説明

ポリプロピレン系樹脂フィルム及びこれを用いた偏光板並びに液晶パネル及び液晶表示装置

【課題】他の樹脂フィルムとの接着性に優れたプロピレン系樹脂フィルム及び偏光板並びに液晶パネル及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】プロピレン系樹脂フィルム25は、フィルム表面のうち少なくとも一方の面について減衰全反射法によるラマン分光法測定によって得られる表面配向パラメータが0.66〜1.50の範囲内である。また、表面配向パラメータが0.95〜1.05の範囲内であることがより好ましい。さらに、このプロピレン系樹脂フィルム25は、ヨウ素又は二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムを、接着剤層を介してこの一方の面に積層し、偏光板として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂フィルム及びこれを用いた偏光板並びに液晶パネル及び液晶表示装置に関し、特に、接着剤を介して他のフィルムと接着されるポリプロピレン系樹脂フィルム及びこれを用いた偏光板並びに液晶パネル及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力が少ない、低電圧で動作する、軽量で薄型であるなどの特徴があるため、これらの特徴を生かして、各種の表示用デバイスに用いられている。特に、液晶テレビの市場拡大は著しく、また、低コスト化の要求も著しい。
【0003】
通常、偏光板は、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面又は片面に、透明な保護フィルムが積層された構造になっている。保護フィルムには、トリアセチルロースに代表されるセルロースアセテート系樹脂フィルムが多く使用されている。また、保護フィルムの積層には、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を用いることが多い。
【0004】
トリアセチルセルロースからなる保護フィルムを偏光フィルムの両面又は片面に接着剤を介して積層した偏光板は、湿熱条件下で長時間使用した場合に、偏光性能が低下したり、保護フィルムと偏光子が剥離しやすかったりする問題があった。
【0005】
そこで、少なくとも一方の保護フィルムを、セルロースアセテート系以外の樹脂で構成する試みがある。例えば、偏光子(偏光フィルム)の両面に保護フィルムが積層された偏光板において、保護フィルムの少なくとも一方をプロピレン系樹脂で構成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。プロピレン系樹脂からなる保護フィルムは、寸法変化や透湿度が小さく、有機溶剤に対して耐性が高いため、耐湿熱性や寸法安定性に優れている。このため、プロピレン系樹脂からなる保護フィルムを用いることで、偏光フィルムと保護フィルムとの間の接着性が低下しにくいという利点がある。
【0006】
ところで、樹脂フィルムの特性を示す指標の1つとして、表面配向度(「表面配向パラメータ」ともいう)がある。例えば、感熱転写方式の印刷装置などで用いられている受像紙などにおいて、表面配向パラメータが1〜3である二軸延伸ポリエステルフィルムを用いる技術が知られている(特許文献2参照)。この技術によれば、表面配向パラメータを上記の範囲とすることで、受像層を形成する際に染料受容層のスジやピンホールなどの欠点が生じにくく、歩留まりの低下を回避することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−334295号公報
【特許文献2】特開2005−350615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、保護フィルムとしてポリプロピレン系樹脂を用いることで、保護フィルムと偏光フィルムとの接着性が良好になることは知られていた。しかしながら、ポリプロピレン系樹脂からなる保護フィルムと偏光フィルムとの間の接着性をより向上させる研究はこれまで行われてこなかった。特に、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面配向パラメータと接着性との関係については、これまで全く知られていなかった。
【0009】
本発明の目的は、接着性の良好なポリプロピレン系樹脂フィルムを提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと偏光フィルムとの接着性が良好で剥離しにくい偏光板並びに液晶パネル及び液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面配向パラメータを一定の範囲内とすることで、ポリプロピレン系樹脂フィルムの接着性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、上記課題は、本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムによれば、フィルム表面のうち少なくとも一方の面について減衰全反射法によるラマン分光法測定によって得られる表面配向パラメータが0.66〜1.50の範囲内であることにより解決される。
【0013】
この場合、前記表面配向パラメータが0.95〜1.05の範囲内であることが好ましい。
【0014】
また、上記課題は、本発明の偏光板によれば、ヨウ素又は二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムと、接着剤層を介して前記偏光フィルムに積層される上記のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムと、を備える偏光板であって、前記ポリプロピレン系樹脂フィルムは、前記一方の面が前記接着剤層に接するように積層されることにより解決される。
【0015】
この場合、前記偏光フィルムにおける前記ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層される面とは反対側の面に積層される保護フィルム又は光学補償フィルムを更に備えることが好ましい。
【0016】
上記課題は、本発明の液晶パネルによれば、液晶セルと、前記液晶セル上に積層される上記のいずれかに記載の偏光板とを備えることにより解決される。
【0017】
さらに、上記課題は、本発明の液晶表示装置によれば、面光源素子と、上記に記載の液晶パネルとを備えることにより解決される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムによれば、表面配向パラメータが0.66〜1.50の範囲内であるため、接着剤を介して他の樹脂フィルムに積層した場合に、樹脂フィルムとの接着性が良好となる。また、本発明の偏光板によれば、このような接着性の良好なポリプロピレン系樹脂フィルムを備えることで、偏光フィルムから剥離しにくい偏光板を提供することが可能となる。さらに、本発明の液晶パネルや液晶表示装置によれば、このような剥離しにくい偏光板を備えることで、耐久性の高い液晶パネルや液晶表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ラマン分光測定法を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における偏光板の断面模式図である。
【図3】偏光板を用いた液晶パネル及び液晶表示装置の断面模式図である。
【図4】偏光板の製造装置を示した断面模式図である。
【図5】偏光板の製造装置を示した断面模式図である。
【図6】偏光板の製造装置を示した断面模式図である。
【図7】実施例1のサンプルのスペクトル図である。
【図8】比較例1のサンプルのスペクトル図である。
【図9】ピール試験用のサンプルの断面模式図である。
【図10】ピール試験の実施態様を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下に説明する部材や配置等によって限定されず、これらの部材等は本発明の趣旨に沿って適宜改変することができる。以下、偏光板やこれを備えた液晶パネル及び液晶表示装置について説明を行う。
【0021】
<偏光板>
図2(a)は、本発明の一実施形態における偏光板を示す図面であり、偏光板の断面模式図を示している。この図に示すように、偏光板20は、偏光フィルム21と、この偏光フィルム21の一方の面に積層されたポリプロピレン系樹脂フィルム25と、を少なくとも備えている。偏光フィルム21とポリプロピレン系樹脂フィルム25は、接着剤層29を介して貼合され、積層されている。
【0022】
本実施形態では更に、偏光フィルム21の面のうちポリプロピレン系樹脂フィルム25が積層される側とは反対側の面に透明樹脂フィルム23が積層された層構成を有している。なお、本発明において透明樹脂フィルム23は必須の構成要素ではない。
【0023】
<液晶パネル及び液晶表示装置>
図3は、本発明の液晶パネル2及びこれを適用した液晶表示装置1の基本的な層構成の一例を示す概略断面図である。この図に示すように、偏光板20は、液晶セル40に貼合され、液晶パネル2の構成部品として用いられる。液晶パネル2は、液晶表示装置1の構成部材となる。液晶パネル2は、液晶セル40と、液晶セル40の背面側に貼合された偏光板20と、液晶セル40の視認側に貼合された偏光板30とにより構成されている。液晶表示装置1は、液晶パネル2と、バックライト10と、光拡散板50とにより構成される。液晶表示装置1において、液晶パネル2は、偏光板20がバックライト10側となるように、すなわち、ポリプロピレン系樹脂フィルム25が光拡散板50と対向するように配置される。偏光板20と偏光板30は、それぞれ粘着剤層27を介して液晶セル40に貼合されている。ここで、背面側とは、液晶パネル2を液晶表示装置1に搭載した際のバックライト10側を意味する。また、視認側とは、液晶パネル2を液晶表示装置1に搭載した際のバックライト10とは反対側を意味する。
【0024】
光拡散板50は、バックライト10からの光を拡散させる機能を有する部材である。光拡散板50としては、例えば、熱可塑性樹脂に光拡散剤である粒子を分散させて光拡散性を付与したもの、熱可塑性樹脂フィルムの表面に凹凸を形成して光拡散性を付与したもの、熱可塑性樹脂フィルムの表面に粒子が分散された樹脂組成物の塗布層を設け、光拡散性を付与したものなどであり得る。光拡散板50の厚みは、0.1〜5mm程度とすることができる。
【0025】
光拡散板50と液晶パネル2との間には、輝度向上シート(反射型偏光フィルムである(「DBEF」など))、光拡散シートなど、他の光学機能性を示すシート又はフィルムを配置することもできる。他の光学機能性を示すシート又はフィルムは、必要に応じて2枚以上、複数種類配置することも可能である。以下に、背面側の偏光板20を構成する各フィルムについて説明する。
【0026】
(1)偏光フィルム
偏光フィルム21は、自然光を直線偏光に変換する機能を有する部材である。偏光フィルム21としては、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものを用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができ、ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0027】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000程度であり、好ましくは1,500〜5,000程度である。
【0028】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルム21の原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの厚みは特に限定されないが、例えば10〜150μm程度である。
【0029】
偏光フィルム21は、通常、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程、を経て製造される。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前、染色と同時、又は染色の後に行うことができる。一軸延伸を染色の後で行う場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。もちろん、ここに示した複数の段階で一軸延伸を行うこともできる。一軸延伸には、周速の異なるロール間で一軸に延伸する方法や、熱ロールを用いて一軸に延伸する方法などが採用できる。また、一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、水等の溶剤を用い、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0031】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸方向は、長尺状の偏光フィルム21の長手方向に平行な方向としている。このため、偏光フィルム21の吸収軸は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸方向、すなわち長尺状の偏光フィルム21の長手方向に平行な方向となる。
【0032】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、二色性色素を含有する水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法により行うことができる。二色性色素として、具体的にはヨウ素や二色性染料が用いられる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水に浸漬して膨潤させる処理を施しておくことが好ましい。
【0033】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常0.01〜1重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常0.5〜20重量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1,800秒程度である。
【0034】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、水100重量部あたり、通常1×10−4〜10重量部程度であり、好ましくは1×10−3〜1重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。染色に用いる二色性染料水溶液の温度は、通常20〜80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1,800秒程度である。
【0035】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行うことができる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、このホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常0.1〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部程度である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常60〜1,200秒程度であり、好ましくは150〜600秒程度、更に好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、より好ましくは60〜80℃である。
【0036】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常1〜120秒程度である。
【0037】
水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルム21が得られる。乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30〜100℃程度であり、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒程度であり、好ましくは120〜600秒である。
【0038】
こうしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色とホウ酸処理が施され、偏光フィルム21が得られる。偏光フィルム21の厚みは、例えば2〜40μm程度とすることができる。
【0039】
(2)ポリプロピレン系樹脂フィルム
ポリプロピレン系樹脂フィルム25は、主としてポリプロピレン系樹脂から構成され、偏光フィルム21を保護する機能を有している。
【0040】
本発明のポリプロピレン系樹脂フィルム25は、フィルム表面のうち接着剤層29を介して偏光フィルム21が積層される面(貼合面)について、減衰全反射法(Attenuated Total Reflection法:以下、「ATR法」という)によるラマン分光法測定によって得られる表面配向パラメータが0.66〜1.50の範囲内にある点を特徴としている。このような貼合面を有するポリプロピレン系樹脂フィルム25は、その貼合面が接着剤層29に対向するように、接着剤層29を介して偏光フィルム21上に積層したときの接着性に優れている。したがって、ポリプロピレン系樹脂フィルム25を偏光板20の保護フィルムとして用いることにより、偏光フィルム21との接着強度に優れ、耐久性の高い偏光板を得ることができる。ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面の表面配向パラメータは、より好ましくは0.95〜1.05の範囲内であり、理想としては1.00である。表面配向パラメータが1.00に近いほど、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面の分子配向がランダム(無配向)になり、偏光フィルム21との接着性が良好となる。以下、ATR法によるラマン分光法測定法を「ATR−ラマン分光法」という。
【0041】
表面配向パラメータは、ラマン分光光度計を用いて測定することができる。表面配向パラメータの測定は、まず、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面のラマンスペクトルをATR法により測定する。ここでいうATR法とは、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の貼合面を測定面とし、これを高屈折率ガラスなど屈折率の大きいプリズムに直接密着させて分光測定する方法である。具体的には、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の貼合面とプリズムとの間で測定光が全反射するように、測定光の入射角を臨界角よりも大きく設定する。そして、貼合面に測定光を照射し、貼合面の表面から反射する全反射光を測定する。このとき、全反射光は、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面からわずかに内部に染み込んで反射された光となる。このため、ATR−ラマン分光法によれば、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面から約100nm程度の深さまでの層についての吸収スペクトルを得ることができる。
【0042】
ここで、表面配向パラメータとは、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面近傍の深度の浅い領域における配向パラメータを意味している。配向パラメータの測定は、上述したATR−ラマン分光法による吸収スペクトルの測定において、測定光として入射光及び反射光を含む平面に平行な「平行偏光」と、入射光及び反射光を含む平面に対して垂直な「垂直偏光」を照射する方法により行われる。図1は、この平行偏光と垂直偏光を模式的に示した図であり、平行偏光をP、垂直偏光をSで示している。ポリプロピレン系樹脂フィルム25の配向パラメータは、平行偏光と垂直偏光のそれぞれにおいて、ポリプロピレンの結晶に特有なバンドである1153cm−1と1169cm−1のピーク強度から、以下の式により算出することができる。なお、1153cm−1はポリプロピレンの基本振動であり、分子鎖に対して垂直な振動を、1169cm−1はポリプロピレンの結晶に由来する振動であり、分子鎖に対して平行な振動を示している。
【数1】

(ここで、I1153は1153cm−1における強度、I1169は1169cm−1における強度を意味する。また、「平行」は平行偏光による測定値、「垂直」は垂直偏光による測定値を意味する。)
【0043】
ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面が無配向の場合、表面配向パラメータは1.00になる。また、ポリプロピレン系樹脂フィルム25が長手方向(機械方向:MD)に配向すると、表面配向パラメータは1.00よりも大きな値を示す。反対に、ポリプロピレン系樹脂フィルム25が短手方向(垂直方向:TD)に配向すると、表面配向パラメータは1.00よりも小さな値を示す。
【0044】
なお、表面配向パラメータが上記範囲、特に1.00に近くなり表面の分子配向が無配向に近くなるほど接着力が優れている理由については明らかではないが、ポリプロピレン系樹脂フィルム25と接着剤層との界面におけるフィルム表面の機械的強度が接着性に影響している可能性がある。すなわち、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面が一定の方向に延伸されて分子が配向されていれば、その方向への引張強度が高くなる一方、それとは異なる方向への引張強度が低くなる。このため、ポリプロピレン系樹脂フィルム25が引っ張られる方向によっては、フィルムの表面で凝集破壊が生じてフィルム表面が剥離しやすくなると考えられる。一方、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面が延伸されておらず分子が無配向であれば、どの方向への引張強度も高く、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面で凝集破壊が生じにくく、接着性が良好となると考えられる。
【0045】
なお、ATR−ラマン分光法による結果から得られる評価パラメータと、それから評価可能な項目としては、以下の複数項目が挙げられる。
(1)評価項目:配向性・・・評価パラメータ:ピーク強度
(2)評価項目:秩序性・・・評価パラメータ:ピークの半値幅
(3)評価項目:コンフォメーション・・・評価パラメータ:波数位置
(4)評価項目:結晶化度・・・評価パラメータ:ピーク強度比
これらのうち、(1)の配向は上述したように接着性に関連している項目であるが、(2)の秩序性と(3)のコンフォメーションについても測定可能である。一方、(4)の結晶化度については装置上の制約で808〜840cm−1の範囲の測定を行うことができないため、評価ができない。本発明は、上記(1)〜(4)のうち、(1)の配向性に着目し、表面配向パラメータが所定の範囲内であれば接着性が良好になる点に特徴を有している。
【0046】
本発明では、偏光フィルム21に積層される保護フィルムがポリプロピレン系樹脂フィルムであることから、以下のような優位点がある。ポリプロピレン系樹脂は、光弾性係数が2×10−13cm/dyne前後と小さく、また、透湿度が低いため、ポリプロピレン系樹脂フィルム25を備えた偏光板20を液晶セル40に適用することにより、湿熱条件での耐久性に優れた液晶表示装置1とすることができる。さらに、ポリプロピレン系樹脂フィルム20の偏光フィルム21に対する接着性は、トリアセチルセルロースフィルムほどではないにしても良好であり、公知の各種接着剤を用いた場合に、ポリプロピレン系樹脂フィルム25を十分な強度で偏光フィルム21に接着することができる。
【0047】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを少量共重合させたものであってもよい。共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。また、共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させ得る。一方、コモノマーユニットの含有量が20重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0048】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、例えば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであってもよい。α−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。
【0049】
1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C);
1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C);
1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C);
1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C);
1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C);
1−ノネン(C);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);
1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);
1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);
1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
【0050】
上記α−オレフィンの中でも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン及び1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテン及び1−ヘキセンがより好ましい。
【0051】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含有量や1−ブテンユニットの含有量は、例えば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行い、求めることができる。
【0052】
偏光フィルム21に貼り合わされるポリプロピレン系樹脂フィルム25としての透明度や加工性を上げる観点からは、共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンとエチレン又は上記α−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体であることがより好ましい。プロピレン/エチレンランダム共重合体におけるエチレンユニットの含有量は、上述のとおり、1〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることが更に好ましい。
【0053】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックあるいはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0054】
ポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレイト(MFR)が0.1〜200g/10分の範囲内であることが好ましく、0.5〜50g/10分の範囲内であることがより好ましい。MFRがこの範囲内にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、均一なポリプロピレン系樹脂フィルム25を得ることができる。
【0055】
ポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって、製造することができる。公知の重合用触媒としては、例えば、次のようなものを挙げることができる。(1)マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
【0056】
これら触媒系の中でも、ポリプロピレン系樹脂の製造においては、上記(2)の触媒系が最も一般的に使用できる。上記(2)の触媒系における有機アルミニウム化合物の好ましい例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが挙げられ、電子供与性化合物の好ましい例としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0057】
上記(1)及び(2)の固体触媒成分としては、例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられる。また、上記(3)のメタロセン系触媒としては、例えば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0058】
ポリプロピレン系樹脂は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0059】
ポリプロピレン系樹脂には、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中に例えば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ステアリン酸等の高級脂肪酸及びその塩などが挙げられる。造核剤としては、例えば、ソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカン等の高分子系造核剤などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状あるいはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。上記の添加物は、複数種が併用されてもよい。
【0060】
ポリプロピレン系樹脂は、任意の方法で製膜し、ポリプロピレン系樹脂フィルム25にすることができる。このポリプロピレン系樹脂フィルム25は、透明で実質的に面内位相差のないものが好ましい。例えば、溶融樹脂からの押出成形法や、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などによって、面内位相差が実質的にないポリプロピレン系樹脂フィルム25を得ることができる。
【0061】
ポリプロピレン系樹脂フィルム25の厚みは、通常、20〜200μmであり、好ましくは20〜120μmである。ポリプロピレン系樹脂フィルム25の厚みが20μm未満であると、ハンドリング性に劣る傾向にあり、厚みが200μmを超える場合にも、フィルムの剛性が高くなることによってハンドリング性が低下することがある。
【0062】
ポリプロピレン系樹脂フィルム25は、透明性に優れていることが必要である。具体的には、JIS K 7361に従って測定されるヘイズ値が10%以下、好ましくは7%以下である。へイズ値が10%を超えると、得られる偏光板20を液晶表示装置1に適用したときに、白輝度が低下し、画面が暗くなる傾向にある。なお、JIS K 7361に従って測定されるヘイズ値は、下記式:
(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)
で定義される。
【0063】
ポリプロピレン系樹脂フィルム25のうち偏光フィルム21と反対側の面は、賦形によりプリズム又はレンズ形状を形成し、集光フィルムとしてもよい。図2(b)は、集光フィルム65を備えた偏光板60を示している。集光フィルム65は、バックライト10から出射する光を液晶セル40に集光する輝度向上機能を有するとともに、偏光フィルム21を保護する保護機能も兼ねた部材である。集光フィルム65は、バックライト10から斜めに出射する光をプリズム形状やレンズ形状の斜面の部分で変角し、液晶セル40に向けて反射することで、液晶セル40に集光する。
【0064】
ポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面にプリズム形状又はレンズ形状を形成する方法としては、熱可塑性樹脂にプリズム形状やレンズ形状を熱転写する方法や、樹脂フィルム状に紫外線などで硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂でプリズム形状やレンズ形状を賦形する方法などが挙げられる。
【0065】
また、ポリプロピレン系樹脂フィルム25のうち偏光フィルム21と反対側の面には、液晶パネル2やこれを用いた液晶表示装置1の製造工程における擦り傷防止の観点から、ハードコート処理を施してもよい。また、プリズムシートとカラーフィルターの干渉によるモアレ低減の観点から、アンチグレア処理を施してもよい。
【0066】
また、ポリプロピレン系樹脂フィルム25のうち偏光フィルム21と反対側の面には、プロテクトフィルム又は粘着剤層を積層してもよい。さらに、その粘着剤層を介して、3M社から販売されている「DBEFシリーズ」に例示されるような反射型偏光フィルムなどの光学フィルムを設けてもよい。
【0067】
(3)透明樹脂フィルム
透明樹脂フィルム23は、偏光フィルム21の表面に貼合されるフィルムであり、液晶パネル2や液晶表示装置1に要求される特性に応じて種々の性質を有するフィルムを採用することができる。透明樹脂フィルム23の例としては、例えば偏光フィルム21の表面を保護するための保護フィルムや、液晶表示装置1の視野角特性の不具合を解消するための位相差フィルムなどを採用することができる。保護フィルムとしては、例えばヘイズ値が0.5%以下であり、かつ面内位相差値が30nm未満である無配向性フィルムを採用することができる。また、位相差フィルムとしては、面内位相差値が30〜200nmの範囲にあり、厚み方向位相差値が30〜350nmの範囲にある二軸性位相差フィルムを採用することができる。ここでいう面内位相差値R及び厚み方向位相差値Rthは、波長590nmにおける値であり、以下同様である。
【0068】
透明樹脂フィルム23は、JIS L 1096に準処して測定されるガーレ法剛軟度が350mgf以下であることが好ましく、200mgf以下であることがより好ましく、更には150mgf以下であることが一層好ましい。このように、剛軟度が小さい透明樹脂フィルム23を使用することにより、得られる偏光板20の剛性が低減されるため、液晶セル40に貼合する際のハンドリング性を向上させることができる。
【0069】
透明樹脂フィルム23を構成する樹脂材料は特に限定されない。このような樹脂材料の例としては、メタクリル酸メチル系樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂〔(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂又はアクリル系樹脂を意味する〕、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等)、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、透明性や偏光フィルム21との接着性を阻害しない範囲で、添加物を含有することができる。
【0070】
(3−1)光学補償フィルム
透明樹脂フィルム23としては、上述したように光学補償フィルムを採用することができる。このような光学補償フィルムとしては、上述した樹脂材料からなる未延伸フィルムを延伸して位相差を発現させ、透明樹脂フィルム23とした位相差フィルムなどが挙げられる。また、液晶のような配向する材料を基材に塗工し、配向させることで位相差を発現させ、固定化することによって、位相差フィルムとする方法もある(例えば、特開2004−272202号公報の実施例4、又は特開2004−233872号公報の実施例3に記載の、透明支持体上に棒状液晶性化合物を含む光学異方性層を形成する方法)。特に、逐次二軸延伸により二軸方向の複屈折性を発現させたものが好ましい。このときの延伸倍率は、縦方向及び横方向のうち、光軸を発現させる方向(延伸倍率が大きい方向であって、遅相軸となる方向)で1.1〜10倍程度、それと直交する方向(延伸倍率が小さい方向であって、進相軸となる方向)で1.1〜7倍程度の範囲から、必要とする位相差値に合わせて、適宜選択すればよい。フィルムの横方向に光軸を発現させてもよいし、縦方向に光軸を発現させてもよい。かかる位相差特性が付与された酢酸セルロース系樹脂フィルムの市販品としては、KC4FR−1(コニカミノルタオプト(株)製)、KC4HR−1(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。
【0071】
次に、透明樹脂フィルム23の位相差値について説明する。フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をn、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をn、厚み方向の屈折率をn、厚みをdとしたときに、面内位相差値R及び厚み方向位相差値Rthは、それぞれ下式(I)及び(II)で定義される。
【0072】
=(n−n)×d (I)
th =[(n+n)/2−n]×d (II)
【0073】
さらに、透明樹脂フィルム23は、その屈折率に関して、下式(III):
>n>n (III)
の関係を満たすものである。
【0074】
本発明において、透明樹脂フィルム23には、面内位相差値Rが30〜200nmの範囲にあり、厚み方向位相差値Rthが30〜350nmの範囲にあるものを用いるが、この範囲から、適用される液晶表示装置1に要求される特性に合わせて、適宜位相差値を選択すればよい。面内位相差値Rは、好ましくは100nm以下であり、厚み方向位相差値Rthは、好ましくは80nm以上、200nm以下である。
【0075】
面内位相差値Rの精度は、中心値±7nm以内、好ましくは中心値±5nm以内であり、厚み方向位相差値Rthの精度は、中心値±15nm以内、好ましくは中心値±10nm以内である。これらの値の精度が上記範囲を超えると、適用される液晶表示装置1の視覚特性が低下する傾向にある。
【0076】
透明樹脂フィルム23におけるフィルム面内の遅相軸角度は、実質的に0°又は90°である。この角度から遅相軸がずれると、偏光板20と偏光板30をクロスニコルの状態にしたときに光漏れが発生し、液晶表示装置1に適用したときに、正面コントラストなどの視覚特性が大幅に低下する傾向にある。また、遅相軸の精度は、中心値±0.7°以内であることが好ましく、中心値±0.5°以内であることがより好ましい。ここで光漏れとは、偏光フィルム21の二軸位相差フィルム23に対する軸精度、あるいは偏光板20の液晶セル40に対する軸精度が悪い場合、液晶表示装置1が黒表示するときに表示域全面から光が漏れる現象をいう。上記のように、透明樹脂フィルム23における遅相軸のずれを小さくし、したがって遅相軸と偏光フィルム21の吸収軸とのなす角度のずれも小さくすることにより、また液晶セル40の表裏両面に貼合される偏光板(偏光板20及び偏光板30)の軸精度を高め、両偏光板の吸収軸がなす角度の90°からのずれを小さくすることにより、光漏れを低減させることができる。
【0077】
透明樹脂フィルム23を偏光フィルム21に接着するにあたり、両者の軸関係は、目的とする液晶表示装置1における視野角特性や色変化特性を考慮したうえで最適なものを選べばよい。正面コントラストが重要視される大型液晶テレビ用途においては、透明樹脂フィルム23の遅相軸と偏光フィルム21の吸収軸とが、略平行又は略直交の関係となるように配置することが多い。ここで、「略平行又は略直交」とは、完全に平行又は直交である場合のほか、±10°程度の範囲内で平行又は直交の関係からずれている場合を含む。角度のずれは、好ましくは±5°以内、より好ましくは±2°以内である。透明樹脂フィルム23の遅相軸と偏光フィルム21の吸収軸とは、完全に平行又は直交の関係にあることが好ましい。
【0078】
(3−2)保護フィルム
透明樹脂フィルム23としては、上述したように保護フィルムを採用することができる。このような保護フィルムとしては、面内や厚み方向に実質的に位相差がない無配向性フィルムを採用することができる。無配向性フィルムとは、樹脂材料を膜状に製膜した、延伸されていない樹脂フィルム(未延伸フィルム)を意味する。
【0079】
無配向性フィルムは、位相差を有していないため、二軸性位相差フィルムのように液晶表示装置1の視野角を広げる機能はないが、二軸性位相差フィルムのように延伸処理を行う必要がないため製造コストが低い。したがって、透明樹脂フィルム23として二軸性位相差フィルムを採用した場合と比較して、液晶表示装置1の製造コストをより低くすることができる。
【0080】
また、無配向性フィルムは、延伸処理を行わないことで、膜厚が厚くなるため透明樹脂フィルム23のハンドリング性が良好になる。このような透明樹脂フィルム23は、上記樹脂組成物を製膜して得られた未延伸フィルム(原反フィルム)から得ることができる。
【0081】
上述した樹脂材料は、任意の方法で製膜して未延伸フィルムとする。この未延伸フィルムは、透明で実質的に面内位相差がないものが好ましい。製膜方法としては、例えば、溶融樹脂を膜状に押し出して製膜する押出成形法、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延した後で溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などを採用することができる。
【0082】
なお、厚み方向の位相差値Rthの観点では、透明樹脂フィルム23の厚みが薄いほうが、位相差値を低減できるため好ましい。具体的には、透明樹脂フィルム23の厚みは15〜45μmのものが好ましい。偏光板20のハンドリング性だけでなく、透明樹脂フィルム23自体のハンドリング性も考慮すると、35〜45μmのものがより好ましい。
【0083】
(4)接着剤層
偏光フィルム21へのポリプロピレン系樹脂フィルム25及び透明樹脂フィルム23の貼合、積層は、通常、接着剤層29を介してなされる。偏光フィルム21の両面に設けられる接着剤層29を形成する接着剤は、同種であってもよく、異種であってもよい。
【0084】
接着剤としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを接着剤成分とする接着剤を用いることができる。本発明において好ましく用いられる接着剤の1つは、無溶剤型の接着剤である。無溶剤型の接着剤は、有意量の溶剤を含まず、加熱や活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光、電子線、X線等)の照射により反応硬化する硬化性化合物(モノマー又はオリゴマーなど)を含み、当該硬化性化合物の硬化により接着剤層を形成するものであり、典型的には、加熱や活性エネルギー線の照射により反応硬化する硬化性化合物と、重合開始剤とを含む。特に、上述したとおりポリプロピレン系樹脂フィルム25は透湿度が低いため、後述する水系接着剤を使用した場合に水抜けが悪く、接着剤の水分によって偏光フィルム21の損傷や偏光性能の劣化などを引き起こす場合がある。したがって、このような透湿度の低い樹脂フィルムを接着する場合には、無溶剤系の接着剤が好ましい。
【0085】
速硬化性及びこれに伴う偏光板20の生産性向上の観点から、接着剤層29を形成する好ましい接着剤の例として、活性エネルギー線の照射で硬化する活性エネルギー線硬化性接着剤を挙げることができる。このような活性エネルギー線硬化性接着剤の例として、例えば、紫外線や可視光などの光エネルギーで硬化する光硬化性接着剤が挙げられる。光硬化性接着剤としては、反応性の観点から、カチオン重合で硬化するものが好ましく、特に、エポキシ化合物を硬化性化合物とする無溶剤型のエポキシ系接着剤は、偏光フィルム21とプロピレン系樹脂フィルム25や透明樹脂フィルム23との接着性に優れているためより好ましい。
【0086】
上記無溶剤型のエポキシ系接着剤に含有される硬化性化合物であるエポキシ化合物としては、特に制限されないが、カチオン重合により硬化するものが好ましく、特に、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を用いることがより好ましい。このような分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物の水素化物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。なお、硬化性化合物であるエポキシ化合物は、通常、分子内に2個以上のエポキシ基を有する。
【0087】
まず、芳香族エポキシ化合物の水素化物について説明する。芳香族エポキシ化合物の水素化物は、芳香族エポキシ化合物を触媒の存在下、加圧下で、芳香環に対して選択的に水素化反応を行なうことにより得ることができる。芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂のようなノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。なかでも、芳香族エポキシ化合物の水素化物として、水素化されたビスフェノールAのグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0088】
次に、脂環式エポキシ化合物について説明する。脂環式エポキシ化合物とは、脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有するエポキシ化合物を意味し、「脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有する」とは、下記式に示される構造を有することを意味する。式中、mは2〜5の整数である。
【化1】

【0089】
したがって、脂環式エポキシ化合物とは、上記式に示される構造を1個以上有しており、通常、分子内に合計2個以上のエポキシ基を有する化合物である。より具体的には、上記式における(CH中の1個又は複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合した化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。(CH中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基などの直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。このような脂環式エポキシ化合物のなかでも、エポキシシクロペンタン環(上記式においてm=3のもの)や、エポキシシクロヘキサン環(上記式においてm=4のもの)を有するエポキシ化合物は、接着強度に優れる接着剤が得られることからより好ましく用いられる。以下に、脂環式エポキシ化合物の構造を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0090】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ−[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン(この化合物は、3,4−エポキシシクロヘキサンスピロ−2´,6´−ジオキサンスピロ−3´´,5´´−ジオキサンスピロ−3´´´,4´´´−エポキシシクロヘキサンとも命名できる化合物である)、4−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2,6−ジオキサ−8,9−エポキシスピロ[5.5]ウンデカン、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ビス−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル、ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
【0091】
また、上記脂肪族エポキシ化合物としては、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0092】
本発明において、エポキシ化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0093】
無溶剤型のエポキシ系接着剤に含有されるエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常、30〜3,000g/当量、好ましくは50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の保護フィルムの可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、エポキシ当量が3,000g/当量を超えると、エポキシ系接着剤に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
【0094】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、上記エポキシ化合物をカチオン重合させるために、カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射、又は加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるものである。本発明においては、いずれのタイプのカチオン重合開始剤が用いられてもよいが、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。なお、以下では、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射によりカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」とも称する。
【0095】
光カチオン重合開始剤を使用すると、常温での接着剤成分の硬化が可能となるため、偏光フィルム21の耐熱性あるいは膨張による歪を考慮する必要が減少し、ポリプロピレン系樹脂フィルム25や透明樹脂フィルム23を密着性良く偏光フィルム21上に貼合することができる。また、光カチオン重合開始剤を用いると、光で触媒的に作用するため、エポキシ系接着剤に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
【0096】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄−アレン錯体などを挙げることができる。これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0097】
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品として容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、「カヤラッド PCI−220」、「カヤラッド PCI−620」(以上、日本化薬(株)製)、「UVI−6990」(ユニオンカーバイド社製)、「アデカオプトマー SP−150」、「アデカオプトマー SP−170」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−5102」、「CIT−1370」、「CIT−1682」、「CIP−1866S」、「CIP−2048S」、「CIP−2064S」(以上、日本曹達(株)製)、「DPI−101」、「DPI−102」、「DPI−103」、「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」、「TPS−101」、「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「DTS−102」、「DTS−103」(以上、みどり化学(株)製)、「PI−2074」(ローディア社製)などを挙げることができる。
【0098】
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して、通常0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。
【0099】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、光カチオン重合開始剤とともに、さらに、必要に応じて光増感剤を含有することができる。光増感剤を使用することで、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤を配合する場合、その量は、エポキシ化合物100重量部に対して、0.1〜20重量部程度である。
【0100】
また、加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤も、市販品として容易に入手することができ、例えば、いずれも商品名で、「アデカオプトン CP77」、「アデカオプトン CP66」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−2639」、「CI−2624」(以上、日本曹達(株)製)、「サンエイド SI−60L」、「サンエイド SI−80L」、「サンエイド SI−100L」(以上、三新化学工業(株)製)などが挙げられる。これらの熱カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。また、光カチオン重合開始剤熱とカチオン重合開始剤とを併用することも好ましい。
【0101】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、オキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物をさらに含有してもよい。
【0102】
無溶剤型のエポキシ系接着剤を用いる場合において、偏光フィルム21とポリプロピレン系樹脂フィルム25や透明樹脂フィルム23との接着は、偏光フィルム21やポリプロピレン系樹脂フィルム25の接着面と、偏光フィルム21や透明樹脂フィルム23の塗布面に接着剤を塗布し、それぞれのフィルムを貼り合わせることにより行なうことができる。偏光フィルム21、ポリプロピレン系樹脂フィルム25、透明樹脂フィルム23に無溶剤型のエポキシ系接着剤を塗工する方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、少量の溶剤を用いて粘度調整を行なってもよい。このために用いる溶剤は、偏光フィルム21の光学性能を低下させることなく、エポキシ系接着剤を良好に溶解するものであればよく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。
【0103】
未硬化のエポキシ系接着剤からなる接着剤層を介して偏光フィルム21にポリプロピレン系樹脂フィルム25や透明樹脂フィルム23を貼合した後は、活性エネルギー線を照射するか、又は加熱することにより、接着剤層を硬化させ、偏光フィルム21上にポリプロピレン系樹脂フィルム25や透明樹脂フィルムや透明樹脂フィルム23を固着させる。活性エネルギー線の照射により硬化させる場合、好ましくは紫外線が用いられる。具体的な紫外線光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、ブラックライトランプ、メタルハライドランプなどを挙げることができる。活性エネルギー線、例えば紫外線の照射強度や照射量は、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム21などのフィルムに悪影響を与えないように適宜選択される。また、加熱により硬化させる場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、そのときの温度や時間も、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム21などのフィルムに悪影響を与えないように適宜選択される。
【0104】
以上のようにして得られる、硬化後のエポキシ系接着剤からなる接着剤層の厚さは、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、また通常は1μm以上である。
【0105】
また、接着剤として、接着剤層29を薄くする観点から、水系接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解した、又は接着剤成分を水に分散させた接着剤を用いることもできる。例えば、主成分としてポリビニルアルコール系樹脂又はウレタン樹脂を用いた水系組成物が、好ましい水系接着剤として挙げられる。
【0106】
接着剤の主成分としてのポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。接着剤の主成分がポリビニルアルコール系樹脂である水系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液として調製されることが多い。水系接着剤中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して、通常1〜10重量部程度であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0107】
主成分としてポリビニルアルコール系樹脂を含む水系接着剤には、接着性を向上させるために、グリオキザールや水溶性エポキシ樹脂などの硬化性成分又は架橋剤を添加することが好ましい。水溶性エポキシ樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂を挙げることができる。かかるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」及び「スミレーズレジン 675」、日本PMC(株)から販売されている「WS−525」などがあり、これらを好適に用いることができる。これら硬化性成分又は架橋剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常1〜100重量部であり、好ましくは1〜50重量部である。その添加量が少ないと、接着性向上効果が小さくなり、一方でその添加量が多いと、接着剤層29が脆くなる傾向にある。
【0108】
接着剤の主成分としてウレタン樹脂を用いる場合、適当な水系接着剤の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂それ自体は公知である。例えば、特開平7−97504号公報には、フェノール系樹脂を水性媒体中に分散させるための高分子分散剤の例としてポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂が記載されており、また特開2005−070140号公報及び特開2005−181817号公報には、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を接着剤として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにシクロオレフィン系樹脂フィルムを接合する形態が示されている。
【0109】
偏光フィルム21の表面に、接着剤を用いてポリプロピレン系樹脂フィルム25と透明樹脂フィルム23を貼合する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などにより、偏光フィルム21及び/又はこれに貼合されるフィルムの接着面に接着剤を塗布し、両者を重ね合わせる方法が挙げられる。流延法とは、被塗布物であるフィルムを、概ね垂直方向、概ね水平方向、又は両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。
【0110】
上記方法により接着剤を塗布した後、偏光フィルム21とそれに貼合されるフィルムとをニップロールなどにより挟んで貼合することにより両者が接合される。また、偏光フィルム21とそれに貼合されるフィルムとの間に接着剤を滴下した後、この積層体をロール等で加圧して均一に押し広げる方法も好適に使用することができる。この場合、ロールの材質としては金属やゴム等を用いることが可能である。さらに、偏光フィルム21とそれに貼合されるフィルムとの間に接着剤を滴下した後、この積層体をロールとロールとの間に通し、加圧して押し広げる方法も好ましくは採用される。この場合、これらのロールは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
【0111】
なお、乾燥あるいは硬化前における、ニップロール等を用いて貼り合わされた後の接着剤層29の厚みは、5μm以下であることが好ましく、また0.01μm以上であることが好ましい。
【0112】
偏光フィルム21及び/又はそれに貼合されるフィルムの接着表面には、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を適宜施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0113】
水系接着剤を介して接合された積層体は、通常、乾燥処理が施され、接着剤層29の乾燥、硬化が行われる。乾燥処理は、例えば熱風を吹き付けることにより行うことができる。乾燥温度は、通常40〜100℃程度の範囲から選択され、好ましくは60〜100℃である。乾燥時間は、例えば20〜1,200秒程度である。乾燥後の接着剤層29の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上、また好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下である。接着剤層29の厚みが大きくなりすぎると、偏光板20の外観不良となりやすい。
【0114】
乾燥処理の後、室温以上の温度で少なくとも半日、通常は1日以上の養生を施して十分な接着強度を得てもよい。かかる養生は、典型的には、ロール状に巻き取られた状態で行われる。好ましい養生温度は、30〜50℃の範囲であり、より好ましくは35℃以上、45℃以下である。養生温度が50℃を超えると、ロール巻き状態において、いわゆる「巻き締まり」が起こりやすくなる。なお、養生時の湿度は、特に限定されないが、相対湿度が0%RH〜70%RH程度の範囲となるように選択されることが好ましい。養生時間は、好ましくは1〜10日程度、より好ましくは2〜7日程度である。
【0115】
一方、光硬化性接着剤を用いて偏光フィルム21とそれに貼合されるフィルムとを接合する場合には、これらのフィルムを接合後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が好ましく用いられる。
【0116】
光硬化性接着剤への光照射強度は、該光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cmであることが好ましい。該照射強度が0.1mW/cm以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm以下である場合、光源から輻射される熱及び光硬化性接着剤の硬化時の発熱による光硬化性エポキシ樹脂の黄変や偏光フィルム21の劣化を生じるおそれが少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤ごとに制御されるものであって特に限定されないが、上記の照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cmとなるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/cm以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cm以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層29の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。
【0117】
活性エネルギー線の照射によって光硬化性接着剤を硬化させる場合、偏光フィルム21の偏光度、透過率及び色相、並びに透明樹脂フィルム23及びポリプロピレン系樹脂フィルム25の透明性などの偏光板20の諸機能が低下しない条件で硬化を行うことが好ましい。
【0118】
<偏光板の製造方法>
図4〜図6は、本発明のポリプロピレン系樹脂フィルム25の製造に好適に用いることができるフィルム製造装置の例を示す概略図である。以下、図4〜図6を参照しながら、本発明のポリプロピレン系樹脂フィルム25の製造に好適に用いることができるフィルム製造装置の構成と、これを用いたポリプロピレン系樹脂フィルム25の製造方法について説明する。
【0119】
(押出機)
図4に示されるフィルム製造装置100(図5と図6に示されるフィルム製造装置200、300についても同様)を用いたポリプロピレン系樹脂フィルム25の製造においては、まず、ホッパー(図示せず)から押出機11に上記のポリプロピレン系樹脂を投入する。このとき、混練中のポリプロピレン系樹脂の劣化・分解等を抑制するために、押出機11に樹脂を供給する前に、窒素ガス中で40℃以上かつ(Tm−20℃)以下の温度でポリプロピレン系樹脂のペレットを1時間〜10時間程度予備乾燥をすることが好ましい(Tm[℃]は、JIS K 7121で規定される示差走査熱量測定におけるポリプロピレン系樹脂の融解ピーク温度である)。また、押出機11内も、20℃〜120℃の窒素ガス又はアルゴンガスなどの不活性ガスでガス置換することが好ましい。なお、押出機11は、投入されたポリプロピレン系樹脂を溶融混練しつつ押出して、溶融ポリプロピレン系樹脂をTダイ12へと搬送する装置である。
【0120】
ポリプロピレン系樹脂を押出機11の中で溶融混練する際には、スクリューを用いるが、このスクリューとしては、押出機11が単軸押出機の場合、L/D=24〜36で圧縮比1.5〜4のフルフライトタイプ、バリアタイプ又はマドック型の混練部分を有するタイプを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化・分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点から、L/D=28〜36、圧縮比2.5〜3.5のバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。
【0121】
また、ポリプロピレン系樹脂が劣化・分解した場合に発生する揮発ガスを取り除くため、押出機11の先端に1mm以上5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機11の先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。押出機11の先端部分の樹脂圧力を高めることは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定を向上させることができる。使用するオリフィスは、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。なお、ポリプロピレン系樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機11とTダイ12との間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂中にある異物を取り除くため、リーフディスクフィルター(図示せず)を取り付けることが好ましい。
【0122】
(Tダイ)
Tダイ12は、押出機11と接続されており、押出機11から搬送された溶融ポリプロピレン系樹脂を横方向に広げるためのマニホールド12bをその内部に有している。また、Tダイ12の下部には、マニホールド12bと連通するとともに、マニホールド12bによって横方向に広げられた溶融ポリプロピレン系樹脂を吐出する吐出口12aが設けられている。そのため、Tダイ12の吐出口12aから吐出された溶融ポリプロピレン系樹脂は、シート状に成形されることとなる(以下、このシート状に成形された溶融ポリプロピレン系樹脂を「溶融状シート」とも称する)。
【0123】
吐出される溶融状シートの温度は、180℃以上300℃以下であることが好ましい。この溶融樹脂の温度は、Tダイ12の吐出口12a部分において樹脂温度計を用いて測定される。溶融状シートの温度が180℃未満の場合には、延展性に劣るため、エアギャップ内での伸びの不均一により厚みムラが発生してしまう傾向にある。一方、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂が劣化し、分解ガスを生じるなどの理由で吐出口12a部分が汚れてしまい、ダイライン等が発生し、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の外観不良が生じてしまう傾向にある。
【0124】
Tダイ12はまた、溶融ポリプロピレン系樹脂の流路の壁面に微小な段差や傷のないものが好ましい。Tダイ12の吐出口12a部分(リップ部分)は、溶融ポリプロピレン系樹脂との摩擦係数が小さい材料であり、かつ、硬い材料でめっき、コーティング等(例えば、タングステンカーバイド系、フッ素系の特殊めっき)がされていると、吐出口12aの先端部分の曲率半径を小さくすること(吐出口12aの先端部分をいわゆるシャープエッジと呼ばれる形状とすること)が可能であるため、好ましい。
【0125】
Tダイ12の吐出口12aの先端部分は、溶融ポリプロピレン系樹脂の流路の壁面に形成された開口部の曲率半径が0.1mm以下であるシャープエッジ形状が好ましい。吐出口12aの先端部分の曲率半径は、0.05mm以下であるとより好ましく、0.03mm以下であるとより一層好ましい。このようなTダイ12を用いることで、吐出口12aにおける「目やに」の発生を抑制することができ、同時にダイラインを抑制することも可能になる。このため、製造されるポリプロピレン系樹脂フィルム25の外観の均一性をより向上せることができる。ただし、曲率半径が0.01mm以下になると、これらの効果は向上するものの、吐出口12aの先端部分における強度が低下してしまい、吐出口12aの破損が見られ、これにより大きなダイライン等が生じる場合がある。
【0126】
Tダイ12における溶融樹脂の吐出口12aから、その下部に設置された弾性ロール13と金属ロール14によって溶融状シートが挟圧されるまでの間の長さ(エアギャップの長さ)Hは、50mm〜250mm程度であることが好ましく、50mm〜180mm程度であることがより好ましい。エアギャップの長さHが250mmを超えると、長時間空気に晒されることにより冷却効率が下がる傾向となるとともに、エアギャップにおいて配向が発生し、製造されるポリプロピレン系樹脂フィルム25に大きな位相差が生じる傾向にある。エアギャップの長さHの下限に関しては、Tダイ12のサイズや弾性ロール13と金属ロール14の径などに依存し、必然的に50mm程度となる。
【0127】
(弾性ロール)
弾性ロール13とは、弾性変形可能な金属製ロールやゴムロールを意味する。弾性変形可能な金属製ロールとしては、図4に示される構成の弾性ロール13を好適に用いることができる。図4に示されるフィルム製造装置100が備える弾性ロール13は、特許第3422798号公報に記載されている成形ロールと同等のものであり、具体的には、筒状とされた金属製の帯状体(無端ベルトともいう)13aと、帯状体13aの内部に配置されたゴム製ロール13b(図4の例においては1本)と、帯状体13aとゴム製ロール13bとの間の空間を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性変形可能な金属ロールである。
【0128】
帯状体13aは、ばね鋼、ステンレス鋼、ニッケル鋼等の弾性変形が可能な金属薄膜によって筒状に形成されており、その表面に継ぎ目が存在していない。帯状体13aの両側は、図示しない閉塞部材によって閉塞されている。帯状体13aとしては、その厚みが100μm〜1500μm程度で、その直径が200mm〜600mm程度で、表面粗度が0.5S以下のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。なお、帯状体13aの直径は、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の加工速度に応じて適切な大きさに設定されるが、帯状体13aの直径が上記の範囲である場合、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の加工速度として数m/分〜100数十m/分の範囲で対応可能である。
【0129】
ゴム製ロール13bは、円柱形状を有しており、帯状体13aの内部において弾性変形及び回転可能とされている。ゴム製ロール13bは、硬度が30〜90程度のEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、ネオプレン又はシリコーンによって形成することができる。ゴム製ロール13bの直径は、100mm〜250mm程度とすることができる。
【0130】
液体Lとしては、例えば、水、エチレングリコール、油などを用いることができる。図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に帯状体13aの表面温度が調節される。
【0131】
帯状体13aの厚みは350μm〜500μm程度であり、ゴム製ロール13bの硬度は60〜75程度であることが好ましい。帯状体13aの厚みが350μm未満であり、ゴム製ロール13bの硬度が60未満であると、弾性ロール13としての弾性が低くなりすぎ、弾性ロール13の幅方向において均一に挟圧することが困難となる傾向にある。また、帯状体13aの厚みが500μmを超え、ゴム製ロール13bの硬度が75を超えると、弾性ロール13としての剛性が高くなりすぎ、柔らかく挟圧する効果が弱くなる傾向にある。
【0132】
また、弾性ロールとして、図5に示される構成の弾性ロール16を用いることも好ましい。この図に示されるフィルム製造装置200が備える弾性ロール16は、特開平7−40370号公報に記載されている成形ベルト手段と同等のものである。具体的には、弾性ロール16は、筒状とされた金属製の帯状体(無端ベルトともいう)16aと、帯状体16aの内部において、金属ロール14の外周面に沿って並ぶとともに長手方向が平行となるように配置された2本のロール16b,16cと、帯状体16aの表面温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性変形可能な金属ロールである。ロール16bはゴム製ロールであり、ロール16cは金属製ロールである。ロール16cの表面温度を温度調節手段で調節することにより帯状体16aの表面温度が調節される。
【0133】
帯状体16aは、ばね鋼、ステンレス鋼、ニッケル鋼等の弾性変形が可能な金属薄膜によって筒状に形成されており、その表面に継ぎ目が存在していない。帯状体16aは、ゴム製のロール16bと金属製のロール16cに掛け渡されており、ロール16b,16cの距離を近接又は離間することにより、帯状体16aの張力(テンション)を調節することができるようになっている。帯状体16aとしては、その厚みが300μm〜800μm程度で、円筒状としたときの直径が200mm〜600mm程度のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。
【0134】
ロール16b,16cは、円柱形状を有しており、帯状体16aの内部において回転可能とされている。ゴム製のロール16bは、硬度が30〜90程度のEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、ネオプレン又はシリコーンによって形成することができる。また、ロール16b,16cとしては、その直径が80mm〜200mm程度のものを用いることができる。
【0135】
弾性ロール16を用いた場合、Tダイ12の吐出口12aから吐出された溶融状シートが帯状体16aと金属ロール14とによって最初に挟まれる位置が挟圧の開始点となり、挟圧された樹脂が帯状体16aと金属ロール14とから離れる位置が挟圧の終点となる。
【0136】
帯状体16aの厚みは350μm〜600μm程度であり、ゴム製のロール16bの硬度は60〜80程度であることが好ましい。帯状体16aの厚みが350μm未満であり、ゴム製のロール16bの硬度が60未満であると、弾性ロール16としての弾性が低くなりすぎ、弾性ロール16の幅方向において均一に挟圧することが困難となる傾向にある。また、帯状体16aの厚みが600μmを超え、ゴム製のロール16bの硬度が80を超えると、弾性ロール16としての剛性が高くなりすぎ、ともすればバンク(樹脂溜まり)成形となりやすく、また、得られるポリプロピレン系樹脂フィルム25に位相差が発生しやすい傾向にある。
【0137】
さらに、弾性ロールとして、図6に示される構成の弾性ロール17を用いることも好ましい。図6に示されるフィルム製造装置300が備える弾性ロール17は、特開平11−235747号公報に記載されている押さえロールと同等のものである。具体的には、弾性ロール17は、高剛性の金属内筒17aと、金属内筒17aの外側に配置された薄肉金属外筒17bと、金属内筒17aの内側に配置された流体軸筒17cと、金属内筒17aと薄肉金属外筒17bとの間の空間及び流体軸筒17c内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性変形可能な金属ロールである。
【0138】
金属内筒17a、薄肉金属外筒17b及び流体軸筒17cは、同軸となるように配設されている。金属内筒17aには、その周方向に沿って複数の貫通孔17dが設けられている。そのため、液体Lは、流体軸筒17c、貫通孔17d、金属内筒17aと薄肉金属外筒17bとの間の空間の順に弾性ロール17の内部を循環するようになっている。
【0139】
薄肉金属外筒17bは、ステンレス鋼等によって形成されており、その表面に継ぎ目が存在しておらず、可撓性を有している。薄肉金属外筒17bは、ゴム弾性に近い柔軟性と可撓性、復元性をもたせるために、弾性力学の薄肉円筒理論が適用できる範囲内で薄肉化が図られている。薄肉金属外筒17bとしては、その厚みが2000μm〜5000μm程度で、その直径が200mm〜500mm程度で、表面粗度が0.5S以下のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。薄肉金属外筒17bの厚みが2000μm未満であると、弾性ロール17と金属ロール14とによって溶融状シートを挟圧する際の圧力が不均一となる傾向にあり、5000μmを超えると、薄肉金属外筒17bの弾性が大きくなり、Tダイ12の吐出口12aから吐出された溶融状シートの厚みによっては当該溶融状シートを挟圧する際にバンクが発生してしまう傾向にある。
【0140】
液体Lは、例えば、水、エチレングリコール、油などを用いることができる。図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に薄肉金属外筒17bの表面温度が調節される。
【0141】
また、上述のように、弾性ロールとしてゴムロールを使用することもできる。弾性ロールとしてゴムロールを使用する場合、その表面硬度は65〜80であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融状シートを狭圧する際にかかる圧力(線圧)を均一に維持することが容易となり、かつ、金属ロール14とゴムロールとの間にバンクを生じさせることなく、溶融状シートを成形することが容易となる。バンクが生じると、得られるポリプロピレン系樹脂フィルム25の位相差が大きくなる傾向があり、液晶表示装置1に配置した場合に視認性を悪くする可能性があるため、好ましくない。
【0142】
弾性ロールとしてゴムロールを使用する場合は、溶融状シートをゴムロールと、金属ロールとによって挟圧する際に、溶融状シートとゴムロールとの間隙に支持体を挿入するのが好ましい。支持体としては、例えば熱可塑性樹脂製二軸延伸フィルムを用いることができる。
【0143】
支持体は平滑性に優れるものを用いることが好ましい。溶融状シートにおける金属ロールと接する面とは反対側の面は支持体と接した状態で、ロール間で挟圧されるため、得られるポリプロピレン系樹脂フィルム25表面には、支持体の表面状態が転写される。したがって、使用する支持体の表面粗度が小さく、平滑であればあるほど、得られる面の平滑性は良好となる。使用する支持体の表面粗度は0.01μm以上1.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上1.0μm以下である。また使用する支持体の厚みは、5μm以上50μm未満であることが必要であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。使用する支持体が5μmより薄い場合、皺になりやすくなるなど、ハンドリング上の問題を生じるため好ましくなく、一方、50μm以上である場合は、溶融状シートの冷却効率が悪くなり、得られるポリプロピレン系樹脂フィルム25の透明性が悪化するため好ましくない。支持体を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的にはポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどである。これらのうち、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。
【0144】
ゴムロールと金属ロールとの間で支持体とともに挟圧された溶融状シートは、冷却固化された後、支持体と積層された状態で、必要に応じて端部をスリットした後、巻取機にて巻き取られ、ポリプロピレン系樹脂フィルム25と支持体との積層体を得ることができる。支持体を巻取機の前で剥離し、ポリプロピレン系樹脂フィルム25のみを巻き取ることも可能である。ロール間で挟圧した支持体をポリプロピレン系樹脂フィルム25から剥離する場合には、該ポリプロピレン系樹脂フィルム25の温度が、60℃以下、好ましくは40℃以下まで冷却された後に剥離除去することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂フィルム25の温度が高い状態で支持体を剥離すると、フィルムが変形して配向を生じ、位相差が大きくなることがある。
【0145】
上記した弾性ロールのなかでも、弾性ロールに接触する面の平滑性により優れることから、弾性変形可能な金属ロールを用いることが好ましい。弾性変形可能な金属ロールの表面は鏡面状態であることが好ましい。
【0146】
(金属ロール)
図4に示されるフィルム製造装置100(図5と図6に示されるフィルム製造装置200、300についても同様)が備える金属ロール14は、高剛性の金属外筒14aと、金属外筒14aの内側に配置された流体軸筒14bと、金属外筒14aと流体軸筒14bとの間の空間及び流体軸筒14b内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する。流体軸筒14bには、その周方向に沿って複数の貫通孔14cが設けられている。金属ロール14の直径は、200mm〜600mm程度とすることができる。金属ロール14においては、弾性ロール13と同様、図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に金属外筒14aの表面温度が調節され、弾性ロールとともにTダイ12の吐出口12aから吐出された溶融状シートを冷却して固化させる。
【0147】
ここで、一方の面がプリズム形状又はレンズ形状等の規則的な凹凸表面からなるポリプロピレン系樹脂フィルム25を製造する場合には、上記弾性ロール13と金属ロール14のいずれか一方が転写型を備えるが、転写型の形状をより正確に転写するためには、金属ロール14の表面に転写型を備える方が好ましい。以下、表面に転写型を備えた金属ロール14を「転写ロール」ともいう。
【0148】
上記転写型は、転写ロール表面に備えられ、溶融状シートの表面に押し当てられ、その表面形状を逆型として溶融状シートに転写するものである。転写型は、転写ロール表面に設けられた複数の凹部からなる。凹部の形状、溝深さ、ピッチ間隔等は、所望するポリプロピレン系樹脂フィルム25の表面凹凸形状に応じて決定される。転写型の溝は、転写ロールの周方向に平行であってもよく、転写ロールの幅方向に平行であってもよく、周方向と一定の角度をなしていてもよい。
【0149】
上記転写型の作製方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、ステンレス鋼、鉄鋼などからなる転写ロールの表面に、例えばクロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキなどのメッキ処理を施した後に、そのメッキ面に対してダイヤモンドバイトや金属砥石等を用いた除去加工や、レーザー加工や、又はケミカルエッチングを行い、形状を加工する方法が挙げられる。
【0150】
また、転写ロールの表面は、上記転写型を形成した後に、例えば表面形状の精度を損なわないレベルで、クロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキなどのメッキ処理を施してもよい。
【0151】
(冷却ロール)
冷却ロールは、弾性ロールと金属ロールとによって挟圧された溶融状シートをさらに冷却するためのロールである。図4に示されるフィルム製造装置100(図5と図6に示されるフィルム製造装置200、300についても同様)が備える冷却ロール15は、上記金属ロール14と同様の構成を有しており、具体的には、高剛性の金属外筒15aと、金属外筒15aの内側に配置された流体軸筒15bと、金属外筒15aと流体軸筒15bとの間の空間及び流体軸筒15b内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する。流体軸筒15bには、その周方向に沿って複数の貫通孔15cが設けられている。冷却ロール15としては、その直径が200mm〜600mm程度で、表面粗度が0.2S以下の鏡面のものを用いることができる。冷却ロール15においても同様に、図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に金属外筒15aの表面温度が調節される。
【0152】
ポリプロピレン系樹脂フィルム25は、Tダイ12の吐出口12aから吐出された溶融状シートを、上記弾性ロールと上記金属ロール(転写ロールを含む)とによって挟圧し、冷却固化させることにより製造される。線圧は、弾性ロールを金属ロールに押し付ける圧力により決まり、1〜300N/mmであるのが好ましく、より好ましくは1〜200N/mmである。線圧が1N/mm未満であると、溶融状シートに対する線圧を均一に制御することが困難となり、金属ロールが転写ロールである場合には、転写型を精度よく転写しにくくなる傾向にある。また、線圧が300N/mmを超えると、溶融状シートが強く挟圧されすぎることとなるので、溶融状シートが、挟圧された部分に溜まりながら成形されるバンク成形となり、得られるポリプロピレン系樹脂フィルム25に大きな位相差が発現してしまう傾向にある。
【0153】
挟圧する圧力(線圧)を制御する方法としては、(1)挟圧する部分にコッターと呼ばれる三角形の楔形の「つめもの」を設置し、このコッターを調整することによりロール間隔を調整する方法、(2)弾性ロール及び金属ロールの双方を、油圧、エア等を用いて所定の圧力で調整したコッターに当接するまで押し付ける方法、が一般的である。その他、コッターを用いず、ねじの回転数を制御し、機械的に所定の位置まで無段階で圧着する方法や油圧系にサーボモーターを用いる方法も挙げられる。
【0154】
また、弾性ロールと金属ロールとによって挟圧する距離は1〜30mmであり、好ましくは1〜15mmである。挟圧する距離がこの範囲内であると、金属ロールが転写ロールである場合、転写型を精度よく転写することができる。挟圧する距離を制御する方法としては(1)挟圧する部分にコッターと呼ばれる三角形の楔形の「つめもの」を設置し、このコッターを調整することによりロール間隔を調整する方法、(2)弾性ロールの弾性を調整する方法、が一般的である。
【0155】
溶融状シートを挟圧する際における弾性ロール及び金属ロールの表面温度は特に制限されないが、急速に溶融状シートを冷却することにより、高い透明性を有するポリプロピレン系樹脂フィルム25が得られやすくなる。具体的な表面温度としては、弾性ロール又は金属ロールの少なくとも一方のロールの表面温度が0〜60℃であることが好ましく、より好ましくは少なくとも一方のロールの表面温度が0〜40℃であり、さらに好ましくは少なくとも一方のロールの表面温度が0〜30℃である。
【0156】
なお、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の加工速度は、転写ロール等の金属ロールの径が大きいほど速くなる。例えば、金属ロールの直径が600mmである場合、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の加工速度を、最大で50m/分程度、通常30m/分程度に設定することができる。
【0157】
弾性ロール及び金属ロールは、Tダイ12の下方において、一般的には一列に並ぶように配列されている。弾性ロールと金属ロールとは、所定間隔をもって配置されており、この弾性ロールと金属ロールとの間隔や、弾性ロール、金属ロール及び冷却ロールの回転速度、Tダイ12の吐出口12aから吐出される溶融状シートの吐出量等によってポリプロピレン系樹脂フィルム25の厚みが規定される。
【0158】
冷却ロールによってさらに冷却されたポリプロピレン系樹脂フィルム25は、必要に応じて耳部がスリット(切断)され、巻取機にて巻き取られるか、又は、枚葉に切断される。ポリプロピレン系樹脂フィルム25の耳部をスリットする前、又はスリットした後に、ポリプロピレン系樹脂フィルム25の片面又は両面に、使用に供されるまでの間表面を保護しておくための一時的な保護フィルムを積層してもよい。
【0159】
以上の製造方法により、偏光板20を製造することができる。製造した偏光板20は、液晶セル40の表面に貼合して液晶パネル2として使用する。液晶パネル2は、上述したようにバックライト10や光拡散板50などを組み込んで液晶表示装置1として使用する。偏光板20が適用される液晶セル40のモードとしては、特に限定されない。例えば、VAモード、IPSモード、TNモードなど、各種モードの液晶セル40を用いることができる。
【実施例】
【0160】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
【0161】
[実施例1]
(a)サンプルの調製
図5に示されるフィルム製造装置200を用い、次の手順でポリプロピレン系樹脂フィルムを作製した。まず、アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂A(プロピレン単独重合体、MFR=7g/10分、Tm=164℃)を、270℃に加熱した50mmφ押出機11(スクリュー:L/D=32、フルフライトスクリュー)にて溶融混練し、押出機11から、押出機11に続いて設置されるギアポンプ、アダプター及びTダイ12(すべて270℃に設定)へと、この順にフィードし、Tダイ12の吐出口12a(リップ口)から溶融状態とされたポリプロピレン系樹脂シート(溶融樹脂)を吐出した。Tダイ12の吐出口12aの部分における溶融樹脂の温度は270℃であった。そして、この溶融樹脂を、表1に示す製造条件にて弾性ロール16(転写型なし)と金属ロール14(転写型なし)とによって挟圧し、さらに冷却ロール15によって冷却してポリプロピレン系樹脂フィルムを作製した。
【0162】
上記の方法により得られたポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み、ヘイズ、面内位相差値Reを以下の装置により測定した。その結果、ポリプロピレン系樹脂フィルムの厚みが107.1μm、ヘイズが1.3%、面内位相差値Reが20.6nmであった。この結果を表1に示す。
(ポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み)
接触式厚み計(NIKON社製 MS−5C)を用いて5点の厚みを測定し、その平均
値をポリプロピレン系樹脂フィルムの厚みとした。
(ポリプロピレン系樹脂フィルムのヘイズ)
JIS K 7136に準拠した(株)村上色彩技術研究所製のヘイズメーター「HM
−150」型を用いて測定した。
(ポリプロピレン系樹脂フィルムの面内位相差値Re)
位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)を用いて測定した。
【0163】
なお、表1に示す「挟圧距離」は、弾性ロール16と金属ロール14との間で溶融樹脂が挟圧される長さを示しており、弾性ロール16と金属ロール14との間に感圧紙(富士フィルムビジネスサプライ(株)製プレスケールLLW)を挟み、感圧紙の発色部分のMD方向の距離を測定し、挟圧距離とした。また、用いた弾性ロール16、金属ロール14及び冷却ロール15は以下の構成を有する。
【0164】
(弾性ロール16)
帯状体16a:金属製、表面粗度0.2S、厚み300μm
ロール16b:シリコーン製、直径160mm、硬度60
ロール16c:金属製、直径160mm
(金属ロール14)
金属外筒14a:金属製、直径300mm
(冷却ロール15)
金属外筒15a:金属製、直径300mm、表面粗度0.1S(鏡面)
【0165】
[比較例]
(b)サンプルの調製
フィルムの製造条件(金属ロール14と弾性ロール16の表面温度、挟圧距離、線圧並びにラインスピード)を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のポリプロピレン系樹脂フィルムを作製した。この表に示すように、得られたフィルムは、膜厚が97.0μm、ヘイズが21.8%、面内位相差値Reが55.6nmであった。
【表1】

【0166】
(c)表面配向パラメータの測定
上記(a)、(b)で得られた実施例及び比較例のサンプルのそれぞれに対してATR−ラマン分光法による表面配向パラメータを測定した。表面配向パラメータの測定は、以下の装置及び測定条件で行った。
<測定装置>
Ramanor T−6400(Jobin Yvon製/愛宕物産)
<測定条件>
測定モード:ATRラマン(Ge30°)、
プリズム:高屈折率ガラス
入射角度:56.5°(ATR)、51.0°(バルク)
ビーム径:100μm
光源:Arレーザー/514.5nm
レーザーパワー:400mW(At Tube)
回折格子:Single 1800gr/nm
スリット:100μm
検出器:CCD/Jobin Yvon 1024Channel
測定回数:n=3(ピーク強度などの数値データは、N=3の平均値を用いた)
<測定方法>
ポリプロピレン系樹脂フィルム表面を高屈折率ガラスプリズムに直接押しつけてATR−ラマンスペクトルを測定した。また、以下の式に基づいて測定光の浸み込み深さを算出した。その結果、浸み込み深さは約100nmであることがわかった。
【数2】

(ここで、vは入射レーザー光の波数の逆数(v=(1/514.5)=0.001943634・・・)、nはサンプルの屈折率(ns:約1.5)、nはプリズムの屈折率(n=1.88:高屈折率ガラス)、θは入射角度(θ=56.5°)
【0167】
実施例1と比較例1のサンプルを使用し、上述した測定装置塗測定条件で平行偏光と垂直偏光のそれぞれについて吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルを図7(実施例1)と図8(比較例1)に示す。
【0168】
(d)接着性試験用サンプルの調整
上記(a)で得られた実施例及び(b)で得られた比較例のサンプルのそれぞれに対して、以下の手順で接着性試験用のサンプルを作製した。実施例1、比較例1ともに、サンプルとして、図9に示す層構成を有する偏光板を使用した。
(1)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色及びホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
【0169】
(2)接着剤液の作製
次の各成分を表2に示す配合割合(単位は部)で混合した後、脱泡して、光硬化性接着剤液(接着剤A)を調製した。なお、光カチオン重合開始剤(b1)は、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、表2にはその固形分量で表示した。
(A)エポキシ化合物
(a1)3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
(a2)1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル
(B)光カチオン重合開始剤(表では「開始剤」と略記する)
(b1)4,4´−ビス(ジフェニルスルホニオ)フェニルスルフィド ビス(ヘキサフルオロホスフェート)系光カチオン重合開始剤〔商品名"SP−150"、(株)ADEKA製〕
【表2】

【0170】
(3)偏光板の作製
上記偏光フィルムの一方の面に、上記活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて、上記実施例1、比較例1で得られたポリプロピレンフィルムを貼合するとともに、他方の面には、環状オレフィンフィルム(ZEONOR 75μm、日本ゼオン(株)製)を、上記活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて貼合した。なお、ポリプロピレンフィルム及び環状オレフィンフィルムの貼合面には、あらかじめコロナ処理装置(高周波電源;春日電機社製 CT−0212、発信機本体;春日電機社製 CT−0212、高圧トランス;春日電機社製 CT−T022)を用い、ポリプロピレンフィルム表面及び環状オレフィンフィルム表面にコロナ処理装置の電極との距離が3mmとなるように調整し、出力280W、ラインスピード1.0m/分、周囲温度23℃、周囲相対湿度55%RHの条件で、連続して3回コロナ処理を行なった。次に、日本電池(株)製の紫外線照射装置(紫外線ランプは"HAL400NL"を80Wで使用し、照射距離は50cmとした)の中にライン速度1.0m/分で1回通過させることにより上記活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させて、偏光板を得た。
【0171】
(e)接着性の測定
上記工程で得られた実施例及び比較例のサンプル(偏光板)のそれぞれに対して、以下の装置及び条件で90°ピール試験を行った。
<評価装置>
オートグラフAG−1(島津製作所製)
<測定条件>
試験速度:300mm/分
試験片:200mm長さ×25mm幅(環状オレフィン系樹脂フィルム側を下にしてガラス板に糊でサンプルを固定)
<測定方法>
ガラス板に固定されたサンプルの端部をつまみ、図10に示すように、ガラス板に対して垂直方向(約90°:図の矢印方向)に引っ張って剥離した。剥離時の荷重を評価装置で測定し、接着力を評価した。
【0172】
実施例と比較例の配向パラメータ測定と接着力測定の結果を表3に示す。なお、参考として、バルクの配向パラメータも記載した。配向パラメータ(バルク)は、ポリプロピレン系樹脂フィルム全体からのラマン散乱光によるラマンスペクトルに基づいて算出した配向パラメータである。この配向パラメータ(バルク)は、表層近傍の分子配向を示す配向パラメータ(ATR)とは異なり、ポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み方向全体での分子配向を示している。
【表3】

【0173】
この表に示す結果から、実施例1のように配向パラメータ(ATR)が1.05の場合に接着力が11.6N/25mmと良好である。一方、比較例1のように配向パラメータ(ATR)が1.82の場合は実施例よりも接着力がかなり劣る。これらの結果から、実施例1に示すように、表面配向パラメータが0.95(=1/1.05)〜1.05の範囲内では、それ以外の範囲よりも接着力が良好であるといえる。
【符号の説明】
【0174】
1 液晶表示装置、2 液晶パネル、10 バックライト、11 押出機、12 Tダイ、12a 吐出口、12b マニホールド、13 弾性ロール、13a 帯状体、13b ゴム製ロール、14 金属ロール、14a 金属外筒、14b 流体軸筒、14c 貫通孔、15 冷却ロール、15a 金属外筒、15b 流体軸筒、15c 貫通孔、16 弾性ロール、16a 帯状体、16b,16c ロール、17 弾性ロール、17a 金属内筒、17b 薄肉金属外筒、17c 流体軸筒、20 偏光板、21 偏光フィルム、23 透明樹脂フィルム、25 ポリプロピレン系樹脂フィルム、27 粘着剤層、29 接着剤層、30 偏光板、40 液晶セル、50 光拡散板、60 偏光板、65 集光フィルム、100〜300 フィルム製造装置、H エアギャップの長さ、L 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面のうち少なくとも一方の面について減衰全反射法によるラマン分光法測定によって得られる表面配向パラメータが0.66〜1.50の範囲内であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記表面配向パラメータが0.95〜1.05の範囲内である、ポリプロピレン系樹脂フィルム。
【請求項3】
ヨウ素又は二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムと、
接着剤層を介して前記偏光フィルムに積層される請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂フィルムと、を備える偏光板であって、
前記ポリプロピレン系樹脂フィルムは、前記一方の面が前記接着剤層に接するように積層されることを特徴とする偏光板。
【請求項4】
前記接着剤層は、エポキシ樹脂を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物層からなる、請求項3に記載の偏光板。
【請求項5】
前記偏光フィルムにおける前記ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層される面とは反対側の面に積層される保護フィルム又は光学補償フィルムを更に備える、請求項3又は4に記載の偏光板。
【請求項6】
液晶セルと、前記液晶セル上に積層される請求項3〜5のいずれかに記載の偏光板とを備えることを特徴とする液晶パネル。
【請求項7】
面光源素子と、請求項6に記載の液晶パネルとを備えることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36286(P2012−36286A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176868(P2010−176868)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】