説明

ポリビニルアルコール系重合体フィルム

【課題】広幅で高い偏光性能を示す偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルムを提供する。
【解決手段】本発明のPVA系重合体フィルムは、偏光フィルムの製造用のフィルムであって、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度が0〜20°の範囲にあり、レターデーションが50〜150nmの範囲にある。本発明のPVA系重合体フィルムの好ましい1態様は、膨潤度が205〜215%の範囲にあるPVA系重合体フィルムである。また、本発明のPVA系重合体フィルムの別の好ましい1態様は、長尺のPVA系重合体フィルムであって、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向がフィルムの長さ方向であるPVA系重合体フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムを製造するためのポリビニルアルコール系重合体フィルムおよびその製造方法、ならびにそれを用いた偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の偏光を選択的に透過させる偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶とともに、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。LCDの適用分野は、電卓および腕時計等の小型機器、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話および屋内外で用いられる計測機器など、広範囲にわたっている。液晶モニターや液晶テレビなどに用いられるLCDでは、明るく、高いコントラストを有することが求められている。そのため、それらの用途に用いられるLCDでは、高い透過率と高い偏光度を兼ね備えた偏光板が必要とされている。以下、透過率および偏光度の組み合わせを「偏光性能」と称することがある。また、液晶テレビの大画面化や偏光板の生産効率の向上のために、より幅の広い偏光フィルムが必要とされている。
【0003】
従来から汎用されている偏光板は、偏光フィルムの片面または両面に、三酢酸セルロースフィルムや酢酸・酪酸セルロースフィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造されている。そして当該偏光板を構成する偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムに対して、ヨウ素や二色性染料等による染色処理、一軸延伸、ほう素化合物等による固定処理などを施すことによって製造されている(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」と称することがある)。偏光フィルムの製造にあたっては、生産コストの低減などのために、ロール等に巻かれた長尺のPVA系重合体フィルムを原反フィルムとして用いて、これに上記した染色処理、一軸延伸、固定処理などを連続的に施す方法が広く採用されている。この場合、長尺のPVA系重合体フィルムは一軸延伸の際に、通常、その長さ方向に延伸される。
【0004】
ところで、PVA系重合体フィルムを染色、延伸することにより得られる偏光フィルムについては、一般に延伸倍率を高くすることにより同じ透過率でもより高い偏光度を示すものが得られることが知られている。しかしながら、PVA系重合体フィルムの延伸倍率には限界があり、延伸倍率が高すぎるとフィルムが切れてしまうため、得られる偏光度にも限界がある。そのような状況下、延伸倍率を高めずとも高い偏光性能を示す偏光フィルムを得る方法として、特定の複屈折率を有するPVA系重合体フィルムを用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−228835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、延伸時のネックイン(幅方向への収縮)が低減されてフィルムの広幅化が達成されるとともに、より高い偏光性能を示す偏光フィルムを得るためにはさらなる検討の余地があった。このような状況において、本発明は、広幅で高い偏光性能を示す偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルム、およびその製造方法、ならびにそれを用いた偏光フィルムの製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために検討した結果、本発明者らは、PVA系重合体フィルムのレターデーションの値および光軸の角度が所定の範囲にあると、偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程においてネックインの程度を小さくすることができ、しかも当該PVA系重合体フィルムを用いることにより高い偏光性能を有する偏光フィルムを容易に製造することができることを見出した。また、本発明者らは、特定のPVA系重合体フィルムを特定の湿度雰囲気下で延伸することによって上記のPVA系重合体フィルムが容易に得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明の偏光フィルム製造用のPVA系重合体フィルムは、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度が0〜20°の範囲にあり、レターデーションが50〜150nmの範囲にある。
【0009】
また、偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを製造するための本発明の方法は、膨潤度(a)が200〜210%の範囲にあり、レターデーションが0〜30nmの範囲にあるPVA系重合体フィルムを相対湿度が60〜80%の雰囲気下で延伸することによって、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度を0〜20°の範囲内にするとともに、レターデーションを50〜150nmの範囲内にする工程を含む。
【0010】
さらに、偏光フィルムを製造するための本発明の方法は、上記の偏光フィルム製造用のPVA系重合体フィルムを原料として用いるものであって、染色工程および一軸延伸工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPVA系重合体フィルムによれば、偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインが低減されてより広幅な偏光フィルムを製造できる。また、本発明のPVA系重合体フィルムによれば、高い偏光性能を示す偏光フィルムを製造できる。すなわち、本発明のPVA系重合体フィルムによれば、近年のLCDの大型化および性能向上に対応可能な偏光フィルムを製造できる。また、本発明のPVA系重合体フィルムの製造方法によれば、当該PVA系重合体フィルムを容易に製造できる。さらに、本発明の偏光フィルムの製造方法によれば、一軸延伸工程におけるネックインが低減されてより広幅な偏光フィルムを製造できるとともに、高い偏光性能を示す偏光フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0013】
[偏光フィルム製造用のPVA系重合体フィルム]
偏光フィルムの製造に用いられる本発明のPVA系重合体フィルム(以下、「PVA系重合体フィルム(P)」という場合がある)は、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度が0〜20°の範囲にあり、レターデーションが50〜150nmの範囲にある。
【0014】
PVA系重合体フィルム(P)のレターデーションが50〜150nmの範囲にあることにより偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインが低減されるとともに高い偏光性能を有する偏光フィルムを製造することができる。ネックインおよび偏光性能の観点から、PVA系重合体フィルム(P)のレターデーションは55〜140nmの範囲にあることが好ましく、60〜130nmの範囲にあることがより好ましい。PVA系重合体フィルム(P)のレターデーションが50nmよりも小さいと偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインが大きくなって広幅の偏光フィルムを製造することが困難になる。またPVA系重合体フィルム(P)のレターデーションが150nmよりも大きいと偏光フィルムを製造する際に高い延伸倍率で延伸を行うことが困難になり、高い偏光性能を有する偏光フィルムを製造することが困難になる。
【0015】
PVA系重合体フィルム(P)のレターデーションが本発明の範囲にあることにより偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインが低減される理由は定かではない。本発明を何ら限定するものではないが、上記の理由はPVA系重合体フィルム(P)中におけるPVA系重合体分子の配向の影響によるものと推定される。すなわち、通常、PVA系重合体フィルムを水中に浸漬すると、吸水することにより光軸に対して垂直方向に膨張する傾向があるが、レターデーションが本発明において規定する範囲にあるPVA系重合体フィルムではPVA系重合体分子が適度に配向していることによって、レターデーションが50nm未満のPVA系重合体フィルムよりも当該膨張の程度が大きくなる。しかしながら、逆にレターデーションが150nmを超えると、PVA系重合体の配向結晶化の影響によって当該膨張の程度が小さくなる。
【0016】
なお、本明細書においてPVA系重合体フィルム(P)のレターデーションはフィルムの厚さ方向の光に基づいて測定された値を意味し、後述する実施例において記載された方法により測定することができる。また、PVA系重合体フィルム(P)のレターデーションとしては、PVA系重合体フィルム(P)の幅方向の中央部における任意の1点での値を、そのPVA系重合体フィルム(P)の代表値であると考えて採用すればよい。
【0017】
また、PVA系重合体フィルム(P)において、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度が0〜20°の範囲にあることにより、偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインを低減させることができる。偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックイン低減の観点から、上記角度は0〜10°の範囲にあることが好ましく、0〜5°の範囲にあることがより好ましい。
【0018】
PVA系重合体フィルム(P)において、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度は平行ニコル回転法によって測定することができ、例えば複屈折率計やセルギャップ検査装置などを用いて測定することができる。また当該角度は、PVA系重合体フィルム(P)の幅方向の中央部における任意の1点での値を、そのPVA系重合体フィルム(P)の代表値であると考えて採用すればよい。なお、本明細書において偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度は、PVA系重合体フィルム(P)の面内において、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸方向とから形成される2つの角度のうちの小さい角度を意味する。したがって当該角度は必ず0〜90°の範囲にある。
【0019】
PVA系重合体フィルム(P)は偏光フィルムを製造する際の効率などの観点から長尺のフィルムであることが好ましく、また、輸送、保管、使用時の取り扱い性の容易さなどの理由から、ロール状に巻かれていることが好ましい。PVA系重合体フィルム(P)の長さに特に制限はないが、偏光フィルムを製造する際の効率などを考慮すると500m以上であることが好ましく、2000m以上であることがより好ましく、5000m以上であることがさらに好ましい。また、PVA系重合体フィルム(P)の長さの上限に関して、10000m以下が例示される。PVA系重合体フィルム(P)の幅についても特に制限はないが、あまりに広すぎると均一なPVA系重合体フィルム(P)の製造が困難になる傾向があることから、50〜500cmの範囲にあることが好ましく、100〜450cmの範囲にあることがより好ましい。
【0020】
PVA系重合体フィルム(P)の膨潤度(本明細書において、PVA系重合体フィルム(P)の膨潤度を特に「膨潤度(b)」という場合がある。)は205〜215%の範囲にあることが好ましい。膨潤度(b)が上記範囲にあることにより、偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインの低減と、得られる偏光フィルムの偏光度の向上とを容易に両立させることができる。
【0021】
なお、本明細書において膨潤度(b)とは、PVA系重合体フィルム(P)から切り出したサンプルを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率を意味し、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。
【0022】
本発明のPVA系重合体フィルム(P)を原料として用いることによって、偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程においてネックインを低減でき、その結果、より広幅の偏光フィルムが得られる。一軸延伸時のネックインの程度について、PVA系重合体フィルム(P)を温度が50℃でほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含む水溶液中において延伸前の長さに基づいて延伸倍率5倍で一軸延伸したときの、一軸延伸後のフィルム幅(A)と一軸延伸前のフィルム幅(B)との比(A)/(B)が0.50以上であることが好ましく、0.51以上(例えば0.51〜0.60の範囲)であることがより好ましい。ここで一軸延伸後のフィルム幅(A)は、一軸延伸されたフィルムの幅のうち一番短い幅を意味する。
【0023】
[偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムの製造方法]
偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを製造するための本発明の方法では、膨潤度が200〜210%の範囲にあり、レターデーションが0〜30nmの範囲にあるPVA系重合体フィルムを原料(原反)として用いる。以下、偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを製造するためのこのようなPVA系重合体フィルムを「原反PVA系重合体フィルム(P’)」という場合がある。また、当該原反PVA系重合体フィルム(P’)の膨潤度を、「膨潤度(a)」という場合がある。
【0024】
偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを製造するための本発明の方法では、原反PVA系重合体フィルム(P’)を相対湿度(RH)が60〜80%の雰囲気下で延伸する。この延伸によって、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度を0〜20°の範囲内にするとともに、レターデーションを50〜150nmの範囲内にする。以下、相対湿度(RH)が60〜80%の雰囲気下における上記延伸を、「恒湿下延伸」という場合がある。この製造方法によって、上記したPVA系重合体フィルム(P)を再現性よく製造することができる。
【0025】
恒湿下延伸を行う際の相対湿度は、好ましくは63〜77%RHの範囲にあり、より好ましくは65〜75%RHの範囲にある。恒湿下延伸を行う際の相対湿度が60%RHよりも低いと原反PVA系重合体フィルム(P’)の乾燥が進み、延伸によるレターデーションの調節が困難になる。また、恒湿下延伸を行う際の相対湿度が80%RHよりも高いと、原反PVA系重合体フィルム(P’)の含水率が高くなりすぎてフィルムにしわが入りやすくなり、偏光フィルムの製造には適さないフィルムとなる。
【0026】
本発明の偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムの製造方法においては、得られる偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを用いて偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインの低減と、得られる偏光フィルムの偏光度の向上とを両立させるため、原反PVA系重合体フィルム(P’)の膨潤度(膨潤度(a))が200〜210%の範囲にあることが重要である。なお、本明細書において膨潤度(a)とは、原反PVA系重合体フィルム(P’)から切り出したサンプルを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率を意味する。具体的には、実施例において後述する方法により測定することができる。
【0027】
原反PVA系重合体フィルム(P’)の膨潤度(膨潤度(a))の調整方法に特に制限はなく、原反PVA系重合体フィルム(P’)を製造する際に熱処理温度および熱処理時間を変更することにより適宜調整することができる。通常、熱処理温度を高くして熱処理時間を長くすることにより膨潤度(a)を低下させることができる。
【0028】
原反PVA系重合体フィルム(P’)の膨潤度(a)(%)と恒湿下延伸することによって得られたPVA系重合体フィルム(P)の膨潤度(b)(%)とは、より高い偏光性能を有する偏光フィルムを与えるPVA系重合体フィルム(P)が得られることから、(a)+3 ≦ (b) ≦ (a)+8を満たすことが好ましく、(a)+4 ≦ (b) ≦ (a)+7を満たすことがより好ましい。膨潤度(b)が[(a)+3]以上であることにより、偏光フィルムの製造工程において、より高倍率で一軸延伸をすることができる。
【0029】
また本発明の偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムの製造方法においては、原反PVA系重合体フィルム(P’)のレターデーションが0〜30nmの範囲にあることが重要であり、0〜10nmの範囲にあることが好ましい。なお、本明細書において原反PVA系重合体フィルム(P’)のレターデーションはフィルムの厚さ方向の光に基づいて測定された値を意味し、後述する実施例において記載された方法により測定することができる。また、原反PVA系重合体フィルム(P’)のレターデーションとしては、原反PVA系重合体フィルム(P’)の幅方向の中央部における任意の1点での値を、その原反PVA系重合体フィルム(P’)の代表値であると考えて採用すればよい。
【0030】
上記のレターデーションを有する原反PVA系重合体フィルム(P’)は、それを製造する際に延伸がされないか、延伸されてもその程度を小さくすることによって容易に製造することができる。
【0031】
恒湿下延伸の延伸倍率は、延伸前の原反PVA系重合体フィルム(P’)の長さに基づいて1.04〜1.12倍の範囲にあることが好ましい。恒湿下延伸の延伸倍率が1.04倍以上であることにより、偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムのレターデーションをより効率的に調整することができる。一方、恒湿下延伸の延伸倍率が1.12倍以下であることにより、偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムのレターデーションが高くなりすぎるのを抑制することができる。
【0032】
恒湿下延伸の温度は、好ましくは60〜90℃の範囲にあり、より好ましくは65〜85℃の範囲にあり、さらに好ましくは70〜80℃の範囲にある。温度が60℃よりも低いと、恒湿下延伸における延伸張力が高くなりすぎて偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムのレターデーションの調整が困難になる場合がある。また、温度が90℃よりも高いと、原反PVAフィルムが熱処理されることによって延伸されにくくなり、偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムのレターデーションの調整が困難になる場合がある。
【0033】
原反PVA系重合体フィルム(P’)の原料となるPVA系重合体は、例えば、ビニルエステルを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をけん化することによって製造することができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等を例示することができ、ビニルエステルは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも酢酸ビニルが、入手の容易性、PVA系重合体の製造の容易性、コストなどの点から好ましい。
【0034】
上記のポリビニルエステル系重合体としては、モノマーとして1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものを好ましく使用することができる。しかし、本発明の効果が損なわれない限り、ポリビニルエステル系重合体は、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。このような他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン類;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩もしくはエステル;イタコン酸またはその塩もしくはエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;不飽和スルホン酸またはその誘導体などを挙げることができる。これらの他のモノマーは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
これらの他のモノマー(ビニルエステルと共重合可能な他のモノマー)の共重合比率は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
上記のPVA系重合体としては、グラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができる。しかし、本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、PVA系重合体は、1種または2種以上のグラフト共重合可能なモノマーによって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合は、ポリビニルエステル系重合体およびそれをけん化することにより得られるPVA系重合体のうちの少なくとも一方に対して行うことができる。上記グラフト共重合可能なモノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体におけるグラフト共重合可能なモノマーに由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0037】
上記のPVA系重合体は、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また本発明において使用されるPVA系重合体は、その水酸基の一部がホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造が形成されたポリビニルアセタール系重合体であってもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0038】
上記のPVA系重合体の重合度は、フィルムの強度を高くする観点から、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらに好ましく、2000以上であることが特に好ましい。PVA系重合体の重合度の上限に特に制限はないが、PVA系重合体の製造が工業的に容易であることから、10000以下であることが好ましく、8000以下であることがより好ましく、6000以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書でいうPVA系重合体の重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0039】
上記のPVA系重合体のけん化度は98モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましく、99.5モル%以上であることがさらに好ましく、99.8モル%以上であることが特に好ましい。PVA系重合体のけん化度が上記範囲にあることにより、偏光フィルムの製造工程でPVA系重合体が溶出してそれが偏光フィルムに付着するのが抑制される。その結果、より高い偏光性能を有する偏光フィルムが得やすくなる。なお、本明細書におけるPVA系重合体のけん化度とは、PVA系重合体が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0040】
原反PVA系重合体フィルム(P’)ひいてはPVA系重合体フィルム(P)は可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤を含有することにより、フィルムの柔軟性がよくなり取り扱い性が向上する。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。原反PVA系重合体フィルム(P’)またはPVA系重合体フィルム(P)は、これらの可塑剤の1種または2種以上を含有することができる。これらのうちでも可塑性の観点からグリセリンが好ましい。
【0041】
原反PVA系重合体フィルム(P’)またはPVA系重合体フィルム(P)における可塑剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して、3〜20質量部の範囲にあることが好ましく、4〜18質量部の範囲にあることがより好ましく、5〜15質量部の範囲にあることがさらに好ましい。可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して3質量部以上であることにより原反PVA系重合体フィルム(P’)またはPVA系重合体フィルム(P)の柔軟性がよくなり取り扱い性が向上する。一方、可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して20質量部以下であることにより、原反PVA系重合体フィルム(P’)またはPVA系重合体フィルム(P)の表面に可塑剤がブリードアウトしてフィルムの取り扱い性が低下したり、延伸性が低下したりするのを抑制することができる。
【0042】
また、原反PVA系重合体フィルム(P’)は、原反PVA系重合体フィルム(P’)の製膜性および剥離性を向上させることができることから界面活性剤を含有することが好ましい。原反PVA系重合体フィルム(P’)が界面活性剤を含有することにより、当該界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルム(P)が得られる。界面活性剤の中でも、アニオン系またはノニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系の界面活性剤としては、トリエトキシドデカンスルホン酸ナトリウム等のアルキルエーテルスルホン酸ナトリウムが好ましく、ノニオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)が好ましい。これらの界面活性剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0043】
原反PVA系重合体フィルム(P’)またはPVA系重合体フィルム(P)における界面活性剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲にあることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲にあることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲にあることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.01質量部以上であることにより、製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、フィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0044】
原反PVA系重合体フィルム(P’)ひいてはPVA系重合体フィルム(P)は、PVA系重合体のみからなっていても、あるいはPVA系重合体と上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤、無機フィラー、水分等、上記したPVA系重合体、可塑剤および界面活性剤以外の他の成分を含有していてもよい。
【0045】
原反PVA系重合体フィルム(P’)またはPVA系重合体フィルム(P)における、PVA系重合体、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合としては、50〜100質量%の範囲にあることが好ましく、80〜100質量%の範囲にあることがより好ましく、90〜100質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0046】
原反PVA系重合体フィルム(P’)はPVA系重合体を少なくとも含む製膜原液を製膜することにより製造することができる。当該製膜原液の例としては、例えば、PVA系重合体および必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤等の成分が溶剤中に溶解したPVA系重合体溶液(例えばPVA系重合体水溶液)や、PVA系重合体、溶剤および必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤等の成分を含みPVA系重合体が溶融した溶融物(例えば含水PVA系重合体等)などが挙げられる。当該溶剤としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、こららのうちの1種または2種以上を使用することができるが、環境に与える負荷、回収性、取り扱い性などの観点から水が好ましい。
【0047】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される溶剤などの揮発性成分の製膜原液中における含有率)は、製膜方法やPVA系重合体の重合度などによっても変化するが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、製膜原液の揮発分率は95質量%以下であることが好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、そのため製膜原液を調製する際の濾過や脱泡を容易に行うことができ、異物や欠点のないフィルムを得やすくなる。また、揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の粘度が低くなり過ぎず、目的とする厚さや厚さ精度を有する原反PVA系重合体フィルム(P’)を容易に製造することができる。
【0048】
原反PVA系重合体フィルム(P’)を製造するための方法としては、例えば、上記溶融物を製膜原液として使用した溶融押出製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(PVA系重合体水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去してフィルムを得る方法)、キャスト製膜法(PVA系重合体溶液を基板上に流延し、乾燥してフィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法などが挙げられる。これらの中でも、溶融押出製膜法またはキャスト製膜法が、良好な原反PVA系重合体フィルムを得ることができる点で好ましい。製膜原液から製膜されたフィルムには、必要に応じて乾燥処理や熱処理を行って原反PVA系重合体フィルム(P’)とすることができる。
【0049】
原反PVA系重合体フィルム(P’)の具体的な製造方法としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用い、製膜装置の最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に、製膜原液を均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発分を蒸発させて乾燥し、続いて吐出または流延された膜の他方の面を回転する第2ロール(あるいは乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、次いでその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、必要に応じて巻き取り装置で巻き取る方法が挙げられる。このようにして原反PVA系重合体フィルム(P’)を工業的に製造することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、組み合わせて行ってもよい。
【0050】
原反PVA系重合体フィルム(P’)の厚さは、目的とする偏光フィルムの厚さ等に応じて適宜調整することができるが、あまりに薄すぎると、得られる偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを用いて偏光フィルムを製造する際の延伸処理においてフィルムの破断が発生しやすく偏光フィルムの安定した製造が困難になる場合があり、一方、あまりに厚すぎると、延伸処理の際にフィルムにかかる応力が大きくなり十分な延伸を行うことが困難になる場合があることから、10〜120μmの範囲にあることが好ましく、12〜80μmの範囲にあることがより好ましく、15〜75μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0051】
上記のように、偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムは原反PVA系重合体フィルム(P’)を恒湿下延伸することによって製造することができる。偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを製造するに際しては、一旦製造されその後ロール状に巻かれるなどして保管された後の原反PVA系重合体フィルム(P’)を用いてこれを恒湿下延伸することにより偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムを連続的に製造してもよいが、生産性の観点から、製膜原液などから原反PVA系重合体フィルム(P’)を連続的に製造し、次いでこれをロール状に巻き取る前に恒湿下延伸することによって連続的に偏光フィルム製造用であるPVA系重合体フィルムとし、その後必要に応じてロール状に巻き取る方法を好ましく採用することができる。
【0052】
[偏光フィルムの製造方法]
偏光フィルムは、上記のPVA系重合体フィルム(P)を原料として用いて、染色および一軸延伸、ならびに必要に応じてさらに水分調整、固定処理、乾燥処理、熱処理等の処理を行うことにより製造することができる。各工程の順序に特に制限はなく、また2つ以上の工程(例えば、染色と一軸延伸)を同時に行ってもよい。さらに各工程を複数回繰り返してもよい。
【0053】
水分調整は、純水、蒸留水等の水中で行うことが好ましい。水分調整における水の温度は20〜40℃の範囲にあることが好ましく、25〜35℃の範囲にあることがより好ましく、27〜33℃の範囲にあることがさらに好ましい。水の温度が20℃以上であることにより、フィルムに充分な水分を含ませることができ、一軸延伸時にフィルムにかかる張力を低減させることができる。一方、水の温度が40℃以下であることにより、フィルムの吸水性が高くなりすぎるのを抑制することができ、水分調整およびそれ以降の工程においてしわや端部のカールの発生が抑制され、一軸延伸時にフィルムが破断しにくくなる。その結果、より高倍率で延伸することが可能となり、偏光性能がより優れた偏光フィルムが得やすくなる。
【0054】
染色は、一軸延伸の前、一軸延伸と同時、一軸延伸後のいずれにおいても可能であるが、PVA系重合体は一軸延伸により結晶化度が上がりやすく染色性が低下することがあるため、一軸延伸前または一軸延伸工程中において染色するのが好ましく、一軸延伸前において染色するのがより好ましい。
【0055】
染色に用いる染料としては、例えば、ヨウ素や、Direct black 17、19、154;Direct brown 44、106、195、210、223;Direct red 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;Direct blue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;Direct violet 9、12、51、98;Direct green 1、85;Direct yellow 8、12、44、86、87;Direct orange 26、39、106、107等の二色性染料などを使用することができる。染色は、通常、フィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことができる。
【0056】
上記の染料の中でもヨウ素が好ましい。ヨウ素を用いた染色はヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する溶液(好ましくは水溶液)中にフィルムを浸漬させることにより行うことができる。上記溶液中におけるヨウ素の濃度は0.01〜0.5質量%の範囲にあることが好ましく、0.02〜0.1質量%の範囲にあることがより好ましく、0.03〜0.06質量%の範囲にあることがさらに好ましい。また、上記溶液中におけるヨウ化カリウムの濃度は0.01〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましく、1〜6質量%の範囲にあることがさらに好ましい。上記溶液の温度については特に限定がないが、20〜50℃の範囲にあることが好ましく、30〜40℃の範囲にあることがより好ましい。
【0057】
一軸延伸は溶媒(好ましくは水または水を含む水系溶媒)中における湿式延伸法または空気中等における乾熱延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法による場合は、水中での一軸延伸、ほう酸を含有しない染色溶液中での一軸延伸、ほう酸を含有する染色溶液中での一軸延伸、ほう酸水溶液中での一軸延伸などにより行うことができる。これらの中でもほう酸水溶液中での一軸延伸が好ましい。
【0058】
ほう酸水溶液中での一軸延伸において使用されるほう酸水溶液中のほう酸の濃度は2〜6質量%の範囲にあることが好ましく、2〜5質量%の範囲にあることがより好ましく、2〜4質量%の範囲にあることがさらに好ましい。ほう酸の濃度が2質量%以上であることにより、得られる偏光フィルムの色斑をより低減させることができる。一方、ほう酸の濃度が6質量%以下であることにより、PVA系重合体−ほう酸架橋が必要以上に起こるのを抑制することができ、それにより高倍率まで延伸することが可能となり、偏光性能により優れた偏光フィルムが得やすくなる。またほう酸水溶液中には、ほう酸に加えてさらに鉄やジルコニウム等の金属化合物を添加してもよい。さらに、得られる偏光フィルムの色相をニュートラルグレーに近づけるため、ほう酸水溶液中にはヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムの濃度は3〜10質量%の範囲にあることが好ましく、4〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。ヨウ化カリウムの添加量が少ないと青味の強い偏光フィルムとなり、ヨウ化カリウムの添加量が多いと赤みの強い偏光フィルムとなるので、必要に応じてヨウ化カリウムの濃度を調整することが好ましい。
【0059】
延伸温度に特に制限はないが、高い偏光性能を発現させるために、湿式延伸する場合には30〜90℃の範囲内であることが好ましく、乾熱延伸する場合には50〜180℃の範囲内であることが好ましい。
【0060】
また、一軸延伸の延伸倍率(多段で一軸延伸する場合には合計の延伸倍率)は、使用されるPVA系重合体フィルム(P)の種類や延伸条件等に由来する限界延伸倍率(フィルムが破断する直前の倍率)などにもよるが、延伸前のフィルムの長さに基づいて4.5〜7.0倍の範囲にあることが好ましく、4.7〜6.5倍の範囲にあることがより好ましく、5.0〜6.0倍の範囲にあることがさらに好ましい。延伸倍率が4.5倍以上であることにより、より高い偏光性能を有する偏光フィルムが容易に得られる。一方、延伸倍率が7.0倍以下であることにより、フィルムの破断が抑制され安定して偏光フィルムを製造することができるとともに、得られた偏光フィルムの色斑も少なくなる。長尺のPVA系重合体フィルムを原料として用いる場合には、通常、フィルムの長さ方向(長手方向)が一軸延伸される方向となる。
【0061】
偏光フィルムの製造にあたっては、フィルムへのヨウ素の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する処理浴としては、ほう酸、硼砂等のほう素化合物の1種または2種以上を含有する水溶液を使用することができる。また必要に応じて、固定処理用の処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物等を添加してもよい。固定処理用の処理浴中におけるほう素化合物の濃度は2〜15質量%の範囲にあることが好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがより好ましい。固定処理を行う際の処理浴の温度は15〜60℃の範囲にあることが好ましく、25〜40℃の範囲にあることがより好ましい。
【0062】
上記した染色、一軸延伸、固定処理等を行った後、得られた偏光フィルムを乾燥することが好ましい。偏光フィルムの乾燥処理は、乾燥機を用いたバッチ式乾燥や連続フロート式乾燥、あるいは連続ロール接触式乾燥などの方法で行うことができる。乾燥温度は、染料としてヨウ素を用いた場合にフィルムからのヨウ素の昇華を防ぐため、および、ほう酸で架橋を形成した場合にPVA系重合体からのほう酸の脱離反応を抑えるために、40〜80℃の範囲内であることが好ましく、45〜70℃の範囲内であることがより好ましく、50〜60℃の範囲内であることがさらに好ましい。乾燥時間に特に制限はない。
【0063】
本発明の製造方法で得られる偏光フィルムは、偏光度が99.80%以上であり、且つ、透過率が44%以上であることが好ましい。
【0064】
本発明の製造方法で得られる偏光フィルムは、その両面または片面に、光学的に透明でかつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用することができる。保護膜としては、例えば、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等を使用することができる。また貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤等を挙げることができるが、中でもPVA系接着剤が好ましい。
【0065】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置の部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等を貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。フィルムのレターデーション、光軸および膨潤度、一軸延伸におけるネックインならびに偏光フィルムの偏光性能の評価方法について、以下に述べる。
【0067】
(1)フィルムのレターデーションと光軸
大塚電子株式会社製セルギャップ検査装置「RETS−1100」を用いて、測定波長550nmにおけるフィルムのレターデーションと光軸とを測定した。測定は、フィルムの中央部において、フィルムの厚さ方向の光に基づいて行った。
【0068】
(2)フィルムの膨潤度
フィルムを10cm×20cmにカットして、30℃の蒸留水に30分間浸漬した。次に、浸漬後のフィルムを蒸留水から取り出し、フィルム表面の水滴をろ紙でふき取り、フィルムの質量(X)を測定した。このフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥し、乾燥後のフィルムの質量(Y)を測定した。そして、膨潤度(%)=100×(X)/(Y)の式に基づいて膨潤度を算出した。
【0069】
(3)一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムのうち、一番短い幅(A)を測定し、これを一軸延伸前の幅(B;10cm)で除すことにより、ネックイン(A)/(B)を求めた。
【0070】
(4)偏光フィルムの偏光性能
(i)透過率(Y)
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、4cm(一軸延伸の延伸方向)×4cm(一軸延伸の延伸方向に対して垂直の方向)の正方形のサンプルを2枚採取した。これらのサンプルについて、日立製作所製の分光光度計「U−4100」(積分球付属)を用いて、その光の透過率を測定した。なお測定に際しては、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源を用いて、2度視野の可視光領域の視感度補正を行った。1枚のサンプルについて、一軸延伸の延伸方向に対して45度傾けた場合の光の透過率と、一軸延伸の延伸方向に対して−45度傾けた場合の光の透過率とを測定して、それらの平均値(Y1)(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても、同様に、45度傾けた場合の光の透過率と−45度傾けた場合の光の透過率とを測定して、それらの平均値(Y2)(%)を求めた。そして、求められたY1とY2とを以下の式で平均して偏光フィルムの透過率(Y)(%)とした。
透過率(Y)(%)=(Y1+Y2)/2
【0071】
(ii)偏光度(V)
上記の「(i)透過率(Y)」の測定において採取した2枚のサンプルを、それらの一軸延伸の延伸方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率(Y‖)(%)、および、それらの一軸延伸の延伸方向が直交するように重ねた場合の光の透過率(Y⊥)(%)を測定した。透過率(Y‖)および(Y⊥)は、上記の「(i)透過率(Y)」における測定方法と同様にして、一方のサンプルの一軸延伸の延伸方向に対して45度傾けた場合の光の透過率と−45度傾けた場合の光の透過率との平均値として求めた。透過率(Y‖)および(Y⊥)から、以下の式に基づいて偏光度(V)(%)を求めた。
偏光度(V)(%)={(Y‖−Y⊥)/(Y‖+Y⊥)}1/2×100
【0072】
[実施例1]
ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られた重合度2400、けん化度99.9モル%のPVA100質量部とグリセリン(可塑剤)12質量部とを含むPVA水溶液(PVA濃度:11質量%)を調製した。このPVA水溶液を60℃の金属ロール上で60分間乾燥して、厚さ75μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムの幅方向の中央部から、流れ方向(金属ロールの回転方向)45cmおよび当該流れ方向に対して垂直方向24cmの長方形のサンプルを採取し、その4辺を金属枠に固定して130℃で5分間熱処理を行い、熱処理されたPVAフィルムを得た。以下、この熱処理されたPVAフィルムを「PVAフィルム(1)」という場合がある。
【0073】
PVAフィルム(1)のレターデーションは5nmであり、その光軸と流れ方向(金属ロールの回転方向)とがなす角度は0°であった。また、PVAフィルム(1)の膨潤度(a)は205%であった。
【0074】
次に、PVAフィルム(1)から、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、70%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.10倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、70%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保って熱固定処理を行った。
【0075】
次に、延伸後のサンプルを恒温恒湿機から取り出し、そのサンプルの中央部から、恒温恒湿機内での延伸方向に11cm、当該延伸方向に対して垂直な方向に10cmの大きさになるように、11cm×10cmの長方形のサンプルを切り出した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(1)」という場合がある。
【0076】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(1)のレターデーションは120nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は1°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(1)の膨潤度(b)は211%であった。
【0077】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(1)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は1°に設定された。続いて、延伸治具に取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(1)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.2倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、実施例1の偏光フィルム(1)を製造した。
【0078】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.51であった。また、実施例1の偏光フィルム(1)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.80%であった。
【0079】
[実施例2]
実施例1において、恒温恒湿機内での延伸倍率を1.10倍から1.04倍に変更したこと以外は実施例1と同様にして、11cm×10cmの長方形のサンプルを作製した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(2)」という場合がある。
【0080】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(2)のレターデーションは50nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は1°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(2)の膨潤度(b)は209%であった。
【0081】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(2)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は1°に設定された。続いて、延伸治具により取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(2)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.3倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、実施例2の偏光フィルム(2)を製造した。
【0082】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.50であった。また、実施例2の偏光フィルム(2)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.81%であった。
【0083】
[実施例3]
実施例1において、恒温恒湿機内での延伸倍率を1.10倍から1.12倍に変更したこと以外は実施例1と同様にして、11cm×10cmの長方形のサンプルを作製した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(3)」という場合がある。
【0084】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(3)のレターデーションは150nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は1°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(2)の膨潤度(b)は209%であった。
【0085】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(3)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は1°に設定された。続いて、延伸治具により取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(3)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.1倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、実施例3の偏光フィルム(3)を製造した。
【0086】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.52であった。また、実施例3の偏光フィルム(3)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.80%であった。
【0087】
[実施例4]
実施例1のPVAフィルム(1)と同様にして得たPVAフィルムから、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、70%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.10倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、70%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保って熱固定処理を行った。
【0088】
次に、延伸後のサンプルを恒温恒湿機から取り出し、そのサンプルの中央部から、恒温恒湿機内での延伸方向に対して19°傾けた方向に11cm、恒温恒湿機内での延伸方向に対して109°傾けた方向に10cmの大きさになるように、11cm×10cmの長方形のサンプルを切り出した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(4)」という場合がある。
【0089】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(4)のレターデーションは120nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は20°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(4)の膨潤度(b)は211%であった。
【0090】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(4)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は20°に設定された。続いて、延伸治具に取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(4)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.3倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、実施例4の偏光フィルム(4)を製造した。
【0091】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.50であった。また、実施例4の偏光フィルム(4)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.80%であった。
【0092】
[実施例5]
ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られた重合度2400、けん化度99.9モル%のPVA100質量部とグリセリン(可塑剤)12質量部とを含むPVA水溶液(PVA濃度:11質量%)を調製した。このPVA水溶液を60℃の金属ロール上で60分間乾燥して、厚さ75μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムの幅方向の中央部から、流れ方向(金属ロールの回転方向)45cmおよび当該流れ方向に対して垂直方向24cmの長方形のサンプルを採取し、その4辺を金属枠に固定して125℃で5分間熱処理を行い、熱処理されたPVAフィルムを得た。以下、この熱処理されたPVAフィルムを「PVAフィルム(5)」という場合がある。
【0093】
PVAフィルム(5)のレターデーションは5nmであり、その光軸と流れ方向(金属ロールの回転方向)とがなす角度は0°であった。また、PVAフィルム(6)の膨潤度(a)は210%であった。
【0094】
次に、PVAフィルム(5)から、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、70%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.11倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、70%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保って熱固定処理を行った。
【0095】
次に、延伸後のサンプルを恒温恒湿機から取り出し、そのサンプルの中央部から、恒温恒湿機内での延伸方向に11cm、当該延伸方向に対して垂直な方向に10cmの大きさになるように、11cm×10cmの長方形のサンプルを切り出した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(5)」という場合がある。
【0096】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(5)のレターデーションは120nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は0°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(5)の膨潤度(b)は215%であった。
【0097】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(5)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は0°に設定された。続いて、延伸治具に取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(5)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.2倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、実施例5の偏光フィルム(5)を製造した。
【0098】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.51であった。また、実施例5の偏光フィルム(5)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.80%であった。
【0099】
[実施例6]
ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られた重合度2400、けん化度99.9モル%のPVA100質量部とグリセリン(可塑剤)12質量部とを含むPVA水溶液(PVA濃度:11質量%)を調製した。このPVA水溶液を60℃の金属ロール上で60分間乾燥して、厚さ75μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムの幅方向の中央部から、流れ方向(金属ロールの回転方向)45cmおよび当該流れ方向に対して垂直方向24cmの長方形のサンプルを採取し、その4辺を金属枠に固定して135℃で5分間熱処理を行い、熱処理されたPVAフィルムを得た。以下、この熱処理されたPVAフィルムを「PVAフィルム(6)」という場合がある。
【0100】
PVAフィルム(6)のレターデーションは5nmであり、その光軸と流れ方向(金属ロールの回転方向)とがなす角度は0°であった。また、PVAフィルム(6)の膨潤度(a)は200%であった。
【0101】
次に、PVAフィルム(6)から、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、70%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.09倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、70%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保って熱固定処理を行った。
【0102】
次に、延伸後のサンプルを恒温恒湿機から取り出し、そのサンプルの中央部から、恒温恒湿機内での延伸方向に11cm、当該延伸方向に対して垂直な方向に10cmの大きさになるように、11cm×10cmの長方形のサンプルを切り出した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(6)」という場合がある。
【0103】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(6)のレターデーションは120nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は0°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(6)の膨潤度(b)は205%であった。
【0104】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(6)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は0°に設定された。続いて、延伸治具に取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(6)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.1倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、実施例6の偏光フィルム(6)を製造した。
【0105】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.52であった。また、実施例6の偏光フィルム(6)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.80%であった。
【0106】
[比較例1]
実施例1において、恒温恒湿機内での延伸倍率を1.10倍から1.03倍に変更したこと以外は実施例1と同様にして、11cm×10cmの長方形のサンプルを作製した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(C1)」という場合がある。
【0107】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(C1)のレターデーションは40nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は1°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C1)の膨潤度(b)は207%であった。
【0108】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C1)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は1°に設定された。続いて、延伸治具により取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(C1)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.4倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、比較例1の偏光フィルム(C1)を製造した。
【0109】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.48であった。また、比較例1の偏光フィルム(C1)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.80%であった。
【0110】
また、一軸延伸(湿式延伸)の延伸倍率を5.4倍から5.1倍に変更したこと以外は上記と同様にして偏光フィルム(C1’)を製造した。一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.51であった。また、偏光フィルム(C1’)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.72%であった。
【0111】
[比較例2]
実施例1において、恒温恒湿機内での延伸倍率を1.10倍から1.13倍に変更したこと以外は実施例1と同様にして、11cm×10cmの長方形のサンプルを作製した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(C2)」という場合がある。
【0112】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(C2)のレターデーションは160nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は2°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C2)の膨潤度(b)は210%であった。
【0113】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C2)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は2°に設定された。続いて、延伸治具により取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(C2)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.0倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、比較例2の偏光フィルム(C2)を製造した。
【0114】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.53であった。また、比較例2の偏光フィルム(C2)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.75%であった。
【0115】
[比較例3]
実施例1のPVAフィルム(1)と同様にして得たPVAフィルムから、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、70%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.10倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、70%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保って熱固定処理を行った。
【0116】
次に、延伸後のサンプルを恒温恒湿機から取り出し、そのサンプルの中央部から、恒温恒湿機内での延伸方向に対して29°傾けた方向に11cm、恒温恒湿機内での延伸方向に対して119°傾けた方向に10cmの大きさになるように、11cm×10cmの長方形のサンプルを切り出した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(C3)」という場合がある。
【0117】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(C3)のレターデーションは120nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は30°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C3)の膨潤度(b)は211%であった。
【0118】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C3)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は30°に設定された。続いて、延伸治具に取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(C3)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.4倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、比較例3の偏光フィルム(C3)を製造した。
【0119】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.49であった。また、比較例3の偏光フィルム(C3)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.81%であった。
【0120】
また、一軸延伸(湿式延伸)の延伸倍率を5.4倍から5.1倍に変更したこと以外は上記と同様にして偏光フィルム(C3’)を製造した。一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.53であった。また、偏光フィルム(C3’)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.72%であった。
【0121】
[比較例4]
実施例1のPVAフィルム(1)と同様にして得たPVAフィルムから、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、70%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.07倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、70%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保って熱固定処理を行った。
【0122】
次に、延伸後のサンプルを恒温恒湿機から取り出し、そのサンプルの中央部から、恒温恒湿機内での延伸方向に10cm、当該延伸方向に対して垂直な方向に11cmの大きさになるように、11cm×10cmの長方形のサンプルを切り出した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(C4)」という場合がある。
【0123】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(C4)のレターデーションは90nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は89°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C4)の膨潤度(b)は210%であった。
【0124】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C4)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は89°に設定された。続いて、延伸治具を取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(C4)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.5倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、比較例4の偏光フィルム(C4)を製造した。
【0125】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.46であった。また、比較例4の偏光フィルム(C4)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.85%であった。
【0126】
また、一軸延伸(湿式延伸)の延伸倍率を5.5倍から5.1倍に変更したこと以外は上記と同様にして偏光フィルム(C4’)を製造した。一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.50であった。また、偏光フィルム(C4’)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.75%であった。
【0127】
[比較例5]
実施例1のPVAフィルム(1)と同様にして得たPVAフィルムから、35cm(流れ方向)×15cm(幅方向)の大きさの長方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの流れ方向の両端部の15cm×5cmの領域を延伸治具に固定して、80℃、90%RHの恒温恒湿機に投入し、そのまま3分間保持した。その後、恒温恒湿機内において、0.1m/分の速度でサンプルを延伸前の長さに基づいて1.10倍の延伸倍率で延伸し、そのまま80℃、90%RH雰囲気下で5分間緊張状態を保とうとした。しかし、サンプルが吸湿してサンプルにしわが入り、偏光フィルムの製造に適したPVAフィルムが得られなかった。
【0128】
[比較例6]
実施例1において、恒温恒湿機内の雰囲気を80℃、70%RHから80℃、50%RHに変更したこと以外は実施例1と同様にして、11cm×10cmの長方形のサンプルを作製した。以下、このサンプルを「偏光フィルム製造用PVAフィルム(C6)」という場合がある。
【0129】
偏光フィルム製造用PVAフィルム(C6)のレターデーションは160nmであり、その光軸と11cmの辺と平行な方向とがなす角度は2°であった。また、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C6)の膨潤度(b)は206%であった。
【0130】
次に、偏光フィルム製造用PVAフィルム(C6)を、11cmの辺と平行な方向に一軸延伸されるように、その両端部(10cmの辺の部分)を延伸治具(チャック間隔:4cm)に取り付けた。これにより一軸延伸されるべき方向と光軸とのなす角度は2°に設定された。続いて、延伸治具により取り付けた偏光フィルム製造用PVAフィルム(C6)を30℃の純水に30秒間浸漬し、さらに、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%、ほう酸を4質量%の割合で含有する染色液(水溶液;温度30℃)に浸漬することによって、ヨウ素をフィルムに吸着させた。その後、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度50℃)において、0.13m/分の速度でフィルムを延伸前の長さに基づいて5.0倍の延伸倍率で一軸延伸(湿式延伸)した。なお、フィルムが破断する倍率を予め調査し、フィルムが破断する直前の延伸倍率で一軸延伸を行った。続いて、ほう酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液中(温度35℃)にフィルムを4分間浸漬して固定処理を行った。その後、延伸方向を固定したまま50℃で4分間フィルムを乾燥し、比較例6の偏光フィルム(C6)を製造した。
【0131】
一軸延伸におけるネックイン(A)/(B)は0.51であった。また、比較例6の偏光フィルム(C6)は、透過率(Y)が44%であり、偏光度(V)が99.70%であった。
【0132】
以上の結果を表1および表2に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のPVA系重合体フィルムによれば、偏光フィルムを製造する際の一軸延伸工程におけるネックインを低減でき、その結果、広幅な偏光フィルムを製造できる。また、本発明のPVA系重合体フィルムによれば、高い偏光性能を示す偏光フィルムを製造できる。そのため、得られる偏光フィルムは、大型液晶モニター、大型液晶テレビ、屋内外で用いられる計測機器等の大型液晶表示装置の構成部品となる偏光板の製造などに好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルム製造用であるポリビニルアルコール系重合体フィルムであって、
偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度が0〜20°の範囲にあり、
レターデーションが50〜150nmの範囲にある、ポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項2】
膨潤度(b)が205〜215%の範囲にある、請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項3】
長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムであって、前記偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向がフィルムの長さ方向である、請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項4】
偏光フィルム製造用であるポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法であって、
膨潤度(a)が200〜210%の範囲にあり、レターデーションが0〜30nmの範囲にあるポリビニルアルコール系重合体フィルムを相対湿度が60〜80%の雰囲気下で延伸することによって、偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向と光軸とがなす角度を0〜20°の範囲内にするとともに、レターデーションを50〜150nmの範囲内にする工程を含む、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸の延伸倍率が1.04〜1.12倍の範囲にある、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
膨潤度(b)が205〜215%の範囲にあるポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法である、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法であって、前記偏光フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向がフィルムの長さ方向である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料として用いて偏光フィルムを製造する偏光フィルムの製造方法であって、染色工程および一軸延伸工程を含む製造方法。

【公開番号】特開2011−252937(P2011−252937A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124513(P2010−124513)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】