説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法

【課題】耐凍結性および耐クリープ性に優れ、自動車部品、電気部品および一般機器の
流体配管用部品、特に流体配管用部品が水廻り用の部品に適したポリアリーレンスルフィ
ド樹脂組成物、さらにはこれを成形してなる成形品を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部として、(B)オレフィン重合体0.5〜30重量部、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂1〜20重量部および(D)珪素含有化合物0.01〜5重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を含むことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温引張破断伸び特性、およびクリープ特性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および製造方法、ならびに前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性、高剛性、成形加工性に優れ、かつ、難燃性、耐薬品性、寸法安定性、電気特性に優れた性能を有するため高機能、高性能のエンジニアリングプラスチックとして注目されている。また近年、これらの特性を活かしてオイルが通る配管部品や水が通る家庭用の給湯器配管部品などやその周辺部品にポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が応用されている。
【0003】
ところが、ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む組成物もいくつかの欠点が指摘されている。特に、給湯器の配管部品として使用する際は、冬季の凍結による割れ防止のため高い低温靭性が要求される。そのためポリフェニレンスルフィド樹脂とエラストマーを含む組成物が提案されているものの、80℃程度に加熱された熱水が通るため、成形品が変形し、組み付け部分から水が漏れるという問題、すなわち、クリープ特性が悪いという問題があり、製品設計に制約ができることや、大量に熱水が流れ、かつ内圧がかかる部品には使用できないという問題があった。このような問題があるため、より低温靭性を維持しつつクリープ特性を高めた樹脂組成物による部品供給が求められている。
【0004】
一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂の改質による靭性および衝撃性の改良は以前より行われている。
【0005】
特許文献1には、直鎖型のポリフェニレンスルフィド樹脂を2種類、エラストマー、相溶化剤からなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が開示されている。直鎖型のポリフェニレンスルフィドを使用しているため、引張破断伸びやアイゾット衝撃強さに代表される靭性は改良されるが、耐クリープ特性は殆ど改良できない欠点があり、本件の目的とする用途には不向きである。
【0006】
特許文献2には、ポリフェニレンスルフィド樹脂、オレフィン系重合体、無機フィラーからなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が開示されている。本文献中には直線状ポリフェニレンスルフィド樹脂と架橋ポリフェニレンスルフィド樹脂のブレンドが記載されているが、無機フィラーが必須成分となっていることから、低温の引張伸びは改善できない。また、本件のようなクリープ特性については検討されていない。
【0007】
特許文献3には、熱架橋ポリアリレーンスルフィド樹脂、水素添加ニトリル系エラストマ−、グリシジル基含有化合物からなる組成物が開示されているが、直線状ポリフェニレンスルフィド樹脂とのブレンドは検討されておらず、本件の様な低温引張破断伸びが改良できない欠点を有している。
【特許文献1】特開2004−2560号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−3716号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−1916号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、低温引張破断伸び特性およびクリープ特性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法およびこれを成形してなる成形品、特に低温引張破断伸びが必要で、かつクリープ特性が必要な自動車部品、電気部品および一般機器の流体配管用部品、すなわち水廻り用の配管用部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のような手法にてポリフェニレンスルフィド樹脂を含む組成物とすることで、上記課題が解決できる。すなわち、本発明は、
1.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部として、(B)オレフィン重合体0.5〜30重量部、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂1〜20重量部および(D)珪素含有化合物0.01〜5重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を含むことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
2.前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂と(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂を含むことを特徴とする1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
3.前記(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂および(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に準ず。温度315.5℃、荷重5Kgにて測定)が20〜300g/10分であることを特徴とする1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
4.(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂と(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂の重量比率が2:1〜1:3であることを特徴とする2または3に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
5.前記(C)オレフィン重合体がエポキシ基含有αーオレフィン系共重合体であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
6.前記(B)非晶性熱可塑性樹脂がポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種類である1〜5のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
7.(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)オレフィン重合体、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂と(D)珪素含有化合物をドライブレンドし、2軸押出機にのホッパーに投入し、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から供給し、溶融混合することを特徴とする2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
8.(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体のドライブレンド物を2軸押出機のポッパーに投入し、(A2)直線状のポリフェニレンスルフィドと(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂および(D)珪素含有化合物の溶融混練物と、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から供給し、溶融混合することを特徴とする2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
9.(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂および(D)珪素含有化合物のドライブレンド物を2軸押出機のポッパーに投入し、(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から供給し、溶融混合することを特徴とする2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
10.1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
11.成形品が、流体搬送用の円形空洞を有する部品である10記載の成形品。
12.成形品が水廻り用のバルブ部品である10または11記載の成形品。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いれば、低温引張破断伸び特性に優れるため、配管部品に残っている媒体が凍って、媒体が膨張し部品を破壊させるのを防止すること(以下、耐凍結性と呼ぶ)ができる。同時に高温時のクリープ特性にも優れるため、熱媒体による配管部品の組み付け部からの媒体漏れを防止する効果がある
。特に、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いた成形品は、自動車部品、電気部品および一般機器の流体配管用部品に有用であり、特に水廻り用の部品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A)本発明で使用するポリフェニレンスルフィド樹脂としては、下記構造式で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましく挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、特に90モル%以上含むポリフェニレンスルフィド樹脂であることが耐熱性の点でより好ましい。また、上記ポリフェニレンスルフィド樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満を、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成したものであってもよい。
【0014】
【化2】

【0015】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法については、特に制限はなく、通常、公知の方法、例えば特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法(以下、フラッシュ法と呼ぶ)、あるいは特公昭52−12240号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法(以下、クウェンチ法と呼ぶ)などによって製造できる。
【0016】
本発明において上記の方法で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄を施した上で使用することが好ましい。有機溶媒洗浄は機械的特性の低下やオレフィン重合体との相溶性を阻害する不純物の除去が可能であるため好ましい。
本発明の樹脂組成物における(A1)非ニュートン指数が1.3〜2.5であるポリフェニレンスルフィド樹脂はポリフェニレンスルフィド分子が分岐構造または架橋構造とすることにより得られる。その具体的方法としては重合時にトリクロロベンゼンを添加する方法や、粉末あるいは顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂を170〜270℃に加熱し架橋させる方法が上げられるが、好ましいのは加熱し架橋させる方法である。
【0017】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂の非ニュートン指数は、キャピログラフ1Bを用いて、300℃、L/D=40の条件下、せん断応力、せん断速度を測定し下記式にて求めた値である。
【0018】
SR=k・SS
SR:せん断速度
SS:せん断応力
K:定数
n:非ニュートン指数。
非ニュートン指数が1.3未満の場合、クリープ特性の改良効果が小さく、好ましくない。これはポリフェニレンスルフィド分子の分岐構造または架橋構造が少ないためと推定する。非ニュートン指数が2.5以上では引張破断伸びが小さく好ましくない。
本発明の(A1)非ニュートン指数が1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂および(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂のメルトフローレイト(MFR)は20〜300g/10分が好ましく、更には30〜200g/10分が好ましい。MFRが20g/10分以下では流動性が低く射出成形性におとり、300g/10分以上では引張破断伸びが小さく好ましくない。
【0019】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂のメルトフローレイト(MFR)は以下に示す方法で算出した値である。
【0020】
ASTM−D1238に従ってポリフェニレンスルフィド樹脂10gを、東洋精機(株)製メルトインデクサーを用いて、315.5℃で5分間滞留させ、その後、5kgの荷重をかけて、任意の時間の間にメルトインデクサーより出てくるポリフェニレンスルフィド樹脂量を測定し、メルトフローレイトを算出した。
本発明の(A1)非ニュートン指数が1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂と(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂の比率(重量比)は2:1〜1:3の割合である。(A1)と(A2)の比率が2:1より(A1)が多いと低温引張破断伸びが小さく、1:3より(A2)が多いと、クリープ特性の改良効果が小さく好ましくない。
【0021】
本発明で用いられる(B)オレフィン重合体としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体、カルボン酸金属錯体などのアイオノマーを含有する単量体などが挙げられ、靭性改良の観点からエチレン・α−オレフィン系共重合体が好ましい。
エチレン・α−オレフィン系共重合体の具体例としては、エチレンおよび炭素数3〜20を有する少なくとも1種以上のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数6から12であるα−オレフィンを用いた共重合体が靭性の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
またオレフィン系共重合体は、カルボン酸基、アミド基、エポキシ基などの官能基を持った変性オレフィン系共重合体が好ましく、特にエポキシ基含有αーオレフィン系共重合体が好ましい。エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体はα−オレフィン50.0〜99.5重量%、α、β−不飽和酸グリシジルエステルが0.5〜50.0重量%である。
(B)オレフィン系共重合体の含有量は本発明の(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し1〜30重量部が好ましい。(B)オレフィン系共重合体が1重量部以下では良好な引張破断伸びが発現せず、30重量部以上ではクリープ特性が悪くなり好ましくない。
【0022】
さらに好ましい(B)オレフィン系共重合体量は3〜20重量部であり、この範囲とすることにより高いクリープ特性を維持しつつ、特異的な高い引張破断伸びを持つ樹脂組成物が得られる。
【0023】
本発明において(B)オレフィン重合体は1種もしくは2種類以上で使用することも可能である。
【0024】
本発明で用いられる(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂としてはポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂等が挙げられ、特にポリエーテルイミド樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂との相溶性に優れるため好ましい。 本発明で用いられるポリエーテルイミド樹脂とは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーであり、溶融成形性を有するポリマーで有れば特に限定されない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で有れば、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていても良い。
【0025】
具体的なポリエーテルイミドとしては、下記一般式で示されるポリマーが好ましく使用される。
【0026】
【化3】

【0027】
(但し、上記式中R1は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、R2は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。)上記R、Rとしては、例えば、下記式群に示される芳香族残基を有するものが好ましく使用される。
【0028】
【化4】

【0029】
本発明では、溶融成形性やコストの観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このポリエーテルイミドは、“ウルテム”の商標でsabicイノベーティブプラスチック社から市販されている。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
本発明で用いられる(a)ポリエーテルスルホン樹脂とは、骨格に芳香族基がスルホン基およびエーテル基により結合されているものを総称する。例えば、下記一般式(1)〜(3)
【0033】
【化7】

【0034】
[式(1)中、Ar、Arは同一または異なる炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。式(2)中、Ar〜Arは同一または異なる炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、Xは炭素数1〜15の二価の炭化水素基である。式(3)中、Ar〜Arは同一または異なる炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。]からなる群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位からなるポリエーテルスルホンが挙げられる。
【0035】
ここで、式(1)において好適なAr、Arとしては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ジメチル−p−フェニレン基、テトラメチル−p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。Ar、Arがともにp−フェニレン基である場合が、製造面からも有利であり特に好適に用いられる。
【0036】
式(2)において、好適なAr〜Arとしては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ジメチル−p−フェニレン基、テトラメチル−p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられ、特に好適な例としてAr〜Arはいずれもp−フェニレン基が挙げられる。また、Xは炭素数1〜15の二価の炭化水素基であり、炭素数1〜15の二価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びアラアルキレン基から選ばれる。好適には炭素数1〜10の二価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、アラアルキレン基である。具体的にはメチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、2,2−ブチレン基、4−メチル−2,2−ペンチレン基などの脂肪族炭化水素基、1, 1−シクロヘキシレン基、3,3,5−トリメチル−1, 1−シクロヘキシレン基などの脂環式炭化水素基、1−フェニル−1,1−エチレン基、ジフェニルメチレン基などのアラアルキレン基が例示できる。これらの中で2,2−プロピレン基がさらにより好適に用いられる。式(2)において、特に好ましくはAr〜Arがいずれもp−フェニレン基であり、かつXが2,2−プロピレン基である。
【0037】
さらに式(3)において、好適なAr、Arとしては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ジメチル−p−フェニレン基、テトラメチル−p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。これらの中でAr、Arは共にp−フェニレン基がさらに好適に用いられる。また、好適なArとしては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。これらの中でp−フェニレン基、ビフェニリレン基がさらにより好適である。式(3)において特に好ましくはAr、Ar、Arがいずれもp−フェニレン基である。
【0038】
本発明に用いられるポリエーテルスルホンは、上記式(1)〜(3)で表される一種あるいは二種以上の繰り返し単位からなる、組成物または共重合体も好適に使用できる。
【0039】
上記のポリエーテルスルホンは公知の方法で重合できる。例えばアルカリ金属炭酸塩の存在下、非プロトン性極性溶媒中で水酸基およびハロゲン基を末端に有するモノマーを重縮合することにより得ることができる。このポリエーテルスルホンは、“レーデル”の商標でソルベイアドバンストポリマーズ社から市販されている。

このような(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂の量としては、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し1〜20重量部であり、好ましくは3〜15重量部であり、より好ましくは、5〜12重量部%である。非晶性熱可塑性樹脂量が1重量部より少ないと本発明の耐クリープ性の改良効果が発現しにくく、20重量部以上であると低温での引張伸びが低下し、耐凍結性が発現しにくくなるため好ましくない。
本発明で用いられる(D)珪素含有化合物としては、エポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、ウレイドシラン化合物、イソシアネートシラン化合物のほか種々のものが使用できる。
【0040】
かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。なかでもγ−イソシアナトプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン化合物が相溶性向上の点から優れている。
【0041】
上記(D)珪素含有化合物の配合量は、PPS樹脂を100重量部として、0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.5〜2重量部である。0.01重量部より少ないと物性の低下やポリフェニレンスルフィド樹脂と非晶性樹脂およびオレフィン重合体との相溶性が悪くなり好ましくなく、5重量部より多いと成形時の流動性悪化やガス発生量が多くなるため好ましくない。
【0042】
本発明においては、本発明の効果を損なわない程度の量で、さらに離型剤、結晶核剤等を配合することができる。この離型剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、またはモンタン酸ワックス類、または脂肪酸アミド系重縮合物、例えばエチレンジアミン・ステアリン酸重縮合物、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸などが挙げられる。結晶核剤としてはポリエーテルエーテルケトン樹脂、ナイロン樹脂、タルク、カオリン等が挙げられる。
【0043】
また、改質剤、着色防止剤、可塑剤、あるいは防食剤、酸化防止剤、熱安定剤、渇剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤等の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0044】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、下記記載する方法で得ることが可能である。
【0045】
製造方法1
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)オレフィン重合体、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂、(D)珪素含有化合物のドライブレンド物を2軸押出機のホッパーに投入し押出機の途中から(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を供給して樹脂温度290〜350℃で溶融混練する方法。
【0046】
製造方法2
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂および(D)珪素含有化合物のドライブレンド物を2軸押出機のホッパーに投入し、押出機の途中から(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂、(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)オレフィン重合体を供給して樹脂温度290〜350℃で溶融混練する方法。
【0047】
製造方法3
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)オレフィン重合体のドライブレンド物を2軸押出機のホッパーに投入し、押出機の途中から(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂、(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂および(D)珪素含有化合物を供給して樹脂温度290〜350℃で溶融混練する方法。
【0048】
製造方法4
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)オレフィン重合体の溶融混練物1をペレタイズしペッレト化した後、2軸押出機のホッパーに(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂と(D)珪素含有化合物のドライブレンド物を投入し、押出機の途中から溶融混練物1と(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を供給し、樹脂温度290〜350℃で溶融混練する方法。
【0049】
製造方法5
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂と(D)珪素含有化合物の溶融混練物2をペレタイズしペッレト化した後、2軸押出機のホッパーに(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂(B)オレフィン重合体のドライブレンド物を投入し、押出機の途中から溶融混練物2と(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を供給し、樹脂温度290〜350℃で溶融混練する方法。
【0050】
製造方法6
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂(B)オレフィン重合体の溶融混練物1をペレット化したものと(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂と(D)珪素含有化合物の溶融混練物2をペレット化したものと(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂のドライブレンド物を2軸押出機のホッパーに投入し、樹脂温度290〜350℃で溶融混練する方法。
などが挙げられる。特に製造方法2〜5が低温引張破断伸び特性と経済性に優れ好ましい。
かくして得られる本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成
形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形、トランスファー成形、真空成形など一般に熱可
塑性樹脂の公知の成形方法により成形されるが、なかでも射出成形が好ましい。
【0051】
本発明で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は80℃、20MPaでの100時クリープ歪が4%以下で、且つASTM−D638に従って測定した23℃での引張伸びが15%以上であり、内部を高温の流体が流れ、かつ内圧がかかる成形品に使用することができることを見いだした。
【0052】
引張伸びは以下に示す方法で測定した値である。
【0053】
引張試験は、片方にゲートを有するASTM1号ダンベル片を型締力100tonの射出成形機を用いてシリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で成形し、引張歪速度10mm/min、支点間距離114mm、雰囲気温度−20℃の条件で、ASTM−D638に従い引張伸びの測定を行った。なお、破断までの変位量を5回測定し、その平均値を低温引張破断伸びとした。
【0054】
引張クリープ歪みは以下に示す方法で測定した値である。
【0055】
引張試験は、片方にゲートを有するASTM1号ダンベル片を型締力100tonの射出成形機を用いてシリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件で成形し、支点間距離114mm、雰囲気温度80℃、引張応力20MPaの条件で、ASTM−D2990に従い、引張クリープ試験を行った。なお、引張クリープ歪みは、変位量を支点間距離で割った値であり、試験開始から100時間経過した後の引張クリープ歪みを、5回測定した平均値を引張クリープ歪みとした。
【0056】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品は低温引張破断伸びに優れ、かつ靭性と相反するクリープ特性に極めて優れるものである。本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品は、自動車部品、電気部品および一般機器の流体配管用部品に有用であり、なかでも流体配管用部品が水廻り用の部品に極めて有用である。
【実施例】
【0057】

次に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限を受けるものではない。
【0058】
実施例における非ニュートン指数、メルトフローレイト(MFR)、引張試験、引張クリープ試験は次の方法に従い測定を行った。
【0059】
〈非ニュートン指数〉
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用いて、300℃、L/D=40の条件下、せん断応力、せん断速度を測定し下記式にて非ニュートン指数を測定した。
【0060】
SR=k・SS
SR:せん断速度
SS:せん断応力
K:定数
n:非ニュートン指数。
【0061】
〈メルトフローレイト(MFR)〉
ASTM−D1238に従ってポリフェニレンスルフィド樹脂10gを、東洋精機(株)製メルトインデクサーを用いて、315.5℃で5分間滞留させ、その後、5kgの荷重をかけて、任意の時間の間にメルトインデクサーより出てくるポリフェニレンスルフィド樹脂量を測定し、メルトフローレイトを算出した。
【0062】
〈引張試験〉
引張試験は、片方にゲートを有するASTM1号ダンベル片を型締力100tonの射出成形機を用いてシリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で成形し、引張歪速度10mm/min、支点間距離114mm、雰囲気温度−20℃の条件で、ASTM−D638に従い引張伸びの測定を行った。なお、実施例記載の引張伸びは、破断までの変位量を引張伸びとして、5回測定し、その平均値を記載している。
【0063】
〈引張クリープ試験〉
引張試験は、片方にゲートを有するASTM4号ダンベル片を型締力100tonの射出成形機を用いてシリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件で成形し、支点間距離65mm、雰囲気温度80℃、引張応力20MPaの条件で、ASTM−D2990に従い、引張クリープ試験を行った。なお、引張クリープ歪みは、変位量を支点間距離で割った値であり、実施例記載の引張クリープ歪みは、試験開始から100時間経過した後の引張クリープ歪みであり、5回測定した平均値を記載している。
【0064】
実施例1〜14、比較例1〜10
用意したポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−1,PPS−2、PPS−3、PPS−4)を表1示す条件で熱架橋し、(A1)のポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−5,PPS−6、PPS−7、PPS−8,PPS−9、PPS−10)を得た。
【0065】
(A2)のポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−4)とオレフィン重合体(B−1、B−2)、非晶性熱可塑性樹脂(C−1)、珪素含有化合物(D−1)を表2に示す組成で溶融混練し溶融混練物1、溶融混練物2を得た。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
(A1)のポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−5,PPS−6、PPS−7、PPS−8,PPS−9、PPS−10)、(A2)のポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−4)オレフィン重合体(B−1、B−2)、非晶性熱可塑性樹脂(C−1)、珪素含有化合物(D−1)を表3、4に示す組成でドライブレンドした。使用したPPS−1、PPS−2、PPS−3、PPS−4、B−1、B−2、C−1、D−1を下記に示す。
(ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−1)の製造方法)
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.656kg(8モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.727kg(25.35モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、225℃まで昇温して5時間反応後、270℃まで昇温し3時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄した。次に100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾過のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、降温結晶化温度232℃、MFR110(g/10min)のPPS−1を得た。
【0069】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−2)の製造方法)
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.205kg(2.5モル)およびNMP5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.719kg(25.7モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄し、次に100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾過のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、降温結晶化温度228℃、MFR1000g/10分、クロロホルム抽出量0.49重量%、Ca元素量3ppmのPPS−2を得た。
【0070】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−3)の製造方法)
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.787kg(9.6モル)およびNMP5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.712kg(25.25モル)ならびにNMP2.4kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。次に100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに80℃の熱水で30分の洗浄を3回繰り返した。これを濾過し、酢酸カルシウムを10.4g入れた水溶液25リットル中に投入し、密閉されたオートクレーブ中で192℃で約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、降温結晶化温度180℃、MFR100g/10分、クロロホルム抽出量0.52重量%、Ca元素量500ppmのPPS−3を得た。
【0071】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−4)の製造方法)
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、水酸化ナトリウム0.022kg(0.55モル)、酢酸ナトリウム0.861kg(8.3モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.719kg(25.3モル)ならびにNMP3.0kgを加えて、窒素下に密閉し、274℃まで昇温後、274℃で0.8時間反応した。230〜250℃、5〜10kPaの高温高圧下でNMPを除去したのち、50〜70℃の熱水で洗浄した。これを90℃に加熱された酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けた。スラリーpHは5.5、濾過後の濾液pHは7.5であった。その後、ポリマーを空気中、215℃で加熱処理し、降昇結晶化温度224℃、MFR120g/10分、クロロホルム抽出量2.29重量%、Ca元素量1ppmのPPS−4を得た。
【0072】
(オレフィン重合体)
B−1:住友化学社(株)製 エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体 BF−E。
B−2:三井化学(株)製 エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)(株)製 タフマーTX610。
【0073】
(ガラス転移温度が150℃以上の非晶性熱可塑性樹脂)
C−1:日本ジーイープラスチックス(株)製 ポリエーテルイミド ウルテム1010
(珪素含有化合物)
D−1:信越化学(株)製 β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランカップリング剤 KBM303。
【0074】
実施例1〜11、比較例4〜9は(A1)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性樹脂組成物(D)珪素含有化合物を表3に記載された比率でドライブレンドしたものを、二軸押出機(日本製鋼所製TEX−30)のホッパーに投入し、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から表3に記載された割合で供給し、二軸押出機により吐出後の樹脂温度が330℃で溶融混練してペレタイズし、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
【0075】
比較例1〜3は(A1)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性樹脂組成物(D)珪素含有化合物を表3に記載された比率でドライブレンドしたものを、二軸押出機(日本製鋼所製TEX−30)のホッパーに投入し、二軸押出機により吐出後の樹脂温度が330℃で溶融混練してペレタイズし、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
【0076】
実施例12〜14は(A1)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性樹脂組成物(D)珪素含有化合物、溶融混練物1、溶融混練物2を表4に記載された比率でドライブレンドしたものを、二軸押出機(日本製鋼所製TEX−30)のホッパおよびサイドフィーダーに投入し樹脂温度が330℃で溶融混練してペレタイズし、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
【0077】
比較例10は(A1)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂(B)オレフィン重合体(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性樹脂組成物(D)珪素含有化合物を一括ドライブレンドしたものを、二軸押出機(日本製鋼所製TEX−30)のホッパーに投入し、二軸押出機により吐出後の樹脂温度が330℃で溶融混練してペレタイズし、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物からなる成形品の低温引張破断伸びおよび引張クリープ歪みを測定し、結果を表3,4、5に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
比較例1、2は(A)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を併用しない場合であり、低温引張破断伸びには優れるものの、80℃、20MPaでの100時間後の引張クリープ歪みが悪くなる。
【0082】
比較例3は(A)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体を併用しない場合であり、80℃、20MPaでの100時間後の引張クリープ歪は良好であるものの、低温引張破断伸びが小さく本用途には使用できない。
比較例4〜9は非ニュートン指数が小さすぎて不適切な場合であり、80℃、20MPaでの100時間後の引張クリープ歪みが悪くなる。
【0083】
比較例10は押出方法が不適切な場合であり、低温引張破断伸びが悪くなる。
【0084】
それに対して、実施例1〜12はいずれも低温引張破断伸びが大きく、かつ、引張クリープ歪みが小さくなり、水廻り用成形品等に有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部として、(B)オレフィン重合体0.5〜30重量部、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂1〜20重量部および(D)珪素含有化合物0.01〜5重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を含むことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂と(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂および(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に準ず。温度315.5℃、荷重5Kgにて測定)が20〜300g/10分であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂と(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂の重量比率が2:1〜1:3であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)オレフィン重合体がエポキシ基含有αーオレフィン系共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)非晶性熱可塑性樹脂がポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂およびポリフェニレンエーテル樹脂から選ばれる少なくとも1種類である請求項1〜5のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)オレフィン重合体、(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂と(D)珪素含有化合物をドライブレンドし、2軸押出機にのホッパーに投入し、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から供給し、溶融混合することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体のドライブレンド物を2軸押出機のポッパーに投入し、(A2)直線状のポリフェニレンスルフィドと(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂および(D)珪素含有化合物の溶融混練物と、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から供給し、溶融混合することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)ガラス転移温度が150℃以上の非結晶性熱可塑性樹脂および(D)珪素含有化合物のドライブレンド物を2軸押出機のポッパーに投入し、(A2)直線状のポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)オレフィン重合体、(A1)非ニュートン指数1.3〜2.5のポリフェニレンスルフィド樹脂を押出機の途中から供給し、溶融混合することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項11】
成形品が、流体搬送用の円形空洞を有する部品である請求項10記載の成形品。
【請求項12】
成形品が水廻り用のバルブ部品である請求項10または11記載の成形品。

【公開番号】特開2009−209187(P2009−209187A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50865(P2008−50865)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】