説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び薄肉成形品

【課題】機械的強度および衝撃強度に優れ、そり変形も少なく、且つ流動性(溶融流動性)が向上したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維40〜140重量部、(C)グリセリン及び/又はその脱水縮合物と炭素数12以上の脂肪酸とからなり、本文記載の方法により測定した水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステル0.05〜5重量部を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度、衝撃強度、流動性に優れ、そり変形の少ないポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び薄肉成形品に関する。更に詳しくは、その優れた特徴を活かし、スイッチ、コンデンサー等の電気・電子部品等の成形品に最適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び薄肉成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂、例えばポリアルキレンテレフタレート樹脂等は機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ、加工性が良好であるがゆえにエンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品等の広汎な用途に使用されている。
【0003】
かかる結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂は、単独でも種々の成形品に用いられているが、利用分野によってはその性質、特に機械的性質を改善する目的で、様々な強化剤、添加剤を配合することが行われてきた。そして、高い機械的強度、剛性の要求される分野においては、ガラス繊維、カーボン繊維等に代表される繊維状の強化剤を用いることが周知である。
【0004】
しかしながら、一般的な繊維状強化剤を含む結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的強度、衝撃強度は改善されるが、射出成形等の成形加工時の固化過程で発生する収縮異方性が大きくなることにより、成形品のそり変形が著しく大きくなるという問題がある。このため、一般的な繊維状強化剤を含むポリブチレンテレフタレート樹脂は、薄肉の板状成形品への応用は困難とされていた。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリカーボネート(特許文献1)等の非晶性異種ポリマーを配合することが提案されている。しかしながら、ポリカーボネートを配合する方法では、著しく流動性が低下するとともに、衝撃強度が低下する問題があり、薄肉成形品への適応は困難であった。
【0006】
また、強化ガラス繊維として扁平な断面を持つガラス繊維を使用することが提案されているが(特許文献2、3)、高い機械的強度、高い衝撃強度を得るためにガラス繊維の充填量を増量する必要があり、これにより流動性が著しく低下し薄肉成形品を成形できないという問題があった。
【0007】
流動性を改善するため、ポリブチレンテレフタレート樹脂に流動性改良剤を添加することも知られている。例えば、流動性改良剤として、特定の芳香族多塩基酸エステルを混合した樹脂組成物が開示されている(特許文献4)。しかし、この文献に記載の樹脂組成物では、流動性改良剤を添加しない場合に比べて、機械的強度が低下する傾向がある。
【0008】
以上のように、公知のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、そり変形が少なく、高強度、高衝撃を示す組成物は流動性が乏しく、薄肉の板状成形品への応用は極めて困難な状況にあった。
【特許文献1】特開平9−291204号公報
【特許文献2】特開平7−309999号公報
【特許文献3】特開2004−248487号公報
【特許文献4】特開昭61−85467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、機械的強度および衝撃強度に優れ、そり変形も少なく、且つ流動性(溶融流動性)が向上したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、扁平な断面形状を有するガラス繊維と特定のグリセリン脂肪酸エステルとを併用配合することにより、上記目的を達成し得る樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維40〜140重量部、
(C)グリセリン及び/又はその脱水縮合物と炭素数12以上の脂肪酸とからなり、本文記載の方法により測定した水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステル0.05〜5重量部
を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびそれからなる薄肉成形品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、機械的強度および衝撃強度に優れ、そり変形も少なく、且つ流動性(溶融流動性)に優れる本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、その特性から薄肉成形品に適用可能であり、各種電子機器の筐体等に適しており、特にスイッチ、コンデンサー、コネクター、集積回路(IC)、リレー、抵抗器、発光ダイオード(LED)、コイルボビン、電子機器、携帯端末、ECU、各種センサー、パワーモジュール、ギア部品及びそれらの周辺機器又はそのハウジング又はシャーシ等の成形品に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、順次本発明の樹脂材料の構成成分について詳しく説明する。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸(テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体)と、炭素数4のアルキレングリコール(1,4 −ブタンジオールまたはそのエステル形成誘導体)を少なくとも重合成分とする熱可塑性樹脂である。本発明の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーに限らず、イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエステルを含有するポリブチレンテレフタレートも含まれ、そり変形の面からは、イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエステルを含有するポリブチレンテレフタレートが好ましく使用できる。
【0013】
イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートとは、アルキレングリコール成分が1,4 −ブタンジオールまたはそのエステル形成誘導体であり、テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と共にイソフタル酸またはそのエステル形成誘導体(ジメチルエステルの如き低級アルコールエステル等)をコモノマーユニットとして導入した共重合体である。
【0014】
また、イソフタル酸変性ポリエステルとは、テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と、炭素数2〜4のアルキレングリコール、特に好ましくは、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4 −ブタンジオールまたはそのエステル形成誘導体を重縮合反応させて得られるポリエステルを主成分とし、これにイソフタル酸またはそのエステル形成誘導体(ジメチルエステルの如き低級アルコールエステル等)をコモノマーユニットとして導入した共重合体である。
【0015】
イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエステルのイソフタル酸コモノマーユニットの導入量は5〜30モル%が好ましく、より好ましくは10〜30モル%、特に好ましくは10〜20モル%である。導入量は5モル%未満では、結晶性が高いため、低そり効果が低い可能性がある。また、導入量が30モル%を超えると、本来のポリブチレンテレフタレートの優位点である強度および熱安定性の低下が大きく、且つ結晶化が著しく低下、遅延されることで、成形サイクルの低下、離型性の低下を引き起こし、実用的に用いられない問題を生じるおそれがある。尚、ベース樹脂として、ポリブチレンテレフタレートとイソフタル酸変性ポリエステルの混合物を使用する場合には、全ジカルボン酸成分に対するイソフタル酸の含有率が5〜30モル%にあることが好ましい。
【0016】
ベース樹脂としてのポリブチレンテレフタレートは、本発明の効果を阻害しない範囲で、共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)と共重合させた共重合体として用いることができる。共重合性モノマーとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸を除くジカルボン酸成分、炭素数2〜4のアルキレングリコール以外のジオール、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分等が挙げられる。共重合性モノマーは、1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0017】
ジカルボン酸(又はジカルボン酸成分又はジカルボン酸類)としては、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などのC4〜40ジカルボン酸、好ましくはC4〜14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸成分(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸などのC8〜12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸成分(例えば、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC8〜16ジカルボン酸)、またはこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、などのフタル酸のC1〜4アルキルエステルなど)、酸クロライド、酸無水物などのエステル形成可能な誘導体)などが挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸又はそのエステル形成誘導体(アルコールエステルなど)などを併用してもよい。このような多官能性化合物を併用すると、分岐状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることもできる。
【0018】
ジオール(又はジオール成分又はジオール類)には、例えば1,4 −ブタンジオールを除く脂肪族アルカンジオール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオールなど)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオール、1,8−オクタンジオールなど)、デカンジオールなどの低級アルカンジオール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2〜12アルカンジオール、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2〜10アルカンジオールなど);(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、複数のオキシC2〜4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)など]、脂環族ジオール(例えば、1,4 −シクロヘキサンジオール、1,4 −シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオールなどのジヒドキシC6〜14アレーン;ビフェノール(4,4'−ジヒドキシビフェニルなど);ビスフェノール類;キシリレングリコールなど]、及びこれらの反応性誘導体(例えば、アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成性誘導体など)などが挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール又はそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用すると、分岐状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることもできる。
【0019】
なお、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01〜30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜30モル%、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%(例えば、5〜15モル%)程度である。また、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体(コポリエステル)とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1〜30モル%(好ましくは1〜25モル%、さらに好ましくは5〜25モル%)程度となる範囲であり、通常、前者/後者=99/1〜1/99(重量比)、好ましくは95/5〜5/95(重量比)、さらに好ましくは90/10〜10/90(重量比)程度の範囲から選択できる。
【0020】
なお、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、何れも1.0dL/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.9dL/g以下である。異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂又は変性ポリエステルをブレンドすることによって、例えば固有粘度1.2dL/gと0.8dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、1.0dL/g以下の固有粘度を実現してもよい。なお、固有粘度(IV)は、例えば、O−クロロフェノール中、温度35℃の条件で測定できる。このような範囲の固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂を使用すると、十分な靱性の付与と溶融粘度の低減とを効率よく実現しやすい。固有粘度が大きすぎると、成形時の溶融粘度が高くなり、場合により成形金型内で樹脂の流動不良、充填不良を起こす可能性がある。
【0021】
本発明で用いられる(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維とは、長さ方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と直角方向の最長の直線距離)の比が1.3〜10、好ましくは1.5〜8、特に好ましくは2〜5の間にあるガラス繊維である。具体的な形状としては、略楕円形、略長円形、略まゆ形等である。
【0022】
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維は、機械的強度、衝撃強度に優れ、そり変形を抑制するとともに成形性にも優れる。
【0023】
又、扁平な断面形状を有するガラス繊維は、その平均断面積が100〜300マイクロ平方メートルのものが好ましい。100マイクロ平方メートルより小さい場合、機械的強度、衝撃強度が十分でなく、300マイクロ平方メートルを超える場合には、射出成形時のゲート詰まりや、金型や成形機の摩耗の問題を生じる。
【0024】
本発明において用いられる(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、40〜140重量部、好ましくは50〜120重量部である。配合量が40重量部未満では機械的強度、衝撃強度が低く、また140重量部を超えると流動性が著しく悪化する。
【0025】
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維の使用にあたっては、必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することが望ましい。この例を示せば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物がいずれも好ましく用いられる。これ等の化合物は予め表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調製の際同時に添加してもよい。また、併用される官能性表面処理剤の使用量は、充填剤に対し0〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%である。
【0026】
かかるガラス繊維(B)としては、Aガラス、Eガラス、ジルコニア成分含有の耐アルカリガラス組成や、チョップドストランド、ロービングガラス等の配合時のガラス繊維の形態を問わず、使用可能である。
【0027】
本発明に用いる(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維は、溶融ガラスを吐出するために使用するブッシングとして、長円形、楕円形、矩形、スリット状等の適当な孔形状を有するノズルを用いて紡糸することにより調製される。又、各種の断面形状(円形断面を含む)を有する近接して設けられた複数のノズルから溶融ガラスを紡出し、紡出された溶融ガラスを互いに接合して単一のフィラメントとすることにより調製できる。
【0028】
次に本発明で用いる(C)グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン及び/又はその脱水縮合物と炭素数12以上の脂肪酸とからなり、後記の方法により測定した水酸基価が200以上の脂肪酸エステルである。通常、ポリブチレンテレフタレート樹脂に流動性改良剤等を添加すると、流動性を向上できても、ポリブチレンテレフタレート樹脂そのものが有する機械的強度や靱性等の特性の低下を避けることができない。本発明では特定のグリセリン脂肪酸エステル(C)を使用することにより、前記特性を高いレベルで保持しつつポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性を効率よく向上できる。
【0029】
(C)グリセリン脂肪酸エステルは、それ自体公知の方法で製造することができ、市販品を使用してもよく、後記の方法により測定した水酸基価が200以上になるようにエステル化を調整したものであり、好ましくは250以上の水酸基価を有するものである。水酸基価が200未満では流動性の改良効果が少なく好ましくない。
【0030】
グリセリン脂肪酸エステルのエステルを構成する炭素数12以上の脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等が挙げられ、好ましくは炭素数12〜32の脂肪酸、特に好ましくは炭素数12〜22の脂肪酸が使用され、ラウリン酸、ステアリン酸又はベヘニン酸が特に好ましい。炭素数12未満のものでは耐熱性が低下することがあり好ましくなく、炭素数が32を超えるものは流動性の改良効果が少なく好ましくない。
【0031】
好ましいグリセリン脂肪酸エステルを例示すると、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンステアリン酸部分エステル、デカグリセリンラウリン酸部分エステル等が挙げられる。
【0032】
(C)グリセリン脂肪酸エステルの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部である。(C)グリセリン脂肪酸エステルの配合量が0.05重量部未満では流動性の向上効果が十分に得られない場合があり、5重量部を超えると成形に伴ってガス発生量が多くなり、成形品の外観を損ねたり、金型汚れを生じるおそれがある。
【0033】
なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール、ポリアリーレンオキシド、ポリアリーレンサルファイド、フッ素樹脂等が例示される。また、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂等の共重合体も例示される。これら他の樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0034】
また、本発明の樹脂組成物には、種々の添加剤(安定剤、成形性改善剤等)を添加してもよい。添加剤としては、例えば、各種安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)核剤(結晶化核剤)、難燃剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、染・顔料等の着色剤、分散剤等が挙げられる。
【0035】
特に、ポリブチレンテレフタレートと、アルキレングリコール成分が異なる変性ポリエステルを併用する場合は、エステル交換抑制のためにリン系安定剤を添加することが好ましい。用いられるリン系安定剤としては、例えば有機ホスファイト系、ホスフォナイト系化合物およびリン酸金属塩等である。具体例を示すと、ビス(2,4−ジ−t−4メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、またリン酸金属塩としては、第一リン酸カルシウム、第一リン酸ナトリウムの1水和物等が挙げられる。
【0036】
なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で他の強化用充填剤を添加することができる。他の強化用充填剤としては、本発明で規定した以外のガラス繊維、ミルドガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、シリカ、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、黒鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等の珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナ等の金属酸化物、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の金属の炭酸塩や硫酸塩、さらには炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等が例示され、有機充填剤としては、高融点の芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、ポリイミド繊維等が例示される。
【0037】
本発明の組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法により容易に調製される。例えば、各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練込押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体としてこれ以外の成分と混合し添加することは、これらの成分の均一配合を行う上で好ましい方法である。 本発明の樹脂組成物の流動性は、一定のピストンフロー剪断速度下の条件のもとでの溶融粘度を指標として反映させることができる。例えば、本発明の樹脂組成物の溶融粘度は、ISO11443に準拠した温度260℃での剪断速度1000sec-1において、200Pa・s以下、好ましくは170Pa・s以下、さらに好ましくは150Pa・s以下(例えば、50〜150Pa・s程度)とすることもできる。測定結果は、上記のようにPa・s単位で得られるが、数値の低いほうが溶融時の流動性に優れ、成形時の流動性に優れるとされる。
【0038】
なお、一般には、流動性の指標として、ASTM D-1238で235℃、荷重2160gの条件で測定するメルトインデックスが用いられるが、メルトインデックスの測定は一定荷重下での測定となり、樹脂によりピストンの剪断速度は異なってくる。これに対し、一定のピストンフローの下での溶融粘度測定指標のほうが、実際の射出成形が一定のピストンフローで行われることを考慮すると、実際の流動特性により近い指標であると考えられるため、本発明ではこのような一定剪断速度条件における溶融粘度を流動性の指標とする。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、前記のように溶融流動性に優れているため、成形加工性が良好であり、機械的強度や耐熱性の高い成形体又は成形品を製造するのに有用である。
【0040】
特に、厚みの薄い部位が存在する成形品を製造するのに好適である。例えば、通常のポリブチレンテレフタレート樹脂の射出成形時の製造条件であるシリンダー温度260℃、金型温度80℃での射出成形において1mm以下の厚みの部位を有する射出成形品の成形が可能となる。例えば、100tの型締め力を有し、スクリュー径がφ30mmの射出成形機で射出速度67mm/秒での成形が可能である。
【0041】
1mm厚みでの流動長が120mm以上であることが求められる場合があり、本発明の樹脂組成物であれば120mm以上の流動長も可能となる。
【0042】
成形品の一部に1mm以下の厚みの部位を有する薄肉成形品としては、スイッチ、コンデンサー、コネクター、集積回路(IC)、リレー、抵抗器、発光ダイオード(LED)、コイルボビン、電子機器、携帯端末、ECU、各種センサー、パワーモジュール、ギア部品及びそれらの周辺機器又はそのハウジング又はシャーシ等が例示される。
【0043】
樹脂を金型に充填するための成形法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディング等が適用可能であるが、射出成形が一般的である。
【実施例】
【0044】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例1〜7、比較例1〜6
各樹脂組成物を表1、2に示す混合比率でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼製)を用いて、シリンダー設定温度250℃で溶融混練したのちペレット化し、試験片を作成し、各評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0046】
また、使用した成分の詳細、物性評価の測定法は以下の通りである。
(A)ポリエステル樹脂
(A-1)ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.69dL/g、ウィンテックポリマー(株)製)
(A-2)イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸12.0モル%変性、固有粘度IV=0.80dL/g、(株)ベルポリエステルプロダクツ製)
(A-3)イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.65dL/g)
テレフタル酸と1,4 −ブタンジオールとの反応において、テレフタル酸の一部(12.5モル%)に代えて、共重合成分としてのジメチルイソフタル酸12.5モル%を用いた変性ポリブチレンテレフタレート
(B)ガラス繊維
(B-1) ;扁平な断面形状を有するガラス繊維(長径・短径比:4、平均断面積196μm、日東紡(株)製)
(B '-1) ;一般的な円形断面形状を有するガラス繊維(長径・短径比:1、平均断面積133μm、日本電気ガラス(株)製)
(C)グリセリン脂肪酸エステル
(C-1)グリセリンモノステアレート(水酸基価330、花王(株)製「エレクトロストリッパーTS-5」)
(C-2)グリセリンモノベヘネート(水酸基価300、理研ビタミン(株)製「リケマールB-100」)
(C-3)トリグリセリンステアリン酸部分エステル(水酸基価280、理研ビタミン(株)製「リケマールAF-70」)
(C-4)デカグリセリンラウリン酸部分エステル(水酸基価600、理研ビタミン(株)製「ポエムL-021」)
(C'-1)グリセリントリステアレート(水酸基価87、理研ビタミン(株)製「ポエムS-95」)
尚、(C)グリセリン脂肪酸エステルの水酸基価は、油化学協会法2,4,9,2-71水酸基価(ピリジン・無水酢酸法)により測定した。
【0047】
また、実施例7については、表中の組成に更に第一リン酸カルシウムを0.15重量部添加している。
【0048】
<引張強さ>
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、成形機シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、射出成形により引張試験片を作製し、ISO−527(試験片厚み4mm)に準じて測定した。
<シャルピー衝撃強さ>
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、成形機シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、射出成形によりシャルピー衝撃試験片を作製し、ISO−179(試験片厚み4mm)に準じて測定した。
<溶融粘度>
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、キャピログラフ1B(東洋精機製作所社製)を用いて、ISO11443に準拠して、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmLにて、剪断速度1000sec-1にて測定した。数値の低いほうが溶融時の流動性に優れ、成形時の流動性に優れる。
<流動性>
下記基準で厚さ1mmの流動長さを測定した。
評価成形品;厚さ1mm×幅20mmのスパイラルフロー
成形機;FANUC S2000i-100B(スクリュー径φ30mm)
シリンダー温度;260-260-260-230℃
金型温度;80℃
射出圧力;98MPa
射出速度;67mm /秒
<そり変形>
下記基準で平板の平面度を測定した。
評価成形品;50mm×50mm×厚さ1mmの平板
成形機;FANUC ROBOSHOTα-100Ia
シリンダー温度;260-260-240-220℃
金型温度;80℃
射出圧力;69MPa
平面度測定機;CNC画像測定機クイックビジョンQVH404(ミツトヨ社製)
平面度測定法は平板上の9点(縦横3×3点)にて測定した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維40〜140重量部、
(C)グリセリン及び/又はその脱水縮合物と炭素数12以上の脂肪酸とからなり、本文記載の方法により測定した水酸基価が200以上のグリセリン脂肪酸エステル0.05〜5重量部
を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸変性ポリエステルを含有するポリブチレンテレフタレートであり、全ジカルボン酸成分に対するイソフタル酸の含有率が5〜30モル%である請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、5〜30モル%イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートである請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維が、長さ方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と直角方向の最長の直線距離)の比が1.3〜10の間にあるものである請求項1〜3の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維が、平均断面積100〜300マイクロ平方メートルのあるものである請求項1〜4の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(C)グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、ラウリン酸、ステアリン酸又はベヘニン酸である請求項1〜5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
ISO11443に準拠した温度260℃での剪断速度1000sec-1における溶融粘度の測定値が200Pa・s以下である請求項1〜6の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
シリンダー温度260℃、金型温度80℃における射出成形において1mm厚みでの流動長が120mm以上である請求項1〜7の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる薄肉成形品。
【請求項9】
成形品の一部に1mm以下の厚みの部位を有する請求項8記載の薄肉成形品。
【請求項10】
スイッチ、コンデンサー、コネクター、集積回路(IC)、リレー、抵抗器、発光ダイオード(LED)、コイルボビン、電子機器、携帯端末、ECU、各種センサー、パワーモジュール、ギア部品及びそれらの周辺機器又はそのハウジング又はシャーシである請求項8又は9記載の薄肉成形品。

【公開番号】特開2009−155367(P2009−155367A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331722(P2007−331722)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】