説明

ポリプロピレンテレフタレート仮撚糸およびその製造方法

【課題】ポリプロピレンテレフタレート未延伸糸を用い、染めムラ、毛羽が少なく、品質に優れたポリプロピレンテレフタレート仮撚糸とその製造方法を提供する。
【解決手段】摩擦仮撚装置を用いて延伸と同時に仮撚を行うに際し、ポリプロピレンテレフタレート未延伸糸を1.05〜1.70倍の延伸倍率にすると同時に、未延伸糸の伸度EL(%)と延伸同時仮撚の延伸倍率DR(倍)が以下の式(1)を満たすように設定することを特徴とするポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
式(1)
0.585×(1+EL/100)≦DR≦0.75×(1+EL/100)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリプロピレンテレフタレートのソフト性・ストレッチ性を生かしながら織編物等の布帛としたとき効果的に嵩高性とハリ感を付与することのできるポリプロピレンテレフタレート仮撚糸とその工業的に優れた製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル仮撚糸としてポリエチレンテレフタレートからなる仮撚糸は、捲縮特性、耐侯性等に優れ、現在広く用いられている。しかし、着用快適性のさらなる向上を求めるニーズがあり、ストレッチ性の高い繊維が求められている。それに対して特開平9−78373号公報や特開平11−93026号公報に提案されているように、ポリプロピレンテレフタレートを用いた仮撚糸が提案されている。これらの仮撚糸は50%伸長時の弾性回復率が80%以上であり、伸縮伸長率が200〜300%、伸縮弾性率が80%であるストレッチ性と嵩高性に優れた仮撚糸である。しかし、これら仮撚糸は延伸糸をいわゆるスピンドル仮撚したものであり、加工速度がせいぜい100m/minと遅く、製造コストが高いばかりか、錘間・錘内バラツキが大きく、品質上問題が存在していた。さらにヤング率が30g/d以下と低いことからややハリにかけるという問題が存在した。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ストレッチ性と嵩高性に優れたポリプロピレンテレフタレートからなる仮撚糸を、高品質かつ低コストで製造する方法と、風合いとしてもハリ感に優れたポリプロピレンテレフタレート仮撚糸を提供せんとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、[1]摩擦仮撚装置を用いて延伸と同時に仮撚を行うに際し、ポリプロピレンテレフタレート未延伸糸を1.05〜1.70倍の延伸倍率にすると同時に、未延伸糸の伸度EL(%)と延伸同時仮撚の延伸倍率DR(倍)が以下の式(1)を満たすように設定することを特徴とするポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
式(1)
0.585×(1+EL/100)≦DR≦0.75×(1+EL/100)
[2]仮撚ヒーター出口における糸条温度が30〜175℃であることを特徴とする前記[1]に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0005】[3]仮撚加撚張力T1 が0.17〜0.55cN/dtexであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0006】[4]仮撚加撚張力T1 とヒーター前張力TH の比T1 /TH が1.02〜1.30であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0007】[5]ヒーター内の仮撚数Tが27400/D1/2〜30600/D1/2であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0008】[6]ヒーターとして非接触式ヒーターを用いることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0009】[7]下記(1)〜(4)式を満足するポリプロピレンテレフタレート未延伸糸を用いることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0010】
(1)強度ST(cN/dtex):1.8≦ST(2)複屈折Δn(×10-3):30≦Δn≦70(3)伸度EL(%):60≦EL≦180(4)沸水収縮率SW(%):3≦SW≦15[8]糸の太さ斑U%(ノーマルモード)が1%以下である未延伸糸を用いることを特徴とする前記[7]に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0011】[9]サドルが4mm未満でかつバルジ率が10%未満である未延伸糸パッケージを用いることを特徴とする前記[7]または[8]に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0012】[10]延伸仮撚後、巻き取るまでの間に弛緩率5〜25%の弛緩ゾーンを設けることを特徴とする前記[1]〜[9]のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0013】[11]延伸仮撚加工速度が300m/min以上であることを特徴とする前記[1]〜[10]のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【0014】[12]前記[1]〜[11]のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とするポリプロピレンテレフタレート仮撚糸。
【0015】[13]断面変形度が1.3〜1.8であることを特徴とする前記[12]に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸。
【0016】[14]平滑剤成分として水不溶性の脂肪酸エステル類および/または芳香族エステル類が付着していることを特徴とする前記[11]または[12]に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法は、摩擦仮撚装置を用いて延伸と同時に仮撚を行うに際し、ポリプロピレンテレフタレート未延伸糸の延伸倍率を1.05〜1.70倍の範囲にすると同時に、未延伸糸の伸度EL(%)と延伸同時仮撚の延伸倍率DR(倍)が以下の式(1)を満たすように設定するものである。
式(1)
0.585×(1+EL/100)≦DR≦0.75×(1+EL/100)
ここで、本発明のポリプロピレンテレフタレート(以下、PPTと略記する)とは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の割合で、他のエステル結合の形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。
【0018】共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0019】また、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0020】また、PPTからなる未延伸糸は、60%以上180%以下の破断伸度を有する繊維であることが好ましい。このような未延伸糸は例えば通常の紡糸機を用い、PPTを定法により溶融して紡糸パックに導入し、口金より紡出して、紡糸速度2500〜4500m/minで紡糸することによって得られる。ここで、紡糸速度2500m/min未満の未延伸糸は強度が低いために延伸仮撚によって糸切れが多発する。さらに紡糸速度1000m/min以上2500m/min未満で巻き取った未延伸糸は経時変化が顕著であるため未延伸糸パッケージの端面と中央部、内層と外層との間に繊維構造差が生じてしまい、延伸仮撚糸に糸長手方向の染めムラが生じやすい等の問題も有している。
【0021】また、延伸倍率1.05倍〜1.70倍で延伸と同時に仮撚するには、糸道順に1stフィードローラー(1stFR)、ヒーター、冷却板、摩擦仮撚装置、2ndフィードローラー(2ndFR)からなる仮撚機を用い、1stFRと2ndFR間で1.05倍〜1.70倍の延伸を行い、摩擦仮撚装置にて上流を加撚し、ヒーターにより熱セット、冷却板により形態固定するようにしたものであることが好ましい。また、繊維軸方向に太さムラを有する太細仮撚糸を得るために未延伸糸の自然延伸比を超えない範囲で予め延伸した後、一旦巻き取ることなく引き続き上記のように1stFRと2ndFRの間で延伸しながら摩擦仮撚装置を用いて摩擦仮撚装置の上流を加撚し、ヒーターにより熱セット、冷却板により形態固定するものでも問題ないが、1stFR前での延伸倍率DR0 と1stFRと2ndFRの間の延伸倍率DR1 を乗じた値DR=DR0 ×DR1 が1.05倍〜1.70倍とするものである。なお、延伸倍率の好ましい範囲は1.10〜1.60倍であり、より好ましい範囲は1.14〜1.50倍である。
【0022】また、本発明では未延伸糸の伸度EL(%)と延伸同時仮撚の延伸倍率DR(倍)が以下の式(1)を満たすように設定するものである。
式(1)
0.585×(1+EL/100)≦DR≦0.75×(1+EL/100)
延伸倍率DRが0.585×(1+EL/100)未満の時には延伸仮撚加工中にバルーニングが生じ、加工が不安定になり糸切れが多発する。また、仮撚糸の伸度も60%を超える値となり、布帛にしたとき肘抜け等の品質的な問題を有することとなる。一方、延伸倍率DRが0.75×(1+EL/100)を越える時には加工張力が高くなり過ぎてしまい、単糸毛羽が発生し、さらに糸切れが多発する。具体的な延伸倍率はポリプロピレンテレフタレート未延伸糸や仮撚糸の物性に応じて設定すればよいが、残留伸度が20〜60%とすることが好ましく、25〜55%とすることがさらに好ましく、30〜50%に設定することが特に好ましい。
【0023】布帛のストレッチ性および嵩高性を向上させるためには仮撚糸の捲縮特性を向上させることが必要であり、これを実現させるためには延伸仮撚工程においてのヒーター出口における糸条温度を30〜175℃とすることが好ましい。さらに仮撚糸にハリを持たせるために断面変形を生じさせるためには、延伸仮撚工程においてのヒーター出口における糸条温度を100〜175℃とすることがより好ましい。さらに好ましくは110〜160℃である。
【0024】PPTを加熱しながら伸長−応力曲線を測定すると、図1に示すように加熱により伸度、強度とも大きく低下することが新たに見出された。ポリエチレンテレフタレートなどでは見られない現象であり、加熱しながら延伸をおこなう延伸仮撚においては重大な問題であることがわかった。そこで数々の検討の結果、安定して仮撚加工できる仮撚加撚張力T1 は0.17〜0.55cN/dtexであることを見出した。仮撚加撚張力T1が0.17〜0.55cN/dtexであるとき、バルーニングが起こりにくく、毛羽の発生や糸切れが発生しにくくなり、加工速度の高速化が可能となる。さらに同様な理由で仮撚加撚張力T1 が0.25〜0.40cN/dtexとすることがより好ましい。ここで、仮撚加撚張力T1 とは摩擦仮撚装置直前の張力である。
【0025】PPTはヤング率が低いためにポリエチレンテレフタレートに比べて上流への撚伝播が低下しやすい。特に最上流に位置するヒーター上で糸条に仮撚されていなければ、ヒーター中の張力低下が大きくなり、捲縮特性が低下するばかりか単糸毛羽や糸切れが多発することになる。したがって、仮撚加撚張力T1 とヒーター前張力TH の比T1 /TH が1.02〜1.30であることが好ましい。仮撚加撚張力T1 とヒーター前張力TH の比T1 /TH が1.02〜1.30のとき、ヒーター中での張力低下が小さく、すなわち摩擦仮撚装置の撚はヒーター上に十分に登っており、ヒーター上での毛羽の発生や糸切れが起こりにくくなるので好ましい。より好ましいT1 /TH は1.02〜1.25である。ここでヒーター前張力とはヒーター入口直前の張力である。
【0026】ヒーター内の仮撚数としてはできるだけ高い方が好ましいが、摩擦仮撚装置の施撚能力の問題があり、具体的にはヒーター内の仮撚数Tが27400/D1/2〜30600/D1/2 であることが好ましく、ヒーター内での毛羽発生や糸切れ多発を防ぐことが可能となる。同様な理由によりヒーター内の仮撚数としては27900/D1/2 〜30100/D1/2 であることがより好ましい。また、Dとは延伸仮撚加工した仮撚糸の繊度(デシテックス)を示している。
【0027】次に、本発明のPPT仮撚糸の製造方法について図面に示す実施例に基づいて説明する。図2に本発明に係る仮撚装置の一例を示した。
【0028】供給原糸1としてPPT未延伸糸を用い、1stFR2と2ndFR6との間で延伸しながら摩擦仮撚装置5を用いて仮撚を与えた状態でヒーター3により撚形態を熱セットし、冷却板4により形態固定するものである。
【0029】先にも述べたようにPPTのヤング率が低いために仮撚の上流への伝播が低下しやすくなり、そのために、加撚域では必要以上の糸の屈曲や接触抵抗を避けることが肝要である。したがって、仮撚機に用いる各パーツにおいても接触抵抗を低減する視点で選定することが好ましい。ヒーター3としては、熱媒を加熱、循環させたり、電熱ヒーターにより加熱した金属板上や、高温雰囲気下を走行させる方法がある。加熱した金属板の上を走行させる場合には糸条繊度、加工速度、目標とする仮撚温度を考慮して必要以上に長くしたり、屈曲させないことが好ましい。また高温雰囲気下を走行させる場合には走行安定性を高めるためにガイド等で糸道を固定したいわゆる非接触式高温ヒーターを用いることが好ましい。仮撚糸の毛羽、糸切れ率を低下させたり、加工速度の高速化のためには接触抵抗のより低い非接触式高温ヒーターを用いることがより好ましい。
【0030】冷却板4としても必要以上に長くない方が好ましく、冷却水を循環させて冷却板を冷却したりして冷却板を短くしたり、空気を吸引することで排煙を吸引し、同時に糸条を冷却することは好ましく行われる。さらに金属板によりスリットを作り、後方から吸引してクロスフローによって糸条を冷却する冷却板は摩擦抵抗が低く、冷却能力も高く、加撚域を短くして加工を安定させることが可能となるので好ましく用いられる。
【0031】摩擦仮撚装置5としては施撚作用と共に送り作用を有するものであれば、内接型、外接型摩擦仮撚装置のいずれにおいても問題ないが、外接型3軸ツイスター、ベルトニップツイスターが好ましく用いられる。
【0032】供給原糸として用いるPPT未延伸糸は溶融紡糸して巻き取った後、遅延収縮が生じやすい。特に紡糸速度1000〜2000m/minで巻き取った未延伸糸の経時変化による物性変化は顕著であり、パッケージの端面と中央部、内層と外層との間に収縮差が生じてしまい、延伸仮撚糸に糸長手方向の染めムラが生じてしまう。しかし、紡糸速度3000m/min付近でも依然遅延収縮は生じ、糸長手方向の染めムラを生じさせる原因となる。また、遅延収縮を低下させるために紡糸速度を速くすると、紡糸線上で分子配向が高度に進み、巻締まりが生じて紙管がスピンドルから抜けなくなる現象が生じる。そのため、上記問題を解決するために下記(1)〜(4)式を満足するPPT未延伸糸を供給原糸として用いることが好ましい。
【0033】
(1)強度ST(cN/dtex):1.8≦ST(2)複屈折Δn(×10-3):30≦Δn≦70(3)伸度EL(%):60≦EL≦180(4)沸水収縮率SW(%):3≦SW≦15すなわち、上記物性を示す未延伸糸は、遅延収縮による未延伸糸パッケージの巻き締まりがほとんどなく、良好な仮撚加工性を示すとともに、染色斑等の欠点が少なく、高品質な仮撚加工糸を与える。
【0034】強度STは延伸や仮撚、整経や製織を行う際の工程通過性や、布帛の機械的特性に大きく影響する。前記生産性や製品の品質を満足するため好ましくは1.8cN/dtex以上、より好ましくは2.2cN/dtex以上である。
【0035】また、伸度ELは延伸や仮撚工程での加工性を良好にするために60%以上であることが好ましく、延伸や仮撚で得られる糸の太さ斑を小さくし、より均質な糸とするために180%以下であることが好ましい。伸度のより好ましい範囲は70〜150%である。
【0036】また、複屈折Δnは未延伸糸の機械的特性と密接な関係があり、特に仮撚加工工程における毛羽や断糸を防止し、良好な工程通過性を得るために複屈折は0.03以上であることが好ましい。また、複屈折が0.07を越えると巻締まりや高温における遅延収縮を十分に抑えることが困難になる。複屈折のより好ましい範囲は0.04〜0.065である。
【0037】また、PPT繊維は未延伸糸パッケージから解舒され、応力から解放されると除々に収縮する、いわゆる遅延収縮と呼ばれる現象が生じる。この現象はパケージ内においてもゆっくりと進行しており、パッケージ形状が崩れて解舒性不良を起こしたり、パッケージ端面周期に同期した糸の太さ斑が発生する等、さまざまな問題を起こす。また、この遅延収縮は未延伸糸の環境温度に左右されやすく、特に夏場のトラック輸送においては環境温度が50℃にも達するため遅延収縮量も大きくなる。そのため、未延伸糸は製糸段階で繊維構造を熱安定化させることが重要である。繊維構造の熱に対する安定性は、沸騰水に試料を投入して収縮率を測定する沸水収縮率SWによって知ることができる。沸水収縮率SWが15%以下であれば遅延収縮による経時変化が少なく、良好な熱安定性を有するといえる。また、沸水収縮率は仮撚加工での捲縮セット性と密接な関係があり、収縮率が3%以上で良好な捲縮セット性を示す。沸水収縮率はより好ましくは5〜12%である。
【0038】また、未延伸糸の糸長手方向の太さ斑の指標であるウースター斑を小さくすることで、仮撚加工における加工張力の変動を抑制し、工程安定性を高めることができるばかりか、得られる糸からなる布帛の染め斑等の欠点が少なくなり、品位の高い製品を得ることができる。したがって、用いる未延伸糸のウースター斑U%(ノーマルモード)は好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。
【0039】用いる未延伸糸はチーズ状パッケージに巻かれていることが好ましい。パッケージフォームは仮撚加工における糸の解舒性に影響を与えるため、良好なパッケージフォームが要求される。通常、パッケージフォームで問題となるのは、サドル(耳立ち)とバルジ(ふくらみ)であり、いずれも小さい方が高速解舒性に優れる。本発明者らの提案した方法に従えば、パッケージに巻き取る前に繊維内部構造が安定化するため、パケージフォームが良好なチーズとすることが可能である。仮撚で要求される解舒速度は200〜800m/分にも達するが、その速度で解舒張力の変動が小さく、安定して糸加工を行うためにはサドルが4mm未満、バルジ率が10%未満であることが好ましい。より好ましくはサドルが3mm未満、バルジ率が7%未満である。なお、サドルおよびバルジ率は4kg巻きパッケージで測定を行った。
【0040】次に、本発明に好ましく用いられる未延伸糸の製造方法の一例を示す。
【0041】未延伸糸の主原料となるPPTの製造方法として、公知の方法をそのまま用いることができる。用いるPTTの極限粘度[η]は、紡糸時の曳糸性を高め、実用的な強度の糸を得るために0.75以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。なお、PPT原料中に含まれる環状2量体を主成分とするオリゴマーは、紡糸時に口金汚れおよび口金下ハウジングでの針状結晶の析出を促し、製糸性に悪影響を及ぼすので、オリゴマー含有量は少ないほどよく、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下にするとよい。オリゴマー量を少なくするための方法としては固相重合が有効な手段となる。液相重合によりPTTの極限粘度[η]を0.4〜0.7とした後、固相重合温度180〜215℃、暴露時間2〜20時間で、窒素、アルゴン等の不活性ガス下もしくは真空度10torr以下、より好ましくは1torr以下の減圧下で行うことができる。また、重合時に生成するビス(3−ヒドロキシプロピル)エーテルは軟化点の低下や、強度等の機械的特性を低下させる傾向があるため少ないほどよく、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。
【0042】また、PPT未延伸糸は重合を行った後、そのまま紡糸する直連重紡で行ってもよいし、一旦チップ化した後、乾燥もしくは固相重合し、紡糸してもよいが、前記したようにオリゴマー量を少なくするために一旦チップ化した後、固相重合することが好ましい。
【0043】ここで、本発明の仮撚加工に好ましく用いられる未延伸糸の製造方法を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0044】溶融紡糸を行うに際しての紡糸温度は、口金での吐出を安定させるためにPPTの融点よりも15〜60℃高い温度で行うことが好ましく、25〜50℃高い温度で行うことがより好ましい。また、紡糸でのオリゴマー析出を抑制し、紡糸性を向上させるために、必要に応じて口金下に2〜20cmの加熱筒やMO(モノマー、オリゴマー)吸引装置、ポリマ酸化劣化あるいは口金孔汚れ防止用の空気、スチーム、N2などの不活性ガス発生装置を設置してもよい。
【0045】紡糸速度は、前記したように未延伸糸の強度が1.8cN/dtex以上、残留伸度が60〜180%になるように設定すればよく、そのためには紡糸速度2500〜4500m/minの範囲が好ましい。また、紡糸後、巻き取るまでの間に特定条件で熱処理することで、繊維構造を安定化させることができる紡糸速度が2500m/minを下回ると複屈折が0.030未満と低いために強度が低くなり、仮撚時に毛羽、単糸巻付が発生しやすく、4500m/minを越えるといわゆる延伸糸の構造をとるため変形しにくくなり、仮撚加工後の捲縮特性が低くなるとともに、毛羽、単糸巻付が発生しやすくなる傾向がある。
【0046】また、紡糸後、巻き取るまでの間に特定条件下で熱処理を行うことが重要であり、巻き取り前に熱処理を連続して行うことにより繊維の構造安定化が達成され、さらには巻取後の経時変化が抑制され、端面周期ムラや内外層差を回避することができる。例えば、図4に示す紡糸装置において、PPTを溶融し、口金18から吐出し、第1ゴデーロール22を用いて引き取りつつ、加熱した第1ゴデーロール22もしくは第2ゴデーロール23にて熱処理を行い、巻取機24を用いて巻き取るものである。なお、熱処理時間は熱処理温度にもよるが、0.01〜0.1秒が必要であることから、セパレートロール25を用いて加熱されたゴデーロール23に複数回巻き返すことが好ましい。より好ましい熱処理時間は0.02〜0.08秒である。また、熱処理は前記の加熱ゴデーロールに限定されるものではなく、図5に示すような加熱空気やスチーム等を熱媒とした非接触ヒーター28を紡糸線上(口金26〜第1ゴデーロール31間)、もしくは第1ゴデーロール31と第2ゴデーロール33の間に設けてもよい。
【0047】熱処理温度はゴデーロールのような接触式ヒーターの場合、温度70〜130℃、非接触ヒーターの場合は温度120〜220℃であることが好ましく、より好ましくは接触式ヒーターで100〜125℃、非接触式ヒーターで140〜200℃である。また、図4に示す、第1ゴデーロール22で引き取った後、第2ゴデーロール23や巻取機24との間で弛緩処理することで巻締まりや遅延収縮率を抑制する効果を高めることができ、好ましい。
【0048】上記方法にて製造し、巻き取った仮撚糸も遅延収縮により巻き締まりが生じてくることがある。このような場合、仮撚糸の解舒性が低下するばかりか、経時変化によって仮撚糸糸長手方向に染めムラが生じてしまう。これを防止するためには仮撚加工後に一旦リラックス工程を入れることが好ましく、延伸仮撚後、巻き取るまでに室温状態で弛緩率5〜25%の弛緩ゾーンを設けることが好ましい。
【0049】具体的には例えば図2においては2ndFR6の表面速度に対してと3rdFR7の表面速度を遅くすることによって容易に達成可能である。弛緩ゾーンにおいて、加熱装置により熱処理する必要は必ずしもなく、室温で巻き締まりを防止することが可能である。
【0050】PPT延伸糸をスピンドル仮撚装置を用いて加工した仮撚加工糸は、錘間バラツキが大きく、編検合格率はせいぜい93%以下となってしまい、検査工程に多大な経費を費やすこととなる。一方、本発明の製造方法により製造した仮撚糸は、編検合格率を95%以上にすることが可能となり、検査工程の簡素化が可能となり、好ましい。また、十分に装置を整備すれば編検合格率を98%以上にすることが可能であり、検査工程の省略化が可能となり、さらに好ましい。
【0051】さらに残留伸度が60%未満の延伸糸を用いて行うスピンドル仮撚加工では加工速度はせいぜい100m/min程度しかできないのに対して、本発明の製造方法では300m/min以上の加工速度が可能であり、より好ましくは600m/min以上、さらに好ましくは800m/minにて仮撚加工することが可能となり、工業的に有益である。
【0052】仮撚糸の高次通過性を向上させために集束性向上を狙って、交絡を付与することは好ましく行われる。図2においては3rdFR7と4thFR8との間でリラックスさせながら交絡ノズル8を用いて交絡している。集束性を向上させる方法としては撚糸、追油等の方法があり、必要に応じて用いればよい。
【0053】PPT繊維のヤング率は、ポリエチレンテレフタレート繊維に比べて低いために捲縮がやわらかくなる。しかし、布帛にしたとき、ハリ感を与えるためには適度な硬さが必要であり、断面変形した仮撚糸は好ましい。特にPPT未延伸糸の断面形状が丸断面の時、効果は大きく、断面形状効果によって適度な曲げ固さを付与することが可能となる。しかし、極端に断面変形を生じさせるとグリッターやジャリつき感となって現れるため、断面変形度が1.3〜1.8であることが好ましい。これを達成するためには、仮撚ヒーター出口における糸条温度を1O0〜175℃とすることが好ましい。
【0054】さらに断面変形度が1.3〜1.7のときハリ感を生み出しながら表面反射が少ないためにより好ましい。
【0055】先にも述べたようにPPT繊維はヤング率が低く、加撚域上流へ撚が伝播しにくい。これを改善するためにポリプロピレンテレフタレート未延伸糸に油剤等を付着させてヒーター、冷却板、ガイド等との接触抵抗を低減させることは好ましい。そのため未延伸糸に種々の油剤成分を付着させて延伸仮撚を行ったところ、水不溶性の脂肪酸エステル類および/または芳香族エステル類からなる平滑剤成分が有効であることを見出した。特に未延伸糸重量に対して0.05〜1.0重量%付着しているとき、ヒーター、冷却板やガイドとの摩擦抵抗が低減されて加撚部上流に効果的に撚を伝播させることが可能であり、毛羽の発生が少なく、錘間および錘内の染め差が少ないことがわかった。したがって、延伸仮撚加工後の仮撚糸に平滑剤成分として水不溶性の脂肪酸エステル類および/または芳香族エステル類が付着していることが好ましい。油剤は仮撚加工後にも高次通過性向上のために付与される場合があり、これに含まれる場合も含める。
【0056】ここで水不溶性の脂肪酸エステルおよび/または芳香族エステルとしては、従来公知の平滑剤で好適な例として、メチルオレート、i−プロピルミリステート、オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート等の一価アルコールと一塩基性樹脂族カルボン酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の一価アルコールと多価塩基性樹脂族カルボン酸のエステル、ジオクチルフタレート、トリオレイルトリメリテート等の一価アルコールと芳香族カルボン酸のエステル、エチレングリコールジオレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート等の多価アルコールと一塩基性樹脂族カルボン酸のエステル、またはこれらのエステルの誘導体としてラウリル(EO)nオクタノエート等のアルキレンオキサイド付加エステル(ただし、アルキレンオキサイド付加モル数として化合物自体が水に可溶または自己分散するほど大きいと平滑性が損なわれるので、5モル以下の付加が好ましい)などの単独、あるいは混合使用を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、流動パラフィン、スピンドル油等の鉱物油についても単独使用の場合には耐熱性が損なわれるので、平滑剤成分中の40重量%以下の混合使用については好適な例として挙げることができる。さらにポリエーテルもタール化を防止するため混合使用する好適な例として挙げることができる。また、平滑剤成分の配合量は限定されないが、油剤成分に対して50〜70重量%とすることが好ましい。
【0057】また、未延伸糸に付着させる油剤成分としては平滑剤の他に乳化剤やその他の添加剤が配合されていることが好ましい。
【0058】乳化剤成分としては従来公知のものが使用できるが、好適な例として、活性水素を1以上有する化合物のアルキレンオキサイド付加物、すなわちラウリルアルコール、i−ステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等の一価ヒドロキシ化合物のアルキレンオキサイド付加物、グリセリンのモノオレイン酸エステル、ソルビタンのモノラウリン酸エステル、トリメチロールプロパンのジステアリン酸エステル等の多価アルコール部分エステルおよびこれらのアルキレンオキサイド付加物、ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミン類のアルキレンオキサイド付加物、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪族酸のアルキレンオキサイド付加物、およびこれらの脂肪酸から誘導されるアミドのアルキレンオキサイド付加物などの非イオン界面活性剤が挙げられるがここで付加するアルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が単独あるいは混合使用される。このほかにポリエチレングリコールポリプロピレングリコールのブロック共重合体や、さらに上記高級脂肪酸およびそのトリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の塩、およびロート油等のアニオン界面活性剤も乳化剤成分として使用できる。乳化剤成分の配合量は限定されないが、油剤成分に対して20〜50重量%とすることが好ましい。
【0059】また、紡糸、延伸仮撚用として必要な特性に応じて添加剤、すなわちアルキルスルホネートのアルカリ金属塩、アルキルホスフェートのアルカリ金属塩、ポリアルキレングリコールアルキルホスフェートのアルカリ金属塩、脂肪酸石鹸、アルキルイミダゾリン類等の帯電防止剤のほか、従来公知の集束剤、防錆剤、防腐剤、抗酸化剤、などを同時に使用できる。これら添加剤の配合量は限定されないが平滑性や耐熱性が損なわれることがあるので5〜15重量%とすることが好ましい。
【0060】また、仮撚加工糸に水不溶性の脂肪酸エステルおよび/または芳香族エステルが付着しているかを特定する方法としては、油剤成分をメタノール抽出法にて抽出し、抽出成分のIRスペクトルのピーク位置から特定可能することができる。
【0061】PPT仮撚糸の繊度、単糸繊度、断面形状等に制限はないが、通常マルチフィラメントとして33〜560dtex、単糸繊度として0.11〜11dtexが好ましく用いられ、断面形状として丸断面、扁平、三角形等の多角形、3葉以上の多葉形、中空などでも問題なく、使用目的により適宜選択すればよい。さらにマルチフィラメントが単糸繊度や断面形状の異なる単糸によって構成されることも好ましく行われる。
【0062】PPT延伸糸をスピンドル仮撚により製造した公知の仮撚糸は、ストレッチ性、嵩高性には富んでいるが、錘間または錘内の染め差が多発することが問題であった。これはPPT延伸糸のヤング率が低いために撚が伝播しにくく、さらに加撚張力が0.17cN/dtex未満と低いためにヒーター内での撚分布が錘間、錘内で変化することが主因である。それに対し、本発明の方法により得られるPPT仮撚糸は、錘間または錘内の染め差や毛羽が少なく、高品質の仮撚糸となる。
【0063】
【実施例】以下実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.極限粘度オルソクロロフェノール(以下OCPと略記する)中に試料ポリマを溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度を求め、それを無限希釈に外挿して求めた。
B.強伸度未延伸糸をオリエンテック(株)社製 TENSILON UCT−100でJIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に示される定速伸長条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
C.複屈折未延伸糸をOLYMPUS社製BH−2偏光顕微鏡を用いレターデーションΓと光路長dを測定し、複屈折Δn=Γ/dを求めた。なお、dは繊維中心でのΓと繊維径より求めた。
D.沸水収縮率JIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定した。未延伸糸パッケージから検尺機でカセを採取し、90×10-3cN/dtexの実長測定荷重を架けてカセ長L1 を測定し、引き続いて実長測定荷重をはずし、沸騰水中に15分間投入した後取り出し、風乾し、再び実長測定荷重を架けてカセ長L2 を測定し、次式により沸騰水収縮率を算出した。
【0064】沸騰水収縮率(%)=[(L1 −L2 )/L1 ]×100E.ウースター斑糸長手方向の太さ斑(ノーマルテスト)は、ツェルベガーウースター(株)社製USTER TESTER MONITOR Cで測定した。条件は、糸速度50m/分で1分間供給し、ノーマルモードで平均偏差率(U%)を測定した。
F.サドル及びバルジ率図6に示す未延伸糸パッケージの中央部の巻厚L1と、端面部の巻厚L2を測定し、L2からL1を引いた値をサドルの大きさとした。また、図2に示す未延伸糸パッケージの最内層の巻き巾L3及び、最大巻き巾を示すL4を測定し、次式によってバルジ率を算出した。
【0065】
バルジ率(%)=[(L4−L3)/L3]×100G.ヒーター出口の糸条温度測定TOKYO SEIKO CO.LTD.製 形式 電源部:TS−3A、検出端:EC−2を用いてヒーター出口直後において糸条温度を測定した。
H.糸条張力インテック社製 デジタルテンションメーターIT−200を用いて測定した。
I.ヒーター内の仮撚数仮撚加工中にヒーター部の入口部および出口部の糸条を同時に把持して、ヒーター中の糸条を採取し、電動検撚器を用いて90×10-3cN/dtexの荷重下で仮撚数T(T/m)を測定した。
J.断面変形度糸条を糸長手方向に対して垂直に切断して切片をサンプリングし、光学顕微鏡により撮影した断面写真を撮影する。断面写真から単繊維の外接円の直径と内接円の直径との比を、仮撚加工する供給糸の外接円の直径と内接円の直径との比で除した値をすべての繊維について求め、平均値を計算する。
K.伸縮復元率:RS(Recovery percentage of Shrinkage:%)
仮撚加工糸をパッケージのまま1週間放置したサンプルについて、JIS規格L1090−1992 5.8伸縮復元率に従い小カセを作り、24時間放縮後、粗布で包んだまま98℃の熱水中で30分間浸せきした後試料を取り出し、濾紙上で24時間自然乾燥させた試料を5.8伸縮復元率に従い測定する。
L.編み検定仮撚加工糸のチーズ最表面を取り除き、適当なゲージ数の筒編み機を用い、密度を調整した後、比較する水準が隣り合うように順番に丸編みを行う。編物重量に対して、スミカロン Navy Blue S−2GL 200(住友化学社製)を0.3%(owf)、テトロシン PEC(山川薬品社製)を5.0%(owf)、ニッカサンソルト #1200(日華化学社製)を1.0%(owf)を編物重量に対して50倍の水に均一に分散させ、50℃に調整した後に編物を投入し、適宜攪拌しながら1〜2℃/minの速度で98℃まで昇温していき、引き続き20分間加熱を行い、その後、ゆっくり冷却を行い、サンプルを染める。編み検定の検定としては、筒編み地を測色計を用いてL値を測定し、全サンプルの平均値の±0.4以内であるとき、合格とし、その範囲外のサンプルを不合格とした。
【0066】[実施例1]極限粘度[η]が0.89のPPTを用い、図3に示す紡糸機により紡糸温度260℃で、形状が丸形で36孔の口金を用いて、吐出し、3000m/minの紡糸速度で高配向未延伸糸を2時間巻き取った。巻き取り時に給油ガイドを用いて平滑剤、乳化剤、添加剤が分散した油剤を未延伸糸に給油し、未延伸糸重量に対してオレイルラウレートを0.2重量%付着させた。表1に未延伸糸の物性を示す。ただし、物性測定は巻き取り後直ちに行った。巻き取り後、直ちに該高配向未延伸糸を図2の仮撚機を用いて表2の条件にて延伸仮撚加工を行った。ただし、ヒーター3として2.5mの乾熱ヒーターを、摩擦仮撚装置5として上流側よりセラミックディスク1枚、ウレタンディスク6枚、セラミックディスク1枚により構成された3軸ツイスターを用いた。また、2ndFR6に比べて3rdFR7の速度を18%遅くしており、交絡ノズル8は用いていない。仮撚加工は安定に行うことができ、嵩高い仮撚糸を得ることができた。仮撚糸物性を表3に示す。仮撚加工糸を27Gの筒編み機を用いて丸編みし、編み検定したところ未延伸糸パッケージの内外層に染め差は認められなかった。
【0067】[比較例1]極限粘度[η]が0.89のPPTを用い、図3に示す紡糸機により紡糸温度260℃で、形状が丸形で36孔の口金を用いて、吐出し、1500m/minの紡糸速度で未延伸糸を巻き取った。
【0068】5時間巻き取った後、25℃相対湿度80%の部屋に1週間静置した。ポリプロピレンテレフタレート未延伸糸のパッケージは巻き締まりし、端面に比べて中央部が大きく、凹んだ形状となった。1週間静置後の未延伸糸の物性を表1に示す。実施例1と同じ装置を用い、表2の条件で延伸仮撚加工を行った。仮撚加工はやや不安定で、糸切れも多かった。仮撚糸物性を表3に示す。仮撚加工糸を27Gの筒編み機を用いて丸編みし、編み検定したところ未延伸糸パッケージの内外層に顕著な染め差および端面周期ムラが認められ、品質上問題があった。
【0069】[比較例2]極限粘度[η]が0.89のPPTを用い、紡糸温度260℃、形状が丸形で36孔の口金を用いて、1200m/minの紡糸速度で未延伸糸を巻き取り、次いで1stホットロール温度60℃、延伸倍率3倍、2ndホットロール温度140℃、延伸速度600m/minで延伸した後、スピンドル巻き取り装置を用いて巻き取り、56dtex−36fの延伸糸を得た。該延伸糸を用い、1mの乾熱ヒーター、スピンドル仮撚装置を用いて、表2の条件で仮撚加工を行った。スピンドル回転数は4100rpmに設定した。連続して100kgの仮撚加工を実施し、1kg巻×100個の仮撚加工糸を製造しようとしたところ、加工速度が100m/minと低いにも関わらず、糸切れ率は5%にも達し、しかも仮撚加工糸の編み検定合格率は92%にとどまった。
【0070】[実施例2〜4]極限粘度[η]が0.89のPPTを用い、図4に示す紡糸機により紡糸温度260℃で形状が丸形で36孔の口金を用いて、吐出し、3000m/minの紡糸速度で引き取りつつ110℃に加熱された2ゴデーロールで乾熱処理を行い未延伸糸を巻き取った。巻き取り時に給油ガイドを用いて平滑剤、乳化剤、添加剤が分散した油剤を未延伸糸に給油し、未延伸糸重量に対してオレイルラウレートを0.2重量%付着させた。比較例1と同じ条件で1週間静置したが、該未延伸糸のパッケージには巻き締まりは生じなかった。1週間静置後の未延伸糸の物性を表1に示す。該未延伸糸を用いて、表2に示すようにヒーター温度以外は実施例1と同じの装置および加工条件にて延伸仮撚加工を行った。仮撚加工は安定して行うことができ、嵩高い仮撚糸を得ることができた。仮撚加工糸を27Gの筒編み機を用いて丸編みし、編み検定したところ未延伸糸パッケージの内外層に染め差は認められなかった。また、仮撚加工温度が高くなるについて捲縮が強くなり、嵩高になると共に断面変形度が大きくなるため、単糸の曲げ固さが大きくなり、適度なハリ感を有するようになった。
【0071】[比較例3、4]実施例2〜4と同じ未延伸糸を用い、表2に示す加工条件にて延伸仮撚加工を行った。仮撚装置は実施例1と同じであり、延伸倍率以外は実施例3と同じ条件で延伸仮撚加工を行った。しかし、比較例3では加撚域でバルーニングが生じ、解撚張力が変動しており、加工が不安定であった。一方、比較例4では、糸掛け中に糸切れし、仮撚糸を得ることはできなかった。比較例3の仮撚糸物性を表3に示す。仮撚加工糸を27Gの筒編み機を用いて丸編みし、編み検定したところ糸条長手方向に染めムラが認められ、品質上問題があった。
【0072】[実施例5]実施例2〜4と同じ未延伸糸を用い、表2に示す条件で延伸仮撚加工を行った。仮撚装置としては、東レエンジニアリング社製TFT−15を用いた(ヒーターとして1mの非接触式高温ヒーターを使用)。また、2ndFR6に比べて3rdFR7の速度を15%遅くしており、交絡は付与していない。500kgの未延伸糸を連続して延伸仮撚加工を行い、5kg巻×100個の仮撚加工糸を製造しようとしたことろ、糸切れ率1%、編み検定合格率98%である高品質な仮撚加工糸を製造することができた。
【0073】[実施例6〜7]極限粘度[η]が0.89のPPTを用い、図5に示す紡糸機により紡糸温度260℃で形状が丸形で36孔の紡糸口金26を用いて吐出し、チムニー27にて糸条をTg以下に冷却後、口金下1.6mに設置した非接触ヒーター28(加熱長:1.5m、熱媒:180℃加熱空気)で熱処理を行い紡糸速度3500m/minで未延伸糸を巻き取った。巻き取り時に給油装置29を用いて平滑剤、乳化剤、添加剤が分散した油剤を未延伸糸に給油し、未延伸糸重量に対してオレイルラウレートを0.2重量%付着させた。比較例1と同じ条件で1週間静置したが、該未延伸糸のパッケージには巻き締まりは生じなかった。1週間静置後の未延伸糸の物性を表1に示す。該未延伸糸を用いて、表2に示す加工条件によって実施例1と同じの装置を用いて延伸仮撚加工を行った。仮撚加工は安定して行うことができ、嵩高い仮撚糸を得ることができた。仮撚加工糸を27Gの筒編み機を用いて丸編みし、編み検定したところ未延伸糸パッケージの内外層や端面周期に対応する染め差は認められなかった。
【0074】
【表1】


【0075】
【表2】


【0076】
【表3】


【0077】
【発明の効果】本発明によれば、染めムラ、毛羽が少なく、品質的に優れたポリプロピレンテレフタレート仮撚糸を低コストで製造することが可能となり、上記仮撚糸はストレッチ性、嵩高性に優れているだけではなく、適度なハリ感を有する布帛となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】雰囲気温度を室温(25℃)〜170℃まで変えながらポリプロピレンテレフタレート延伸糸を伸長したときの応力−伸度曲線を示す。
【図2】本発明に係る仮撚装置の一例を説明するため概略図である。
【図3】高配向未延伸糸を得るための紡糸装置の1例を示す工程図である。
【図4】第2ゴデーロールにホットロールが組み込まれた紡糸装置の1例を示す工程図である。
【図5】紡糸線上に非接触ヒーターが組み込まれた紡糸装置の1例を示す工程図である。
【図6】本発明に好ましく用いられる未延伸糸パッケージのサドルおよびバルジ率を説明するためのモデル図である。
【符号の説明】
1:未延伸糸パッケージ
2:1stFR
3:ヒーター
4:冷却板
5:摩擦仮撚装置
6:2ndFR
7:3rdFR
8:交絡ノズル
9:4thFR
10:ワインダー
11、18:紡糸ブロック
12、19:給油装置
13、20:未延伸糸
14、21:交絡ノズル
15、22:第1ゴデーロール
16、23:第2ゴデーロール
17、24:巻取機
25:セパレートロール
26:紡糸口金
27:チムニー
28、32:非接触ヒーター
29:給油装置
30:交絡ノズル
31:第1ゴデーロール
33:第2ゴデーロール
34:巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】摩擦仮撚装置を用いて延伸と同時に仮撚を行うに際し、ポリプロピレンテレフタレート未延伸糸を1.05〜1.70倍の延伸倍率にすると同時に、未延伸糸の伸度EL(%)と延伸同時仮撚の延伸倍率DR(倍)が以下の式(1)を満たすように設定することを特徴とするポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
式(1)
0.585×(1+EL/100)≦DR≦0.75×(1+EL/100)
【請求項2】仮撚ヒーター出口における糸条温度が30〜175℃であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項3】仮撚加撚張力T1 が0.17〜0.55cN/dtexであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項4】仮撚加撚張力T1 とヒーター前張力TH の比T1 /TH が1.02〜1.30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項5】ヒーター内の仮撚数Tが27400/D1/2〜30600/D1/2であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項6】ヒーターとして非接触式ヒーターを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項7】下記(1)〜(4)式を満足するポリプロピレンテレフタレート未延伸糸を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
(1)強度ST(cN/dtex):1.8≦ST(2)複屈折Δn(×10-3):30≦Δn≦70(3)伸度EL(%):60≦EL≦180(4)沸水収縮率SW(%):3≦SW≦15
【請求項8】糸の太さ斑U%(ノーマルモード)が1%以下である未延伸糸を用いることを特徴とする請求項7に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項9】サドルが4mm未満でかつバルジ率が10%未満である未延伸糸パッケージを用いることを特徴とする請求項7または8に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項10】延伸仮撚後、巻き取るまでの間に弛緩率5〜25%の弛緩ゾーンを設けることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項11】延伸仮撚加工速度が300m/min以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸の製造方法。
【請求項12】請求項1〜11のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とするポリプロピレンテレフタレート仮撚糸。
【請求項13】断面変形度が1.3〜1.8であることを特徴とする請求項12に記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸。
【請求項14】平滑剤成分として水不溶性の脂肪酸エステル類および/または芳香族エステル類が付着していることを特徴とする請求項11または12のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート仮撚糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2001−164433(P2001−164433A)
【公開日】平成13年6月19日(2001.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−293658(P2000−293658)
【出願日】平成12年9月27日(2000.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】