説明

ポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜及びその製造方法

【課題】 特殊な異形ノズルを用いた中空糸膜の賦形方法によらず、膜外表面に凹凸を形成して有効膜面積を広げたポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 マクロボイドを含む3次元網目構造の外層と球状構造の内層を形成する複合中空糸膜にあって、該中空糸膜の表面に波形の皺を有するポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜、および3重管状紡糸ノズルの中間スリットから樹脂溶液Aを、該ノズルの外層スリットから樹脂溶液Bを、中心パイプから凝固液と共に同心円状に押し出し、外部凝固液で冷却し固化させる工程と溶媒を抜く工程を経ることで製造されるポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜の製造方法であって、外部凝固液が、樹脂溶液Bに対しての非溶媒を70重量%以上含むことを特徴とするポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固液分離する中空糸膜に関する。さらに詳しくは、排水処理、浄水処理、工業用水製造などの水処理に用いられる精密ろ過、及び限外ろ過に使用する複合中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川水や地下水などの除濁・除菌、工業用水の清澄化など浄水処理分野に精密ろ過膜や限外ろ過膜が適用されている。このような浄水分野では、処理しなければならない原水量が多く、また施設の設置面積を有効に活用するために容器一体型の中空糸膜モジュールが設置されるようになって来た。また長期運転を目的にエアスクラビング洗浄や逆洗圧洗浄などの物理洗浄、または薬品洗浄を施して再生使用される。通常、物理洗浄を施すと中空糸膜表面から剥離した濁質分がモジュール容器の中空糸膜間に堆積することになる。このために容器内の濁質量が多く、排出距離が長くなくなるに従って排出効率が低下する。特に大型のモジュールでは再生使用のための物理洗浄時間が長くなるばかりか、排出できない場合がある。
【0003】
このため排出効率を上げる方法として、容器内に充填する中空糸膜本数を減らすことが考えられる。つまり中空糸膜1本当たりの比表面積(有効膜面積)を増やす手段として膜表面(断面)の異形化がある。例えば特許文献1,2には異形ノズルを用いて単一層からなる突起物を設けた透析膜が提案されている。しかしながら突起物を設けた透析膜では、膜厚(壁)の薄い分離機能層に比較的大きな突起物を形成することで、膜潰れに対する補強効果を高めることができる反面、透過抵抗に偏りができて残血などの諸問題が発生し易くなる。また特許文献3には、同じく異形ノズルを用いて賦形した多層の気体分離膜が提案されている。しかしながら高粘度の溶融体を高倍率に延伸することで開孔して透過性を高めるものであるから賦形効果が小さくなる不都合がある。さらに異形紡糸ノズルにおいて突起数や突起高さなどの作製加工上の制約がある。
【0004】
浄水処理分野に使用されるポリフッ化ビニリデン樹脂製の中空糸膜の製造方法としては、これまでに非溶媒相分離法を用いた溶液紡糸方法が多く開示されて来たが、機械的強度が不足するものであった。このため溶融法や熱誘起相分離法を用いて機械的強度と透過性を高めた中空糸膜が開発されている。さらに特許文献4では、2種類のポリフッ化ビニリデン樹脂溶液を吐出して非溶媒相分離と熱誘起相分離を併用した複合中空糸膜の製造方法が開示されている。しかながら非溶媒相分離と熱誘起相分離を併用した異形断面化した多層中空糸膜は開示されていない。
【特許文献1】特開昭58−169510号公報
【特許文献2】特開昭61−120606号公報
【特許文献3】特開平7−171360号公報
【特許文献4】国際公開第03/106545号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術における課題に鑑み、特殊な異形ノズルを用いた中空糸膜の賦形方法によらず、膜外表面に凹凸を形成して有効膜面積を広げたポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、以下により構成される。
(1)少なくともマクロボイドを含む3次元網目構造の外層と球状構造の内層を形成する複合中空糸膜にあって、該中空糸膜の表面に波形の皺を有するポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜。
(2)3重管状紡糸ノズルの中間スリットから樹脂溶液Aを、該ノズルの外層スリットから樹脂溶液Bを、中心パイプから凝固液と共に同心円状に押し出し、外部凝固液で冷却し固化させる工程と溶媒を抜く工程を経ることで製造されるポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜の製造方法であって、外部凝固液が、樹脂溶液Bに対しての非溶媒を70重量%以上含むことを特徴とするポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、外表面に波形の皺を有することで、中空糸の単位面積当たりの有効膜面積を増加させることができる。よってモジュール設計において中空糸の充填本数を減らしても有効膜面積を確保できると共に、充填した中空糸膜間隔を広げることができるので、長期運転のためのエア散気や物理洗浄での排出効率が向上する。さらには従来の紡糸ノズルを用いて中空糸膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の中空糸膜とその製造方法について、以下に説明する。
【0009】
図1〜図3は、本発明のポリフッ化ビニリデン系中空糸膜の形態を詳細に説明するための図面代用走査電子顕微鏡写真である。
【0010】
図1は、本発明のポリフッ化ビニリデン系中空糸膜を構成する中空糸全体の断面構造を示す図面代用写真(60倍)である。中空糸膜の外周に皺からなる凹凸を形成している。図2は、本発明のポリフッ化ビニリデン系中空糸膜を構成する中空糸の膜壁断面構造を示す図面代用写真(300倍)である。中空糸膜の構成は、外表面の皺と内層の中間にマクロボイドを含む外層を形成している。図3は中空糸の外表面形態を示す図面代用写真(60倍)であり、外表面に波形の皺を形成している。ここで本発明の中空糸膜における外表面の波形の皺とは、不連続に存在する凹凸部分のことをいう。
【0011】
皺で形成される凹凸の高さ及び筋(条)の数は、有効膜面積を高めるものであるから特に制限されるものではないが、好ましくは平均高さが5μm以上かつ20条以上で、さらに好ましくは平均10μm以上かつ30条以上である。中空糸の外層を構成する3次元網目構造とは、固形分が3次元的に網目状に広がっている構造で、網を形成する固形分で仕切られた細孔およびボイドを有する。
【0012】
ここで本発明におけるマクロボイドとは、平均孔径が10μm以上の空隙をいう。また皺からなる外表面は内部の細孔よりも小さい細孔を有する緻密層が形成されることが好ましく、これにより阻止性能が高くなる。外表面の平均孔径は目的用途によって異なるが0.005μm〜0.5μmの範囲が好ましい。この範囲に平均孔径があると適宜、透過性と阻止率をバランスさせたモジュール作製が可能になる。
【0013】
外層の厚さは皺を形成するために30μm以上が好ましく、さらに好ましくは40μm以上である。球状構造で構成される内層の厚さは100μm〜1200μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは160μm〜1000μmの範囲である。この厚さが100μm以上であると中空糸の耐圧性が高くなり、1200μm以下にあると透水性が高くなる。
【0014】
ここで内層を構成する球状構造とは、多数の球状の固形分が直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造のことを云う。球状の平均直径は0.1μm〜5μmの範囲、より好ましくは0.5μm〜2.5μmの範囲である。0.1μm以上であると透水性が向上し、5μm以下であると中空糸の強伸度が向上する。
【0015】
本発明の中空糸膜の製造方法では、例えば公知技術である3重管状紡糸ノズルを使って製造することができる。ここで3重管状紡糸ノズルとは、円形ノズル内に2重(2層)パイプが挿入された構成で一定間隔の外層スリット、中間スリット、および中心パイプからなる金属製、或いはセラミックス製などの紡糸ノズルをいう。この3重管状紡糸ノズルの中間スリットから樹脂溶液Aを、該ノズルの外層スリットから樹脂溶液Bを、中心パイプから凝固液と共に同心円状に押し出し、外部凝固液で冷却し固化させる工程と溶媒を抜く工程を経ることで製造される。この際に樹脂溶液Aと樹脂溶液Bの各供給量を制御し、さらに外部凝固液の非溶媒濃度と冷却温度を制御することにより外表面に波形の皺を有する中空糸膜を製造することが可能になる。
【0016】
通常、単一組成のポリフッ化ビニリデン系中空糸膜を製造する場合、冷却による熱誘起相分離で溶液中に核が発生して球状に結晶成長する過程で、結晶近傍では比容積の減少が起こって膜壁全体が収縮する。本発明の複合中空糸膜では、樹脂溶液Bが外部凝固液に接触して非溶媒相分離により最外層(外周)が凝固し、同時に樹脂溶液Aが冷却による熱誘起相分離により結晶成長する過程で起こる比容積の変化を利用する。つまり外層の非溶媒相分離に対して、内層で起こる熱誘起相分離による比容積の減少(収縮)の差が大きいために外表面が部分的に内層(壁)側に引き込まれた結果、外表面(外周)に皺による凹凸を形成すると考えられる。
【0017】
本発明に使用される樹脂とは、鎖状高分子からなる熱可塑性樹脂をいう。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変成ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびこれらの混合物や共重合体が挙げられる。これらと混和可能な他の樹脂および多価アルコールや界面活性剤を50重量%以下含んでいてもよい。中でも耐薬品性の高いポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく用いられる。
【0018】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂を意味し、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。かかる共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていても良い。
【0019】
本発明の樹脂溶液Aとは、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂を20重量以上、60重量%以下に用いる。より好ましくは25重量%以上、45重量%以下である。20重量%以上であると糸の機械的強度が高く、60重量%以下であると透過性能が向上する。また本発明の樹脂溶液Bとは、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂を5重量%以上25重量%以下に用いる。より好ましくは10重量%以上20重量%以下である。5重量%以上であると外層の機械的強度が向上し、25重量%以下であると透過性が向上する。また樹脂溶液Aおよび樹脂溶液Bに用いる樹脂は、同一の樹脂でも、異なる樹脂でもよい。適宜、製造する中空糸膜の強伸度特性、透過特性、分画阻止性などの諸特性をより広い範囲で調整することができる。樹脂溶液Bの溶媒としては前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒が好ましい。樹脂溶液Aの溶媒としては、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒が好ましい。また樹脂溶液Bの溶媒としては、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒、及び5重量%以下の非溶媒を含む良溶媒の混合液が好ましい。
【0020】
ここでポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒としては、例えばシクロヘキサン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテートなど中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステルおよび有機カーボネート等、及びその混合溶媒が挙げられる。
【0021】
前記樹脂の良溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テロラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。前記樹脂の非溶媒としては、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒などが挙げられる。
【0022】
ここで貧溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃以下では5重量%以下しか溶解できないが、60℃以上かつ樹脂の融点以下で5重量%以上溶解させることができる溶媒と定義する。これに対してポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃以下でも5重量%以上溶解させることが可能な溶媒が良溶媒であり、また融点まで溶解も膨潤もさせない溶媒が非溶媒である。
【0023】
本発明で用いる内部凝固液としては、樹脂溶液Aの貧溶媒を75重量%以上95重量%以下に非溶媒を25重量%以下5重量%以上に含む混合溶液が好ましい。内部凝固液中に非溶媒が25重量%以下5重量%以上にあると中空部を形成する内壁の平滑性が向上する。
【0024】
本発明で用いる外部凝固液としては、樹脂溶液Bに対する非溶媒、或いは樹脂溶液Bに対して70重量%以上の非溶媒と30重量%以下の貧溶媒、或いは良溶媒から成る混合溶媒を用いることが好ましい。外部凝固液中の非溶媒の割合が70重量%以上であると樹脂溶液Aの熱誘起相分離より樹脂溶液Bの非溶媒拡散が速やかに起こって外表面が凝固すると共に樹脂溶液Aで熱誘起相分離に伴う収縮が起こるので外表面に皺による凹凸を形成され易くなる。外部凝固液の冷却温度は、25℃以下が好ましく、さらに好ましくは20℃以下である。
【実施例】
【0025】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。ここで本発明に関する物性値は以下の方法で測定した。
【0026】
(1)中空糸膜の内径/外径
中空糸膜の内径/外径は、走査型電子顕微鏡を用いて中空糸膜断面の映像写真より、長径と短径を測定し、数平均した。
【0027】
(2)皺の条(筋)数及び皺の凹凸高さ
皺の条(筋)数は、走査型電子顕微鏡を用いて中空糸膜断面の映像写真より、外周に渡る凹凸の凹部の数を測定した。また皺の凹凸高さは、外周の任意の20箇所から凹凸の高さを測定し、数平均して求めた。
【0028】
(3)内層/外層の平均厚さ
内層の平均厚さは、走査型電子顕微鏡を用いて中空糸膜断面の映像写真より、任意の10箇所から内層の厚さを測定し、数平均して求めた。また外層の平均厚さは、同じく中空糸膜断面の映像写真より、任意の20箇所から外層の厚さを測定し、数平均して求めた。
【0029】
(4)中空糸膜の純水透過性能
純水透過性能の測定方法は、中空糸膜5本からなる長さ約30cmの小型モジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧10kPaの条件で蒸留水を送液し、一定時間で測定した透過水量(m)の値を、単位時間(hr)、単位膜面積(m)、50kPa当たりに換算して算出した。なお、単位膜面積は平均外径を採用した。
【0030】
(5)中空糸の破断伸度/破断強力
引張試験機(TENSILON/RTM−100)を用いて、蒸留水で湿潤させた中空糸膜を試験長50mm、フルスケール5kgのロードセルでクロスヘッドスピード50mm/分にて20本測定し、数平均して求めた。
【0031】
(実施例1)
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマー13重量%、界面活性剤(Tween80)5重量%、ジメチルスルホキシド82重量%を混合して80℃で溶解し樹脂溶液Bとした。また重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ-ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解し樹脂溶液Aとした。3重管状紡糸ノズル温度を102℃にて中間スリットから樹脂Aを15g/分で、外層スリットから樹脂溶液Bを4g/分に、中心パイプからγ-ブチロラクトン82重量%水溶液からなる内部凝固液の9g/分と共に押し出して、エアギャップ2.5cmを通過させた後、7℃に温度調整された10重量%γ-ブチロラクトン水溶液中に紡出して固化さてから水洗25〜45℃の範囲に水洗を繰り返して脱溶媒した。さらに85℃の熱水中で1.5倍に延伸した。その結果、図1〜3に示した中空糸膜が得られた。その性能を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例2)
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマー13重量%、重量平均分子量2万のポリエチレングリコール5重量%、ジメチルホルムアミド79重量%、及び水3重量%を混合して80℃で溶解し樹脂溶液Bとした。また重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ-ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解し樹脂溶液Aとした。3重管状紡糸ノズル温度を100℃にて中間スリットから樹脂Aを14.5g/分で、外層スリットから樹脂溶液Bを4g/分に、中心パイプからγ-ブチロラクトン85重量%水溶液をなる内部凝固液の8.6g/分と共に、エアギャップ2.5cmを通過させた後、12℃に温度調整された25重量%γ-ブチロラクトン水溶液中に紡出して固化さてから水洗25〜45℃の範囲に水洗を繰り返して脱溶媒した。さらに85℃の熱水中で1.5倍に延伸した。その結果、表1に示す性能の中空糸膜が得られた。
【0034】
この中空糸膜を用いて充填本数320本の中空糸膜モジュールを作製した。この中空糸膜モジュールを用いて原水(琵琶湖水)の外圧ろ過を行った。まずポンプで70L/m・hrで原水供給し、30分間ろ過した後、エア流量50L/分で1分間のエアスクラビングを行った後に排水した。これらのろ過、エアスクラビングおよび排水操作を繰り返しながら透過水を得た。その結果、容器底部付近の懸濁物質の堆積や散気孔の詰まりが抑制されて、ろ過差圧が150kPaに上昇するまでに約14日を要した。
【0035】
(比較例)
容器サイズを同じに、従来の中空糸膜を用いて充填本数480本の中空糸膜モジュールを作製した。この中空糸膜モジュールを実施例1と同じ条件下に運転した。その結果、容器底部付近の懸濁物質の堆積や散気孔の詰まりが一部に発生し、ろ過差圧が150kPaに上昇するまでに約12日を要した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば中空糸膜の表面に波形状の皺を有するために、従来の中空糸膜に比べ膜の有効膜面積を高くすることができ、よって同じ膜面積であっても中空糸の充填本数を減らしたモジュール設計ができる。これによって容器内の散気効率や濁質分の排出効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の中空糸膜に関する一様態の横断面を示す電子顕微鏡写真(倍率60倍)である。
【図2】図1に示す中空糸の横断面(一部)を示す電子顕微鏡写真(倍率300倍)である。
【図3】図1に示す中空糸膜の外表面の電子顕微鏡写真(倍率60倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロボイドを含む3次元網目構造の外層と球状構造の内層を形成する複合中空糸膜にあって、該中空糸膜の表面に波形の皺を有するポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜。
【請求項2】
3重管状紡糸ノズルの中間スリットから樹脂溶液Aを、該ノズルの外層スリットから樹脂溶液Bを、中心パイプから凝固液と共に同心円状に押し出し、外部凝固液で冷却し固化させる工程と溶媒を抜く工程を経ることで製造されるポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜の製造方法であって、外部凝固液が、樹脂溶液Bに対しての非溶媒を70重量%以上含むことを特徴とするポリフッ化ビニリデン系複合中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−82882(P2009−82882A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259381(P2007−259381)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】