【図2A】図2Aは、本発明による処理の前の別なPTFE繊維の特性を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、ポリエステル繊維の特性を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図4】本発明のプロセスによる処理の前の繊維の特性を示すグラフである。
【図5】本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図6】本発明のプロセスによる処理の前の繊維の特性を示すグラフである。
【図7】本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図8】本発明のプロセスによる処理の前の繊維の特性を示すグラフである。
【図9】本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図10】本発明のプロセスによる処理の前の繊維の特性を示すグラフである。
【図11】本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図12】本発明のプロセスによる処理の前の繊維の特性を示すグラフである。
【図13】本発明のプロセスによる処理の後の繊維の特性を示すグラフである。
【図14】本発明のプロセスを0%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図15】本発明のプロセスを6%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図16】本発明のプロセスを13%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図17】本発明のプロセスを21%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図18】本発明のプロセスを29%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図19】本発明のプロセスを41%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図20】本発明のプロセスを68%のオーバーフィードで用いた繊維の特性を示すグラフである。
【図21】350℃において本発明のプロセスによって処理した後の繊維の特性を示すグラフである。
【図22】375℃において本発明のプロセスによって処理した後の繊維の特性を示すグラフである。
【図23】400℃において本発明のプロセスによって処理した後の繊維の特性を示すグラフである。
【図24】475℃において本発明のプロセスによって処理した後の繊維の特性を示すグラフである。
【図25】475℃において本発明のプロセスによって処理した後の繊維の特性を示すグラフである。
【図26】本発明の繊維におけるオーバーフィードとピーク工学応力の関係を示すグラフである。
【図27】本発明の繊維におけるオーバーフィードと靱性の関係を示すグラフである。
【図28】本発明の繊維におけるオーバーフィードと破断歪みの関係を示すグラフである。
【図29】本発明のプロセスによって処理する前のデンタルフロスの特性を示すグラフである。
【図30】本発明のプロセスによって処理した後のデンタルフロスの特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維は、繊維の応力−歪み線図から導き出せる特性を有する。本願における用語「工学歪み」とは、試験片の長さの変化を試験片の元の長さで割算したものを意味し、通常%で表され、「ピーク工学応力」とは、繊維によって支えられた最大負荷を意味し(本願で記載の試験による)、繊維の応力−歪み曲線のピークで表され(グラム/デニールで表される)、「破断歪み」とは、工学応力がゼロに戻る破断後の工学歪みを意味し、「靱性」とは、歪みがゼロの点から破断歪みまでの測定された応力−歪み曲線の下の面積を意味し(靱性を測定する詳細は以降で説明する)、「デニール」は、グラム/9000メートルで表した一次元密度の単位を意味する。
【0013】
本発明は、高速度で縫製可能なPTFE繊維を提供する。この繊維は、図1に大要で示した方法によって製造される。PTFE繊維10は、任意の所望のデニールであることができ、これが最初に製造され又は入手される。製造される場合、当該技術で公知の一般的方法によって製造される。次いで、PTFE繊維10が、熱源13の上に5〜70%のオーバーフィード率でオーバーフィードされる。このオーバーフィードは、図1に示すように、繊維10をインプットロール11を通してアウトプットニップロール12に供給することによって行うことができる。ロール11は、ロール12に受け入れられるよりも多い繊維10の所望量を送り出すように、特定のサイズであり又は速度が調節される。例えば、10%のオーバーフィード率とは、ロール11が繊維10を熱源13の上に、繊維10がロール12に受け取られるよりも10%速い割合で送り出すことを意味する。このプロセスによって繊維10をオーバーフィードすると同時に加熱することにより、繊維10はその長さ方向に収縮し、これによりそのデニールを高める。繊維10は、ロール12からコアの上に巻き取ることができ、スプール巻き取りやボビン巻き取りのような通常の製造プロセスでさらに処理することができる。
【0014】
あるいは、PTFE繊維10は延伸膨張PTFE(ePTFE)であることができる。このようなePTFE繊維は、米国特許第3953566号に記載の方法によって製造可能であり、この特許は、ePTFE繊維の製造の教示に関して本願でも参考にして取り入れられている。ePTFE繊維が使用される場合、この繊維は、本発明による処理の前(即ち、図1のニップロール11の間を通す前)は実質的に白色の外観を有する(着色剤で着色していなければ)。本発明による処理の後(即ち、図1のニップロール12の間を通した後)、繊維は一般に、実質的に半透明の外観に変化する。半透明の繊維は、布帛の色にほぼ一致する色にする必要なしに着色布帛に取り入れることができるため、有利である。
【0015】
また、繊維10は、このプロセスのオーバーフィードと加熱の工程に供する前に、撚りを入れることができる。撚りを入れる場合、繊維は、例えば、「Z」又は「S」方向に1インチあたり7回転することができる。本発明によって得られる撚りを入れていない繊維は、張力の変動を吸収する繊維の性能が重要な用途を有する。このような用途には、製織、編組、編成、ニードルパンチが挙げられる。
【0016】
熱源13は、コントロールされた仕方で繊維を収縮させながら繊維を加熱するのに適するホットプレート、加熱ゴデット、高温空気、高温液体オーブン、輻射加熱、又はその他の任意の手段であることができる。熱源は、約300℃〜約500℃の温度で運転することができる。好ましい範囲は約350℃〜約450℃であり、最も好ましい温度は約400℃である。
ニップロール11と12は、あるいは、それらの周りに巻回された繊維10を有するゴデットであることができ、又は当業者に理解される任意のその他の繊維巻き取り又は受入れ装置であることができる。
【0017】
本発明のプロセスの別な態様において、繊維10の追加の熱処理を含めることができる(ロール12の後)。この追加の熱処理工程は、上記の同時のオーバーフィードと加熱の工程後に行い、約300℃〜約500℃、好ましくは約400℃の温度で行うことができる。この別な態様の熱処理は、繊維の実質的な膨張や収縮が生じないように、ゼロ%のオーバーフィードで行うべきである。この随意の加熱工程は、ハンドリングの際又は最終用途における長さの変化を防ぐために繊維10を状態調整するために行われる。
【0018】
別な態様において、シリコーンオイル配合物のような縫糸潤滑剤が、以降のパッケージ工程で縫糸に施されることができる(ロール12又は追加の加熱工程の後)。シリコーンオイルは、高速で針を動かすときの摩擦、したがって温度を低下させると考えられる。
本発明によって製造される繊維は、ピーク工学応力、破断歪み、靱性、高速の縫製機での収率(縫製適性)等について予想外に改良された特性を有する。本発明の繊維は、改良された特性が改良された性能を与える数多くの用途を有する。
【0019】
こうした用途の1つは、とりわけ、改良された特性が通常のPTFE繊維よりも縫糸の破断が少なくて高速で繊維を縫製することを可能にする縫糸である。また、本発明の繊維は、ベアリングの製造に使用されることができ、ここでは、改良された特性が、より高い耐磨耗性、より長い製品寿命その他の長所を与えることが予想される。ベアリングを製造するにおいて、当該技術で公知の技術によって繊維をトウにし、又は多繊糸を使用することができ、ここで、1本以上の本発明の繊維を一緒に撚りを入れ、又は別な適切な天然繊維あるいはポリエステル、ポリプロピレン、ナイロンのような合成繊維と一緒に撚りを入れる(多繊糸の態様は、別な態様において、本発明の繊維の別な用途に使用することもできる)。一部のベアリング用途には、低デニールの繊維(例えば、100デニール未満)を使用することができる。モノフィラメント、多繊糸、又はトウ状で本発明の繊維が使用される場合、円筒ソックス状に織り込まれ(例であって、任意の形状に作成されてよい)、エポキシ又はゴムの注型でコーティングされ、ベアリングにする。こうしたベアリングは、金属ベアリングでは不十分な用途に使用されることができる。これらの用途には、自動車その他の輸送機関のスタビライザーバーのような、金属を攻撃する汚れ、水、その他の汚染物が存在する用途が挙げられる。
【0020】
また、本発明の繊維は、布帛を製造するために使用することもできる。このような布帛は、例えば、製織、編組、編成、ニードルパンチによって製造することができる。また、本発明の繊維は、ステープルに切断し、フェルトのような布帛を製造するために使用することもできる。また、この繊維は、この用途において、布帛の望まれる特性に応じて、トウにされることもできる。本発明の繊維から得られる布帛は、改良された繊維特性に基づいて改良された性能を呈するものと考えられる。
【0021】
また、本発明の繊維は、長さあたりの重量として、450デニールから2900デニール、好ましくは700〜2200デニールの範囲の改良されたデンタルフロスとしての用途を有する。これらのフィラメントは、約0.36グラム/デニールを上回る靱性を有し、約0.5mm〜約5.0mmの幅と約30μm〜約300μmの厚さを有する。フィラメントは、所望により、2本以上のフィラメントを用いて一緒に撚りを入れることができる。また、フィラメントは、そのものの上に折り曲げることができ、好ましくは、実質的にフラットにして折り曲げない。
【0022】
本発明の繊維は、多くの用途において、所望により1種以上の添加剤を含むことができ、この添加剤は、繊維が使用される用途と添加剤によって得られる意図される作用によって異なる。このような添加剤には、フッ化第1錫、医薬、ビタミン、抗炎症剤、鎮痛剤、凝固防止剤、抗バクテリア剤、及びその他の有機物質と無機物質(例えば、デンタルフロスフィラメントの把持性を高めるための二酸化チタン)、芳香剤、ワックス(約10重量%以下の量で繊維に添加することができる)、熱又は電気伝導物質、顔料、金属、セラミック、酸化物のような活性成分が挙げられる。当業者が知るその他の添加剤を含めることもできる。これらの添加剤は、コーティング(塗布又は浸漬)、スプレー、粉末コーティング、含浸、同時押出、又は米国特許第5262234号に教示のような、これらの方法の組み合わせによって含めることができる。
【0023】
本発明の繊維の、とりわけ、ピーク工学応力、破断歪み、靱性等の改良された特性は、本発明の繊維の応力−歪み曲線に反映される。応力−歪み曲線を得るため、下記の試験を用いた。
【0024】
−高速引張試験−
試験は、270mmのゲージ長さに設定されたニューマチック繊維グリップ(Instron Corp., Canton, MA)を備えた引張試験機(Interlaken Series 3310試験装置、Interlaken Technology Corp., Eden Prairie, MN)を用い、外界温度(20℃)で行った。試験した各繊維について、1つの1メートルの繊維サンプルをデンバーインスツールメンツ社AA160型天秤を用いて秤量し、そのグラム単位の重量を9000倍することにより、デニールを求めた。試験する繊維の全長から5つの1メートルのサンプルをランダムに選択した。各々の5つのサンプルは別々に試験した。サンプルをグリップに配置し、締めつけた。次いで、グリップを50mm接近させることにより、繊維を弛緩状態にした。繊維が絡まないように注意した。試験の始めに、グリップを2000mm/秒(±1.0%)のクロスヘッド速度で離隔させた。グリップが270mm離れた箇所で一定速度となるように注意した。高速データ収集装置が、2000点/秒の速度で負荷と変位を記録した。サンプルが破断したときに試験を止めた。5つのランダムに採取した試験サンプルの各々を試験した。
【0025】
各々の試験に負荷データ(グラムの単位)と各々の試験の変位データ(mmの単位)を、パーソナルコンピューター(Dell Pentium(登録商標) 133Mhz) の標準スプレッドシート(Microsoft Exell) に送り入れた。スプレッドシートは、負荷データを試験繊維のデニールで割算して標準化し、%(変位を、試験される270mmの元の繊維長さで割算する)で変位データ(工学歪み)を表すように、当業者に周知の仕方でプログラムされている。また、スプレッドシートは、工学応力がゼロに戻る破断点までデータをグラフにプロットするように、当業者に周知の仕方でプログラムされている。データは、ピーク工学応力、ピーク工学応力における工学歪み、破断歪みを求めるために解析した。各サンプルの靱性値は、下記の式から計算した。
【数1】

ここで、εは工学歪み、σはグラム/デニールで表した工学応力、iは1〜nの値である。nはテータを設定した合計のデータ点数である。
【0026】
この式は、やはり当業者に周知の仕方でプログラムされており、上記の式によって各サンプルの靱性値を計算する。
ピーク工学応力、ピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性の値は、各々のサンプルについて表にまとめている。また、平均、標準偏差、変動係数を計算し、5つの試験サンプル(特に明記していない)についての対応する値に基づいてまとめている。
本発明のPTFE繊維についての適切なピーク工学応力は、約1.6g/dを上回り、好ましくは約3.0〜約5.0g/dの範囲であり、最も好ましくは約4.4g/dのピーク工学応力である。適切な破断歪みは、約20%を上回り、好ましくは約20〜約50%、最も好ましくは約24%である。繊維の適切な靱性は約0.36g/dを上回り、好ましくは約0.50g/d〜約0.80g/dの範囲であり、最も好ましくは約0.60g/dである。
次に本発明を下記の例に関して説明するが、これらは本発明の例示のためであって、本発明を限定するものではない。
【0027】
−例−
−比較例−
GORE−TEX(登録商標)として販売の1180デニールのPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社(Newwark, Delaware)から入手した。この繊維は、Z方向に1インチあたり7つの撚りを含んだ。上記の高速引張試験にしたがって、この繊維から5つのサンプルを試験した。次いで、上記のようにしてデニール、ピーク工学応力、ピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性を計算し、平均してこれらの特性の平均値を求めた。この比較例の5つのサンプルの測定値、平均値、標準偏差、変動係数を下記の表1に示す。1つのサンプルの代表的なデータを、図2に応力−歪み曲線としてグラフに示す(グラフに対する以降の言及は、試験したいくつかのサンプルの1つの代表的なデータに関して述べている)。
【0028】
【表1】

【0029】
−比較例2−
TENARA(登録商標)として販売の1180デニールのPTFE縫糸のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表1Aに示す。これらの結果を、図2Aのグラフに示す。
【表2】

この例の糸を、アクリル系布帛を用い、Pfaff1420型ロックステッチ縫製機の2つの針と2つのボビンによって試験した。この縫製機は、この例の繊維を1800ステッチ/分を上回る速度で処理できなかった。
【0030】
−比較例3−
商標Saba35として販売の754デニールのポリエステル縫糸のサンプルを Amann & Sohne GmbH & Co.(ドイツ)から入手した。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表1Aに示す。これらの結果を、図2Bのグラフに示す。
【表3】

比較例3のポリエステル繊維は、一般に、比較例2で用いたのと同じ縫製機で2400ステッチ/分を上回る速度で運転される。
【0031】
−例1−
比較例1のPTFE繊維を本発明のプロセスに供した。ニップロールを用い、400℃に加熱したプレートの上で繊維を約13%のオーバーフィード率で供給した。加熱プレート上の繊維の滞留時間は5.5秒であった。次いで、繊維をコアに巻き取った。この処理の後、この繊維のデニールは1360と測定された。
下記の表2は、比較例1で測定したのと同じ特性について、この処理後の繊維の5つのサンプルの測定値、平均、標準偏差、変動係数を示す。また、比較例1の処理前の繊維と比較したこの例の処理後の繊維の変化を%で示す。
【表4】

【0032】
これらのデータから分かるように、ピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性は、比較例1の処理前の繊維に対する例1の処理後の繊維として、それぞれ81%、82%、225%増加した。また、例1のデータは、比較例2に比べてこれらの特性の顕著な改良を示す。例1における特性データは、比較例3(ポリエステル)のそれらと首尾よく同等であることが分かる。例1のデータを、図3に応力−歪み曲線としてグラフに示す。
【0033】
−例1A−
Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するGORE−TEX(登録商標)として販売のPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、400℃のプレートの上で15%のオーバーフィード率と2.5秒の滞留時間として本発明の処理に供した。また、このサンプルを、400℃のプレートの上で0%のオーバーフィード率と2.5秒の滞留時間の二次熱処理に供した。
下記の表2Aは、比較例1で測定したのと同じ特性について、この処理後の繊維の5つのサンプルの測定値、平均、標準偏差、変動係数を示す。また、比較例1の処理前の繊維と比較したこの例の処理後の繊維の変化を%で示す。例1Aにおけるデータは、比較例3(ポリエステル)のそれらと首尾よく同等であることが分かる。例1Aのデータを、図3Aに応力−歪み曲線としてグラフに示す。
【表5】

【0034】
例1Aの処理後の繊維は、比較例3で使用したのと同じ縫製機で試験した。本発明の処理後の繊維を用いると、この縫製機は、糸の破断なしに、2600ステッチ/分で2.5mの43回の連続運転が可能であった。このことは、比較例2のPTFE繊維に対し、縫製速度の顕著な改良である。例1Aの処理後の繊維の縫製適性は、比較例3のポリエステル繊維のそれと首尾よく同等である。本発明のPTFE繊維は、その高められた特性のおかげで、通常のPTFE繊維よりもはるかに容易かつ迅速に縫製することができ、使用に際し、多くの長所と効率を与える。
【0035】
−比較例4−
GORE−TEX(登録商標)として販売のフラットな白色の1320デニールのPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表3に示す。この比較例のデータを図4のグラフに示す。
【表6】

【0036】
−例2−
比較例4のフラットな白色のPTFE繊維を、本発明のプロセスにより、例1に記載したのと同じ条件を用いて処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1560と測定された。また、同様な試験を行い、その結果を下記の表4と図5のグラフに示す。このデータは、本発明のプロセスによる処理の後、繊維のピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性に、比較例4の繊維に対する顕著な改良を示す。測定された特性値は例1Aのそれらと同様であるため、この例2の繊維は、改良された靱性を必要とする用途に首尾よく機能すると思われる。この例2の繊維は、例2の繊維の高められた特性のおかげで、比較例4の繊維の用途よりも、こうした用途で首尾よく機能すると思われる。
【表7】

【0037】
−比較例5−
GORE−TEX(登録商標)として販売のフラットな黒色の1250デニールのPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表5に示す。この比較例のデータを図6のグラフに示す。
【表8】

【0038】
−例3−
比較例5のフラットな黒色のPTFE繊維を、本発明のプロセスにより、例1に記載したのと同じ条件を用いて処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1450と測定された。また、同様な試験を行い、その結果を下記の表6と図7のグラフに示す。このデータは、本発明のプロセスによる処理の後、繊維のピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性に、比較例5の繊維に対する顕著な改良を示す。測定された特性値は例1Aのそれらと同様であるため、この例3の繊維は、改良された靱性を必要とする用途に首尾よく機能すると思われる。この例3の繊維は、例3の繊維の高められた特性のおかげで、比較例5の繊維の用途よりも、こうした用途で首尾よく機能すると思われる。
【表9】

【0039】
−比較例6−
GORE−TEX(登録商標)として販売のフラットな赤色の1250デニールのPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表7に示す。この比較例のデータを図8のグラフに示す。
【表10】

【0040】
−例4−
比較例6のフラットな赤色のPTFE繊維を、本発明のプロセスにより、例1に記載したのと同じ条件を用いて処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1450と測定された。また、同様な試験を行い、その結果を下記の表8と図9のグラフに示す。このデータは、本発明のプロセスによる処理の後、繊維のピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性に、比較例6の繊維に対する顕著な改良を示す。測定された特性値は例1Aのそれらと同様であるため、この例4の繊維は、改良された靱性を必要とする用途に首尾よく機能すると思われる。この例4の繊維は、例4の繊維の高められた特性のおかげで、比較例6の繊維の用途よりも、こうした用途で首尾よく機能すると思われる。
【表11】

【0041】
−比較例7−
1200デニールのPROFILEN(登録商標)縫糸のサンプルを Lenzing Aktiengesellschaft (Lenzing, Austraria)から入手した。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表9に示す。この比較例のデータを図10のグラフに示す。
【表12】

【0042】
−例5−
比較例7のPROFILEN(登録商標)縫糸を、本発明のプロセスにより、例1に記載したのと同じ条件を用いて処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1410と測定された。また、同様な試験を行い、その結果を下記の表10と図11のグラフに示す。このデータは、本発明のプロセスによる処理の後、繊維のピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性に、比較例7の繊維に対する顕著な改良を示す。測定された特性値は例1Aのそれらと同様であるため、この例5の繊維は、改良された靱性を必要とする用途に首尾よく機能すると思われる。この例5の繊維は、例5の繊維の高められた特性のおかげで、比較例7の繊維の用途よりも、やはりこうした用途で首尾よく機能すると思われる。
【表13】

【0043】
−比較例8−
エマルジョン紡糸した茶色の881デニールのTEFLON(登録商標)縫糸のサンプルを Synthetic Thread, Inc. (Bethlehem, PA) から入手した(TEFLON(登録商標)は E.I. duPont de Nemours & Co., Inc. の商標)。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表11に示す。この比較例のデータを図12のグラフに示す。
【表14】

【0044】
−例6−
比較例8のエマルジョン紡糸した茶色TEFLON(登録商標)縫糸を、本発明のプロセスにより、処理温度を375℃とした以外は例1に記載したのと同じ条件を用いて処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1020と測定された。また、同様な試験を行い、その結果を下記の表12と図13のグラフに示す。このデータは、本発明のプロセスによる処理の後、繊維のピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性に、比較例8の繊維に対する顕著な改良を示す。測定された特性値は例1Aのそれらと同様であるため、この例6の繊維は、改良された靱性を必要とする用途に、やはり比較例8の繊維の用途よりも首尾よく機能すると思われる。
【表15】

【0045】
−オーバーフィードを変えた効果を例証する例−
−例7−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、0%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1050と測定された。この例のデータを下記の表13に示す。このデータは、図14にグラフで示す。
【表16】

−例8−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、6%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1120と測定された。この例のデータを下記の表14に示す。このデータは、図15にグラフで示す。
【表17】

【0046】
−例9−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、13%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1270と測定された。この例のデータを下記の表15に示す。このデータは、図16にグラフで示す。
【表18】

【0047】
−例10−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、21%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1330と測定された。この例のデータを下記の表16に示す。このデータは、図17にグラフで示す。
【表19】

【0048】
−例11−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、29%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1550と測定された。この例のデータを下記の表17に示す。このデータは、図18にグラフで示す。
【表20】

【0049】
−例12−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、41%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1830と測定された。この例のデータを下記の表18に示す(記載の平均の値は、3つの適当に破断したサンプルから計算した)。このデータは、図19にグラフで示す。
【表21】

【0050】
−例13−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、68%のオーバーフィードとした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1900と測定された。この例のデータを下記の表19に示す(記載の平均の値は、3つの適当に破断したサンプルから計算した)。このデータは、図20にグラフで示す。
【表22】

【0051】
例7〜13を考察すると、オーバーフィード率を変えた効果が分かる。特に、望ましいオーバーフィード率と約70%以下であるように考えられる。オーバーフィード率の好ましい範囲は約10〜約20%である。最も好ましくは、約15%のオーバーフィード率である。これらの例の繊維は、いずれも比較例1の繊維よりも改良された靱性を実証しており、より多くのエネルギーを吸収し、改良された靱性を必要とする用途により適切に機能すると考えられる。
例7〜13についてのピーク工学応力に及ぼすオーバーフィードの効果が、図26のグラフに示されている。例7〜13についての靱性に及ぼすオーバーフィードの効果が、図27のグラフに示されている。例7〜13についての破断歪みに及ぼすオーバーフィードの効果が、図28のグラフに示されている。
【0052】
−温度を変化させた効果を例証する例−
−例14−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、温度を350℃として滞留時間を60秒間とした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1260と測定された。この例のデータを下記の表20に示す。このデータを、図21にグラフで示す。
【表23】

【0053】
−例15−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、温度を375℃として滞留時間を60秒間とした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1280と測定された。この例のデータを下記の表21に示す。このデータを、図22にグラフで示す。
【表24】

【0054】
−例16−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、例1に記載したようにして、本発明のプロセスによって処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1270と測定された。この例のデータを下記の表22に示す。このデータを、図23にグラフで示す。
【表25】

【0055】
−例17−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、温度を475℃として滞留時間を2秒間とした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1250と測定された。この例のデータを下記の表22に示す。このデータを、図24にグラフで示す。
【表26】

【0056】
−例18−
GORE−TEX(登録商標)として販売の、Z方向に1インチあたり7つの撚りを有するPTFE繊維のサンプルをダブリュエルゴア・アンド・アソシエーツ社から入手した。この繊維を、温度を475℃とした以外は例1と同様な条件にして、本発明による処理に供した。この処理の後、この繊維のデニールは1270と測定された。この例のデータを下記の表24に示す。このデータを、図25にグラフで示す。
【表27】

【0057】
例14〜18を考察すると、本発明の繊維に及ぼす温度の効果が分かる。望ましい温度は約300℃〜約500℃と考えられる。温度の好ましい範囲は約350℃〜約450℃である。最も好ましくは、温度は約400℃である。当業者は、温度と所望の滞留時間とするための巻き取り速度を変える仕方を判断するであろう。これらの例の繊維は、いずれも比較例1の繊維よりも改良された靱性を実証している。
【0058】
−デンタルフロスの改良を示す例−
−比較例9−
米国特許第5518012号に記載された例1にしたがい、ワックスを添加していないデンタルフロスのサンプルを作成した。このデンタルフロスは、1170デニールで、1.1mmの幅と76μmの厚さを有することが測定された。この繊維の5つのサンプルを、比較例1と同じ仕方で同じ特性について試験した。この結果を下記の表25に示す。このデータを、図29にグラフで示す。
【表28】

【0059】
−例19−
比較例9のデンタルフロスを、例1に記載したのと同じ条件を用いて本発明のプロセスによって処理した。この処理の後、この繊維のデニールは1430と測定された。また、同じ試験を行い、その結果を下記の表26に示す。このデータは、本発明のプロセスによる処理の後、繊維のピーク工学応力における歪み、破断歪み、靱性に、比較例9のデンタルフロスに対する顕著な改良を示す。表26に示した特性は、処理後の繊維がデンタルフロスとして首尾よく機能するであろうことを示している。具体的には、この例19の繊維は、例19の繊維の高められた特性のため、比較例9の繊維よりもデンタルフロスとして首尾よく機能すると考えられる(破断が生じにくいことを含めて)。このデータを、図30にグラフで示す。
【表29】

【0060】
本願で記載した例は、繊維を製造するために使用したプロセスパラメーターに応じて、本発明の繊維の所望の特性の範囲を例証する。当業者は、これらの特性は、本願で記載のプロセスパラメーターを変更・最適化することにより、特定の用途の必要に応じて、これらの特性を変更・最適化し得ることを理解するであろう。
本発明の方法を用いると、より高い縫製速度に耐えるPTFE繊維を製造することができる。このことは、縫製における生産性と効率を高め、多数のその他の利益を与える。また、PTFE繊維の高い靱性は、本願で記載した以外の用途にも利益を与え、このことは、本願の開示によって当業者に理解されるであろう。 特定の例に関して説明してきたが、本発明は、それらに限定されるものではなく、請求の範囲に記載した中での変更や変化を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含んでなる繊維であって、約0.36g/dを上回る靱性を有する繊維。
【請求項2】
その靱性が約0.36〜約1.01g/dである請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
その靱性が約0.50〜約0.80g/dである請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
その靱性が約0.60g/dである請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
PTFEを含んでなる繊維であって、約1.6g/dを上回るピーク工学応力と約15.5%を上回る破断歪みを有する繊維。
【請求項6】
そのピーク工学応力が約2.0g/dを上回り、その破断歪みが約20%を上回る請求項5に記載の繊維。
【請求項7】
そのピーク工学応力が約2.5g/dを上回り、その破断歪みが約25%を上回る請求項5に記載の繊維。
【請求項8】
そのピーク工学応力が約3.0g/dを上回り、その破断歪みが約30%を上回る請求項5に記載の繊維。
【請求項9】
そのピーク工学応力が約3.0〜約5.0g/dであり、その破断歪みが約20〜約50%である請求項5に記載の繊維。
【請求項10】
そのピーク工学応力が約3.7g/dであり、その破断歪みが約35%である請求項5に記載の繊維。
【請求項11】
少なくとも1種の添加剤をさらに含む請求項1に記載の繊維。
【請求項12】
その繊維がトウにされた請求項1に記載の繊維。
【請求項13】
エマルジョン紡糸PTFEを含んでなる繊維であって、約0.18g/dを上回る靱性を有する繊維。
【請求項14】
(a) PTFE繊維を提供し、(b) 約70%以下のオーバーフィードでそのPTFE繊維をオーバーフィードしながら、そのPTFE繊維を約300℃〜約500℃の温度に加熱する、工程を含む繊維の製造方法。
【請求項15】
その加熱工程における温度が約350℃〜約450℃であり、そのオーバーフィード工程におけるオーバーフィードが約10%〜約20%である請求項14に記載の繊維の製造方法。
【請求項16】
その加熱工程における温度が約400℃であり、そのオーバーフィード工程におけるオーバーフィードが約15%である請求項14に記載の繊維の製造方法。
【請求項17】
その繊維を調整するため、工程(b) の後に、その繊維を約300℃〜約500℃の温度に加熱する工程をさらに含む請求項14に記載の繊維の製造方法。
【請求項18】
請求項14の方法によって得られたPTFE繊維。
【請求項19】
請求項15の方法によって得られたPTFE繊維。
【請求項20】
請求項16の方法によって得られたPTFE繊維。
【請求項21】
その繊維が縫糸である請求項1に記載の繊維。
【請求項22】
その繊維が半透明である請求項1に記載の繊維。
【請求項23】
請求項1の繊維を含んでなる布帛。
【請求項24】
その繊維がステープルであり、その布帛がフェルトである請求項23に記載の布帛。
【請求項25】
高速で縫製されるのに適するPTFE繊維を含んでなる縫糸。
【請求項26】
その繊維が、ロックステッチ縫製機を用いて少なくとも100メートルの長さにわたって糸の破断なしに、2600ステッチ/分で縫製されるのに適する請求項25に記載の縫糸。
【請求項27】
約0.36g/dを上回る靱性を有するPTFE繊維を含んでなるデンタルフロス。
【請求項28】
その繊維が撚りを入れられた請求項27に記載のデンタルフロス。
【請求項29】
その繊維が0.5〜5mmの幅と30〜300μmの厚さを有する請求項27に記載のデンタルフロス。
【請求項30】
その繊維が単位長さあたりの450〜2900デニールの重さを有する請求項27に記載のデンタルフロス。
【請求項31】
その繊維が少なくとも1種の添加剤を含む請求項27に記載のデンタルフロス。
【請求項32】
約0.36g/dを上回る靱性を有するPTFE繊維を含んでなるベアリング。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2009−221650(P2009−221650A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−139259(P2009−139259)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【分割の表示】特願2000−547292(P2000−547292)の分割
【原出願日】平成11年4月6日(1999.4.6)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】