説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】 冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂との接着性を両立させた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体100重量部に対し、(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマー5〜50重量部、(C) ガラス繊維40〜150重量部を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関するもので、詳しくは、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂との接着性に優れ、自動車部品、電気・電子部品等に用いて有用なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、電気的性質、その他物理的、化学的性質に優れ、且つ加工性が良好であるがゆえに、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品等の広範な用途に使用されている。特に、水分やダスト、外部からの衝撃などからのダメージを保護する目的で、電子部品が搭載された基板を収容するケース材や、センサープローブやコネクター端子などが配置されるインサート成形品等の用途において好ましく用いられる。
【0003】
かかる用途では、基板やセンサー本体に対する水分やダストなどの影響を極力避ける目的で、基板を収めたカバー内にポッティング材を満たして加熱硬化させたり、カバーとケースを接着剤によって接合・シールする場合が多い。近年、二重成形や、熱板溶着、振動溶着、レーザー溶着等、様々な接合工法が実用化されてきているが、基板の保護を目的としたポッティングに関しては、接合工法に拠らずエポキシ樹脂やシリコーンゴムが使用されることが多い。また、簡便に接合部の信頼性を高められる手法として、エポキシやシリコーン接着剤による接合工法も依然、広く利用されている。
【0004】
かかる工法が適用される用途においては、コネクターなどの金属端子や、電気回路を構成する金属製のバスバー、各種センサー部品などが圧入やインサート成形によって配置されることが通例であり、特に自動車に搭載される部品用途においては、高温・高湿環境や冷熱サイクル環境での高度な耐久性が求められることが多く、エラストマーや各種添加剤によって特徴付けられた材料が用いられることが一般的である。
【0005】
このような要求に鑑み、特許文献1では、ポリブチレンテレフタレートと特定のアクリル系ゴムからなり、金属または無機固体をインサート成形してなる成形品が提案されている。特許文献2では、特定の熱可塑性ポリエステル樹脂に、ガラス繊維、カルボキシル基及び/又は水酸基との反応性基を有するポリオレフィン系ゴムを含有させ、優れた耐ヒートショック性を得る技術が提案されている。更に、特許文献3では、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、多層構造からなるコアシェル型化合物及び非円形断面を持つ繊維状充填剤を各特定量配合することにより、耐ヒートショック性及び寸法安定性に優れた組成物を得る技術が提案されている。
【0006】
特許文献1〜3で提案されている材料は、何れもインサート成形品の冷熱サイクル性にはある程度優れた特徴を示すが、シリコーン、エポキシ接着剤との接着性に関しては言及がなく、現実には何れも著しく劣る性能を示し、接着のためにはエッチング処理などの接着面の加工が好ましく、代替溶着技術が切望されていた。
【0007】
エポキシやシリコーンによる接着に関しては、被着材側の物理的な表面状態(粗さ)の影響のみならず、化学組成の影響によっては、滑剤等の添加剤の染み出しによって接着性が阻害される場合や、添加剤によって接着剤の化学反応が抑制される場合などがあり、従来、被着材の組成が接着強度を決める要因になりやすかった。
【0008】
電子部品を収容する部品においては、電子部品を水分や化学物質から保護する目的で、電子部品を収容した後にケースにシリコーン化合物やエポキシ化合物を注入し、封止することが必要不可欠であり、ケース材やカバー材の選定によっては、かかるシリコーン化合物やエポキシ化合物が、硬化不良や界面密着不良を生じ、部品として十分な機能を発揮できない場合があった。
【0009】
また、かかる電子部品を収容するケースの接合方法として、様々な公知の溶着方法が提案されているが、電子部品へのダメージを避けるため、シリコーン接着剤やエポキシ接着剤で接合することが通常行われているが、上述のように、硬化不良や界面密着不良を生じ、部品として十分な機能を発揮できない場合があった。
【0010】
特に、接合に対して強度に優れるエポキシ接着剤、ポッティングに対して一般に使用されるシリコーン接着剤を同時に使用するケースや、接合に関して歪みを緩和させる目的でシリコーン接着剤を用い、ポッティングに対して透湿性の抑制からエポキシポッティング材を用いるなど、種類の異なる接着性化合物が同時に使用される場合があり、エポキシ接着剤及びシリコーン接着剤に対して優れた接着性を有する材料が求められていた。
【0011】
このような要請に対して、特許文献4では、エポキシ接着性に関して、熱可塑性ポリエステル樹脂に、特定のエポキシ化した変性ブロック共重合体と特定の充填剤を複合させることで、接着強度を大幅に改善させる技術が提案されている。しかしながら、特定のエポキシ化した変性ブロック共重合体を用いた樹脂組成物は、成形機内滞留によって流動性が著しく低下するなど、成形性の不具合の問題があった。また、金属インサートを含む成形品の冷熱衝撃性に対しては改善効果が限られ、電子部品用途や自動車部品用途において、十分な実用性を有しなかった。
【0012】
また、特許文献5では、芳香族ポリエステル樹脂に特定のエチレン−グリシジルメタクリレートのグラフト共重合体、スルホン酸アミド及び充填剤を配合する組成が提案されているが、かかる組成では、付加型シリコーンに対しては十分な接着性の改善効果が得られなかった。
【0013】
更に、特許文献6、7では、付加硬化型シリコーンとの接着強度の改善に関して、特定のポリブチレンテレフタレートと、特定の珪素化合物、フェノール系抗酸化剤及び/又はチオエーテル系抗酸化剤を含む組成物が提案されている。しかしながら、かかる組成では、自動車産業で要求される材料の耐冷熱サイクル性は満たさず、また所望のエポキシ接着性に対しても十分な特性を満たす成形品を得ることができなかった。また、一般的に、硫黄系化合物や三価のリン化合物により、硬化触媒の白金化合物が失活して反応阻害を招くことが知られており、特許文献6、7の組成物は実用性に欠けるものであった。
【特許文献1】特開昭63−3055号公報
【特許文献2】特開平11−43593号公報
【特許文献3】特開2000−265001号公報
【特許文献4】特開平10−235819号公報
【特許文献5】特開平3−26751号公報
【特許文献6】特開平9−165503号公報
【特許文献7】特開平10−316844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み案出されたものであり、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂との接着性を両立させた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成し得るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得るため鋭意検討を行った結果、ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体を主体とし、これに特定のアクリル系エラストマー及びガラス繊維を併用配合した組成物は、機械的物性の大きな低下なしに、接着性、及び耐ヒートショック性に極めて優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち本発明は、
(A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体100重量部に対し、
(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマー5〜50重量部、
(C) ガラス繊維40〜150重量部
を配合してなる、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂との接着性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び該組成物を用いた成形品、特にインサート成形品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂との接着性を両立させた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提供される。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、各種電気・電子部品、特に電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品、金属端子、金属バスバー又はセンサーをインサート成形・圧入加工してなる成形品に有用である。更に、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形品は、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂でポッティング及び/又は接合されてなる電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、順次本発明の樹脂材料の構成成分について詳しく説明する。まず本発明の樹脂組成物の基礎樹脂である(A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体とは、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(低級アルコールエステルなど)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4 −ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート系樹脂である。ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75〜95モル%程度)含有する共重合体であってもよい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などのC6〜12アリールジカルボン酸など)、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC4〜16アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのC5〜10シクロアルキルジカルボン酸など)、またはそれらのエステル形成誘導体などが例示できる。これらジカルボン酸は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸などのC6〜10アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC6〜12アルキルジカルボン酸)が含まれる。
【0021】
1,4 −ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分[例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3 −ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3 −オクタンジオールなどのC2〜10アルキレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリオキシC2〜4アルキレングリコールなど)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオールなど]、芳香族ジオール成分[ビスフェノールA、4,4 −ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族アルコール、ビスフェノールAのC2〜4アルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体など)など]、またはそれらのエステル形成誘導体などが例示できる。これらグリコール成分も単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特にC2〜6アルキレングリコール、ジエチレングリコールなどのポリオキシC2〜3アルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール)が含まれる。
【0023】
前記化合物をモノマー成分とする重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート系(共)重合体は、何れも本発明の(A) 成分として使用できる。ホモポリブチレンテレフタレート重合体及びポリブチレンテレフタレート共重合体は、それぞれ単独で又は2種以上混合して使用でき、ホモポリブチレンテレフタレート重合体及びポリブチレンテレフタレート共重合体との併用も有用である。
【0024】
また、ポリブチレンテレフタレート系共重合体としては、熱可塑性分岐ポリブチレンテレフタレート共重合体、即ちポリブチレンテレフタレート又はブチレンテレフタレート単量体を主体とし、多官能性化合物との反応により分岐構造を有するポリブチレンテレフタレート共重合体も使用できる。多官能性化合物としては、芳香族多価カルボン酸成分(トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらのアルコールエステルなど)、ポリオール成分(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど)が例示できる。
【0025】
本発明においては、(A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体は、固有粘度が0.64〜0.85、且つ末端カルボキシル基の含有量が10〜40m当量/kgのものであることが好ましい。固有粘度がかかる範囲を超えて低いと、所望の機械的特性が得られず、かかる範囲を超えて高いと、組成物の流動性が著しく低下し、射出成形性が低下する。末端カルボキシル基の含有量がかかる範囲を超えて低いと、ガラス繊維の補強効果が著しく低下し、所望の機械的特性が得られず、かかる範囲を超えて高いと、所望の耐ヒートショック性が得られず、好ましくない。
【0026】
次に、本発明で(B) 成分として用いるグリシジル基含有アクリル系エラストマーについて説明する。
【0027】
本発明で(B) 成分として用いるグリシジル基含有アクリル系エラストマーは、ゴム成分からなる内層であるコア材(B-1) と、グリシジル基を有するビニル系(共)重合体からなる外層であるシェル材(B-2) からなる多層構造を有するアクリル系エラストマーが用いられる。
【0028】
かかるグリシジル基含有アクリル系エラストマーのコア材(B-1) としては、ブチルアクリレートのようなアクリル酸エステルと少量のブチレンジアクリレートのような架橋性モノマーを重合させて得られるアクリル系エラストマーが好ましくは用いられる。
【0029】
上記アクリル酸エステルとしては、ブチルアクリレートの他に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。また、架橋性モノマーとしては、ブチレンジアクリレートの他に、ブチレンジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタアクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレートのようなビニル化合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタニレート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリルシアヌレートのようなアリル化合物が挙げられる。
【0030】
また、コア材(B-1) として、アクリル系エラストマーに珪素系エラストマーを共重合/グラフト重合させたものも好ましく用いることができる。かかる珪素系エラストマーとしては、オルガノシロキサン単量体を重合させて製造されるもので、オルガノシロキサンとしては、例えばヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン、ドデカメチルヘキサシクロシロキサン、トリメチルトリフェニルシロキサン、テトラメチルフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が用いられる。
【0031】
さらに、内層のアクリル系エラストマーを構成する成分として、ビニル系モノマー及び/又は共重合体が用いられる例があるが、ブタジエン成分などの共役ジエンを含まないアクリル系エラストマーが、耐熱性や滞留安定性上、実用的には好ましく用いられる。
【0032】
アクリル系エラストマーのシェル材(B-2) は、グリシジル基を有するビニル系(共)重合体で形成される。ビニル系(共)重合体とは、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも1種のモノマーと、グリシジル基を含むビニル系モノマーを共重合させて得られる。グリシジル基を含むビニル系モノマーとしては、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、エーテル化合物が好ましく用いられ、代表的な化合物としてはグリシジルメタクリレートが一般的に用いられるが、本発明にはグリシジル基の導入方法、導入量によらず、いずれのグリシジル基を有するビニル系(共)重合体も好ましく用いることができる。
【0033】
ビニル系(共)重合体としては、グリシジル基含有ビニル系モノマーと、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレンからなる1種もしくは2種以上からなるビニルモノマーとの共重合体が好ましく用いられる。
【0034】
かかるコアシェル型化合物のゴム層とシェル層は、通常グラフト結合によって結合されている。このグラフト共重合化は、必要な場合には、ゴム層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、ゴム層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤としては、シリコン系ゴムでは、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいは、チオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0035】
グリシジル基を有するアクリル系共重合体としては、平均粒径0.2〜1.0μmのコアシェル型化合物が好ましい。平均粒径がかかる範囲を超えると耐ヒートショック性の改善効果が不十分な場合がある。
【0036】
本発明において、(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマーの配合量は、(A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体100重量部に対し5〜50重量部の範囲である。かかる範囲より少ないと耐ヒートショック性の改善効果に乏しく、かかる範囲を超えて多いと、溶融粘度が著しく増加し、流動性の低下から、安定した成形品を得ることができなくなる。
【0037】
本発明で用いられる(C) ガラス繊維とは、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明では、ガラスの種類にも限定はないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を有する耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0038】
また、本発明では、ガラス繊維と樹脂マトリックスとの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理されたガラス繊維が好ましく用いられ、加熱減量値で示される有機処理剤量が1重量%以上であるガラス繊維が特に好ましく用いられる。かかるガラス繊維に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物としては公知のものが何れも好ましく用いることができ、本発明ではガラス繊維の表面処理に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0039】
(D) ガラス繊維は、(A) 成分100重量部に対して40〜150重量部が用いられる。かかる範囲より少ないと冷熱サイクルに伴う線膨張変化が大きく、耐ヒートショック性上好ましくない。かかる範囲を超えて配合されると、材料の許容歪量が低下し、耐ヒートショック性上好ましくない。好ましい配合量は40〜130重量部、特に好ましくは50〜120重量部である。
【0040】
本発明組成物には更にその目的に応じ所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤や耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することも勿論可能である。但し、付加型シリコーンとの接着性を低下させないよう、二次酸化防止剤としてリン系安定剤、チオエーテル系安定剤を含まないことが好ましい。
【0041】
本発明で用いる樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【実施例】
【0042】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜5、比較例1〜5
表1〜2に示す各成分を秤量後ドライブレンドし、(株)日本製鋼所製30mm2軸押出機TEX−30を用いて溶融混練しペレットを作成した(シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュー回転数150rpm)。次いで、このペレットから各試験片を作成し、各種物性を測定した。結果をあわせて表1〜2に示す。
【0043】
また、使用した成分の詳細、物性評価の測定法は以下の通りである。
(A) PBT樹脂
(A-1) PBT樹脂;ウィンテックポリマー(株)製300FP、IV=0.69、末端カルボキシル基含有量=23m当量/kg
(A-2) PBT樹脂;ウィンテックポリマー(株)製400JP、IV=0.74、末端カルボキシル基含有量=35m当量/kg
(B) エラストマー成分
(B-1) グリシジルメタアクリレート変性アクリル系コアシェルポリマー;(株)アルケマ製Durastrength D400R
(B-2) グリシジルメタアクリレート変性アクリル系コアシェルポリマー;(株)アルケマ製Durastrength D450R
(B-3) グリシジルメタアクリレート変性アクリル系コアシェルポリマー;(株)ロームアンドハース製EXL2314
(B'-1) アクリル系コアシェルポリマー;(株)ロームアンドハース製EXL2311
(B'-2) エチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体;住友化学(株)製BF−2C
(C) ガラス繊維
(C-1) ガラス繊維;日本電気硝子(株)製T127
<接着強度>
ISO3167に準拠した多目的試験片の中央部を切断し、一方の試験片に7mm×7mmの穴を開けたニトフロンテープ(厚み0.18mm)を貼り付け、穴の部分に接着剤を塗布した。塗布後に、試験片の他方を重ね合わせ、クリップで固定し、所定の硬化条件で接着を行った。接着後の試験片を23℃、50%RHの環境に24時間以上放置し、万能試験機を用いて押剥がし試験速度5mm/minで接着した試験片を押剥がし、そのときの押剥がし強度の最高値を記録した。
【0044】
接着剤・硬化条件は以下の通りである。
・シリコーン接着剤;東レダウコーニングシリコーン製SE1713
(硬化条件;120℃×1時間)
・エポキシ接着剤;ナガセケムテックス製NX1244
(硬化条件;150℃×30分)
<溶融粘度特性>
ISO11443に準拠し測定した。
<耐ヒートショック性>
ペレットを用いて、樹脂温度260℃、金型温度65℃、射出時間25秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦22mm、横22mm、高さ51mmの角柱内部に、縦18mm、横18mm、高さ30mmの鉄芯をインサートする金型)に、一部の樹脂部の最小肉厚が1mmとなるようにインサート射出成形し、インサート成形品を製造した。得られたインサート成形品について、冷熱衝撃試験機を用いて、140℃にて1時間30分加熱後、−40℃に降温して1時間30分冷却後、更に140℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、成形品にクラックが生ずるまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体100重量部に対し、
(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマー5〜50重量部、
(C) ガラス繊維40〜150重量部
を配合してなる、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂との接着性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(A) ポリブチレンテレフタレート系(共)重合体が、固有粘度が0.64〜0.85、且つ末端カルボキシル基の含有量が10〜40m当量/kgのものである請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマーが、ゴム成分からなるコア材(B-1) とグリシジル基を有するビニル系(共)重合体からなるシェル材(B-2) からなるものである請求項1又は2記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマーを構成するコア材(B-1) が、アクリル系エラストマー及び/又はアクリル系エラストマーと珪素系エラストマーの共重合体である請求項3記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(B) グリシジル基含有アクリル系エラストマーを構成するシェル材(B-2) が、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレンからなる1種もしくは2種以上のビニル系(共)重合体と、グリシジル基含有アクリルモノマーとの共重合体である請求項3又は4記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いてなる、電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いてなる、金属端子、金属バスバー又はセンサーをインサート成形・圧入加工してなる成形品。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物または請求項7の成形品を用いてなる、エポキシ樹脂及び/又は付加型シリコーン樹脂でポッティング及び/又は接合されてなる電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品。

【公開番号】特開2007−91842(P2007−91842A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281591(P2005−281591)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】