説明

ポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法

【課題】ポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解の反応が速く、反応率が高い加水分解方法を提供すること。
【解決手段】ブロックコポリマーの疎水性セグメントの溶解性パラメーターとカルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をAと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をBと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターの差をCと表すと、上記A、BおよびCが下記式(1)の関係にあることを特徴とするブロックコポリマーの加水分解方法。
B≦1/2A≦C 式(1)
(ただし、A≠0、A、B、Cは絶対値表示とする。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極性の異なる1種類以上のブロックを有するブロックコポリマーの加水分解をアルカリまたは酸で行う場合、ポリマーを溶媒に溶解させて行うのが好ましいが、加水分解の進行に伴い、ポリマーが析出若しくはミセルを形成し、加水分解部分が、ブロックコポリマーのコア部に入り込んだり、またはアルカリや酸がポリマーのミセル内部に配位し、加水分解反応が遅くなったり、十分に進行しないという問題がある。また、ポリマーにおける加水分解においては、加水分解の明確な条件を示しているものは殆どない(特許文献1、2)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−157564号公報
【特許文献2】特開2004−51950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の状況に鑑み、本発明は、ポリビニルエーテル系ブロックコポリマー(以下単に「ブロックコポリマー」と云う場合がある)において、加水分解の反応が速く、反応率が高い加水分解方法を提供することを目的とする。さらに本発明で得られるブロックコポリマーを用いた、分散安定性および吐出性に優れたインクジェット記録用水性インク(以下「インク」と云う場合がある)提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は以下の本発明によって達せられる。すなわち、本発明は、少なくとも1種の疎水性セグメントおよびカルボン酸エステル基を有するセグメントからなるブロックコポリマーの加水分解溶媒による加水分解方法において、上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をAと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をBと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターの差をCと表すと、上記A、BおよびCが下記式(1)の関係にあることを特徴とするブロックコポリマーの加水分解方法を提供する。
B≦1/2A≦C 式(1)
(ただし、A≠0、A、B、Cは絶対値表示とする。)
【0006】
上記本発明の分解方法においては、少なくとも1種の有機溶媒および/または水からなる加水分解溶媒の溶解性パラメーターが、ブロックコポリマーの溶解性パラメーターに対して−1.5〜+10.3(J/cm31/2の関係にあること;前記ブロックコポリマーの親水性セグメントが、非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているセグメントと、アニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているセグメントを少なくとも含むこと;前記ブロックコポリマーの溶解性パラメーターが、16.0〜24.0(J/cm31/2であること;および前記カルボン酸エステル基を有するセグメントの加水分解反応率が増加するに従い、前記式(1)を満たすように、加水分解溶媒を追加することが好ましい。
【0007】
また、本発明は、水溶性樹脂と色材と有機溶剤と水とを少なくとも含有するインクであり、前記水溶性樹脂が、前記本発明の加水分解を行うことで得られたブロックコポリマーであることを特徴とするインクを提供する。該インクの色材は顔料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加水分解速度が速く、加水分解反応率が高い両親媒性のブロックコポリマーの加水分解方法を提供できる。さらに本発明の加水分解方法により得られたブロックコポリマーを用いることにより、分散安定性および吐出安定性に優れたインクを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の加水分解方法は、少なくとも1種の疎水性セグメントおよびカルボン酸エステル基を有するセグメントからなるブロックコポリマーの加水分解溶媒による加水分解方法において、上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をAと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をBと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターの差をCと表すと、上記A、BおよびCが下記式(1)を満たす条件で、ブロックコポリマーの加水分解を行うことを特徴としている。
B≦1/2A≦C 式(1)
(ただし、A≠0、A、B、Cは絶対値表示とする。)
【0010】
上記の溶解性パラメーター(δ(J/cm31/2)は、溶剤の凝集エネルギー密度の平方根として表され、δ=(ΔE/V)1/2(式中、ΔEは溶剤のモル蒸発熱、Vは溶媒のモル体積)の式から算出される溶剤の溶解性を示す溶剤固有の値であり、例えば、水はδ=47.0、エタノールはδ=25.7、ヘキサンはδ=14.9である。また、ブロックコポリマーの溶解性パラメーター(δ)は、ブロックコポリマーの無限溶解度または最高膨潤度を与える溶剤の溶解性パラメーター=高分子の溶解性パラメーターとする実験的に算出した値やブロックコポリマーの官能基の分子凝集エネルギーから算出した値である。
【0011】
本発明でのブロックコポリマーおよび溶剤の溶解性パラメーターは、ブロックコポリマーおよび溶剤の官能基の分子凝集エネルギーから算出した値を使用している。ブロックコポリマーおよび溶剤の溶解性パラメーター(δ)を官能基の分子凝集エネルギーから算出する方法は、δ=(ΔE/V)1/2=(ΣΔei/ΣΔvi1/2(式中、ΔEはそれぞれのモル蒸発熱、Vはそれぞれのモル体積、Δeiはそれぞれの原子団の蒸発エネルギー(J/mol)、Δviはそれぞれの原子団のモル体積(cm3/mol)である。)の式から算出する方法が挙げられる。なお、原子団の蒸発エネルギーおよび原子団のモル体積はFedorsの値を使用して算出した。
【0012】
前記式(1)において、B>1/2A>Cの場合、加水分解部分のエステルがコポリマーのコア部に入り込み十分に加水分解が進行しない場合がある。また、前記式(1)において、B>1/2AかつC>1/2Aの場合、コポリマーの溶媒への溶解性が悪くなる場合があり、加水分解効率が悪くなる場合がある。
【0013】
本発明におけるブロックコポリマーの加水分解反応率は80%以上であることが好ましい。80%未満の加水分解率のブロックコポリマーを用いて、水性インクを調整した場合、色材の分散安定性およびインクの吐出安定性が低下する場合がある。さらに好ましい加水分解反応率は90%以上である。
【0014】
本発明で使用する上記ブロックコポリマーは、そのブロック毎が、おのおのビニルエーテル系モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであることが好ましい。上記のブロックコポリマーは、例えば、下記一般式(2)で示されるモノマー単位の繰り返し構造を有することが好ましい。
−(CH2−CH(OR1))− (2)
上記の一般式(2)において、R1は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。また、芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。R1の炭素数は1〜18が好ましい。
【0015】
また、R1は、−(CH(R2)−CH(R3)−O)p−R4もしくは−(CH2m−(O)n−R5で表される基でもよい。この場合、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R4は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基(芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい)、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2、−CO−C(CH3)=CH2、−CH2−CH=CH2、−CH2−C(CH3)=CH2、−CH2COOR5などを表し、これらの基のうちの水素原子は、化学的に可能である範囲で、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子と置換されていてもよい。R4の炭素数は1〜18が好ましい。R5は水素、または炭素数は1〜18のアルキル基である。pは1〜18が好ましく、mは1〜36が好ましく、nは0または1であるのが好ましい。
【0016】
1、R4およびR5において、アルキル基またはアルケニル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、オレイル、リノレイルなどであり、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロヘキセニルなどである。
【0017】
上記ブロックコポリマーの少なくとも1個の繰り返し単位は下記一般式(3)で示される繰り返し単位構造が好ましい。

6は炭素数1〜18のアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基、またはシクロアルケニレン基のような脂肪族炭化水素、フェニレン基、ピリジレン基、アルキルフェニレン基、フェニルアルキレン基、ビフェニレン基、フェニルピリジレン基などのような、炭素原子が窒素原子に置換されていてもよい芳香族炭化水素基を示す。
【0018】
7はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。また、芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。R6、R7の炭素数は1〜18が好ましい。
【0019】
6は、−(CH(R8)−CH(R9)−O)p−R10、もしくは−(CH2m−(O)n−R11で表される基でもよい。この場合、R8およびR9は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R10は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基(芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい)、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2、−CO−C(CH3)=CH2、−CH2−CH=CH2、−CH2−C(CH3)=CH2などを表し、これらの基のうちの水素原子は、化学的に可能である範囲で、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子と置換されていてもよい。R10の炭素数は1〜18が好ましい。mは1〜17であり、pは1〜17が好ましい。
【0020】
11は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。また、芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。nは0若しくは1であり、R11の炭素数は1〜18が好ましい。
【0021】
上記ブロックコポリマーは、それを他の高分子にグラフト結合させたものを使用してもよいし、他のモノマーと共重合されたものを使用してもよい。また、各ブロックとも、ビニルエーテル系モノマーとそれ以外のモノマーとのコポリマーも含まれる。
【0022】
ポリビニルエーテル構造を含むポリマーの合成法は多数報告されている(例えば、特開平11−080221号公報)が、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌 15巻、1986年 417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)が代表的である。カチオンリビング重合でポリマー合成を行うことにより、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなるコポリマー、さらにはブロックコポリマー、グラフトコポリマー、グラジュエーションコポリマーなどの様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、ポリビニルエーテルは、その側鎖に様々な官能基を導入することができる。カチオン重合法は、他にHI/I2系、HCl/SnCl4系などで行うこともできる。本発明で使用する前記ブロックコポリマーは上記公知の方法で製造することができる。
【0023】
本発明で使用する上記ブロックコポリマーは、それぞれ少なくとも1種の疎水性セグメント(Aおよび/またはA’)および親水性セグメント(Bおよび/またはB’)を有するものが好ましい。例えば、AB型、ABA’型(AとA’は同じでも異なっていてもよい)、AA’B型、BB’A型(BとB’は同じでも異なっていてもよい)などのブロックコポリマーが挙げられる。ここで、A、A’、B、B’はホモポリマー、またはコポリマーのセグメントを示す。
【0024】
前記ブロックコポリマーの親水性セグメントが、非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているセグメントとアニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているセグメントを少なくとも含むブロックコポリマーを用いることができる。前記構造を有するブロックコポリマーの溶解性パラメーターは16.0〜24.0(J/cm31/2であることが好ましい。
【0025】
上記のような構造および溶解性パラメーターを有するブロックコポリマーは、それぞれ少なくとも1種の疎水セグメントおよび親水セグメントを有するため、両親媒性があり、また、ビニルエーテル構造を有することにより熱に対する刺激応答性があり、さらに、加水分解後のポリマーにおいては、pHに対する刺激応答性も有するようになるため、色材分野、医薬の分野などでの用途が広がり好ましい。前記ブロックコポリマーのカルボン酸エステル基を有するセグメントの加水分解反応率が増加するに従い、前記式(1)を満たすように、加水分解溶媒を追加することが好ましい。
【0026】
前記ブロックコポリマーのカルボン酸エステル基を有するセグメントの加水分解反応率が増加するに従い、溶解性パラメーターが大きくなる。このためカルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性より、疎水性セグメントの溶解性が増し、カルボン酸エステル基を有するセグメント部分をコアとするミセルを形成し、加水分解反応が遅くなったり、反応しないなどの不都合が生じる場合がある。この現象を回避するために、前記式(1)を満たすように、加水分解溶媒を追加することが好ましい。
【0027】
本発明の加水分解溶媒としては、少なくとも1種の有機溶媒および/または水からなり、溶解性パラメーターがブロックコポリマーの溶解性パラメーターに対して−1.5〜+10.3(J/cm31/2であることが好ましい。上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターがブロックコポリマーの溶解性パラメーターに対して−1.5(J/cm31/2よりも小さい場合、疎水性セグメントと溶媒との親和性がカルボン酸エステル基を有するセグメントと溶媒との親和性よりも良くなり、十分に加水分解が進行しない場合がある。また、+10.3(J/cm31/2よりも大きい場合、ポリマーは溶解しにくくなり、加水分解の反応速度が遅くなったり、反応しないなどの不都合が生じる場合がある。
【0028】
本発明において、加水分解溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、トルエンおよび水から選ばれる少なくとも一つまたはこれらの混合物などが使用可能であり、これらの溶媒は前記ブロックコポリマー100質量部あたり約1質量部〜100質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0029】
本発明で使用するアルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの強塩基を用いるのが好ましい。これらのアルカリの使用量は系内がアルカリ性であればよいが、より好ましくは、該コポリマーの加水分解部分に対し0.1モル以上が好ましい。また、水は、特に限定されず、水道水などでもよく、その使用量は該コポリマーの質量の0.01倍〜20.00倍量であることが好ましい。加水分解の条件は特に限定されないが、例えば、0〜70℃で0.15〜72時間撹拌することが好ましい。また、本発明の加水分解物をインクに添加する場合のpHは6〜10の範囲であることが好ましい。pHが6未満ではインクの長期的な分散安定性が得られず、pHが10以上の範囲では画像の定着性が十分に得られない場合が多い。特に好ましいpHの範囲は7〜9の範囲である。
【0030】
本発明の加水分解方法で得られるブロックコポリマーの加水分解物は、インクジェット記録用インクにおける色材の分散剤として好適に用いることができる。本発明で用いる色材としては、従来からインクに用いられている顔料、油溶性染料、分散染料、建染染料などの水不溶性の全ての色材を使用することが可能であるが、耐水性、耐ガス性、耐光性の堅牢性の向上を考慮すると顔料が好ましい。
【0031】
これらの色材のインク全質量に占める割合は1.0〜10.0質量%、さらには1.5〜8.0質量%であることが好ましい。色材の量が1質量%未満では印字画像に十分な濃度が得られず、色材の量が10.0質量%を超えると、ノズルにおける目詰まりなどの吐出安定性の低下を招く。
【0032】
本発明の水性インクの主な液媒質は水であるが、その他の水溶性の有機溶剤を含んでもよい。これらの有機溶剤は従来のインクに用いられているものであれば全て使用することが可能である。このような有機溶剤は、水溶性であれば固体でも液体でもよい。また、水が蒸発するような条件下でもインク中に残留することが要求されるので、沸点が水よりも高いことが望ましく、120℃以上であることが望ましいが、ブロックコポリマーとの相互作用があるために単独の場合よりも蒸発しにくくなることから、必ずしも高沸点物質には限定されない。これらの有機溶剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの有機物のインク中に占める割合としては、インク全質量の5〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。なお、本発明のインクには、前記成分以外にも、例えば、pH調整剤、酸化防止剤、防黴剤などの各種添加剤を加えてもよい。
【0033】
本発明のインクは、インクにエネルギーを与えて飛翔させて記録するインクジェット記録方法に好適に用いることができる。エネルギーとしては熱エネルギーや力学的エネルギーを用いることができるが、特に熱エネルギーを用いる方法が好ましい。インクジェット記録用のプリンターとしては、A4サイズ紙を主に用いる一般家庭用のプリンターや、名刺やカードを印刷対象とするプリンター、或いは業務用の大型プリンターなどに適用できる。本発明のインクで記録する被記録媒体としては、特別なコーティングを施していない普通紙、少なくとも一方の面にインクを受容する層をコーティングしたいわゆるインクジェット専用紙、ハガキや名刺用紙、ラベル用紙、ダンボール紙、インクジェット用フィルムなどが挙げられる。
【実施例】
【0034】
次に実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」または「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。また、以下の実施例において樹脂の同定には1H−NMR(核磁気共鳴分光法)(商品名:DPX400;ブルカー・バイオスピン(株)、溶媒;クロロホルム−d、内部基準物質;テトラメチルシラン)を用い、樹脂の分子量および分子量分布はGPC(Gel Permeation Chromatography)(商品名:HLC−8220GPC;東ソー(株)、カラムTSK−GEL4000HXL、TSK−GEL3000HXL、TSK−GEL2000HXL、カラムオーブン温度40℃)を用いた。カルボン酸エステル基の加水分解の反応率はNMR用い、下記式(4)で求めた。
反応率(%)=(1−y/x)×100 (4)
y:加水分解後のカルボン酸エステル基を有するセグメント部分NMR
x:加水分解前のカルボン酸エステル基を有するセグメント部分NMR
【0035】
[ABC型トリブロックコポリマー(ポリマー)の合成]
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃で加熱して吸着水を除去した。系を室温に戻した後、4−メチルフェノキシエチルビニルエーテル、酢酸エチル、1−イソブトキシエチルアセテート、およびトルエンを加え、系内温度が0℃になったところでエチルアルミニウムセスキクロライドを加え重合を開始し、トリブロックコポリマーのA成分を合成した。分子量を時分割にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー社製HLC−8220)を用いてモニタリングし、A成分の重合が完了した後、B成分である2−メトキシエチルビニルエーテルを添加することで合成を行い、上記と同様にGPCを用いてモニタリングしてB成分の重合の完了を確認した。
【0036】
次いでC成分である4−[2−ビニルオキシエトキシ]安息香酸エチルを添加して合成を行い、重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール溶液を加えて行なった。得られたトリブロックコポリマーの同定には、核磁気共鳴吸収測定装置およびGPCを用い、いずれも目的物質が合成できていることを示す結果を得た。数平均分子量(Mn)40,000、分子量分布の程度を示す質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は1.2であった。なお、得られたポリマーの溶解性パラメーターは20.401(J/cm31/2、疎水性セグメントの溶解性パラメーターは20.911(J/cm31/2、カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターは21.980(J/cm31/2であった。
【0037】
実施例1[アルカリ加水分解反応(ポリマー1)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gと溶媒としてテトラヒドロフラン15ml、N,N−ジメチルホルムアミド15ml、メタノール10ml、水0.2mlおよび水酸化ナトリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で3時間撹拌した。この時点での加水分解反応率は80%であり、ポリマーの溶解性パラメーターは21.191(J/cm31/2、疎水性セグメントの溶解性パラメーターは20.911(J/cm31/2、カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターは24.349(J/cm31/2であった。反応3時間の時点で、メタノール10ml、水1.8mlを追加し、3時間撹拌した。加水分解反応率は95%であった。
【0038】
実施例2[アルカリ加水分解反応(ポリマー2)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gと溶媒としてテトラヒドロフラン9ml、トルエン4ml、メタノール8ml、水0.2mlおよび水酸化リチウム0.4gを入れ、室温(26℃)で3時間撹拌した。この時点での加水分解反応率は82%であり、ポリマーの溶解性パラメーターは21.210(J/cm31/2、疎水性セグメントの溶解性パラメーターは20.911(J/cm31/2、カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターは24.408(J/cm31/2であった。反応3時間の時点で、水1.8mlを追加し、3時間撹拌した。加水分解反応率は98%であった。
【0039】
実施例3[アルカリ加水分解反応(ポリマー3)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gと溶媒としてテトラヒドロフラン9ml、メチルセルソルブ12ml、水0.2mlおよび水酸化リチウム0.4gを入れ、室温(26℃)で3時間撹拌した。この時点での加水分解反応率は75%であり、ポリマーの溶解性パラメーターは21.141(J/cm31/2、疎水性セグメントの溶解性パラメーターは20.911(J/cm31/2、カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターは24.201(J/cm31/2であった。反応3時間の時点で、メチルセロソルブ3ml、水1.8mlを追加し、3時間撹拌した。加水分解反応率は90%であった。
【0040】
実施例4[アルカリ加水分解反応(ポリマー4)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gとN,N−ジメチルホルムアミド15ml、トルエン1ml、水0.2mlおよび水酸化ナトリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で3時間撹拌した。この時点での加水分解反応率は75%であり、ポリマーの溶解性パラメーターは21.141(J/cm31/2、疎水性セグメントの溶解性パラメーターは20.911(J/cm31/2、カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターは24.201(J/cm31/2であった。反応3時間の時点で、水1.8mlを追加し、3時間撹拌した。加水分解反応率は90%であった。
【0041】
実施例5[アルカリ加水分解反応(ポリマー5)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gとテトラヒドロフラン12.7ml、メタノール8ml、水0.2mlおよび水酸化ナトリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で3時間撹拌した。この時点での加水分解反応率は80%であり、ポリマーの溶解性パラメーターは21.190(J/cm31/2、疎水性セグメントの溶解性パラメーターは20.911(J/cm31/2、カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターは24.349(J/cm31/2であった。反応3時間の時点で、メタノール12mlを追加し、3時間撹拌した。加水分解反応率は95%であった。
【0042】
比較例1[アルカリ加水分解反応(ポリマー6)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gと溶媒としてアセトン10ml、トルエン10ml、水0.2mlおよび水酸化カリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で6時間撹拌した。加水分解反応率は64%であった。
【0043】
比較例2[アルカリ加水分解反応(ポリマー7)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gと溶媒としてトルエン15ml、水0.2mlおよび水酸化カリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で6時間撹拌した。加水分解反応率は59%であった。
【0044】
比較例3[アルカリ加水分解反応(ポリマー8)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gと溶媒としてトルエン15ml、n−ヘキサン15ml、水0.2mlおよび水酸化カリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で6時間撹拌した。加水分解反応率は50%であった。
【0045】
比較例4[アルカリ加水分解反応(ポリマー9)]
100mlナス型フラスコに、前記ポリマー1gとN,N−ジメチルホルムアミド15ml、トルエン1ml、水0.2mlおよび水酸化ナトリウム0.4gを入れ、室温(26℃)で6時間撹拌した。加水分解反応率は77%であった。
【0046】
実施例および比較例に用いた加水分解溶媒、ポリマーのSP値の関係は表1および表2の通り。

【0047】
SP1=加水分解溶媒のSP値(J/cm31/2
SP2=ポリマーSP値(J/cm31/2
SP3=SP1−SP2(J/cm31/2
SP4=疎水性セグメントSP値(J/cm31/2
SP5=カルボン酸エステル基を有するセグメントSP値(J/cm31/2
A=|SP5−SP4|(J/cm31/2
B=|SP5−SP1|(J/cm31/2
C=|SP4−SP1|(J/cm31/2
【0048】

【0049】
SP6=加水分解溶媒追加後の加水分解溶媒のSP値(J/cm31/2
SP7=加水分解溶媒追加時のポリマーSP値(J/cm31/2
SP8=SP6−SP7(J/cm31/2
SP9=加水分解溶媒追加時の疎水性セグメントSP値(J/cm31/2
SP10=加水分解溶媒追加時のカルボン酸エステル基を有するセグメントSP値(J/cm31/2
A=|SP10−SP9|(J/cm31/2
B=|SP10−SP6|(J/cm31/2
C=|SP9−SP6|(J/cm31/2
【0050】
加水分解の可否は1H−NMRにて確認を行い、3段階評価を行った。
○:加水分解反応率 100〜80%
△:加水分解反応率 79〜70%
×:加水分解反応率 69%以下
【0051】
加水分解反応時間6時間における加水分解反応率の評価結果を表3に記す。

【0052】
上記の実施例および比較例から、各セグメントおよび加水分解溶媒の溶解性パラメーターを制御することにより、加水分解反応率を上げることができる。
【0053】
次に、本発明の応用例をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。
上記のポリマーを用い、水性インクを調整し、分散安定性および吐出性について評価した。水性インクの作製方法および評価方法を以下に記す。
【0054】
[水性インクの作製]
C.I.ピグメントブルー15:3の1部と実施例1〜5および比較例1〜4で得られた液の溶媒を留去し、カルボン酸型とし、次に該コポリマーの加水分解部分と等モル量のアルカリを投入して得られた該コポリマーの1部、ジエチレングリコール2部およびグリセリン2部、イオン交換水残部を添加して本発明の水性インク100部を得た。インクに使用したポリマーを表4に記す。
【0055】

【0056】
(分散安定性)
各インクを100℃で6時間、熱安定性試験を行い、試験前後の粒子径を測定し、下式で粒子径増加率(%)を求め分散安定性の尺度とした。粒子径の測定には動的光散乱法(商品名:レーザー粒径解析システムPARIII;大塚電子(株)社製)を用いた。評価基準は下記の通りとした。

4:粒子径増加率(%)が5%未満である。
3:粒子径増加率(%)が5%以上10%未満である。
2:粒子径増加率(%)が10%以上30%未満である。
1:粒子径増加率(%)が30%以上である。
結果を表5に示す。
【0057】
(吐出評価)
吐出評価は水性インクジェットプリンターF660[キヤノン社製]を用い、吐出評価として、印字のかすれの度合い(白くて印刷できていないスジ状のものをかすれとする)を官能評価した。良い方から順に4、3、2、1とする。結果を表5に示す。
【0058】

【0059】
上記の実施例および比較例から、加水分解反応率の高いポリマーを用いた場合、分散安定が優れ、吐出性の優れた水性インクを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように本発明によれば、加水分解の反応が速く、反応率の高い両親媒性のブロックコポリマーの加水分解方法を提供できる。さらに、本発明の加水分解方法により得られたブロックコポリマーを用いることにより分散安定性および吐出安定性に優れたインクを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の疎水性セグメントおよびカルボン酸エステル基を有するセグメントからなるポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解溶媒による加水分解方法において、上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をAと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記カルボン酸エステル基を有するセグメントの溶解性パラメーターの差をBと表し、上記加水分解溶媒の溶解性パラメーターと上記疎水性セグメントの溶解性パラメーターの差をCと表すと、上記A、BおよびCが下記式(1)の関係にあることを特徴とするポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法。
B≦1/2A≦C 式(1)
(ただし、A≠0、A、B、Cは絶対値表示とする。)
【請求項2】
少なくとも1種の有機溶媒および/または水からなる加水分解溶媒の溶解性パラメーターが、ポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの溶解性パラメーターに対して−1.5〜+10.3(J/cm31/2の関係にある請求項1に記載のポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法。
【請求項3】
前記ポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの親水性セグメントが、非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているセグメントと、アニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているセグメントを少なくとも含む請求項1または2に記載のポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法。
【請求項4】
前記ポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの溶解性パラメーターが、16.0〜24.0(J/cm31/2である請求項1〜3の何れか1項に記載のポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法。
【請求項5】
前記カルボン酸エステル基を有するセグメントの加水分解反応率が増加するに従い、前記式(1)を満たすように、加水分解溶媒を追加する請求項1〜4の何れか1項に記載のポリビニルエーテル系ブロックコポリマーの加水分解方法。
【請求項6】
水溶性樹脂と色材と有機溶剤と水とを少なくとも含有するインクジェット記録用水性インクであり、前記水溶性樹脂が、請求項1〜5の何れか1項に記載の加水分解を行うことで得られたポリビニルエーテル系ブロックコポリマーであることを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
【請求項7】
前記色材が、顔料である請求項6に記載のインクジェット記録用水性インク。

【公開番号】特開2008−19360(P2008−19360A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193486(P2006−193486)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】